1.室内環境性能を理解しよう 室内環境性能を理解しよう 室内環境性能

1.室内環境性能を理解しよう
1.室内環境性能を理解しよう
1.室内環境性能を理解しよう
建物の快適性は、企画・設計時に想定していたものと大きく食い違うことがあります。その原因と
して考えられるのは、その空間の利用人数や利用時間、区画(ゾーニング)等、利用方法の変化によ
るソフトな面や温熱環境・空気環境・光環境・音環境等、環境性能に係わる設備機器の状態であるハ
ードな面等、利用方法について建物を作る側と利用する側の意見のすり合わせ不足や設計者の経験不
足等、十分に配慮しきれていないことが挙げられます。
第 1 章では、快適性に影響する室内環境性能とはどのようなものがあるのか、またどのようなこと
が原因で快適性が阻害されるのか、いくつかの事例を見ながら考えてみます。
快適性に影響する室内環境性能
ハードな面(設備機器によるもの)
ソフトな面(利用方法によるもの)
利用時間
温熱環境
空気環境
ゾーニング
光環境
利用人数
音環境
図 1-① 快適性に影響する室内環境性能
(1) 室内環境性能の種類と不具合
1) 空調装置とレイアウトの関係 (温熱環境)
事務室の空調設備は、空気の吹出口(アネモ)と吸込口(換気口)とで空気を循環して室内を
一定温度に調整するようにしています。一般的な事務室の温度調整は、室内壁に設置している温
度測定器により測定するか、吸込み空気温度を測定するかの二通りです。その空気温度を測定す
る付近に、OA 機器(コピー機など)発熱するものがある場合は、室内の平均温度ではない温度
を感知してしまい、冷房が強くなったり、暖房が弱くなったりすることが多くなります。空調の
温度調節不良の原因にはこのようなこともあるので、機械の性能不足を検証する前に、測定器や
各機器が適切な場所に設置されているか、室内レイアウトの確認が必要です。
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1.室内環境性能を理解しよう
この図 1-1-1-①は、空調の温熱環境にイタズラした悪い例です。このような事例が無いか、
一度室内を確認してください。
図 1-1-1-① 温度センサー付近に発熱する装置がある例
出典:国土交通省中国地方整備局資料「主な確認のポイント 機械設備編」
また事務所のレイアウト上、空調吹出口
付近にいる人が気流(ドラフト)を感じ、
気分が悪くなったり冷房病になってしま
うことがあります。以前は、気流の向きを
変えたり、風量を絞ったりしましたが、現
在は簡単に取り付けできる制風器があり
ます。この制風器を使用することで、気流
(ドラフト)に関する問題は大幅に改善さ
図 1-1-1-② 制風器の取り付け事例
れます。
2) 粉塵(喫煙)等 (空気環境)
空気を汚染する粉塵は、室内で裁断したりして発生する粉塵や外気を取入る場所付近に汚染空
気がある場合があります。前者の室内で粉塵が発生する場合は、室内空気を循環するのではなく、
100%給気・100%排気のオールフレッシュ方式を行う必要があります。外気取入部分が空気汚染
されている場合は、取入部分を移動して原因を取り除くことが一番の改善方法です。
喫煙については、健康増進法により分煙が一般的となり、事務所の空気環境は非常によくなり
ました。建築物衛生法の特定建築物に該当する場合は、浮遊粉じん量 0.15mg/㎥、二酸化炭素
1,000ppm 以下に規定されていますが、分煙効果により測定結果でも問題ありません。図 1-1-
2-①は、分煙前・分煙後の測定値例です。分煙の効果により空気がきれいになった結果として、
フィルター清掃、家具清掃、照明器具清掃などの頻度が少なくできることもあります。
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1.室内環境性能を理解しよう
分煙前
時
間
分煙後
(
CO2
[ppm]
浮遊粉塵量
[mg/㎥]
CO2
[ppm]
浮遊粉塵量
[mg/㎥]
10:00
725
0.066
551
0.008
13:00
840
0.114
604
0.023
16:00
950
0.098
607
0.015
浮遊粉塵量の
削減割合が大きい
CO2
(分煙前)
(%)
CO2はあまり変わらない
CO2
(分煙後)
(%)
浮遊粉塵量
(分煙前)
[mg/㎥]
浮遊粉塵量
(分煙後)
[mg/㎥]
h
)
10:00
13:00
16:00
時間(h)
※1ppm(パーツ・パー・ミリオン) = 0.0001%(100 万分の 1)
図 1-1-2-① 分煙による二酸化炭素発生量(CO2)及び浮遊粉塵量の変化
3) 臭気 (空気環境)
臭いの原因は、「a:換気が悪い(弱い・無い)などの換気が原因の事象」、「b:異臭を発生さ
せている異臭物が原因の事象」に分かれます。事務所ビルの一般的な換気は、図 1-1-3-①の
ようにトイレ・湯沸し室側で 10%程度排気します。その補給分として、事務室居室側に外気(OA)
を 10%程度給気することで、正常な換気を行っています。
排気
全熱交換
排気ファン
エアコン
680㎥/h
便所
湯沸室
廊下
排気
2020㎥/h
給気
2700㎥/h
15360㎥/h
事務所
図 1-1-3-① 一般事務所の換気フロー図
① : 換気が原因の事象
排気ファンは運転しているが、排気されていないことがあります。原因としては、ダンパー
(排気口)が閉鎖しているなどが考えられます。
なお、排気が正常に行われているかの確認には、線香の煙などで簡単にできます。
② : 異臭物が原因の事象
汚水管などの排水管には、異臭が洩れないように排水口にトラップが設置されています。
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このトラップの役割は、水の壁で排水管からの異臭
を遮断することにあり、これを水封(または封水)と
いいます。湿式トイレの場合は床に排水口があり、床
を水洗いできます。水洗いすることで、トラップに水
封が出来、異臭がでないようになりますが、水洗いし
ないと水封が切れ、排水口から異臭が上がります。
図1-1-3-② トラップ
4) 照明照度 (光環境)
いつも使用している事務所は、ちょっと暗かったり明るかったりしても、照度が 500~700 ル
クス(lux)程度あればまったく問題になりません。しかし、引越しなどをして急に暗く感じたり、
明るく感じたりしてテナントからクレームが発生することがあります。事務所の照度基準は、
(JIS
Z91110)で事務所(a)
、事務所(b)に規定されています。したがって、照度を測定し基
準内であることを適切に説明した上でどうすべきか協議した方が良いでしょう。また最近では、
窓面積が広く、昼光の影響を受けるので右記表の事務所(a)1000 ルクス程度の場合が多いよう
です。なお、照度は基準以上に高ければいい(明るければいい)ということではありません。照
度が 2000 ルクス程度になると、
「目が疲れる」、
「パソコンの画面が見づらい」などの問題も発生
するので注意が必要です。
照度(Lx
照度(Lx)
Lx)
場
所
1,500
1,000
事務室(a)(1)・営業室・設計室・製図室・玄関ホール(昼間)(2)
750
500
300
200
集会室・応接室・待合室
食堂・調理室・娯楽室
修養室・守衛室
玄関ホール(夜間)
エレベーターホール
事務室(b)・役員室・会議室・印刷室・電話交換室
電子計算機室・制御室・診療室
○電気・機械室などの配電盤及び計器盤
○受付
書庫・金庫室・電気室
講堂・機械室
エレベーター・作業室
150
100
喫茶室・休養室・宿直室・更衣室
倉庫・玄関(車寄せ)
洗場・湯沸場・浴室
廊下・階段・洗面所
便所
75
50
屋内非常階段
30
注(1) 事務所は細かい視作業を伴う場合及び昼光りの影響により窓外が明るく、室内が暗く感ずる場合は、(a)を選ぶ
ことが望ましい。
(2) 玄関ホールでは、昼間の屋外自然光による数万 lx の照明に目が順応していると、ホール内部が暗く見えるの
で、照度を高くすることが望ましい。なお、玄関ホール(夜間)と(昼間)は段階点滅で調整してもよい。
図 1-1-4-① JIS Z9110 照度基準 (事務所)
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1.室内環境性能を理解しよう
5) 異音・騒音 (音環境)
事務所内の異音・騒音は、ほとんどが空調の風
切音が原因だと考えられます。最近のエアコンタ
イプではなく大型空調機が設置され、ダクト接続
で冷風や温風が吹出口のアネモから出ている場合
に往々にして発生します。この場合は、設置当初
に空気のバランスに対してダンパー調整をする必
要があることを無視し、暑い・寒いのクレームに
より吹出口のダンパーを絞るなどの対応を行った
ことが大きな原因となります。風切音は、口を絞
るほど、風速が早くなり音が大きくなるので注意
が必要です。
もし、風切音が発生している場合は、その場の
みで調整するのではなく空調設備をよく理解して
いる施工会社か管理会社などに相談して全体の空
気バランスを調整しながら対処することが解決の
早道です。
図 1-1-5-① 吹出し型例
(2) 室内環境性能と利用方法
1) 利用人数
建物の室内環境は、利用人数によって大きく変化します。特に利用人数が大きく影響するのは、
室内温度と二酸化炭素です。室内空間(部屋)に設計人員を超える多くの人数が長時間いた場合
は、冷房が効きにくく二酸化炭素濃度も高くなり息苦しくなります。
例えば、表 1‐2‐1‐①を参考に事例 1 を検証してみます。
表 1-2-1-① 空調設計する時の値
用途
一般的面積 ㎡/人
設計値
㎡/人
在室人員 1 人当り占有床面積〔㎡/人〕
事務室
会議室
レストラン
美 容 ・理 髪 店
教室
5~8
2~5
1~2
2~4
1.3~1.6
5
2
1.5
2.5
1.4
出典:空気調和・衛生工学会編
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改定第 11 版
空気調和・衛生工学便覧
1.室内環境性能を理解しよう
■ 事例1 用途変更による室内 CO2 濃度の変化
① 事務所の室内 CO2濃度の算定
想定モデル
:
面積 240 ㎡(72.6 坪)×天井高 2.4m=容積 576 ㎥
設 計 人 員 :
面積 240 ㎡÷設計値 5 ㎡/人(表 1-1-1 より)=48 人
換気設計量
容積 576 ㎥×換気回数 6 回/h(計画)=3456 ㎥/h
:
人の CO2 発生量:
人員 48 人×設計値 0.02 ㎥/h・人=0.96 ㎥/h
※事務作業程度の二酸化炭素(炭酸ガス)発生量は 1 人当たり 20 リットル/時(0.02 ㎥/h)
室内 CO2 濃度
:
0.96 ㎥/h÷3456 ㎥/h×100 万+400ppm※1(外気 CO2 濃度)
=
277ppm+400ppm=
677ppm
② 事務所を会議室仕様にした場合の算定
想定モデル
:
事務所使用と同じ
設 計 人 員 :
面積 240 ㎡÷設計値 2 ㎡/人(表 1-1-1 より)=120 人
換気設計量
事務所仕様と同じとする
:
⇒
3456 ㎡/h
人の CO2 発生量:
人員 120 人×設計値 0.02 ㎥/h・人=2.4 ㎥/h
室内 CO2 濃度
2.4 ㎥/h÷3456 ㎥/h×100 万+400ppm(外気 CO2濃度)
:
=
694ppm+400ppm=
1094ppm
上記①、②の事例の場合、室内 CO2 濃度が 677ppm から 1094ppm となり、二酸化炭素の基準
値 1000ppm(建築物衛生法、2 章_表 2-1-2‐②参照)を超えています。したがって、事務所
を会議室など人が多くなる室内空間(部屋)に用途変更するときは、換気量の仕様を改めて見直
す必要があり、同時に温湿度も変化しますので、適切な冷暖房能力があるか確認する必要があり
ます。
2) 利用時間
最近の建物の空調方式は個別方式が多く、24 時間自由に冷暖房ができるようになってきました。
しかし以前は、熱源機器の冷凍機・ボイラー・吸収式冷温水発生器のよるセントラル方式が多く、
事務所ビルでは館内規則などで基準空調時間を決め、基準空調時間を超えるものは、時間外空調
で別料金が発生する方法が一般的でした。
セントラル方式は、高負荷の場合エネルギー効率が良くなりますが、利用時間にばらつきがあ
る場合は、熱源機器の低負荷運転によって運転効率が下がるためエネルギー効率が悪くなります。
したがって、利用時間を考慮し、適切な空調方式を採用する必要があります。
※1
ppm
:(parts per million)百万分のいくつであるかを表す語。1ppm=0.0001%(100 万分の 1)
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1.室内環境性能を理解しよう
表 1-2-2-① 利用時間と空調方式の例
方式
個別方式
セントラル方式
ヒートポンプエアコン(ビルマルチ方式)
熱源機器+AHU※2+FCU※3
屋外機
OA
OA
ファン
室内機 ファン
ファン
天井インペイ型
RA
SA
EA
EA
SA
ファンコイルユニット
EA
EA
OA
機器
SA
OA
RA
EA
RA
SA
天井ビルトイン型
EA
SA
EA
ファンコイルユニット
OA
OA
SA RA SA SA RA SA
天井カセット型
EA
EA
SA
ファンコイルユニット
空調機
(外気処理用)
運転
自由度
適用
用途
凡例
EA
OA
○
△
24 時間運転可
スイッチ系統を分けることにより室内機
1 台ごと運転可
基本は館内規則で規定する基準時間帯
基準時間外は申請などで運転する
最近は、VAV※4 等の運転時間で管理
する場合あり
事務所ビル・雑居ビルなどの中小施設
都市型ホテル・総合病院等の大型施設
○:自由度が高い
△:自由度が低い
3) 区画とエアバランス
空調計画は部屋ごとの区画(閉鎖)を原則として設計し、空気のバランスを取っています。し
たがって、設計通りの利用方法であれば、空気のバランスは適正な状態となり問題は起きないの
ですが、出入口の扉を開放したまま利用したり、間仕切壁を増設して区画を増やしたりすること
により空気のバランスはくずれ、初期の性能を発揮できなくなることが多く見られます。ここで、
利用上でよくある問題事例を表 1-2-3-①に紹介します。
※2
※3
※4
AHU:エアハンドリングユニット。エアフィルタ、冷却コイル、加熱コイル、加湿器、送風機等で構成される工場組立式の
空気調和器であり、全空気式の主調和器、水・空気式の一次調和器や各階ユニットなどとして、幅広く用いられ
ている。
FCU:ファンコイルユニット。水・空気式の室内ユニットであり、送風機と冷温水兼用コイルのほかに、ごく簡単なエアフ
ィルタを備えるのが一般的。
VAV:(Variable Air Volume)可変定風量制御装置。室ごとあるいはブロックごとに、温度調節機により風量を調節する
方式。
CAV:(Constant Air Volume)定風量制御装置。ダクト静圧が変化しても、設定された風量になるよう風速センサーで
通過風速を計測しながら風量制御を行う方式。
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1.室内環境性能を理解しよう
表 1-2-3-① 利用上でよくある問題事例
区画の変更等
現 象
エントランス扉 建物内に直接外気が入り冷暖房が効かない状態
を終日開放
になる。冷房時は空調吹出口で結露する場合が
多い。暖房時は建物内の気圧が低くなるためド
ラフトが強くなり外気が入りやすい。
事務室内に応接 間仕切りによって気流が変わり、応接コーナー
コーナーを間仕 の空調が効かなくなった。応接コーナーは空気
切り
が淀みがちになる。
パーティション 温度設定器(温度センサ)が設置されていない
で 2 区画に間仕 部屋の温度コントロールができない。
(暑かった
切り
り、寒かったり)
飲食店で給気フ 厨房排気ファンにより飲食店全体が負圧にな
ァンを停止
り、入口扉から隙間風が入り空調が効き難い。
一般的な対策
・風除室を設け、外気を建物内
に入れない工夫をする。
・入り口にエアカーテンなど取
リ付ける。
・空調機を増設するか、移設を
検討する。
・扇風機等で気流を作る。
・温度設定器を移設して空気の
戻り温度で制御する。
・空調機を増設して個別化。
・給気ファンを運転してエアバ
ランスを取る。
4) その他、エネルギー効率
空調方式でエネルギー効率を比較すると、
「(2)-2)利用時間」にも記載しましたが、一般
的にセントラル方式よりも個別方式のヒートポンプエアコンの方が利用者にとって利便性が良い。
したがって最近では、空調方式の大半が個別空調のヒートポンプエアコン(ビルマルチエアコン)
が採用されています。
このヒートポンプエアコンの主なエネルギーは電気ですが、新しい機器は効率が向上しており
省エネ仕様になってきています。ところが省エネ仕様機器になっていながら、適切なメンテナン
スが行われていないため、効率が下がり無駄なエネルギーを使用していることがあります。特に
賃貸ビルの場合は、専用部分の電気料金はテナント負担であるため、オーナーは負担増にならな
いことなどを理由に必要経費を掛けようとしない傾向にあります。フィルターの清掃だけではな
く、エアコン本体の洗浄も心掛け、無駄なエネルギーを削減しましょう。
■ 事例 2 エアコン室内機洗浄効果の事例
設置経過年:10 年
洗浄前
機 器 仕 様:天井カセット型
[室内機洗浄の効果]
① 電気使用量の削減
② 臭い・カビを除去
洗浄後
③ ドレンパン、排水管清
掃で水漏れ事故を防止
④ 圧縮機(コンプレッサー)
の故障事故を抑制
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