山内担当分 第3回 トピックを並べなおす ~~~ 論証のいろいろ&論証が

山内担当分
第3回
トピックを並べなおす
~~~
論証のいろいろ&論証が足りないとき
(論文やレポートの場合)
「主張(クレーム)」(=結論)に対して、それを「論証」する
> 「論証」とは
基本は、(西欧で定義されている)「きちんとした論理」 (~ 数理論理よりやや広げたものも可)
本質は、相手・他人に自分の主張を信じさせること、 誰でもが同じ土台で議論して同じ結論に達するための枠組み
例1) 気圧計の数値が下がると、じきに雨が降る (根拠1)
A ならば B である
気圧計の数値が(いま)どんどん下がっている (根拠2)
Aである
だから、もうすぐ雨になる (主張)
B である
例2) 猫が顔を洗うと、じきに雨が降る (根拠1)
うちの猫が(いま)顔を洗っている (根拠2)
だから、もうすぐ雨になる (主張)
例3) 雨が降ったなら地面がぬれている (根拠1)
(いま)地面がぬれている (根拠2)
だから、雨が降った (主張)
例4) 雨が降ったなら地面がぬれている (根拠1)
雨が降っていない・降らなかった (根拠2)
命題「A ならば B」に対し、
・ 対偶:「B でないなら A でない」
・ 逆:「B ならば A」
・ 裏:「A でないなら B でない」
だから、地面がぬれていない (主張)
* いくつかの論理パターン (妥当な論証形式)
A ならば B である
A ならば B である
A である
B でない
だから B である (モドゥス・ポネンス)
だから A でない (モドゥス・トレンス)
A か B かのどちらかである
A ではないと仮定してみよう。そうすると
A だとすると C だと言える
(ここに論証が入る) 矛盾が生じてしまった
B だとすると C だと言える
だから、A である
(背理法)
だから、いずれにせよ C である (場合わけ)
(例)
犯人は飛行機か新幹線のいずれかで逃げた
地球内部が密に詰まっておらず空洞と仮定する。
飛行機で逃げたとすると所持金は使い果たしたはずだ
そうすると地球の質量はうんと軽くなる。万有引力
新幹線で逃げたとすると所持金は使い果たしたはずだ
の法則によると、物体と地球の間に働く重力は
だから、いずれにせよ犯人の所持金はなくなっている
今観測されるものよりずっと小さくなってしまう。
だから、地球内部は空洞ではない
《ツッコミどころの例》
《ツッコミどころの例》
場合わけが全てを尽くしているか?
仮定から矛盾を導く論証が正しいか
それぞれの条件文が正しいか?
矛盾は本当に矛盾か
矛盾を支える「常識」は正しいか
1
犯人はヒッチハイクして逃げたかも知れない
空洞でも軽くならない重い物質かも知れない
新幹線にタダ乗りしたかも知れない
万有引力の法則が成り立たないかもしれない
少し弱い論証形式① 帰納的論証
たくさんの例を出して、「だから一般的に成り立つ」とする。
「人はだれも、ただ一人、旅に出る」
けんじは一人、旅に出たことがある。のりひこも、たくろうも、まゆみも、じろうも、のぶやすも、一人、旅に出た
ことがある。だから、人はだれも、ただ一人、旅に出る。
絶対正しいわけではないが、ないよりまし。
《ツッコミどころ》 ①サンプルが少ない、②サンプルが偏っている、③偶然かもしれない、④例外があるかもしれ
ない。
④は特に、元の主張が「絶対全てに成り立つ」と言っているわけではないことがあるので、要注意。たとえば図鑑
で「マムシは赤褐色の体色をしている」という記事に対して、まれに突然変異で真っ白なマムシがいる。
少し弱い論証形式② 仮説演繹法
H という仮説が正しいならば、B が成り立つはずだ (根拠1)
実際に B が成り立っている (根拠2)
だから、たぶん仮説 H は正しい (主張)
間違った論証と同じ形で、妥当でないのだが、これに加えて
① 仮説 H の他に A をうまく説明する対立仮説が無い もしくは
② 仮説 H と同程度に A を説明してくれる対立仮説 H’が退けられている ↓
H’という(対立)仮説が正しいならば、C が成り立つはずだ
だが、実際は C が成り立っていない
したがって、H’は間違っている
少し弱い論証形式③ アブダクション
A ということが既にわかっている (根拠1)
H と仮定すれば、なぜ A なのかがうまく説明できる (根拠2)
他には、なぜ A なのかを H と同程度に説明できる仮説は無い (根拠3)
だから、たぶん仮説 H は正しい (主張)
少し弱い論証形式④ アナロジー
a は重要な点で b と似ている (根拠1)
b については c ということが成り立っている (根拠②)
だから、たぶん、a についても c ということが成り立つ (主張)
全体としてみると、多重に重なった(論証の)ピラミッド
論文・レポートの「設計」 = 正しい論証のピラミッドを作ること
> 2つの条件
それぞれのピラミッドが正しく構成されているか (論証の条件を満たしているか)
2
最下辺のノードは、無条件に信じられる「事実」であるか (信じられなければ、「主張」であり、論証する必要がある)
* 上記2つを満たすために十分なノード(それぞれの主張)が挙げられているか?
足りなければ、追加しなければならない。
~~ 論理に抜けがあることになる
> 加えて: 結論の論証に必要のない脇道はあってはならない
* 「こんなことも調べたんですけれど…」
論証の道筋をわかりにくくするので不可
は不要で、却って邪魔
* 昔から言う 「起・承・転・結」 は (「転」の解釈に依るが) 不可
論理構成の例1
なぜ?
論理の筋道を整理してみよ
何百年に一度の規模の洪水に備えると称して日本中の河川に堤防を作り続けることは、海外の治水対策の潮流に照
らして判断すれば、とんでもなく愚かな政策である。堤防工事に巨額の投資を行うのはやめて、流域住民の生命は警
報システムと避難設備を整備することによって守り、住宅や農地などの財産上の被害については損害保険で補償する
というのが、今では世界の常識だ。ところが、我が国の建設大臣は、あるテレビのニュース番組に出演した際に、吉野
川可動堰反対派の代表に対して、その発言を遮って「災害が起こったらあんたが責任取ってくれるのか」と脅したという。
このように、それなりの教養があるはずの大臣ですら、理性的な議論が必要とされる問題に関して発言の妨害や恫喝
を行ってしまうということは、言論による問題解決という民主主義の基本ルールが、これまで我が国できちんと教育され
てこなかったことを示している。私もディベートの仕方を学校で教わった記憶がない。テレビは、発言のタイミング、表情、
態度などを通じて、そうした基本的な教養の欠如をあからさまに伝えてしまう。テレビは、それを用いるものにとって非
常に恐ろしいメディアなのである。
論理構成の例2
論理の筋道を整理してみよ
現在のところ、国公立大学の文型教員は民間企業との兼職が認められていない。この制限は速やかに撤廃しなくては
ならない。すでに、バイオテクノロジーなどの理系分野では、一定の条件の下で国公立大学教員が民間企業の役員を
兼職できることになっている。こうしたことを見れば、文系教員の場合も根本的な障害は無いはずである。そもそも、日
本の大学では理系と文系を区別して扱おうとする傾向が強すぎると私は感じている。私の勤務校には、理系食堂と文
系食堂と言う名前の食堂があるくらいだ。経営学などの分野では、現場から離れてしまうと、せっかくの知識は急速に
古びてしまう。民間との兼職によって、現場感覚を保つことができれば、それは教員のみならず、学生にも大きな利益を
もたらすはずである。
論理構成の例3
論理の筋道を整理してみよ
かつて、露骨な性表現を売り物にした青少年向けマンガを「有害図書」として規制しようと言う動きが全国に拡がったこ
とがあった。このとき、著作物の良し悪しの判断は読者に委ねるべきであって、こうした規制は子供が判断力を身につ
ける機会を奪うのでかえって有害だという議論があった。規制の動きは、幼女連続殺害事件を引き起こした青年が、ポ
ルノすれすれのマンガやアニメの熱心な収集家であったことがきっかけとなったものだったのだが、私が不思議に思う
のは、こうした主張をする人々が、自分は表現の自由を守る自由主義的な立場からものを言っていると信じて疑わなか
ったことである。そもそも、自由主義というのは、判断能力のまともな大人に自己決定権を認め、それを尊重するという
考え方なのであって、判断能力の形成途中にある子供をそうした大人と同列に扱うのは自由主義の主張するところで
はない、というより、自由主義に反する考え方だからだ。日本ではもともと子供と大人とを同列に考える傾向が強い。寿
司屋や居酒屋、その他の「大人の空間」に子供が大手を振って出入りしているのを見て苦々しく思うのは私だけではあ
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るまい。大人はポルノを見る自由があるのだから、子供にそうした自由を制限すべきでないと考えられている。大人は、
たとえ自分に有害な作品であっても、他人に迷惑をかけない限り、それを楽しむ権利をもつ。しかし、子供には大人と同
じ権利を与えられないというのが自由主義なのである。
課題) 「携帯電話は、Docomo がよいか、Au がよいか」について、もう一度、論証のピラミッドを考え直してみよ
1) すべての論証は妥当だろうか
2) すべての出発点(=最下辺)のノードが、自明な事実だろうか?
3) 今回の結論に至る筋道に役立たないもの(無駄であり、載せないノード)は無いか?
この確認をした上で、論証のピラミッドをコピーして提出せよ。オリジナルは、次の回に実際にパラグラフを書いてみるため
に使うので、自分で保管せよ。提出するのはコピーでよい。(山内が確認したいので提出してもらう)
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