地下水の世界 −地下の水の流れをみてみよう− 担当：辻村 1. はじめに真貴図 1 に，地球の水循環と，様々な水体の貯留川，海，池，湖，湧き水，井戸水など，私量を模式図として示しました．この図から，地達の身の回りにはたくさんの水がありま下水の貯留量が，淡水の中で 2 番目に大きいとす．これらの水は，お互いに結びつき合っていう特徴を，よみとることができます．地球の存在しています．たとえば川が池に流れ込ん水の総量中，97.5 %を海水が占め，淡水が残りだり，湖から川が流れ出したりします．また， 2.5 %を占めます．淡水のうち，氷河などの雪湧き水が集まって川になっているところも氷が 70 %，地下水が 29 %，そして残りが河川あります．このような水たちの中で，皆水，土壌水，水蒸気等です．さんが以外によく知らないのが，井戸水，すなわち地下水ではないでしょうか．なぜなら， 3. 地下水のあり方地面の下で起きている出来事は，なかなか目地中の砂の層を顕微鏡で拡大してみると，で見ることが難しいからです．地球上の水循粟おこしのような構造をしています(図 2)．環や，水質変化を研究する学問分野である粟粒にあたるものが砂の粒子，粟粒をくっつ水文学（すいもんがく）の世界でも，地けている水飴にあたるものが水に相当しま下水についてはまだまだわからないことがす．水がたくさんあるのです．しかし私達は，直接地いるとき(飽和している)，その水を地下水と下水を見ることはできなくとも，間接的に見いいます．地表面に穴を掘っていくと，あるることはできます．今日は，模型の中で地下深度から水がゆっくりとしみ出し，しばらくすきま (間隙)を完全に満たして水の動きを再現し，それを見ることによって，すると穴の中に水面が生じます．これが地下地下水の動きに対するイメージを皆さんに水面です．地下水は，大まかに言えば地下水持っていただきたいと思います．面の高いところから低いところに向かって流動しますが，地形条件や地質条件によって 2. 地下水の量図 1．地球上の水の輸送量と貯留量を示す模式図．矢印の太さが輸送量を，球の体積が貯留量を示す．は，複雑な流動経路を示すことがあります．図 2．砂漠の砂の顕微鏡写真．砂粒と砂粒の間隙(すきま)に，水が含まれる． 4. 地下水はどのように流れるのか？この図から，砂丘の頂上から両側の川や海地下水の動きは，場所によって大きく異なに向かう大きな流れや，砂丘湖から川に向かります．例えば，砂丘の地下水の動きを模式う小さな流れなど，砂丘の地下には様々な地的に示すと，図 3 のようになります．図中の下水の流れが存在していることを，読みとる矢印が，地下水の流れの方向を示します．ことができるでしょう．さらに地下水の動きを立体的に示したのが，図 4 です．そうです．地下水は，様々な方向に流れているのです． 5. 地下水の流れる速さ地下水はどのくらいの速さで，循環しているのでしょう．表 1 に，地下水を含めいろいろな水の滞留時間(入れ替え時間)を示しま図 3. 砂丘における地下水の動きを示す模式図．スクリーンは，井戸の水の取り込み口に当たります．隣り合った井戸でもスクリーンの深度が異なると，井戸の水位が異なることに注目してください．また，砂丘の上では地下水が主に下向きに流れているのに対して，海岸，砂丘湖，川の近くでは，地下水の流れが横向きや上向きになっていることにも注目してください．す．滞留時間は，水体の貯留量(地下水が存在している地層の厚さ)を輸送量(地下水への正味入力量)で割ることによって求められます．地下水の滞留時間は，場所によって数年から数万年の範囲で異なります．水蒸気地面を流れる水河川河川地下水面湧水地下水面岩盤海洋地下水空気水を通す層岩石粒子の周りにへばりついた水岩石粒子不飽和層地下水飽和層図 4．陸地における様々な水の循環プロセスを示した模式図．地下水の流れにも，いろいろなパターンがある．表 1. 地球上の水の滞留時間(入れ替え時間) 6.3 地下水の流れを見てみよう井戸から，インクを注入してみてください．スクリーンから，インクが徐々に浸みだしていきます．その時インクは，どのように浸みだしていくでしょうか．インクを入れる前に，予想をたててみましょう．インクは，地下水の流れに沿って浸みだしていきます．予想は当たりまし 6. 模型を使って地下水の流れを見てみようたか．インクが何かの汚染物質だとする 6.1 水を加えてみよう−地下水面の形はどと，これは地下水汚染の実験をやっていうなるだろうか− ることになります．実際の地下水汚染のさっそく模型の量端から，水を加えてみことを想像しながら，インクを流してみましょう．水を加えることは，雨を降らましょう．せることに相当します．模型の底に近い 6.4 水をくみ上げてみよう部分の砂から徐々に，水に浸されていく注射器を使って，井戸から水をくみ上げ様子が観察できましたか．水に濡れた砂てみましょう．井戸の周りの地下水面のの部分は徐々に上昇していき，それが川形は，どのように変化するでしょうか．底に達すると，川から流出が始まります．また先ほど浸み出したインクの流れは，さらに水を加え続けてください．最終的どう変わるでしょうか．これは，人間活に砂の塗れた部分の上端が，どこにある動が地下水にどのような影響を及ぼすかかよく見てみてください．塗れた部分のについて，考える実験になります．上端をつないだ線が，地下水面になるのです．地下水面の形は，どうなっていますか．よく観察し，地下水面にマーカーで印を付けてください． 6.2 井戸の水位を見てみよう 7. おわりに今日の実験は，地下水のほんの一面を見たに過ぎません．しかしほんの一面であっても，地下水の流れの多様性を実感してもらえれさて井戸の中の水位は，どうなっていまば幸いです．地下水やその他の水に関して，すか．とくに，隣り合った深さの異なる比較的わかりやすく書かれた文献を巻末に井戸の水位に注目してください．同じで挙げておきますので，参考にしてください．すか，違いますか．もし違うとすれば，そして地下水の流れや水循環により大きな何故でしょうか．井戸の水位は，スクリ興味を持ったら，ぜひ本学に入学してくださーンの深さにおける地下水の圧力などのい．待っています．エネルギーに対応しています．すなわち，井戸の水位が高いほど，スクリーンの深 8. 参考さでの地下水のエネルギーが高いことを水文学研究室ホームページ：意味します．地下水は，このエネルギー http://www.geo.tsukuba.ac.jp/~hydro/index.html が高いところから低いところに向かって辻村真貴ホームページ：流れますので，井戸の水位分布から，地 http://www.geo.tsukuba.ac.jp/~mktsuji/index.htm 下水の流れを推定することが可能になります．