3 農業の立地と農業地域の変容 1 農業の立地と地域性 配当 7 時間 p.116 〜 117 学習の要点 自然条件と農業立地 ①農業 人間が自然に直接働きかけることで成立する産業 ・作物の栽培や家畜の飼育……地域による差が大 ②差異が生じる理由……自然条件=作物や家畜には適した気候,地形,土壌などの存在 ・気温との関係→栽培限界 ・土壌の特性→特定の作物の栽培が有利 ・自然の制約が縮小←栽培技術の進歩 社会条件と農業立地 ①社会条件→農業に地域的差異をもたらす(=自然条件と同様) ・生産の目的による違い─自家消費か,市場向け商品か ・経営組織による違い─家族経営か,企業経営か,社会主義的集団経営 ・同じ経営組織であっても,経営形態は異なる →農地の所有関係 農業生産に投入される労働力の質や量 農地の質や規模,機械の利用などの諸要素による ②栽培される作物,飼育される家畜の種類を組み合わせ→多様な農業の経営形態 市場への距離と農業立地 ①農業の地域的な差異←消費市場への距離も深く関係 ・商業的農業(市場への出荷が前提)←輸送費用や鮮度の問題が重要 チューネンの「孤立国」……市場距離と農業の経営形態の関係を説明 ・理想的な農業的土地利用→消費市場の都市を中心に同心円のパターン ・自由式農業(最も集約的)─徐々に集約度を下げて─牧畜(最も粗放的) ②輸送手段の変化と保存技術の発達→市場距離の影響低下 ・園芸農業(都市近郊への立地が一般的)→市場から遠隔地域で成立(輸送園芸) 海外からも野菜の供給拡大 農業政策と農業立地 ①農業の形態←国の経済発展の水準・農業政策 ・発展途上国 「緑の革命」←食料増産をめざす農業の近代化 気候や土壌に適した輸出向け作物の奨励 ・先進国 国の経済における地位が低下→他産業との所得格差拡大 恒常的な生産過剰,条件の悪い農地の荒廃 ← 格差是正策,農産物の輸入制限,条件不利地への対策実施 3 農業の立地と農業地域の変容 2 農業地域の形成 配当 7 時間 p.118 〜 121 学習の要点 農業の成立─第一の変革─ ①第一の変革=農業の成立(約 1 万年前)=狩猟・採集から農耕・牧畜への移行 野生の動植物→生育可能な作物・家畜へ移行 地表面の連続的な利用・定住生活→自給的農業を基礎とした農村社会が成立 作物や家畜→限られた原産地から伝播→各地に特色ある農耕文化が成立 ②作物・家畜の伝播→互いに影響し合う→各地に固有の農業を形成 ヨーロッパ 地中海農耕文化から発展した農業→二圃式→地中海式農業 三圃式農業→混合農業 ③第一の変革の波→集約的稲作・畑作農業(アジアに広く分布) 移動式農業(熱帯地域の焼畑) 遊牧,オアシス農業 市場指向の拡大─第二の変革─ ①第二の変革=自給から市場指向への転換 ・17 世紀以降の西ヨーロッパでは産業革命と並行して農業革命が進行 ・工業化による都市人口の増大=農産物の市場が拡大 ②農業技術の改善 生産性が向上→市場出荷を目的とした商業的農業成立 ・伝統的な三圃式農業→商業的な混合農業が普及 ・牧草や飼料用カブを輪作体系に取り入る→地力の回復 ・大消費地近接地域 酪農や園芸農業←生鮮食品を市場に供給 地中海沿岸 果実栽培(レモン,オレンジ,ブドウ)が盛ん←気候の特色を生かす 先進工業国市場を指向した農業への変化→農業地域の分化(市場からの距離) ③植民地(東南アジア,中部・南アメリカ,アフリカ) ・プランテーション農業が発達←欧米資本により輸出用作物を大規模に栽培 ・第二次世界大戦後の独立─多くは国有化・小農民による経営 ・欧米資本の支配が継続=多国籍企業による契約農業など 産業化の波─第三の変革─ ①第三の変革=産業化(Industrialization) 農業の産業化 ② 20 世紀 北アメリカ,西ヨーロッパ,ソ連,東ヨーロッパ,そのほかの先進諸国 農業生産を工業生産と同様,企業的,合理的 =商業的穀物農業や企業的経営による牧畜 ③今日の農業形態=機械化,化学化(化学肥料・農薬の使用など) ・バイオテクノロジーによる品種改良→生産性の向上追求=より少数の農産物に専門化 ・生産の集中=少数の大経営が,少数の地域と国に。この典型がアグリビジネス ・産業化の動きは現在も進行中(発展途上国における「緑の革命」もこの方向) ・解決すべき課題=環境の破壊,エネルギーの浪費,農場間の格差拡大 現代農業とフードシステム ①現代の農業←産業化 ②フードシステム(食料供給の一連のシステム)と強いかかわり =生産資材の供給,農産物の生産,加工,流通・販売 ③畜産や穀物栽培 アグリビジネス→フードシステムの全体を統合→一貫した経営 (例) 養鶏業(鶏肉・鶏卵の生産) 配合飼料・ヒナの生産→ブロイラーの処理・加工→鶏肉・鶏卵の流通 穀物メジャー(巨大穀物商社)→フィードロット・養豚 多岐に渡る ハイブリッド種子生産 アグリビジネスに進出 家畜飼料,肥料生産,製粉,金融 世界の穀物市場への支配力強化←市場情報の収集・市場の開拓 3 農業の立地と農業地域の変容 3 グローバル化と農業地域の変容 配当 7 時間 p.122 〜 123 学習の要点 穀物輸出大国・アメリカ ①アメリカは農業の産業化が最も進んだ国=農地は大農場に集中 農産物の大半生産 アメリカは企業的農業が高度に発達した国 大農場…労働生産性がきわめて高い←大型の農業機械 土地生産性も高い ↑ 高収量品種の導入・肥料や農薬を緻密な栽培管理に従って投入 ②アメリカが世界全体の輸出に占める割合(トウモロコシ 50%超,小麦約 25%) →穀物の国際価格 アメリカの取引所で決定 (米を除く) ↑ アメリカの穀物メジャー 世界の穀物流通で力を持つため 生産過剰に苦悩する EU ①EU の農業=小規模で国際競争力が弱い,域内の生産性に加盟国間の格差 ②共通農業政策←生産性の低い国の農業存続を配慮 共通農業政策に沿って農業共同市場設立 加盟国間の調整 輸入課徴金→域外の安い農産物の流入おさえる 統一価格で農産物の買い上げ→農家の最低生活を保障 ↓ 低生産性の国の農業は守られ,高生産性の国の農業生産も増加 EU は世界最大の敷物輸入地域から穀物輸出地域に転換 保護的な農業政策→深刻な生産過剰 ③1992 年 ウルグアイ・ラウンド(多角的貿易交渉)の農業交渉妥結 →共通農業政策の大幅な変更 →環境保全における農業の役割を重視 過剰生産問題解決=国際競争力を高める政策(生産抑制→生産性向上) アジアの食料生産 ①タイ…世界第 1 位の米輸出国(1970 年代以降) 豊富な農産物と安価で良質な労働力,農業関連産業の発達 ②ベトナム…1990 年代米の輸出量増大 ←治水・灌漑設備の整備,品種改良,多期作 商品作物の栽培 例 コーヒー,コショウなど ③中国…食生活の向上→飼料用穀物の需要が急増 出稼ぎなどによる労働力不足 農地転用や耕作放棄による農地の減少 今後の輸入拡大 ⇒ 世界的な食料問題へ 3 農業の立地と農業地域の変容 4 世界の農産物流通 配当 7 時間 p.124 〜 127 学習の要点 世界の穀物貿易─小麦─ ①小麦…生産量の約 2 割を輸出する国際商品 ②商業的農業,企業的経営,穀物メジャーの大きな影響力 ③生産国…アメリカ合衆国,フランス,カナダ,ロシア 世界の穀物貿易─米─ ①米…生産の多くがアジアに集中 主に零細な家族経営により栽培 a アジア…タイ,ベトナム以外は国内需要を上回る分を輸出 他国は自給作物 b 日本の米輸入…1995 年からミニマムアクセス方式により部分開放 1999 年から関税方式(自由化) 世界の畜産物貿易─肉類─ ①一人当たりの消費量は世界的に増加=畜産革命 ⇒食生活,農業,貿易 ②輸出…アメリカ合衆国,ブラジル,ドイツ,オランダ,オーストラリア など ③輸入…ロシア,日本,ドイツ,中国 など 野菜貿易の拡大 ①鮮度保持,輸送面の技術革新 → 国際貿易の拡大 ② EU…域内の野菜貿易盛ん,アフリカから野菜や果物類を輸入 ③日本…野菜自給率の低下 83%(2007 年) 輸入先…中国(距離が近く,労働力が安価) アメリカ合衆国(大規模経営の有利性) ニュージーランド(季節逆転の有利性) 日本の農産物輸入 ①日本の農産物輸入の自由化 ⇒ 食料自給率の低下 約 40%(カロリーベース) 先進国の中でも低水準 ② 1995 年に発足した世界貿易機関(WTO)体制 ⇒ 国際競争激化 農産物貿易拡大の影響 ①食品工業や外食産業は…低価格の商品開発が容易 ②輸送時の防腐処理用薬剤…安全性に不安 ③生産性をめぐる競走 → 肥料・農薬散布量の増大,大量輸送 → エネルギー消費の増大 ⇒ 地球環境問題を悪化 ④フード・マイレージや『地産地消』の提唱
© Copyright 2024 Paperzz