題名 目に見えない壁 いなべ市立藤原中学校2年 伊藤 愛那 今年五月,私は職場体験学習で「藤原作業所」にお世話になりました。作業 所には,十八才から六十四才まで幅広い年齢の人達が働いています。そして, その人達には各々,障害があります。ダウン症,発達障害,知的障害。自分の 気に入らないことがあると,机をたたいたり,大声を出したりする人。人との コミュニケーションのとり方が分からず,心を閉ざしてしまう人。壁に頭をぶ つける人。私は,そんな人達が怖かったし,どうやって接したらいいのか分か らず戸惑いました。でも,私は何とか作業所の人達と仲良くなりたくて,どう すれば気持ちが通じるのか考えました。朝の挨拶や仕事の手伝い等,まず自分 にもできる身近なところから関わっていこうと決めました。すると,最初にあ いさつをしても返してくれなかった女の子が「おはよう」と返してくれるよう になりました。「おはよう」という何気ない一言で心が通じ合えたことが,と ても嬉しくて私は,その日から色んな人に積極的に話しかけるようにしました。 話しかければ話しかけるほど作業所の人達も私に慣れてくれ,手をつなぎにき てくれたり,私に笑いかけてきてくれたり,少しずつ心を開いてくれるように なりました。だんだん心の距離が近づいていくのを実感して,楽しくなってき ました。そして仕事も一緒にさせてもらいました。ゴム製品のバリ取り,車の シートカバー作り等です。私にとっては簡単な作業でしたが,障害のある方に とっては気持ちを集中させることが難しい作業らしく,途中で席を立って歩き 回ったり,他の人に話しかけて邪魔をする人もいました。そういう人は,壁に 囲まれた部屋で一人になり作業をすることになっていました。一人になると集 中して仕事ができるのです。そこで私は気がつきました。作業所では障害のあ る人が安心して仕事ができるように様々な工夫がされていることに。例えば, 気持ちを落ち着かせるためのスペースがあったり,お昼を知らせるチャイムの 音が優しいメロディーにしてあったり,ドアは体や手をはさまないようにゆっ くり閉じるスライド式になっていたり。あちこちに思いやりを感じさせる場所 がありました。私達の生活の中で普通だと思われていることもそれは健康な人 にとっての普通であって障害のある方,お年寄り,体の不自由な方にとっては 大きな壁になることがわかりました。少しの気配りをすることで,どんなにか 障害のある人達が過ごしやすいか改めて考えさせられました。 また,作業所の皆さんと一緒に仕事をしていると,お互いに助け合う場所に 多く出会いました。荷物を運ぶ時に「それ重たいで,こっち持ってあげるよ。」 と若い人がお年寄りの人に手をかしてあげたり,逆に「エプロン結ぶわね。」 とお年寄りが若い人を助けてあげたり…。その姿に私はハッとさせられました。 私は障害のある人は出来ないことが多くて,誰かに助けてもらうことばかりだ と思っていたけど自分に出来そうな仕事を探して,人の役に立とうとしている 姿に心を打たれました。それから,ある一人のおばあさんは,初めての仕事を する私に,一生懸命に仕事の手順を教えて下さいました。あまり上手く話がで きない方でしたが,それでも身ぶり手ぶりを交えて私に伝えようとしてくれ, 私も一つも説明を聞き逃さないように真剣に耳を傾けました。自分の気持ちを 相手に伝えようと一生懸命になっていたおばあさん。私は今まで言葉の話せな い人の話を真剣に聞こうとしていなかったのではないか。最初は上手くコミュ ニケーションがとれないのを作業所の方のせいにしていたけど本当は,障害の ある人に壁をつくっていたのは,私の方ではなかったのか。と,反省の気持ち で一杯になりました。 私は,今まで障害者の人を見かけると,どこか普通の人と違うところがある -1- し,奇声を発したり,暴れたりするので正直,怖いと思っていました。無意識 のうちに関わりを避けていたかもしれません。でも職場体験から二ヶ月あまり が経ち,今では怖いというそんな思いは,少しも無くなりました。大きな声を 出しても暴れても,それには何か理由があることが分かったし,自分の気持ち を相手に伝えるための手段なのかもしれません。また,それが気持ちを落ちつ かせるための過程であるかもしれないことも理解できるようになりました。 世の中には,自分とは違う人に対する偏見がまだまだあります。自分で確か めもしないうちに,こうと決めつけて本当の姿を見ようともしない。私は,職 業体験を通してあやまった自分の考えに気が付きました。そして,もっと色ん な人と積極的に関わり合おうと思いました。未熟な私を受け入れて下さった作 業所のみなさんに今は感謝の気持ちで一杯です。今度また,作業所のみなさん に会うときは,一歩,成長した私になっていたいです。 -2-
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