実践のまとめ(第2学年 国語科) 上越市立飯小学校 教諭 倉井 伸太郎 1 研究テーマ 叙述を基に読み、感じたことや考えたことを表現できる子の育成 2 研究テーマについて (1) テーマ設定の意図 物語を読むことが大好きな子どもたちで、1学期に学習した「スイミー」も楽しんで読みとるこ とができた。登場人物の気持ちを、自分たちの生活経験から想像したり、考えたりしようとする姿 が見られた。しかし、「なぜそう考えたのか。 」を説明することができなかったり、叙述に即さない 「勝手読み」をしたりする姿も見られた。 そこで、文学作品の読み方を学び叙述に即して読むことで「勝手読み」をなくし、叙述を根拠に 読み取る力をつけられると考えた。そして、じっくりと読み取り、細かな部分まで読むことで作品 の世界に浸ることができると考えた。 (2) 研究テーマに迫るために ① 子どもたちの問いをもとに読み進めていく。 物語の世界に浸り読み味わっていくには、与えられた問いではなく、子どもたち自身が「何で だろう。 」「どうしてだろう。」と感じた主体的な問いについて考えていく必要がある。 そこで、中心人物の結末の姿から初めの姿へ向かって問いを作りながら読んでいく「逆思考の 読み」を行う。自分たちで問いを作りながら読むことで、主体的に読むことができ、さらに物語 の中の因果関係や伏線に気付くことができる。 ② 文章を読み取るための視点や原則、用語の定義を学ぶ。 物語を読み味わうためには、子どもたちがそれぞれ勝手な読みをしていたのでは読み味わうこ とはできない。そこで、物語を読むための視点や原則、よく使われる用語の定義を学び、全員が 共通理解をした上で読んでいく必要がある。 物語の内容を理解するために、 「場所」 「登場人物」 「中心人物」 「出来事」 「大きく変わったこと」 という視点を与える。これらの視点を与えることで、漠然と読むのではなく、着眼点をもって読 むことができる。 また、物語は「中心人物が、出来事を通して、気持ちを大きく変化させる。 」という原則、登場 人物は「自分の意思で話したり、行動したりしている人やモノ」という定義を学ばせる。これら を学ぶことで勝手な読みがあったときに方向修正をすることができたり、 「この話は、こうなって いくのではないか。 」と見通しをもって読んだりすることができる。 ③ ペア活動を中心に、考えを伝え合う活動を取り入れ、表現の場を増やしていく。 全員の前で考えを発表することに抵抗がある子どもも多くいる。そこで、ペアを中心とした伝 え合い活動を取り入れる。そうすることで、自分の考えを表現する場を保障したり、友達の考え を聞いて理解を深めたりすることができる。 また、子どもたちの中に問いが生まれたときを見計らってペア活動を取り入れる。このことで、 無理矢理話し合わされるのではなく、問いを解決するために友達と相談するといった、子どもの 意識に沿った形で活動することができる。 (3) 研究テーマにかかわる評価 ○ 「お手紙新聞」の「一番大切な問いと答え」や感想を、叙述に基づいて書いている児童が 70% 以上 3 単元と指導計画 (1) 単元名 問いと答えをつなげて読もう 「お手紙」 (2) 単元の目標 ◎ 時、場所、人物などに注目して「お手紙」を読み、 「お手紙新聞」を作ることができる。 (3) 単元の評価規準 【関】 「お手紙新聞」作りに向けて、読みの視点に沿って物語を読んだり、人物の気持ちを想像した りしようとしている。 【読】時、場所、人物、出来事や、場面ごとの人物の様子を読み取り、人物の気持ちを想像してい る。 【言】主語と述語の関係を理解している。 (4) 指導計画(全 11 時間、本時 5/11 時間) 次 学習内容 学習活動 あらすじを理解しよ ①「お手紙」新聞がどんな物かを 第一次(2) 時数 う。 知り、見通しをもつ。 ②「お手紙」をペアで音読し、物 語の概要を理解する。 視点に沿って読み取 第二次(7) り、人物の気持ちを想 像しよう。 ③・④5 つの視点について叙述か ら読み取り、記述する。 ⑤・⑥・⑦「逆思考の読み」を行 い、物語の因果関係や伏線を読 み取る。 ⑧物語の内容を一文で書き表し、 検討する。 ⑨新出漢字を学習する。 第三次(2) 4 指導過程における主な評価規準と方法 物 語 の 主 題 を 考 え 、 ⑩「お手紙」は読んだ人に何を伝 「お手紙新聞」を作ろ う。 えたいのか考える。 【言】教材文について「誰が」 「ど うした」を理解している。(発 言、ノート) 【読】読みの視点に沿って情報を 読み取った上で、人物の気持ち を想像しながら問いを作った り答えを考えたりしている。 (ノート) 【読】読み取りを生かした新聞を 作っている。 (新聞) ⑪今までの学習を「お手紙」新聞 にまとめる。 単元と児童 (1) 単元について 教材の特性をふまえ、本単元では学習指導要領の以下の事項に重点を置いて指導する。 第 1 学年及び第 2 学年「C 読むこと」 ウ 場面の様子について、登場人物の行動を中心に想像を広げながら読むこと。 第 1 次では、ペアで音読をする「音読対話」を行い、正確に音読できるようにする。内容の正し い理解、さらに読み深めていくためには正しく音読できることが必要だと考える。そこでペアにな って、互いの音読を聞き合う。聞く側は、読む人が読み間違えた箇所に線を引く。次回読んだとき に正しく読めたら線を消し、新たに間違えた箇所があればまた線を引く。こうすることで、どこを 読み間違えたか可視化され、練習の際も意識しやすい。 第 2 次では、5 つの視点に着目したり、逆思考の読みを使ったりして読み取りを行う。 「お手紙」 は登場人物も少ないので、誰の会話や行動であるかを考えやすい教材である。そのため、かえるく んやがまくんの会話や行動に注目して、心情を読み取ることに向いていると考える。また、 「手紙を もらう」という身近な出来事について書かれているため、叙述だけでなく、自分たちの生活経験か らも心情を考えることができる。 第 3 次では、第 2 次で読み取ったことをもとに、 「お手紙」の主題について考える。最後に、第 2 次からの学習を「お手紙新聞」にまとめ、紹介し合う。 (2) 児童の実態(男子 15 人、女子 15 人 計 30 人) 子どもたちは、4 月に「ふきのとう」、7 月に「スイミー」の学習を行った。 「ふきのとう」では音 読を中心に、 「スイミー」では読み取りを中心に学習した。主人公の行動や会話に注目して読み取り を行い、主人公の気持ちについて考えた。言葉や文章、挿絵や自分たちの生活経験をもとにして想 像力を働かせて物語を読み進めることができた。その際、言葉の定義や「場所」「登場人物」「中心 人物」 「出来事」 「大きく変わったこと」という 5 つの視点、逆思考の読みを初めて行った。子ども たちは、物語の世界に浸り細かな部分まで読み取ることができた。 しかし、自分の考えや意見をもつことができない子もいた。そこで、友だちとかかわりながら自 分の考えをもつための時間を保障したり、個別の支援を行ったりして学習に参加できるよう工夫し ていく。 5 本時の展開 (1) ねらい 物語結末のがまくんの姿から冒頭の姿へと問いを作りながら読み、叙述を根拠に人物の気持ちを想 像することができる。 (2) 展開の構想 前時までに物語の概要については、5 つの視点に注目して読み取りを行っている。本時では、前時 までに読み取ったことをもとに「逆思考の読み」を使って、さらに読み深めていく。 この物語の中心人物である「がまくん」の初めと終わりの姿を確認する。初めの姿は「かなしそ うに、げんかんの前にすわっている。 」であり、終わりの姿は「お手紙をもらって、がまくんは、と てもよろこびました。 」である。なぜ、がまくんの姿は初めと終わりで変化したのか、ということを 終わりの姿から「なぜ○○なの?」という問いを作って考えていく。自分たちで問いを作ることで主 体的な活動となり、意欲をもって取り組むことができる。一つの問いに対して答えを見つけたら、 その答えから新たな問いを作っていく。また、問いは一つだけでなくても構わない。 このように、終わりの姿から初めの姿へ問いを作って読んでいくことで、前から順に読んだので は気付かない細かな点や伏線に気付くことができる。 (3) 展開 時 学習活動 教師の働きかけ・予想される反応 □評価 ○支援 ・留意点 ○ がまくんの最初と最後の姿 T:がまくんの姿や気もちがどん □ 最初と最後の姿を見付 を見付け、確認しノートに な風に変わっていったか読んでい け、ノートに書いてい 書く。 きますよ。がまくんは最初と最後 る。 【ノート】 間 10 はどんな様子でしたか。 C:かなしそうにげんかんの前に すわっていました。 C:お手紙をもらって、がまくん は、とてもよろこびました。 27 ○ 最後の姿について「なぜ ○○?」という形の問いを作 り、答えを考えていくこと を繰り返す。 T:最後の姿から問題は作れない かな。 【問いと答え①】 C:なぜ、手紙をもらって、が まくんはよろこんだのか。 C:手紙がくるのを待っていた からだよ。 C:書いてある内容がよかった からじゃない。 【問いと答え②】 C:なぜ、手紙が来ることを知 っていたのかな。 C:かえるくんががまくんに教 えたからだよ。 【問いと答え③】 ○ 教師は子どもの発言を 整理しながら板書して いく。 ○ 問いと答えを考える時 間を保障する。 ○ 答えについて、根拠と なった文や言葉につい て明確にさせる。 ・ 根拠が乏しい読みだっ たり、飛躍した考えが 出たりした場合は振り 返らせる声かけをす る。 □ 主体的に問いを作り、 叙述を基にがまくんの 気持ちを想像してい る。 【発言、ノート】 C:なぜ、教えたのだろう。 C:がまくんがあまりにもげん きをなくしていたからだよ。 以降も問いを作りながら読み進め る。 8 ○ 振り返りを行う。 T:今日 1 番考えた「問いと答え」 □ 理由を付けて振り返り を選んで、その理由を書こう。 を書いている。 (4) 評価 ・ 問いと答え繰り返しながら読み進め、叙述を根拠に人物の気持ちを想像している。 6 実践を振り返って (1) 授業の実際 子どもたちは、前時までに「場所」 「登場人物」 「中心 人物」 「出来事」 「大きく変わったこと」の 5 つの視点に 注目して、あらすじの読み取りを行っている。本時では、 前時までの読み取りを生かして、さらに詳しく読み取り を行っていった。 具体的には、 「逆思考の読み」を用いた。子どもたち が主体的に問いを作りながら進めていけるよう、子ども たちの意識の流れに沿って進めていくことを心がけた。 中心人物は「がまくん」であることを前時までに確認 してあったので、本時では「がまくん」の最初と最後の 姿を比較して、なぜそのように姿が変化をしたのかを考えていく。「がまくん」の最後の姿は、「お 手紙をもらって、がまくんは、とてもよろこびました。 」であった。 最初の問いはこちらで二つ用意した。一つ目は「誰が手 紙を書いたのか。 」 、二つ目は「どうして、手紙をもらって 喜んだのか。」である。一つ目の問いは、誰もが答えるこ とができ、達成感を味わうとともに子どもたちの緊張をほ ぐすねらいがあった。二つ目の問いは、今後読み取りを行 っていく中で、様々な意見が出やすく、広がりやすい問い であると考え設定した。 子どもたちは、近くの友だちと相談しながら問いや答え を考え始めた。子どもたちに二つ目の問いについて聞いた ところ次のような発言が聞かれた。 T:どうして、手紙をもらってよろこんだの? S 児:一度も手紙をもらったことがないからです。 H 児:意味は同じだな。 S 児は、普段あまり発言をすることはない。しかし、本時で挙手をして発言することができた理由 としてペアで相談したということが考えられる。自分一人では、 「間違ったらどうしよう。 」といっ た心配があるため、なかなか発言することはできないが、他の友だちと相談することで自分の考え を後押ししてもらえたため、自信をもって発言することができた。 また、H 児の発言から、自分の考えと友だちの考えを比較しながら聞いていることが分かる。国 語に限らず、算数でもペアやグループで相談する経験をしており、友だちと自分の考えを比較しな がら聞くことができるようになった。そうすることで、自分の意見と同じところや違うところを意 識し、多様な考えを受容できる。 S 児の答えの他に「とてもいいお手紙だったから。 」という答えも出された。すると、新たに出さ れた答えから、 「どんな手紙だったの。 」という問いが作られた。このとき、次のようなつぶやきが 聞こえてきた。 K 児: (教科書の)ここに書いてあるけど、どうやって(ワークシートに)書けばいいのかな。 R 児:先生、ここを写してもいいのですか? 子どもたちは、問いや答えを作ったり、導き出したりするときに根拠を叙述に求めていることが 分かる。言葉や文をきっかけにして、そこから考えを広げていっている。ポイントになる部分を見 付けることはできたが、どのように表現すればいいのかが分からず悩んでいる子どもがたくさん見 られた。そこで、ポイントになる部分はどこかを全員で音読して確認し、どんな言葉で表現するか を全体で検討することにした。 O 児:親友であることを嬉しく思います。 (文章の一部分を書き抜く。 ) T 児:親友であることを書いてある手紙。(文章を要約する。 ) K 児:親愛なるがまがえるくんへ…。 (文章をそのまま書き抜く。 ) 様々な表現の仕方が提案されたことで、どのような表現をすればいいか困っていた子どもたちも、 どんな書き方をすればいいか的を絞ることができた。ここでは、どの書き方が一番いいかというこ とまでは検討せず、子どもたちに判断を任せた。ただ、的外れな書き方になっては困るので「大切 な言葉は何か?」と問いかけると全員から「親友」という答が返ってきたので、その言葉は必ず使 うように確認した。 本時では、かえるくんのがまくんに対する気持ちが現れている「手紙の内容」に注目することが できた。この手紙の内容をがまくんが知ることで、最初と最後の姿の違いが出てくることになる。 そのため、この叙述に子どもたちが注目して考えることができたことは大変価値のあることである と考える。 (2) 研究テーマにかかわって 本時では、 「かえるくんからがまくんへ送った手紙の内容」に注目して物語を読み取ることができ た。単元の終わりに、 「一番大切な問いと答え」を手紙の内容と関連づけて書いた児童は 27 名中 22 名(81%)であった。また、単元終了時に書いた感想の中にも、かえるくんのがまくんに対する思 いを取り上げる児童も多数いた。 ・ 親友を大切にするかえるくんの気持ちが、とてもすごかった。 ・ かえるくんが、がまくんにお手紙を書いたのが、すごく「やさしいな。 」と思いました。あと、 とてもいいお手紙でした。 ・ かえるくんは、友だち思いで、がまくんは少し意地っ張りだけど本当は優しいんじゃないか なと思いました。もっと色々読んで、どれがおもしろいかくらべたいです。 かえるくんの思いに注目して、問いや答えを選んだり、感想の中で触れたりすることができた児 童が 70%を超えられたことは大変良かった。 叙述に基づいた読み取りを行い、そこで読み取って感じた自分の考えや思いを表現することがで きることは、中高学年になっても生かされると考える。 (3) 今後の課題 本時では、子どもたちが問いと答えを作りながら読み進める手法を行った。そのとき、子どもた ちは、叙述だけで思考していくことが難しい場面が多々あった。なかなか考えが出なかったり、ま とまらなかったりしたので、物語の流れに沿った挿絵を掲示したり、ワークシートに最後の姿だけ でなく最初の姿も載せて比較しやすくしたりする工夫が必要であった。視覚的な支援を行うことで、 より思考も活発になり理解も深まると考えられるので、より効果的な視覚支援の方法を考えたい。 また、ワークシートの書き方が子どもによって違い、統一されないために見づらくなり、思考の 流れを表現しづらくなってしまった。吹き出しの付箋を配るなど、子どもたちがまとめやすくする 必要があった。
© Copyright 2024 Paperzz