活動報告書

活動報 告書
報 告者 氏 名 :田 中
静子
所 属 :八 戸市 東 中 学 校 記 録 日 : 2 0 1 5 年 2 月 8 日
【対 象 児 の情 報 】
・学 年
中学校2年生男子
・障 害 名
ア ス ペ ルガ ー 症 候 群 高 機 能 自 閉症
・障 害 と困 難 の内 容
二 次 障 害 を 発 症 。 大 人 数 の 中 に い る と ス ト レ ス が た まり 、フ ラ ッ シ ュバ ッ ク ・ 暴 言 ・ 他 害 行 為 ・ 解
離性症状が現れる。自分自身の心情、内面について表現することを拒否しており、本人の悩み
や 困 っ てい る ことが 周 囲 に 伝 わ らな い 。
【活 動 目 的 】
・当 初 のねら い
自 己 表 現 す る こと の 楽 し さ を 体 験 す る こ とに よ り 、自 分 自 身 の よ さ に 気 づき 、 自 ら の考 えて いる
こと や気 持 ち を 他 者 へ 伝 えら れる よ うに な るこ と。
・実 施 期 間
2 0 14 年 6 月 ~ 2 月
・実 施 者
田中静子
協 力 者 中 園 一 輝 (特 別 支 援 学 級 担 任 )
・実 施 者 と対 象 児 の関 係
学 年 主 任 ・国 語 科 担 当 者
田 中 友 也 (特 別 支 援 ア シ ス タン ト )
【活 動 内 容 と対 象 児 の 変 化 】
・対 象 児 の事 前 の 状 況
入学時~7月
他 人 に 自 分 の 気持 ち をつ た える ことに つ い ては 拒 否 し て いる 状 況 。教 員 も
状 況 がつ か め ず、 突 発 的 に 暴 れた ときに 制 止 す ることで 対 処 し て いた 。
1学年8月
通 院 治 療 開 始 、特 別 支 援 学 級 通 級 開 始 。
1 学 年 12 月
特別支援学級正式在籍。他害行為につい
ては沈静化がみられたが、相変わらず、自
分 自 身 の心 情 に つ い て は語 ら ない
2学年4月~5月 安 定 し て い る 。 特 別 支 援 学 級 に 新 入 生 を
迎え、粘り強く面倒をみる姿が見られるよ
う に な る。
2学年6月
梅雨に入り低気圧の際、頭痛を訴え、心身
の状態が不安定になる。他害行動が見ら
れ るよ うに な る。 自 らの心 情 に つい て は 語ら 〈 2014 年 4 月 の自 分の 似顔 絵 〉
ない。
・活 動 の具 体 的 内 容1 「 好 き な 物 を 写 真 に 撮 って 、 教 え よ う 」 2 0 1 4 年 6 ~ 7 月
(写真・カメラ機能使用)
身の回りから自分の好きな物を選択し、タブレットで写真
を 撮 る 。「 好 き な 物 」 と い う 課 題 に よ り 、 楽 し く 自 由 に 選 択
させることで本学習への意欲をもたせ、自分の思い(好き)
を表現させることをねらいとした。
1時 間 目 「 校 内 で 自 分 が 好 き な も の 、 面 白 い と 思 っ た も
の を タ ブ レ ッ ト で 写 真 に 撮 ろ う 。」 と い う テ ー マ で 、 タブ レ
ットを持って校内を自由に回った。
2時間目は「好きな物を教えよう」というテーマで、前時に撮った写真を教師や友だ
ちに見せながら、説明するという活動で、自分の作品を通して自己表現したいという意
欲を高めることをねらいとした。
・対 象 児 の事 後 の 変 化 1
①はじめは撮ってみたいという興味から被写体を探してい
た 。・・ ・作 品 1
〈 作品 1
久 しぶ り に会 った アロ エ〉」
② 活 動 の 中 で 鏡 を 撮 るこ とでタ ブレ ッ ト の機 能 に 自 ら気 づ いた。 ・・ ・作 品 2 ・ 写真 1
作 品 2 ・・・タ ブ レ ッ ト と 鏡 を 用 い る
ことで何人もの自分が写真
の中に映り込むことに気づ
き、 できた作品 。
※写真1・・・実施者が写真を撮っ
ていたところ「先生も一緒
に写りましょう。」と言って、
タブレットに姿を映し出して
くれ たも の。
〈 作品 2
4 人の 僕 〉
〈写 真1 ※
先 生も 一緒 に 〉
③ そ れ を き っ か け に 面 白 い 物 を 撮 り た い と い う 意 欲 が 湧 き 、 自 ら友 だ ち と協 力 し て 作 品 を 作 り 出
す とい う活 動 に 推 移 し てい っ た。 ・・・ 写 真 2 ・作 品 3
〈写真2
友 だ ち と 協力 し て 撮 影 す る様 子 〉
〈 作 品3
巨 大 な Y君 〉
④写真を撮ったことで「作品を見せたい。教えたい」という気持ちが起こり、自己表現
したいという動機づけとなった。また、撮ってすぐ相手に提示できることから、視覚的
情報を相手と共有でき、自分の説明したいことが的確に伝わるなど表現を容易にし、他
者からの反応・賞賛を得られやすく、伝えることが「楽しい」という実感が持てたよう
であった。以後、考えていること・悩み・困り感を実施者やサポーターに伝える場面が
少しずつ増えていったという点で有効であった。
2学年7~8月
他 害 行 為 に 及 ぶ 際 、 それ ま で は 無 言 だ っ た が 、 こ の 活 動 後 、「 友 だ ち 欲
し い」「 人 間 な ん て、変 ら な い 。」「( 自 分 が 困 っ て い る こ と に つ い て は)
し て も 仕 方 が な い 。」 な ど の 発 言 が 聞 か れ る よ う に な る 。 活 動 と 関 連
性 に つ い て は 明 確 で はな い が 、 こ の こ と は 対 象 児 を 理 解 す る 上 で は 貴
重であった。
2学年8~9月
2学年10月
2学年10
~1月
市 教 育 委 員 会 よ り 指 導が 困 難 と
判 断 さ れ 、 2 学 期 よ り、 特 別 支
援 ア シ ス タ ン ト が 増 員さ れ る 。
学 年 で 実 施 し た 職 場 体験 は 「 人
と 接 す る よ り 、 自 然 と接 す る 方
が 自 分 に は 合 っ て い るの で 、 農
業 を や り た い 。」 と の 本 人 の 希
望 に よ り 、 農 場 を 持 つ障 害 者 支
援 施 設 で の 体 験 が 実 現し た。
〈 活動記録
職場 体験した農場の ジオラマの製作〉
他 害 行 動 、 破 壊 衝 動 の頻 度 が 1 0 日 間 に 4 度 と 非 常 に 増 加 し 、 制 止 し
た 教 員 が け が を す る など の 状 況 が 発 生 。 通 常 の 通 学 が 困 難 と な る 。「 他
の 人 が 居 な い 所 で 静 かに 勉 強 す る 形 で 、 通 学 は 続 け た い 。」 と の 本 人 ・
保 護 者 か ら の 提 案 ・ 希望 に よ り 、 時 間 を ず ら し 、 別 室 で サ ポ ー タ ー の
支 援 を 受 け な が ら 教 材提 示 型 タ ブ レ ッ ト ( 他 社 ) を 活 用 し た 学 習 を 中
心 に 進 め る こ と と な る。 主 治 医 よ り 別 の 薬 が 処 方 さ れ た こ と 、 学 校 内
で 大 人 数 と 接 す る 機 会が 激 減 し た こ と に よ り 、 現 在 ( 1 1 月 ~ 2 月 )
他 害 行 為 は 沈 静 化 し てい る 。
特 別 支 援 ア シ ス タ ン トに 対 し 、
「『 好 き 』と か『 幸
せ 』 と い う 感 情 が 分 か ら な い 。」「 自 分 は 心 ( 暴
れ る と き の 気 持 ち の 塊 ) と 魂 ( 自 分 の 気 持ち )
が 離 れ て い る 。」 な ど 自 分 の 考 え や 生 き 方 に 対 す
る 悩 み を 発 言 す る よ うに な る 。 同 時 に 「 人 間 は
自 然 界 に は 存 在 し な い方 が い い。」「 人 間 に は 3
大 欲 求 の 他 に 殺 し た いと い う 欲 も あ る よ う に 思
う 。」とい う よ う な 不 穏 当 な 発 言 も あ る こ と か ら 、
楽 し く 命 を 慈 し む こ とが で き る よ う な 日 々 の 活
動 ( 植 物 栽 培 ・ 亀 の 飼育 ) を 取 り 入 れ る 。
〈 活動 記 録
亀 の飼 育〉
・ 活 動 の 具 体 的 内 容 2 「 自 分 の 作 品 や 学 習 活 動 を 記 録 し よ う 」2 0 1 4 年 10月 ~ 2 0 1 5 年 2 月
(写 真 ・カ メ ラ メ モ 機 能 使 用 )
「好きな物を写真に撮って、教えよ
う」の学習活動以降、写真に対する肯
定的イメージがあるようで、実施者が
「写真に撮ってはどうか」と声をかけ
ると前向きに取り組む。また、記録は
鉛筆よりタブレットやキーボードでの
入力の方が負担感が少ないということ
で、自らメモを使用した。継続的に記
録 を と る こ と で 自 ら の 働 き か け に よ り 、〈 活動 記録 大 根 の栽 培 〉
〈 成長 記録 の メモ 〉
植物や動物が成長・変化していく様子
に気づかせ、命に対し、慈しむ気持ちを育むことがねら
いである。
・対象児の事後の変化2
作品づくりや学習活動の蓄積が視覚化されることによ
り、活動への意欲付けになった。出来上がったペーパー
クラフトやジオラマを写真に収めるときに「疲れるけれ
ど 、 こ う い う ( 細 か い ) 作 業 は 嫌 い で は な い 。」 な ど の 発
言も見られ、自分の得意とすること、好きなことを伝え
るきっかけとなった。制作中は集中し、ほぼ無言であるが、完成しカメラに収めるときは
達 成 感 を 感 じ る よ う で 、笑 顔 で あ る 。ま た 、生 き 物( 植 物 ・ 小 動 物 )を 世 話 す る と き は「 今、
え さ あ げ る か ら ね 。」 な ど と 話 し か け る な ど 生 き 物 を 慈 しむ 行 動 が み ら れ る よ う に な っ た 。
【報 告 者 の気 づ きと エ ビデン ス】
・主 観 的 気 づき
① 写 真 を 撮 る と い う 行 為 が 、撮 っ た 写 真 を 誰 か に 見 せ た い と い う 気 持 ち を 呼び 起 こ し 、
対 象 児 に と っ て 自 己 表 現 へ の 意 欲 付 け や き っ か け に な る。
② 写真を提示して伝えることにより、自分の意図を的確かつ容易に表現することにな
り 、 肯 定 的 な 反 応 が 得 ら れ 、 表 現 す る こ と へ の 抵 抗 感 が 減 り 、「 伝 え た い 」「 分 か っ
て欲しい」という気持ちが高まった。
③ 「( 家 族 以 外 の 人 に は ) 伝 え て も 仕 方 が な い 。」 か ら 、「 話 し て み よ う 。」 と い う 気 持
ちの変化が起こった。
・エ ビデン ス
○気づき①に関するエビデンス
他 害 行 為 に 及 ぶ 際 、 そ れ ま で は 無 言 だ っ た が 、 こ の 時 期 は 、「 友 だ ち 欲 し い 」「 人 間
な ん て 、 変 ら な い 。」「( 自 分 が 困 っ て い る こ と に つ い て は ) 話 し て も 仕 方 が な い 。」 な
どの発言が聞かれるようになる。さらに、写真撮影の際、対象に対する思いが「疲れ
る け れ ど 、 こ う い う ( 細 か い ) 作 業 は 嫌 い じ ゃ な い 。」「( ペ ー パ ー ク ラ フ ト の シ ー ラ カ
ン ス の ) 頭 が 複 雑 で む ず か し い 。」「( 大 根 の ) 本 葉 が 出 て き て い る ん で す よ 。」 等 の 発
言となって出てくる場面も多い。
○気づき②に関するエビデンス
攻 撃的 な発 言 が 出て いた 不安 定 な日 (1 0月 上 旬) に、実 施者 が こ れ ま で 見ら れ た対象
児 の よ い 行 動 を 実 例 を 挙 げ て 褒 め た と こ ろ 、 「 褒め ら れ た く な い ! 」 と 叫 び 暴 れ 出 し た 。 そ
の後母 親に「『 褒めら れ たこ と』 を『信 頼して裏切ら れた記憶』 に転換してしま った。」と 話し
た。「本当は褒められたかったはずです。」(母親談)
上記の1週間後「心の教室相談員」に話を聞いてもらい たいと申し出る 。
別 室へ の 時間 差登 校が 始 ま り、ストレ ス が少 なく なっ てく ると 、信 頼でき る人 間への 生き方
や自分の内面についての相談が 増えてきた。
【日々の記録より】
10/15 「毎日、悪夢を見る。」と訴える。
10/20 「『幸せ』『好き』という感情が 分からない。」と訴える。
10/3
「先生は心(暴れるときの怒りの塊)と魂(自分の気持ち)が離れていること
ありませんか。」とアシスタントに問う 。
11/1
「自分は頭の中で『何のために生きるのか』という ことや『自分の心の闇』
について常に考えているから、頭が いっぱいで勉強が頭に入らない。」と訴
える。(その後、瞑想状態になり校内を徘徊する。暴れることはなかった。)
12/3
「特に欲しい物はないが、できるなら他の人に迷惑をかけずに死にたい」と
える。
○気 づき③ に 関するエ ビデン ス
【日々の記録より】
10/2
主治医のアドバイスに従い 、他害行動に及ぶときに感じる「怒りの塊」を絵
に描いてみる。
「幸せ」「好き」という 感情が分からないと発言する。
10/2
「(アシスタントの修正テープを)折りたい気持ちになっている。」とアシスタ
トに伝える。そ の日は足早に帰宅した。
10/3
「先生は心(暴れるときの怒りの塊)と魂(自分の気持ち)が離れていること
ありませんか。」とアシスタントに問う 。
11/7
学年行事「盛岡自主見学」に参加した際、帰りのバスで「薬が 切れました。
もう無理です。」と学級担任・アシスタントに申し出ることができた。
11/1
「漢字は将来役に立つのか?何か役立つ話を聞かせて欲しい。」とアシス
タントに頼む。
上 記 の 他 に 、 主 治 医 に 対 し 「 自 分 には 他 の 人 に あ る 必 要 な 何 か が 欠 け て い る と 感 じ る 。 」
と 話 したり 、将 来の こと につ いて話 すこと が 増えた 。勉強 に対する 意欲も 徐々に高ま り、苦
手の漢字練習(タブ レットを使用)に自ら取り組むようになった。
・そ の他 エ ピ ソ ー ド
2月11日(水)地元で開催された「はちのへ朝市ロボコン
市場へGO!」に自らロボットを製作して、友人と参加し、優
勝することができた。ロボット製作への情熱は目を見張るも
のがあった。製作の過程をこれまでの静止画に加え、動画で
も撮影。また、タブレット学習の傍ら、ロボット製作に関わる
理 科 や 技 術 へ の授 業 に 自 ら希 望 し 参 加 し た。
また、人と関わりを持ちたいという気持ちも強まり、国語の「百人一首」、体育の柔道、家庭
科の調理実習にも自ら希望して参加した。さらに、「自分はみんなに嫌われているのではない
か。」と悩む適応指導教室に通う生徒に対し、「欠点のない人間はないし、全ての人に好かれ
て い る人 間 も い な い 。 そ ん な 人 間 が い た ら、会 っ て み た い も の で す 。 」 と 冷 静 に ( ? )励 ます 場 面
も 見 受 けら れた 。
自らも他者との関わり、自分の生きづらさに悩み、苦しむ中、心情を言葉にできはじめたこ
とに よ っ て、 少 し ずつ で はあ る が 、前 進 で き て いる ことを 本 人 も 実 感 し 始 めた よ うで あ る。