国立天文台天文シミュレーションプロジェクト成果報告書 研究課題名 星形成期における連星系の進化 佐塚達哉(大阪大学理学研究科宇宙地球科学専攻[茨城大学委託]) 利 用 カテゴリ XC-B ・本研究の目的 観測されている主系列星または前主系列星の多くは連星系を成している事が観測的に知られて いる。更に、連星の質量比(質量の軽い星の質量/質量の重い星の質量)や連星間距離、連星周期 などの統計的な分布が観測から明らかにされている。このような連星の観測量を説明する連星の 形成過程は未だ明らかになっていない。連星の形成過程を明らかにする上で重要な段階は、分子 雲コアの中心部が分裂することで形成された連星の種が、周りのガスを降着させる段階である。先 行研究ではある一定の比角運動量を持ったガスが定常的に連星の種へ降着する状況での連星の 種の進化が数値流体力学計算されてきた。しかしながら実際の星形成領域では、ガスの質量密度 分布や比角運動量分布は時間変化する。この様な現実的な星形成領域での連星の種の時間進 化を明らかにするため、Smoothed Particle Hydrodynamics (SPH) 法のコードであるGADGET-3 (Springel 2005 の改良版) を用いた3次元数値流体力学計算を行う事で、ガスが質量密度分布と 比角運動量分布を持っている状況における連星の種へのガス降着現象の、連星の種の初期質量 比とガスの温度への依存性を調べた。 ・本研究のモデル 分裂後の連星の種とその周りに取り残された等温ガスを初期条件として与えた。また、ガスの質 量密度分布と比角運動量分布が降着に与える影響を理解するため、ガスの自己重力とガス降着 による連星の軌道の進化、輻射や磁場の効果は無視した。計算時間は降着されたガスの質量が 連星の種の質量に等しくなるまでとし、連星の種への短期的なガス降着を計算した。 ・計算結果 図1に計算の結果得られた連星の質量比の時間進化を示す。この図から、連星の種の短期的な 時間進化を定性的に決定する臨界初期質量比 qc=0.25 が得られた。すなわち、連星の種の初期 質量比が 0.25 よりも小さい場合には最終的な質量比は減少し、初期質量比が 0.25 よりも大き い場合には最終的な質量比は増加する。この結果は降着するガスの比角運動量と伴星 (質量の 軽い星) の比角運動量が等しくなる初期質量比として理解できた。すなわち、降着するガスの比角 運動量が伴星の比角運動量よりも小さい場合にはガスは伴星よりも重心側に落下する事ができる ために主星 (質量の重い星) へと降着しやすく、逆に降着するガスの比角運動量が伴星のものよ りも大きい場合には伴星より重心側に落下することができないために伴星へと降着しやすい。また、 ガスの回転速度が音速よりも大きい場合には、qc のガス温度への依存性は低い事もわかった。 更に我々は連星の種の時間進化を解析的に考察し、連星の種がガスに及ぼす重力トルクが無 視できる場合には、短期的な計算の結果を用いて連星の種の長期的な進化を推定できる事を発 見した。この推定の結果、質量比の長期的な時間進化は qc によって決定され、連星間距離は初 期質量やガス温度によらず単調増加することがわかった。この結果から、ガス降着による連星の種 の軌道進化によって、近接連星の形成が阻害される可能性があることを示唆した。 図 1. 質量比の時間進化。赤い線は高温ガスの場合、 青い線は低温ガスの場合である。また単位系は重力 定数、連星の質量、連星間距離を 1 としている。 参考文献 Springel V., 2005, MNRAS, 364, 1105
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