輪郭をなぞる動作をコンピュータ上で模擬した第三角法の習得を補助する

輪郭をなぞる動作をコンピュータ上で模擬した第三角法の習得を補助する教材の開発 羽曳野市立高鷲南中 ○岡田隆
大阪教育大 光永法明
1. はじめに
中学校技術・家庭科技術分野(以下、技術科)
クリックしてドラッグする。[回転リセット]ボタ
ンをクリックすると、立体の向きを初期値に戻す。
では、構想の表示方法を知り、製作図をかけるよ
また実際の立体の輪郭線をなぞる操作の模擬
うになることが求められている[1]。技術科では、
として、輪郭線をクリックし線上をドラッグする
一般に製作図に第三角法による正投影が指導さ
とそれが分かるよう太線で表示する。図1では立
れる。第三角法による正投影で用いられる投影法
体図の右上の部分は以前になぞった輪郭が太線
の理解、つまり、立体と第三角法による正投影図
で表示されており、O から A までをドラッグした
(以下、三面図)の関係の理解が必要であるが、
ところである。ステータスエリアには、なぞった
生徒には必ずしも容易ではない。アクリル板を用
輪郭線の本数を表示している。
いて投影法の理解を補助する教材[2]が提案されて
いるが、物理的な準備が必要である。
ところで投影法の理解の前に立体の形状の把
2.2 投影法の理解の補助
投影法の理解を助けるため立体を覆うように
第三角法による正投影の投影面(正面、平面、右
握が必要であると考えられる。実際の立体であれ
側面)を表示する。投影面は非表示にもできる。
ば輪郭をなぞったり、頂点を触るなどすると形状
[投影面展開]ボタンをクリックすると、投影面に
の把握がしやすい。そこで、本研究ではコンピュ
立体の各頂点が投影される様子を、正面、平面、
ータ上で立体を表示し、立体の輪郭をクリックし、
右側面の順にアニメーションで表示してから、平
輪郭をなぞるようにマウスをドラッグすると三
面、右側面が正面に並ぶように展開するアニメー
面図上での対応点を表示し、投影法の理解を補助
ションを表示する。
する教材 TraceIt1を開発したので報告する。
2. 投影法の理解を補助する教材 TraceIt の概要
TraceIt の画面を図 1 に示す。画面上部は現在
また図1のように、立体図上をクリック、ドラ
ッグすると対応する三面図上の点、線分が分かる
よう丸あるいは太線を表示する。たとえば立体図
の状態等を表示するステータスエリアで、表示す
の点 A をクリックする(もしくはドラッグして、
る立体を選択するボタンとチュートリアル開始
マウスカーソルがその位置にある)と平面図に点
のボタンがある。左下が三面図で、三面図の左上
A1、正面図に点 A2、右側面図に点 A3 に丸を表示
が平面図、左下が正面図、右下が右側面図である。
する。点上の丸はマウスボタンを押している間だ
三面図の右が立体表示(投影面の表示を含む)で
け表示する。点 O から点 A までの輪郭線をドラ
ある。画面右は、各種設定ボタンのあるツールエ
ッグすると、ドラッグされている部分の線分 OA、
リアである。
平面図の線分 O1A1、正面図の線分 O2A2 が太線に
2.1 立体の形状把握のための補助
立体の形状を把握するために、様々な角度から
観察し、手に取り立体の輪郭をなぞることをコン
ピュータ上で模擬する。立体の向きを変えるには、
なり、右側面図の点 A3 に丸を表示する。なぞっ
た線分は図 1 の L, L1, L2, L3 のように太線のまま
とし、なぞった部分がわかるようにする。
図1の三面図上の任意の点をクリックすると
立体上を右クリックしてドラッグするか、ツール
クリックした点と、それに対応する立体を覆う投
エリアの[回転]ボタンをクリックして立体上で左
影面上の点に丸を表示する。そして、立体図には
投影面から垂直に立体に向けて投影線を表示し、
1 http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~gijutsu/mitunaga/TraceIt/
で公開している
三面図のほかの面には投影線を表示する。
表1をみると Q2~Q6 の評価は 5.9 以上であ
2.3 なぞりによる学習
立体図、三面図はどちらも立体の輪郭線を平面
り、直感的に操作でき、操作性や、図の表示に問
上に表したものである。正しく平面上で立体を表
題はなく、三面図の理解につながる教材で、授業
現するには、立体のすべての輪郭を把握し、どの
に利用したい教材であると評価されたと考える。
ように表現するか理解する必要がある。そこで、
一方で、初見での使い方の分かりやすさについて
なぞった輪郭線を太線で表示するだけでなく、立
は平均値が 5.4 と他の回答よりやや低い。これは
体の輪郭をすべてなぞったかを判定する機能を
本教材の導入に少し難しさがあり、最初に表示す
設ける。[なぞれたかを判定]ボタンをクリックす
るチュートリアルに改善が必要かもしれない。
ると、その判定をする。なぞり終えていればダイ
自由記述への回答では、正面図とする面を変更
アログに「すべてなぞり終わったよ!」と表示し、
したい、新しい立体を簡単に追加できるとよいと
別の立体やクイズへの挑戦を促す。なぞり終えて
いう要望があった。
いない場合はダイアログに、なぞっていない輪郭
参考文献
線の本数を表示する。
[1] 文 部 科 学 省 : 中 学 校 学 習 指 導 要 領 解 説 技
術・家庭編, 平成 20 年 9 月.
[三面図クイズ]ボタンをクリックすると、三面
図の問題を出題する。三面図上のランダムな 1 箇
[2] 原雅敏他著: 技術教育の方法と実践. 技術教
所の線分が太線もしくは丸で表示されるので、対
育研究会編, pp.61~77, 明治図書, 1983.
応する立体図の輪郭線をなぞって解答する。
表1 TraceIt の使用感 3. TraceIt の評価
質問
大阪教育大学技術教育専攻の学部生 12 名と大
学院生 2 名に TraceIt を実際に使用してもらい、
使用感を質問紙で使用者にたずねた。使用感は 6
つの質問でたずね7段階評価とし、自由記述で気
づいたことを回答してもらった。使用感の質問と
回答の平均値を表 1 に示す。7段階で評価する質
問は、1 全くそう思わない、2 そう思わない、3 やや
そう思わない、4 どちらでもない、5 ややそう思う、
6 そう思う、7 非常にそう思う、から、あてはまるも
Q1.初めてみたとき、直感的に本教材の使
5.4
い方がわかりましたか?
Q2.本教材の操作性はどうですか?
6.1
Q3.三面図と立体図との対応関係はわか
6.4
りやすかったですか?
Q4.本教材を用いると、三面図に対する理
5.9
解が容易になると思いますか?
Q5.本教材を用いることで、三面図に対す
5.9
る理解が深まると思いますか?
Q6.本教材を授業等で使ってみたいですか? 5.9
のを選び数値に⚪︎をつけて回答する。
L1
└ステータスエリア
三面 図
立体 図
ツ
O1
L
A1
L2
L3
O
A
O2
A2
A3
図 1 TraceIt の画面 回答の
平均値
ル
エ
リ
ア