テーマポルノクリップ

第1回高校生科学研究コンテスト講評
高校生科学研究コンテスト実行委員会
委員長 上田 條二
幹 事 堀端 孝俊
青森大学主催第1回高校生科学研究コンテストが青森県教育委員会のご後援のもと、
去る11月16日(土)に本学で開催されました。当日は天候にも恵まれ、県内各地から 9
校113名の生徒が参加しました。本学としては初めての試みであったにもかかわらず大
過なくプログラムを終えられたことは、生徒の指導に当たられた先生方、引率された
先生方の熱意に支えられたものであり、心から感謝する次第です。
発表テーマは口頭発表18件、ポスター発表9件でした。口頭発表にはサイエンス部門
とテクノロジー部門を設け、それぞれ15件と3件の応募がありました。ポスター部門に
は名久井農業高校から9件の応募がありました。どの発表も大変熱のこもったもので、
各チームともテーマを掘り下げ、新たな知見を得ようと真剣に取り組んできた様子を
うかがい知ることができました。中には高校生のレベルを超えると思われる研究発表
もあり、県内高校における理科教育の質の高さを改めて認識させられるものでした。
審査の結果、最優秀学長賞は八戸北高校SSH地学班の「八戸市牛ヶ沢遺跡から産出し
た縄文土器の胎土分析」でした。縄文土器の胎土分析を行うにあたり、まず八戸市周
辺の河川の堆積物を採集・分析し、各河川流域の地質の特徴を明らかにしています。
その上で、調査対象とした牛ヶ沢遺跡から出土した土器の薄片中に含まれる鉱物の分
析を行い、縄文時代後期では他の土地から土器が持ち込まれた可能性が高いことを突
き止めました。この研究は、今年度の第34回青森県高等学校総合文化祭自然科学部門
で入賞、第57回日本学生科学賞県審査(読売科学賞)で最優秀賞に輝いています。
サイエンス部門優秀賞は、青森南高校自然科学部の「月・太陽の色 ~光を散乱す
る物質の正体~」でした。このチームは地平線近くの月や太陽の光が赤く見えること
について継続的に研究を行っています。大気中の水蒸気の量と波長による光の減衰の
関係を種々の観測データをもとに調べています。この研究も、県高等学校総合文化祭
自然科学部門で入賞、読売科学賞で優秀賞を受賞しています。
テクノロジー部門優秀賞は、三本木高校クリップモーター班の「最速クリップモー
ターカーを作ろう!」でした。近年「科学の甲子園」全国大会の実験種目として注目
を集めているクリップモーターカーを、指定された材料とその量を守って組み立て、
レースタイムを競うことで問題解決能力の向上を目指すという試みです。「コイルと
磁石は近いほどよい」、「車軸を直接コイルで回転させることができれば...」など、
物理学で学んだ内容が実験・改良に活かされており、大変良い取り組みであるとの審
査員からの評価を得ました。
ポスター部門優秀賞は、名久井農業高校伝統野菜班の「蘇れ、伝統野菜~南部太ネ
ギの栽培と消費拡大を目指して~」でした。青森県南部地方に南部太ネギという伝統
野菜があります。耐寒性、多収性に富み甘くて軟らかい特徴がありますが、葉が軟ら
かく分岐点が一般のネギより広いため土が入りやすく成長点が隠れやすいという栽培
上の困難があります。チームは、たて穴法を導入し栽植密度の違いが収量に与える変
化を調べ、同時に食品成分分析も行い、太ネギが優れた品種であることも確認してい
ます。地域伝統の食文化を守ろうとしている姿が印象的でした。
今回受賞こそ逃しましたが、青森南高校自然科学部物理班の「Catch the 逃げ水!!」
も大変印象的でした。道路の傾斜、表面温度の違いなどによる逃げ水の変化の様子を
科学的に探求する姿勢に複数の審査員から高い評価を得ました。身近な現象の中に研
究に値するテーマが潜んでいることを教えてくれる大変優れた研究だと思います。
今回のコンテスト開催にあたり、県内の各高校の先生方から暖かいご支援をいただ
きました。弘前中央高校の木立徹先生には開催時期及び運営について適切なアドバイ
スをいただきました。コンテスト当日の引率教員と本学教員との間の意見交換会の場
でも参加教員の方々から多くの貴重なご意見をいただきましたが、なかでも木造高校
の笹浩一郎校長先生からは「県内の理科教育の発展のためにもこの科学コンテストを
もり立てて行きたい」とのご意見をいただきました。また、コンテスト終了後には、
八戸北高校の岩岡洋先生から、発表法、賞品、表彰の在り方、ポスターセッション、
など多岐にわたる運営上の項目について貴重なアドバイスをいただきました。ここに
深く感謝いたします。
参加した生徒の皆さんには、さらなる高嶺を目指して研究に励んで頂きたいと思い
ます。今回の発表テーマの中には、先輩から受け継いで発展させたものが多くありま
した。研究は、そのテーマに対して先人は何を考え、何を目指し、どこまで明らかに
し、何が未解決なのか、すなわちその分野の歴史と現状を知ることに始まります。そ
のことによって自らテーマを設定し、自らの力で探求し、そして、今までにない新た
な知見に到達することが求められているのです。まさに、武道における修業の精神で
ある「守・破・離」の世界がここにも広がっているのです。研究の内容をさらに深め、
チームワークをより強固なものとし、発表の練習を繰り返し、来年の新たな舞台で皆
さんのさらに成長した姿を見せて頂けることを心から期待しています。青森大学は、
青森県における科学教育のひとつの拠点として今後も全力で高校生を応援いたします。