10. 社会福祉の学びと社会学研究

「なぜ今福祉を学ぶか−福祉を学びたい人へのメッセージ−」
社会福祉の学びと社会学研究
斉川富夫
社会福祉の勉強をしていく上で、社会学を勉強することの意味、社会学が社会福祉
の勉強とどのように関連するのか、簡単に説明しましょう。
今日、子育てを含めて児童福祉の問題を考え、
また、介護を含めて老人福祉の問題
を考えるためには、
家族についての理解が欠かせません。
パーソンズという社会学者は、
今日の家族の特徴として、家族(核家族)が親族組織から独立していると言っています。
どういうことかと言うと、核家族(若夫婦)が、実家の親や親せきなどにわずらわされず
に、
自由に自分たちのやり方で家族のことを決められる
(家族のあり方を決められる)
と
いうことです。昔は、実家の親や親せきのオバさんなどが、若夫婦にあれこれ指図した
ものです。
そういう昔の家族のあり方と違って、今日の核家族(若夫婦)
は、
いわば自由
と独立を手にいれたのです。
しかし、他方で、小さな子どもが熱を出したりして、誰かの
アドバイスや手助けが欲しいという状態になっても、
助けてくれる人はいません。
かって、
普段はうるさいオバさんは、
いざという時には、心強い助っ人だったのです。
だからパー
ソンズは、家族(核家族)
の孤立という言い方もします。
こうした家族社会学の基礎知識
が、子育てなども含めた児童福祉の問題を考えるための基礎になるのです。
また、今日
家族は小規模化し、
その一方で多くの女性が仕事をするようになっています。
そのため、
介護をする人がいなくなりました。家族だけで介護をすることが困難になっています。
このように、今日、家族の力が低下しています。家族だけで問題を解決することが困
難になっています。
そうした状況だから、地域の重要性ということが浮かび上がってきて
いるのです。地域に親しい友だちがいたり、信頼できる相談相手がいたら、相当救われ
ます。
その地域の人々の関係(関わり)
を考えるにあたって、社会学には、
ゲマインシャフ
トとゲゼルシャフトという言葉があります。
ドイツの社会学者・テンニエスが使った言葉
(概念)
です。
ゲマインシャフトとは、情愛に満ちた親密な関係を意味します。
ゲゼルシャ
「なぜ今福祉を学ぶか−福祉を学びたい人へのメッセージ−」
社会福祉の学びと社会学研究
斉川富夫
フトとは、知的で合理的だけれども、表面的な利害の関係を意味します。
そしてテンニエ
スは、近代化・都市化に伴ってゲマインシャフトは衰退し、
ゲゼルシャフトが支配的にな
る
(優勢になる)
と考えました。実際に地域の変化を考察するとき、
このテンニエスの考
え方はとても参考になります。地域の復活・再生ということが、今日、重要な課題になっ
ているのです。
最後に、私の現在の研究テーマ:場所と身体性 について簡単に説明します。場所と
いうのは、
まさに人が生き、住む場所です。
当然、地域はその一部になります。
その場所
で人々がどのような関係を生きているのかを、
身体感覚のレベルにまで立ち入って考え
ようとする研究です。例えば、今日の子どもたちは、
「おしくらまんじゅう」
や
「おすもう」
と
いった、文字通り身体で触れ合う遊びをしなくなりました。
それが、子どもの発達や関
係づくりにおいて持つ問題性の検討なども、研究の一部になります。