平成27年度 2年目研修 授業実践記録 想像を広げながら読む力を育てるための授業づくり 1 テーマ設定の理由 今年度,私が担任する児童は,昨年からの持ち上がりでたいへん元気のよい2年生である。体を 動かすことが大好きな児童が多く,休み時間は,教室の外に出て鉄棒やボール遊びなどをして過ご している児童がほとんどである。しかし,じっと机に向かって頭の中で考えたり想像したりするこ とが苦手な児童が多く,昨年度は全体的に読書量も少ない状態だった。そのため国語の授業では, 場面を想像しながら文章を読むことができず,特に物語の学習では,文字から登場人物の行動や心 情を想像できた児童がほんの数名しかいなかった。そこで, 「想像を広げながら読む力」を児童に身 につけさせたいと考え,教育実践研究のテーマに設定した。この実践を通して,児童が登場人物の 言動や作者の描く情景に感動したり,それを自分に投影したりすることによって,豊かで思いやり のある心を育てたい。 2 実践 (1) 物語教材『スイミー』の指導の工夫 一学期の物語教材に『スイミー』がある。 『スイミー』は,今までに学習した読み物教材の中で 初めて主人公に名前がついている物語であり,児童は主人公に寄り添いながら物語を読み進める ことができる教材である。また,この物語はスイミーの行動によって場面が展開していくので, 物語の展開を押さえやすい教材になっている。そこで,想像したり読み取ったりすることが苦手 な児童が,スイミーの心情や物語の情景をより豊かに想像できるように,以下の2つの工夫を行 った。 ① 動作化 『スイミー』には,登場人物の様子や情景を伝えるのに,「~のような」「~みたいな」とい う比喩表現が多用されている。 しかし児童は,文字だけではその様子を想像することが難しい。 例えば, 「おそろしいまぐろが,おなかをすかせて,すごいはやさでミサイルみたいにつっこん できた。 」という一文がある。児童はまぐろもミサイルも言葉の上では知っているが,その大き さや速さを容易には実感することができないだろう。そこで,身長が高い児童がまぐろ役にな り,魚の兄弟の役になった児童に向かってミサイルみたいにつっこむ動きをやってみた。する と魚の兄弟になった児童たちから,「こわい!」 「びっくりした!」とスイミーが感じた気持ち と似たような気持ちを体感することができた。また,スイミーがまぐろから逃れた後に海の底 で見た「ゼリーのようなくらげ」や「もも色のやしの木みたいないそぎんちゃく」なども,一 つ一つ想像できるように工夫した。教科書にはすべての生きものの挿絵が載っていないので, 原作の絵本の絵を児童に紹介したり,色や動きを想像して動いてみたりしながら,スイミーの 見たものや感じたことを児童自身が感じられるように学習を進めた。 ② 映像化 児童が物語の展開を理解するには,スイミーの行動をきちんと理解しなくてはならない。そ こで,スイミーの行動がより分かりやすくなるように,パワーポイントを使って,スイミーの 行動やスイミーが見たものを映像化して授業に用いることにした。さらに,映像を見せること で,児童がスイミーと一緒に海の中にいるような気持ちになり,スイミーに寄り添ってスイミ ーの気持ちを想像できるようになることをねらった。授業では,単元を通して,スイミーやそ の仲間たちを大型テレビの画面上に泳がせたり,スイミーが見たものを順に現わしたりして, 児童と一緒に本文を読み進めながらアニメーションを進めていった。そして,場面ごとにスイ ミーの気持ちを考えたり,スイミーに声をかける文章を書いたりする活動を行った。その際に 使用したワークシートは,パワーポイントの映像と同じになるようにした。アニメーションの 途中で吹き出しを入れて児童に発問したので,物語の流れを途切れさせることなく,スイミー に寄り添って考えさせることができた。ワークシートを見て みると,これまでの物語教材では登場人物の気持ちが分から ずに戸惑っていた児童が,すらすらと鉛筆を動かして吹き出 しいっぱいに書くことができた。また,アニメーションとし て1つのストーリーにまとめたので,1 時間で学習がいった ん途切れても,簡単に話の流れを振り返ることができ,すぐ に物語の世界に戻ることができた。 (2)『スイミー』の 実践の結果と課題 以上の2つの工夫を行ったところ,児童はより『スイミー』の世界に浸ることができた。なか には,スイミーを自分に置き換えて考える児童もいた。ゆうきは,まるで自分もスイミーと一緒 に見てきたかのように, 「いろいろ見て,おもしろかったね。ゼリーのようなくらげでいっしょに ねたいね。 」と元気のないスイミーに声をかける文章を書いていた。また,翔太は,大きなマグロ を追い出したスイミーに, 「なんでぼくだけくろいのだろうとしんぱいしていたけど,じぶんのや くめがあってよかったね。じぶんのやくめがあって,うれしいでしょう。 」と書いた。翔太はみん なの前に出て発表することが多いわけではなく,グループ活動でもリーダー的な役目をすること がほとんどない,学級の中でもおとなしい児童だ。その翔太が, 「じぶんのやくめがあって,うれ しいでしょう。」とスイミーに共感し声をかけたことから,翔太が,人それぞれに役割があること に意義を感じ,自分も何かの役割を成しとげたいと思っていることが感じられた。私はこの国語 の学習を通して見えてきた児童の思いを,今後の学級での指導にも生かしたいと思った。 しかし,物語の世界にひたり,登場人物の気持ちを想像して書く児童が増えた一方で,学習し た後に感想が書けず,正確に心情を読み取ることができない児童もいた。 『スイミー』の学習を振 り返ると,あらかじめストーリー全てを映像にして作ってしまったので,アニメを見るように何 も考えずに映像だけを楽しんでいる児童がいたのではないかと反省した。そこで,2学期に学習 する物語教材『お手紙』では,児童が文章を読んで想像する手助けとなるように教材を工夫した い。 (3) 物語教材『お手紙』の指導の工夫 『お手紙』は,2人の登場人物の行動や会話を中心に,細かい描写にも注意して想像を広げな がら読み,それを最終的には音読劇として作り上げる教材になっている。また『お手紙』は, 「○ ○が言いました。 」を除くと,7割以上ががまくんとかえるくんの会話文からなる作品である。そ のため,会話の際のがまくんとかえるくんの位置や距離,しぐさ,顔の向きを考えることで,2 人の心情の通い合いを読み取らせ,それを音読劇に生かすことができる。児童が想像したことを もとに,音読劇では登場人物の動きや声色を考えられるように,以下の2つの工夫を行った。 ① 挿絵の利用 『お手紙』は,作者のアーノルド=ローベルが挿絵も描いている作品である。そのため,作 者の思いが表れた挿絵になっており,物語の描写に合わせて細かく描かれている。そこで,登 場人物の心情の変化を読み取るために,文章だけでなく挿絵も利用することにした。 挿絵は,全部で9枚ある。まず物語の朗読を聞いた後,全ての挿絵をばらばらに黒板に提示 し,物語の展開通りになるように並べ替えをさせた。そうすることで,児童は9枚全ての挿絵 に注目することになる。すると,数人の児童が「同じ絵があるよ。」と発言した。その発言をき っかけに, 「ちがうよ。似ているけれど,顔がちがう。」 「笑っているのと,さみしそうなの。」 と別の発見をした。ここで指摘された挿絵は,物語のはじめにがまくんとかえるくんがお手紙 を待っている場面と,物語の終わりに2人がお手紙を待っている場面である。共に,お手紙を 待つ場面というところは同じであるが,2人の心情は全く違っている。児童は,似た場面では あるけれど,2人の表情が違うことに気がついたことで,はじめと終わりでは2人の心情が変 化したことに気づくことができた。 挿絵を順番に並べた後,今度は挿絵を手掛かりに物語の 場面分けを行った。あらかじめ,物語全体を場所ごとに3 つの場面に区切り,それを児童に見せてから, 「どうやって 分けたと思う。 」と問いかけた。明らかに3つ目の場面に振 り分けられた挿絵の数が多かったので不思議に思う児童が 多く,教科書を見ながら意欲的に考えていた。ペアで話し 合いをした結果,以下のようなやり取りが行われた。 ゆうと:ぼくは,朝,かえるくんががまくんの家に行った後に,お昼に家へ帰って手紙を書い て,3時頃またがまくんの家に行って手紙を待っていると思います。 教 師:ということは,このお話はかえるくんの一日で,時間ごとに場面を分けていると思っ たんだね。 ゆうと:そうです。 あかり:私は,ゆうとさんのに似てるけど,ちょっと違います。一番初めの場面はかえるくん とがまくんが2人でいるときで,2つ目の場面はかえるくんだけになって,3つ目は またがまくんの家に来たから2人でいる場面です。 教 師:なるほど。登場人物の人数がちがうのは,場所が違うからってこと。 あかり:はい。かたつむりくんがいるけれど,それはかえるくんの家の近くだからだと思うし。 教 師:それじゃあ,ゆうとさんは時間ごとに場面分けをしているという意見で,あかりさん は場所ごとに場面分けをしているという意見でいいかな。 児 童:はい。 児童はそれぞれの意見を聞いて, 「どっちも合ってるんじゃないの。 」と2人の意見に納得して いた。しかし,物語の後半で『四日たって,かたつむりくんが,がまくんの家につきました。』 とあることから,一日を時間ごとに場面分けしているという考え方は誤りである。そこで,児 童が正しく文章を読み取ることができるように改めて発問し,以下のようなやり取りを行った。 教 児 教 師:どちらの意見も,しっかり挿絵を見て考えられていて,すばらしいですね。実は,先 生が分けた方法は,このうちのどちらかです。どっちが正解なのか,今度は挿絵だけ でなく文章も読んで考えましょう。よく読むと,正解が分かるヒントが書いてありま すよ。 童:文章が長くて,分からなくなります。 師:たしかに長い文章ですね。では,挿絵がたくさんある3つめのまとまりに注目してみ ましょう。 児童はしばらく考えたが,なかなかその一文を見つけられなかった。 教 師:2人の考え方は,時間ごとの場面分けと場所ごとの場面分けでしたね。3つめのまと まりは,本当に同じ時間なのか,もしくは,本当に同じ場所なのかを,文章を読んで 考えてみましょう。 ~以下はペアワークのやり取り~ ともこ:2人はずっとがまくんの家にいるよ。 たいき:ずっとかたつむりくんを待っているね。 ともこ:あ,分かった。四日待ってる。 たいき:本当だ。一日じゃない。 ~ ともこ:2人は手紙を四日待っています。だから,3つ目のまとまりで,長い時間がたってい ます。 児 童:あ,本当だ。 教 師:よく見つけましたね。教科書17ページを見てみましょう。2人は手紙を四日も待っ ていますね。時間ごとに分けると,まとまりが1つ増えてしまいます。だから,正解 は場所ごとの場面分けでした。 児 童:そんなに長く待っているのすごいね。はじめはすぐにやめたのに,なんでだろう。 教 師:どうしてそんなに長く手紙を待っていたのでしょうね。次の学習から,かえるくんと がまくんの気持ちを詳しく読み取っていきましょう。 以上のやり取りを経て,その授業は終わった。挿絵をよく見ることで物語のあらすじを理解 し,その後文章と挿絵を合わせて読むことで,より注意深く文字を追い,内容を理解しようと していた。また,心情と行動の変化に気づいたことで,新たな疑問が生まれ,次時の学習につ ながった。 ② 動作化 『スイミー』では,比喩表現を理解するために動作化を取り入れたが, 『お手紙』では,登場 人物の微妙な心情の変化を理解するために動作化を取り入れた。動作化をすることで特に理解 が深まった場面は,かえるくんががまくんの家に戻り,自分が書いたお手紙を待つ場面である。 かえるくんは,がまくんの家のまどから何度も郵便受けを見ている。しかも毎回同じではなく, 一度目はまどから郵便受けを見るだけなのだが,二,三度目はまどからのぞいて郵便受けを確 認している。この行動の微妙な変化に注目して動作化を行い,かえるくんの気持ちを想像した。 まず一度目の「見る」動きでは,児童は首をひねって顔を動かすだけの動きをした。そこでか えるくんの気持ちを想像すると,主に「かたつむりくん,まだかな。」「早く手紙を渡したいか ら,早く来て。」という意見が出た。次に,二度目の「のぞく」動きでは,児童はいすから腰を 浮かして前に乗り出すような動きをした。その時のかえるくんの気持ちを想像すると, 「なんで まだ来ないの。」 「おそいなあ。」というような焦りの感情が含まれる意見が出た。最後に,三度 目の「のぞく」動きでは,前のめりになるだけでなく,首を 動かしてきょろきょろと辺りを見る児童が出てきた。想像し たかえるくんの気持ちは,「遅すぎて待ってられないよ。」と 苛立っているような意見が出た。かえるくんになったつもり で,同じような動きを何度も繰り返したことで,児童はかえ るくんの焦りや苛立ちを読み取ることができたようだ。 以上のような学習を経て,単元の最後には音読劇を設定した。これまでに何度か音読発表会 をしたことがあり, 「声の大きさ」や「話す速さ」を工夫することを学習してきた。さらに,簡 単な動きを取り入れた音読劇に,児童はこの『お手紙』で初めて取り組んだ。児童は3人で1 グループになり,担当する場面の登場人物の動きと音読の工夫を考えた。初めは「悲しそうに ゆっくりと読む。 」 「大きな声で読む。 」というような,これまでと同じ「声の大きさ」と「話す 速さ」の工夫しか見られず,肝心の「登場人物の動き」に関する工夫が全く見られなかった。 そこで, 「目線」や「2人の距離」を考えることを呼びかけ,工夫を考える視点を増やした。す ると,児童の考える工夫の中に, 「下を向きながら小さい声で。」 「がまくんの方を見ながら,や さしく言う。」などが出てきた。その結果,発表会では,顔の向きを変えたり,以前に学習した 郵便受けを見る動きをおおげさにやったりして,より登場人物の心情を表現していた。 (4) 『お手紙』の実践の結果と課題 文字から想像力をはたらかせ,物語の内容を深く読むためには,読み手側の経験が必要不可欠 だと思う。しかし,児童には登場人物に共感できるような経験が少なかったり,言葉の意味をき ちんと理解していなかったりするため,文字を追うだけでは想像力をはたらかせることができな かった。今回の実践では,場面の変化や登場人物の心情の変化に気づかせるために,文章を深く 読む前に挿絵を使ったことは効果的であった。また,登場人物の心情の変化を具体的に読み取る ために,動作化を取り入れたことも効果的であった。単元の最後に書いた,かえるくんへのお手 紙には, 「かえるくんは,がまくんのかなしい顔を見て,お手紙を書いてあげたので,とてもやさ しいですね。」と,かえるくんの行動に感動したり,「わたしもかえるくんみたいに,友だちをみ すてない人になりたいです。 」と,自分の生活に生かそうとしたりしている部分が見られた。他に も心あたたまる手紙が多かったので,児童は, 『お手紙』の学習を通して,かえるくんのがまくん に対する優しい心を感じ,まるで自分ががまくんの立場になったようにあたたかい気持ちになっ ていたようだ。 以上のように,登場人物に共感し,音読劇や手紙を書く活動で,感じたことを表現できる児童 がいる一方で,それができない児童もいた。彼らは,登場人物の気持ちをなんとなく理解してい るようだが,それを動きや文章で表すことができていなかった。このような児童への支援として, 表現力が豊かな児童の工夫点や表現方法を紹介することが必要であった。なぜなら,彼らは,音 読劇発表会で初めて友だちの発表を見た時に, 「動きがあると,何をしているのかよくわかるな。」 「そんな風に動けばよかったんだ。」と感想を言っていたからである。活動のゴールではなく,そ の途中で他者の意見や多角的な考え方を共有することで,より学びを深められたのではないかと, 反省した。 3 実践のまとめ 読んで想像する力を育むためには,児童が物語を読んで,想像することが楽しいと思うような学 習が必要だと思い,教材研究に取り組んだ。しかし1学期の「スイミー」の実践では,教材研究で 準備した通りに授業を進めることに集中してしまい,授業中の児童の小さな気づきや考えを拾うこ とが十分にできなかった。その反省を踏まえて,2学期の「お手紙」の実践では,児童の気づきを もとに授業の流れを作ることで,児童の思考が連続するように心がけた。すると,自分の考えだけ でなく友だちの気づきにも注目させることができ,楽しんで想像したり,細かい描写にも注目した りする児童が増えた。以上の2つの実践から,児童が意欲的に楽しんで学ぶためには,教員の思い だけでなく,児童の思いや気づきも大切だということが分かった。まだ多くの課題が残っているの で,この実践の反省を今後の指導に生かし,児童の想像する力を育んでいきたい。
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