<有機資源化学 質問・コメントへの未回答分> <在来型資源関連> ・問題 57,58 わからない これは,「グラファイトやダイヤモンドの炭素-炭素結合1つあたりの結合エネルギーは?」という 問題でした。説明では,何とはなしに「1つの結合を2つの炭素でシェアしているから云々・・」で 済ませた部分です。 炭素単体の生成エンタルピーは,その炭素同素体の炭素-炭素結合エネルギーの総和にほかなりま せん。“単位格子”を少しずつ大きくしていったときの極限値として求めることが可能です。(グラフ ァイトの方が平面なので分かりやすいでしょう)。結晶化学で,CsCl のような体心立方格子の結晶で 単位格子を書くときには重心(例えば Cs )にも頂点(例えば Cl )にも球を書きますが,だからとい ってだれも,量論比が Cs:Cl =1:8 だとは思わないですね。それに似ている,と考えてはどうでしょ うか。 + - ・ラジカル反応よくわからない ・異性化がよくわからない 石油精製プロセスあるいは石油化学プロセスに関連する話で,反応原料はいずれもアルカンです。有機 化学ではアルカンは反応性に乏しい,ということになっていますが,高温ではそうでもありません。整 理すると,以下の様です。 プロセス 基質 触媒 条件 現象 結果 接触改質 石油の常圧蒸留 シリカ-アル 500℃ 脱水素/水素化+ 分 岐 した アル カン でのガソリン留 ミナ上に担持 ル イ ス 酸 触 媒 反 (高オクタン価) 分+水素 された白金 応。 接触分解 重油 Zeolite 。分子 535 ℃ , ラジカル的な C-C 低分子アルカン,シ 篩+強酸とし 1.72 bar, 結合の切断+強酸 クロアルカン,芳香 数秒 触媒による分解反 族化合物生成 て作用。 応。 ナフサ分解 ナフサ(接触改 なし 800℃,数 ラジカル的な C-C エチレン,プロピレ 質と同じ) 秒 結合の切断と続く ンを主成分とする不 連鎖反応。 飽和炭化水素混合物 ・問題 51 わからない これは,接触改質で起こる反応をぐっと単純化して,超強酸による酸触媒反応だけということにした ものです。ポイントは,プロセスにおいて炭素結合の組み替えが起こりうるということです。実際の実 験事実としては,この問題の内容そのものではなく,1- C-ブタンを強酸である HF-SbF で処理したと ころ,(2 級炭素からの H の引抜き反応を介して)2- C-ブタンが得られ,イソブタンは全く得られなか ったというものです。(出典:D. M. Brouwer, Recueil des Travaux Chimiques des Pays-Bas, 87, 87 1435 (1968)) 。このようなふるまいは,プロトン化シクロプロパン中間体の存在を支持するものです(言い方 を変えると 1 級カルボカチオンの存在を否定している)。 n-Octane から 2,2,4-トリメチルペンタンができる機構をこのメカニズムベースで考えるのはよいトレー ニングになるでしょう。 13 - 13 5 ・新潟で油田が発見されたようだが,これで日本は変化するか ・日本近海の石油試掘の現状 読売新聞 2012.6.18 の記事から抜粋「・・・経産省資源エネルギー庁は、08年に導入した3次元物 理探査船を使用して地層構造を精密に分析した結果、海底から2700メートル下にある地層のうち、 約135平方キロに及ぶ範囲で石油や天然ガスの埋蔵の可能性があるとのデータを得た。面積はJR山 手線内の約2倍に相当し、同庁は「面積では海外の大規模油田に匹敵する」としている。」 3次元物理探査船・・・ウィキの“資源 (探査船)”,また,下記にも資料ある模様。 www.shindo.gr.jp/01【説明資料】 「資源」概要 120328.ppt 音波の反射でみるものだそう。 なお,日本はながらく海底の炭素資源の開発に本腰をいれてこなかった。2007 年に日本海のガス田の 所有権問題が生じるに至ってやっと腰を上げて経済産業省がノルウェーから船を買って 2008 年より調 査開始。今回のニュースはその調査結果を受けてのもの。現段階では“音波を解析したところ,どうや らあるのでは?”というもの。次の春から試掘。あったら掘って使うと思われる。まさか,「あることは 分かったけど使うと CO 増えるので見なかったことにしてふたしておこう」,と言う人はいるまい。原発 反対派には追風か?天然の備蓄と見て使わずにストックしておくという手もあるかも。実働部隊は独立 行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)。HP は以下。 2 http://www.jogmec.go.jp/index.html <非在来型資源関連> ・メタンハイドレートは採算取れるか メタンハイドレートも JOGMEC。メタンハイドレートで難しいのはどうやってメタンを取り出すか ということ。もちろん掘ってきて地上にもってくれば平衡が分解に寄るのでメタンは取り出せるが地 上にもってくるのにエネルギー使っては意味がない。今回の日本の試掘では海底のメタンハイドレー トから減圧でメタンを吸いだす方法のよう。問題はメタンハイドレートからのメタンの取り出しが 400 kJ/kg の吸熱プロセスだということころ。 「上下の岩盤との熱交換で何とか・・・」という作戦。 関連情報は以下。 東邦大学理学部 山口 勉先生の文書。大変分かりやすい。 http://www.mnc.toho-u.ac.jp/v-lab/energy/katsudou/file/Methane%20hydrate.pdf メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム http://www.mh21japan.gr.jp/ ・メタンハイドレート研究者に対して石油王から圧力がかかるという話は本当か。 - msn 産経 2012.6.12 の記事:日本海に「燃える氷」埋蔵か 兵庫県が調査に着手 兵庫県が日本海で、次世代エネルギー資源として期待される「メタンハイドレート」の調査に乗り 出したことが明らかになった。シンクタンクの独立総合研究所(東京都江東区)との共同調査。今月 上旬の第1回調査で、海底から泡のようなものが立ち上っているのが確認されたといい、11日から 詳細な調査を行っているという。一定の埋蔵量が確認されれば、さらに本格的な調査を検討する。 (中略)県の調査は、日本海での埋蔵を指摘する同研究所の青山繁晴社長に、井戸敏三知事が協力を 申し出たのがきっかけ。(後略) この「青山繁晴」なる人物について調べると,確かに(石油王ではなく)日本政府から妨害が・・ などとの情報もなくはないが,個人のブログレベルなので真偽はなんともいえない。妨害の理由は炭 素資源が石油からメタン(=天然ガス)に大転換すると日本の一次エネルギー構造が大きく変わって, 不利益を蒙る業界が多いため,とか。すくなくとも,この理由の部分については有機資源化学を受講 したら皆さんならよく分かるはずですね! ・ごみ発電でどんなゴミでも OK のものは難しいのか ごみ発電は,以前説明したとおり塩素が問題なので,耐塩素性を高めた素材で作れば可能だが,と んでもなく高くつく。また,実際に発電プロセスを考えた場合に,ある日の燃料はカロリー高くて, 別な日には低い,ということになると,発電安定性が保てなくなり,電気の“商品価値”が下がる。 このため,実際にはエネルギー不足分を重油を適宜足して補うなどの方法がとられる。 ・日本とヨーロッパのペットボトルのリサイクル率(回収率ではない)を知りたい 日本は 2010 年のリサイクル率 84%。なお,これは PET くずの海外輸出もリサイクルに算入した結 果。国内に限ると 41%。 http://www.petbottle-rec.gr.jp/data/calculate.html ヨーロッパは 2010 年は回収率が 48%。別の情報によると回収物の 67%がフレークとなってリサイ クルに回るとのこと。なので,掛け算して 32%がリサイクルされていることになる。 http://www.petbottle-rec.gr.jp/data/comparison.html http://en.wikipedia.org/wiki/PET_bottle_recycling ・リサイクルが日本と他国で違うのはなぜか リサイクルの主体が企業なのか自治体なのかという点が大きく違う。それ以外にもリサイクルの対費 用効果の考え方あるいは分別ルールに従うかどうかの国民性の違いも大きい。ちなみにイギリスは PET の回収率 1 桁%とのこと。 http://www.jcpra.or.jp/law/what/pdf/00.pdf ・葉緑体の上着は作れるか 一見突拍子もない質問だけれど,極めて重要な内容を含みます。これは,植物の葉緑体を集めて, これをエネルギー変換装置あるいはでんぷんの合成装置としてつかえないかという問いだと思われま す。細胞内の葉緑体を取ってくることは,現在の科学技術で十分可能ですが,葉緑体は細胞内環境で 安定に存在できるものであり,取り出されたものは不安定です。それを例えば繊維に練りこんでみて も光合成はできません。今のところ。これをできるようにすれば色々な問題が一気に解決します。 <エネルギーの将来> ・50 年後世界から石油が消える可能性が高いが,その後の主要エネルギーは? これは試験問題そのものに関係するので,自身で考えて下さい。 ・太陽光発電が将来,日本あるいは世界で主要電力になる時代があるか? これもやや上記と同じですが,多少ヒントめいたことを。現在市販されている屋根上設置の太陽電 池パネルは日平均で 400 W 程度(最大値で 4 kW 程度)です。先だって,東工大の全面太陽電池張り のビルがニュースで話題になりました。580 kW の発電能力をもち,燃料電池の 100 kW を足して使用 電力の全量をまかなうとのことです。 <本講義にある程度関係あるその他の質問> ・温室効果がよく分からない 情報源は,英語の wikipedia の“Idealized greenhouse model”のページでしたが,日本語で簡単に 解説されているページを見つけたので紹介します。東京学芸大学気象学研究室というところから。 http://kishou.u-gakugei.ac.jp/lectures/basic/doc06.pdf 直接本講義とは関連のない質問> ・首都圏で 3.11 レベルの地震起きたら東京の電力はどうなるか。食糧は? これは本講義とあまり関連あるように思えませんが,とりあえず,電力に関しては,大規模な発電 所は首都圏にはないので,根幹の部分にダメージと言うことはないでしょうが,送電網・変電設備が 影響を受けることは避けられないでしょう。一定規模以上のビルは自家発電を作動させるでしょうが, 電力の回復まで持つかどうかは疑問です。石油の輸送も途絶えるので,3.11 の被災地同様,車も役に 立ちません。食糧は,3.11 ですらあの体たらくだったので,皆買占めに走ってパニックがおとずれる ことは想像に難くないでしょう。保存食を備えておくのはよい方法だと思います。 ・東大生産研について 生産研は,東大にある 11 の附置研究所の1つであり,東大では最大規模の研究所(教員数 100 名)。 研究所は公式には研究機関であって教育機関ではないので学生なしで運営されることを前提とした組 織だが,実際には主として工学系研究科の大学院学生が所属している。また,他大学の学部 4 年生が 研究実習生として在籍するケースもままある。生産研の守備範囲は工学のほとんど全般,ただし,航 空と原子力はない。特長は,他分野の研究者との風通しがよいこと。化学同士はもちろん,化学と電 気・電子,化学と応用物理の共同研究はざらにある。 <
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