43 わが国における裁定評価理論(APT) の検証* 堀 本 三 郎 1 は じ め に 1960年代後半から今日に至るまで,資本資産評価モデル(CAPM)による 実証的研究が数多く行われてきた。いっぽう,Ro11[10コによるCAPM実証 分析の批判を契機として,Ross[12]の提唱する裁定評価理論(Arbitrage Pr− icing Theory;以下APTと略す)が,検証可能性の意味合いをも含めて,多 くの注目を集めている。 APTの実証分析については, Roll&Ross[11]以後,既にいくつかの論 文が公表されている。それらを大別すれば,A)個別証券のグルーピングによ るアブP一チ,とB)ポートフォリオによるアプローチ,に分けることができ るであろう。Roll&Ross[11コ, Brown&Weinsteln[1], Dhrymes, Friend, Gultekin&Gultekin[5]は前者に属し,後者に属するものとして, Chen[3コ, 若杉[15]がある。本来,すべての個別証券を二時に取り扱うことができる ならぽ,それが最善であるが,計算上の技術的問題のため,さらには計測精 度等を考慮して上記2つのアプローチが採られてきた。[1],〔3],[5], [!1]は,米国株式市場における日別(株式投資)収益率データに基づく分析 であり,[15]は東証1部上場企業の四半期別収益率データによるものである。 *) 本稿は,H本経営財務研究学会(第8回全国大会)におけるレジメに若干の加筆・ 修正を行なったものである。コメンターの落合仁司助教授(同志社大学)ほか参加者 の有益なコメントに感謝の意を表します。また,飯原慶雄教授(南山大学)をはじめ とする財務理論研究会の諸先生方の平素からの御教示にも,併せて感謝致します。当 然ながら,内容についてはすべて筆者の責任であります, 44 彦根論叢第231号 彼らの実証分析によれば,[1コ,[3コ,[11コはAPTに対しておおむね肯定 的であり,[5]は否定的見解を示している。 本稿の目的は,東証1部上場企業の月別収益率データ(1963−1982)を用い て,APTの検証を試みることである。われわれは,検証期間を1963−1971 (検証期間1)と1975−1982(検証期間2)の2つに分け,各検証期間におい てA),B)両者による実証分析を行った。因子分析適用の際,ファクター数 kをいくつにするかという問題が生じてくるが,われわれはそれを決定する適 当な方法を現在のところ有していないとの判断により,ファクター数k ・5と 1) して分析をすすめた。その結果,個別証券レベルでは,両検証期間において APTを支持する実証結果は得られなかった。それに対し,(等ウエイトの) ポートフォリオ レベルでは,APTを支持する傾向が認められた。 z) 以下においては,2節でAPTについての若干の説明ののち,3節でその検 証法について述べ,そして4節において検証結果の報告を行う。 2. A P T CAPMにおいても,各証券問の共変動(分散共分散行列)は重要な役割を 果たす。APTにおいては共変動を表現する式として,多因子収益率生成過程 を仮定する。すなわち,証券iの時点tでの収益率Ritは (1) Rit−Eit=biltilt+あ2娠+…+ろ鏡δ勉÷靴 i==1,2,… ,エ▽;t=:1,2,… r7「 によって表わされるものとする。ここで,Eitは証券iの時点tでの期待収益 ヨ 率であり,砺(ブ=1,2,…,k)は全ての証券に共通な因子である。そしてb,j et, 1)若杉[15]においては,ファクター数k一=2として分析を行なっている。われわれ のファクター数k=5の妥当性については,特別の根拠があるわけではない。いろい ろな状況を勘案しての試行錯誤の結果である。なお,ファクター数決定の問題につい ては[4コ,[5コを参照されたい。 2)詳細については,Ross[12コ, Huberman[8コ,飯原[13コ,榊原[14コ,若杉r15コ 等を参照されたい。 3)各因子がどのような経済的変量の動きを表現しているか,についの実証分析として 若杉[15]がある。なお,以下ではk《Nとする。 わが国における裁定評価理論(APT)の検証 45 証券iの第ブ因子に対する反応度(sencitivity),もしくは因子負荷量と呼ばれ る。各因子は相互に独立であり,平均0,分散1の確率変数である。さらに, 固有項(idiosyncratic term)εitについても,相互に独立(各因子とも独立) であり,平均0,分散薩の確率分布に従うものとする。 いま,投資総額がゼロであり,かつシステマティック・リスクもゼロとな るポートフォリオを考える。すなわち,証券iの購入比率をWiとすれば, Σ窪1Wi=0,Σ鐸1勘6〃=0;ゴ=1,2,…,ゑである。さらに,このポートフォ リオは十分に分散化された(well−diversified)ものであり,固有のリスクか ら構成される非システマティック・リスクの貢献を無視できるものとすれば ( 4) yJ.. iwieit = b’),(・)より・ke”ト・。財の収益靴,Σ以、塑漁唱窪、w、Ei、 となる。さや取りの機会が存在しない(no arbitage opportunities)市場均衡 においては,Σ鐸1勧E覚=0であるから (2) Eit=Rot−t−Znbii+Z?tbi2+’”一i“lktbik , i=1, 2, ’”,N を満たすある定数袖,煽,R2t,…隔が存在することになる。ここで, z。tは無 危険利子率であり,初は第」因子のリスク・プレミアムと解釈される。これ らはすべての証券について共通なものであり,各証券の期待収益率の相違は, 反応度砺によって説明可能であることを示している。 3.検 証 法 われわれの検証法は,基本的にはRoll&RossのアブP 一一チに従う。直接的 には観測不可能であるが,(2)における期待収益率Eitと反応度6〃の推定 値が得られるな:らば,クロスセクシ・ン回帰により福,λlt,…,褥を推定する ことが可能となる。このとき,APTの検証は (3) Z,t == 2,,= ・一・= Zk, =O 4)固有項の貢献を考慮するとき,(2)は近似式として表現される。それらの近似の度合 いについて議論している論交はいくつかある。証券数Nが有限であるfinite economy を想定したものとして[6コ,[7],N→○。のinfinite economyのものとして[2コ, [8],[9],[13]がある。 46 彦根論叢 第231号 の帰無仮説が棄却されるか否かによって判断されることになる。 ここで1節の仮定にくわえ,固有項eitの正規性を仮定する。さらに,検証 期間内において,Eit=Ei,初=λゴ(ブ=0,1,2,…,fe)の定常性を仮定する。証券 ら iの収益率Ritの正規[生の仮定は,現実のデータと合致しないため,その採 用を控え,ファクター数k=5と仮定して検証を行なう。 (2)を(1)に代入し,行列表記をすれば (4) R‘=B*λ「二十B△t十εt 6) となる。ここで,瓦二(Rlt, R2t,…,Rnt),△2=(δlt,δ2t,…,δkt),ε㌃=(εlt,ε2t, …,εnt),謬=(λo,,λlt,… ,λ為彦),B==[妬コ,B*=[eiB],e’=(1,1,…,1)であ り,ηは標本に用いられる証券数である。 検証手順は,CAPMと同じく2step法が用いられる。すなわち i)まず,証券iの期待収益率の推定値として (・)a一手Σ£、Rll を計算する。つぎに,標本分散共分散行列(Sもしくは標本相関行列) (・)Sil・=t一、E]1一、(R,,一E,)(Rゼ葛), i・1一・・2・…・・ ハ をもとに,最尤因子法を適用し,反応度の推定値B,固有項の推定分散行 ヘ ム ム 列Dを求める。ここで,Dはn×n対角行列であり, Dげ戸説である。 ム ハ ii) i)において求められたB, Dは,一般的な条件のもとで一致推定量で あり,これらの推定値を用い,(4)においてクロスセクション回帰を行 い,λ*の一致推定値を求める。(4)における誤差項(BA,+εt)の分散 5)わが国の月別収益率の分布は,一般的にすその長い正の非対称分布に近いものであ る。標本として使用された360銘柄の収益率時系列データに対して,正規性の適合度 検定を行なったところ,5%有意水準で,検証期間1においては204銘柄(約57%), 検証期間2においては143銘柄(約40%)が棄却された。 6)英字もしくはギリシャ文字の下線は,それが行列もしくはベクトルであることを示 す。 わが国における裁定評価理論(APT)の検証 47 共分散行列(bは,v=BB’+Dであるから,これらをi)で求めた推定 値で評価し,GLS(generalized least squares)を適用すれば ム ヘ ム ム ム ム λ誉==(B*’ V−iB*)一且13*’VF一11∼言 ハ ム ハ いま検証期間内のt tlこついて,祥=λ*を仮定しているから, E’==(El,E2, ム …,En)とおくと,(5)より ム ム ム ム ム ム ム (7) ノこ*=(13*’τz扁1、8*)一1エ3*’V−iE ム を得る。このとき,λ*の漸近分散共分散行列(のは (・)望一ナ憂鋤一・ 一 ア で計算される。 検証仮説として(3)を採用すれば,Dhrymes, Friend&Gultekin[4;P. 330]に与えられるように (・)麺L・旦 ム ハ ム ム は漸近的に自由度feのx2分布にしがう。ここで, R’=(21,λ2,…,λk)であり, ム Ψ22はΨのうちRの漸近分散共分散行列に対応する分割行列である。 4.検 証 結 果 わが国における株式市場の価格形成メカニズムを,APTによってどの程度 説明することができるであろうか。このような問題意識のもとに,日本証券経 済研究所作成による東証1部上場企業の株式投資収益率(月次)データを用い, 3節の検証手順にしたがって,A), B)両者のアプローチによる分析をすすめ ていく。本節では,グルーピングの手順,個別銘柄レベルでの検証結果,ポー トフォリオの作成方法,そしてその検証結果について述べる。 ・検証期間とグルーピング手順 1963−1971(108ケ月;検証;期間1)と1975−1982(96ケ月;検証期間2) ハ 7)A*の分散共分散行列の推定方法としては,Dhrymes et. al.[5コによる方法のほ うが,小標本においては適切であるかも知れない。 48 彦根論叢 第231号 の2つの検証期間に分け,両脚問にわたりデータのそろっている418証券を初 期標本として利用した。なお金融関係の証券は,一般的に市場取引が活発でな かったため除かれている。そして,1972年の異常収益率,1974年の石油ショッ クのため,この期間を境に前後2つの部分期間に分けるとともに,!972−1974 のデータを標本からはずした。 APTの検証に際しては,因子分析の計算過程において,すべての標本を一 括して取り扱うことができないため,グルーピングの手順が必要となる。Roll &Rossでは,株式銘柄のアルファベット順に30証券を1つのグループとして 作成し,それらのグループごとに因子分析を行っている。2節においても記し たように,資産評価式(2)は各証券のクロスセクション内での期待収益率の相 違を表現している式である。したがって市場を代表するサンプルの選び方とし う て,期待収益率にある程度のバラツキを持たせる方法が考えられるであろう。 このような考え方のもとに,われわれは下記のグルーピング手順を採用した。 ム まず,それぞれの検証期間内において平均月次収益率(一Ei)の大きい方から 降順に銘柄を並べ,それらに標本番号1から418を付す。そして,標本番号30 から389までの360銘柄について,第1グループ{30,42,…,366,378},第2グ ループ{31,43,…,367,399},…,第12グループ{41,53,…,377,389}の1グル ープ30銘柄からなる12グループを構成した。 ・個別銘柄レベルの検証結果表 表1,2には,それぞれの検証期聞における各グループ内での相関行列の代 表値が示されている。石油ショック以前の検証期間1においては,多くの銘柄 が正の相関を示しているのに対し,それ以後の検証期間2においては,経済的 状況を反映して,負の相関をもつ銘柄が増加していることがうかがえる。両検 証期間において,その平均から判断する限り,各グループ間での大きな差異は 8)最尤因子分析のアルゴリズムとして,J6reskogの方法にしたがった。なお,それ らの計算は,滋賀大学計算センター,HITAC 8250を用いてのものである。 9)推定精度の観点からは,反応度鋤にバラツキを持たせる方法が考えられるが,bw が観測不能であるため採用でぎない。 49 わが国における裁定評価理論(APT)の検証 表!. 表2. 検証期間2における収益率の 検証期間1における収益率の 根関行列の代表値 相関行列の代表値 Group MAX MIN 61 61 60 82 66 81 68 1 2 3 4 5 6 7 74 80 70 8 9 10 12 .07 ]2 16 11 ユ1 ・Oor .11 一.08 .O1 11 表3. 検証期闘! 19 2 .or l .22 .16 3 .51 .26 .14 4 .64 32 .15 or .54 .21 15 6 7 8 .69 17 .16 .68 .22 .18 .50 27 .13 9 .72 .24 .12 10 .66 16 1! .73 15 25 12 .77 .21 .15 λ λ .008 .015 (. 108) (.116) (. 114) λ ワ“ .003 .085 (. 003) (. 110) (. 106) (. 111) (. 003) (. 115) 007 .059 (. 004) (. 126) 009 .056 (, 005) (. 133) 一.023 (. 111) 一.OIO (. 109) .071 (.116) .080 (. 1!0) 一.023 (. 1!5) 一.032 (. 119) 一.004 (. 111) .034 .084 .037 (. 114) (. 106) (. 111) 009 .051 (, 004) (. 118) 030 013 一.034 ooro (,003) (.113) (. 107) (. 104) .006 .047 一.099 (, 005) (. 1!4) (.136) .Oll .023 101 (. 004) (. 128) (. 124) 004 .142 (, 004) (. !27) (. !06) 005 .10! 1or .057 一.105 (, 006) C143) (. 104) 007 .108 (. 002) (. 114) 040 (. !04) z2値: 3 oog . oJrg 0!3 一.020 平 均 一.12 !963−1975 5factor−C−LS λ COO3) (. 108) MIN .61 .077 0 014 一.030 MAX 1 .OIO λ λ ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ 1 0 2 2脚329 527 630 730 828 930 00 128 430 19 01り0 1 3 ○ ︵ ︵. ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ Group 30 31 26 29 26 28 26 30 27 28 32 28 .04 81 76 11 Group 平 均 .05 一.060 (. 114) oJrs (. 112) (. 123) 一.05! 一.047 037 一.004 一.047 .043 .062 .025 (. 122) (.119) .029 .019 (. 111) (. 122) .004 (.125) (. 111) 004 132 (. 109) (. 14!) .017 (. 110) 一.059 (. 115) 724 (.119) (. 124) 一.!!3 816 (. 127) .eo6 (. 108) 855 (. !20) (. 113) 一.076 Jr70 (, 126) .055 (,!07) 1.028 (. 118) (. 111) 一.O!l 492 039 4語[ .119 .461 1.572 (. 117) .OOI 287 (. !22) 一.098 1.369 (.123) 1) カヅコ内は推定標準誤差である。 2) 自由度5のX2分布において5%有意点は, る。 11.07であり,10%有意点は9.24であ 50 彦根論叢 第231号 表4,検証期間2 !975−1982 5 factorGLS え λ λ ﹁減 ︶ ︶ ︶ ︶ 目︶ ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ 8 0 0 1 0 128 226 4回526 329 626 730 830 9伽 ﹂ 10 019 1ワ臼2 ワ冒 え λ Group 1 3 4 5 .006 .116 .116 .088 一.IL38 一.037 z2値 1.094 (. 006) (. 183) (. 135) (. 12!) (. 128) (. 131) .Oll .051 .03! .044 一.058 .022 .369 .OIO .013 .111 .018 一.091 .016 .048 .006 .135 .046 .021 一.035 一.102 1.725 .008 .02! 一.073 .180 .105 .053 1.899 .004 .222* .033 一.075 .050 .008 3.929 .oo7 . oro7 一.06g 一.lro2 一.040 .043 !. 960 (. 003) (. 119) (. 126) (. 117) (. 127) (. 135) (. 003) (. 137) (, !17) (. 124) C140) C 139) (. 003) (, !25) (, 119) (. 112) C131) (. 134) (. 003) (. 139) (. 118) (. 13!) (. 132) (. 142) (. 003) (. 114) (. 115) (. 122) C135) C 136) (. 004) (. 144) (. !20) (. 114) (. 116) (. 125) .oos . oor l .04s . oso 一.oos 一.041 .486 (. 003) (. 138) (. 112) (. 124) (. 129) (. !27) .006 .111 .080 .135 .003 一.052 1.922 .005 .158 .l19 .059 一.044 一.096 2.222 .OIO .065 .053 .145 .047 一.053 2.176 .007 .118 .027 .102 .076 .020 1.660 (. 002) (. 115) (. 111) (. !27) (. 122) (. !24) (. 003) (. 135) (. 112) (. 1!5) C123) (. 130) (. 003) (. 135) (. 107) (. 123) (. 120) (. !29) (. eO2) (. 125) C 109) (. 116) (. 124) (. 136) ないものと考えられる。 表3,4には,3節の検証手順にしたがって求められたリスク・プレミアム ム のGLS推定値λ*とその推定標準誤差,および(9)によるxz検定値が示 されている。検証期間2のゴ値は,検証期間1のそれに比べ,若干大きな値 を有している。しかし,両期間においてt検定およびX2検定{Pr(X2≧11.07) =・O.05}について有意な結果は得られていない。したがって,個別銘柄レベル においては,検証仮説(3)を棄却することはできないことになる。 なお,グループ番号の下のカッコ内の数字は,標本数(銘柄数)を表わして いる。標本数が30でないグループについては,因子負荷量(ろ〃)推定の繰り返 し計算過程で,推定固有分散(GZ)が0に近いか負の値を示したため,それら わが国における裁定評価理論(APT)の検証 51 の標本を取り除いて因子負荷量を推定したためである。 ユ。) ・ポートフォリオ レベルの検証結果 6銘柄,12銘柄の等ウエイトのポートフォリオを1つの証券と考え,両検証 ム 期間において検証を行なう。ここでも,月次平均収益率(Ei)にバラツキをも たせるため,標本番号(30,31,…,35)の6銘柄を1つのポートフォリオ,そ して同様に, (42,43,…,47),…,(378,379,…,383)の30ポートフォリオを よユ 1グループ{6銘柄(1)}とした。6銘柄(2)のグループについても同様の 手順で,標本番号(36,37,…,41),(48,49,…,53),…, (384,385,…,389)の 30ポートフォリオを,12銘柄については,(30, 31,…,41),(42,43,…,53),…, (378,379,…,389)の30ポートフォリオを標本として構成した。 表5(鋤によれば・検証期間1の6鋤丙 表5(1).ポートフ、リ搬益率の 相関行列の代表値 グループについては,z2検定において有 意な結果は得られていない。しかし,表 2の個別銘柄レベルと比較するとき,ズ 値,t値ともに大きくなる傾向が認めら !963−1971 MA・.MIIN I平均 6銘柄(!) ・80r .47 // (2) 12 ク .72 .82 .44 .72 .90 .66 .86 れる。そして,12銘柄のグループについ ては,ズ検定,オ検定ともに有意水準5 %で帰帆仮説(3)は棄却される。 t一検証期間2においては,いずれのグル 1975二19821Mλ・MIN平酬 6銘柄(!) .75 ク(2) .73 12 // .82 ・11i .50 一…! .49 .09 i .65 ープもt検定については有意な値を示し 10) もし,各個別証券の収益率が多因子収益率生成過程(ユ)によって表現されるものとす れば,ポートフォリオの収益率Rptも Rμ二Epe+Σ皆_1 bpjδjO+εpe と表わされる。このとき,これらのポートフォリオを基礎として.資金ゼロで,リス クゼロのポートフォリオを作成することが可能となり,2節の議論と同様.さや取り の存在しない市場均衡においては, Epe==2・e+Σ狙初砺」 なる評緬式が成立する。 11)同じような平均収益率を有する銘柄からなるポートフォリオを考えた。 52 彦根論叢第231号 表5(2),ポートフォリオレベル λ 3 4 λ λ λ λ 1963」1971i 20 5 factor−GLS x2値 6銘柄(!) .003 .168 .061 .098 .206* .132 4.181 6銘柄(2) .001 .206 .166 .092 一.123 一.101 2. 319 1 (.004) C117) (.106) (.110) C116) (.120) (28) i (.005) (.144) (.1!0) (.115) C114) (.132) 12銘柄 .OOO .221* .073 .049 .058 .295** 11.483** (. 004) (. !21) (. 106) C 106) (. 114) (. !14) lg7s−lgs2[ 6銘柄(1) (29) 6銘柄(2) .008 .071 一.049 .332** 一.066 一.099 9.277* (.003) (.135) (.!2!) (.113) (.ユ26) (.!28) .003 .217 .240** 一.088 一.256* 一.051 3,032 (. 004) (. 147) (. 113) (, !22) (. 139) (. !48) 12銘柄 .OOI .259* .330** 一.260** .042 .!60 8.236A (. 003) (. 136) (. 109) (. 123) (. 125) (. !29) 1)*は,t検定もしくはX2検定において10%有意,**は5%有意のことである。 2) Pr{X2≧9.24}=r−O.10, Pr{X2≧11.07}二〇.05 ており,ズ検定についても有意水準をゆるめれば, ユの つのグループにおいて有意な結果が得られている。 6銘柄(1),12銘柄の2 5. お あ り に 4節の検証結果をもう一度まとめれば,1節においても記したように,1) 個別証券レベルでは,APTは支持されない,いっぽう,2) ポートフォリオ レベルでは支持する傾向が認められる,ということであった。2)と1)の実 証結果の相違をいかに判断すべきかは,実証的観点から重要な課題であろう。 その考察に先立って,1)に対して若干の付記をしよう。われわれは,4節の グルーピング手順のほかランダムサンプルも試みた。また,ファクター数の変 更も行ってみた。しかしながら,それらの殆どにおいてAPTを支持する有意 な結果は得られていない。もっとも,個別証券レベルでの計測に随伴する諸問 題,すなわち,期待収益率の定常性と検証期間の対応,1グループの標本数 12) Pr {x2>=8. 236} f“ O. 15 わが国における裁定評価理論(APT)の検証 53 ファクター数の決定方法,January effect,企業規模の効果,等についてば,今 後の検討課題であり,いまだ多くを語ることができない。したがって,1)に対 しては慎重な評価を必要とするものである。 理論的には,APTのモデルで個別証券とポートフォリオを区別する必要は ない。すなわち,任意のポートフォリオの期待収益率が(2)を満足する(さや 取りの存在しない市場均衡)ならば,任意の個別証券についても(2)は成立す る。ただし,現実の世界では,(2)はexactlyに成立する式ではなく近似式で ある。したがって,両者の近似度の割合については考慮を必要とする。しかし いま,それらの近似式をexactlyな式と見なしても支障がないものとすれば, A),B)2つのアプローチの区別は,技法上の必要性によるものであると言 える。したがって,1),2)の実証結果に対する判断は,A), B)のアプロー チに対する技法的信頼度の評価によって定まるものとなる。 これまでの多くの実証分析はA)によるものであった。しかし,そこではつ ねに,個別証券レベルでの種々の計測困難性が生じてくる。それらの問題を同 時に解決し,理想的な計測を試みることは到底不可能であろう。それに対し, B)によるアプローチにおいては,個別証券レベルで生ずるいくつかの問題点 を回避できるかも知れない。しかしながら,われわれの関心が,各個別証券の 価格形成にあることを鑑みれば,B)によるアブPt ・一チに対する不透明さと説 得力の低さをつねに意識せねばならないこととなる。本稿の役割は,それらの 端緒を開くことであり,多くの課題は,今後の実証研究の積み重ねを待たねば ならない。 参 考 文 献 r.1コBrown, S.&M. 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