8. 級数 アキレス と亀の パラド ックス アキレスが100m前方にいる亀を、秒速10mで追いかける。 亀は秒速5m で逃げるとすると、追いつくまでの時間は? これは小学生でも知っている旅人算で、答えを出すのは簡単であろう。代数的に解くなら、 追いつくまでの時間を t 秒として、10t=5t+100 (したがって t=20 秒)とすれば良い。 計算を簡単にするために、ずいぶん逃げ足の速い亀にしてしまったが、これについて は、ギリシャ時代の有名なパラドックスがある。亀はアキレスの半分の速さで逃げている から、アキレスが100m前方の亀のいた地点に到達すると、そのときには亀は50m前 進している。ふたたびアキレスが50m前進すると、また亀は25m先まで逃げている・・・ アキレスは亀に近づけるものの、決して追い越すことは出来ない・・・ 高等学校で無限等比級数を習ったものであれば、このパラドックスは誰でも解決でき るであろう。最初に亀のいた地点にアキレスが到達するまでの時間は、100/10=10 秒、次 に亀の逃げた地点まで到達する所要時間は 50/10=5 秒、次は 2.5 秒・・・という具合に、 所要時間は 1/2 ずつ減っていくから、これらを合計すると t = 10 + 10 " (1 / 2) + 10 " (1 / 2) 2 + 10 " (1 / 2) 3 + L = 10 = 20 1 ! (1 / 2) となって、追いつくまでの時間が正しく算出される。 アルキメデスやピタゴラスほどの天才を多数そろえながら、なぜ古代ギリシャの人々 が、無限級数の概念に到達できなかったのか。誰かが言い出せば、ギリシャの数学は一気 に近代数学まで進み、人類の歴史は2000年ほど進歩が早まったかもしれない。江戸時 代の和算の大家であった関孝和は、ギリシャ時代と同程度の数学から出発し、テイラー展 開まで進んで4桁の三角関数表を作成し、単独でほぼ微分・積分や代数の手法にまで到達 したのであるから、決して有り得ない話ではなかった。 古代ギリシャの人々に欠けていたものは、「足し合わせる数が無限個であっても、その 和は有限になり得る」という認識である。このような無限個の和の認識は、先ほどの旅人 算の例に見るように、視点を変えて問題を見直す自由度を与える。また、案外初等的な物 理現象にも現れる。次の例題を考えてみよう。
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