中小企業の事業承継について 中小企業の事業承継

いわしん経営塾だより
中小企業の事業承継について
∼ 日本商工会議所 篠原常務のお話から ∼
この10月17日、いわしん経営塾の第三期目がスタートしました。塾生の数はスター
ト時点と比べるとほぼ倍増の52人となりました。当日は高木塾長の挨拶に続き、「中小
企業の事業承継税制改革の動き」と題し、日本商工会議所においてこの問題に取り組
んでこられた篠原常務理事のお話を伺いました。
精神論ではない、実践論で、を目指している経営塾が、これまでの二年間で取り上
げた経営課題は11テーマに過ぎません。中小企業の社長として心得ておくべきことは、
まだまだたくさんあります。
いわしん経営塾 塾頭
寺田
欣司
中小企業経営における究極の課題は「事業承継問題」である。粒粒辛苦育て上げてきた会社を
息子や娘に継がそうとしたとき、そこには日本の税制が立ちはだかっている。
中小企業では株は社長がそのほとんど持っているのが通常である。その株を生前に後継者に引
き渡そうとすると、時としてとんでもない事態に直面する。中小企業の株の評価は一株あたりの
純資産や、同業他社比較で行われるが、経営が順調な会社のそれは思いのほか高額になっている
ことがある。だから生前に息子たちに株式を譲渡しようとしても、彼らにはそれを買い取れるほ
どの金がない。贈与すれば多額の贈与税がかかる。
と言って株を後継者に引き継がぬまま死ねば、株を相続する彼らに莫大な相続税が課されるこ
とになる。相続税を負担できない息子や娘には、父親が営々として築きあげてきた会社を、他人
に売り渡すしか選択の余地はない。それを買ってくれる他社があるだろうか。なければその会社
が培ってきた技術、経営ノウハウは消滅してしまう。
今わが国では数万社の中小企業において、後継者難の問題が発生していると言われているが、
そのなかには息子が家業を継いでくれないというより、わが国の税制の問題から継げないケース
も多々あるのだ。
世界に冠たるわが国のものつくり産業は、二重構造に支えられている。大企業を頂点として、
その裾野には無数の中小企業が存在していて、それが世界的大企業のものつくりを支えている。
このままではその中小企業がどんどんと消滅してゆく。そうなれば産業立国日本は、危機に直面
することになる。
一方で農業と言う事業では、食糧安保論の観点から、事業承継に関して特別の優遇措置が認め
られている。相続人が農業を継続することを条件として、本来なら相続する土地(田畑)にかか
る相続税の支払い繰り延べができるのだ。
農家の事業承継も確かに大切だが、産業立国たる日本においては、中小企業の事業承継が円滑
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になされるよう制度面で手当てをすることは、それと同等いやそれ以上に大切なはずだ。現にど
の先進諸国でも程度の差こそあれ、中小企業の事業承継に対して優遇税制を導入し、産業基盤が
損なわれないよう対策を講じている。しかしこれまで日本の税制は、この問題を見て見ぬふりを
してきた。そして最近やっとこの問題に対する世論に高まりが見られるようになり、少しずつ税
制改革の方向が見え出してきたのだ。
当日演壇に立たれた篠原常務理事は、東大法学部卒業後通産省(現在の経済産業省)に入省、
在職中は中小企業政策に関与するポストに長くおられた。退官後も日本商工会議所の常務理事と
して、十年近く中小企業問題に取り組んでこられた。しかも氏は徳島市の中小企業の社長のご子
息として生まれている。中学高校生の頃からお父上の家業の事業承継に関する考え方を、聞かさ
れて来られたと言う。そしてお父上はご長男に家業を継がせることを決め、それに沿って十分な
事業承継対策を実行された上で逝かれたとのことである。
こうした方が中小企業振興のために旗を振ってくれていることは、まことに心強い限りである。
ただし篠原常務理事は言われた。
「事業承継対策は、社長引退を考える年頃になってから始めるのでは遅すぎる。その十年も二十
年も前から考えておくべきことだ」と。自分の事業を守ろうとするならば、中小企業経営者はこ
の言葉を忘れてはならない。
経営塾 過去のテーマ一覧
期
回
第1回
期
テーマ
第
一
期
第4回
第10回 銀行を上手に利用する方法
中小企業の戦う陣形
中期経営計画(基礎編∼実践編)
第
二
期
第5回
第6回
第7回
テーマ
第9回 これからの社員と関わり
社長学の勧め
第2回
第3回
回
第12回 中小企業も格付けの時代
第13回 社長が知るべきキャッシュフロー経営
第14回 のポイント
中小企業あれこれ
効率の良い小集団行動
第11回 経営改善への挑戦
第三期 第15回 中小企業の事業承継円滑化に向けた動き
第8回
寺田 欣司
昭和42年東京大学法学部卒業後 同年三和銀行入行 三和総合研究所取締役
理事 富士通総研取締役研究主幹等を歴任され、現在は 学校法人武蔵野東
学園理事長、磐田信用金庫アドバイザー、いわしん経営塾塾頭を務める。
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