児童のイメージマップから見る空間認知の発達過程

児童のイメージマップから見る空間認知の発達過程
― 明石市立花園小学校における調査・分析―
正会員
同
空間認知
小学校
イメージマップ
発達心理学
○赤松
川北
麻衣*
健雄**
認知地図
児童
1.研究の目的と方法
小学校の児童を対象として年齢の異なる数クラスの児
童に自由描画法で学校内の地図を描いてもらい、描画の
様子や描かれたイメージマップを分析することにより、
空間認知の発達過程や要素と空間認知の関係を考察する。
調査方法としては、明石市立花園小学校の 1 年生・3 年
生・6 年生の児童に学校内の地図を自由描画法で描いても
らい、合計 103 枚の地図から学年ごとの分析を行う。
2.調査結果の分析
2-1)出現エレメントについて
収集した児童の地図から学年ごとに出現エレメントを
2-4)地図の描画図式について
地図の描き方に焦点をあてて構成を分析した結果、下
のような 7 つのタイプの描画図式が導きだされた。
カウントし、種類・数・配置などの分析を進めた。1 年生
においては全児童が運動場を描くなど、共通性の高い要
素が存在するのに対し、3 年生になると運動場を描いたの
は 59%の児童に限られ、ばらつきが起こる。6 年生にな
ると高い割合の児童が同じ要素を描くようになるが、そ
の種類数は増加する。配置に関しては、1 年生が表現した
要素は運動場側に偏り、3 年生になると配置が分散し、6
年生になるとさらに分散して、全体をまんべんなく把握
していることが示される。
<1 年生の描画図式>
1 年生では 68%の事例が、B タイプの描画図式であった。
2-2)文字の方向について
地図の描画において、児童が紙を回転させながら描く
これは最初に描かれる大きな枠に小さな枠を付加してい
様子が観察された。
ら見える範囲内をこれに付加するものが多かった。
く表現方法で、特に中心となる運動場を大枠としそこか
<3 年生の描画図式>
紙を回転させた結果、記入される文字の方向が 3 方向
3 年生で最も多かったのは D タイプで、44%がこの描
以上となる事例の割合を調べると、1 年生では 11%、3 年
画図式にあてはまる。各空間を線・または面で少しずつ
生で 18%、6 年生で 8%であり、3 年生の割合が最も高く
繋ぎ合わせるといった表現方法で、線は必ずしも平行で
なっている。
はなく、廊下
2-3)絵的表現について
絵的表現とは、地図上に表現された機能や教室名を文
の曲がりにあ
字ではなく絵で表現しているものをいう。絵的表現が認
異常に長い廊
められる事例の割合は、1 年生が 27%、3 年生が 11%、6
下が出現する
年生が 5%で学年が上がるにつれて減少する。
こともある。
わせてうねる。
Development of Spatial Cognition Analyzed through Children’s Image Maps
-A Case Study at Hanazono Elementary School in Akashi-city-
AKAMATSU Mai, KAWAKITA Takeo
描画時の観察においても、場所と場所を経路で繋いでい
く様子が確認された。
3.考察
学年ごとの分析結果からは、それぞれ以下に示すよう
<6 年生の描画図式>
な特徴があげられた。
6 年生では G タイプが 44%、F タイプが 37%、E タイ
プが 16%で、6 年生にしか表れないこれら 3 つの描画図
式が合わせて 97%であった。この G・F・E タイプに共通
することは、室内の部屋を描く前に平面図的に小学校校
舎の外枠がかたどられることである。
2-5)異なる階層の表現について
<1 年生>
1 年生では、異なる階層の表現は描画図式が A タイ
プ・D タイプの事例にはみられず、B タイプ・C タイプの
<1 年生の分析結果>
・エレメント出現頻度の高い表現の偏り
・エレメントプロットの運動場側への偏り
・地図の描画図式のタイプが運動場を基本軸として展
開される
・奥・裏の不在
・運動所側からみえるものに限って異なる階層が表現さ
れる
したがって 1 年生はある
一点に自分を固定し、そこ
から見えるものだけを表現
すると考えられ、この段階
を一視点認知の段階と名付
ける。
<3 年生の分析結果>
地図において、積み重ねることによる階層の変化の表現
・エレメント出現頻度の分散
・エレメントプロットの分散と大きさの縮小
・構成要素を順番につないで描き加えてゆく表現
・階層が階段で変化する
・場所と場所が経路でつながれる
したがって 3 年生
は頭の中の空間で動
く自分と、描画する
<3 年生>
自分とを行き来する
3 年生においては、1 年生の積み重ね表現は見られず、
思考を持つと考えら
階段を用いて表現する事例が多かった。場所を経路で繋
れ、これを視点移動
ぐ際に自分の通過点を次々に描いていくために異なる階
型認知の段階と名付
ける。
層の重なりを示す下図のような表現が表れてくる。
<6 年生の分析結果>
・共通度の高いエレメントの種類が多い
・エレメントプロットの全体的な分布
・地図の描画図式タイプが 1 年生・3 年生とは全く異な
る
・階段などが形ではなく、機能要素として記号化されて
<6 年生>
表現される
したがって 6 年生は対
6 年生においては異なる階層の重なりや、階段や廊下の
象物を複数の視点から客
曲がりくねった表現が存在しない。機能として、そこに
観的に観察する能力を持
階段があるのかないのかという表示が重要になっている。
つと考えられ、この段階
を多視点型認知の段階と
名付ける。
4.まとめ
以上の考察の結果、1 年生の射影的な一視点型の認知が、
がみられた。
3 年生における動き回る自分を中心とする視点移動型認知
の段階を経て、6 年生におけるユークリッド的な多視点型
の空間把握に移行することが確認された。
* 神戸芸術工科大学大学院芸術工学研究科
**神戸芸術工科大学環境デザイン学科
修士課程
助教授、博士(工学)
* Graduate School of Design Research, Kobe Design University
**Associate Professor, Department of Environmental Design, Kobe
Design University, Ph.D