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教育機関等に派遣する講師及び家庭教師に対する報酬が給与所得に

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◆ 2015 年 2 月 13 日掲載 新・判例解説 Watch ◆ 租税法 No.114
文献番号 z18817009-00-131141180
教育機関等に派遣する講師及び家庭教師に対する報酬が給与所得に該当するとされた
事例
【文 献 種 別】 判決/東京高等裁判所
【裁判年月日】 平成 25 年 10 月 23 日
【事 件 番 号】 平成 25 年(行コ)第 224 号
【事 件 名】 源泉所得納税告知処分取消等請求控訴事件
【裁 判 結 果】 棄却
【参 照 法 令】 所得税法 28 条、消費税法 2 条、日本国憲法 49 条、国税通則法 65 条・67 条
【掲 載 誌】 裁判所ウェブサイト
LEX/DB 文献番号 25502630
……………………………………
……………………………………
1 「当裁判所も、控訴人の請求はいずれも理
事実の概要
由がないものと判断する。その理由は、後記 2 の
株式会社X(原告・控訴人) は、教育機関又は
とおり当審における控訴人の主張に対する判断を
一般家庭から講師による講義又は家庭教師による
個人指導の業務をそれぞれ受託する一方で、講師
付加するほかは、原判決の『事実及び理由』中『第
3 当裁判所の判断』に記載のとおりであるから、
等との間で業務委託契約を締結し、契約書に所定
これを引用する。」
の金員を支払っていた。
Xは、(1) 講師等に対して支払った本件各金員
が所得税法 28 条 1 項に規定する「給与等」に該
2 (1) 最 高 裁 昭 和 56 年 判 決( 最 二 小 判 昭
当しないものとして、平成 15 年 10 月分から同
19 年 10 月までの各月分の源泉所得税を徴収せ
21073190)
)
、最高裁平成 13 年判決(最二小判平
56・4・24 民集 35 巻 3 号 672 頁(LEX/DB 文献番号
13・7・13 裁 判 集 民 202 号 673 頁(LEX/DB 文 献 番
ず、また、(2) 本件各金員が消費税法上の仕入税
号 28061441)
)及び最高裁平成 17 年判決(最三小
額控除の対象となることを前提として、平成 17
年 8 月課税期間、同 18 年 8 月課税期間及び同 19
判 平 17・1・25 民 集 59 巻 1 号 64 頁(LEX/DB 文 献
番号 28100276)
)は、
「当該所得が給与所得に該当
年 8 月課税期間の消費税の申告をしていた。
するかどうかに関し、これを一般的抽象的に分類
これに対し、所轄税務署長は、(1) 本件各金員
すべきものではなく、その支払(収入)の原因と
は給与所得に該当するとして、源泉所得税の納税
なった法律関係についての当事者の意思ないし認
告知処分等をし、(2) 本件金員を対価とする役務
識、当該労務の提供や支払の具体的態様等を考察
の提供を受けたことは課税仕入れに該当しないと
して客観的、実質的に判断すべきことを前提とし
して、消費税の更正処分等をした。そこで、Xが
て、それぞれの事案に鑑み、いわゆる従属性ある
国Y(被告、被控訴人) に対してこれらの処分の
いは非独立性などについての検討を加えているも
取消しを求めたものが本件である。原審である東
京地判平 25・4・26 裁判所ウェブサイト(LEX/
のにすぎず、従属性が認められる場合の労務提供
DB 文献番号 25512269。以下、
「本件地裁判決」
)では、
しても(したがって、そのような観点から従属性
Xの請求はいずれも棄却されている。
を示すものとされる点の有無及び内容について検
の対価については給与所得該当性を肯定し得ると
討するのは何ら不適切なものではない。)、従属性
判決の要旨
をもって当該対価が給与所得に当たるための必要
棄却。
(2) 「給与所得に該当することが明らかな国会
vol.17(2015.10)
要件であるとするものではない」。
1
1
新・判例解説 Watch ◆ 租税法 No.114
議員の歳費や会社の代表取締役の役員報酬・役員
は、とりわけ、給与支給者との関係において何ら
賞与などは、それらの者の労務の提供が従属的な
かの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし
ものとはいい難く、従属性を必要要件とする解釈
断続的に労務又は役務の提供があり、その対価と
は、歳費及び賞与を給与所得として例示列挙する
所得税法 28 条 1 項の解釈として採り得ない(控
して支給されるものであるかどうかが重視されな
訴人が挙げる職務専念義務などによって従属性に
属性ないし非独立性を給与所得該当性の判断基準
おける指揮命令関係を直ちに肯定することはでき
としたものと理解され、その後の判決においても
ない。
)
。
」
繰り返し引用されている。
ければならない。」と判示している。これは、従
本件地裁判決は、最高裁昭和 56 年判決を引用
判例の解説
したうえで、下記の 3 点を説明して、従属性は給
一 本判決の背景
1 給与所得該当性の判断基準
れた判断基準は、「飽くまでも『判断の一応の基
本判決は、給与所得と事業所得の限界領域にあ
準』にとどまるものであって、業務の遂行ないし
る金員の給与所得該当性が問題となった事例であ
労務の提供から生ずる所得が給与所得に該当する
ための必要要件を示したものではない」。第 2 に、
与所得に該当するための必要要件とはいえないと
判断した。第 1 に、最高裁昭和 56 年判決に示さ
る。給与所得とは、「俸給、給料、賃金、歳費及
び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所
給与所得の概念は、所得税法 28 条 1 項に例示さ
得」をいう(所得税法 28 条 1 項)。これに対して、
れているものの性質から帰納的に把握するほかな
事業所得とは、
「農業、漁業、製造業、卸売業、
いところ、国会議員が受ける歳費や法人の役員が
小売業、サービス業その他の事業で政令で定める
受ける報酬及び賞与が給与所得に含まれることは
ものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該
明らかであるが、「これらの者の労務の提供等は、
「政
当するものを除く。)」をいい(同法 27 条 1 項)、
令で定めるもの」とは、同法施行令 63 条 1 号な
自己の危険と計算によらない非独立的なものとは
いし 12 号に列挙される事業をいう。
のであるとはいい難い」ことから、従属性が給与
給与所得と事業所得とでは、当該金員の受領者
側において、必要経費の実額控除が認められるか
所得に該当するための必要要件であると解するこ
とはできない。第 3 に、最高裁平成 17 年判決が、
どうかという点について差異が生じるほか、支払
法人の代表取締役が親会社から付与されたストッ
者側においても、所得税法上源泉徴収義務が生じ
クオプションを行使して得た利益について、給与
るかどうかという点(所得税法 6 条、所得税法 183
所得に当たると判示しているのも、「以上に述べ
条 1 項)及び消費税法上その支払いが課税仕入れ
たような考え方を前提としたものである」。本件
に該当するかどうかという点(消費税法 2 条 1 項
高裁判決は、こうした地裁判決の見解を支持する
12 号、30 条)において差異が生じる。本件では、
ものである(判決の要旨1、2)。
いい得ても、使用者の指揮命令に服してされたも
支払者側に対する課税が問題となっている。
給与所得と事業所得の区別については、先例で
ある最高裁昭和 56 年判決(判決の要旨2(1)) が、
2 事実のあてはめ
その「判断の一応の基準」として、
「事業所得とは、
て、本件地裁判決は、①本件講師等が原告のため
自己の計算と危険において独立して営まれ、営利
に労務の提供等をしたことの対価としての性質を
性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意
有すること、②本件講師等が費用負担の義務を
思と社会的地位とが客観的に認められる業務から
負っていないことに鑑みれば、当該労務の提供等
生ずる所得をいい、これに対し、給与所得とは雇
は、自己の計算と危険によるものとはいい難いも
傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指
のであって、非独立的なものであること、③本件
揮命令に服して提供した労務の対価として使用者
講師等は、直接的又は少なくとも間接的に原告の
から受ける給付をいう。なお、給与所得について
監督下におかれていること、④本件講師等は、原
2
本件各金員が給与所得に該当するか否かについ
2
新・判例解説 Watch
新・判例解説 Watch ◆ 租税法 No.114
告から空間的、時間的な拘束を受けているという
三 従属性と非独立性の関係
点を認定したうえで、
「これまで述べた事情を総
本件地裁判決は、非独立性の有無を自己の計算
合すれば、本件各金員は、雇用契約に類する原因
と危険によるか否か(=費用と収益の負担) とい
に基づき提供された非独立的な労務の対価として
う観点から判断している(事実のあてはめ②)。従
給付されたもの」として、給与所得に当たると判
属性は労務の態様についての基準であるのに対し
断した。この点についても、本件高裁判決は本件
て、非独立性は所得の態様についての基準である
といえる。したがって、これらが別個の 2 つの要
地裁判決の判断を支持している(判決の要旨1)。
件であることを前提としていると考えられる1)。従
二 従属性の内容
属性と非独立性が別個の基準であるとした場合、
これまで、具体的にどのような事実をもって従
両者の関係をどのように理解すべきであろうか? 属性や非独立性といった基準を判断するのかとい
また、両者の関係で、従属性要件が必要要件とな
う点や、両者がどのような関係にあるのかという
るか否かはどのように理解できるだろうか?
点は、必ずしも明らかでなかった。
Xは、給与所得の本質的な性質として従属性が
本件地裁判決は、「労務の従属性」という言葉
必要であると主張する。これに対して、Yは、従
を「労務の提供等が使用者の指揮命令を受けこれ
属性要件は、従属性が強く認められる場合にその
に服してされるものであること」という意味で用
労務の非独立性が推認されるという性格を有して
いているが、どのようなどの程度の指揮命令関係
が求められるのであろうか? 東京地判平 24・9・
おり、その意味で、従属性が希薄であることをもっ
21 公刊物未登載(LEX/DB 文献番号 25497045)は、
立性が明らかであれば給与所得と判断するのが相
て、給与所得該当性を否定すべきではない、非独
「使用者の指揮命令に服して労務を提供するもの
当であると主張する。
であるか否かは、労務提供の形態、すなわちその
本件地裁判決(及び本件高裁判決) が従属性は
業務を行う対象、場所、時間などを他者が決定し、
給与所得該当性の必要要件ではないと判断したこ
それに従って労務や役務の提供が行われているか
とについては上述したとおりである。これに対し
否かという問題であって、業務遂行に必要な様々
な判断が自分自身でできるからといって、他者の
てはすでに批判があり2)、議論すべき点がある。
第 1 の点については、最高裁昭和 56 年判決が「判
指揮命令に服していないということにはならない
断の一応の基準」と述べているのは、例外が認め
と解すべきである」と述べている。ここでは、従
られる余地がありうることを意味するものであ
属性は「空間的、時間的拘束」を含めて判断する
ものと理解されている。これに対して、本件地裁
り、原則として従属性が必要であると解すべきで
あるとの反論がありうる。第 2 の点については、
判決は、講師等に原告が研修や指導を行う必要性
本件地裁判決は、その報酬が給与所得に該当する
が高かったこと、契約において講師等は原告に対
ことが明らかである国会議員や役員について、こ
して業務の遂行状況を報告することが義務づけら
れらの者については労務の従属性が認め難いた
れ、委託条件の漏洩などについての義務が課され
め、従属性は給与所得の必要要件ではないと解す
るが、これに対して、たとえば国会議員でいえば、
ていること等といった事実に基づいて従属性の有
無を判断しており、「空間的、時間的拘束」につ
「出席すべき委員会やそこでの議事の対象、委員
いてはこれとは別に検討を行っている(事実のあ
会や本会議が行われる日時や場所など……につい
てはめ④)。また、従属性が認め難い場合であっ
て、他者に規律されて職務を遂行し」ているとい
ても、空間的、時間的な拘束を受けているか等の
う点において、指揮命令関係に服していると考え
諸要素を総合的に考慮した結果として、給与所得
れば、その労務には従属性が認められるというこ
に該当しうる旨を述べており、あくまでも場所や
とになる3)。つまり、「空間的、時間的拘束」を
時間についての指揮命令関係は従属性の要素とし
従属性の要素とする見解のもとでは、国会議員や
ていないと考えられる。
役員の例から従属性が給与所得の必要要件ではな
いという結論を導くことはできない。第 3 の点に
vol.17(2015.10)
3
3
新・判例解説 Watch ◆ 租税法 No.114
ついては、最高裁平成 13 年判決と最高裁平成 17
服して役務を提供すること=従属性が求められる
年判決は、使用者以外の者から受けた利益という
ような事実関係を前提としたものであり、この 2
と考えることができる7)。このように考えれば、
従属性の要素が強く認められる場合には非独立性
つの判決こそが例外的な事例である(したがって、
が推認されるというYの見解も理解ができないわ
ここから、一般的に従属性が給与所得該当性の必要
けではない。しかし、給与所得者であっても、費
要件でないとまでいうことはできない)との批判が
用を負担したり成果に連動した報酬が支払われる
ある4)。
ことはあるだろう。他方で、事業所得者であって
なお、本件地裁判決は、従属性が給与所得該当
も、業務の内容や時間や場所について相手方の指
性の必要要件ではないとしながらも、本件各金員
示に従うことはあるだろう。したがって、結局、
の給与所得該当性を判断するにあたって従属性の
給与所得者と事業所得者との区別にあたっては、
有無を検討している(事実のあてはめ③)。また、
従属性と独立性の程度を詳細に認定したうえで、
本件高裁判決は、従属性について検討することが
総合的に勘案するしかないと考えられる。
不適切なものではない旨を補足している(判決の
終身雇用と年功序列給制度を前提とする制度か
要旨2(1))
。これは、事案ごとに各基準を用いる
ら雇用形態や就業形態の多様化が進み、業務の内
べきことを前提としたものであり(判決の要旨2
容、時間、場所についての拘束が緩まるにつれ、
(1))、非独立性こそが給与所得の必要要件であり、
今後、従属性の有無についての判断が難しい事例
従属性は非独立性を推認させるものであるという
が増えると考えられる。本判決は、従属性を給与
Yの主張を支持したためではないと考えられる。
所得の必要要件ではないとした点については説得
力が弱いが、従属性と非独立性の具体的な内容や
四 残された課題
両者の関係について議論を深める機会を提供した
ところで、所得税法が所得を 10 種類に分類し
という点においては意義がある。
ているのは、所得の発生原因により担税力に差が
●――注
あるので、所得の性質に即した課税を行うためで
ある5)。最高裁昭和 56 年判決は、事業所得と給
1)前掲東京地判平 24・9・21 も同様の考え方をとっている。
2)末崎衛「給与所得の要件として指揮命令関係(労務の
与所得のいずれに該当するかを判断するにあたっ
提供等の従属性)は必要か」税務 QA2014 年 1 月号(142
ては、
「租税負担の公平を図るため、所得を事業
巻)(2014 年)50 ~ 53 頁、酒井克彦「所得税法の給与
所得と『従属性』(上)」税務事例 46 巻 1 号(2014 年)
所得、給与所得等に分類し、その種類に応じた課
1 ~ 9 頁、同「所得税法の給与所得と『従属性』
(下)」
税を定めている所得税法の趣旨、目的に照らし、
税 務 事 例 46 巻 2 号(2014 年 )21 ~ 28 頁、 品 川 芳 宣
当該業務ないし労務及び所得の態様等を考察しな
「塾講師等に支払う報酬の『給与所得』該当性」T&A
ければならない」としている。従属性や非独立性
master563 号(2014 年)16~25 頁参照。
といった基準は、所得税法の趣旨や目的に照らし
3)前掲東京地判平 24・9・21 参照。
てどのように理解できようか。本件判決はこの点
4)前掲注2)酒井(下)20 頁参照。
5)水野忠恒『租税法』(有斐閣、2011 年)159 頁。
について言及していない。給与所得控除という概
6) 最 大 判 昭 60・3・27 民 集 39 巻 2 号 247 頁(LEX/DB
算控除制度が許容されるのは、給与所得者の受け
文献番号 22000380)。
る報酬額が「あらかじめ定めるところによりおお
7)佐藤英明「給与所得の意義――事業所得との区別」税
むね一定額に確定しており、職場における勤務上
事 56 号(2000 年)25~49 頁参照。
必要な施設、器具、備品等に係る費用のたぐいは
使用者において負担するのが通例であ(る)」こ
京都産業大学准教授 宮崎綾望
6)
とを前提にしてこそである 。したがって、収益
や費用を負担しない=自己の計算と危険によらな
い=非独立的であることは、給与所得の前提であ
るといえる。そして、給与所得者は、自己の計算
と危険によらない代わりに、使用者の指揮命令に
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