平成15年度ゼミ単位論文集 - 青山学院大学 法学部・大学院法学研究科

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三木ゼミ
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2016
租税法判例24選[第1版]
Ⅰ
租税法序説
租税法の解釈と適用
1
贈与税における「住所」とその借用概念
Ⅱ
片平
杏奈
加藤
智
1
租税実体法
課税要件総論
2
従業員が関係業者から受領したリベートの帰属
3
所得税
3
破綻したゴルフ会員権の取得費引き継ぎの可否
石田
悠葵
5
4
リゾートホテルの主たる所有目的の判断
今井
佳澄
7
5
死亡共済金のみなし贈与該当性
井出
修斗
9
6
養老保険契約に基づく満期保険金の一時所得金額計算上の控除範囲
國定
美公
11
7
学校法人分掌変更事件
小島
一輝
13
8
経済的価値を喪失した株式の「資産」該当性
斎藤
一輝
9
所得税の事務管理成立要件該当性
鈴木
樹菜
10
アスベスト除去工事費用及びアスベスト分析検査試験費に係る雑損控除該当性
11
寄付金をめぐる法人と個人の公平
孫
坪井
15
17
悠伽
19
満里奈
21
東方
真椰
23
12
賃貸人への明渡によって取得した立退料に係る所得区分
13
塾講師・家庭教師の給与所得該当性について
半谷
颯代
25
14
所得税必要経費の「直接」要件該当
二見
康亮
27
弦
29
拓矢
31
中島
由加里
33
法人税
15
内国法人における法人税の租税回避該当性
16
公正処理基準の該当性と不当利得返還請求の可否
行方
大槻
相続税・贈与税
17
庭内神祠の敷地等は非課税財産に該当するか
消費税
18
会員制リゾートクラブから収受した金員に対する消費税の可否
秋山
聖令那
35
19
消費税相当額における課税資産の譲渡等の対価の額の該当性
鈴村
優華
37
20
電化手数料の役務の提供の対価該当性
中山
真太郎
39
固定資産税
21
商店街通路の「公共の用に供する道路」該当性
重田
22
法律上存在しない土地に係る固定資産税等の誤納金不還付決定取消の不認定 .... 若松
大和
千琴
41
43
附帯税
23
減額更正後に増額更正がされた場合における延滞税の成立の可否
大柳豆
優衣 45
Ⅲ租税処罰法
租税犯
24
住所の仮装と「偽りその他不正の行為」
加藤
麻緒
47
Ⅰ租税法序説
租税法の解釈と適用
1 贈与税における「住所」とその借用概念
かたひらあんな
片平杏奈
最高裁平成23年2 月18日第二小法廷判決
(平成20年(行ヒ)第139号:贈与税決定処分取消等請求事件)
(判時2111号3頁、判タ1345号115頁)
事実の概要
大手消費者金融T社の社長Aとその妻Bは、その長男
であるX(原告・被控訴人・上告人)に、1999 年 12 月
27 日付けで、オランダ所在の子会社の出資全 800 口のう
ち 720 口を贈与した(以下、
「本件贈与」という。)。また、
AおよびBから同社に譲渡されたT社の株式は、同社の
総資産の 8 割以上を占めていた。Xは、1997 年 6 月から
2000 年 12 月にかけて、T社の香港現地法人の取締役と
して、香港と日本を行き来する生活を送っていた。その
うち、同期間の約 3 分の 2 は香港に滞在し、家事に関す
るサービスが受けられる家具付きアパートメント(以下、
「本件香港居宅」という。)に滞在していた。
1982 年以来、Xがその両親らとともに生活していた東
京都杉並区の居宅(以下、「本件杉並居宅」という。)を
所轄する杉並税務署長Yは、本件贈与について、贈与時
点のXの主たる生活の本拠地は日本にあったと認定し、
1157 億円余の贈与税および加算税 173 億円余の課税処分
を行った。これに対してXは、本件贈与日に日本に住所
を有していなかったため、贈与税の納税義務を負わない
と主張して、Yに対して本件決定処分等の取消しを求め
る訴えを提起した。
なお、贈与者が所有する財産を国外へ移転し、受贈者
の住所を国外に移転させた後に、贈与を実行することに
よって日本の贈与税を回避できるとする方法は、1997 年
当時すでに一般に紹介されており、AおよびXは、弁護
士から説明を聞くとともに、公認会計士から、本件贈与
に関する具体的な提案を受けていた。
第一審(東京地判平成 19・5・23 訴月 55 巻 2 号 267
頁)は、Xが本件贈与日に日本国内に住所を有していな
かったとして請求を認容したが、原審(東京高判平成
20・1・23 判タ 1283 号 119 頁)は、住所が日本にあった
として本件決定処分等を適法と判断した。これに対して、
Xが上告受理申立てをし、これが受理された。
判旨
破棄自判。
「法 1 条の 2 によれば、贈与により取得した財産が国
外にあるものである場合には、受贈者が当該贈与を受け
た時において国内に住所を有することが、当該贈与につ
いての贈与税の課税要件とされている(同条 1 号)とこ
ろ、ここにいう住所とは、反対の解釈をすべき特段の事
由はない以上、生活の根拠、すなわち、その者の生活に
最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すもので
1
あり、一定の場所がある者の住所であるか否かは、客観
的に生活の根拠たる実体を具備しているか否かにより決
すべきものと解するのが相当である(最高裁昭和 29 年
(オ)第 412 号同年 10 月 20 日大法廷判決・民集 8 巻 10 号
1907 頁、最高裁昭和 32 年(オ)第 552 号同年 9 月 13 日第
二小法廷判決・裁判集民事第 27 号 801 頁、最高裁昭和
35 年(オ)第 84 号同年 3 月 22 日第三小法廷判決・民集 14
巻 4 号 551 頁参照)
。
」
「これを本件についてみるに、前記事実関係等によれ
ば、Xは、本件贈与を受けた当時、本件会社の香港駐在
役員及び本件各現地法人の役員として香港に赴任しつつ
国内にも相応の日数滞在していたところ、本件贈与を受
けたのは上記赴任の開始から約 2 年半後のことであり、
香港に出国するに当たり住民登録につき香港への転出の
届出をするなどした上、通算約 3 年半にわたる赴任期間
である本件期間中、その 3 分の 2 の日数を 2 年単位(合
計 4 年)で賃借した本件香港居宅に滞在して過ごし、そ
の間に現地において本件会社又は本件各現地法人の業務
として関係者との面談等の業務に従事しており、これが
贈与税回避の目的で仮装された実体のないものとはうか
がわれないのに対して、国内においては、本件期間中の
約 4 分の 1 の日数を本件杉並居宅に滞在して過ごし、そ
の間に本件会社の業務に従事していたにとどまるという
のであるから、本件贈与を受けた時において、本件香港
居宅は生活の本拠たる実体を有していたものというべき
であり、本件杉並居宅が生活の本拠たる実体を有してい
たということはできない。」
「以上によれば、Xは、本件贈与を受けた時において、
法 1 条の 2 第 1 号所定の贈与税の課税要件である国内(同
法の施行地)における住所を有していたということはで
きないというべきである。」
解説
1 平成 12 年法律 13 号(2000 年)により租税特別措
置法(平成 15 年法律 8 号による改正前のもの。
)69 条 2
項の規定が定められる前においては、贈与による財産取
得時に、受贈者が「この法律の施行地に住所を有する」
か、当該財産が「この法律の施行地にある」場合に、贈
与税の納税義務が生じることになっていた。本判決は、
相続税法がその課税要件規定において用いている「住所」
概念の意義について、客観的事情を考慮した上での「生
活の本拠」を指すと判断し、日本と香港を行き来するX
については、本件杉並居宅が「生活の本拠」ではなかっ
たと認定した。
2 租税法上で使用される用語や概念には、固有概念
と借用概念とがある。実定租税法が定義規定を置く租税
法独自の概念を固有概念という。一方で、租税法が独自
の定義規定を設けることをせず、私法等の他の法律で用
いられている概念を課税要件に取り込む場合のその概念
を借用概念という。租税法は、私法上の法律関係を前提
に課税要件が構成されているので、私法上の概念を課税
要件規定に取り込むことがとりわけ多く見られる。借用
概念の解釈においては、その概念や文言を、民法等の借
用元で用いられているのと同義に解すべきか、一方で、
そこに租税法独自の意義を付け加えてよいか、という問
題が存在する。これまでの議論は、独立説、統一説、目
的適合説の3説に分かれている。
独立説とは「租税法が借用概念を用いている場合も、
それは原則として独自の意義を与えられるべきであると
する見解」であり、統一説は「法秩序の一体性と法的安
定性を基礎として、借用概念は原則として私法における
と同義に解すべきである、とする考え方」である。そし
て、目的適合説は「租税法においても目的論的解釈が妥
当すべきであって、借用概念の意義は、それを規定して
いる放棄の目的との関連において探求すべきである、と
する考え方」であるとされている。この借用概念におけ
る通説的理解は、「私法との関連で見ると、納税義務は、
各種の経済活動ないし経済現象から生じてくるのである
が、それらの活動ないし減少は、第一次的には私法によ
って規律されているから、租税法がそれらを課税要件規
定の中にとりこむにあたって、私法上におけると同じ概
念を用いている場合には、別意に解すべきことが租税法
規の明文またはその趣旨から明らかな場合は別として、
それを私法上におけると同じ意義に解するのが、法的安
定性の見地からは好ましい。その意味で、借用概念は、
原則として、本来の法分野におけると同じ意義に解釈す
べき」であるとされ、統一説がとられている。また判例
においても、本来の法分野で用いられている意義と同一
に解すべきという立場を示している。
3 本件贈与の課税要件である「住所」は、民法第 22
条「各人の生活の本拠をその者の住所」の概念を用いて
いる。民法上の住所とは、その者の生活の本拠、すなわ
ち実際に住み、生活の中心となっている土地の住所をそ
の者の住所としている。しかしこの規定のみでは、正確
な住所の認定をするにあたってあまりに抽象的であるか
ら、客観的、総合的に判断をして認定される。したがっ
て、住民票の住所がその者の住所に必ずしも成り得ず、
住民基本台帳はあくまでも判断材料の一つとされている。
また、この民法上の住所概念は、すべての法律を通じて
同一に解すべきではなく、それぞれの法律の制度趣旨に
従って解釈することも可能であり、またその制度によっ
ては複数の住所を見出すこともできる。
4 第一審の東京地判平成 19 年 5 月 23 日(訴月 55
巻 2 号 267 頁)は、Xの住所は香港にあるとしてXの主
張を認容したが、控訴審の東京高判平成 20 年 1 月 23 日
(訴月同 244 頁)は、第一審判決を破棄し、Xの主張を
棄却した。控訴審は、Xが赴任してから贈与を受けるま
での間の滞在日数・日本および香港における業務内容・
社会的地位・現地での生活状況・銀行等への届出の有無
等の事情から、Xは「贈与税回避を可能にする状況を整
えるために香港に出国したものであると認識し」ている
と判断した。さらに、
「本件期間を通じて国内での滞在日
数が多くなりすぎないように滞在日数を調整していたと
認められる」から、香港と日本での滞在日数とを「形式
的に比較してその多寡を主要な考慮要素として本件香港
居宅と本件杉並居宅のいずれが住所であるかを判断する
のは相当ではない」とし、どこが生活の本拠であるかは、
居住者の居住意思を総合して判断するのが相当であると
したのである。
5 それに対し本判決は、「一定の場所が住所に当た
るか否かは、客観的に生活の本拠たる実体を具備してい
るか否かによって決すべきものであり、主観的に贈与税
回避の目的があったとしても、客観的な生活の実体が消
滅するも宅に生活の本拠たる実体があることを否定する
理由とすることはできない」として、原審の採用した居
住意思という主観的要素を認定要素に加えて判断するこ
とを否定し、民法からの借用概念の解釈は民法と同意義
に解すべきであるとした。すなわち、贈与税における「住
所」の認定において、民法上の概念を借用していること
からその借用元の住所概念と同意義に解すべきであるこ
とに加え、客観的生活の実体の有無にかかわる判断にお
いて、居住者の「居住意思」という主観的要素は考慮し
ないということを明らかにしている。
本判決の意義は、第一に、借用概念における租税法上
の解釈のあり方、第二に、租税法独自の事実認定の要素
として、租税回避の意図を再構成することができるか否
かという租税法上の事実認定のあり方に、裁判所は明確
な判断を示したことにある。
6 本件贈与は、実質的にオランダ法人を介在させて、
国内財産たるT社の株式を、Aらがその子であるXに無
償で移転したという図式になる。具体的に見ても、香港
における業務内容にさほど重点が置かれていなかったこ
とや、Xの意識や責任感の中で国内の滞在に占める比重
は極めて大きく、仕事の面からすると相当部分が国内に
あったことが伺われる。このように本件贈与税回避スキ
ームを用い、オランダ法人を器とし、同スキームが成る
までに暫定的に住所を香港に移しておく、という人為的
な組み合わせを実施すれば課税されないというのは、国
内において一般的な法形式に基づき、親子間で贈与をし、
課税されるという場合との間に著しい不公平が生じる。
しかし、仮に租税回避の意図を取り込み、租税法に独
自の意義を付加するとすれば、個別租税法に明文の規定
によりその旨を定めることが要求される。そうでなけれ
ば、租税法律関係における予測可能性、法的安定性は担
保されない。よって本判決は、租税法律主義の観点から
はやむを得ない判決である。
●参考文献
○金子宏「租税法〔第 17 版〕
」
〔弘文堂,2012 年〕113
頁
○増田英敏「借用概念としての住所の認定と贈与税回避
の意図・武富士事件〈租税判例研究〉」ジュリスト 1454
号 1147 頁
○渕圭吾「贈与税における『住所』の認定」ジュリスト
臨時増刊 1440 号 215 頁
2
Ⅱ租税実体法
課税要件総論
2 従業員が関係業者から受領した
リベートの帰属
かとうさとし
加藤智
仙台地裁平成24年2月29日判決
(平成21年(行ウ)第33号:更正処分等取消請求事件)
(税務弘報61巻13号84頁)
事実の概要
X社(原告)は、主として旅館業を営む法人である。
X社の従業員である訴外Aは、平成8年10月1日に
Xに入社した後、平成12年3月21日付けで和食、洋
食及び中華料理部門の総責任者である調理部調理課長
(和食調理長兼務)に就任し、その後、平成14年1月
に調理部副支配人、平成15年5月21日に総料理長兼
調理部支配人を経て、平成17年9月21日には副総支
配人(料飲部・調理部所管、調理部支配人等兼務)、平成
18年9月21日には副総支配人(営業部、料飲部担当、
料飲部支配人、料飲課長等兼務)に就任するとともに、
調理部支配人の職を解かれ、その後、平成19年12月
20日付けでX社を退職した者である。X社の従業員で
ある訴外B(訴外Aと総称して「訴外Aら」という。
)は、
平成16年11月4日にX社に入社した後,平成17年
2月21日付けで訴外Aの後任として調理部和食調理課
長に,平成18年9月21日付けで同じく和食調理部支
配人(和食調理課長兼務)に就任し,平成19年8月2
1日付けで総料理長(和食調理長兼務)に就任した者で
ある。
Y(処分行政庁-被告)は、平成19年9月から12月
にかけて、X社の税務調査を行ったところ、訴外Aらが、
X社に食材を納入していた業者の代表取締役である訴外
Cから、いわゆるリベート(以下「本件手数料」という。)
を受領していることが発覚した。リベートの支払いは、
訴外Cが食材納入時にAからの指示に基づいて、いった
んはリベート分を上乗せした価格でⅩ社と取引を行い、
納入後にそのリベート分をAらにバックするという形が
とられていた。Yはこの事実に基づき、本件手数料に係
る収益はX社に帰属するものであることを前提として、
法人税の青色申告取消処分、法人税及び消費税の更正処
分並びに重加算税の賦課決定処分を行ったところ、原告
がその取消しを求めて出訴した。
本件の争点は、本件手数料に係る収益がⅩ社に帰属す
るか否かである。
判旨
請求認容。
「収益の帰属について、法人税法11条が、法律上収
益が帰属する者が単なる名義人であって、それ以外の者
が実質的に収益を享受する場合に、その者を収益の帰属
主体とする旨を定め、消費税法13条も同様の規定を設
けている趣旨(実質所得者課税の原則)に鑑みれば、本
3
件手数料に係る収益が原告に帰属するか否かの判断に当
たっては、本件手数料を受領した訴外Aらの法律上の地
位、権限について検討するとともに、訴外Aらを単なる
名義人として実質的には原告が本件手数料を受領してい
ると見ることができるか否かを検討することが相当であ
る。
」
「本件手数料は、原告における本件食材の仕入れに関
して授受されていたものであるところ、原告における本
件食材の仕入れに関しては入札制度が設けられているこ
とや、仕入課仕入係に発注権限が存在しており、調理課
に所属する訴外Aらには本件食材の発注権限がないこと
からすれば、訴外Aらが、本件食材の仕入れに関する決
定権限を原告から与えられていたとは認められない。こ
れらの事実に加え、原告においては、就業規則上もリベ
ートの受領が禁止されており、訴外Aらを含む従業員に
その旨周知されていたこと、訴外Aらは、訴外Cからリ
ベートを受領する際・・・あまり人目につかないような
場所で授受を行っていたことなどを併せ考えると、訴外
Aらが、本件食材の仕入れに関して授受されていた本件
手数料について、原告から法的な受領権限を与えられて
いたと認めることはできない。そうすると、訴外Aらは、
個人としての法的地位に基づき訴外Cから本件手数料を
自ら受け取ったものと認められるところ、自己の判断に
より、受領した本件手数料を費消していたというのであ
るから、訴外Aらが単なる名義人として本件手数料を受
領していたとは認め難い。したがって、本件手数料に係
る収益は原告に帰属するものとは認められない。」
「本件手数料に係る収益が原告に帰属するとは認めら
れず,原告が訴外Aらに対して損害賠償請求権を有しな
い結果,原告については,本件手数料相当額の益金等が
存在しないことになるから,本件各処分には取消事由と
なる違法があるというべきである。」
解説
1
所得(課税物件)の帰属(人的帰属)とは、課税
物件と納税義務者との結び付きのことであり、課税物件
が帰属した者が納税義務者となるのであるが、帰属が決
まらなければ納税義務者も確定せず、また、帰属を誤っ
た更正・決定処分等は違法とされ、取消又は無効となる
ことから、帰属の問題は非常に重要である。課税物件の
帰属の認定で特に問題となるのは、取引や契約の名義・
形式と実体・実質が異なる場合であるが、この点に関し、
法人税法11条等がいわゆる実質所得者課税の原則を規
定している。この規定の意義については、2 つの見解が
ありうる。1つは、その形式と実質とが相違している場
合には、実質に即して帰属を判定すべきであるという法
律的帰属説、もう 1 つは、経済上の帰属に即して課税物
件の帰属を判定すべきと解する経済的帰属説である。文
理的には、どちらの解釈も可能である。しかし経済的に
帰属を決定することは、納税者の立場からすると法的安
定性が害され、また行政の立場からは実際上多くの困難
を伴うという批判がありうる。したがって法律的帰属説
が妥当と解される。
2 所得の帰属が争点となった事例としては、次のよ
うなものがある。長野地裁昭和 58 年 12 月 22 日判決(税
資 134 号 581 頁)は、原告会社が行った工事の代金の一
部を専務取締役が架空の請求書や領収書を作成して受領
し、会社の売上から除外していた事件である。主な争点
は当該収入の帰属先が会社か専務個人かである。判決で
は、当該取引(工事)が会社の目的・業務内容に含まれ
ており、会社の通常の取引と同様のものであったこと、
専務個人は当該取引を行うことの許可等を得ておらず、
そうした取引を行ったことによる収入を税務申告したこ
ともないこと、工事に使用した重機は全て会社のもので
あったこと、取引先も工事の発注者は会社であると認識
していたこと等を総合勘案し、本件各取引は原告会社の
事業の一環としてなされたもので、その収入金も原告会
社に帰属すると判断せざるを得ないとされた。静岡地裁
昭和 44 年 11 月 28 日判決(税資 57 号 607 頁)は、原告
会社の監査役や取締役が簿外の車両を使用して得た運送
料収入を自らの個人名義の預金口座に入金していた事件
である。会社はそれらの収入は自らのものではないと主
張し争ったが、判決では、それら簿外車両の購入代金を
実質的に会社が負担していたと認められること、簿外車
両を他の車両と区分せずに同じ事業所内で事業に使用し
ており、それによる運送代金も区別されず一括で管理さ
れていたこと、会社名義の請求書や領収書が使用されて
いたこと等を理由に当該車両は会社に帰属するとし、そ
れらを使用した取引及びそれに基づく収入も会社に帰属
すると認定された。課税実務上、役員等の横領等が判明
した場合には、その横領等の利益は一旦法人に帰属した
との認定が行われることが多いと思われる。
3 それに対して、本件は法人に対する収入の帰属を
認めなかった。上記長野地裁昭和 58 年 12 月 22 日判決、
静岡地裁昭和 44 年 11 月 28 日判決を鑑みるに、従業員
が受領したリベートを法人が認知していない場合、その
収益が法人に帰属するか否かは、次の点が考慮されると
考えられる。1つめに、手数料等を受けた人間の法律上
の地位・権限である。訴外Aらには食材の発注権限がな
いことからすれば、食材を納入するにあたって、重要な
地位に属していたとはいえない。つまり訴外AらはX社
から与えられた地位と権限を利用してリベートを得てい
たわけではない。よってこれはX社に帰属するものでは
ないというべきである。逆をいえば、役員等の法人の重
要な権限を有している者が、当該権限を利用して不法行
為に及んだ場合には、当該行為は法人の行為と同視でき、
横領等の不法行為が発生した時に法人も認知していたと
評価できるだろう。2つめに、手数料等を受け取ってい
るのが実質的には法人であるか否かである。本件におい
ては、就業規則上もリベートの受領が禁止されており、
訴外Aらを含む従業員にその旨周知されていたこと、訴
外Aらは、訴外Cからリベートを受領する際あまり人目
につかないような場所で授受を行っていたことなどから
して、法人のX社が実質的にリベートを受け取っていた
とは到底考えることはできない。これらの観点を含め、
所得の帰属の認定は、多くの間接事実等の検討及びそれ
らの総合勘案によって行われるものである。類似の裁判
例等に基づき、役員等の横領等の場合の帰属の認定の際
に勘案すべき事項を具体的に挙げれば、次のような点が
あると考えられる。すなわち、その横領等の行為が会社
自身の取引と認められるか否かに関し、会社の目的・業
務内容等との整合性、公表取引との類似性、会社の資産
や証憑の使用の有無、不正行為の態様や回数・金額・組
織性の程度、不正行為に係る代表者等の指示・黙認の有
無、不正行為者の地位・権限・責任・経営参画の度合い、
取引先の認識、捻出資金の使途、行為者個人の税務申告
の有無等である。こうした点を個別の事例に即して十分
に検討した上で的確な帰属の認定がなされる必要がある
と考える。帰属の問題は法人の過少申告の有無及び重加
算税の賦課の適法性を検討する際の最初の前提となる重
要な論点であることから、横領等に基づく利益が法人に
帰属するか否かに関し、十分な検討及び的確な認定が行
われる必要がある。
4 さらに裁判所は、
「原告が訴外Aらに対して損害賠
償請求権を有しない結果、原告については、本件手数料
相当額の益金等が存在しない」と結論づけた。これは仮
に損害賠償請求権を有すると判断されれば、通常、リベ
ート分は横領等の行為に基づく法人の損失(損金)とし
て計上すべきこととなり、リベートが法人に帰属してい
たと結論づけられる。これに関して、本件の課税処分で
は、
「消極的損害」が問題とされた。
「消極的損害」とは、
損害賠償請求権の発生原因である不法行為による財産的
損害のうち、不法行為が無かったならば得られたであろ
う利益(逸失利益)の喪失をいう。すなわち、本来 X 社
が受け取るはずであったリベートを、A らが自ら費消し
て横領したということが本件課税処分の前提となってい
た。そうすると、本来 X 社が本件リベートを受け取るべ
きであったというためには、A らが本件リベートの受領
権限を X 社から与えられていなければならない。裁判で
は、この点に関する事実が検討された。そして、Aらに
仕入れに関する発注権限が無かったこと、Aらは無断で
リベートを受け取っていたことなどの事実から、X 社は
Aらに本件リベートの受領権限を与えていないと判断さ
れた。したがって、X社には逸失利益は無く、消極的損
害も無いので、損害賠償請求権も有しないとされた。
●参考文献
○金子宏『租税法の基本問題』179 頁(有斐閣、2007)
○金子宏『租税法(第 18 版)』165 頁(弘文堂、2013)
○出村仁志「法人に対する重加算税の賦課に関する考察」
嘉悦大学研究論集第 56 巻第 2 号通巻 104 号 40-43 頁
○木村聡子「従業員によるリベートの受領と収益の帰属
をめぐる問題」税理 55 巻 10 号 153 頁
○安井栄二「従業員が関係業者から受領したリベートに
係る収益の帰属」税務 QA(129)50-53 9 頁
4
Ⅱ租税実体法
所得税
3 破綻したゴルフ会員権の
取得費引き継ぎの可否
い し だ ゆう き
石田悠葵
東京高裁平成24年6 月27日判決
(平成24年(行コ)第43号:所得税更正処分取消等請求控訴事件)
事実の概要
原告は、昭和 61 年 10 月、ゴルフ場を経営する A 社に
対し、入会金 380 万円及び預託金 1520 万円の計 1900 万
円を支払って、ゴルフクラブの会員権(以下、本件ゴル
フ会員権)を取得し、預託金会員となった。その後、平
成 11 年 7 月に A 社との間で本件転換契約を締結して預
託金会員を株主会員に転換し、無額面株式 1 株(以下、
本件旧株式)を取得した。その際、A 社は本件旧株式の
価格 600 万円を上記預託金と相殺し、残額 920 万円を X
に払い戻した。
その後、A 社は業績が悪化し、平成 12 年 7 月、A 社は
会社更生法に基づく会社更生手続き開始の申し立てを行
い、東京地裁においてその決定を受けた。そして、平成
13 年 12 月、A 社について本件更生計画が認可された。
それによると、A 社の発行済み株式は全部無償で消却さ
れたが、株主会員の有する優先的施設利用権(以下、プ
レー権)はそのまま存続することになった。また、株式
会員に対して新株引受権に基づいて申し込み証拠金 28
万円を支払って、新たに無額面株式 1 株(以下、本件新
株式)を取得した。
平成 17 年 12 月、X は B 社に対し、本件新株式および
プレー権を一括して 125 万円で譲渡した(以下、本件譲
渡)
。翌年、原告は所轄税務署長に対し、本件譲渡の取得
費を A 社に支払った入会金および預託金の合計金額
1900 万円とする平成 17 年分の確定申告を行ったが、税
務調査を受けた結果、本件取得費を上記合計額 1900 万
円から返還を受けた預託金 920 万円を差し引いた 980 万
円とする修正申告を行った。これに対し、所轄税務署長
は X が本件更生手続き前に有していた本件ゴルフ会員権
は、更生手続き後に有していたゴルフ会員権や本件新株
式とは別個の資産であるとして、更生手続き後のゴルフ
会員権の取得費をその取得時の時価 130 万円、本件新株
式の取得費を払込金額 28 万円とする更正処分を行った。
X はこれを不服として平成 21 年 5 月、本件更正処分の取
り消しを求めた。
原審は、本件新プレー権及び年会費等納入義務を基本
的部分とする本件新株主会員については、X が本件転換
契約によって取得した本件旧株主会員中のプレー権及び
年会費等納入義務との間で資産としての同一性を有する
から、本件ゴルフ会員権の取得費については、380 万円
(ゴルフ会員になるために振り込んだ金額 1900 万円か
ら払い戻しを受けた預託金 920 万円及び本件転換契約に
基づき本件旧株式を取得するために相殺した預託金 600
万円を差し引いた金額)とするのが相当であるとして、
更生処分の一部を取り消した。これに対し、X 及び Y の
双方が控訴したのが本件である。
5
判旨
棄却。
「平成 13 年 12 月 6 日、本件会社(A 社)について本件
更生計画が認可され、本件会社の発行済み株式は本件旧
株式を含めて全部無償で消却され、株主会員の有するプ
レー権はそのまま存続され、会員に対して新株引受権を
付与することとされたので、第一審原告は、28 万円を支
払って、本件新株式を取得した。本件更生計画によって
存続したプレー権(新プレー権)は、本件ゴルフ会員権
で行使できたプレー権と権利関係において異なるところ
はないので、預託金会員のプレー権から株主会員のプレ
ー権に引き継がれたものがそのまま存続したものと解す
る。そして、本件更生計画においては、新プレー権は新
株式とは独立した権利として譲渡が可能とされたので、
本件ゴルフ会員権は新プレー権と年会費納入義務を包摂
したものとなり、その行為に新株式の保有は条件とされ
ないことになった。…以上によれば、第一審原告が譲渡
した本件ゴルフ会員権は、新プレー権と年会費等納入義
務を包摂したものであり、これは昭和 61 年 10 月 1 日に
預託金会員の一部として取得され、株主会員に引き継が
れ、本件ゴルフ会員権に至ったものというべきであるか
ら、本件ゴルフ会員権の取得費は、預託金会員の取得費
のうち、本件預託金 1520 万円を差し引いた 380 万円と
認めるのが相当である」。
譲渡所得に対する「課税は、資産が所有者の支配を離
れて他に移転するのを機会に、清算して課税する趣旨に
よるものであ」る。そして、
「ゴルフ会員権は、当事者の
合意によって分離することの可能な権利義務関係を包括
した契約上の地位であるため、①預託金会員制のもの②
プレー権のみのもの③株主会員制のものの間の形態の変
更は、契約当事者である会員が、契約上の地位であるゴ
ルフ会員権を維持したまま、ゴルフ場運営会社との間の
合意によって自由に行うことができるものであり、この
ような形態の変更ごとに増加益を譲渡所得として精算課
税すべきものと解することはできない」。
「本件についてみれば、預託金会員の一部として取得
されたプレー権と年会費納入義務を包摂した部分が旧株
主会員に引き継がれ、新株主会員として第一審原告から
他に移転したのは本件譲渡によってである。そして、預
託金会員のうち、上記部分を除いた部分は、本件譲渡以
前に既に消滅していたのである。…本件更生計画が消滅
させたのは、本件旧株式の部分であって、同計画が、そ
の余の部分を消滅させた事実も、第一審原告にゴルフ会
員権を時価相当額で取得させた事実もないのであるから、
第一審被告の上記主張は採用できない」。
解説
1 本件の争点は①本件更生手続きの前後で本件ゴル
フ会員権に同一性が存在するか、また②本件ゴルフ会員
権および本件新株式の譲渡に係る所得区分とその収入金
額および取得費の額である。本件控訴審においては、上
記争点①及び②のうち取得費の額の部分が争われた。
そもそも、本件において原告が B 社に譲渡した本件ゴ
ルフ会員権の内容が何であるかという問題がある。原告
は本件旧プレー権と本件旧株式は別個独立に存在し得る
ものであり、本件新プレー権は本件旧プレー権との同一
性有するが本件新株式を取得しなければ本件新プレー権
も取得できなかったと主張している。つまり、原告の主
張によれば、本件の取得費は本件旧プレー権と本件旧株
式の取得に係る部分ということになる。
しかし、本件において A 社は会社更生法の適用により
本件旧株式を無償消却しており、この段階において本件
旧株式を保有する株主はその地位を失うことになる。被
告(税務署長)は本件ゴルフ会員権が旧プレー権と本件
旧株式が一体となって形成されたものであり、本件旧株
式の無償消却によって旧プレー権も消却したと考えるべ
きであると主張している。したがって、被告の主張によ
れば、本件ゴルフ会員権の内容は本件新プレー権および
本件新株式であり、取得費もこれらに係る部分となる。
2 次に、株主会員制ゴルフ会員権の法的性質につい
て考える。東京地裁平成7年12月1日判決では、株主
会員制ゴルフ会員権の内容は「ゴルフ場施設の優先的利
用権、入会金払戻請求権等の権利及び入会金、年会費の
納入等の義務を包括するものであって、…権利義務の総
体たる契約関係上の地位とみることができる」と理解し
た上で、ゴルフ場経営会社の株式を取得して株主になっ
たとしても、それはゴルフ場の「会員たる資格を有する
ことになったにすぎず、入会するとは限らないことから
すると、株券は会員としての地位そのものを表象するも
のとはいえない」と述べ、この判決もゴルフ会員権の中
心がプレー権であることを明示し、株主権とは別物であ
ることを示している。
原判決では、東京地裁平成7年12月1日判決よりも
明確に「優先的施設利用権等と株主権は本来的に性質上
不可分なものではないし、合意によってその関係を切り
離すことも可能」であると述べ、特に本件更生手続にお
いてプレー権が基本的に存続するという内容が含められ
ていたため、ゴルフ会員権の法的性質、特に旧プレー権
と新プレー権との間には同一性が見られるとしており、
本判決も原判決の判断を支持している。さらに、本判決
は「本件転換契約が昭和 61 年に行われた入会手続に基
づく第一審原告の会員たる地位を継続した上、預託金会
員から株主会員への転換をしたものである」という事実
から、
「預託金会員時の本件ゴルフ会員権と株主会員時の
本件ゴルフ会員権との間にも、昭和 61 年に行われた入
会手続に基づく優先的施設利用権(プレー権)及び年会
費等納入義務が引き継がれているという点では同一性が
認められる」と原判決よりも踏み込んだ判断をしている。
この本判決の判断は、原判決において判断されなかった
部分を追加検討したものであるといえる。プレー権を中
心とする債権的契約関係が資産としての同一性の判断基
準となるのであれば、本件ゴルフ会員権は一貫して当該
プレー権を維持しており、資産の同一性があると判断さ
れるのは当然のことといえる。したがって、本判決の判
断は妥当なものであるといえる。
3 措置法37条10第1項前段は、居住者等の「株
式等」の譲渡による所得を他の所得と分離して課税する
旨を定めるが、同2項は「ゴルフ場その他の利用に関す
る権利に類するものとして政令で定める株式又は出資者
の持分」を「株式等」から除外する。これを受けて、措
置法施行令25条の8第2項は「措置法第37条の10
第2項に規定する政令で定める株式又は出資者の持分は、
ゴルフ場の所有又は経営に係る法人の株式又は出資を所
有することがそのゴルフ場を一般の利用者に比して有利
な条件で継続的に利用する権利を有する者となるための
要件とされている場合における当該株式又は出資者の持
分とする」と規定している。したがって、ゴルフ場の利
用権の譲渡に類似する株式等の譲渡による所得は申告分
離課税の対象とならず、総合課税の対象となり、所得税
法33条に規定される譲渡所得に該当する。
本件では前述のように A 社の本件旧株式が無償消却さ
れ、その時点において原告は一旦株主としての地位を失
っている。そのうえで原告が本件新株式を取得したので
あり、株主としての地位に同一性を認めることは困難で
ある。本件旧プレー権と本件新プレー権との間に同一性
が認められたことや新株式引受権を行使せず、プレー権
のみを有する会員も多かったこと等本件において認定さ
れた事実を鑑みるに、本件新株式を取得しなければ本件
新プレー権も取得できなかったとする原告の主張には無
理があるため、本件新株式が本件新プレー権の要件とさ
れているものとは言えない。
したがって、本件判決でも述べられているように、本
件新株式は措置法37条10第2項および措置法施行令
25条の8第2項にいう「株式」とは言えず、措置法3
7条の10第1項前段の適用を受け、総合課税の対象と
なると考えるべきである。
また、前述の経緯及び理由から本件判決は本件新株式
の取得費には本件旧株式に相当する取得費を含めること
は出来ないと判断し、本件ゴルフ会員権の取得費を入会
金相当額の 380 万円とした本判決は妥当なものである。
●参考文献
○岩崎宇多子 「会社更生法適用後のゴルフ会員権の譲
渡—更正手続前後の同一性と所得区分」税研 164 号 181
頁
○安田展章 「ゴルフ会員権の取得費に係る取り扱いの
変更」税理 55 巻 15 号 153 頁
○藤原眞由美「会社更生法適用前後におけるゴルフ会員
権の同一性の有無と会員の地位」税理 55 巻 9 号 138 頁
6
Ⅱ租税実体法
所得税
4 リゾートホテルの主たる所有目的の判断
いまいかすみ
仙台高裁平成13年4 月24日判決
(平成12年(行コ)第1号:課税処分取消請求事件)
(税資250号順号8884)
事実の概要
医者である X(原告・被控訴人)は、訴外 A ホテル会
社(以下「A」という)が分譲したリゾート地所在のコ
ンドミニアム型ホテルの一室(以下「本件物件」という)
を買い受け、これを A に賃貸した。X はこの賃貸によっ
て損失が生じたとして、平成 3 年ないし平成 5 年の確定
申告において、当該損失を所得税法(以下「法」という)
69 条 1 項に基づき、
他の所得の金額から控除(損益通算)
した。これに対し Y(税務署長—被告・控訴人)は、本
件物件は X が主として保養の目的(所得税法施行令(以
下「施行令」という)178 条 1 項 2 号)で所有するもの
で、
法 62 条 1 項に規定する「生活に通常必要でない資産」
にあたり、法 69 条 2 項の規定により損失は生じなかった
ものとみなされるとした。よって Y は、当該損失は損益
通算の対象とならないとして各更正処分等を行い、X が
これを不服として上記各処分の取り消しを求め本件訴訟
を提起した。
第一審(盛岡地裁平成 11 年 12 月 10 日)は、本件物
件が施行令 178 条 1 項 2 号の「主として趣味、娯楽又は
保養の用に供する目的で所有するもの」に該当するとい
うことはできないから、法 62 条 1 項の「生活に通常必要
でない資産」に該当しないとした。よって X に生じた当
該損失は法 69 条 1 項により損益通算の対象となるべきも
のであるとして本件更正処分等を取消した。これを不服
とし Y が控訴。
判旨
原判決取消し、X の請求棄却。
「同条項(所得税法施行令 178 条 1 項 2 号)は、この
ように家屋の所有者の『主たる所有目的』という主観的
要件を定めているが、個人の主観的な意思は外部からは
容易に知り難いものであるから、その認定に当たって、
客観的事実を軽視し、個人の主観的な意思を重視するこ
とは税負担の公平と租税の適正な賦課徴収を実現する上
で適当でないというべきである。のみならず、所得税法
69 条 2 項が生活に通常必要でない資産に係る所得の計算
上生じた損失について損益通算を認めていないのは、そ
の資産に係る支出ないし負担の経済的性質を理由とする
ものであるが、このような支出ないし負担の経済的性質
は、本来、個人の主観的な意思によらずに客観的に判定
されるべきものであることに鑑みれば、所有者の意思を
重視するのは相当でなく、所有者の職業、生活状況、所
有者の他の不動産の取得・利用状況、当該不動産の性質
7
今井佳澄
及び状況、所有者が当該不動産を取得するに至った経緯、
当該不動産より所有者が受け又は受けることができた利
益及び所有者の支出ないし負担の性質、内容、程度等の
諸般の事情を総合的に考慮して、客観的に所有者の主た
る所有目的を認定すべきである。」
「まず第一に、本件物件の立地条件、本件物件より受
けることのできた利益(…)や本件物件の利用実績から
すれば、X に保養の目的があったと認めざるを得ない。
…本件賃貸借契約における賃料は、客室の使用の対価と
は言い難く、むしろ、オーナーの管理費等の経費負担を
軽減する目的で、オーナーに支払われる利益に名目上『賃
料』の名を付したにすぎないものと認めるべきである。
…本件物件の賃料と本件物件の負担、特に管理費の関係
からすれば、本件ホテルの客室オーナーが、賃料収入に
より…利益が生み出されることを期待し、そのような利
益を目当てに当該客室を購入することは、考え難いこと
といわざるを得ない。」
「そうすると、本件物件に係る管理費その他の支出な
いし負担は、賃料収入に供される性質のものではなく、
所得獲得とは無縁の家事費的ないし余剰所得の処分的性
質のものと解するのが相当である。したがって、本件物
件の主たる所有目的は保養にあると解するべきであり、
…損益通算の対象とすべきではないこととする。」
「X は本件物件の取得と同じ平成元年にホテル D…、L
マンション、…駐車場用地をいずれも購入し、賃貸して
おり、本件物件もこれらと同様賃貸して賃料収入を得る
目的であった旨、また、それらの物件については損益通
算の対象となっているのに、本件物件について損益通算
の対象にならないのは不合理であると主張する。しかし
ながら、これらの 3 物件は…賃貸中 X において使用の余
地がなく、人的サービスを受けるなどの…特典はないし、
賃貸借の内容、その賃料の決め方や経費…も本件物件の
場合と異なり一般的なものであって、賃料の額も共益費、
管理費を上回るのであるから、本件物件とこれら 3 件の
相違は明らかであり、X の主張は採用できない。
」
「なお、X は、インフレによる預貯金の実質的価値の
目減りに対する懸念から、不動産を取得することを考え
るようになった、将来の値上がりの可能性や損益通算も
考えた旨供述…するが、上記の諸事実とも矛盾せず、こ
れらは X 夫婦の正直な思いであったものと思われる。そ
こで、将来の値上がり利益や節税目的(損益通算をする
目的)が主たる目的となるかを検討するに、近い将来確
実に転売して利益を得ることを目的としているという場
合(…)以外は、転売利益は将来転売した時点で現実化
する不確定的な収入ないし利益であるにすぎず、これが
本件物件に係る支出ないし負担の経済的性質を決定する
ものとはいえないから、本件物件の主たる所有目的を左
右するものではない(いわば、主たる所有目的に付随す
る目的にすぎないといえる。)。損益通算する目的につい
ても、
「生活に通常必要でない不動産」か否かを判断する
ためその資産の所有目的を客観的に認定しようとする際
に、その所有目的如何によって決せられる節税効果を得
ることを判断要素とすることは本末転倒というべきであ
って相当ではないから、節税効果に注目して取得したか
どうかという点は、X の本件物件の所有目的を認定する
際に考慮にいれることはできないというべきである。」
解説
1 本件では、X が本件物件を A に賃貸したことで生
じた損失が法 69 条に規定する損益通算の対象になるか
否かが問題とされた。
損益通算の対象について同条 1 項は、不動産所得の金
額の計算上生じた損失があるときは、これを他の所得の
金額から控除することを認めている。一方で 2 項では、
「生活に通常必要でない資産に係る所得の金額」の計算
上生じた損失は他の「生活に通常必要でない資産に係る
所得の金額」から控除するものとし、控除し切れないも
のはこれを「生じなかったものとみなす」としている。
そしてこの「生活に通常必要でない資産」について、施
行令 178 条 1 項 2 号は「通常自己及び自己と生計を一に
する親族が居住の用に供しない家屋で主として趣味、娯
楽又は保養の用に供する目的で所有するものその他主と
して趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する不動産」
と規定している。つまり、主たる所有目的が何であるか
によって損益通算の可否が異なってくるのである。本件
でも、本件物件が「主として保養の用に供する目的で所
有するもの」に該当するか否かが中心的な争点となった。
2 第一審判決では、Y が主たる所有目的が保養であ
るとするのが相当とした根拠となるべき事実、すなわち、
本件物件が保養地内にあること、本件物件には X に利用
上の特典があること、本件物件に収益性がないこと、X
の得る賃料収入が反対給付との経済的な対応関係に乏し
い偶発的なものであること等については、このことから
X が保養のために本件物件を取得したことにつながると
は言えないとした。むしろ、本件物件は A に賃貸するこ
とを前提として分譲されたものであること、X 自身の利
用実績が少ないこと、X は本件物件以外の不動産からも
賃料収入を得ており本件物件についてのみ他の場合と異
なる目的をもって購入したとの事情は窺われないこと等
の諸事情を併せ考慮し、X が本件物件を保有する主たる
目的が保養にあったと解することはできないと判示した。
一方で控訴審である本判決では、認定された事実に変
わりはなかったものの、利用実績がある以上保養の目的
を否定することは相当ではないこと、本件賃料算定方式
では賃料は本件物件を賃貸したことの対価とはいえない
こと、その実態からして利益を目当てに本件物件を購入
したとは考え難いことから、本件物件の主たる所有目的
は保養にあり、
「生活に通常必要でない資産」に該当する
ため損益通算の対象とはならないとした。
本判決は、X に保養の目的があったことは認めざるを
得ないが、だからといって主たる目的が保養であったと
即断することはできないとしている。そして本件物件や
賃料の性質、さらに賃貸による収益性の欠如を強調し、
主たる目的が保養であるという結論を導いている。しか
し客観的にみて本賃貸による利益が見込めず、実際に利
益を得られていなかったとしても、それらはいずれも「主
たる所有目的が賃貸による利益であった」ことの否定で
あり、これによって直ちに主たる所有目的が保養であっ
たとすることはできないのは明らかである。
また一方で、本判決は「将来の値上がりの可能性や損
益通算も考えた旨…は X 夫婦の正直な思いであった」こ
とを認定している。このことから、X が主張している投
資目的については否定できない客観的な事情があるとい
うことができる。だとすれば、本件物件の所有目的は投
資であると考えた方が自然であるし、少なくとも保養が
主たる目的であったということはできないであろう。
3 「生活に通常必要でない資産」の該当性を扱った
事例に大阪高裁平成 8 年 11 月 8 日判決(税資 221 号 315
頁)がある。これはカジノチップが「生活に通常必要で
ない資産」に当たるか否か、具体的には施行令 178 条 1
項 1 号の「射こう的行為の手段となる動産」に該当する
か否かが争われた。ここで問題となったチップはマカオ
の賭博場で賭博の用に供されるものであったが、賭博場
以外においても換金性を有し、現金の代わりとして通用
するものであった。
大阪高裁は、この事案の原告がチップをホテルの宿泊
料等を無料にする目的で購入したことを認めつつも、こ
れが通貨やそれに準ずるものとして通用していると認め
ることは困難であるとし、その性質を客観的に判断すれ
ば、本来の用法である賭博の点数取りのための札にとど
まるものであるとした。同時に、施行令 178 条 1 項 1 号
と 2 号との関係について次のように判示している。「令
178 条 1 項 2 号に規定された資産については、一定の目
的で所有するものに限ってこれを『生活に通常必要でな
い資産』に当たるものとしているが、これは、同号に定
められたような資産については、その客観的性質だけか
らは『生活に通常必要でない資産』であるかどうかを判
別することができないところから、一定の目的で所有す
る場合に限ってこれに当たるとしたものであると解する
ことができるのに対し、令 178 条 1 項 1 号の『射こう的
行為の手段となる動産』については、文理上なんらその
ような目的による限定はなく、また、動産自体の性質か
ら客観的に生活に通常必要でないものかどうかを判断す
ることが可能なのである…。」
。このように、2 号の規定
における文理上の限定を 1 号の規定と比較した上で明ら
かにしている。
本件においても、判旨冒頭にあるようにこのことには
触れられているものの、
「本来、個人の主観的な意思によ
らずに客観的に判定されるべきである」として結局は 1
号の規定と同じように客観的な性質に着目し結論を出し
ている。本判決にもあるように、本来課税要件を判断す
るにあたっては、主観を重視せず客観的に判定すべきな
のである。それを法があえて「所有の目的」という主観
的要件を規定しているにも関わらず、本来の目的に照ら
しこれを排除してしまうことは相当でないと考える。
●参考文献
○金井恵美子 税法学 566 号 179 頁(2011.11)
○堀口和哉 税務事例 33 巻 11 号 1 頁(2001.11)
○三木義一 ジュリスト 1254 号 262 頁(2003.10)
8
Ⅱ租税実体法
所得税
5 死亡共済金のみなし贈与該当性
いでしゅうと
大阪高裁平成26年6 月18日第12 民事部判決
(平成26年(行コ)第6号:所得税更正処分取消等請求控訴事件)
(雑誌未掲載、 裁判所ウェブサイト)
事実の概要
歯科医業を営む X は、社団法人 A(以下「A」という。
)
の会員であった X の父 B の死亡に伴い、A の事業の1つ
である共済制度に基づいて死亡共済金(以下「本件共済
金」という。
)を受領した。X は、本件共済金を所得金額
に含めずに確定申告書を提出したところ、本件共済金は
X の一時所得に該当するとして更正処分(以下「本件更
正処分」という。
)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以
下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と合わせ
て「本件更正処分等」という。)を受けた。そこで X は、
本件更正処分は、本件共済金をいわゆるみなし贈与財産
とせず、X の一時所得として所得税の課税対象とした違
法があり、また、仮に本件共済金が一時所得に該当する
としても、一時所得の金額の算定に当たって本件共済金
を得るために要した負担金の合計額を控除しなかった違
法があると主張して、税務署長 Y に対し、本件更正処分
の一部取り消しを求めるとともに、違法な本件更正処分
を前提として過少申告加算税を課した本件賦課決定処分
もまた違法であるとして、その取り消しを求め出訴。原
審では、X の請求をいずれも却下したので、X はこれを
不服として控訴した。
判旨
控訴棄却。
1.本件共済金の受領が相続税法 9 条に規定するいわ
ゆるみなし贈与に該当し、所得税法1項 15 号により非
課税所得となるか否か
(1)
「相続税法 9 条本文は、……対価を支払わないで
又は著しく低い価額の対価で利益を受けた者がいる場合
に、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当
する金額を、当該利益を受けさせた者から贈与又は遺贈
により取得したものとみなして、贈与税又は相続税を課
税することとした規定であるところ、その趣旨は、私法
上は贈与又は遺贈によって財産を取得したものとはいえ
ないが、そのような私人間の法律形式とは別に、実質的
にみて、贈与又は遺贈を受けたのと同様の経済的利益を
享受している事実がある場合に、租税回避行為を防止す
るため、税負担の公平の見地から、贈与契約又は遺贈の
有無にかかわらず、その取得した経済的利益を、当該利
益を受けさせた者からの贈与又は遺贈によって取得した
ものとみなして、贈与税又は相続税を課税することとし
たものと解され」、その趣旨に鑑みれば、「一方当事者の
9
井出脩斗
なんらかの財産が減少し、他方当事者について財産の増
加や債務の減少があったというだけでは、およそ贈与と
同じような経済的実質があるとは言い難いことは明らか
であって、同条にいう、
『対価を支払わないで……利益を
受けた場合』というためには、贈与と同様の経済的利益
の移転があったこと、すなわち、一方当事者が経済的利
益を失うことによって、他方当事者が何らかの対価を支
払わないで当該経済的利益を享受したことを要すると解
するのが相当である」。
(2)
「本件共済制度に基づく死亡共済金は会員の相互
扶助を目的とする各種共済金の1つであって、会員が A
に納付する負担金も死亡共済金に関して個別に支払うの
ではなく、その金額は全ての共済金の受給資格に関する
ものとして一定とされ、共済金の額も会員が支払った負
担金の額とは全く連動しない一定の額とされているので
あり、退会の際は原則として返還されないというのであ
るから、B が負担金に相当する経済的利益を失うことに
よって、死亡共済金の受給権者に指定された控訴人が何
らかの対価の支払なくして蒸気経済的利益を享受したも
のということはできず、B と X との間に贈与と同様の経
済的利益の移転があったとは認められない」。よって本件
共済金はみなし贈与財産に該当しない。
2.本件共済金が一時所得にあたる場合、その金額の
計算上、納付義務が免除されるまでの間 B が A に支払っ
た福祉共済負担金(以下「本件負担金」という。)を 控
除すべきか否か
「所得税法 34 条 2 項は、一時所得の金額についてそ
の年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得る
ために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、
又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額
に限る。)の合計額を控除し、その残額から一時所得の特
別控除額を控除したものとする旨を規定しているところ、
その趣旨は、一時所得に係る収入を得た個人の担税力に
応じた課税を図るため、一時所得に係る収入のうち、そ
の収入を得た個人の担税力を減殺させる支出にあたる部
分を一時所得の金額の計算上控除することにあることか
ら、
『収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じ
た原因の発生に伴い直接要した金額』とは、その収入に
直接対応する支出に限られ、その収入との個別的対応関
係が不明な支出は含まれないと解されるべきである」と
した上で、
「本件共済制度に基づく死亡共済金は会員の相
互扶助を目的とする共済金の1つであって、会員が A に
納付する負担金も、死亡共済金に関して個別に支払われ
るものではなく、会員が支払った負担金の額と死亡共済
金の額とは全く連動していないのであって、さらに、退
会すれば、返還も受けられないというのであるから、係
る負担金の納付は、死亡共済金との個別的対応関係が明
らかでなく、死亡共済金の受給に直接対応する支出では
ないといわざるを得ず、一時所得の金額の計算上、本件
負担金を控除することはできない」とした。
解説
1 みなし贈与財産とは、法律的には贈与により取得
したものではない財産であっても、実質的には贈与によ
り取得した場合と同様の経済的効果をもつものであり、
相続税法により課税の公平を図る観点から贈与により取
得したものとみなして贈与税の課税対象としている。相
続税法で規定されているみなし贈与の主なものには生命
保険金や、定額譲受、債務免除などがある。
次に一時所得とは、所得税における課税所得の区分の
一つであって、利子所得、配当所得、不動産所得、事業
所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外
の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた
所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲
渡の対価としての性質を有しないものをいう。
贈与税は基本的に贈与によって取得した金額から基礎控
除額(年間最高 110 万円)を差し引いた金額が課税対象
となっている。それに対し、一時所得は総収入金額から
その収入を得るために支出した金額と特別控除額(年間
最高 50 万円)を差し引いて算定され、一時所得の金額
の 1/2 に相当する金額が課税対象となっている。
2 まず、民法では、「贈与は、当事者の一方が自己
の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が
受諾をすることによって、その効力を生ずる。」と規定さ
れ(民法549条)、財産を与えるとは、贈与者の財産が
減じ、それによって受贈者の財産が増すことであるとさ
れている。(我妻栄『債権各論 中巻一(民法講義 V2)
』
(岩波書店、2012 年)223 頁)また、「遺贈とは遺言に
よって自らの財産を無償で他人に与えること」とされ(内
田貫 『民法Ⅳ〔補訂版〕』(東京大学出版会、2014 年)
482 頁)、この財産を与えるという点については贈与と同
様に考えられる。
本件では、本件共済金の受給に対する相続税法 9 条の
適用の有無が問題となっているが、相続税法 9 条では、
「対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利
益を受けた場合においては、当該利益を受けた時におい
て、当該利益を受けた者が、当該利益を受けた時におけ
る当該利益の価額に相当する金額を、当該利益を受けさ
せた者から贈与により取得したものとみなす。」と規定し、
その趣旨は、実質的にみて、贈与又は遺贈を受けたのと
同様の経済的利益を享受している事実がある場合に、租
税回避行為を防止するため、税負担の公平の見地から、
贈与契約又は遺贈の有無にかかわらず、その取得した経
済的利益を、当該利益を受けさせた者からの贈与又は遺
贈によって取得したものとみなして、贈与税又は相続税
を課税することとしたものである。」とされている。
(DHC コンメンタール相続税法1 1032 頁)
この点本判決では、相続税法 9 条にいう「『対価を支払
わないで、……利益を受けた場合というためには、贈与
と同世の経済的利益の移転があったこと、すなわち、一
方当事者が経済的利益を失うことによって、他方当事者
が何らかの対価を支払わないで当該経済的利益を享受し
たことを要すると解するのが相当である」旨判断してい
るが、相続税法上、贈与・遺贈の定義規定はなく、民法
上の規定を借用するものとすると、民法上贈与・遺贈と
いうためには、前述のとおり「贈与者の財産が減じ、そ
れによって受贈者の財産が増すこと」が必要であるとさ
れており、相続税法 9 条の「贈与又は遺贈により取得し
たものとみなす」ためにも、一方当事者が経済的利益を
失うことによって、他方当事者が、何らかの対価を支払
うことなく当該経済的利益を享受したことが必要である
と考えるべきである。
以上を本件についてあてはめると、会員が A に納付す
る負担金は、死亡共済金に関して個別に支払うのではな
く、その金額は全ての共済金(死亡共済金、火災共済金、
災害共済金及び障害共済金)の受給資格に関するもとし
て支払われ、かつその金額も定額とされている上、共済
金の額も会員が支払った負担金の額とは全く連動しない
一定の額とされ、退会の際には原則として変換されない
とされている等、一方当事者が経済的利益を失うことに
よって、他方当事者が当該経済的利益を享受したという
因果関係は認められない。
したがって本判決の判断は妥当であるといえる。
また、原判決及び本判決以前は、相続税法 9 条の趣旨
について、利益を受けさせた者の財産の減少と当該利益
との関係に着目すべきかどうかについては、必ずしも明
確ではなかった。これについて、原判決及び本判決は「当
該経済的利益を受けさせた者の財産の減少と、当該経済
的利益との間に、贈与と同視するに足る法的な因果関係
が存在する必要がある」と明確にした。この点に原判決
及び本判決の意義があるといえる。
●参考文献
○LEX/DB 文献番号25446847
(http://hawking2.agulin.aoyama.ac.jp:2157/lexbin/Sh
owSyoshi.aspx?sk=635863884342792396&pv=1&bb=2
5446847)12 月 22 日閲覧
○安井栄二 「社団法人による共済制度に基づく死亡共
済金のみなし贈与財産該当性」
(税務 Q&A 連載 税金
裁判の動向 2015 年 5 月号 40 頁)
○豊田孝二 「社団法人による共済制度に基づく死亡共
済金がみなし贈与財産として認められなかった事例」
(新・判例解説 Watch 租税法№133 2015 年 11 月 6
日)
10
Ⅱ租税実体法
所得税
6 養老保険契約に基づく満期保険金の
一時所得金額計算上の控除範囲
くにさだみく
最高裁判所第二小法廷平成24年1 月13日判決
(平成21年(行ヒ)第404号:所得税更正処分等取消請求事件)
(民集 第66巻1号1頁 )
事実の概要
原告 X らは、経営している法人を契約者として、養老
保険契約(被保険者が保険期間内に死亡した場合には死
亡保険が支払われ、保険期間満了まで生存していた場合
には満期保険金が支払われる生命保険契約をいう。)を
締結し、保険料を支払っていた。保険期間が満了したた
め、満期保険金の支払いを受けることになった X は、満
期保険金の金額を一時所得に係る総収入金額に算入した
上で、本件法人の支払った上記保険料の全額(以下、本
件保険料という)が一時所得の金額の計算上控除し得る
「その収入を得るために支出した金額」(所得税法 34
条 2 項)にあたるとして所得税(平成 13 年分から 15 年
分まで)の確定申告をした。税務署長 Y はこれに対し、
本件支払い保険料のうち、その 2 分の 1 に相当する法人
が負担した部分(残り 2 分の 1 は X が負担)は、上記「そ
の収入を得るために支出した金額」にあたらないとして、
更正処分(以下、本件更正処分)及び過少申告加算税賦
課決定処分(以下、本件賦課決定処分)を行ったため、
X らは上記各処分の取り消しを求めた。
原審は、X らの請求を全部認容し、本件各更正処分等を
取り消した。Y は原審の判断を不服として控訴したとこ
ろ、差戻前控訴審は、X らの請求は全て意味があるとし
て、控訴をいずれも棄却したため、Y が上告。
判旨
原判決を棄却する。
「原審は、所得税法 34 条 2 項の文言だけからは、同項
にいう「その収入を得るために支出した金額」として控
除できるのが所得者本人が負担した金額に限られるか否
かは明らかでなく、所得税法施行令 183 条 2 項 2 号本文
が保険料又は掛金の総額を控除できるものと定め、所得
税基本通達 34-4 が同号に規定する保険料又は掛金の額
も含まれるとしていることからすると、本件保険料経理
部分も「その収入を得るために支出した金額」に当たり、
一時所得の金額の計算上控除できるものとした。しかし
ながら、原審の上記判断は是認することができない。そ
の理由は以下のとおりである。」「所得税法は,23条
ないし35条において,所得をその源泉ないし性質によ
って10種類に分類し,それぞれについて所得金額の計
算方法を定めているところ,これらの計算方法は,個人
の収入のうちその者の担税力を増加させる利得に当たる
部分を所得とする趣旨に出たものと解される。一時所得
11
國定美公
についてその所得金額の計算方法を定めた同法34条2
項もまた,一時所得に係る収入を得た個人の担税力に応
じた課税を図る趣旨のものであり,同項が「その収入を
得るために支出した金額」を一時所得の金額の計算上控
除するとしたのは,一時所得に係る収入のうちこのよう
な支出額に相当する部分が上記個人の担税力を増加させ
るものではないことを考慮したものと解されるから,こ
こにいう「支出した金額」とは,一時所得に係る収入を
得た個人が自ら負担して支出したものといえる金額をい
うと解するのが上記の趣旨にかなうものである。また,
同項の「その収入を得るために支出した金額」という文
言も,収入を得る主体と支出をする主体が同一であるこ
とを前提としたものというべきである。
したがって,一時所得に係る支出が所得税法34条2
項にいう「その収入を得るために支出した金額」に該当
するためには,それが当該収入を得た個人において自ら
負担して支出したものといえる場合でなければならない
と解するのが相当である。
なお,所得税法施行令183条2項2号についても,
以上の理解と整合的に解釈されるべきものであり,同号
が一時所得の金額の計算において支出した金額に算入す
ると定める「保険料…の総額」とは,保険金の支払を受
けた者が自ら負担して支出したものといえる金額をいう
と解すべきであって,同号が,このようにいえない保険
料まで上記金額に算入し得る旨を定めたものということ
はできない。所得税法基本通達34-4も,以上の解釈
を妨げるものではない。…これを本件についてみるに,
本件支払保険料は,本件各契約の契約者である本件会社
等から生命保険会社に対して支払われたものであるが,
そのうち2分の1に相当する本件貸付金経理部分につい
ては,本件会社等において被上告人らに対する貸付金と
して経理処理がされる一方で,その余の本件保険料経理
部分については,本件会社等において保険料として損金
経理がされている。これらの経理処理は,本件各契約に
おいて,本件支払保険料のうち2分の1の部分が被上告
人らが支払を受けるべき満期保険金の原資となり,その
余の部分が本件会社等が支払を受けるべき死亡保険金の
原資となるとの前提でされたものと解され,被上告人ら
の経営する本件会社等においてこのような経理処理が現
にされていた以上,本件各契約においてこれと異なる原
資の割合が前提とされていたとは解し難い。そして,前
者の原資として支払われた部分については,被上告人ら
が本件会社等にこれに相当する額を返済すべきものとす
る趣旨で,被上告人らに対する貸付金として経理処理が
される一方で,後者の原資として支払われた部分につい
ては,その支払により当該部分に対応する利益である死
亡保険金につき本件会社等が支払を受ける関係にあった
から,保険料として損金経理がされたものと解される。
そうすると,前者の部分(本件貸付金経理部分)につい
ては,被上告人らが本件会社等からの貸付金を原資とし
て当該部分に相当する保険料を支払った場合と異なると
ころがなく,被上告人らにおいて当該部分に相当する保
険料を自ら負担して支出したものといえるのに対し,後
者の部分(本件保険料経理部分)についてはこのように
解すべき事情があるとはいえず,当該部分についてまで
被上告人らが保険料を自ら負担して支出したものとはい
えない。
解説
1 本事案は、1 審 2 審においては、本判決と異なる
判決がなされている。最大の争点となったのは、やはり
本件と同じく所得税法 34 条 2 項の文面と、所得税法施
行令 183 条 2 項 2 号、所得税基本通達 34-4 の文面の解
釈である。
所得税法 34 条 2 項の解釈については、2 審判決文では、
「生命保険契約等に基づき支払いを受ける満期保険金、
あるいは本件のような養老保険契約に基づき支払いを受
ける満期保険金の場合には、収入と必要経費との関係が
直接的ではないことからして、「その収入を得るために
支出した金額の合計額」と定義したところで、その文言
だけでは…その一時所得の金額の計算上控除される保険
料等は、その一時金を取得した者自身が負担したものに
限られるのか、それとも、その生命保険金等又は損害保
険金等の受給者以外の者が負担していたものも含まれる
のかについては、法文上必ずしも明らかではないという
しかないのである。」と判示しており、あくまで所得税
法 34 条 2 項の控除を受ける対象を限定する旨は、文面
から読み取ることは出来ないのだとしている(福岡高裁
平成 21 年 7 月 29 日判決・民集 66 巻 1 号 64 頁)。
また、所得税法施行令 183 条 2 項 2 号本文は、満期保
険金が一時所得に当たる場合、保険料又は掛金の「総額」
が控除できるものと定めている。これを受けた所得税基
本通達 34-4 では、所得税法施行令 183 条 2 項 2 号(生
命保険契約等に基づく一時金に係る一時所得金額の計算
上控除する保険料等)に規定する保険料又は掛金の総額
には、その一時金又は満期返戻金の支払いを受ける者以
外の者が負担した保険料又は掛金の額も含まれるとして
いることも指摘した。つまり、1 審 2 審判決においては、
所得税法 34 条 2 項が、控除を受ける対象を限定するよ
うな解釈ができないこと、所得税法施行令 183 条 2 項 2
号が、保険料又は掛金の「総額」を控除できると規定し
ていること、所得税基本通達 34-4 が、支払いを受けるも
の以外が負担した保険料又は掛金の額が含まれるとする
規定があることを根拠として判断がなされたと言える。
上記のように、1 審 2 審では、文言を素直に解釈する
という手法をとることで、Xらの主張が正当であるとし
ている。
2 一方で上告審は、文言はただ素直に解釈すれば良
いというわけでなく、そもそも所得税法の立法趣旨がな
にであるかに重点を置くことで、本来あるべき所得税法
34 条 2 項の解釈が導かれるのだとした。
所得税法が各所得につき定める所得金額の計算方法は、
個人の収入のうちその者の担税力を増加させる利得に当
たる部分を所得とする趣旨に出たものと解される。一時
所得についてその所得金額の計算方法を定めた同法 34
条 2 項が「その収入得るために支出した金額」を一時所
得の金額の計算上控除するとしたのは、一時所得に係る
収入を得た個人が自ら負担して支出したものといえる金
額をいうと解するのが上記の趣旨にかなうものである。
したがって、同項の「その収入を得るために支出した金
額」に該当するためには、それが当該収入を得た個人に
おいて自ら負担して支出したものといえる場合でなけれ
ばならないと解する。これは、控除対象に係る同項の規
定が「その収入を得るために支出された金額」ではなく、
「その収入を得るために支出した金額」となっているこ
とを踏まえているのだと考えられる(金子宏『租税法
16 版』(弘文堂 2011 年)108 頁)。
1審2審で、決め手となった規定の所得税法施行令1
83条2項2号、所得税基本通達 34-4 は、あくまで所
得税法の下位規範であり、これらの下位規範は本来ある
べき所得税法の解釈のもとで整合的に解釈されるべきも
のであるから、この法文を根拠に主張はできないと判断
している。1審2審の判決を破棄してまで、異なる判断
を下した上告審の判決は、所得税法の本来的の趣旨を明
らかにし、それをもとに解釈する同項34条2項の規定
が、何より優先されるべきだという見地に立ったものだ
と考えられる。
3 本件判決は、社会的に増えつつある法人を契約者
として締結する養老保険契約の保険料についての同項該
当性に係る具体的な判断をしたものであり、課税実務上
重要な意義を有すると思われる。
また、本判決はその後にも影響を与えているものとい
える。「本件のような類型の養老保険の保険金支払に係
る課税について若干の混乱が生じたことには、所得税法
施工令183条2項2号や所得税基本通達34-4の規
定振りがいささか分かりにくい面もあることが一因をな
しているようにも思われる。」(最高裁第二小法廷平成
24年1月13日判決・須藤正彦裁判官の補足意見) と
あるように、所得税法施行令と所得税基本通達の規定は、
納税義務者にとって分かりにくいのではないかという指
摘がなされた。また、この規定を利用した租税回避が行
われているという実態もあったことから、租税実務上の
観点から見ても改善が求められていた。
そこで、平成23年6月に所得税法施行令183条は
「生命保険契約等に基づく一時金に係る一時所得等の金
額の計算上、控除できる事業主が負担した保険料等は、
給与所得に係る収入金額に算入された金額に限る」とい
う内容に改正された。この改正を受け、所得税基本通達
34-4もまた、「生命保険契約に基づく一時金の支払い
を受ける者が自ら(負担して)支出した(ものと認めら
れる)保険料のみ控除できる」のだとする内容の規定に
改正された。この改正により、生命保険契約に基づく保
険金の税法上での取扱いおいて、本件のような法解釈、
またそれに準ずる規範をめぐる争いは、今後解消される
だろうと考えられる。
●参考文献
○判例タイムズ№1371 2012.7.15
○新日本法規 http//www.e-hoki.com/tax/taxlaw/7105.html
(2012 年 2 月 27 日号・№440)
12
Ⅱ租税実体法
所得税
7 学校法人分掌変更事件
こじまかずき
大阪地裁平成20年2 月29日判決
(平成17年(行ウ)第102号:納税告知処分等取消請求事件)
(判タ1268号164頁)
事実の概要
X(原告)は、理事長 C(以下「C」という。)の父、
E が昭和 10 年に開校した F 学校を淵源とする学校法人
であり、B 学院大学(以下「本件大学」という。)、B 学
院大学高等学校(以下「本件高校」という。)
、B 学院大
学中学校(以下「本件中学」という。)、B 学院 G 幼稚園
及び B 学院大学歯科衛生学院専門学校を設置、運営して
いた。
C は、大学卒業後の昭和 25 年 4 月、本件高校の数学
教諭として X に採用された。C は、昭和 26 年 3 月、X
の理事に就任し、さらに、昭和 29 年 7 月、父 E の後任
として X の理事長に就任し、その後、母 H が理事長を務
めていた昭和 32 年 3 月から昭和 36 年 11 月までの間を
除き、X の理事長の職にあった。
C は、昭和 30 年 3 月、本件高校の校長に就任し、平
成 12 年 4 月には、その設置に伴って本件中学の校長に
も就任し、その後、平成 14 年 3 月 31 日、定年により、
本件高校校長及び本件中学校長(併せて以下「本件校長」
という。
)の各職を退いた。
C は、平成 14 年 4 月 1 日、本件大学の学長(以下「本
件学長」という。)の職に就いた。
本件校長を退職し、本件学長に就任するに当たり、X
が C に対して本件高校の就業規則及び退職金規程に基づ
く退職金として 4802 万 1353 円(以下「本件金員」とい
う。
)を支払い、本件金員に係る所得を、所得税法 30 条
1 項にいう「退職所得」に該当するとして所得税を源泉
徴収し、これを国に納付したところ、A 税務署長より上
記所得は同法 28 条 1 項にいう「給与所得」に該当する
として、納税告知及び不納付加算税賦課決定(併せて、
以下「本件各処分」という。)を受けたことから、X が本
件各処分の各取消しを求めた。
判旨
請求認容(確定)。
「所得税法が、退職所得を「退職手当、一時恩給その
他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有
する給与」に係る所得をいうものとし、これについて所
得税の課税上他の給与所得と異なる優遇措置を講じてい
るのは、一般に、退職手当等の名義で退職を原因として
一時に支給される金員は、その内容において、退職者が
長期間特定の事業所等において勤務してきたことに対す
る報償及び同期間中の就労に対する対価の一部分の累積
としての性質をもつとともに、その機能において、受給
13
小島一輝
者の退職後の生活を保障し、多くの場合いわゆる老後の
生活の糧となるものであって、他の一般の給与所得と同
様に一律に累進税率による課税の対象とし、一時に高額
の所得税を課することとしたのでは、公正を欠き、かつ
社会政策的にも妥当でない結果を生ずることになること
から、このような結果を避ける趣旨に出たものと解され
る。そうとすれば、従業員の退職に際して退職手当又は
退職金その他種々の名称のもとに支給される金員が同法
30 条 1 項にいう「退職所得」に当たるかどうかについて
は、その名称にかかわりなく、退職所得の意義について
規定した前記同法 30 条 1 項の規定の文理及び退職所得
に対する優遇課税についての前記立法趣旨に照らし、こ
れを決するのが相当である。」
「ある金員が、同項にいう「退職手当、一時恩給その
他の退職により一時に受ける給与」に当たるというため
には、それが、
〔1〕退職すなわち勤務関係の終了という
事実によって初めて給付されること、
〔2〕従来の継続的
な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の
後払の性質を有すること、
〔3〕一時金として支払われる
こと、との要件を備えることが必要であり、また、同項
にいう「これらの性質を有する給与」に当たるというた
めには、それが、形式的には上記各要件のすべてを備え
ていなくても、実質的にみてこれらの要件の要求すると
ころに適合し、課税上、上記「退職により一時に受ける
給与」と同一に取り扱うことを相当とするものであるこ
とを必要とすると解すべきである(最高裁第二小法廷判
決昭和 58 年 9 月 9 日、同第三小法廷判決昭和 58 年 12
月 6 日)
。
」
「C の本件学長就任後の職務は、本件校長在職時の職
務に比べ、その量において相当軽減されたものであるだ
けでなく、勤務形態自体が異なるとともに、その内容、
性質においても、学校の代表者、最終責任者としての職
務という点では本質的な相違はないものの、具体的な職
務内容や自らのかかわり方については相当程度異なると
ころがあるというべきである。……C の本件学長就任時
の給与月額は、本件校長退職時に比べ、約 21 パーセン
ト減少しており、本件学長としての職務に対する給与は、
本件校長としての職務に対する給与に比べて、約 30 パ
ーセント減少した……勤務関係の異動は、社会通念に照
らし、単に同一法人内における担当業務の変更(単なる
職務分掌の変更)といった程度のものにとどまらず、こ
れにより、C の勤務関係は、その性質、内容、処遇等に
重大な変更があったといわなければならない。……C が
2 回の定年延長を経て 52 年間もの長期間にわたって本件
高校に教員として勤務し、本件校長の職を退いたときの
年齢が 74 歳と高齢であったこと、C が、今後、本件学
長を退職する際には、学長就任から退職までの期間のみ
が退職金算出の基礎とされ、本件高校における勤続期間
は加味されない予定であることなどをも併せかんがみれ
ば、C の本件学長就任後の勤務関係を、その本件校長在
職時の職務関係の単なる延長とみることはできない。」
「以上により、本件金員に係る所得は、所得税法 30
条 1 項にいう「退職所得」に該当するというべきである
から、これを所得税法 28 条 1 項にいう「給与所得」に
該当するとしてされた本件各処分は、いずれも、その余
の点について判断するまでもなく、違法である。」
解説
1 法令上、退職給与という条文の定義はないが、退
職所得に該当する退職手当等とは、
「退職手当、一時恩給
その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質
を有する給与」とされている(所法 30①)。ある金員が
退職金と言われるならば、それはあくまでも退職という
事実によって初めて支払われるものでなければならない。
退職というのは極端に言えば、退職したその瞬間から、
その法人に出社することもなければ、業務を行うことも
ないという状態である。しかしながら税法上の「退職」
とは、通説では、税法上の固有概念であり、私法上の雇
用契約(役員の場合は委任契約)の終了というよりは従
来の勤務関係からの離脱を意味すると解すべきとされて
いる。最高裁昭和 58 年 12 月 6 日判決(裁判集民事 140
号 589 頁)は、
「これらの性質を有する給与」の判断に
ついて、
「当該金員が定年延長又は退職年金制度の採用等
の合理的な理由による退職金支給制度の実質的改変によ
り精算の必要があって支給されるものであるとか,ある
いは、当該勤務関係の性質、内容、労働条件等において
重大な変動があって、形式的には継続している勤務関係
が実質的には単なる従前の勤務関係の延長とはみられな
いなどの特別の事実関係があることを要するものと解す
べき」と示し、形式的には退職と言えないものであって
も、実質的にみて「これらの性質を有する給与」に該当
する場合には退職所得に該当することとし、退職と同様
に取り扱う例外を認めている。その一態様が役員の分掌
変更の場合である。実務上においても、引き続き勤務す
る役員等に対して法人が支給する一時金について、それ
が役員の分掌変更等に伴い支給するもので当該役員が実
質的に退職したと同様の事情にあると認められる場合な
ど、一定の要件に該当するものは退職給与(退職所得)と
して取り扱うこととしている(法基通 9-2-32、所基通
30-2、30-2 の 2)。しかしながら、そもそも分掌変更
の場合は形式的には役員としての身分が継続している状
況にあるため、法人が退職金として支給した一時金は、
実質的な判断により損金算入の可否が決せられ、事実認
定の困難性もあって訴訟が絶えない。
2 本判決は、退職所得の意義について、最高裁第二
小法廷判決昭和 58 年 9 月 9 日、同第三小法廷判決昭和
58 年 12 月 6 日、を引用した上で、「〔1〕退職すなわち
勤務関係の終了という事実によって初めて給付されるこ
と、
〔2〕従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間
の労務の対価の一部の後払いの性質を有すること、〔3〕
一時金として支払われること」、
「
「これらの性質を有する
給与」に当たるというためには、それが、形式的には上
記各要件のすべてを備えていなくても、実質的にみてこ
れらの要件の要求するところに適合し、課税上、
「退職に
より一時に受ける給与」と同一に取り扱うことを相当と
するものであることを必要とすると解すべきである」と
の退職所得の要件を示したのち、事実認定について、
「前
記認定の本件金員の算定方法等からして、本件金員がC
の本件高校での勤続期間(52 年間)における勤務に対す
る報償ないしその間の労務の対価の一部の後払いとして
支払われたこと、本件金員が一時金として支払われたこ
とは、いずれも明らかであるから、本件金員は、
「退職手
当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」に
当たるための前記3要件のうち、
〔2〕
、
〔3〕の各要件を
満たすということができる。」とし、〔1〕の要件につい
て、校長からの退職及び学長への就任という勤務関係の
異動が、
「退職すなわち勤務関係の終了」に当たるかどう
かの検討が行われた。C の学校法人内での分掌変更が実
質的退職とみなされるかどうかが争点となった。
3 大阪地裁は、
〔1〕の要件について、C の校長から
の退職及び学長への就任という勤務関係の異動を同一の
学校法人の設置する内部組織として教育機関の代表者、
最終責任者の機関の異動にすぎないとみられなくはない、
としながらも、①C の学長就任後の職務は、量が相当軽
減され、勤務形態が異なり、内容、性質においても、最
終責任者の職務という点では本質的相違はないが、具体
的な職務内容やかかわり方について相当程度異なり、こ
れらの職務の量、内容、性質の変動は、給与面において
反映されている点からも明らかであり(C の学長就任後
の給与は、校長退職時に比べ、約 30 パーセント減少し
た)
、本件校長からの退職、本件学長への就任という勤務
関係の異動は、社会通念に照らし、単に同一法人内にお
ける担当業務の変更(単なる職務分掌の変更)といった
程度のものにとどまらず、その性質、内容、処遇等に重
大な変更があったといわなければならない。②原告は、
本件高校における教育に設立以来重点を置いており、規
模等に照らしても、本件高校が中心的な教育機関として
位置付けられており、C は 52 年間もの長期間本件高校
に教員として勤務し、74 歳と高齢であり、本件学長を退
職する際には、学長就任から退職までの期間のみが退職
金算出の基礎とされ、本件高校における勤続期間は加味
されない予定であること、などをも併せかんがみれば、
C の学長就任後の勤務関係を、本件校長在職時の職務関
係の単なる延長とみることはできない。とし、本件金員
については、本件校長を退職した前後において、同人の
理事長、園長としての勤務関係が継続していることなど
からして、
「退職手当、一時恩給その他の退職により一時
に受ける給与」該当性の要件のうちの〔1〕の要件を満
たすとまでいうのは困難であるとしても、実質的にみて、
上記要件の要求するところに適合し、少なくとも、課税
上、これと同一に取り扱うのが相当というべきであると
し、本件金員に係る所得は退職所得に該当すると判示し、
課税庁の主張を排斥した。
●参考文献
○小林磨寿美・税理 51 巻 11 号 149 頁
○週刊税務通信 3025 号 21 頁
○伊藤博之・旬刊速報税理 32 巻 24 号 30 頁
○三木義一「分掌変更退職金の可否」判例分析ファイル
○矢田公一「退職給与の支給に関する課税上の諸問題」
税務大学校論叢 (70), 1-71, 2011-06
14
Ⅱ租税実体法
所得税
8 経済的価値を喪失した株式の「資産」該当性
さいとう か ず き
東京地方裁判所平成27年3月12 日民事第2部判決
(平成25年(行ウ)第689号:所得税更正処分取消請求事件)
(掲載誌未登載により裁判所HP 参照)
事実の概要
平成22年9月に破綻した日本振興銀行株式会社(平
成24年9月10日の解散後の商号は日本振興清算株式
会社。以下「本件銀行」という。)の取締役兼代表執行役
であった原告 X は、平成22年10月20日に保有して
いた本件銀行の株式(以下「本件株式」という。)310
0株を1株1円(合計3100円)で E 税理士に譲渡し
た(以下、この譲渡を「本件株式譲渡」という。)。本件
株式の取得費は、1株当たり8万1462円(合計2億
5253万2200円)であった。
本件株式譲渡により原告 X は、株式等に係る譲渡所得
等の金額(未公開分)の計算上損失が生じたとして、同
年分の所得税の確定申告及び修正申告を行った。それに
対し中野税務署長(被告 Y)は、本件株式譲渡を株式等
に係る譲渡所得等の金額(未公開分)の計算の基礎に含
めることはできないとの見解に立って、平成24年1月
31日付けで更正処分(以下「本件更正処分」という。)
及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件賦課決定
処分」といい、本件更正処分と併せて、
「本件各処分」と
いう。
)を行った。そこで原告 X が、本件更正処分のう
ち修正申告額を超える部分及び本件賦課決定処分の取消
しを求めた事案。
本件における争点は、原告がE税理士に対して本件株
式3100株を譲渡した本件株式譲渡の時点において、
本件株式が、株式としての経済的価値を喪失しており、
所得税法33条1項の規定する譲渡所得の基因となる
「資産」に該当しないものであったか否かである。
判旨
請求棄却。
本件株式譲渡の時点における本件株式の「資産」該当性
について、所得税法33条1項の規定は「そもそも譲渡
所得に対する課税とは、資産の値上がりによりその資産
の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所
有者の支配を離れて他に移転する機会にこれを清算して
課税する趣旨のものであり、売買交換等によりその資産
の移転が対価の受入れを伴うときは、上記の増加益が対
価のうちに具体化されるので、これを課税の対象として
捉えたものと解される。」として、「同項の規定する譲渡
所得の基因となる「資産」には、一般にその経済的価値
が認められて取引の対象とされ、増加益が生じるような
全ての資産が含まれるが、その一方で、上記の増加益を
15
斎藤一輝
生じ得ないもの、すなわち、社会生活上もはや取引され
る可能性が全くないような無価値なものについては、同
項の規定する譲渡所得の基因となる「資産」には当たら
ないものと解するのが相当である。」とした。
「株式は、株式会社の社員である株主の地位を割合的
単位の形式にしたものであり、原則として自由に譲渡さ
れ、株主においては、利益配当請求権、残余財産分配請
求権等の自益権や株主総会における議決権等の共益権を
有することから、株式は、上記各権利を基礎として一般
に経済的価値が認められて取引の対象とされ、増加益を
生ずるような性質のものとして、所得税法33条1項の
規定する譲渡所得の基因となる「資産」に当たるものと
解される。」という見解を示した。その一方で本件株式に
ついては、
「株式の経済的価値が自益権及び共益権を基礎
とするものである以上、その譲渡の時点において、これ
らの権利が法的には消滅していなかったとしても、一般
的に自益権及び共益権を現実に行使し得る余地を失って
いた場合には、後にこれらの権利を現実に行使し得るよ
うになる蓋然性があるなどの特段の事情が認められない
限り、自益権や共益権を基礎とする株式としての経済的
価値を喪失し、もはや、増加益を生ずるような性質を有
する譲渡所得の基因となる「資産」には該当しないもの
と解するのが相当である。」と判断した。
さらに、
「本件株式譲渡の前後を通じて極めて多額の債
務超過状態に陥っており、剰余金の配当や残余財産の分
配を行う余地はなかったことからすると、本件銀行の株
主は、本件株式譲渡の時点において、もはや、利益配当
請求権、残余財産分配請求権等の自益権を現実に行使し
得る余地はなく、
・・・後に自益権を現実に行使し得るよ
うになる蓋然性もなかったというべきである。」として、
「本件株式が本件株式譲渡の時点で株式としての経済的
価値を有するか否かの判断は、自益権及び共益権の有無
を基準として客観的事実に基づいて判断されるべきもの
であり、本件株式譲渡の当事者であるE税理士や原告の
主観的意図によって判断されるべきものではない。
・・・
本件株式は、本件株式譲渡に先立って金融整理管財人に
よる管理を命ずる処分がされた段階で、一般的に自益権
及び共益権を現実に行使し得る余地を失っており、かつ、
その後に自益権及び共益権を現実に行使し得るようにな
る蓋然性も認められなかったのであるから、原告とE税
理士の間で、本件株式を1株1円で譲渡され、現にその
代金が支払われていたとしても、つまり、株式の譲渡と
しては全く有効にされていたとしても、客観的に見て、
本件株式が譲渡所得の基因となる「資産」に該当するも
のであったと認めることはできない。」としている。
解説
1 所得税法33条1項では、譲渡所得とは資産の譲
渡による所得をいうと定められている。しかしながら、
ここでいうところの「資産」については、税法上特定の
定義が置かれていない。社会通念上「資産」とは、個人
又は法人の所有する金銭・土地・建物などの財産を包括
的に示しており、税法上も「資産」を広く解釈している。
実際には、棚卸資産・準棚卸資産・山林は譲渡所得に
含まないということを、所得税法33条2項が例外規定
として定めていることから、反対解釈するとその他あら
ゆるものを「資産」として譲渡した際に得る所得を譲渡
所得として解釈することができると考えられる。つまり、
土地や建物、船舶、車両、器具、備品等の具体的な物の
みに限らず、借地借家権や漁業権、特許権等の権利など、
経済的価値があって取引の対象となるものすべてが「資
産」に含まれることになる。
総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額を計算す
る場合において、譲渡所得の金額の計算上生じた損失の
金額があるときは、政令で定める順序により、これを他
の各種所得の金額から控除することができるとされてい
る(所得税法 69 条 1 項)
。これは個人又は法人に、土地
や建物といった「資産」を譲渡して長期譲渡所得又は短
期譲渡所得の金額の計算上譲渡損失の金額が生じた場合
には、その損失の金額を他の資産の譲渡所得の金額から
控除できるということである。よって、株式が「資産」
であるならば、株式の譲渡によって生じた譲渡所得に取
得費との計算上、損失が生じた際には控除が適用される
はずである。
2 本件では、本件譲渡時に経済的価値を喪失した本
件株式が「資産」に該当するかが争われた。
原告の主張の主旨は、所得税法33条1項の規定する
譲渡所得の基因となる「資産」に該当するか否かの判断
において、株式が同法において「資産」であると解釈さ
れている以上、譲渡の対象となった株式の経済的価値が
譲渡時に喪失していたか否かは、株式の消却といった客
観的かつ明確な基準をもって画一的に判断されるべきで
あり、曖昧な基準ないし事情によってこれを判断するこ
とは租税法律主義に反するというものであった。
一方で被告は、譲渡所得の本質がキャピタル・ゲイン、
すなわち所有資産の価値の増加益であることから、増加
益を生じ得ないもの、すなわち、社会生活上もはや取引
される可能性が全くないような無価値なものは、所得税
法33条1項の規定する譲渡所得の基因となる「資産」
には当たらないと解釈している。さらに株式については、
自益権及び共益権を基礎として一般的に経済的価値が認
められて取引の対象とされ、増加益(又は減少損)を生
ずるような性質を有するものであるため、一般的に自益
権や共益権を現実に行使し得る余地を失った株式は、そ
の後に同社が再建される蓋然性があるなど特段の事情が
認められない限り、株式の消却なしに経済的価値の喪失
を認めることができると主張した。
3 本件において、原告 X は経済的価値を喪失した本
件株式を譲渡したが、譲渡することなく保有し続けるな
いし破棄した場合、その損失は税法上どうなるかを考え
てみよう。
譲渡所得の本質は、キャピタル・ゲイン、すなわち所
有資産の価値の増加益であり、譲渡所得課税は、贈与、
相続又は遺贈による資産の移転があった場合には、その
時における価額に相当する金額により譲渡があったもの
とみなして譲渡所得が課税される(所得税法 59 条1項)
。
本件株式譲渡による譲渡所得と株式の取得費との関係上、
本件株式に価値の増加はなかったと言えるが、そのこと
が法律上確定するのは資産の譲渡があった時ということ
になる。つまり、本件のような場合、譲渡において本件
株式を具体的な所得として実現しなければ、確定申告に
おいてキャピタル・ロスを譲渡所得の総額から控除する
ことができなかったのである。
4 両者の主張によると、
「資産」に該当するかを判断
するための経済的価値について解釈に相違があることが
わかる。
原告が主張する通り、我が国の税法が租税法律主義を
取っていることから、経済的価値というものが客観的か
つ明確な基準を基に画一的に判断されることが望ましい。
このことを考えると、株式の消却というのは明らかに客
観性を持って認識することが可能であるため、経済的価
値の喪失を判断する基準とするという方法には相当性が
あると言えなくもない。
また、被告は社会生活上もはや取引される可能性が全
くないような無価値なものは経済的価値がないというが、
あるものに価値があるか否かということは、個人の主観
によって判断されるものでもあることを否めることはで
きず、取引される可能性が全くないということを客観性
のみを持って判断することが可能であるかというには疑
問が残る。しかしながら、そもそも株式というのはその
性質上、自益権・共益権を基礎に成り立っているもので
あるとも言える。更に、これらの権利の有無は客観的に
認識することが可能であり、株式の経済的価値の有無の
判断基準になり得るとも考えられる。
5 一般に、経済的価値がないものは譲渡の対象にな
り得ず、通常の経済取引では買い手が現れないはずで、
破綻後の同株式を 1 株 1 円とはいえ、税理士 E が取得す
るということは異常なことである。原告が譲渡所得の損
益通算のためだけに、税理士 E に譲渡契約の外形を作る
事務的な処理を委任し実行したとすれば、正式に譲渡契
約がなされたと認めることができるか自体疑問である。
●参考文献
○与良秀雄「譲渡所得の範囲と課税の仕組み」
税経通信 54 巻 2 号 70~73 頁
○北澤達夫「譲渡所得の基因となる資産の範囲」
月刊税務事例 39 巻 10 号 12~16 頁
16
Ⅱ租税実体法
所得税
9 所得税の事務管理成立要件該当性
すずきじゅな
鈴木樹菜
最高裁平成22年1 月19日第三小法廷判決
(平成21年(受)第96号:不当利得返還請求事件)
(民集233号1頁、判時2070号51頁、判タ1317号114頁)
事実の概要
上告人Xと被告人Yは兄弟であり、母親の死亡を原因
として相続した不動産(以下、本件不動産)につき未だ遺
産分割が成立していなかったため、共有持分2分の1の
割合で共有している。Y は本件不動産を第三者に賃貸す
るなどして管理し、平成元年1月から同18年12月ま
での間に合計7091万1700円の賃料収入(以下、本
件賃料収入)を得た。Yは平成元年分から同18年分の所
得税の確定申告において、本件賃料収入をYの不動産所
得にかかる収入金額として申告をした。
そこでⅩは、本件賃料収入の2分の1に当たる354
5万5850円分は、本件不動産の共有者である X に帰
属するべきものであったとして、Yに対して不当利得に
基づく返還を請求した。これに対しYが本件不動産にか
かる固定資産税、修繕費等、相続税を支払い、さらに確
定申告に際して、本件賃料収入について所得税及び市県
民税を余計に支払ったことなどが事務管理に当たるとし
て、事務管理に基づく費用償還請求を主張して争ったの
が本件である。
共有者の1人が、共有不動産から生じる賃料を全額自
己の収入として所得税・市県民税の額を過大に申告し、
これを納付した場合に、他の共有者の事務を処理したと
して事務管理が成立するかが争点となる。
第一審・名古屋地判平成20・2.10(未公刊)は、
所得税および市県民税の事務管理の成立および費用償還
請求による相殺を否定し、Yの納付した本件不動産にか
かる固定資産税、修繕費等、相続税のうちⅩが負担すべ
き額の合計2151万2291円のみを相殺した残額1
394万3559円についてⅩの請求を容認した。一方
で原審・名古屋地判平成20・10・9(未公刊)では、
Yが過大に支払うこととなった所得税および市県民税合
計230万7800円についても事務管理費が成立する
として、費用償還請求権による相殺を認めてⅩの請求を
1163万5759円の限度で容認したので、これに対
してⅩが上告した。
判旨
破棄自判。
「所得税は、個人の収入金額から必要経費及び所定の控
除額を控除して算出される所得金額を課税標準として、
個人の所得に対して課される税であり、納税義務者は当
該個人である。本来他人に帰属すべき収入を自己の収入
として所得金額を計算したため税額を過大に申告した場
17
合であっても、それにより当該他人が過大に申告された
分の所得税の納税義務を負うわけではなく、申告をした
者が申告に係る所得税を全額納付したとしても、これに
よって当該他人が本来負うべき納税義務が消滅するもの
ではない。
共有者の1人が共有不動産から生ずる賃料を全額自
己の収入として不動産所得の金額を計算し、納付すべき
所得税の額を過大に申告してこれを納付したとしても、
課題に納付した分を含め、所得税の申告納付は自己の事
務であるから、他人のために事務を管理したとういこと
はできず、事務管理は成立しないと解すべきである。こ
のことは、市県民税についても同じである。」
解説
1 事務管理の成立要件には、義務なく他人のために
事務の管理を始めた者は、その事務の性質に従い、最も
本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理を
しなければならず(民法697条1項)、事務管理の継続
が本人の意思に反し、又は本人に不利であることが明ら
かでないとき(同法700条ただし書き類推)であること
が求められる。すなわち、(1)他人のための事務処理が、
(2)法的な義務なくして行われ、(3)本人の意思及び利益
に反することが明らかでないときであり、本判決ではこ
のうち(1)の要件が問題となっている。
先例に、共有者が共有地に造林をするためにその地上
に存在する入会権を買収することを決議して、その代金
やその土地に関する諸般の費用を現住共有者全員で平等
に負担することとしたうえで、当該共有地の租税・買収
代金等の諸費用を共有者の1人が支払ったため、他の共
有者に対してその費用の償還を求めた事案がある。数人
の者が同順位で割合的に義務を負う場合、その義務に関
する事務は共同の事務であり、そのうち 1 名がそれを処
理したときは、自己の事務処理であると同時に、自己の
負担部分を超える限度では他人の事務処理でもあること
になるとした (大判大8・6・26民録25輯1154
頁)。この判示からすれば、本来Ⅹも賃料収入を受け取り、
それに対して課される所得税および市県民税を納めるべ
きであるのに、Yが本件賃料収入にかかる所得税全額を
納めていることは、自己の負担部分を超えてXの負担部
分においても事務処理を行っていることになる。これよ
り、(1)の他人の事務処理であるという要件に該当し、
事務管理が成立するとしたのが原審判決である。固定資
産、修繕費用、相続税についても、同様に(1)の要件に
該当するため、事務管理は成立する。
2 固定資産税は、固定資産に対し、当該固定資産所
在の市町村において課する(地方税法342条)租税であ
って、固定資産の所有者に課される(同法343条)ため、
各共有者がそれぞれの持ち分について固定資産税の納付
義務を負う。固定資産税の徴税の際には、便宜上名義人
に課税されることとなるが、共有者の1人が自身の単独
所有登記がされている不動産について固定資産税を支払
っていても、本来は、他の共有者がその持分に相応する
固定資産税を支払わなければならないのであるから、不
当利得に基づく返還請求ができることとなる。本判決で
も、本件不動産にかかる固定資産税の支払いについては、
1審、原審共に不当利得返還請求の金額からの相殺を認
めており、その点は上告審で争われていない。
3 これに対して所得税は、個人の収入金額から必要
経費その他一定の控除をした後の所得に対して課される
税であり、納税義務者は当該個人である。本来他人に帰
属すべき賃料収入を自己の収入として不動産取得の金額
を計算し、納付すべき所得税の額を過大に申告してこれ
を納付したとしても、当該他人が増額部分にかかる増税
金額について納税義務を負担するものである。本件にお
いて、Yが納付した所得税が過大であったとしても、そ
れはあくまで「自己の事務」に過ぎず、
「他人の事務」と
はなり得ないのである。市県民税についても同様に「他
人の義務」とはなり得ない。
共有者の1人が他の共有者が納付すべき固定資産税を
納付することは、共有者らが資産を取得または保有して
いる場合の担税力に着目した資産課税であって、固定資
産の評価価額に対して納税義務が課される。その結果と
して、当該他人が持分に応じて負担すべき納付義務を免
れるという結果をもたらすため、他人の事務に該当する
ということになる。一方で、所得税では、納税義務者の
所得に応じて納付額が定められるから、自身の所得とし
て所得税を納付しても、それによって他の共有者が直ち
に所得税をその分だけ免れるということにはならない。
原審は「Yは、Ⅹと共有するY管理不動産の賃貸に係
る全部について収入を得て、経費を負担し、これに伴う
所得税の全部の支払いをしたところ、この不動産所得の
うちにⅩの取得分が2分の1含まれているというべきで
ある以上、この不動産所得に伴う所得税のうちにⅩの負
担分が含まれているというべきである。この不動産取得
に伴う所得税は上記の不動産取得を得るための費用とい
うより、上記の不動産取得を得た後の負担というべきで
あるが、このような負担も共有者がそれぞれ負うべきも
のである」として、事務管理の成立を認めている。ある
いは、修繕費や固定資産税のような共有物の管理にかか
る経費の延長に所得税の納付関係も位置付けたようにも
映るが、所得税の納付関係が経費とは基本的に異なる以
上、同様に扱うことはできない。本判決の判旨は、正当
と思われる。
4 本判決では、
「本来他人に帰属すべき収入を自己の
収入として所得金額を計算したため税額を過大に申告し
た場合であっても、それにより当該他人が過大に申告さ
れた分の所得税の納税義務を負うわけではなく、申告を
した者が申告に係る所得税を全額納付したとしても、こ
れによって当該他人が本来負うべき納税義務が消滅する
ものではない。」と示したのみであり、Yが過大に納付し
た税額を取り戻せるか否かまでは明記されていない。
過大に納付した税額について国から還付を受けるには、
更正の請求の方法が認められている。更正の請求とは、
過大に申告してしまった税額を減額する場合に、税務署
長に減額更正をうながす間接的な請求権として納税者に
認められている制度である。本件当時の国税通則法では、
納税者は、自己の申告税額が過大であることに気づいた
ときには、法定申告期限から1年以内に限り、税務署長
に対し税額等を減額すべき旨の更正の請求をすることが
できるとされていた。これによると、Yの過大に納付し
た税額は平成元年から同18年にかかるものであり、法
定申告期限から1年を超えるものであるため更正の請求
が認められない。しかし、国税通則法は、後発的理由に
よる更正の請求として、判決等によって当初の申告や、
更正・決定が前提とした課税標準および税額計算の基礎
となったものとは異なる事実が確定した場合等には、そ
の確定した日の翌日から起算して2月以内に更正の請求
ができることとしている(国税通則法23条2項)ので、
Yの過大に納付した税額は1年を超えるものであるが、
Yが本判決後2月以内に税務署長に更正の請求をすれば、
平成元年から同18年にかかる過大に納付した税額つい
て国から還付を受けることができるので、救済の余地が
あるといえる。一方Yは、納税義務が確定していないも
のの、抽象的納税義務が成立しているのは当然であり、
税務当局から課税処分を受ける可能性もあるだろう。
本件は後発的理由による更正の請求であるため関係は
ないが、従来の国税通則法では、法定申告期限から1年
以内しか更正の請求が認められず、それを過ぎると税務
署長への嘆願によらざるを得ないということが長年にわ
たり問題とされていた。そこで平成23年の国税通則法
の改正により、現在ではこの期間が1年から5年に延長
されている(国税通則法23条1項)。
5 本判決は、所得税が個人の所得に対して課される
税であることからすれば当然の事理を述べたとも考えら
れるが、第一審判決から控訴審判決、本件上告審判決を
通してみるならば、不当利得返還請求権と事務管理によ
る費用償還請求権との関係をどのように解するかという
点はもとより、事務管理そのものについても改めて考え
させられる。また、本来他人に帰属すべき収入を自己の
収入として所得税の額を過大に申告しこれを納付したな
どとして事務管理の成立が主張される例は訴訟上ままみ
られるところであり、最高裁が明確に事務管理の成立を
否定する判断を示したものとして、裁判実務上参考にな
ると思われる。
●参考文献
○吉永一行 「所得税の課題申告と事務管理の成否」法
学セミナー55巻9号120頁
○北居功 「共有者の一人による共有地収益の所得税等
納付と他の共有者に対する事務管理の成否」私法判例リ
マークス42巻26~29頁
○西理 「共有者の一人が共有不動産から生ずる賃料を
全額自己の収入として所得税の額を過大に申告しこれを
納付した場合における事務管理の成否」判例評論621
号(判例時報2087)117~181頁
○三木義一 『よくわかる税法入門』第9版 ゆうひか
く選書
18
Ⅱ租税実体法
所得税
10 アスベスト除去工事費用及びアスベスト分析
検査試験費に係る雑損控除該当性
そ ん ゆ か
孫悠伽
大阪地方裁判所平成 23 年 5 月 27 日判決
(総合裁判例集[行政] 平成 21(行ウ)134)
事実の概要
本件は、原告が、兵庫県西宮市所在の自宅建物(以下
「本件建物」という。)の取壊しに伴い支払ったアスベス
ト除去工事費用及びアスベスト分析検査試験費(以下、
併せて「本件除去費用等」という。)を、所得税法72条
の雑損控除の対象として、平成18年分所得税の確定申
告(以下「本件確定申告」という。)をしたのに対し、東
税務署長が、本件除去費用等は雑損控除の対象とはなら
ないとして原告の平成18年分所得税の更正処分(以下
「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決
定処分(以下、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」
という。)を行ったため、原告が本件更正処分等(ただし、
本件更正処分については申告額を超える部分)の各取消
しを求めた事案である。
であって人の行為ではなく人為性を有するものではない
し、また、アスベストを含む建築部材は一般に広く用い
られていたのであり(弁論の全趣旨)、社会通念上通常な
い異常な災害といえるようなものでもない。」
以上のとおり、
「本件建物にアスベストが含まれていた
こと(本件建物の建築施工業者が本件建築部材を使用し
て本件建物を建築したこと及び本件建物の建築後アスベ
スト(石綿等)に関する規制が行われたこと)が、所得
税法施行令9条にいう「人為による異常な災害」に該当
するということはできず、本件における原告の損失が「人
為による異常な災害」により生じたものということがで
きない以上、雑損控除の適用に関する原告の主張は採用
することができない。」
以上により、
「本件除去費用等が所得税法72条の雑損
控除の対象とはならない旨の東税務署長の判断は正当で
あり、その他本件更正処分等を違法とすべき点も見当た
らないから、本件更正処分等はいずれも適法である。」
判旨
解説
請求棄却。
裁判所は、
「人為による異常な災害により損失が生じた
というためには、少なくとも納税者の意思に基づかない
ことが客観的に明らかに納税者の関与しない外部的要因
(他人の行為)による、社会通念上通常ないことを原因
として損失が発生したことが必要である」、とした上で、
「建築施工業者がアスベストが含まれた建築部材(以下、
本件建築部材)を使用して本件建物を建築したこと(そ
の結果本件建物にアスベストが含まれていたこと)は、
建築請負契約又は原告の包括的委託(承諾)に基づくも
のであって、原告の意思に基づかないことが客観的に明
らかな、原告の関与しない外部的要因を原因とするもの
ということはできない。」
「本件建物が建築された当時、アスベストを含む建築
部材の使用は法的に何ら問題はなかったのであるから、
予測及び回避の可能性、被害の規模及び程度、突発性偶
発性(劇的な経過)の有無などを詳細に検討するまでも
なく、建築施工業者が本件建築部材を使用して本件建物
を建築したことが社会通念上通常ないということはでき
ず、上記原因に異常性を認めることもできない。」
「原告は、
「本件建物にアスベストが含まれていたこと」
が災害である旨主張するが、
「本件建物にアスベストが含
まれていたこと」は原告の損失を構成する結果の一部で
あって原因ではなく、これを前提に原因としての人為に
よる異常な災害の該当性を判断することはできない。仮
に「本件建物にアスベストが含まれていたこと」が原告
の損失の原因であると考えれば、上記原因は単なる現象
19
1 本件において、争点となるのは雑損控除の適用さ
れる「災害」の範囲である。
雑損控除は一般に、災害、盗難、横領等による異常な損
失や一定の金額を超える雑損失は納税者の担税力を減少
させるため、所得控除を認める趣旨であると解されてい
る。しかしながら、本件のように、納税者の資産に雑損
失があれば常に認められるというものではなく、その対
象が限定されているため、その範囲について解釈が争わ
れる。
従来の裁判例では、
「課税行政の明確性公平性の観点か
らみて、所得税法72条は限定的に解釈されるべき」と
し、拡大解釈は許されないとの見解が示されてきた。こ
うした解釈は、担税直の減少に直接結びつかない損失を
排除することで、当該制度に一定の歯止めをかけている
と認識できる。
しかしながら、こうした現状は雑損控除制度の趣旨を
合理的に判断しないまま、一般的、抽象的な解釈態度に
よって結論を導くことは、縮小ないし厳格解釈に繋がっ
ているのではないだろうか。本来、雑損控除制度は担税
力の低下した納税者のための税務行政庁の裁量の余地の
ない救済策として創設されているが、果たして創設趣旨
通りに機能しているといえるだろうか。
2 雑損控除が対象とする損失の発生原因は、所得税法
72条が「災害又は盗難若しくは横領」と限定している。
損失控除規定に「言うところの損失とは、その損失を生
じた者の意思に基かないところの災害による損失のみを
意味し、その損失を生じた者の意思の介在する場合の損
失は、これを含まないものであると解するのが、右規定
において、法の使用した用語に照らし、相当である」と
する下級審判決(長崎池判昭和 23 年 12 月 18 日 12 号
2158 頁)があったが、のちに最高裁(最判昭和 36 年 10
月 13 日民集 15 巻 2332 頁)が「雑損とは、納税者の意
思に基かない、いわば災難による損失を指す。」と判事し
たことにより、納税者の意思を介在する支出は雑損控除
の適用を認めないことが判例上の解釈態度となっている。
しかし、
「納税者の意思」という定義について、納税者
の意思に基づき行った行為が、その後に災害となった場
合でも納税者の意思による損失といえるのだろうか。本
件建物が建築された当時、アスベストを含む建築部材の
使用は法的に何ら問題なかったため、アスベストを含有
する建材の使用を拒否したといった特段の事情もうかが
われないことから、原告の合意の下、建築工事において
本件建築部材を使用することは、包括的に建築施行業者
の選択に委ねられていたといえる。本判決において、雑
損控除が適用されるには、
「納税者の意思に基かない損失」
であるという従来からの解釈態度がとられている。
裁判例において、「人為による異常な災害」とは、「社
会通念上通常予見し得る単なる不法行為によって発生し
た損害ではなく、予見及び回避不可能で、かつその発生
が劇的な経過を経て発生した損害であることを要するも
のであると解される」という判決例(昭和 54 年 9 月 4
日裁決・裁決事例集 19 巻 54 頁)がある。つまり、「異
常な災害」となる要件として、①予見・回避不可能であ
ったことと、②劇的な経過を経て発生した損害であるこ
と、この双方を満さなければならないということになる。
本件において、アスベストが健康被害リスクがあると明
らかになることを原告が予見するのは、一般人であれば
難しかったといえる。
3 耐震強度偽装事件とは、一級建築士がソフトウェ
アの計算結果を改竄し、構造計算書を作成したことで、
建築基準法に定められた耐震基準を満たさないマンショ
ンや施設が建築されていたことが明らかになった事件で
ある。
それに伴い、耐震偽造が行われたマンションの入居者に
は退去による転居費用等の損失が発生しており、当該損
失が雑損控除の対象となると認められた(日本経済新聞
平成 17 年 12 月 27 日朝刊 35 面)。
本件との類似点として、納税者がマンションの購入と
いう意思を持っていたものの、耐震強度の基準を満たし
ていないマンションを購入する意思は明らかになかった
という点で、本件建物の建築施工業者が後に規制をされ
るほど危険性のある建築部材を使用する意思がなく、ま
た原告も危険性のある建築部材が使用された建築に合意
する意思がなく、耐震強度偽装事件と本件双方において、
予見・回避不可能であったことが挙げられる。
しかし、建築物そのものの違法性については、本件と
は差異があり、裁判所も「そもそも、耐震強度偽装事件
は、建築士が違法に耐震強度を偽装したことが原因とな
って建物所有者に損害が生じた」が原因としている。雑
損控除が適用される「人為による異常な災害」に該当す
るかについて、違法であったか否かは異常性を判断する
上では一要素と考えられる。
しかしながら、
「その損失を生じた者の意思に基かない
ところの災害」という面において、本件においての損失
は原告は建物の建材について、施工業者に一任しており、
明らかに外部的要因によりもたらされたものであり、一
般人である原告には予見・回避不可能であったといえる。
したがって、本件除去費用等は雑損所得の対象となる
損失、かつ「人為による異常な災害」に含まれ、雑損控
除が適用されるべきである。雑損控除制度は担税力の低
下した納税者のための税務行政庁の裁量の余地のない救
済策として創設されており、課税行政の公平性という観
点からみれば、尚更本件は雑損控除の対象となるべきで
ある。
●参考文献
○シャウプ税制からみた現代税制の諸問題
平石京子
東京税経新人会
特集 第 45 回佐渡全国研究集会 分科会テキスト
第 2 分科会
○雑損控除の適用される「人為による異常な災害」 : ア
スベスト除去費用の該当性
三須 友晶
龍谷大学大学院法学研究 17, 43-55, 2015-06-20
○<論考> 所得税法の雑損控除の問題点--米国税制と比
較して-- (情報社会学部特集号)
増山 裕一
大阪経大論集 64(5), 83-110, 2014-01-15
機関リポジトリ
20
Ⅱ租税実体法
所得税
11 寄付金をめぐる法人と個人の公平
つ ぼ い ま り な
坪井満里奈
最高裁平成5 年2 月18日第一小法廷判決
(平成4年(行ツ)第127号:所得税更正処分取消請求事件)
(判時1451号106頁、判タ812 号168頁)
事実の概要
X1及び X2(原告・控訴人・上告人)は、地方公共団
体である A 村に対して、X1が 8000 万円を、X2が 4000
万円をそれぞれ寄付した。そして、X1らはその年分の所
得税について、右全額を寄付金控除の額とする確定申告
をした。
ところが、Y(世田谷税務署長―被告・被控訴人・被
上告人)は、寄付金控除の限度額を定めた所得税法 78
条 1 項、2 項 1 号の規定に従い、寄付金控除額を減額す
る更正及び過少申告加算税賦課決定をした。
これに対して、原告 X1 は国税不服審判所長に対し審査
請求をしたが、右請求は棄却され、また原告 X2は Y に
対し異議の申立てをしたが、その申立ては棄却され、更
に、原告 X2 は国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、
右請求も棄却された。そのため X1 らは、それぞれの更正
及び過少申告加算税賦課決定の取り消しを求めて、本訴
を提起した。
X1 らは、国または地方公共団体について寄付金控除の
限度額を定めている所得税法 78 条の規定は、法定限度額
を設けていない法人税法 37 条の規定と対比すると、法人
と個人を著しく差別するものであって、憲法 14 条に違反
し、また合理性を欠くものである点において、憲法 84
条に違反し、その限度で無効であるから、本件寄付金は
全額が控除されるべきであると主張した。
第1審・東京地判平成 3・2・26(判タ 757 号 138 頁)は、
「租税は、国家の財政需要を充足するという本来の機能
に加え、所得の再分配、資源の適正配分、景気の調節等
の諸機能をも有しており、租税法規の立法においては、
財政、経済、社会政策等の国政全般からの総合的な政策
判断を必要とするばかりでなく、極めて専門技術的な判
断をも必要とすることが明らかである。したがって、具
体的な租税法規の立法については、これを、国家財政、
社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確
な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断にゆ
だねるほかなく、裁判所は、基本的には、その裁量的判
断を尊重せざるを得ないものというべきである。そうす
ると、国又は地方公共団体に対する寄付について、寄付
の主体が個人である場合と法人である場合とで税法上異
なった取扱いをすることを定めた所得税法七八条と法人
税法三七条との関係についても、そのような異なった取
扱いをする立法に正当な理由がある場合には、その区別
の態様が右の立法理由との関連で著しく不合理なもので
あることが明らかであるといった特段の事情が認められ
る場合でない限り、その合理性を否定することはできず、
これを憲法一四条等の規定に違反するものということは
21
できないものというべきである。」として、X1 らの請求
を棄却し、原審・東京高判平成 4・3・30(判タ 803 号 74
頁)も、X1 らの控訴を棄却したため上告。
判旨
上告棄却。
「個人の支出する国又は地方公共団体に対する寄付金
の額の所得控除について限度額を設けている所得税法
78 条 1 項、2 項 1 号の規定が、法人の支出する国又は地
方公共団体に対する寄付金について原則としてその全額
を損金に算入することができるものとしている法人税法
37 条 3 項 1 号の規定との対比において憲法 14 条 1 項、
84 条に違反するものでないことは、最高裁昭和 55 年(行
ツ)第 15 号同 60 年 3 月 27 日大法廷判決・民集 39 巻 2
号 247 頁の趣旨に徴して明らかである。これと同旨の原
審の判断は正当として是認することができ、原判決に所
論の違憲はない。」
解説
1 寄附金控除とは、国や地方公共団体、社会福祉法
人、一定の認定NPO法人など特定の団体に支出した寄
付金や特定の政治献金がある場合に、所得控除あるいは
税額控除を受けることができる制度である。
所得税法 78 条によれば、居住者が国又は地方公共団体
に対する寄付金等の同法 78 条 2 項に掲げる特定寄付金を
支出した場合において、その年中に支出した特定寄付金
の額の合計額(これがその者のその年分総所得金額、退職
所得金額及び山林所得金額の合計額の 100 分の 25 に相
当する金額を超える場合においては、その 100 分の 25
に相当する金額)が、1 万円を超えるときは、その超える
金額をその者のその年分の総所得金額、退職所得金額又
は山林所得金額から控除されるものとされる。
一方、法人税法 37 条によれば、内国法人が、各事業年
度において寄付金を支出した場合において、その寄付金
の額につきその確定した決算において利益又は余剰金の
処分による経理をしたときは、その経理した金額はその
事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない
ものとされている。損金として経理したときであっても、
支出した寄付金の額が政令で定める損金算入限度額を超
える部分の金額は損金の額に算入されないものとされて
いるが、国又は地方公共団体に対する寄付金等同条3項
項各号に定める寄附金の合計額は、右の損金として経理
されても所得の経常損金の額に算入されない寄付金の額
に算入しないものとされている。つまり、国又は地方公
共団体に対する寄付金等同項各号に定める寄附金は、利
益処分による経理をされない限り、その全額を損金に算
入することとしているのである。
したがって、同一の性質を有する寄付金について、そ
の主体が個人と法人の場合で、税法上異なった取り扱い
がなされており、本件の争点は専ら、法人税法 37 条との
対比において、所得税法 78 条が憲法 14 条の平等原則又
は憲法 84 条の租税法律主義に違反するか否かである。
2 本判決では、給与所得の計算につき必要経費の実
額控除を認めない所得税法 9 条 1 項 5 号の憲法 14 条違
反が争われた所謂サラリーマン税金訴訟上告審判決 (大
判昭 60・3・27 民集 39 巻 2 号 247 頁、判タ 553 号 84 頁、
以下「60 年判決」という。) が引用されている。
租税分野における憲法 14 条 1 項適合性の基準について、
60 年最判は、「租税法の分野における所得の性質の違い
等を理由とする取り扱いの区別は、その立法目的が正当
なものであり、かつ、当該立法において具体的に採用さ
れた区別の態様が右目的との関連で著しく不合理である
ことが明らかでない限り、その合理性を否定することが
できず、これを憲法 14 条 1 項の規定に違反するものとい
うことはできない」としている。
この審査基準が、本件の場合のような「寄付の主体の
違いに基づく取扱いの区別の合理性」を判断する基準と
して踏襲されるべきか否かについては、60 年最判が右審
査基準を導く根拠として説示する租税法規の特質が、も
とより所得税 78 条にも等しく妥当することや、60 年最
判の場合も給与所得者と事業所得者という所得獲得主体
ないし方法の違いが所得の性質の差として認識されてお
り、本件と同様であること等から、これを肯定すべきと
言えるだろう。
これに対して、そもそも所得税法と法人税法における
寄附金控除の取扱いに係る公平をどのように考えるべき
かという論点については、批判的な見解も存在している。
すなわち、法人と個人とを、経済的に同一レベルとみて
課税において公平に取り扱わなければならないとする根
拠はなく、本件においては、個人と法人の背後に存在す
る個人との間の公平を論ずるのであればともかく、そう
ではなく、法人をあたかも人間のごとく捉えてその法人
の取扱いとある個人の税制上の取扱いの不公平を考える
必要はないという見解がある。しかし、法人税も広義の
所得税であり、個人所得と絶対的に経済的に同一レベル
とみる余地はないと断定することもできず、国又は地方
公共団体に対する寄付金という同一の性質を有する金員
につき、その主体によって租税法上区別した取り扱いを
していることは明らかであるから、やはり前述の審査基
準による判断が求められるだろう。
3 本件の 1、2 審判決は、①本件寄付金は、個人の
所得の任意処分としてされるものであるから、税法上こ
れを課税所得から控除する根拠は乏しいこと、②所得税
法が累進税課税を採っていることから、一部の高額所得
者に有利な制度となりうる恐れがあること、③個人の寄
付のその支出団体に対する影響力は、法人のそれよりも
大きくなり、種々の弊害が予想されること、④所得税法
78 条の定める寄付金控除の割合は、諸外国の制度と比較
しても相当の水準であること、⑤個人の行なう寄付は、
支出をするか否か、金額をいくらにするかの決定につい
て、法人の場合のような内在的制約が働かない事などの
諸事情を区別取り扱いの合理性を証明する根拠としてい
る。
①ないし③及び⑤は、立法の目的の相当性を、④は、
手段の合理性をそれぞれ裏付けていることは明らかであ
り、本判決は正当と言えよう。
また、X らは、他に所得税法 78 条は合理性を欠く点
において、憲法 84 条にも違反する趣旨を主張したが、
結局右違反の有無は、立法の合理性の問題に解消される
と考えられる。
4 本判決は、法人税法 37 条との対比において、所
得税法 78 条が憲法 14 条及び憲法 84 条に違反しないこ
とを明らかにした初めての判例である。すなわち国又は
地方公共団体に対する寄付金について、その主体が個人
であるか法人であるかによって、取り扱いを異にする税
法上の扱いが違憲でないと初めて判示した点において重
要な意義をもつ判例と言える。更に 60 年最判の射程内に
ある問題として、その審査基準を適用した事例としても
注目に値するだろう。
●参考文献
○小磯武男「国又は地方公共団体に対する個人の寄付金
に関する所得控除について限度額を定める所得税法七八
条一項、二項一号の規定と憲法一四条一項、八四条」
(判
タ 852 号 280 頁)
○長屋文裕「所得税法七八条と憲法一四条一項、八四条」
(判タ 790 号 260 頁)
○酒井克彦「私たちの社会参画と税制-寄付金控除制度
の役割-」(税大ジャーナル 20 2013.1)
22
Ⅱ租税実体法
所得税
12 賃貸人への明渡によって取得した
立退料に係る所得区分
東京高裁平成26年2 月12日判決
(平成25年(行コ)第70号:所得税更正処分取消等請求控訴事件)
事実の概要
弁護士である X(原告・控訴人)が、平成 18 年分ない
し平成 20 年分の所得税について、その法律事務所のため
に賃借していた建物の部分を賃貸人に明け渡したことに
伴って賃貸人から取得したいわゆる立退料(以下「本件
金員」とする)に係る所得を一時所得に区分した内容の
確定申告書をそれぞれ提出した。それに対し Y 税務署長
は、当該所得の一部は事業所得に区分される等として、
各更正処分等(以下「本件各更正処分」とする)を X に
受け渡した。そこで X は原審である東京地方裁判所に対
して、本件金員は、弁護士という職業と全く関係なく、
偶然に、且つ一時的に生じた所得であり、対価を得て継
続的に行う事業から生じた所得ではないから事業所得に
は該当せず、一時所得にあたるとして主張し、本件各更
正処分の取消しを求めた。
第一審(東京地判平 25・1・25 平成 23 年(行ウ)第
736 号)では X の請求をいずれも棄却した。本件は、原
審を不服として X が控訴したものである。
判旨
控訴棄却。
施行令 94 条1項の解釈について裁判所は「居住者の営
む事業に係る行為ないし活動は、当該事業のいわゆる本
体を成すもののほかにも多様な業務を含むところ、それ
らのうち当該事業に係る事務所等の維持及び管理の業務
については…『事業所得…を生ずべき業務』に含まれ、
それについて生じた費用は、当該事業所得に係る必要経
費に該当するものと解すべきである。」
「
〔1〕ここにいう『収益』については、事業又は事業
所から生ずるそれの帰属の判断について定める所得税法
12 条及び 158 条の規定に照らし、また、当該判断を前提
に『事業…から生ずる所得』である事業所得の金額の計
算について既に述べたように定める同法 27 条 2 項の規定
も踏まえると、当該事業の遂行により生ずべき所得一般
をいい、当該所得の金額を算定するために償却費に係る
ものを含めた同法等の規定による各種の金額を計算する
前の費用を含むものと解するのが相当であり、
〔2〕
『当該
事業の全部又は一部の休止、転換又は廃止その他の事由』
については、前記〔1〕のような収益の意義や同行の規定
との対比等に照らせば、そこに例示されたもののほか、
それにより当該事業に係る必要経費の金額の増加を生ず
るような事由を含むものと解され、当該事業に係る事務
所等の移転も、それにより当該事務所等の維持及び管理
の業務の内容に変更が生じ当該事業に係る必要経費の金
23
とうぼうまや
東方真椰
額の増加を生ずるのであれば、上記の事由に該当すると
解されるのが相当である。そして、〔3〕当該金銭等につ
いて、その授受に係る合意等において当該事由により増
加する必要経費の金額を補填する趣旨のもととされてい
るような場合には、…当該金銭等は当該『事由により当
該事業の収益としての補償として取得する』ものに含ま
れるといえ、〔4〕一般に当該業務の遂行により生ずべき
当該事業所得に係る必要経費はそれに係る収入金額によ
って賄われることが想定されていることを踏まえると、
当該金銭等が上記〔3〕に述べた合意等の趣旨に沿って取
得されたときは、当該所得に係る金銭等は当該事業の遂
行により生ずべき当該事業所得に係る『収入金額に代わ
る性質を有するもの』に該当するということができるも
のと解するのが相当である。その上で、〔5〕所得税法施
行令 94 条 1 項 2 号は、当該居住者が取得する金銭等が
以上のような各要件を満たすものである限り、その名目
が『補償金』とはされていなくても、その性質が『それ
に類するもの』であれば、それを事業所得に係る収入金
額とするとしたものというべきである」と判断した。
また、本件金員のうち賃料等差額補填分について裁判
所は「控訴人の事業を営んでいくために使用する新事務
所の維持及び管理の業務は、当該事業の本体を成す業務
の遂行との関連性が強く、所得税法 94 条 1 項柱書の『事
業所得…を生ずべき業務』に含まれ、新事務所の賃料等
は、新事務所の維持及び管理について生じた費用であり、
事業所得の収入を生み出すこととの対応関係は明確であ
るから、全額、当該事業所得に係る必要経費に該当する
ものと解される。控訴人は、新事務所に移転することに
より、賃料等が旧事務所より増加したものであり、賃料
等差額補填分は、新事務所への法律事務所の移転によっ
て増加する控訴人の事業所得に係る必要経費の金額を補
填する趣旨のものとしてその授受の合意がされ、控訴人
においてその趣旨に沿ってこれが取得されたと認めるの
が相当であり、所得税法 94 条 1 項 2 号の規定により、
事業所得に係る収入金額とされるものというべきである」
と判断した。新事務所開設費用補填分については「新事
務所の家具代、…音響機器等は、新事務所において事業
を開設するに当たって必要となるものであり、…事業所
得の収入を生み出すことの対応関係は明確であるから、
全額、当該事業所得に係る必要経費に該当するものと解
される。したがって、控訴人は、新事務所を開設するこ
とにより、開設費用を負担したものであり、その費用分
は、新事務所のために要する控訴人の事業所得に係る必
要経費の金額を補填する趣旨のものとしてその授受の合
意がされ、控訴人においてその趣旨に沿ってこれが取得
されたと認めるのが相当であり、所得税法施行令 94 条 1
項 2 号の規定により事業所得に係る収入金額とされるも
のというべきである」とした。また本件退去費用補填分
については「控訴人は、旧事務所で事業を継続していく
ことに何の支障もなかったのであり、…旧事務所を退去
することが必要であったということはできない。本件退
去費用は、特定の事業収入と対応しているわけではなく
…控訴人の事業所得の必要経費になるとはいえない。し
たがって本件退去費用補填分の金員の受領は事業所得の
総収入金額に含まれるものではなく、所得税法 34 条 1
項に定める営利を目的とする継続的行為から生じた所得
以外の一時的な所得で、…支払われた年の一時所得の総
収入金額に算入するのが相当である」と判断した。
解説
1 所得税における所得区分の趣旨に関して、わが国
では所得の源泉を問わずすべての所得を課税に取り込む、
いわゆる包括的所得概念に基づく課税方式を採用してい
る。反復的・継続的に生じる経常的な所得はもちろんの
こと、時的・偶発的に生じる非経常的な所得であっても
課税所得を構成することになる。その結果として所得の
発生原因や稼得形態によっては、それぞれの所得間にお
いて担税力に差異があることは否定できない。一時所得
については特に担税力が低いとされ、その金額の 2 分の
1 に相当する金額を所得税の課税標準である総所得金額
に算入する旨を定めている(所得税法 22 条 2 号)
。した
がって、課税実務において所得の区分が一時所得にあた
るか否かは所得税額の算定上大きな問題となりうる。本
件においても、賃貸人から取得した立退料に係る所得が、
事業所得と一時所得のどちらに該当するのかという所得
区分が争点となっている。
本件での両当事者の主張は、事業所得該当性を定めて
いる所得税法施行令 94 条 1 項の解釈において、同行本文
における「業務の遂行により生ずべき」の「業務」に「事
務所の維持及び管理の業務」は含まれるのか、および同
項 2 号の「収益の補償」に「経費の補償」は含まれるの
かという点で対立している。
2 立退料に係る所得区分が一時所得か事業所得か
という問題について、両所得の所得種類の判断過程を確
認しておく必要がある。所得税法によれば、一時所得に
あたるのはある収入が「利子所得、配当所得、不動産所
得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡
所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為か
ら生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は
資産の譲渡の対価としての性質を有しない」場合である
(所得税法 34 条 1 項)
。34 条の規定からすると、収入が
事業所得に該当するか一時所得に該当するかを検討する
にあたっては、まず事業所得該当性を判断すべきである。
事業所得の金額については、所得税法 27 条 1 項で定義
しているように、各種の事業から生ずる所得であり、そ
の事業の細目は所得税法施行令 63 条に定められている。
「事業」については、一般的に「一定の目的と自己の計
画に基づいて行う継続的な経済活動」と定義づけられて
いる。しかし事業と非事業の区別の基準は必ずしも明確
にされているわけではなく、ある経済活動が事業に該当
するかどうかは活動の規模や態様、相手方の範囲等を参
考とすべきであり、最終的には社会通念によって判断さ
れる以外に方法がないとされる。また、事業所得の収入
金額を構成するものとして、事業に関連する所得も収入
に含まれるとされており、事業所得を生ずべき居住者が
取得する一定の保険金や補償金等は、事業所得に係る収
入金額に該当すると規定される(所得税法 94 条 1 項)。
当該規定は、事業の本体を成す業務以外からの収入であ
っても、収入金額に代わる性質を有するものをこれらの
所得に係る収入金額とするものである。
3 本件では、本件金員について、①賃料等差額補填
分、②新事務所開設費用補填分、③本件退去費用補填分
の3つに分類され、それぞれにおいて事業該当性が検討
されている。そこで問題となるのが 94 条 1 項の解釈であ
り、一方は「業務の遂行により生ずべき」の「業務」の
範囲である。もう一方は「収益の補償」に「経費の補償」
は含まれるかという点である。
「業務」の範囲に関して、判決では「事務所等の維持
及び管理の業務」は「業務」に含まれるとしている。控
訴人は、貸室を利用することは業務上での手段であり、
弁護士業務の業務内容ということはできないから、
「事務
所の維持や管理の業務」の「業務」ということができな
いと主張した。これについては、当該事業のほかに付随
的な業務から生じる所得が事業から生じる所得に該当す
るか否かは、当該事業の本体をなす業務の遂行との関連
性の強さを考慮して判断すべきものである。
「収益の補償」について検討する。まず、立退料はそ
の性格によって所得区分が分けられている。移転費用の
補償金としての性格のものであれば、立退に当たって必
要となる移転費用の補償としての金額は一時所得の収入
金額となり、収益補償的な性格のものであれば、立退に
伴って、その家屋で行っていた事業の休業又は廃業によ
る営業上の収益の補償のための金額は事業所得の収入金
額となる。控訴人は、補償とは「得られるはずであった
収入」の意味であり、
「支出により失われるはずであった
費用」の補償は含まないと主張している。これに対し判
決では必要経費の増加を生ずる事由による必要経費の金
額の補填も「収益の補償として取得する補償金その他こ
れに類するもの」に含まれると判断した。「経費の補償」
が「収益の補償」に含まれるのであれば、事業該当性が
あることは否定できないだろう。
4 一時所得と事業所得や雑所得との区分について
は、区分判定の争いが訴訟にまで持ち込まれた事例も多
く、ここでは関連事例として二つを挙げる。公共事業の
ために事業用資産が一時使用される場合に支払われる営
業損失補償金が事業所得に該当するかが争われた事案
(東京地昭 45・11・30)と、大量に馬券を購入し多額の
払戻金を得て利益を上げていた場合の払戻金が雑所得に
該当するかが争われた事案(大阪地判平 26・10・2)で
ある。いずれも一時所得とは認められず、一時所得にあ
たる収入の範囲の狭さを感じさせる。
●参考文献
○LEX/DB 文献番号 25504307
○TKC 文献番号 z18817009-00-131101138
○長島弘「経費補てんの立退料の事業該当性」税務事例
46 巻 4 号(2014 年)33 頁
24
Ⅱ租税実体法
所得税
13 塾講師・家庭教師の給与所得該当性
は ん や そ よ
東京高裁平成25年10月23日判決
(平成25年(行コ)第224号:源泉所得納税告知処分取消等請求控訴事件)
事実の概要
控訴人(原告)X 社は、教育機関等(民間教育機関及
び公的教育機関)から講師による講義等の業務を受託し、
同様に一般家庭から家庭教師による個人指導の業務を受
託している会社である。さらに、X 社はこれらの業務に
係る講師又は家庭教師(以下「講師等」という)との間
に契約を締結し、当該業務を行った者に対して当該契約
所定の金員を支払っていた。その際、①控訴人 X は各金
員を給与所得に該当しないものとして源泉所得税の源泉
徴収をせず、②講師等から役務の提供を受けたことが消
費税法に規定する課税仕入れに当たるものとして、消費
税等の申告をした。この申告に対し、処分行政庁が①各
金員が給与所得に該当し、②役務の提供を受けたことは
課税仕入れに該当しないとして、更正処分及び賦課決定
処分をした。そこで控訴人 X は、被控訴人である国に対
して処分の取り消しを求めた。第一審は請求棄却であっ
たので、X はこれを不服として控訴した。
判旨
控訴棄却。
第一審東京地裁平成 25 年 4 月 26 日判決は以下のよう
に判示し、本裁判所もこれを支持している。
「最高裁昭和56年判決は、
・・・
『判断の一応の基準』
として,
『事業所得とは,自己の計算と危険において独立
して営まれ,営利性,有償性を有し,かつ反覆継続して
遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務
から生ずる所得をいい,これに対し,給与所得とは雇傭
契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に
服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付
をいう。なお,給与所得については,とりわけ,給与支
給者との関係において何らかの空間的,時間的な拘束を
受け,継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり,
その対価として支給されるものであるかどうかが重視さ
れなければならない。』と判示している。すなわち、同判
決は、労務の提供等から生ずる所得の給与所得該当性に
ついて,
〔1〕そのような所得のうち『自己の計算と危険
において独立して営まれ,営利性,有償性を有し,かつ
反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認
められる業務から生ずる所得」を給与所得の範ちゅうか
ら外した上で・・・
(
〔労務の提供等の非独立性〕
・・・)
,
〔2〕労務の提供等から生ずる所得が『雇傭契約又はこ
れに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供
した労務の対価として使用者から受ける給付』に当ては
25
半谷颯代
まるか否かを,当該労務の提供等の具体的態様に応じ,
とりわけ『給与支給者との関係において何らかの空間的,
時間的な拘束を受け,継続的ないし断続的に労務又は役
務の提供があり,その対価として支給されるものである
かどうか』を重視して判断するという枠組みを提示した
ものであるが、同判決も明示しているとおり,そこに示
されているのは,飽くまでも『判断の一応の基準』にと
どまるものであって,業務の遂行ないし労務の提供から
生ずる所得が給与所得に該当するための必要要件を示し
たものではない。」
「ところで、所得税法28条1項は,
『給与所得とは,俸
給,給料,賃金,歳費及び賞与並びにこれらの性質を有
する給与…に係る所得をいう。』と規定しているところ,
このような同項の規定の内容や,同法に他に給与所得の
概念を定義付ける規定が置かれていないことからすれば,
同法の解釈において,給与所得の概念は,元来,同項に
例示されている「俸給」,「給料」,「賃金」,「歳費」及び
「賞与」といったものの性質から帰納的に把握するほか
ないものというべきであって,このことは,最高裁昭和
56年判決も当然の前提としているものと解される。そ
して,同項は,上記のとおり,国会議員が国から受ける
給与を意味する「歳費」
(憲法49条)が給与所得に含ま
れることを明らかにしており,また,例えば,法人の役
員が当該法人から受ける報酬及び賞与が給与所得に含ま
れることは特に異論がないところ,これらの者の労務の
提供等は,自己の危険と計算によらない非独立的なもの
とはいい得ても,使用者の指揮命令に服してされたもの
であるとはいい難いものであって,労務の提供等が使用
者の指揮命令を受けこれに服してされるものであること
(労務の提供等の従属性)は,当該労務の提供等の対価
が給与所得に該当するための必要要件とはいえないもの
というべきである。」
「・・・原告と本件講師等との間の契約に係る契約書
等を見ても,本件講師等が個別の本件各顧客の下におい
て上記の業務に従事している期間中において,講義等な
いし個別指導の内容の優劣,具体的な成果の程度,ある
いは,原告が本件各顧客との間の契約に基づいて受領す
る金員(委託報酬)の額やその支払の有無により,本件
各金員の額やその算定の基礎となる講義等の単価の額が
増減するような定めは置かれていない・・以上に鑑みれ
ば,本件講師等による労務の提供等は,自己の計算と危
険によるものとはいい難いものであって,非独立的なも
のと評価するのが相当である。
・・・少なくとも,本件教
育機関等における講義や本件会員の子弟と対面して行う
個人指導の際には,基本的には,原告が本件各顧客との
間の契約において定めた業務場所や業務時間数に従って
その労務の提供等をすべき義務を負うものというべきで
あり,また,このことを踏まえ,既に述べたとおり,本
件講師等は,上記のような立場にある原告の指定する方
法により原告に対して業務遂行の状況を報告すべき義務
を負っているものであって,本件講師等は,以上のよう
な意味において,原告から空間的,時間的な拘束を受け
ているものということができる。」
これに対して、本判決は所得税法28条1項に「賞与」
「歳費」が含まれており、国家議員の歳費や会社の代表
取締役の役員賞与などは、従属性を帯びているとは考え
にくいことから、従属性を必要要件とするよりも、非独
立性を必要要件とする方が妥当であるとしている。
解説
3 2で述べたとおり、本判決は所得税法28条1項
の文言から、従属性を必要要件としなかった。しかし、
最高裁56年判決は当然に所得税法28条1項において
「給与等」が「歳費」を含むことも認識したうえで、給
与等に該当するか否かの判断基準の1つとして従属性の
存在に触れているはずである。したがって、56年判決
は給与等の要件として従属性の存在を挙げていると言え
る。また、
「歳費」のような典型的な雇用契約から外れる
対価についても、
「国会議員に対する指揮命令関係が存在
しない」と解するのではなく、従属性の存在が必要との
前提に立った上で、国会議員に対していかなる意味で従
属性があると言えるかという点について言及すべきだ。
例えば、会議での審議に参加する点では時間的・場所的
拘束を受けているということができる点について従属性
が存在すると解釈できるのである。
さらに、給与所得者であっても費用を負担することや
成果に応じた報酬が支払われることは十分に考えられ、
反対に事業所得者であっても業務の内容・時間・場所等
について従属者に合わせることもあると考えられる。近
年、雇用形態や就業形態の多様化が進み、一概に給与所
得や事業所得に区分することが難しくなっているように
思う。そんな中で所得を分類しなければならないのであ
るから、従属性や非独立性の要件の位置づけはますます
重要になってくるであろう。
現在本事案は上告中であるため、従属性ないし非独立
性をどの程度判断基準に組み込むかに注目すべきであろ
う。本事案の最高裁の判断が、56年判決と17年判決
の位置づけを明確にするべきである。
1 最高裁昭和56年判決は、給与所得が「何らかの
空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労
務又は役務の提供があり、その対価として支給される」
ものとする判断基準を判示した。そしてこの判断基準は、
多くの裁判例で引用されてきたため、
「空間的、時間的な
拘束」が従属性を測る基準となるとともに、従属性が給
与所得の要件と解されてきた。しかし、最高裁昭和56
年判決で示されているように、この従属性の基準は「一
応の判断基準」であり、必要要件として示したわけでは
なかったので、原告の主張を退けたのであった。
しかし、
「一応の基準」との言い回しについては、
「まず
は典型的な雇用関係に基づく給与の場合を想定して基本
的な枠組みを示しておく(末崎衛「給与所得の要件とし
て指揮命令関係(労務の提供等の従属性)は必要か」税
務 QA 142 号 50 頁以下(2014 年))
」という意味に捉え
ることもできるのであって、本判決に最高裁56年判決
の判断基準要件を全く当てはめないというのは問題があ
るとも考えられる。
2 これまで述べてきたように、給与所得の判断基準
は従属性と非独立性の両者又は一方であるが、従属性よ
りも非独立性を重視した重要な判決として最高裁平成1
7年判決がある。
「本件権利行使益は、雇用契約またはこ
れに類する原因に基づき提供された非独立的な労務の対
価として給付されたものとして、所得税法28条1所定
の給与所得に当たる」と判示し、非独立性を給与所得の
唯一の要件であるような判断を示したものである。
非独立性要件は給与所得の課税要件ではないにも関わ
らず、従属性が希薄な場合であっても非独立性さえ明ら
かであれば給与所得と判断できる理由は以下のとおりで
ある。例えば、ある所得の分類を巡って、給与所得と主
張する A と事業所得と主張する B がいるとする。最高裁
昭和56年のように、給与所得については従属性を明ら
かにすれば該当する。一方、事業所得については独立性
を明らかにすれば該当する。よって、非独立性を明らか
にして事業所得に該当しないことを示せば、給与所得に
該当するということだ。
しかし、この解釈には、事業所得と給与所得が対立し
ている場合しか考慮に入れておらず、雑所得に該当する
場合もあることを考慮に入れていないという批判がある。
非独立性要件は、事業所得に該当しないことを考える消
極的要件ではあっても、これを給与所得該当性の積極要
件と置き換えることは難しいと言える。最高裁平成17
年判決は、役員の給与該当性が争われた事例であるため、
従属性よりも非独立性を重視したことは理にかなってい
たが、最高裁昭和56年判決と本判決は、従業員として
の給与所得該当性が争われている。よって、かならずし
も従属性を給与所得の要件としない最高裁平成17年判
決は射程外とも考えられるのだ。
●参考文献
○酒井克彦「所得税法の給与所得と「従属性」
月刊税務事例 46 巻 1 号 1 頁以下(2014 年)
○長嶋弘「塾講師等に支払う報酬の給与所得該当性(上)
」
月刊税務事例 46 巻 12 号 22 頁以下(2014
年)
○長嶋弘「塾講師等に支払う報酬の給与所得該当性(下)
」
月刊税務事例 47 巻 2 号 20 頁以下(2015 年)
○末崎衛「給与所得の要件として指揮命令関係(労務の
提供等の従属性)は必要か」税務 QA 142 号
50 頁以下(2014 年)
○宮崎綾望「教育機関等に派遣する講師及び家庭教師に
対する報酬が給与所得に該当するとされた
事例」
新・判例解説 Watch 租税法 No.114
26
Ⅱ租税実体法
所得税
14 所得税必要経費の「直接」要件該当性
ふたみこうすけ
二見康亮
東京高裁平成24年9月19日判決
(平成23年(行コ)第298号:更正処分取消等請求事件)
事実の概要
本件は、弁護士業を営み、仙台弁護士会会長や日本弁
護士協会(以下「日弁連」という。)副会長等の役員を務め
た X(原告、控訴人)が、これらの役員としての活動に際
し支出した活動費、懇親会費等を弁護士の事業所得の金
額の計算上必要経費に算入できないとした課税庁 Y(被
告、被控訴人)の処分を不服として取消等を求めた事案で
ある。消費税上の課税仕入れに該当するかについても争
いがあったが、争点は、本件各支出が所得税法37条 1
項に規定する必要経費に該当するか否かである。(本稿で
)中でも所得税法37条の必要
は消費税については省略する。
経費は事業に直接関係したものに限られるかという法解
釈が重要な争点である。
第一審の東京地裁平成 23 年 8 月9日判決(平成21年
(以下「本件地裁判決」という。)では、争
(行ウ)第454号)
われたすべての支出に対する必要経費への算入を否定し
た。所得税法 37 条 1 項の「販売費、一般管理費その他
所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする」の
文言を、
「所得を生ずべき事業と直接関係し,かつ当該業
務の遂行上必要であること」と解釈し、ある支出が必要
経費として控除されるためには、当該支出が所得を生ず
べき事業と直接関係し、かつ当該事業の遂行上必要であ
ることを要する。その判断は、事業主の主観的な判断で
はなく、当該事業の業務内容等、個別具体的な諸事情を
考慮して客観的に行われるべきである、という理由であ
る。
最高裁は、平成 26 年 1 月 17 日(最高裁判所第二小法廷
平成25年(行ヒ)第92号)決定 Y の上告受理申立てを不
受理とした。
業務の遂行上必要なものであれば、その業務と関連する
ものでもあるというべきである。それにもかかわらず、
これに加えて、事業の業務と直接関係を持つことを求め
ると解釈する根拠は見当たらず、
『直接』という文言の意
味も必ずしも明らかではないことからすれば、被控訴人
の上記主張は採用することができない。」
「控訴人の弁護士会等の役員等としての活動が控訴人
の『事業所得を生ずべき業務』に該当しないからといっ
て、その活動に要した費用が控訴人の弁護士としての事
業所得の必要経費に算入することができないというもの
ではない。なぜなら、控訴人が弁護士会等の役員等とし
て行った活動に要した費用であっても、これが、先に判
示したように、控訴人が弁護士として行う事業所得を生
ずべき業務の遂行上必要な支出であれば、その事業所得
の一般対応の必要経費に該当するということができるか
らである。」
「弁護士会等は、独自に資産を有し、会員や所属の弁
護士会から会費を徴収すること等により、その活動に要
する費用を支出しているものの、そのすべてを弁護士会
等が支出するものではなく、弁護士会等が支出しない分
は、弁護士会等の役員等に選任された個々の弁護士が自
ら支出しているのが実情である…弁護士会等の活動は、
弁護士に対する社会的信頼を維持して弁護士業務の改善
に資するものであり、弁護士として行う事業所得を生ず
べき業務に密接に関係するとともに、会員である弁護士
がいわば義務的に多くの経済的負担を負うことにより成
り立っているものであるということができるから、弁護
士が人格の異なる弁護士会等の役員等としての活動に要
した費用であっても、弁護士会等の役員等の業務の遂行
上必要な支出であったということができるのであれば、
その弁護士としての事業所得の一般対応の必要経費に該
当すると解するのが相当である。」
判旨
解説
変更。
本件各支出を所得税法37条1項に規定する必要経費
に算入することができるか否か、について本件地裁判決
の「所得を生ずべき事業と直接関係し、かつ当該業務の
遂行上必要であること」の部分を「事業所得を生ずべき
業務の遂行上必要であること」に改めた。
「被控訴人は、一般対応の必要経費の該当性は、当該
事業の業務と直接関係を持ち、かつ、専ら業務の遂行上
必要といえるかによって判断すべきであると主張する。
しかし、所得税法施行令96条1号が、家事関連費のう
ち必要経費に算入することができるものについて、経費
の主たる部分が『事業所得を‥生ずべき業務の遂行上必
要』であることを要すると規定している上、ある支出が
27
1 事業所得の計算上必要経費に算入すべき金額は、
所得税法37条 1 項において、
「別段の定めがあるものを
除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他
当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びそ
の年における販売費、一般管理費その他これらの所得を
生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその
年において債務の確定しないものを除く。)の額」と規定され
ている。
必要経費が控除される意義は、総収入金額から必要経
費を控除することで事業の維持・継続を図ることである。
つまり、必要経費等の原資を上回る余剰に対して課税が
行われることになる。
2 これまでの通説であり、本件地裁判決で示された
「所得を生ずべき事業と直接関係し、かつ当該業務の遂
行上必要であること」とした解釈には問題があった。日
本の税法は、憲法84条を根拠に租税法律主義をとって
いる。課税権者が恣意的に課税することを防止するため、
納税者が税法に定められている以上の税負担を負わない
ようにするためという目的がある。これに基づき文理解
釈優先の原則によって条文の文言に従った解釈が優先さ
れる。そのため、条文に定められていない「直接」とい
う要件を加えることは租税法律主義違反の恐れがあった。
所得税法37条 1 項は、必要経費について直接要件を
含む「別段の定めがあるものを除き…当該総収入金額を
得るため直接に要した費用の額」部分と直接という文言
のない「その年における販売費、一般管理費その他これ
らの所得を生ずべき業務について生じた費用の額」部分
に分けて規定している。このことから立法趣旨は、意図
的に後半部分から直接要件を排除し、広く必要経費を認
めていると解釈できる。
本件では、この問題点を明らかにし、直接要件を排除
した「所得を生ずべき業務の遂行上必要であること」と
いう要件を認めた。この要件ならば、条文の文言通りの
解釈であり、必要経費の控除の意義も汲み取られている
ため妥当である。
3 所得税法の沿革を考慮すると、本件高裁の判断の
妥当性がより明らかになる。所得税法は、昭和 40 年の
法改正により現行法の形となった。法改正以前の必要経
費についての規定は、限定列挙の形であった。
昭和 38 年の税制調査会「所得税及び法人税の整備に
関する答申」では昭和 40 年の改正に向けて方向性が検
討されている。ここでは、できるだけ広く所得の起因と
なる事業等に関係はあるが所得の形成に直接寄与してい
ない経費又は損失を計算上考慮すべきであると示されて
いる。この指摘を受け、昭和 40 年改正後の所得税法は
直接要件のない「その年における販売費、一般管理費そ
の他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の
額」という文言を規定した。これは個人事業の場合も法
人と同じように必要経費の控除を認めようという考えが
ある。この考え方が根底にあるにも関わらず、必要経費
の要件に直接性を要求してしまうと、可能な限り法人と
個人を分けて考えることになり、昭和 40 年改正の意味
がなくなってしまう。
4 事業主が個人の場合、「個人」と「事業」の二つ
の異なる支出が考えられるため、区別が必要である。
「家
事上の経費」で、事業に関係はなく、収入を生み出さな
い費用を家事費といい、「事業に直接関係する経費」で、
収入を生み出す費用を事業費という。
しかし、個人事業はこの家事費と事業費の区別の難し
い支出がある。これについては、消費税法施行令96条
1号で「家事上の経費に関連する経費の主たる部分が…
業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を
明らかに区分することができる場合における当該部分に
相当する経費業務の遂行上必要である経費」として家事
関連費という区分を規定している。この規定は、通常私
的な支出として家事費になる場合にも、事業の遂行上必
要な支出であるときには例外的に必要経費として算入し、
控除を認めるものである。この条文の文言にも「直接」
という要件は登場しない。このことからもやはり、直接
要件は否定され、広く必要経費を認めることが妥当であ
ると解することができる。
5 本件判決では個々の支出を、それぞれ要件を課し
て判断している。例として、社会通念上その業務の遂行
上必要な支出であるか、その費用の額が過大ではないか、
という要件がある。要件は事業や支出の性質によって異
なるであろうが、所得を生ずべき業務の遂行上必要であ
ることを明らかにすることができれば必要経費と認めら
れることとなる。本件判決は、個々の支出を検討し、必
要経費に当たるか否かを判断している。この判断は理に
かなったものであるが、租税法律主義をとる日本では、
明確な基準が示されることが理想である。
6 この判決は、以前から問題であった必要経費該当
要件の問題について初めて高裁、最高裁で争われた重要
な判決である。以前は、根拠の明らかでない直接性を要
件とする解釈によって判決が下されることがあった。ま
た、実務でもそれらの判決から直接要件を満たし、かつ
業務の遂行上必要な費用でなければならないというのが
一般的なイメージになってしまっていた。
本件判決では、過去の判決や定着してしまっていた誤
ったイメージを覆す判決をしている。つまり、租税法律
主義や所得税法の沿革を根拠に正しく必要経費の要件を
解釈している。
本件は弁護士業という業種についての判決であるが、
所得税法37条は事業所得者、不動産所得者、雑所得者
の全ての納税者に影響を及ぼすものと考えられる。
直接要件が不要になったことにより、必要経費として
認められる可能性のある経費がある。例えば、シングル
マザーの税理士のベビーシッターに係る費用について検
討すると、子供を預けないと業務に支障がでるため業務
の遂行上必要な支出であると認められ、必要経費となる
可能性がある。このように直接要件が不要になったこと
により支出の経費性は、
「収入を得るため」にした支出と
いう基準だったものから「業務の遂行上必要」な支出か
どうかという基準に変化した。
今後は、この判決の射程がどこまで及ぶのかが注目さ
れる。
●参考文献
○三木義一「よくわかる税法入門」第 9 版 ゆうひかく
選書
○三木義一「必要経費概念における『事業直接関連性』
-東京高裁平成 24 年 9 月 19 日判決の意義—」青山法学
論集
○長島弘「所得税の必要経費と業務直接関連性—弁護士
会役員による支出と弁護士業務の必要経費に関する裁判
例からの検討—」税務事例46巻
○金子友裕「弁護士会の役員として負担した支出と事業
所得における必要経費の関係」税務事例45巻
○近藤雅人・三木義一・山本陽一郎「弁護牛必要経費事
件の確定と実務への影響」税理 2014 年4月
28
Ⅱ租税実体法
法人税
15 内国法人における法人税の租税回避該当性
なめかたげん
行方弦
東京高裁平成27年3月25日民亊第20部判決
(第一審 東京地判平成26・5・9 平成23年(行ウ)第407号、平成24年(行ウ)
第92号、平成25年(行ウ)第85号:法人税更正処分取消等請求事件(第1事件、第2事件)
、
通知処分取消請求事件(第3事件) )
事実の概要
X(原告・被控訴人)は、米国に本社を持つ A の 100%
子会社である B により全持分を取得された内国法人の同
族会社である。平成 14 年 4 月 X は B から C(A の日本法
人)の発行済株式全部を代金1兆9500億円で購入し、
その後3回(平成 14 年 12 月、平成 15 年 12 月、平成 17
年 12 月)に渡って同株式の一部を C に代金総額 4298 億
円で譲渡した。
X は本件各譲渡事業年度の法人税について、C から交
付を受けた譲渡代金額からみなし配当の額を控除した額
を譲渡対価の額とし、さらに本件各譲渡事業年度の事業
年度の所得の金額の計算上損金の額に、譲渡原価の額と
の差額を本件各譲渡に係る譲渡損失額としてそれぞれ算
入し、欠損金額として確定申告を行った。また、X は平
成 20 年 1 月 1 日に連結納税の承認を受け、同年 12 月期
から C が連結親法人として連結納税を開始した。そして
12 月期連結期の法人税を、X の欠損金額を翌期に繰り越
し連結欠損金として確定申告をした。
Y(日本橋税務署長)は法人税法 132 条 1 項の規定を
適用し、本件譲渡損失額を計算上損金に算入することを
否認する更正処分(以下本件更正処分)を行った。
X が Y に対し、本件更正処分は法人税法 132 条 1 項を
適用する要件を満たされずにされた違法なものであり、
また本件各更正処分の取り消しを求めて争ったのが本件
である。尚、本件各更正処分が行われた当時は本件のよ
うな連結納税制度は認められていたが、その後平成 22
年の税制改革により廃止となった。
本件において、C と連結納税をしたことにより、C の
黒字と X の繰り越し欠損金で相殺をしたことにより、こ
のことが租税回避行為に該当するのか問題となる。
第一審は X の主張を認め、租税回避意図はなかったとし、
本件各更正処分を取り消したので、Y は控訴。
判旨
控訴棄却 。
「同族会社の行為又は計算が,法人税法132条1項
にいう「これを容認した場合には法人税の負担を不当に
減少させる結果となると認められるもの」か否かは,経
済的合理性を欠く場合と認められるか否かという客観的,
合理的基準に従って判断すべきものであり,経済的合理
性を欠く場合には,独立当事者間の通常の取引と異なっ
ている場合を含むものと解するのが相当である。」
29
「被控訴人に本件各譲渡事業年度において多額の繰越
欠損金が生じることになったのは,被控訴人が本件各譲
渡により C から交付を受けた金銭が,法人税法24条1
項5号(平成18年法律第10号による改正前のもの)
に基づき,同社の資本等の金額のうち当該株式に対応す
る部分を超える部分(受領した対価の約93%)につい
て配当の額とみなされ,当該みなし配当の額が,同法2
3条1項に基づき所得の計算上益金の額に算入されない
こととなる一方,C 株式の譲渡に係る譲渡損益の計算に
おいては譲渡対価の額から控除されることになるため
(同法61条の2第1項1号),益金に算入されないみな
し配当の額がそのまま本件各譲渡に係る譲渡損失額とな
って,所得の金額の計算上損金の額に算入され,他に所
得を生じるような特段の事業をしていない被控訴人にお
いては,その金額に相当する金額が欠損金額として生じ,
これが翌期以降の事業年度に繰り越されたことによるも
のである。すなわち,本件各譲渡事業年度において被控
訴人に多額の譲渡損失及び欠損金が生じたのは,本件各
譲渡に法人税法の規定を適用した結果であって,これ
をもって見せかけの損失であるという控訴人の主張は,
その故に直ちにその計上を否定すべきというものであれ
ば,法律上の根拠を欠くものであって採用の余地はない。
(なお,平成22年法律第6号による改正後の法人税法
61条の2第16項により,内国法人が完全支配関係の
ある他の内国法人の自己株式の取得により金銭の交付を
受けた場合には,その株式の譲渡損益の計算上,譲渡対
価となる額は譲渡原価に相当する額とされ,譲渡損益額
が計上されないこととなった。)
」
「そして,本件各譲渡を『不当』として法人税法13
2条1項に基づき否認することができるかどうかは,本
件一連の行為ではなく,本件各譲渡それ自体が経済的合
理性を欠くものと認められるかどうかによって判断され
るべきもの,本件各譲渡がそれ自体で経済的合理性を欠
くとは認められない…そうすると,本件一連の行為を容
認することが法人税法132条1項の趣旨に反するとい
う控訴人の主張は,本件一連の行為を対象として『不当』
性の判断をすべきものとしている点及び『不当』性の判
断について経済的合理性を欠くと認められるかどうかと
いう客観的,合理的基準に依拠しない点において既に失
当であって,これを採用することはできない。」
解説
1 本件において被控訴人の行為が租税回避行為に
該当するかが問題となる。
租税回避行為とは法律上明文規定は無いが、一般的に
「私法上の選択可能性を利用し、私的経済取引プロパー
の見地からは合理的理由がないのに、通常用いられない
法形式を選択することによって、結果的には意図した経
済的目的ないし経済的成果を実現しながら、通常用いら
れる法形式に対応する課税要件の充足を免れ、もって税
負担を減少させあるいは排除すること」
(金子宏『租税法』
(弘文堂 2014 年)121-122 頁)とされている。つまり、
違法とはいえない行為だが、通常なら選択されない異常
な行為をとることにより、通常の場合に比べて著しく公
平性を欠くことが発生するのである。 前述にもあるよう
に、租税回避行為を規制する明文規定がないため、租税
法律主義から、罰することはできないのである。そのた
め租税回避行為があった後に法改正をして、その行為を
規制するという現状となっている。
2 法人税法 132 条とは同族会社等の行為計算規定で
あり、その法人自ら法人税の負担を不当に減少させると
認められる場合に、税務署長が法人税の課税標準若しく
は欠損金額または法人税の額を計算することができると
いうものである。この規定は一般に租税回避の否認規定
であると理解されている。
どのような場合に税務署長が「不当」と判断するかと
いうと、最終的に社会通念によって決められる。事業活
動の計画等が必ずしも円滑に進むことがないことは十分
あり得ることであり、予期せぬ貸倒や大規模損失を生ず
ることも十分に考えられる。これらのことを全て「不当」
と扱い、法人税額の計算上無視してはならない。しかし
どのような事業上の計画が失敗するか特定、列挙するこ
とは困難であることから、このような不確定概念を法律
では用いている。
また、租税回避行為の判断基準として、その取引時で
判断するのか、一連の取引に着目して判断するのかが考
えられる。しかし「法人税法 132 条等の課税要件の骨格
は…一又は一連の計算行為につき…。」
(松丸憲司[『租税
回避に対する法人税法 132 条等の行為計算否認規定のあ
り方』
(税大論叢 51 号 2014)391 頁)であると考えられ
ており、事件ごとによってその取引のみか一連の行為か
を判断すればよい。
本件においては一連の行為を争点として着目されてい
る。
3 本件に類似した事件で「ヤフー事件」(平成26
年(行コ)第 157 号)というものがある。この事件にお
いては 132 条 2 項の適用が争点となり、本件同様欠損金
の引き継ぎが問題となった。ヤフー事件は、ヤフーがと
ある会社(以下 X 社)の株式の 100%を買収しその一ヶ
月後に共同で事業を営むための適格合併をし、X 社の欠
損金をヤフーが引き継いだというものである。裁判所は
否認規定を用いることができる要件として、
「経済合理性
の観点から不合理・不自然なものであるとし…組織再編
税制の趣旨・目的及び当該個別規定の趣旨・目的に照ら
して明らかに不当であるという状況が生じた場合に,こ
れを否認することができる。」として、ヤフー側が敗訴し
た。
4 本件とヤフー事件の争点は 132 条の 1 項と 2 項と
違うが、132 条上の問題には変わり無いので比較して考
えてみる。本件をこの否認規定にあてはめて検証する。
経済合理性の観点から不合理・不自然なものかについて
考察すると、判旨で述べられた通り経済的合理性は存在
し、不合理・不自然なものではない。また組織再編税制
…という状況が生じた、という点については、判旨にお
いては「本件全証拠によっても認めることができないと
いうほかない。」とされており、どちらの要件も満たされ
ていないと考えられる。
5 第一審判決においての判断基準は、「専ら経済
的、実質的見地において当該行為又は計算が純粋経済人
の行為として不合理、不自然なものと認められるか否か
を基準と して判定し、このような客観的、合理的基準に
従って同族会社の行為又は計算を否認する権限を税務署
長に与えているものと解するのが相当である。」としてい
る。
高裁判決においての判断基準としては、一審判決をよ
り具体的なものにしている。特に控訴人主張していた「経
済的合理性」の有無の判断基準を認めている。控訴人が
主張している行為又は計算が「経済合理性を欠く」とは、
「①それが異常ないし変則的で租税回避以外に正当な理
由ないし事業目的が存在しないと認められる場合と、②
独立・対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行わ
れる取引とは異なっている場合」である。
(岩崎政明『租
税法の基本問題』
(有斐閣 2007)79 頁)しかし、この判
断基準を用いたとしても、第一審判決同様一連の行為に
法人税法 132 条 1 項の「不当」には該当しないと判示し
た。また、前述の通り法人税法 132 条の要件判断は大変
複雑なものであり、決定的な一手となるには乏しいもの
であると指摘している。
6 本件において真偽の定かはおいといて、実際に欠
損金を引き継いだことにより、多額な税金を節税するこ
とができた。一審、高裁、類似事件等を考察してきたが、
法人税法 132 条の判断基準の「不当」というものが不確
定概念のため、このような本件やヤフー事件が発生して
しまった。
本件とヤフー事件の違いとして、本件は海外と日本の
取引が絡んでいて、ヤフー事件は国内でかつ非常に短期
間に起きたことである。調査をするにおいても国外の企
業への調査も容易ではなかったと考えられ、その点にお
いての証拠不足であることも否めない。租税回避行為の
要件である、通常ならとるはずのない異常な行為である
と、節税できた額、手段を鑑みてもこの行為はとられて
もおかしくない。従って、連結納税制度は現在廃止され
ているので一概には言えないが、このような判決を認め
てしまえば、他の企業も同様な手段を用い節税を図るお
それがある。本事件は大手の企業の事件なのでなおさら
である。
両者共に租税回避行為という明文化されていない手段
を用い、法の抜け道を通ろうとした。両判決共に最高裁
判決がでていないが、今後の税制をも左右する判決にな
るであろう。
●参考文献
○清永敬次「租税回避の研究」〔1995〕385 頁
○金子宏「租税法」〔2014〕436-437 頁
○金子宏編「租税法の基本問題」〔2007〕74、79 頁
○三木義一「よくわかる税法入門」〔2015〕27-36 頁
○松丸憲司「租税回避に対する法人税法 132 条等の行為
計算否認規定のあり方」税大論叢 51 号〔2014〕391、397
頁
30
Ⅱ租税実体法
法人税
16 公正処理基準の該当性と不当利得返還請求
の可否
おおつきたくや
東京高裁平成26年4月23日判決
(平成25年(行コ)第399号:更生すべき理由がない旨の通知処分取消請求控訴事件)
事実の概要
消費者金融業を営んでいた更生会社 A は、平成10年
3月から平成23年3月までの本件各事業年度において、
利息制限法に規定する利率(制限利率)を超える利息の
定めを含む金銭消費貸借契約に基づき利息および遅延損
害金の支払いを受け、これに係る収益の額を益金の額に
算入して法人税の確定申告をしていた。
その後、A の更生手続きにおいて、制限利率に基づく
引直し計算が行われ、債権届け出および債権調査の結果、
約91万人分の顧客について、総額約1兆3800億円
の過払い金返還請求権に係る債権が更生債権として確定
した。
そこで、平成23年7月12日、A の管財人 X(控訴
人)が国税通則法23条2項1号に基づき、各事業年度
において益金の額に算入された金額のうち、確定した更
生債権に係る取引について計算された制限利率による法
定利息を超える約定利息に係る部分は過大であるとして、
同部分を益金の額から差し引いて法人税の額を計算し、
X の各事業年度の法人税に係る課税標準等または税額等
につき各更生をすべき旨の請求を行った。
これに対し、行政処分庁である新宿税務署長は更生す
べき理由がない旨の各通知処分を行ったため、X は国税
不服審判所長に対し審査請求をした。
X は上記審査請求から3ヶ月経過した後である平成2
4年4月10日、国である Y(被控訴人)に対し、主位
的に、本件各通知処分の取り消しを求め、予備的に、民
法703条に基づき、本件各更生の請求に基づく更生が
された場合に還付されるべき金額に相当する金額の不当
利得の返還を求める訴えを提起した。
第一審(東京地判平25・10・30平成24年(行
ウ)第212号)は X の請求をいずれも棄却したため、
X が控訴した。
大槻拓矢
超えて課税関係を調整する制度として、欠損金の繰戻
し還付(法人税法80条)、欠損金の繰越し(同法57
条)が規定されている。所得税法51条2項が企業会
計原則に定められている方法と同様の処理をすること
を定めていることからすると、前期損益修正の処理は
法人税法22条4項の「一般に公正妥当と認められる
会計処理の基準に」(公正処理基準)に該当する。
イ 過払金返還請求権に係る債権が更生債権として
確定したことに伴い、制限超過利息の弁済が私法上無
効であることを前提とする取り扱いをすべきことが確
定したとしても、更生手続開始決定時の決算書の損益
計算書において、当該無効により影響額が過年度超過
利息等損失として計上されていること等を踏まえ、当
該確定の事由が生じた事業年度に処理されることにな
る。このことから本件各事業年度の税額等の計算に遡
及的に影響を及ぼすものとはいえず、当該事由をもっ
て、国税通則法23条1項1号の「計算が国税に関す
る法律の規定に従っていなかったこと」、「当該計算に
誤りがあったこと」には該当しない。
ウ 前期損益修正による処理では過年度の所得を是
正するのと同じ効果が得られない場合に、遡及的に過
年度の所得を是正する会計処理をすることが一般に許
容されているとはいえず、法人税法上、こうした場合
に前期損益修正の処理と異なる取扱いを許容する特別
な規定も見当たらない。
エ X が指摘する企業会計基準第24号「会計上の
変更および訂正に関する会計基準」は、本件各事業年
度について適用があるものではない。また、それに掲
げる一定の会計の変更または訂正に該当する場合以外
の場合を含めて過年度の確定した決算の内容を遡及的
に訂正すること等を広く認めるものとすべき根拠はな
い。
判旨
控訴棄却
本判決は、第一審が掲げた判決の理由を全面的に引用
して、X の請求を棄却した第一審の判断を是認した。
(1) 原審の理由
ア 企業会計原則においては、過去の利益計算に修
正の必要が生じた場合、前期損益修正として当期の特
別損益に計上する方法が定められている。株主総会へ
の提出およびその承認等を経て確定した計算書類は、
余剰金の額の計算や配当等の制限の基礎となるなど、
事後的な修正になじまない。法人税法には事業年度を
31
オ 不当利得の返還請求権の有無について、A が納
付した本件各事業年度の各法人税額について、法律の
原因のないことに該当する事由が存在するとは認め難
い。X が指摘する最高裁昭和49年判決(最二小判昭
49・3・8民集28巻2号186貢)は、本件とは
事案を異にする。
(2) 本判決で加えた補足的理由
本判決は以下の補足的判断を示している。
「A は更生手続において、会社分割によってその主
たる事業である消費者金融事業をスポンサー企業に譲
渡し、本件更生会社自体は継続的に所得を計上する法
人とはせずに清算業務を行い、解散することとしたも
のであり、その結果、前期損益修正による税務処理に
よって課税関係の調整を受ける余地がなくなったが、
これは、A が更生計画を立てたことによる結果である
から、そのことをもって A について、更生会社一般に
おいて特段の手当てがされていない前期損益修正の処
理と異なる処理を行うべき理由は見出し難く、A によ
り納付された法人税を Y が保持し続けることが著しく
公平に反し、不当利得としてその返還請求を認めるべ
きということはできない」。
解説
1 本件は、更生手続が開始し、しかも今後解散して
課税所得を稼得する見込みがないなどの特別な事情があ
る法人についても、前期損益修正の処理が法人税法22
条4項の公正処理基準に該当するのか否か、また、租税
関係における不当利得の返還請求の可否についても一定
の判断を示したものである。
従来、法人税の実務では、契約の解除などいわゆる後
発的な事由により発生した損失等について、
「ひとり民事
上の契約関係その他の法的基準のみに依拠するものでは
なく、むしろ経済的観測に重点を置いて当期で発生した
損益の測定を行う」という理解を前提に、前期損益修正
の処理が行われてきた。
本件では、X は、A が更生会社であり、法人税法上の
前期損益修正の処理(過年度の利益計算の要修正額を当
期の損金として処理する方法。法人税基本通達2-2-
16参照)の前提たる継続企業の公準が妥当でないこと、
また更生手続開始時点において莫大な繰越欠損金を抱え
ていることを含め、過年度の制限超過利息部分に対応す
る過大な法人税を永久的に保持する結果を招くこと等を
指摘し、本件での前期損益修正の処理は法人税法22条
4項に定める公正処理基準には該当せず、債券調査手続
により「確定判決と同一の効力」をもって確定した事実
関係に基づいて過年度の課税所得の修正が認められるべ
きと主張して、更生の請求を行った。これに対し、本判
決は本件の前期損益修正の処理が公正処理基準に該当す
ると判断した上で、A が清算して前期損益修正による税
務処理による課税関係の調整を受けられなくなる点につ
いても、A が更生計画を立てたことによる結果であると
判示し、X の更生の請求を理由がないと判断した。
2 本件被告の主張及び本判決の解釈は、法人税法上、
違法、不法な行為による無効利得であるにしても、その
経済的成果を現実に支配管理している以上、同法の収益
を構成し、その経済的効果が無効に基因して喪失された
場合に、初めて、その利得が喪失された事業年度の損金
額に算入されるという税務処理が税法上の公正処理基準
であるから、本件更生債権の確定等によって、過去の事
業年度の申告が遡及して過大となることはありえなく、
また、無効利得が返還される場合も、無効利得が返還さ
れた場合も、無効利得を収益としてした当初申告が遡及
的に違法となるものではないから、いずれにしても、更
正の請求には該当しないというものである。かかる被告
及び本判決の公正処理基準からの論理は、従前の一般的
な課税実務および本判決の論旨であり、これを前提とす
れば、本件更生の請求は認められないことになる。
従前の判決等の解釈論は、すでに指摘したように、有
効な法律行為等による収益の発生に基づく申告には何ら
かの瑕疵はないところ、事後の法律行為に伴い収益が減
少したという事実を前提にした議論であり、その公正処
理基準である前期損益修正損による是正である。かかる
公正処理基準が、無効利得を収受した時に、その返還義
務が潜在的に発生している場合の公正処理基準と評価す
ることは妥当とはいえない。このような場合の公正処理
基準は別途、本判決が判示するように、法人税の適正な
課税と同法の公平な所得計算という観点から判断すべき
ものである。
3 本判決は、法人が収益等の額の計算にあたって採
った会計処理の基準がそこにいう公正処理基準に該当す
るといえるか否かについては、法人税の適正な課税及び
納税義務の履行の確保を目的とする公平な所得計算とい
う要請に反するものでないか否かという法人税法の独自
の観点から判断されるものと解するのが相当であると判
示している。しかし、かかる判示にやや違和感がるのは、
そもそも、法人税法22条4項の公正処理基準は、税務
処理の簡素化の見地から、会社法及び企業会計の公正処
理基準に従うということが基本的出発点であり、その上
で、当該公正処理基準が税法上の視点からみて、公正処
理基準に該当するか否かが社会通念により、判断される
というのが、現代的な法人税法上の公正処理基準の解釈
ではないかという点である。
また、予備的請求として主張されている不当利得返還
請求権については、本判決は昭和49年判決と事案が異
なると判示した第一審を引用した。加えて、補足的判断
の中で、A により納付された法人税を Y が保持し続ける
ことが著しく公平に反し、不当利得としての返還請求を
認めるべきでないと、不当利得返還請求に否定的な判断
を示した。
結論として、判決等により具体的に確定した返金債務
相当額の損金を認定し、後発的事由による更生の請求を
容認して救済を図るのが合理的であるといえる。
私法上の不当利得返還請求を容認することにより、積
極的に納税者の公平を保つことは租税法律主義の下で合
理的な救済であると考えられる。本件は、税務処理で定
着している前期損益修正の処理の範囲に関する実務上に
おいて注目すべき事案である。
●参考文献
○大淵博義 金融法務事情 2006号 34貢 (20
14.11)
○大澤幸宏 「法人税基本通達逐条解説[7訂版]」22
3貢 (税務研究会出版局 2014年)
32
Ⅱ租税実体法
相続税・贈与税
17 庭内神祠の敷地等は非課税財産
に該当するか
な か じ ま ゆ か り
中島由加里
東京地裁平成24年6 月21日判決
(平成22(行ウ)494号:相続税更正処分取消等請求事件)
事実の概要
本件は、原告Xが、被相続人を亡Aとする相続(以下
「本件相続」という。
)に係る相続税につき、相続財産で
ある土地のうち,弁財天及び稲荷を祀った各祠(以下,
両者を併せて「本件各祠」という。)の敷地部分を相続税
法(平成19年法律第6号による改正前のもの。)12条
1項2号(以下「本件非課税規定」という。)の非課税財
産とする内容を含む申告及び更正の請求(以下「本件更
正請求」という。)をした。
本件更正請求に対し、西新井税務署長Yは納付すべき
税額を申告額よりも減じるものの、本件敷地は非課税財
産に当たらないとしてこれについての課税をする内容を
含み、本件更正請求に係る税額を上回る税額とする減額
更正処分(以下「本件処分」という。)をした。
原告は、これを不服として、主位的には本件敷地が非
課税財産に該当すると主張した。予備的に本件敷地は一
般人が移設を躊躇する本件各祠が所在するため売却困難
であるから、土地について一定の評価減を行わなかった
本件処分は相続税法22条に違反すると主張して、本件
処分の取消しを求める事案である。
判旨
Xの請求を認容。
(本判決で確定。)
本件非課税規定にいう「これらに準ずるもの」の意義
について、「その文理からすると、『墓所』、『霊びょう』
及び『祭具』には該当しないものの、その性質、内容等
がおおむね『墓所、霊びょう及び祭具』に類したものを
いうと解され、さらに、相続税法12条1項2号が、…
祖先祭祀、祭具承継といった伝統的感情的行事を尊重し、
これらの物を日常礼拝の対象としている民俗又は国民感
情に配慮する趣旨から、あえて『墓所、霊びょう又は祭
具』と区別して『これらに準ずるもの』を非課税財産と
していることからすれば、截然と『墓所、霊びょう又は
祭具』に該当すると判断することができる直接的な祖先
祭祀のための設備・施設でなくとも、当該設備・施設…
を日常礼拝することにより間接的に祖先祭祀等の目的に
結びつくものも含むものと解される。
そうすると、
『これらに準ずるもの』には、庭内神し(こ
れは、一般に、屋敷内にある神の社や祠等といったご神
体を祀り日常礼拝の用に供されているものをいい、ご神
体とは不動尊、地蔵尊、道祖神、庚申塔、稲荷等で特定
の者又は地域住民等の信仰の対象とされているものをい
33
う。
)
、神たな、神体、神具、仏壇、位はい、仏像、仏具、
古墳等で日常礼拝の用に供しているものであって、商品、
骨とう品又は投資の対象として所有するもの以外のもの
が含まれるものと解される」
「庭内神しの敷地のように庭内神し等の設備そのもの
とは別個のものであっても、そのことのみを理由として
これを一律に『これらに準ずるもの』から排除するのは
相当ではなく、当該設備とその敷地、附属設備との位置
関係や当該設備の敷地への定着性その他それらの現況等
といった外形や、当該設備及びその附属設備等の建立の
経緯・目的、現在の礼拝の態様等も踏まえた上での当該
設備及び附属設備等の機能の面から、当該設備と社会通
念上一体の物として日常礼拝の対象とされているといっ
てよい程度に密接不可分の関係にある相当範囲の敷地や
附属設備も当該設備と一体の物として『これらに準ずる
もの』に含まれるものと解すべきであって、
「本件敷地に
ついても、庭内神しである本件各祠との位置関係や現況
等の外形及び本件各祠等の機能の面から、本件各祠と社
会通念上一体の物として日常礼拝の対象とされていると
いってよい程度に密接不可分の関係にある相当範囲の敷
地であるか否かを検討すべきである」
「本件各祠は、庭内神しに該当するところ、本件敷地
は、…外形上、小さな神社の境内地の様相を呈しており、
…本件各祠やその附属設備…は、建立以来、本件敷地か
ら移設されたこともなく、その建立の経緯をみても、本
件敷地を非課税財産とする目的でこれらの設備の建立が
されたというよりは、真に日常礼拝の目的で本件各祠や
その附属設備が建立されたというべきであるし、祭事に
はのぼりが本件敷地に立てられ、現に日常礼拝・祭祀の
利用に直接供されるなど、その機能上、本件各祠、附属
設備及び本件敷地といった空間全体を使用して日常礼拝
が行われているといえる」から、
「本件敷地は、本件各祠
と社会通念上一体の物として日常礼拝の対象とされてい
るといってよい程度に密接不可分の関係にある相当範囲
の敷地ということができる」
解説
1
本件判決は、本件非課税規定の文理解釈について
争ったものである。
1970 年代頃、相続税対策として、本件非課税規定の適
用を受けるため、所有する土地に「庭内神し」を建立し、
税金の支払いを免れようとする事例が後を絶たなかった。
当時の課税庁は、
「庭内神し」の敷地には非課税規定の適
用を認めないことで税金の支払いを免れようとする者へ
の対策を行った。
しかし、この対策によって、本件原告のように、税金の
支払いを免れる意図のない者に対しても課税が行われる
ようになってしまった。
ところが、本件判決によって、課税庁の施策の弊害を是
正し、その上で税金の支払いを免れようとする者への対
策も行うことが可能になった。
相続税法基本通達には、本件非課税規定に規定する「こ
れらに準ずるもの」とは、庭内神し、神たな、神体、神
具、仏壇、位はい、仏像、仏具、古墳等で日常礼拝の用
に供しているものをいうのであるが、商品、骨とう品又
は投資の対象として所有するものはこれに含まれないも
のとすると定められている。
本件各祠が本件非課税規定における「これに準ずるも
の」にあたるという点においては、原告・被告ともに同
意しており、本件で争われたのは、
「庭内神し」の敷地ま
でも「これに準ずるもの」に含めるべきであるかという
点である。
本件判決で国側は、
「墓所、霊びょう」とは祖先の遺体
や遺骨を葬っている又は祖先の霊を祀っている祖先祭祀
のためのものをいい、民法 897 条 1 項の「墳墓」に相当
する概念であり、本件各祠は祖先の遺体や遺骨を葬って
いる設備ではないため、その土地部分は非課税とはなら
ないと主張した。
しかし、本件各祠と敷地は、
「庭内神し」がコンクリー
ト打ちの土台により固着されてその敷地となっており、
その周りにはその附属設備として石造りの鳥居や参道が
設置され、砂利が敷き詰められるなど、外形上、小さな
神社の境内地の様相を呈していること、
「庭内神し」やそ
の附属設備は、その敷地から移設されたこともなく、そ
の建立の経緯をみても、この敷地を非課税財産とする目
的でこれらの設備の建立がされたというわけでなく、庭
内神し、附属設備及びその敷地といった空間全体を使用
して日常礼拝が行われていることから、各祠と「庭内神
し」の敷地は社会通念上一体として密接不可分の関係に
ある土地といえ、非課税財産に含まれるとした。
このような、先祖代々からの「庭内神し」のある土地
を売却するには、「庭内神し」を取り除く必要があるが、
本件各祠はコンクリート打ちの土台に固着されており移
設するのが難しい上、相続人の心情からいっても日常礼
拝を行っている「庭内神し」を取り除くという判断をす
ることは容易ではなく、売却困難である。
であれば、この「庭内神し」の敷地を財産として活用
するのは難しく、所有していたとしても活用が出来ない
のであれば、相続人には「庭内神し」の敷地を相続する
ことによる経済的利益があるとは言い難い。
よって、本件判決の「庭内神し」の敷地は非課税財産
に該当するという判断は妥当であると考える。
2 本件判決によって、国税庁は平成 24 年 7 月に「庭
内神し」の敷地の取り扱いを改めることを明らかにした。
以下、国税庁の発表である。
『
「庭内神し」の敷地については、「庭内神し」とその
敷地とは別個のものであり、相続税法第 12 条第 1 項第 2
号の相続税の非課税規定の適用対象とはならないものと
取り扱ってきました。しかし、①「庭内神し」の設備と
その敷地、附属設備との位置関係やその設備の敷地への
定着性その他それらの現況等といった外形や、②その設
備及びその附属設備等の建立の経緯・目的、③現在の礼
拝の態様等も踏まえた上でのその設備及び附属設備等の
機能の面から、その設備と社会通念上一体の物として日
常礼拝の対象とされているといってよい程度に密接不可
分の関係にある相当範囲の敷地や附属設備である場合に
は、その敷地及び附属設備は、その設備と一体の物とし
て相続税法第 12 条第 1 項第 2 号の相続税の非課税規定
の適用対象となるものとして取り扱うことに改めまし
た。
』
(国税庁「『庭内神し』の敷地等に係る相続税法第 12
条第 1 項第 2 号の相続税の非課税規定の取扱いの変更に
ついて」
http://www.nta.go.jp/sonota/sonota/osirase/data/h24/
teinai/01.htm〔2015年12月12日〕)
国税庁の発表の①については、外形が整っていれば良
いため判断は容易であるが、②や③については立証が難
しく、本件原告のように明確な立証を行うことの出来る
ケースは少ないと考えられる。
であれば、この国税庁の取り扱いの変更によって、本件
非課税規定が不必要に拡大することはないといえる。
つまり、かつてのように、税金の支払いを免れようと
する目的で自分の所有する土地に「庭内神し」を建立し
たとしても本件非課税規定を受けることは出来ないので
ある。
●参考文献
○末崎衛「庭内神しの敷地が相続税の非課税財産に当た
るか 税務QA(126),65-69」
○小西功朗「『庭内神し』の敷地は,相続税法第 12 条第
1 項第 2 号の『これに準ずるもの』にあたり,相続税の
非課税財産 に該当する とされた事 案 『税と 経営』
No.1816」
34
Ⅱ租税実体法
消費税
18 会員制リゾートクラブから収受した金員に対す
る消費税の可否
あ き や ま せ れ な
秋山聖令那
東京地裁平成26年2 月18日判決
(平成25年(行ウ)第23号:消費税更正処分等取消請求事件)
事実の概要
Ⅹ(原告)は、平成 22 年に破産した会員制リゾートクラ
ブA(以下「A倶楽部」という)を主催していたB社の
破産管財人である。B社の実質的経営者と代表取締役は、
A倶楽部の運営について平成 23 年に組織的詐欺の疑い
で起訴され、それぞれ懲役刑の有罪判決を受けている。
B社の平成 20 年課税期間から平成 22 年課税期間の消
費税確定申告について、B社所轄の税務署長は、各課税
期間にA倶楽部に入会した会員から収受した金員のうち、
預託金以外の金員(B社と会員間で締結された会員契約
書によれば「施設利用料」、以下「本件金員」という)が
「課税資産の譲渡等の対価」に該当するとして更正処分
及び過少申告加算税の賦課処分を行った。これに対して
Xは、本件金員が資産の譲渡等の対価に該当しないとし
て、上記処分の取消しを求めて本訴に至った。
A倶楽部の仕組みは、以下の通りである。
A倶楽部に入会した会員は、B社との入会契約に基づ
き、国内 11 か所のB社が運営する会社によって経営され
ているホテルまたは他社のホテルの宿泊サービスを受け
られることになっていた。
会員募集は、第 1 次から第 4 次まで行われたが、問題
となったのは、B社が設立された平成 18 年以降に行われ
た第 2 次から第 4 次までの募集である(会員の多くは、
第 2 次募集による。
)募集に応じて入会した会員から支払
われた本件金員は、1 円につき 1 ポイント換算で宿泊ポ
イントとして 5 年間にわたって発行され、これに入会時
の払込金額の多寡によってポイントが追加され、会員は
これらのポイントを上記ホテルでの宿泊に利用すること
ができた。
会員は上記ホテル宿泊時に宿泊ポイントを利用するが、
B社が運営する会社経営のホテルに宿泊した場合には、
B社はそのホテルに対して宿泊料の 20%相当金額を宿
泊斡旋料として請求し、この斡旋料を宿泊代金から差し
引いた金額をホテル経営会社に支払うことで宿泊ポイン
トの清算は完了した。また、会員が発行済み宿泊ポイン
トを使用しなかった場合には、B社がこの未使用ポイン
トを買い取ることになっていた。
本件の争点は、本件金員の収受が「資産の譲渡等」
(消
費税法 2 条 1 項 8 号)に該当し、消費税の課税対象(消
費税法 4 条 1 項)となるかどうかである。被告処分行政
庁は、本件金員は会員資格付与という役務提供の対価で
あると主張し、他方Xは、本件金員は宿泊ポイントの対
価として支払われたものであり、その収受は資産の譲渡
に該当しないと主張した。
35
判旨
請求認容。
(ⅰ)「本件金員は、A の会員になろうとする者が、本件
入会契約に基づき、X 社に対して支払うものであるから、
本件金員が何に対する対価であるかについては、本件各
会員及び X 社の両者を規律している本件入会契約の解釈
によって定まるというべきである。」また、「課税の対象
である経済活動ないし経済現象は、第 1 次的には私法に
よって規律されているところ、課税は、租税法律主義の
目的である法的安定性を確保するという観点から、原則
として私法上の法律関係に即して行われるべきである。
……B社及び本件各会員が、本件入会契約について、本
件契約書を作成していることに鑑みれば、本件入会契約
の解釈は、原則として、本件契約書の解釈を通じて行わ
れるべきものであるが、その際、本件入会契約の前提と
されていた了解事項(共通認識)やB社による勧誘時の
説明内容といった、本件入会契約の締結に至る経緯等の
事情をも総合的に考慮して判断する必要があるというべ
きである。」
(ⅱ)「本件金員は、本件契約書において『施設使用料』
と表記されているものの、
『施設使用料』の具体的内容が
定義付けられてはおらず、本件契約書を精査しても、本
件破産会社が本件金員をいかなる趣旨で収受したのかを
直接規定した部分はない。この点、被告は、本件会員資
格条項によれば、本件金員が会員資格の対価であると解
釈すべきであるという趣旨の主張をしている。しかしな
がら、本件会員資格条項は、A倶楽部の会員になろうと
する者が『施設使用料、及び施設使用預託金の払込みを
終えたとき、会員資格を取得する。』と規定しているにす
ぎず、
『施設使用料』の具体的内容が定義付けられている
わけではない以上、本件会員資格条項が、会員資格の取
得時期ないし取得要件に加え、本件金員の対価関係まで
をも定めたものであると直ちには解し難い。……本件契
約書の文言(「施設使用料」)の解釈という観点からみて
も、本件各ホテルの使用料(宿泊代金等)は、宿泊ポイ
ントを用いて支払われることが予定されており、本件各
会員は、本件入会時費用を払い込みさえすれば、5 年間
にわたり、新たな支出を全くすることなく、本件各ホテ
ルを使用することができることに鑑みれば、本件金員が
宿泊ポイントの対価であると解釈することに、特段不自
然、不合理な点はないというべきである。」
(ⅲ)「本件金員は、これと同額の宿泊ポイントに対す
る対価として収受されたものと解することができるとこ
ろ、宿泊ポイントは、本件カードないし本件チケットに
表彰され、本件各会員は、宿泊ポイントと引換えに、本
件各ホテルにおける宿泊サービス等を受けることができ、
かつ、当該宿泊サービス等を受けたことによって、その
対価の支払債務を負担しないものであるから、宿泊ポイ
ントは物品切手等に該当する(消費税法基本通達6-4
-4参照)。……本件金員が物品切手等(宿泊ポイント)
の発行に対する対価である以上、その収受は、
『資産等の
譲渡』
(消費税法2条1項8号)には該当しないというべ
きである(消費税法基本通達6-4-5参照)。なお、消
費税法基本通達6-4-5は、その文言上、物品切手等
が現実に発行された場合を前提にしているものと解され
るところ、本件金員が宿泊ポイントの対価であるとして
も、宿泊ポイントが現実に発行されていない部分につい
ては、上記基本通達が直接当てはまるわけではない。し
かしながら、前記検討のとおり、本件破産会社が宿泊ポ
イントを複数年度に分けて発行するからといって、既に
収受した本件金員が宿泊ポイント(少なくとも本件金員
と同額分)に対する対価であることに変わりはない。そ
して、物品切手等の発行に係る金品の収受が不課税取引
とされている趣旨は、物品切手等を発行する行為が、物
品切手等に表彰される権利を発生させるものであり、自
己の有する資産を譲渡するものではないからであると解
されることに鑑みれば、本件金員について現実に宿泊ポ
イントが発行されていない部分があることは、本件金員
の収受を左右するものではない。」
解説
1
消費税法における消費税の課税の対象は、国内取
引については、「事業者が行った資産の譲渡等」(消費税
法 4 条 1 項)である。ここにいう「資産の譲渡等」とは、
「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け
並びに役務の提供」
(消費税法 2 条 1 項 8 号)のことをい
う。本件の問題は、本件金員の支払いが、まず上記要件
のうちの、
「役務の提供」の「対価」といえるかどうかと
いうことになる。上記要件に該当しないとすれば、消費
税は不課税となる。本件において B 社から会員に対して、
消費税が課されるべき何らかの役務の提供があったかど
うかを検討する。
被告・国は、本件金員を対価として「会員資格の付与」
という役務の提供が行われたと主張する。この主張の根
拠は、ゴルフクラブ、宿泊施設その他レジャー施設の利
用等の会員に対する役務の提供を行う事業者が、会員資
格付与と引き換えに収受する入会金(返還しないものに
限る)を資産の譲渡等の対価とする通達(消費税法基本通
達5-5-5)である。
入会金または会費に関する別の通達は、
「構成員に対し
て行う役務の提供等との間に明白な対価関係があるかど
うかによって資産の譲渡等の対価であるかどうかを判定
する」としており(同通達5-5-3及び5-5-4)、
ゴルフクラブ等については、
「入会金または会費」と「ゴ
ルフ場等の施設を使える資格」との間には、
「明白な対価
関係」があることが前提になっている。
2 会員が入会時に支払う金員と会員が団体から受
ける役務の提供との関係に「明白な対価関係」を必要と
することを是認するならば、「明白な対価関係」は、「収
入と役務の提供等との間に具体的かつ直接的な対応関係
があること(関連性ないし結合性。ただし、その関連性は、
単なる条件的因果関係、あるいは、全体的、抽象的関係
では足りないとする。)」と解釈することができよう。(大
阪高判平 24・3・16 訟月 58 巻 12 号 4163 頁)。
この解釈を本件の事実関係にあてはめれば、本件金員
を対価として B 社が会員に提供した役務を「会員資格」
とするのは、
「本件金員を払えばリゾートクラブ会員にな
れる」という条件的因果関係であり、しかも本件金員は
具体的な役務(サービス)と結合していないという意味で
抽象的関係といえる。
ゴルフクラブ等の入会金を会員資格の付与の対価とし
て資産の譲渡等の対価とする上記通達は、入会金を受領
する事業者が会員に対して自己の施設の利用を直接的に
提供していること、会員の入会の主目的はゴルフ場での
プレーであって入会なくしてこれを達成できないことか
ら、その合理性が見いだせる。これに対して本件では、
B 社が会員に対して宿泊サービスを直接提供しているの
ではなく、直接のサービス提供者は B 社運営のホテルま
たは他社のホテルである。また会員は、これらのホテル
に会員資格がなくても宿泊可能である。もっとも、会員
資格があったほうが優遇された条件で宿泊できるものの、
当該ホテルの宿泊が会員資格者に限られているわけでは
ない。すなわち、本件金員と会員資格との間の関係は、
「明白な対価関係」とはいえない。
3 本件金員と明白な対価関係にあるものが会員資
格でないならば、本件金員は、何に対する対価であろう
か。本件金員を支払って会員になれば、支払った金額以
上の宿泊ポイントが付与され、しかも未使用の宿泊ポイ
ントは買い取りによって現金化できる。本件金員は、こ
の利益の獲得に対するものであり、そしてこの利益は、
宿泊ポイントとして電磁的カードに表彰される。
会員は、B 社から具体的な宿泊サービスを直接提供さ
れているのではなく、本件金員の支払いによって電磁カ
ードに表彰された宿泊ポイントを得たのである。宿泊ポ
イントをいつ、どのように利用するかは会員の任意であ
り、これを宿泊サービスの支払いに利用するときには、
そのサービスに対して消費税を別途負担することを考え
合わせれば、宿泊ポイントが記録された電磁カードまた
はチケットは、ギフトカードや商品券等の物品切手と何
ら変わるところはない。
本判決もまた、本件金員の具体的内容の定義づけの欠
如を根拠に、本件金員を宿泊ポイントの対価とし、これ
を物品切手に該当するとしており、妥当な判断である。
●参考文献
○岩崎政明・Monthly jurist(1485),135-138,2015-10
○市野瀬啻子・税研 JTRI30 巻 1 号 90 頁
36
Ⅱ租税実体法
消費税
19 消費税相当額における課税資産の譲渡等の
対価の額の該当性
すずむらゆか
鈴村優華
東京地裁平成18年10月27日 判決
(平成17年(行ウ)第529号:消費税更正処分取消等請求事件)
事実の概要
X(原告)は川根町から温泉施設(以下、
「本件各施設」と
いう)を賃借して、鉱泉浴場等の管理運営等の委託に関す
る業務(温泉旅館業を含む)を営んでいた。
Xは本件各施設に関する入湯税の特別徴収義務者であ
り、本件各施設の利用者から入湯税相当額を含む利用料
を受領していた。
平成 12 年 4 月 1 日から同年 13 年 3 月 31 日までの間、
同年 4 月 1 日から同年 14 年 3 月 31 日までの間及び、同
年 4 月 1 日から同年 15 年 3 月 31 日までの間の課税期間
(以下、
「本件課税期間」という)の消費税及び地方消費
税(以下、
「消費税等」という)について、Xは消費税の
課税標準額に入湯税相当額を含めないで算出した消費税
等の税額を申告した。これに対し処分行政庁は、入湯税
相当額は消費税法 28 条 1 項に規定する「課税資産の譲
渡等の対価の額」に含まれるとし、消費税法等の更正処
分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、
「本件更正
処分」という)を行った。
Xは、入湯税相当額は課税資産の譲渡等の対価の額に
含まれないと主張し、本件各処分の取消しを求めた。
判旨
請求認容。
「消費税法 28 条 1 項は、
「課税資産の譲渡等に係る消
費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額(対価
として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外
の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資
産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税
額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当す
る額を含まないものとする。)とする」と規定し、消費税
の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額、すなわち
「対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金
銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額」であ
ると定めるところ、
「対価として収受し、又は収受すべき」
額とは、課税資産の譲渡等に係る当事者間で授受するこ
ととした取引価額をいう。一方、入湯税は、鉱泉浴場へ
の入湯そのものを対象として、入湯客に課される税であ
り、入湯という消費行為に担税力を認めて課される税で
あるから、入湯税の納税義務者は入湯客であり(旧地方
税法 701 条)
、その徴収方法については、特別徴収の方法
によることが定められている(同法 701 条の3)
。」
消費税法基本通達 10-1-11 は、入湯税が課税資産の
譲渡等の対価の額に含まれないとしている。
「…軽油引取税、ゴルフ場利用及び入湯税は課税資産の
37
譲渡等を受ける者が納税義務者となっていることから、
ゴルフ場等を経営する事業者は、いわゆる特別徴収義務
者として納税義務者からこれらの税そのものを特別徴収
し、地方団体に納付しているにすぎず、これらの税相当
額は課税資産の譲渡等の対価、すなわちその譲渡に係る
当事者間で授受することとした取引価額に含まれないこ
とにある。したがって、入湯税の相当額を請求書や領収
書等で相手方に明らかにし、また、事業者においても預
り金又は立替金等の科目で経理しているときには、取引
価額(本件では入湯料)と入湯税額との区別は明確であ
り、入湯税相当額が消費税の課税標準に含まれないのは
当然のことである。」
「他方、
消費税法基本通達 10-1-11 のただし書きは、
「ただし、その税額に相当する金額について明確に区分
されていない場合は、対価の額に含むものとする。」とし
ているところ、もとより、課税資産の譲渡等に係る当事
者間で授受することとした取引価額と入湯税が上記のよ
うに請求書や領収書等で明らかにされるなど、外見上、
その区別が明白にされていることが望ましいことはいう
までもないが、上記のとおり、入湯税は、その性質上、
消費税の課税標準である「課税資産の譲渡等の対価の額」
に含まれるべきものではないのであるから、そのように
入湯税が本来的に消費税の課税標準となるものではない
ことに照らして消費税法基本通達 10-1-11 のただし書
きを合理的に解釈するならば、請求書や領収書等に入湯
税の相当額が記載されているか、事業者において預り金
や立替金等の科目で経理しているかといった点のみなら
ず、問題となる税金(本件では入湯税)の性質や税額、
周知方法、事業者における申告納税の実情等を考慮し、
少なくとも当事者の合理的意思解釈等により、課税資産
の譲渡等に係る当事者間で授受することとした取引価額
と入湯税とを区別していたものと認められるときには、
消費税法基本通達 10-1-11 のただし書きにいう場合に
は当たらないものと解するのが相当である。」
解説
1 入湯税は、鉱泉浴場施設が所在する市町村が鉱泉
浴場における入湯に対し入湯客に課す地方税であり、入
湯税の納税義務者は入湯客と定められている(旧地方税
法 701 条)。浴場の経営者等は特別徴収義務者として指定
されており、経営者等は入湯客が納めるべき入湯税を徴
収した上で、これを市町村に代理納付することが義務付
けられている(旧地方税法 701 条の 3、701 条の 4)。
2 本件はXが本件各施設の利用者から受領した金
員には入湯税(又はその相当額)が含まれていることから、
その入湯税相当額は「課税資産の譲渡等の対価の額」(消
費税法 28 条 1 項)に含まれないか(消費税法基本通達 10
-1-11 本文)か、それとも「その税額に相当する金額に
ついて明確に区分されていない場合」に当たるため対価
の額に含まれる(同通達ただし書き)かどうかが争われた
事案である。
3 消費税法 28 条 1 項は、課税資産の譲渡等に係る
消費税の課税標準を「課税資産の譲渡等の対価の額とす
る」と規定している。課税標準の譲渡等の対価の額には、
酒税、たばこ税、揮発油税、石油ガス税等が含まれる。
これらは、事業者などが納税義務者となって負担する税
金である。これに対し、入湯税、ゴルフ場利用税、軽油
引取税などは利用者が納税義務者となる。鉱泉浴場やゴ
ルフ場を経営する事業者は特別徴収義務者として納税義
務者からこれらの税を徴収し、地方団体に納付している
にすぎないため、これらの税相当額は課税資産の譲渡等
の対価の額に含まれない。したがって、その税額に相当
する金額を請求書や領収証等で相手方に明らかにし、預
り金又は立替金等の科目で経理するなど明確に区分して
いる場合には、課税資産の譲渡等の対価の額には含まれ
ないことになる。
4 消費税法基本通達 10-1-11 は、ただし書きにお
いて「その税額に相当する金額について明確に区分され
ていない場合は、対価の額に含むものとする」と規定し
ている。被告は主張の中で、
「入湯税相当額と入湯料が「明
確に区分」されていない場合において、入湯税の納税義
務者である入湯客は、入湯税相当額を同税の特別徴収義
務者に預けたという認識を持ち得ず、入湯税相当額の含
んだ額を当事者間において役務の提供の対価として授受
することとした取引価額であるということができるから、
当該価額が課税資産の譲渡等の対価の額になる。」と述べ
ている。本件において、Xは川根町条例に基づいて課税
を免除される者を除く利用客から受領する金員のうち、
1人1日について 150 円を入湯税として徴収し、その余
の金員を本件各施設の利用料として収受する意思を有し
ていた。そして、入湯客及び入湯税対象利用者を毎日集
計するなどして入湯税額を算出し、川根町に申告納税し
ていた。さらに、川根町が発行する広報誌等に本件各施
設の利用料と共に入湯税額が掲載されていたことから、
利用客である川根町の住民は入湯税 150 円を支払う意思
を有していた。川根町の住民以外の利用者であっても、
本件各施設の名称や地方税法の規定により、利用料のみ
ならず入湯税についても支払う意思を有していたものと
認められることなど、当事者の合理的意思を考慮すれば、
その譲渡に係る当事者間で授受することとした取引価額
と入湯税を区別していたものということができる。
そもそも通達とは、上級行政庁が法令の解釈や行政の
運用指針になどについて、下級行政庁に対してする命令
又は示達であり(国家行政組織法 14 条 2 項)、租税法の
法源ではない。そのため、本判決は当事者の合理的意思
を考慮するなどして、通達の要件を広く解釈したもので
あるといえる。消費税法基本通達 10-1-11 のただし書
きが適用されるのは、実質的に入湯料と入湯税の区別が
不可能なため、預かった入湯税相当額を「課税資産の対
価」から除くことができない場合であると解釈できよう。
5 本判決から、入湯税相当額を請求書や領収書等で
相手方に明らかにしていない場合や、預り金又は立替金
等の科目でその都度区分経理していないことにより、入
湯税相当額が消費税法 28 条 1 項に規定されている「課
税資産の譲渡等の対価の額」に含まれるものではないこ
とがわかる。このような問題が生じないようにするため
に、国側は請求書や領収書等に入湯税相当額の明記を義
務付ける必要があるように感じる。
6 同様に、対価に含まれるか否かが争われたものと
して、
軽油引取税の事案 (徳島地判平成 10.3.20 税資 231
号 179 頁)を以下に挙げる。この事案では、ガソリンスタ
ンドを営む原告X₂が平成元年ないし平成 3 年分(「本件
課税期間」という)の所得税及び消費税について確定申告
をしたところ、税務署長が本件課税期間の所得税・消費
税の各更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(「本件
各処分」という)を行ったのに対し、X₂が本件各処分は
推計の必要性・合理性を欠いているほか、消費税につい
ては仕入税額等の控除をしていない点で違法であるがな
どとして、その取消しを求めて争ったものである。この
判決では、ガソリンスタンドを営む原告X₂は旧地方税法
700 条の 2 第 1 項 3 号に規定する地方公共団体から指定
される特約店等(軽油引取税を納税義務者から徴収し地
方公共団体に納付する者)ではなく販売店に該当するこ
となどから、軽油引取税は控除されないとされた。徳島
地裁は、
「特約店等においては、その特約店等が軽油引取
税を納税義務者から徴収して地方公共団体に納付してい
るのであるから、軽油引取税は原則として課税資産の譲
渡等の対価の額に含まれないが、販売店は、軽油引取税
の納税義務者であり同税を徴収する者でないため、……
本件において、原告は販売店に該当するので、軽油の売
却価格に軽油引取税を上乗せして顧客から徴収したとし
ても、その徴収した軽油引取税相当額は軽油引取税自体
ではなく、当該軽油引取税相当額を課税資産の譲渡等の
対価の額から除く理由はないこととなる。」と判断した。
地方公共団体によって指定された事業者でなければ特
別徴収義務者に該当せず、消費税相当額を上乗せして顧
客から徴収したとしても、その徴収した消費税相当額は
消費税法 28 条 1 項に規定されている「課税資産の譲渡
等の対価の額」に含まれる。このような場合には、消費
税相当額が控除されないことは明らかである。
●参考文献
○判例タイムズ No.1264 195 頁
○熊王征秀「公設温泉施設の利用料等に含まれる入湯税
相当額の取り扱い」月刊税務事例 40 巻 17-21,2008-2
○原木規江「入湯税が消費税の「課税資産の譲渡等の対
価の額」に当たらないとされた事例」租税法判例実務
解説 193 頁
○森信茂樹『日本の消費税 導入・改正の経緯と重要資
料』
(株式会社 清文社、2000 年)
38
Ⅱ租税実体法
消費税
20 電化手数料の役務の提供の対価該当性
なかやましんたろう
大阪地裁平成21年11月12日判決
(平成20年(行ウ)第161号:消費税更正処分取消請求事件)
事実の概要
X(原告)は不動産賃貸を業とし、B会社は、集合住
宅において、給湯、厨房及び空調設備等のすべての熱源
を電気とすること(オール電化)の普及、促進に努めて
おり、オール電化が採用された一定の場合に、当該物件
の事業主や設計事務所等に対して、
「電化手数料」という
名目で金員を支払う制度を採用していた。
Xは、平成 17 年2月4日、C会社との間で、X所有地
に 25 戸の賃貸部分及び1戸の自宅用部分(X居住部分)
の合計 26 戸からなる 10 階建てマンション(本件マンシ
ョン)を請負代金4億 337 万 8500 円(うち消費税等 1920
万 8500 円)で建築する旨の請負契約を締結した。
Xは、本件マンションの全住戸にオール電化を採用す
ることを決め、平成 17 年3月、B会社との間で、
「給湯、
厨房、空調設備の電化採用に関する覚書」と題する覚書
(本件覚書)を作成した。
Xは、平成 18 年1月 26 日、本件マンションの引渡し
を受け、請負代金及び建設業者からの借入金利息の合計
4億 477 万 566 円を支払った。
Xは、平成 18 年2月 20 日、B会社から、本件覚書に
基づく電化手数料(1戸当たり基本単価7万 3500 円に
戸数 26 戸を乗じて算出した消費税込みの額)
191 万 1000
円(本件電化手数料)の支払を受けた。
Xは、平成 18 年1月1日から同月 31 日までの課税期
間(本件課税期間)につき、本件電化手数料が「課税資
産の譲渡等の対価」に当たり、課税売上割合は 95%以上
(100%)になるから、課税仕入れに含まれる消費税額は
全額の仕入税額控除の対象になるとして、本件電化手数
料に係る消費税額 7 万 2800 円から本件マンションの請
負代金等に係る消費税額(X居住部分を除く)1392 万
4607 円を控除して、税額の還付を求める確定申告を行っ
た。
Y税務署長は、本件電化手数料は資産の譲渡等の対価
に当たらないとして、更正処分及び過少申告加算税の賦
課決定処分(本件各処分)を行った。これに対しXは、
本件各処分の取消しを求めて本件訴訟を提起した。
判旨
請求棄却。
「電化手数料の算定方法は、…給湯器の種類や契約電
力による区分で定まる基本単価に、採用した戸数を乗じ
て得られる額とされているのであり、本件電化手数料が、
オール電化の採用それ自体に対する謝礼又は報奨金とし
39
中山真太郎
ての性質を有することには疑いがない。」
「Xは、本件電化手数料に、オール電化の採用に対す
る報奨金的要素があるとしても、本件各覚書役務との対
価関係は否定できないと主張し、実際に、本件覚書でも、
本件電化手数料を本件各覚書役務の提供の対価として支
払う旨が定められている。確かに、契約当事者間の合意
内容を定めた本件覚書の文言は、本件電化手数料がいか
なる性質を有するかについての重要な判断資料となるも
のであるが、その文言が実体を反映していない場合には、
文言を離れて、実体に即して本件電化手数料の性質を判
断していく必要がある。」
「本件覚書役務1は、本件覚書上、対象物件の建設に
関する情報の提供、並びに全電化等の採用に関する勧奨
活動の実施を行うこととされており、…XがB会社に対
して行う対象物件の建設に関する情報の提供としては、
設計図面の提出が予定されており、実際、Xは本件覚書
作成に先立つ平成 17 年2月 10 日にB会社に対して設計
図面を提出しているが、それは、配線や設備を設置する
必要上行われたというのであり、電気工事や電化設備を
設置する準備行為にすぎないというべきであるし、…対
価を支払ってその履行を義務付けるような性質のもので
あると評価することはできない。Xは、エンドユーザー
や他の事業者に対する勧奨活動を行うことも本件覚書役
務1に含まれると主張するが、B会社は、本件マンショ
ンにオール電化が採用されたことをもって本件覚書役務
1が提供されたとみなしていることに照らしても、本件
電化手数料が、X主張の勧奨活動の対価としての性質を
有するとはいえない。そうすると、本件電化手数料が本
件覚書役務1の提供の対価である旨の本件覚書の記載は、
XとB会社との間の契約の実体に即したものとはいい難
いのであって、…本件電化手数料をもって本件覚書役務
1の提供の対価ということはできない。」
「本件覚書役務2は、…ユーザーに対する電化設備機
器の使用方法等に関するコンサルティングの実施を行う
こととされているところ、Xは、その具体的内容として、
電気機器等の経済的な使用方法の入居者への説明、電気
料金についてオール電化の割引料金が適用されているこ
との入居者への説明、オール電化設備機器の使用方法に
関するB会社主催の講習会の案内文を入居者へ配布する
ことを挙げ、これらの役務を実際に行っている旨の供述
をしているが、電化設備機器の使用方法や電気料金が通
常と異なることの説明については、マンションの賃貸人
が、賃借人に対して入居時に行う一般的な説明の範疇を
出るものではないのであって、対価を支払ってその履行
を義務付けるような性質の役務とはいい難い。むしろ、
本件電化手数料は、本件マンションにオール電化が採用
されていること及び所定の電力契約等が締結されている
ことを確認した場合に支払うこととされており、実際に、
本件マンションにおけるオール電化設備設置等の確認検
査後、Xが供述する本件覚書役務2の具体的内容の履行
状況について何ら確認することなく、本件電化手数料が
支払われていることからすれば、…X及びB会社は、オ
ール電化の採用それ自体に対して本件電化手数料が支払
われるものと位置付けていたと認めるのが相当であり、
本件覚書役務2が提供されたことを本件電化手数料の支
払条件としていたとは認め難い。」
「B会社の担当者は、本件覚書役務2の内容とされて
いるコンサルティングに不備があり入居者からクレーム
があった場合には、本件覚書の規定を適用し契約を解除
して対処するかのように供述しているが、本件覚書には、
本件覚書役務2の履行状況を確認する方法についての規
定、契約を解除した場合の本件電化手数料の返還金額、
返還方法についての規定が置かれていないこと、一方で、
本件マンションにオール電化等が採用され、所定の電力
契約が締結されていることさえ確認できれば、本件電化
手数料が支払われるものとされていること、そして、本
件電化手数料がオール電化の採用それ自体に対する謝礼
又は報奨金としての性質を有することからすれば、入居
者からのクレームがあった場合等に、B会社からの解除、
本件電化手数料の全部又は一部の返還請求が可能である
と解するには無理があり、…前記供述をそのまま採用す
ることはできない。」
「そうすると、本件電化手数料は、専ら本件マンショ
ンにオール電化を採用したことに対する謝礼又は報奨金
として授受されたものと認めるのが相当であって、これ
に加えて、本件各覚書役務の提供の対価としての性質を
有しているということはできないため、資産の譲渡等の
対価には当たらないというほかない。」
解説
1 本件訴訟では、本件電化手数料が役務の提供の対
価に当たるかが争点となった。消費税法4条1項では、
国内において事業者が行った「資産の譲渡等」には消費
税を課すと規定され、同法2条1項8号では、
「資産の譲
渡等」の意義について、
「事業として対価を得て行われる
資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供」をいうと規定
されている。 法令にいう「役務」の意義は、広い概念で
あり、消費税法基本通達 5-5-1 は、消費税法 2 条 1 項 8
号の「資産の譲渡等」の意義に規定する「役務の提供」
とは、土木工事、修繕、運送、保管、印刷、広告、仲介、
興行、宿泊、飲食、技術援助、情報の提供、便益、出演、
著述その他のサービスを提供することをいい、弁護士、
公認会計士、税理士、作家、スポーツ選手、映画監督、
棋士等によるその専門的知識、技能等に基づく役務の提
供もこれに含まれると規定している。
2 本件覚書においては、B会社は、Xに対し、
「対象
物件の建設に関する情報の提供、並びに全電化等の採用
に関する勧奨活動の実施」
(本件覚書役務1)及び「ユー
ザーに対する電化設備機器の使用方法等に関するコンサ
ルティングの実施」(本件覚書役務2)の業務を委託し、
B会社は、Xに対し、本件覚書役務1及び本件覚書役務
2の提供の対価として本件電化手数料を支払うとされて
いた。よって、本件覚書の当事者のB会社及びXは、本
件電化手数料は本件覚書役務の提供の対価としての性質
を有するものと認識していたといえる。したがって、こ
の点だけに着目すれば、上記1にいう「役務」の意義に
照らし、本件電化手数料は役務の提供の対価に当たるこ
とになる。しかし、本件電化手数料が消費税法2条1項
8号に規定する役務の提供の対価に当たるか否かの判断
は同号の規定のあてはめの問題である。その判断に当た
り、本件覚書の当事者であるB会社及びXの本件覚書に
対する主観的意図は参考とされるべきものではあるが、
それに拘束されるものではなく、本件覚書に基づきXが
具体的に履行すべきものが実際にどのように行われたか
という客観的な事実に基づいてなされるべきものである。
したがって、
「本件覚書の文言は、本件電化手数料がいか
なる性質を有するかについての重要な判断資料となるも
のであるが、その文言が実体を反映していない場合には、
文言を離れて、実体に即して本件電化手数料の性質を判
断していく必要がある」とした本件判決の判断は、正当
なものといえる。
3 本件判決は、
「電化手数料の算定方法は、役務の履
行回数や、履行期間に応じて定められるのではなく、専
ら給湯器の種類や契約電力による区分で定まる基本単価
に、採用した戸数を乗じて得られる額とされているので
あり、本件電化手数料が、オール電化の採用それ自体に
対する謝礼又は報奨金としての性質を有することには疑
いがない」としている。つまり、本件では、本件電化手
数料は、本件覚書の文言ないしB会社及びXの主観的意
図にかかわらず、役務の提供の対価には当たらないと判
断された。本件においては、本件覚書役務1及び本件覚
書役務2の提供の対価として本件電化手数料を支払うと
されており、たしかに、この点だけに着目すれば、消費
税法2条1項8号の「役務」の意義に照らし、本件電化
手数料は、役務の提供の対価と判断できるが、本件では、
本件覚書の文言が実体を反映しているとは言い難いので、
その文言を離れて、本件覚書役務に基づいてXが履行す
べきものが実際にはどのように行われたかという客観的
な事実に基づいて判断すべきであるといえるので、当裁
判所の判断は、適切なものであったといえる。
●参考文献
○三木義一「日本の税金」83~116 頁(岩波新書、2012)
岩崎政明・Monthly jurist(1485),135-138,2015-10
40
Ⅱ租税実体法
消費税
21 商店街通路の「公共の用に供する道路」
該当性
しげたやまと
福岡高等裁判所平成26年12 月1 日判決
(平成26年(行コ)第18号:固定資産税賦課処分取り消し請求事件)
事実の概要
本件では、Y(被告=福岡市中央区長)は X ら(原告
=新天商店街公社・新天街商店街商業協同組合)に X ら
が保有する不動産にかかる平成 23 年度及び平成 24 年度
の固定資産税等の賦課決定を行った。X らは、非課税と
する土地が課税対象とされたとして、Y に対し上記賦課
決定の取り消し及び主位的に国家賠償法 1 条 1 項、予備
的に不当利得返還請求に基づき、平成 23 年度から平成
24 年度までの過納金の支払いを求めた事案である。商店
街の一部である本件各通路につき、X らは、車両の通行
を除いて歩行者の通行につき制限を設けてないから一般
的な利用について何等制約を設けず開放されている状態
である上、専ら不特定多数の用に供しているため、本件
各通路は「公共の用に供する道路」に該当するとされた。
そして、本件各通路は非課税とすべきであるのに、これ
を含めて本件各不動産に課税した本件各賦課決定処分は、
本件各通路の面積に係る課税額の限度で違法というべき
であるとしたうえで、本件各賦課決定に基づき、原告ら
が納税した額については、その取り消しされる限度にお
いて、被告は、不当利得に基づく返還義務を負うとして、
原告らの請求を一部容認、一部棄却した。原告・被告共
に控訴。
判旨
原審破棄。自判。
「固定資産税は、固定資産の資産価値に着目し、その
所有という事実に担税力を認めて課する一種の財産税で
あるところ、地方税法348条2項本文各号の規定内容
に鑑みると、同条2項本文は、公用または公共の用に供
する固定資産について、その性格、用途に鑑み、当該公
用または公共の用などに供する固定資産の確保という政
策目的のために、例外的に固定資産を非課税とする趣旨
のものであると解される。そうすると地方税法348条
2項5号が、私有地であっても、
『公共の用に供する道路』
について、固定資産税を非課税とする規定の趣旨は、当
該土地が『公共の用に供する道路』として何らの制約な
く不特定多数のいわゆる一般公衆の利用に供され、公の
行政目的が達成されている場合にまで、財産権である固
定資産税を賦課徴収するのは適当ではないということに
あると解される。そして、道路法において『道路』は、
『一般交通の用に供する道』であるとされ、道路の公的
機能確保の観点から様々な制約がされていることに照ら
し、
『公共の用に供する道路』とは…『道路法にいう道路
41
重田大和
に準ずるもの』と認められるものを含むと解すべきであ
る。道路法が適用される『道路』については…『私権を
行使することができない』とされており…『道路法にい
う道路に準ずるもの』と認められるかどうかを判断する
にあたっては当該土地について、私権の行使が制限され
ているか、また、上記のような道路の機能が確保されて
いるか、という点も斟酌するのが相当である。…本件各
通路が『公共の用に供する道路』に該当するかどうかに
ついて検討するに、本件各通路の状況等及び本件各通路
の利用状況によれば、本件各通路は一般的な利用につい
て開放されている状態にあり、また、不特定多数の利用
に供されているともいえる。しかしながら…本件各通路
は事実上不特定多数人の交通に供しているものの、いつ
でも自由にそれを取りやめて本件各建物の敷地として法
令の範囲内で本件各建物の増改築を行い、又は物品置き
場として利用するなど自由に使用、収益をすることがで
きるものといえる。実際、本件通路1及び本件通路3の
上空には、各通路の上空を覆う形で…建物の3階部分が
建築され…このように、本件各通路はいずれも現に本件
1(1)建物又は本件建物2の敷地として利用されてい
る。これらの本件各通路上の建築物は、仮に、本件各通
路が道路法にいう道路であるとすれば、建築基準法44
条1項に違反する違法建築物として是正措置命令の対象
となり得るものであって、これが許されているのは、本
件各土地について、本件1(1)建物または本件建物2
の敷地として私権を行使することが許され、およそ道路
法にいう道路としての制限を受けることがないからであ
ると解さざるを得ない。また、本件各通路が道路法によ
る道路であるとすれば、工作物や施設等を設けるには、
道路管理者の許可を受けなければならないところ、本件
各通路では商品の展示がされ…このような利用状況も、
本件各通路が道路法にいう道路としての制限を受けない
ことによるものといえる。そして、新天町商店街では、
各店舗が本件商店街通路に沿って設置され…同道路上に
商品が展示されている箇所もあり、サービスコーナー等
も設置されている事などに照らすと本件商店街通路は、
多方面からの顧客を商店街の各店舗に誘引し、各店舗へ
のアクセスを容易にして、商店街全体の顧客誘引力を高
めることを主要な目的として一般公衆の利用に供されて
いるというべきである…本件各通路は、道路の機能のう
ち一般交通を確保するという機能を果たしているといえ
るものの、現に建物の敷地として利用されているほか、
一審原告らによって、いつでも制約される状況にあり、
実際にも、本件各通路の上空は、一審原告公社によって
利用され、本件各通路が何らの制約なく解放されている
とは言い難く、…都市機能の維持向上を図るという道路
の機能を十分に果たしているということも困難である。
そして…本件各通路は本件各建物の敷地として利用され
ており、一審原告らにおいて、本件各通路を使用収益し、
利益を享受しているものと認められる。以上によれば本
件各通路は『道路法にいう道路に準ずるもの』と認める
ことができない。…したがって、本件各通路は、
『公共の
用に供する道路』に該当するとは言えない。」
解説
1 固定資産税は、シャウプ勧告(シャウプ使節団に
よる日本の税制に関する報告書)を受けて行われた19
50年度の地方税制全面改正の一環として導入されたも
のであり、保有する固定資産(土地、家屋、償却資産)
を課税客体とする地方税である。さらには、固定資産税
は、固定資産の保有と市町村が提供する行政サービスと
の間に存在する受益関係に着目し、応能原則に基づき、
資産価値に応じて、所有者に対し課税する財産税である。
固定資産税は、地方税法348条2項により①国、地方
公共団体が所有する資産に対する非課税②用途による非
課税③非課税独立行政法人が所有する資産に対する非課
税の3つの非課税措置が取られている。
2 本件では、②用途による非課税が適用されるかが
問題となり、用途非課税は、国、地方公共団体以外の者
が所有する固定資産については、原則として課税がなさ
れるが、その固定資産の性格やその固定資産の供されて
いる用途にかんがみ、非課税措置が取られるというもの
である。用途による非課税になるものとして地方税法3
48条2項5号では「公共の用に供する道路。運河用地
及び水道用地」が非課税とされており、原告は、商店街
の通路部分が、この「公共の用に供する道路」に該当す
ると主張した。
3 本件商店街通路では、商品陳列可能範囲が赤い丸
い点で本件各通路上に描かれており、一審では、その商
品展示可能範囲が描いてある部分に関しては、
「公共の用
に供する道路」に該当しないとし、その他の、通路部分
に関しては、
「公共の用に供する道路」に該当するとの原
告の主張を一部認める判決を下したが、控訴審では、通
路全体が「公共の用に供する道路」に該当しないとした。
控訴審では、道路法の道路というには、公的機能を有す
る事に加え、その道路に関して「私権を行使できない」
という点が重視された。その際、建築基準法からの観点
でアプローチがなされ、建築基準法42条1項1号、4
4条1項では、原則として建築物を道路内または道路に
突き出して建築してはいけないとされており、この制限
が道路の交通、防火、避難の確保という機能に加えて、
道路の上空を開放空間として確保する事により、日照、
採光、通風等の環境を確保し、都市機能の維持向上を図
る機能を確保するためにあるとした。一審では通路の上
空に建物が存在していても、本件各通路の歩行者が当該
建物の利用者に多い事情が伺われないとして、上空に建
物が存在する事は、課税の判断に影響を及ぼさないとし
ていたが、上記の事を踏まえ、控訴審では、本件通路の
上空が、原告公社によって利用され、日照、採光、通風
等の環境を確保し、都市機能の維持向上を図るという道
路の機能を果たしていないとした。
4 「公共の用に供する道路」に関連する他の判例と
して、東京地判平成24・2・3〔平成23年(行ウ)
第424号〕がある。この事件では、問題となった本件
土地が建築基準法42条2項に規定する道路として指定
されていたが、のちに原告の申請に基づき同条の道路と
しての指定が廃止され、原告のビルが新設される際に、
本件土地が、建築基準法上、原告のビルの敷地とされ、
また、本件土地の上空には、ビルの x 階以上の部分が張
り出して存在していた。被告は本件土地にかかる平成2
2年度分の固定資産税及び都市計画税を賦課したが、原
告は、本件土地は地方税法348条2項5号にいう「公
共の用に供する道路」に該当するとして、賦課決定処分
の取り消しを求めた事案である。この事件でも、本件同
様に、建築基準法の観点から「公共の用に供する道路」
に該当するかが考えられ、私権を行使することができな
いとされる道交法にいう道路に準じるものであるという
ことはでず、私的財産としての利益を享受しているとい
うことができると解され、
「公共の用に供する道路」に該
当しないとされた。
5 「固定資産税は財産税であるので、課税物件を所
有していることそのものに着目して課税される税目であ
り、その所有者に利益を享受する可能性があるか否かに
着目し、非課税の対象になるかどうかを区分すべきもの
ではない。…新天町商店街通路の一部アーケードの上部
が突き出している場所が見られるが、土地の地表面の主
たる用途が道路であると認定できるのであれば、
『公共の
用に供する道路に準ずるもの』として非課税土地と認定
すべきである」との意見もある。
(山田 二郎 『月刊税
務事例』
(財経詳報社、2014-02)6頁)
6 「公共の用に供する道路」を考える際に、所有者
により何ら制約を設けていないこと、
「専ら」不特定多数
の用に供されていることのみを持って非課税措置を取る
ことは、課税基準を著しく緩めるものである。ビルの一
階部分は柱だけにし、そこを何ら制約せず、不特定多数
人が通行できる用にしてしまえば、それだけで「公共の
用に供する道路」に該当し、課税を逃れることができて
しまう。このような土地は、全国に多く存在するはずで
あり、これが認められれば、固定資産税の課税実務に大
きな影響を与えることになる。そのため、
「公共の用に供
する道路」に該当するかを考える際、不特定多数の用に
供されていることだけではなく、道路としての都市機能
の維持向上を確保するため私権を行使することが制限さ
れているかということは重要な問題となる。
●参考文献
○財務省自治税務局作成資料
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/road/dai15/15san
ko6.pdf 確認日2015年12月10日
○山田 二郎 「固定資産税の非課税と『公共の用に供
する道路』と固定資産税の非課税について:福岡・新天
町商店街を手がかりとして」 月刊税務事例 46(2)
1−6(2014—02)
○財務局資料
http://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/4177
0/1/0317zaiseikyoku.pdf 確認日2015年12月
10日
○佐藤 正勝 『租税法』115頁(同文館、2010)
42
Ⅱ租税実体法
固定資産税
22 法律上存在しない土地に係る固定資産税等
の誤納金不還付決定取消の不認定
神戸地裁平成24年12月18日民事部判決
(平成23 年(行ウ)第43 号:誤納金還付請求事件)
(平成23 年(行ウ)第78 号:過誤納金不還付決定等取消請求事件)
事実の概要
相続によって宝塚市内の本件土地を取得したとして、
同土地につき同市長から固定資産税及び都市計画税の賦
課決定(以下「本件賦課決定」という)をされるととも
に本件固定資産税等を納付してきたXが、本件土地が法
律上存在しないことが別件訴訟で確定したのであるから
本件賦課決定は当然に無効であるとして、平成 23 年4
月 28 日付で同市長に対し、民法 703 条、地方税 17 条及
び 17 条の4に基づき、平成 18 年度ないし 22 年度納付
の固定資産税(243 万円余)及び還付加算金の還付請求
を行った。これに対し、同市長は、
「宝塚市固定資産税及
び都市計画税過誤納金返還事務要綱」
(以下「本件要綱」)
2 条の所定の事由に該当しないため還付できない旨の通
知(以下「本件通知1」)を行った。またXは地方自治法
232 条の2及び本件要綱に基づき、同市長に対し、昭和
59 年度ないし平成 17 年度納付の固定資産税等及び利息
相当額(2305 万円余)の還付請求を行ったが、同市長は
やはり要綱 2 条所定の事由に該当しないため還付できな
い旨の通知(以下、本件通知2)を行った。Xが昭和5
9年度以降払い続けてきた本件固定資産税等相当額はい
ずれも誤納金となる旨主張して、次の訴訟を提起した。
Xが平成18年度から平成22年度までに納付した本
件固定資産税等及びこれに対する地方税法17条の4所
定の還付加算金ないし民法所定の遅延損害金の支払原告
を求める訴え、並びに昭和59年度から平成17年度ま
でに納付した本件固定資産税等相当額(ただし,主位的
請求については本件要綱所定の利息相当額を含む。)及び
本件固定資産税等相当額につき民法所定の年5パーセン
トの割合による遅延損害金の支払を求める訴え(甲事件)
本件通知1および本件通知2の取り消しを求める訴え
(乙事件)
神戸裁判所は乙事件についてはXの請求を却下。甲
事件は本件賦課決定が当初から無効であるとして、平成
18 年度から平成 22 年度まで納付した本件固定資産税等
についてはXの請求を一部認容した。
判旨
一部却下、一部棄却
乙事件争点1
「取消訴訟の対象となる「処分」とは,公権力の主体
たる国又は公共団体が行う行為のうちで,その行為によ
り直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定する
43
わ か ま つ ち こと
若松千琴
ことが法律上認められているものをいう(最高裁判所昭
和30年2月24日第一小法廷判決・民集9巻2号21
7頁,同39年10月29日第一小法廷判決・民集18
巻8号1809頁)ところ,原告が主張する過誤納金は
公法上の不当利得であり,その還付請求権の法的性質
は不当利得返還請求権に他ならないのであるから,還付
請求を受けた地方自治体の長の対応如何によって上記権
利の得喪が生じるものではない。」
甲事件争点2
「本件要綱に基づく返還金の支払は,地方自治法232
条の2に基づくものであり,本来私法上の贈与の性質を
有するものであるところ,かかる支給関係は被支給者の
申込みに対して行政庁が承諾することによって初めて成
立するのが原則であり,このような行政庁の行為が公権
力の行使としての性質を有するとはいい難い。また,本
件要綱は,被告の内部規定であって,法律,政令ないし
条例による委任を受けて定められたものではないから,
法規としての性質を持つものではない上,証拠(甲22,
29)によれば,本件要綱では返還金の支払対象者の決
定が被告市長の判断に委ねられる形式になっており(2
条,3条),返還を申し込む者に対して何らかの請求権を
与えるような規定は存在しないのであって,本件通知2
の内容も,本件要綱の規定に該当しない旨を形式的に通
知するにすぎないものと認められる。以上の点に照らせ
ば,本件要綱が,これに基づく宝塚市長の行為について
処分性を付与しているとは解せないというべきである。」
よって,本件各通知は,いずれも取消訴訟の対象となる
「処分」には当たらないと解すべきであるから,これら
の取消しを求める訴えは不適法である。
甲事件争点3
「課税処分における内容上の過誤が課税要件の根幹につ
いてのものであって,徴税行政の安定とその円滑な運営
の要請を斟酌してもなお,出訴期間の徒過による不可争
的効果の発生を理由として被課税者に当該処分による不
利益を甘受させることが,著しく不当と認められるよう
な例外的な事情のある場合には,上記の過誤による瑕疵
は,当該処分を当然無効ならしめるものと解するのが相
当である(昭和48年判決)。
」
「固定資産税等の課税客体
は,土地や家屋などの固定資産であるところ(法342
条1項,702条1項,341条1号,前提事実によれ
ば,本件土地は,本件賦課決定当初から登記簿上は存在
するものの実際には存在しない土地であったものと認め
られる。したがって,本件賦課決定は,課税客体という
課税要件の根幹に関わる過誤を有するものである。この
点について,被告は,固定資産税は固定資産課税台帳に
記載された情報に基づいて課税されるものであり,台帳
課税主義の適用があるとした上で,本件土地は,登記簿
上存在していたのであり,被告は台帳課税主義に基づい
て本件賦課決定をしたにすぎないから,その手続に何ら
違法性はない旨主張する。」
「原告の主張を整理すると,原告は,①本件要綱は法
が定める短期消滅時効の制約(18条の3第1項)を解
除するものであって,本件要綱に基づく請求の本質は民
法703条の不当利得返還請求権であること,②本件要
綱は定められた条件(本件要綱2条及び3条)を満たす
限り自動的に過払税額の返還を行うものであるから,地
方自治法232条の2及び本件要綱は,被告に対する請
求権を付与するものであることの2点を請求権の発生根
拠として主張するようである。」「しかし,法は,18条
の3第1項による時効消滅の利益は放棄することができ
ないとして,時効の絶対的効力を定めているところ(1
8条の3第2項,18条2項),原告の上記主張①は,実
質的にみて,かかる法の規定を無視するに等しい
上,
・・・・・本件要綱には具体的な請求権の発生根拠に
なるような規定はない。したがって,原告の上記主張①
及び②は,いずれも採用できない。」「また,仮に本件要
綱に基づく請求権が認められるとしても,本件要綱が市
行政に対する市民の信頼を維持することを目的とするも
のであること(1条)に照らせば,本件要綱は,被告職
員の事務処理上の誤りに基づき発生した過払税額に限定
されると解される。しかるに,前提事実によれば,原告
の過払税額が発生した原因は,分筆時の登記の過誤(登
記官の誤り)であるというのであって,当該過誤は外観
上明らかなものでなく,実地調査等によってこれを発見
することは著しく困難であったと認められる。したがっ
て,上記過払税額の発生につき,被告職員の事務処理に
誤りがあったとは認め難く,結局,本件要綱の適用はな
いというべきである。」
したがって,いずれにしても原告の主張には理由がない。
解説
1 争点は①本件通知1および本件通知2は処分性
を有するか、②X が平成 18 年度から平成 22 年度まで納
付した固定資産税相当額にかかる請求は認められるか③
X が昭和 59 年度から平成 17 年度までに納付した固定資
産税相当額に係る返還請求は認められるか、である。
2 処分性とは、ある機関の行為が、「行政庁の処分
その他公権力の行使」
(行政事件訴訟法3条2項)にあた
ることをいう。処分性の認められない行為を対象として
取消訴訟を提起しても、訴えは不適法なものとして却下
されることになる。また過誤納金は「過誤納に係る地方
団体の徴収金」
(地方税法 17 条)を意味する。過納金と
は,いったん有効な(しかし違法な)納税申告・更正処分・
賦課決定等によって確定された税額が納付または徴収さ
れたのち,減額更正処分・取消判決等がなされることによ
って減少した税額に相当する金額である。誤納金とは,
例えば無効な更正処分・賦課決定等に基づき納付・徴収さ
れた場合,税額が確定される前に法令に基づかず納付・
徴収がなされた場合,納税申告・更正処分等によって確定
した税額を超えて納付・徴収がなされた場合,あるいは時
効により消滅した納税義務につき誤って納付・徴収がな
された場合に,返還されるべき金額をいう。過誤納金の
還付等について行政庁の措置が取消訴訟の対象としての
処分性を有するか否かだが、本件では、還付請求権の発
生が行政庁の処分を必要としないことを考慮すれば還付
に処分性を認める事はできないであろう。また、本件要
綱 5 条は「返還の支払い請求」を定めるが、その法的性
質を明示していない。しかし地方税によれば過誤納金の
還付を行うことができず、請求権も消滅している場合に
関して定めることから、同法の射程距離を超えた部分に
ついて本件要綱が事実上の救済措置を定めるにとどまり、
返還金の支払い請求権を法的なものとして発生させてい
るわけではない、と解すことができる。また、本件判決
は返還金の支払いを地方自治法 232 条の2に基づくもの
と解しており、これが妥当であるとするならば、返還金
の支払い請求は贈与契約の申込ということになる。よっ
て本件通知1・2は処分としての性格は認められないと
解される。
3 本件においてはそもそも存在しない土地に固定
資産税が賦課されており、事実認定による限りは別件訴
訟の確定まで原告が本件賦課処分を争うことは困難であ
った。したがって平成 18 年度から平成 22 年度までの5
年間の納付分については地方税法 17 条が適用されるべ
きであって、本件要綱とは無関係に誤納金の還付義務が
発生することになる。また、法律上存在しない土地は課
税客体たりえないので台帳課税主義の適用は認めるべき
ではない。台帳課税主義とは,固定資産税の課税を固定
資産課税台帳に登録されたところに従って行うという建
前をいい,その具体的な現れとして,法は,固定資産税
等について固定資産課税台帳に所有者として登録されて
いる者を納税義務者とし,そこに登録された固定資産の
価格を課税標準として課するとしている。
一方、昭和 59 年度から平成 17 年度までの納付分は、
地方税の射程距離を超えており、その部分については本
件要綱が事実上の救済措置を定めるものである。また、
本件要綱6条によると、固定資産税および都市計画税過
誤納金返還金支払い請求書を受理したときはその内容を
審査し返還金の額を確定することとされており、市長に
一定の裁量が認められることも否定できない。
本件の場合、無効原因となる瑕疵が宝塚の職員にでは
なく、登記官の過誤によると判定されたので、本件賦課
処分自体は無効であるが、宝塚市には無効原因となる瑕
疵が存在しないこととなる。
4 X は本件請求を国家賠償法 1 条 1 項に基づいて損
害賠償請求を提起しなかった。しかし、国家賠償法の損
害請求をした場合認められるのだろうか。本件賦課税処
分の場合、先述した通り課税処分の違法の瑕疵、無効原
因たる瑕疵が宝塚市の職員ではなく、登記官の過誤に起
因する、つまり被告自身に起因していないため、国家賠
償法の観点からしても宝塚市に故意過失は存在しなかっ
たこととなる。
●参考文献
○新・判例解説 Watch
租税法 N0102
森 稔樹
44
Ⅱ租税実体法
附帯税
23 減額更正後に増額更正がされた場合
における延滞税の成立の可否
お や い ず ゆ い
大柳豆優衣
最高裁平成26年12月12日第二小法廷判決
(平成25年(行ヒ)第449号:延滞税納付債務不存在確認等請求事件)
(裁時1618号1頁)
事実の概要
本件上告人ら(X1、X2)は、法定申告期限内に相続税
の申告及び納付をした後、その申告に係る相続税額が過
大であるとして、更正の請求をした。所轄税務署長にお
いて、相続財産の評価の誤りを理由に減額更正をすると
ともに、還付加算金を加算して過納金を還付した。
その後、所轄税務署長は再び相続財産の評価の誤りを
理由に増額更正をし、これにより新たに納付することと
なった本税額につき、国税通則法(平成 23 年法律第 114 号
による改正前のもの。以下「法」という。)60条1項2号、2
項及び61条1項1号に基づき、法定納期限の翌日から
完納の日までの期間(ただし、法定納期限から1年を経過する
日の翌日から上記の増額更正に係る更正通知書が発せられた日ま
での期間を除く。)に係る延滞税の納付の催告をした。
本件は、このことを受けて、上告人らが上記の延滞税
は発生していないとして、その納付義務がないことの確
認を求めた事案である。
判旨
第一審
控訴審
上告審
請求棄却。
控訴棄却。
破棄自判。
「原審は、本件各相続税のうち本件各増差本税額に相当
する部分について本件期間に係る延滞税は発生しており、
上告人らはその納付義務を負うものであるとして、上告
人らの請求を棄却した。
本件のように、国税の申告及び納付がされた後に減額
更正がされると、減額された税額に係る部分の具体的な
納税義務は遡及的に消滅するのであり、その後に増額更
正がされた場合には、増額された税額に係る部分の具体
的な納税義務が新たに確定することになるのだから、新
たに納税義務が確定した本件各増差本税額について、更
正により納付すべき国税があるときに該当するものとし
て、法60条1項2号に基づき延滞税が発生するものと
いうべきである。」
「しかしながら、原審の上記判断は是品することができ
ない。その理由は、次のとおりである。」
「本件各相続税のうち本件各増差本税額に相当する部分
については、それぞれ減額更正と過納金の還付という課
税庁の処分等によって、納付を要しないものとされ、未
納付の状態が作出されたのであるから、納税者としては、
本件各増額更正がされる前においてこれにつき未納付の
状態が発生し継続することを回避し得なかったものとい
45
うべきである。」
「延滞税は、納付の遅延に対する民事罰の性質を有し、
期限内に申告及び納付をした者との間の負担の公平を図
るとともに期限内の納付を促すことを目的とするもので
あるところ、
・・・本件各相続税のうち本件各増差本税額
に相当する部分について本件各相続税について本件各増
額更正の納期限までの期間に係る延滞税の発生は法にお
いて想定されていないものとみるのが相当である。」
「したがって、本件各相続税のうち本件増差本税額に相
当する部分は、本件各相続税の法定納期限の翌日から本
件各増額更正に係る増差本税額の納期限までの期限につ
いては、法60条1項2号において延滞税の発生が予定
されている延滞と評価すべき納付の不履行による未納付
の国税に当たるものではないというべきであるから、上
記の部分について本件各相続税の法定期限の翌日から本
件各増差本税額の納期限までの期間に係る延滞税は発生
しないものと解するのが相当である。」
解説
1 延滞税は成立と同時に確定する(法15条3項6号)
ので、何時成立するかが問題となる。
「国税通則法コンメ
ンタール」1は、延滞税の成立・確定について、「延滞税
は、国税に関する法律の定める課税要件に該当する事実
が発生したときに成立する。すなわち、本税が法定納期
限を経過しても、なお納付されない事実が生じた時に成
立すると考えられている。
(ただし、昭和39年7月7日
大阪高裁は、1日ごとに確定的に成立するとしている。)
」
と解説している。
これに対し、延滞税の前身である利子税及び延滞加算
税についてであるが、昭和45年大阪高裁判決(昭和3
「所定の
9年大阪高裁判決の差し戻し控訴審判決2)は、
納税を怠った者に対し法律によって課する遅延利息の実
質を有し滞納日数に応じて日々発生するものである」と
する。
また、現行の延滞税について、金子宏教授は、その納
税義務の成立時期について、
「法定納期限経過後、1日ご
「延滞税の
とにその日の経過する時」とする。3そして、
納税義務は、その基礎をなす租税の納税義務とは別個独
立のものであり、その基礎をなす租税の納付の遅延に対
応して1日ごとに成立・確定すると解される」とする。
4
延滞税の計算は法定納期限を基準に行うことが原則で
あることから、法定納期限を基準に計算しない場合につ
いては例外的に解すべきであり、射程を限定することは
妥当である。本件のように、1回目の減額更生と同様の
事由に後発的事由が加わって2回目の増額更生がされ、
増額更生の税額が当初申告時に納付した税額を下回る場
合に、延滞税の計算を後発的事由による額分のみ別に行
うことが可能か、可能であるとしてもそれが適当である
のかは疑問である。
結局のところ、現行の延滞税の規定では、延滞税が法
定納期限を基準に計算されるのが妥当であり、これを基
準としたい場合は例外的であるとし、個別に検討する必
要がある。
2 法60条1項は、納税者は、次の各号の一に該当
する時は、延滞税を納付しなければならないとし、2号
において更正を受けた場合につき、
「納付すべき国税があ
るとき。
」と定める。
法60条2項は延滞税の額について、法定納期限の「翌
日からその国税を完納する日までの期間の日数に応じ、
その未納の税額に年 14.6 パーセントの割合を乗じた額と
する。
」と定めている。
本件のように、法定納期限後一定期間過納の状態があ
ったとしても、それは別途還付金及び還付加算金の処理
として解決されているのであり、延滞税の計算に影響を
与えることはないとするのが、一審判決5及び控訴審判
決6の判断であった。
これに対して、本判決の多数意見は、法定納期限から
更正による増加税額の納期限までは、延滞税は発生しな
いとした。その法的根拠は、
「法60条1項2号において
延滞税の発生が予定されている延滞と評価すべき納付の
不履行による未納付の国税にあたるものではないという
べきである」とする。そして、
「判断の変更をした課税庁
の行為」により未納付額が発生したのであり、当初から
正しい土地の評価に基づく減額更生がされた場合と比べ
て税負担が増加することになる。これでは上告人らは回
避し得ない不利益を被ることになる。よって、これに課
税することは、「明らかに課税の衝平に反する」とする。
延滞税は、私法上の債務関係における遅延利息に相当
し、納付遅延に対する民事罰の性質を持つと言われてい
る。しかし最高裁は、法定納期限内に増額更生後の税額
を上回る額を一旦官能していたという事実を考慮に入れ、
再び未納付の状態が作出されたのは課税庁の過納金還付
によるものだと指摘している。つまりこのような納税者
にとってやむを得ない事情に基づくような場合には、還
付前の期間に係る延滞税は免除されるとする考えが主張
されていた。
小貫裁判官の意見はこれと異なり、過納金の還付前の
期間については、納付すべき国税は存在しないとする。
この見解は、常識的に肯けるが、法規定上でこの期間だ
け除く根拠があるのだろうか。小貫意見はそれについて
触れていないが、考えられるのは、法60条2項の延滞
税額の計算の規定である。この規定では、
「期間の日数に
応じ、その未納の税額に」14.6%を乗じると定めている。
延滞税は、更正等によって未納付の課税要件を充足し
た後も、現実に完納するまでの期間について成立するの
であるから、延滞税は日々成立確定すると解すべきであ
ろう。以上の考えと整合する小貫意見の見解は、正当と
考える。
3 延滞税には2つの性質があると解される。遅延利
息の性質と法定納期限内に納付した者との負担の公平の
性質である。
現行の延滞税は、法制定前に設けられていた利子税と
遅延加算税を統合したものである。遅延加算税は、明治
時代の延滞金を引き継ぐもので、督促状の指定期限まで
に完納されない税額につき課すもので、遅延利息に相当
するものである。
利子税は昭和22年の申告納税制度導入により設けら
れた税で、当初加算税と呼ばれていた。申告納税制度の
下で、法定申告期限(法定納期限)までに申告がなかっ
た場合に、納税者に何等かの負担が生じたとすれば、適
正な申告を行い法定納期限内に納付をした納税者との公
平を欠くことになる。しかし、税額が未確定で具体的な
納期限が未到来である期間について、延滞加算税を課す
ことはできない。そのため、法定納期限の翌日から納付
の日まで日歩4銭の利子税を課すこととされていた。負
担の公平を目的とするものである。現在の延滞税は法定
納期限の翌日から税額未確定の時期を通じて成立するの
は、その理由である。
このことは、申告納税制度の下では、納税者が税額確
定の主体であり、その義務があるとの考えを前提として
いる。
4 本判決では、減額更正により還付した後に増額の
更正をした場合は、一度納付した部分の増差税額につい
て法定納期限の翌日から更正による増差税額の納期限ま
での期間、延滞税は発生していたとの解釈を示した。し
かし、その結論に至る論理は必ずしも明確ではない。
しかし、更正による増差税額について、一時的に納付
があったことと関係なく、法定納期限の翌日から延滞税
を計算する課税実務を見直したことは、極めて重要であ
ると考える。
●参考文献
○今本啓介 ジュリスト 2015 年 11 月 103-106 頁
○庄司範秋「会計・監査ジャーナル 27(9) 2015 年 9 月
55-57 頁」
1)武山昌輔監修「DHC国税通則法コンメンタール」
(第一法規、1981年)3333頁
2)大阪高判昭45・4・17判時596号30頁
3)金子宏「租税法[19 版]」
(弘文堂、2014年)72
4頁
4)金子宏・前掲注3)書735頁
5)東京地判平24・12・18裁判所ウェブサイト
6)東京高判平25・6・27裁判所ウェブサイト
46
Ⅲ租税処罰法
租税犯
24 住所の仮装と「偽りその他不正の行為」
か と う ま お
東京高等裁判所 平成16年2月23日 判決
(平成15年(う)第2540号:所得税法違反被告事件)
(判時1863号147頁)
事実の概要
X(被告人)は昭和 30 年代半ばから不動産賃貸業を開
始した。その後、埼玉県、千葉県、茨城県、栃木県内に
多数の賃貸不動産を所有し賃貸料等の不動産収入を得て
いた。
X は昭和 42 年頃から埼玉県草加市に居住していたが、
平成 4 年 3 月に川口税務署長に平成 3 年度分の所得税確
定申告書を提出したところ、税務調査を受けて所得税を
追加徴収された。それに加え、次女や自分たち夫婦の将
来のために蓄えをしたいという気持ちから、X は確定申
告書を提出しないことにした。
しかし X は平成 4 年度分までは確定申告書を提出して
いたため、平成 5 年度分の確定申告書を提出しないと川
口税務署から税務調査を受けることになると考えた。そ
こで同税務署の管轄区域外に転居し、住民登録を移すこ
とにした(平成 5 年には東京都足立区、平成 6 年には軍
馬県館林市)。更にこの後、何度も住民登録だけを移すこ
とを行い、虚偽の住民登録を繰り返した。また、実兄名
義の土地を無償で使用し、X が居住しているように装う
ためにプレハブ小屋を建てることもしていたが実際に寝
泊まりしたことはなかった。
更に X は税務調査を免れる目的ですべての不動産賃貸
借契約書の賃貸人の住所欄に、実際には居住していない
住所を記載していた。
これらの行為は所得の把握を困難にさせ、違法性、悪
質性の点で単純不申告とは異なり、
「偽りその他の不正行
為」にあたると原判決は判断した(宇都宮地裁 平成 15
年 9 月 5 日 : 平成 15(わ)第 326 号)
。しかし、X の弁
護人は単純不申告罪が成立するにすぎないと主張し、控
訴した事例である。
判旨
控訴棄却。
本件において X が「所得税逋脱の意思で、・・・虚偽の住
民登録をしたり、不動産賃貸借契約書の賃貸人の住所欄に、
実際には居住していない・・・住所を記載したりするなどした
(以下、これらを「本件工作」という。)上、・・・所得税確定申
告書を所轄税務署長に提出しなかったことは明らかであ
る。」
虚偽不申告ほ脱犯については、「租税ほ脱犯(所得税の場
合は所得税法 238 条 1 項)の実行行為である「偽りその他不
正の行為」に当たるのは、所得秘匿工作を伴う不申告の行
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加藤麻緒
為であり、所得秘匿工作を伴わない単純不申告は、たとえほ
脱の意思のよりなされた場合であっても、前記の不正行為に
は当たらない。」
本件工作については、「公表帳簿への虚偽記載、二重帳簿
の作成等の典型的な所得秘匿工作は行われていない
が、・・・被告人は、将来の税務調査を予期し、これにより自己
の所得を捕捉されることを免れるため、自己の所在を偽る本
件工作をしたことは明らか」だとしている。更に「本件工作は、
偽りを手段として税務当局による所得の把握を困難にさせる」
とした。
以上のことから「本件工作を伴う不申告の行為は・・・「偽り
その他不正の行為」と評価することができ、所得税法 238 条
1 項のほ脱罪を構成するというべきである。」よって「所得税
法 238 条 1 項を適用しては脱罪の成立を認めたことは正当
であって、原判決に・・・法令適用の誤りはない。」
解説
1 確定申告とは、1 月 1 日から 12 月 31 日までの 1
年間の所得の合計に対する税額を計算し、申告・納税す
る手続きのことである(所得税法 120 条)
。
また故意・不意にかかわらず 3 月 15 日までに申告・
納税をしないと、無申告加算税、重加算税等の罰が発生
する。この無申告加算税とは、確定申告を 3 月 15 日ま
でに行わない場合に課せられる罰則的な税金である(国
税通則法 66 条 1 項)
。ただし「正当な理由」があればそ
の罰は軽減される。しかしこの「正当な理由」をめぐっ
て、様々な判例がある。
「正当な理由」が認められた事例として、受遺者の 1
人が遺贈の一部を放棄したことによって相続財産を取得
し、相続税の申告書を提出した場合がある(国税不服審
判所 平成元年 6 月 8 日 : 裁決事例集 37 集1項)。受遺
者が放棄したことによって初めて取得したと認められる
部分についてのみ「正当な理由」が認められた。
「正当な理由」が認められなかった事例は数多い。1
つ取り上げると、納税申告書をその法定申告期限内に郵
便ポストに投函したが、郵便の取り集め時間後であった
ため通信日付が翌日となり期限後申告となった事例があ
る(国税不服審判所 平成 9 年 3 月 27 日 : 裁決事例集
53 集 88 頁)
。ポストの取り集め時間の確認不足、職業多
忙のため、ポストと同距離の郵便局に行かなかったこと
等から、
「正当な理由」があるとは認められなかった。
重加算税とは、仮装隠蔽している事実があった場合に
課せられる罰則である(国税通則法 68 条)
。無申告加算
税同様、追加徴税されるものである。
2 (ア) 租税ほ脱犯とは納税義務のある者が「偽りそ
の他不正の行為」により規定された所得税を免れること
である(所得税法 238 条 1 項)。この不正行為に当たる
のは、所得秘匿工作を伴う不申告の行為であるとされて
いる(最三小 昭和 63 年 9 月 2 日 : 刑集 42 巻 7 号 975
頁)
。
(イ) 単純不申告とは正当な理由がないにもかかわら
ず、所得税法によって規定された申告書をその提出期限
までに提出しないことをいう(所得税法 241 条)。ただ
し実情によっては規定された刑を免除することができる
のだ。
所得秘匿工作を伴わない単純不申告は、たとえほ脱の
意思があったとしても、不正行為には当たらないとして
いる
(最三小 昭和 38 年 2 月 12 日 : 刑集 17 巻 3 号 183
頁)
。
(ウ) 国税通則法 70 条 5 項では「偽りその他不正の行
為により税額の全部若しくは一部を免れたときの更正決
定は・・・法定申告期限から 7 年を経過する日まで」と規定
している。これは除斥期間について定めたもので、これ
が適用されるためには「偽りその他不正な行為により税
を免れたとき」であると解することができる。
ほ脱犯が成立した場合、刑罰の公訴時効は 5 年だが前
述したように国税通則法での除斥期間は 7 年である。つ
まり遡及期間に 2 年の差異が生じているのだ。これらの
ことから公訴時効が成立しても除斥期間が未経過であれ
ば、課税庁は課税権を行使し重加算税による行政制裁が
可能となる。
(エ) 「偽りその他不正の行為」が「隠蔽・仮装行為」
と重なり合うというのが今日における通説となっている。
また納税者本人だけでなく、代理人が「偽りその他不正
「納税者は代理人が不正
の行為」により税を免れた場合、
の行為に及ぶことを了知していた」と判断し除斥期間 7
年を認めた例もある(最二小 平成 17 年 1 月 17 日 : 最判
集 59 巻 1 号 28 頁)。
納税者に刑事責任を追及する「偽りその他不正の行為」
は検察庁が立証責任を負うのに対し、行政制裁である重
加算税は課税庁が「隠蔽・仮装行為」があったかどうか
を立証すべきである。そのためには納税者が初めから過
少申告やほ脱の意思を抱いていたことを証明する必要が
あるとされている(最二小 平成 7 年 4 月 28 日 : 民集 49
巻 4 号 1193 頁)。つまり納税者の意思の推定だけでは足
りず、二重帳簿を作成したなどの具体的な行動を明らか
にしない限り立証できないのだ。
3 本件では X が実際には居住していない住民登録
をし、不動産賃貸借契約書にそれを記載することによっ
て事業実態を隠していた。これによって所得を秘匿し、
所轄税務署長に所得税確定申告書を提出しなかったのだ。
これら X の行ったことが「所得秘匿工作」、
「偽りその他
不正の行為」に該当するかが問題となる。
本件の行為について検討すると、X は将来の税務調査
を予期し自己の所得の捕捉を免れる為に本件工作をした
ことが明らかである。原則として、税務署は所轄区域内
に居住する納税義務者を対象として税金を徴収する。本
件工作によって実際にその管轄区域内に居住しているに
もかかわらず、自分の納税地は区域外であると主張すれ
ば所得の捕捉が困難になるだろう。
よって本件工作は「隠蔽・仮装行為」に該当するとい
えるため、
「偽りその他不正の行為」であると解すること
ができる。本件工作は典型的な「所得秘匿工作」と変わ
るところはないため「所得秘匿工作」に該当するといえ
る。更に本件工作はただ申告をしていない、忘れたとい
う単純不申告とは違法性・悪質性が異なる。
以上のことから本件における X の行為は「所得秘匿工
作」であり「偽りその他不正の行為」に該当する。
4 本件のほ脱税額は少ないものではなく、「ほ脱率
も通算100%に達している」とのことである。X はほ
脱の意思で所得税の確定申告を行わず、虚偽の住民登録
を繰り返していた。X は次女のため、自分たち夫婦のた
めにの貯蓄を理由にしているが、これらは自己中心的な
もので、所得税ほ脱の動機として、酌量すべき事情では
ないといえる。
原判決の量刑が重すぎるとして争われたが、執行猶予
期間、罰金額ともに重すぎて不当であるとはいえないと
判断している。
5 重加算税のほかに罰金等の刑罰も科すると憲法
違反になるとの意見もある。経済的に二重の負担となり、
二重処罰的効果を生じてしまうためだ。その為、重加算
税と罰金等の刑罰の両方ではなく重加算税のみを課すべ
きだとする意見である。
しかし、重加算税と罰金等の刑罰とではその趣旨や性
質が異なる。重加算税とは納税者が過少申告をするにつ
き隠蔽または仮装という不正手段を用いた場合に課され
るものである。一方罰金はあくまで刑罰の一種であり、
これは社会通念上不正と認められる行為に科されるもの
である。
よって同一のほ脱行為に対して、重加算税のみでなく
その他罰金等の刑罰を科しても、その趣旨・性質の違い
から憲法39条に違反するものではないとした(最二小
昭和45年9月11日 : 刑集24巻10号1333頁)。
6 単純不申告と所得秘匿行為による不申告の境界
をもう少し明確にすべきだと考える。確定申告は誰かか
ら説明されるわけでもないので、知識が曖昧なまま申告
し、過少申告加算税等の罰則を受けてしまうことがある。
収入を得る者にはきちんと企業側等から確定申告に関し
ての講習等を行い、理解を深めることも必要だと感じた。
●参考文献
○東京高等裁判所(刑事)判例時報 1~12 巻 1~12 号 3 頁
○高等裁判所刑事裁判速報集(平 16)58 頁
○「重加算税と偽りその他不正の行為との関係」中井稔
『税法学』 第 564 号 119~129 頁
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