3つの設計方法による空間構成の比較分析

3つの設計方法による空間構成の比較分析
─アクティビティ連想型モデルを用いた設計方法 その 2 ─
設計モデル
行為 設計プロセス ヴォリューム
物語
CAD
1 研究の目的
人の動きや行為、物語といった、アクティビティを表現
する「アクティビティ連想型モデル」( 前稿参照 ) を用い
た設計方法について、その特質を明確に把握するため、一
般によく用いられるヴォリューム模型を使った設計方法、
および操作の簡単な 3 次元ソフト( 注 1) による C A D モデル
を使った設計方法との比較実験を行う。そして設計方法の
違いが、創り出される建築の空間構成にどのような影響を
及ぼすのかを調べることとする。
2 実験方法
神戸芸術工科大学環境・建築デザイン学科の 4 年生の学
生 5 名と同大学院で建築を学ぶ学生 1 名計 6 名を被験者と
して実験を行った。なお、C A D モデルを使った設計方法に
ついては、このうちの 4 年生 3 名で実験した。
敷地条件とクライアントの要求を設定した共通の設計課
題を設け、被験者の誰もが同じ条件下で設計を行うことと
した。小規模で誰もが生活の物語を描きやすい建築物とし
て、設計のテーマは住宅とした。
実験は以下の要領で行った。
・詳細な実験目的を説明せずに設計してもらった。
・実験は、C A D モデルを用いた設計(3名のみ)、ヴォ
リューム模型を用いた設計、アクティビティ連想型モ
デルを用いた設計の順で行った。
・3 種類の実験共設計時間は 1 時間から 1 時間半程度と
した。
・設計条件シートの配布により、設計条件を統一して示
した。それには、敷地面積、土地用途、容積率、建ぺ
い率、延べ床面積、クライアントの要求、家族構成を
記載した。
・敷地図面 100 分の 1 を配布した。
( 書き込み可とする )
・敷地に面する 4 面の連続写真を提示した。
・制作プロセスを記録するため、ビデオカメラによる作
業風景の定点撮影を行なった。
・設計が終了した後、アンケートを行なった。
・3 種類の実験共、入口の位置や空間の用途等を示して
もらうため、最後に間取り図を描いてもらった。
・ヴォリューム模型の材料は発砲樹脂、縮尺は 100 分の
1 とし、予め段ボールで制作した周辺模型を利用して
もらった。
・アクティビティ連想型モデルは、アクティビティ連想
ツールとして約 150 個の縮尺 20 分の 1 のオブジェク
トを提供し、周辺 4 面のパノラマ写真をパネル化した
ものを、周辺模型として利用してもらった。( 図 1)
正会員 ○ 赤松 麻衣 *
同 川北 健雄 **
・C A D モデルは、予め周辺建物のヴォリュームを 3D で
作成し、敷地を取り囲む面に建物の立面写真を貼付け
たモデルのデータを準備して、設計者に与えた。( 図 2)
図 1. アクティビティ連想型
モデル周辺模型
図 2.CAD モデル周辺模型
以下の記述においては、必要に応じてヴォリュームモデ
ルを用いた設計方法を < V >、アクティビティ連想型モデル
を用いた設計方法を < A >、C A D モデルを用いた設計方法を
<C> と略記する。
3 設計プロセスと完成模型
< V > では設計の初めに 6 名中 5 名が外部要素、用途、ス
ケッチなどを提供した図面に書き込んだ。その内 2 名が
図面での書き込みにより設計をほぼ終了させ、最後にヴォ
リューム模型を大きさ、外部との関係の検討の為に使用し
た。初めに図面を使用した残りの 3 名は、図面とヴォリュー
ム模型を交互に使用して設計を行った。初めに図面を使用
しなかった 1 名については、まず外部との関係、大きさな
どの検討をヴォリューム模型を用いて行った。
< C > では初めにオブジェクトを配置し、それらの周りを
壁で囲い、空間をつくる傾向が見られた。配置したオブ
ジェクト周りの空間が囲まれた後、そこから次に続く空間
がつくられるという順序で設計が行われた。
< A > では初めにオブジェクトを配置し、オブジェクト自
体の向き、組み合わせのスタディが行われた。オブジェク
トを敷地内で何度か移動させ、他のオブジェクトとの関
係、つながりが決まると次のオブジェクトが配置された。
スタディが進み上階にオブジェクトを配置する際には、ス
チレンボードを用いてフロアの大きさを決定し、フロアの
設置後またオブジェクトを配置していくという設計が行
われた。最終的にオブジェクトとフロアで生成されたモデ
ルに、内部をとり囲むようにして壁が設置された。
Comparative Analysis of the Spatial Organization Designed by Three Methods
-Activity Association Model and the Design Method, Part 2-
3 種類の完成モデル(被験者 D の場合)
*AKAMATSU Mai, **KAWAKITA Takeo
例では <V> の方が <A> よりも空間数が 表 2. 空間数分析表
多くなっている。また、<C> と <A> の
(1)フロア数についての分析
比較に関しては、特にどちらの空間数
3 種類の設計方法を通して出来上がった空間を比較観察
が多いともいえない結果となってい
すると、用いた設計方法ごとに建物内部床面の立体構成に
る。
違いが生じているように思えた。そこで、各種のモデル
次に、個々の「ひとまとまりの空間」
に含まれる情報をもとに表現を統一した平面図 ( 縮尺 100
分の 1) を作成し、これを用いてフロア数の分析を行った。 に含まれる機能の数を調べ、設計例ご
とにその最大値を調べて表にまとめ 表 3. 機能数分析表
ここでフロア数とは、1 つの建築物において床面が配置さ
た。( 表 3)なお、
「ひとまとまりの空間」
れる異なった高さの数を意味している。( 図 3)
にリビング、キッチン、ダイニングが
< V > と < C > の比較では、3 つの事例すべてについてフロア
入っている場合、その機能の数は 3 と
図 3. 平面図によるフロア数の分析(被験者 D の場合)
している。
<V>
<C>
<A>
< V > と < C > の比較では、3 つの事例
すべてについて <V> の方が <C> よりも
「ひとまとまりの空間」に含まれる機能数の最大値が小さ
くなっている。また、< V > と < A > の比較でも、6 つの事例
すべてについて <V> の方が <C> よりも機能数の最大値が小
さくなっている。一方、<C> と <A> の比較に関しては、特
表 1. フロア数分析表
数が 2 と同数であることがわかる。一
にどちらの場合が大きいともいえない結果となっている。
方、< V > と < A > の比較では、6 つの事
以上のことから、設計方法 <V> では <C> または <A> に比
例のうち同数は 1 例で、残り 5 例では
べて、建築の内部空間が細かく分断された限られた機能を
<V> より <A> の方がフロア数が多くなっ
持つ空間の集まりとなりやすく、逆に設計方法 <C> または
ている。また、同様に <C> と <A> を比
< A > では、< V > に比べて多様な機能を含む連続的な空間と
較すると、3 つの事例すべてについて
して構成されやすいことがわかった。
<C> より <A> の方がフロア数が多くなっている。これらの
結果から、< V > と < C > では通常の 1 階、2 階の高さ以外に
5. まとめ
は床面が作成されていないのに対して、< A > においては中
住宅をテーマとした同一の設計課題に対し、3 種類の方
間的な高さに床面が作られ、より立体的で多様な床面構成
法を用いて 6 人の被験者に実験的な設計を行ってもらっ
が生まれやすい傾向が認められる。(表1)
た。結果、設計方法の違いは創り出される建築の空間構成
(2)「ひとまとまりの空間」についての分析
にも影響を及ぼすことがわかった。すなわち、人や家具、
3 種類の設計方法を通して出来上がった空間を比較観察
樹木等のオブジェクトを配置して、最初に何らかのアク
して気がついたもうひとつの事は、設計方法による内部
ティビティが存在する場所を表現し、次にその場所の囲み
空間の分割度合いの違いである。そこで、各々の設計事
方を考えて周りの空間限定要素を配置してゆく、設計方法
例から建築内部を構成するすべての「ひとまとまりの空
<C> および <A> においては、最初に空間のヴォリュームを
間」を抽出した ( 図 4)。
表現するブロック状の形態を配置する設計方法 <V> に比べ
図 4.「ひとまとまりの空間」の抽出(被験者 D、E の場合)
て、連続性が高く「ひとまとまりの空間」内に多様な機能
を含むような空間構成が創られやすい傾向が確認された。
さらに、<A> においては、<V> や <C> よりも立体的で高さ
に変化のある床面構成が生まれやすい傾向があることも
確認された。
もちろん、今回行った実験は設計のごく初期の段階に
関するものであり、実際の設計においては、たとえヴォ
ここで「ひとまとまりの空間」とは、床や壁に仕切られ
リューム配置から始まった設計であっても、最終段階ま
ずに繋がったひとつづきの空間を意味している。ただし、 でにはアクティビティについての検討が行われ、連続性
仕切りが無くとも階段・廊下等のみを介して連続するよ
の高い空間構成が創り出されることは、十分考えられる。
うな空間どうしは、「ひとまとまりの空間」とはしない。 しかしながら、設計方法と空間構成との間にどのような関
このような、ひとつの建物の中に存在する「ひとまとまり
係があるのかを認識しておくことは重要であり、その関係
の空間」
の数を空間数と呼ぶことにして表にまとめた ( 表 2)。 を具体的に示し得たことは、今回の実験の有意義な成果で
<V> と <C> の比較では、3 つの事例すべてについて <V>
あると言えるであろう。
の方が <C> よりも空間数が多くなっている。一方、<V> と
( 注 1)SketchUp Ver.4 を使用。水平、垂直、傾斜面等の 3D 要素をスケッチ感覚で作成でき、
樹木、人、家具等のライブラリ部品 ( コンポーネント ) を配置することもできる。
< A > の比較では、6 つの事例のうち同数は 1 例で、残り 5
4 実験結果の分析
* 神戸芸術工科大学 芸術工学研究所 特別研究員
** 神戸芸術工科大学建築・環境デザイン学科 助教授・博士
(工学)
*Researcher, Design Research Institute, Kobe Design Univ., M.of Design
**Associate Prof., Dept. of Environmental Design, Kobe Design Univ., Ph.D.