第8号 2013.4.10発行 - いじめ・メンタルヘルス労働者支援センター

IMC通信
発行:いじめ メンタルヘルス労働者
支援センター
2013年4月10日発行
第8号
〒160-0008 東京都新宿区三栄町6
小椋ビル402号
全国労働安全センター
厚労省交渉
使用者は「提案」をネグレクト
2月19日、全国労働安全センター連絡会議は、厚労
省に要請行動を行ないました。課題がありすぎます。
要請書は多岐にわたりました。職場のいじめ・パワハ
ラ、メンタルヘルス対策では、「職場のパワーハラス
メントに関する実態調査」の調査結果を踏まえた具体
電話 03-6380-4453
策を明らかにすること、職場のいじめ嫌がらせを予
Fax
防・防止するガイドラインを策定すること、専門検討
03-6380-4457
Mail:[email protected]
会を設置し、法制定による規制を行なうこと、スクリ
HP:http://ijimemental.web.fc2.com/
ーニングを義務付ける労安法案の撤回、長時間労働の
口座名
実態を明らかにすること、などです。精神障害の労災
いじめ メンタルヘルス
労働者支援センター
補償では、「特別な出来事」の職種ごとの件数、傷病
振替口座(当座)
名、決定までの期間を明らかにすること、新認定基準
ゆうちょ銀行 〇一九店(019)
策定後の平均処理期間、処理方法ごとの件数を明らか
口座番号 00150-1-429812
にすること、などです。
厚労省の回答です。
円卓会議の「提案」と「実態調査」を踏まえ、2013年度としては①全国規模でのセミナーを委託
事業で開催する、②取り組みのための参考資料を作成する、③取り組んでいる企業の好事例集、取り組
みマニュアルを作成する、などを決定しているということでした。
労安法の改正は、職場のメンタルヘルス対策が進んでいない中にあって、職場の環境改善と労働時間
の抑制のためにも必要との回答でした。しかし話は逆です。法案は、長時間労働の維持を前提とていま
す。長時間労働を抑制するなら、この改正法案ではない対策が必要です。
2011年度の精神疾患による労災認定件数において、「特別な出来事」の「心理的負荷が極度のも
の」は50件、「極度の長時間労働」は20件です。「新認定基準」発効後の12年2月28日に各地
方局の職員と労災医員、5月30日にセクシャルハラスメント事案に対応する職員を対象に研修会を開
催したとのことです。「新認定基準」による決定は、労働局だけで決定、専門医への意見を求めたうえ
での労働局が決定、専門医の意見を求めた結果としての専門部会での合議による決定、最初から専門部
会での合議による決定があります。それぞれの決定件数は、379件、32件、10件、337件です。
処理期間は、改訂前が平均8.6か月、改定後は8.3か月です。
円卓会議の「提案」は使用者にとっては「使いづらい」ようです。そのため無視を決め込んだり、こ
こまでならいじめにならないという「境界線作り」の研修・周知をはかっています。予防・防止の視点
には関心がありません。
そして企業内の労働組合などにとっても「提案」は迷惑のようです。職場のいじめは構造的に起きて
います。安全な職場環境で安心して働き続けるための職場環境改善は労使共に取り組むべき課題です。
1
いじめは英経済に年間137.5億ポンドの損害を与えている
3月2日、雑誌『女も男も』(労働教育センター発刊)が「職場のいじめ・パワハラとメンタルヘルス対
策」を特集したのを記念し、執筆者による講演とパネルディスカッションが開催されました。
労働政策研究 研修機構研究員の内藤忍さんが「実態調査からみた職場のパワハラに状況と労働組合の取
り組み方」のテーマで講演しました。紹介された資料の「パワハラ相談がある職場に共通する特徴」は、「上
司と部下のコミュニケーションが少ない職場」51.1%、「正社員や正社員以外など様々な立場の従業員が
一緒に働いている職場」21.9%、「残業が多い/休みが取り難い職場」19.9%、「失敗が許されない/
失敗への許容度が低い職場」19.8%、「他部署や外部との交流が少ない職場」12.3%の順です。
イギリスの典型的な職場いじめ1件が企業にもたらすコストの試算についての2003年の研究結果が紹
介されました。少なく見積もってもても£28.109(4,114,528円)です。いじめ問題はイギリス
経済に年間137.5億ポンド(日本円で約2兆円)の損害を与えていると暫定的に推定されています。
続いて、「労働現場や相談窓口からいじめ・パワハラの構造を探る」のテーマで4人のパネリストによる
パネルディスカッションです。
日教組女性部長の佐野由美さんは教育職場の実態について報告しました。「教師は熱心であればあるほど
何とかしようと頑張りますが、本来の教材研究に取り組むゆとりがない現状があります。一般の教職員にと
っても管理職にとってもストレスのかかる職場になっています。」このような中で、女性組合員を中心にパ
ワハラへの取り組みが開始され、兵庫県を皮切りに大阪府などでパワハラ防止指針が作成されていきます。
IMCからの労働相談の具体例を紹介しました。企業内労組はいじめやメンタルヘルス、評価の問題を個
人の問題だとして取り上げません。労働者は相談先がありません。このような時こそ個人加盟の労働組合な
ら腕の見せどころとなります。労働者が声をあげること
から解決は始まります。
カウンセラーの高山直子さんは、パワハラの被害者か
ら相談を受ける時のポイントを話しました。まずは「聴
いて・質問して・聴いて・質問して」を繰り返し、相談
者に充分に話をさせることが必要と強調されました。
産業医の牧由美子さんは、教職員のメンタルヘルスの
学校教員は人間不信に
まさに全国から、公立・私立を問わず教員から
のいじめ相談があります。
共通するのは、同僚同士の協力がほとんどなく
孤立しています。校長等管理職は、強制的な指示
を出しながら、問題が発生すると個人の責任にし
状況を中心に、精神科医の立場から、うつ病と日常的な
て事なかれ主義です。相談する相手がいません。
うつ気分の違いや休職から復職までの過程などについ
組合は我慢を強いるだけです。その中で自信を失
ての解説をしました。
い、人間不信に陥っています。
体調を崩して休職し、「自主退職」した後の相
会場からも円卓会議の「提案」の受け止め方や取り組
談もかなりあります。退職届を出した理由は、
「分
み方法など、たくさんの質問が寄せられました。例えば
限処分」になると再就職が難しくなると脅される
「被害から回復するということはどうしたらいいか」の
からです。(公務員の休職期間満了の退職を呼び
質問には「信じる力の回復です。特に集団的な被害の場
ます)「処分」の呼称が1人歩きします。ひどい
合には1人では回復できません。」という回答がありま
場合は教育免許がはく奪されると騙して退職届
した。また休憩時間や終了後にも講師やパネリストに個
を書かせた例もあります。校長等はこれで一件落
人的に質問したり、感想や情報を寄せてくれる参加者が
着ですが当該はさらに体調を悪化させています。
たくさんいました。
2
『心の病』による休職教員、10年前の約2倍
12月24日、文部科学省は「2011年度
公立学校教職員の人事行政状況調査」を発表しました。
『心の病』による休職教員は5,274人です。10年前の約2倍です。
動向としては08年から5,000人を上回っています。09年の5,458人まで17年連続で増え続け
ましたが、10年度は5,407人、11年度は5,274人に減少しています。
年代別では50代が39%、40台が32%、30代が21%、20代が8%です。年齢構成などを含め
て分析をしないと実態がはっきりしませんが、経験を積むほど高くなっています。管理職もいます。
一方、復職率は37%で、43%が休職継続、20%が退職しています。
宮城県教職員の時間外勤務
モンスター・ペアレンツへの対応は
18%が月80時間超(昨年10月)
教員が体調を崩す原因に、長時間労働のほかにい
1月27日付の『河北新報』によると、宮城県教
わゆるモンスター・ペアレンツ(理不尽な要求をす
委が昨年9月から県立の中学校、高校、特別支援学
る親)の問題があり、社会問題になっています。
校計92校の教職員5,708人を対象に毎月実施
保護者は些細な問題や学校に関係ない問題につ
している調査で、昨年10月に正規の勤務時間外に
いて、子どもを盾に自分の価値観を押し付けたり、
月80時間以上在校した教職員は18.2%に上っ
ストレス発散の対象にしてきます。教職員は1人で
たといいます。
過重な対応を迫られます。そもそも不可能な要求も
高校(教職員数4,131人)が24.6%で4人
たくさんあり、しかも即応性を求められます。
に1人の割合。200時間を超えた教職員も3人い
しかし教育委員会も校長等も、他のことでは細か
ました。該当者は前月比の約1.6倍です。文化祭や い業務指示を出しながら、対応は個人対応に任せっ
新人戦で部活動の時間が増えたことが主な要因とみ きりです。そして問題が大きくなると個人の責任を
ています。中学校(同32人)は46.9%。特別支 追及してきます。
援学校(同1,545人)は0.7%でした。
問題解決のためには、まずトップを含めた討論を
時間外の業務内容は高校の場合、部活動や課外活
踏まえた統一見解を持って対応する必要がありま
動が45.5%で最も多く、次いで教材研究・教科指 す。そうすると周囲はそれを踏まえてフォローでき
導が19.3%でした。
ます。理不尽な要求に対しては、まずトップから職
11月の該当者は高校12.4%、中学校31.
員を守る姿勢をはっきりさせることが必要です。最
3%、特別支援学校0.1%にそれぞれ減りました。 終的責任はトップが負うというアピールです。
時間外の勤務が45時間を超えた月が3カ月連続
した教職員の割合は、高校が31.3%、中学校が6
韓国の労働環境健康研究所は、「感情労働をする
5.6%、特別支援学校が3.8%でした。
テレマーケッターの場合には電話を先に切る権利
これらの数字は、長時間労働が恒常的だというこ
を与え、無理な要求をする顧客には一方的に謝らな
とを物語っています。さらに学校の教職員は昼休み
い権利を与えなければならない」と提案しました。
をきちんと確保できません。そして教材研究などは
そうすると労働者は自尊心を高める認識を持っこ
自宅で行われることがあります。しかも教員には残
とも出来ます。
業代は支払われていないという問題があります。
「電話を先に切る」、「一方的に謝らない」とい
この状況は宮城県だけではなく全国共通だと思わ
う“引かない行為”が相手の攻撃を止めるための効
れます。全国的調査と改善の取り組みが必要です。
果ある手段です。
3
各国は職場のいじめ問題解決に向けて取り組んでいる
2月28日、労働政策研修
研究機構主催の労働政策フォ
学の教授に就任しています。
ーラム「欧州諸国における職場のいじめ・嫌がらせの現状と
福祉国家スウェーデンといわれていますが、精神健康被害
取り組み」が開催されました。4か国の代表から報告があり
が最近増加しています。国の病気休暇費用の負担は精神的障
ました。国によっていじめの捉え方、取り組みは違います。
害が最も高くなっています。いじめの発生状況は、過去20
イギリスのマンチェスター大学ビジネススクール教授の
年間で3.5%から11%になっています。
へルゲ・ホーエルさんは、ホテルのマネージャーとして労働
雇用環境法は物理的環境を強調しています。2008年に
組合リーダーの経験を持っています。
差別禁止法が制定されました。
いじめは、仕事に対する満足度、心理的・身体的健康に影
国の政策として、いじめ法制を補完すること、使用者に、
響を及ぼしますが、組織的な影響について議論の焦点になっ
いじめを予防・排除するために充分な措置が講じられている
ています。離職、生産性、欠勤、訴訟、傍観者の問題などで
ことを示させるなど、さらに大きな責任を課す必要がありま
す。職場のいじめは職場のストレスと捉えてケアをする必要
す。具体的には、リーダーと同僚の責任を明確にすること。
があります。
参加を伴う取り組みと行動計画。評価制度を伴う取り組み。
職場いじめに特化した法令はありません。1974年に労
いじめの複雑な現象を理解するために、いじめに加えてその
働安全衛生法が制定されました。その中に合理的に実行可能
反響に関する知識も重視すること。労働組合はこのようなこ
な範囲で、従業員の健康、安全、福利厚生を確保する使用者
とに重要な役割を果たしていくことが期待されます。
の義務が盛り込まれています。1996年の雇用権法は、不
ドイツのマルティン・ヴォルメラートさんは弁護士です。
公平解雇やみなし解雇(=自分の意思に反して仕事を辞め
いじめを行なう者への法的制裁はむしろ非現実的です。
る、退職させられる)からの保護を謳っています。2010
「不安感によりいじめを行なう者」(おそれによるいじめ)
年に制定された「反差別法制」は、「保護の対象となるグル
は、いじめられるよりはいじめる行為をするからです。
ープ」に対する雇用差別およびハラスメントの禁止、相手に
企業と従業員に対する対策として、年間に約150億ユー
脅迫的な、敵意のある、品位を傷つける等の環境を生む効果
ロの事業コストがかかっています。
を有する行為を禁止しています。
いじめを防止・規制する法律はありません。国は「存在し
2008年に「職場の尊厳パートナーシッププロジェク
ない」という姿勢で問題を否認しています。司法もあまり重
ト」が立ち上げられています。
要でない周辺部分と捉えています。
フランスのボルドー第4大学比較労働法・社会保障研究所
裁判所以外で解決しています。あっせんを推進していま
研究員のロイック・ルルージュさんは、昨夏に次ぐ来日です。 す。企業における介入と防止策が必要で、労使協議会と経営
判例が紹介されました。2009年に解雇手続きをしない
側の企業合意が不可欠です。法律のツールはなくても、「モ
で会社から追い出すということがありましたが管理手法に
ビングはいらない」という欧州委員会の決定を国家法の中で
問題があると捉えられました。2010年に管理者がもっと
適用できればいいと思います。
働いて生産性を挙げろ、週末、夜も働けと指示したことに管
理手法が問われて、個人を対象にしたいじめと捉えました。
何処にでも存在する問題ですが、日本と比べた時、個人的
法整備によって2002年以降、モラルハラスメントの訴
問題ではなく職場環境の問題・リスクとして取り組んでいる
因だけで訴訟を提起する人が増えています。2008年に9
姿勢が伺えました。
2件、2012年に12件の判決が出ています。モラルハラ
このフォーラムに先立って、他の国からの参加者も含めた
スメントは職場の心理的リスクと考えるべきです。
討論が2日間にわたって開催されました。これらの報告は、
スウェーデンのカールスタッド大学教授のマルガレー
労働政策研修
タ・ストランドマークさんは、看護師として働いた後に看護
研究機構の機関誌『日本労働研究雑誌』や
『Business Labor Trend』で発表する予定だそうです。
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