Hiyoshi Keio Review of University Natural Science No.30,75-82(2001) 小 網 代 にお け るア カ テガ ニ の放 仔活 動 の時 間特 性 矢 部 和 弘*・ 岸 Temporal Characters of Zoea-Releasing 由 二** Activity of Sesarma haematocheir at Koajiro Kazuhiro YALE and Yuji Klsxl 1.は じめ に 三 浦 半 島 先 端 部 に あ っ て, 相 模 湾 に面 す る 小 網 代 の 谷 は , 全 長1.2kmほ どの浦 の川 の流域 で あ る。 谷 は , 関 東 ・東 海 地 方 で 唯 一 , 源 流 か ら河 口 ま で ひ と ま と ま りの 集 水 域 が 自然 の状 態 に あ る “完 結 し た 集 水 域 生 態 系 ” と し て 知 られ ,1,892種 の 生 物 の 生 息 が 確 認 さ れ て い る (2001年 まで の調 査 報 告 に よ る)。 こ の谷 に ア カ テ ガ ニSesarma haematocheir(DE HAAN)が 生 息 して い る。 陸 上 生 活 に適 応 した 本 種 は , 尾 根 か ら水 辺 ま で 谷 の 全 陸 域 に分 布 し, 夏 の 夕 刻 , 湾 奥 の 海 岸 線 で放 仔 を行 うこ とが 知 られ て い る。 近 年 , そ の 光 景 が 報 道 な どに よ り有 名 とな り, 近 隣 各 地 か ら観 察 者 が訪 れ る よ うに な った 。 放 仔 の 観 察 は 夜 間 とな るた め , 各 種 の 危 険 が あ る こ とや , 観 察 者 に よ る ア カ テ ガニやそ の生息場 所 の攪乱, さらに地元市 民 への迷 惑 等 が心配 され,保 全活 動 に係 わ るナ チ ュ ラ リス トた ち を 中 心 に,1990年 以 来 , 毎 年7月 活 動(カ ニ バ ト :カ ニパ トロー ル の 略 称)が か ら8月 に か け て, パ トロー ル と ガ イ ドの 行 わ れ て きた 。 当 地 は, 行 政 に よ る保 全 方 針 が公 表 され た もの の , ま だ 保 全 地 域 で は な く, 「カ ニ バ ト」 の 努 力 は, 保 全 へ の 歩 み を 支xる 大き な要 素 とな って い る。 本 研 究 は 小 網 代 に お け る ア カ テ ガ ニ の放 仔 の 期 間 , 潮 や 日没 時 刻 との 関 係 を 分 析 し, カ ニパ トロ ール の活 動 や 今 後 の 保 全 活 動 の た め の基 礎 資 料 とす る も の で あ る。 *東 京 農 業 大 学 大 学 院 農 学 研 究 科(〒156-8502東 Agriculture, Tokyo Univ. of Agriculture, **慶 應 義 塾 大 学 生 物 学 教 室(〒223-0061横 Hiyoshi, Kohoku-ku, Yokohama, 京 都 世 田 谷 区 桜 丘1-1-1):Graduate Sakuragaoka, Setagaya-ku, 浜 市 港 北 区 日 吉4-H)=Dept Tokyo, . of School of Japan. Bio1., Keio Univ., Japan. 75 No.30(2001) 慶 應義 塾大 学 日吉紀 要 ・自然 科学 ノノニン ζ 《 \ 黍 爨 鼻、 1掌 , ケ豫`・1隈 、・ 、 ∴: イ 誓' … ヤ\ ∴ ・ 、 風'い 疼 ∴ ∼∵ ㌦ ∵ 一芯 贓忌瓢 図1 ア カ テ ガ ニ の 放 仔(絵 2.ア ア カ テ ガ ニSesarma ・・ 二'.一 鍵4徳 ∫ :江 良 弘 光 氏) カ テ ガ ニ の放 仔 行 動 haematocheir(図1)は , 秋 田 ・岩 手 県 か ら沖 縄 諸 島 に か け て広 く分 布 す る 中型 の カ ニ で あ る。 海 岸 か ら河 川 沿 い の流 域 の 陸 域 に 分 布 を広 げ , 崖 地 や 樹 上 な ど, 高 所 に 登 る習 性 も強 い 。 抱 卵 盛 期 は7月 ∼8月 。 海 ま た は川 に 下 っ て 放 仔 を 行 う(三 宅 1983)。 放 仔 行 動 は月 齢 周 期 と強 い 関連 が あ り, 満 月 ・新 月 と, そ の 前 後 の夜 に多 く見 られ る。 海 か ら か な り離 れ た 場 所 で は潮 汐 に 関 係 の な い 河 川 の 本 支 流 に お い て も放 仔 は行 わ れ , これ も満 月 ・ 新 月 の夜 に集 中 し て い る とい う(橋 本 1965)。 室 内 に お い て 人 工 的 に 月 齢 周 期 を作 り出 し, ア カ テ ガ ニの 放 仔 の リズ ム を観 察 した 結 果 で も, 放 仔 活 動 は 満 月 と新 月 に ピ ー ク が 見 られ た (三 枝 1980)。 潮 汐 との 関 係 につ い て も研 究 が あ る。 下 泉 ・稲 村(1951)の の 調 査 に よれ ぽ, 放 仔 は,8月 伊 豆 下 田 の海 岸 で 下 旬 か ら9月 上 旬 で は18時 か ら19時 に 集 中 して お り, そ の 全 盛 期 は満 潮 時 の 移 行 と ほぼ 平 行 し て移 行 す るが ,18時 以 前 あ る い は20時 以 降 の満 潮 に は ほ とん ど 影 響 され な い傾 向 が あ る。 三 枝(1983)は , 伊 豆 半 島 と瀬 戸 内海 の 河 川 に お い て 放 仔 行 動 の 観 察 を行 った 結 果 , 伊 豆 半 島 の ア カ テ ガ ニの 放 仔 は 潮 汐 に は 余 り影 響 され ず , 日周 成 分 の影 響 が 大 き い の に 対 し, 瀬 戸 内海 の ア カ テ ガ ニの 放 仔 は 潮 汐 に支 配 され る と い う結 果 を 得 て い る。 小 網 代 で は, 今 回 の 調 査 対 象 とは 別 の地 域(図1,B地 査 報 告 が な さ れ て い る(矢 部 点)に お い て, 大 潮 の 日に つ い て の み 調 1995)。 これ に よれ ば , 放 仔 活 動 は 日没 時 刻 と関 係 が 深 く, 日 没5分 前 こ ろ か ら開 始 され ,25分 後 に ピ ー ク を迎 え, 日没 後 約1時 間 で ほ ぼ終 了 す る とい う結 果 が 得 られ て い る。 今 日ま で の パ トロ ール 活 動 は こ の記 録 を も とに ス ケ ジ ュー ル が 組 ま れ て い る。 3.調 放 仔 活 動 の 観 察 は , 図2に 示 す 幅4mの 査地 お よび調 査 方 法 76 岩 盤 の 小 さ な 入 り江(A地 点)に お い て,2000年 小 網代 に おけ る アカテ ガ ニの放仔 活動 の時 間特 性 ” ◎. 0 こげ ' 、', .' .`。9卩 ,f' 舳▼ 》 ● v 》't” も'・ .GD 魏 講 鞴毳 v ・ ム29潯 . 韆 ⊃ (矢 部 ・岸) ▼” .y vレ 》 ∼ o・ 韈1 φ 小網 代 澹 .!r5 V' V .,. 0 ﹁ ,'﹃ 鞠 霆劉 . ● 認 り口 . ◎ 禮 ・ 懲 1 昌 鰒 町'亅 0卿{ コ の .£ ・・. 躑 ◎臟 鰌 ” ゼ ・・ ..1畿 _ V 禦 \ 也 琶鷹 讐_・ 図2 ・ 巣 翳._・ 調 査地 6月30日 か ら10月29日 まで の 大 潮 と小 潮 の 前 後 数 日間 にわ た り, 天 候 に 係 わ らず , 実 施 さ れ た 。 同 地 は, 両 側 に岩 場 が 突 出 して 前 面 が湾 に 開 き, 背 後 は ア ズ マ ネザ サ を 主 体 と した 植 生 に覆 わ れ て い て , 放 仔 活 動 の 把 握 が 容 易 な場 所 で あ る。 同 地 は ま た , カ ニ パ ト ロー ル の 際 に一 般 訪 問 者 を誘 導 す る岸 辺 に 隣 接 して い るた め , 調 査 結 果 を 今 後 の パ トロー ル 活 動 に直 に 活 かす こ とが で き る と, 期 待 さ れ る。 調 査 は , 記 帳 者1名 , 観 測 老2,3名 の 体 制 で 行 った 。 観 測 者 は 入 江 の 両 側 の 岩 場 に定 位 し, 入 江 の範 囲 に お い て , 海 に進 入 し, 体 を 震 わ せ る放 仔 行 動 を 行 っ た個 体 を 全 て カ ウ ン トして 記 録 者 に伝 え, 記 録 者 は ,10分 毎 に総 数 を 集 計 した 。 調 査 時 間 は夕 暮 れ か ら約2時 時 刻 は,6月 か ら8月 は18:00,9月 以 降 は17:30と し た。 4.結 4-1: 間。調査 開始 果 お よび考 察 放仔期 間 調 査 日別 の 放 仔 個 体 数 の 推 移 を 図3に 示 し た 。 横 軸 は 調 査 日 と 潮 ま わ り(大 :大 潮 , 中 :中 潮 , 小 :小 潮 , 長 :長 潮), 縦 軸 は 日 別 の 放 仔 個 体 数 で あ る 。 ア カ テ ガ ニ の 放 仔 行 動 は , 最 初 の 観 測 日 で あ っ た6月30日 ピ ー ク を 迎xた 放 仔 の 期 間 は6月 の ち , 徐hに に は す で に 始 ま っ て お り,7か 減 少 し ,10月 ら8月 に か け て 増 加 し ,8月 中旬 に 下 旬 に は終 了 して い る。 当 地 に お け る ア カ テ ガ ニの 下 旬 か ら10月 中 旬 ま で 見 る こ と が で き る 。 77 No.30(200!) 慶應 義塾 大学 日吉紀要 ・自然 科学 700 600 500 菌 無400 駆300 200 100 0 →く でKK1く §繋 で を{Hくiく 詈ミ藻 でiく{ヨ く そKKiK §§羹器$墓 塞墓§霧ま§§鬘詈詈§§ T 図3 4-2: で で →く → く 略1く 調査 日別 の放 仔個 体数 の推 移 月 齢 周 期 との 関 係 月 齢 周 期 と ア カテ ガ ニ の放 仔 の 関 係 を 見 る と(図3), 潮 の 日(上 弦 , 下 弦)に 大 潮 の 日(満 月 , 新 月)に 多 く, 小 は 少 な い とい う規 則 性 が は っ き りし て お り, 既 往 の 諸 研 究 と も一 致 す る。 この 特 性 は , 潮 の干 満 の 差 を利 用 し て幼 生 を 効 率 的 に 拡 散 す るの に有 効 で あ り, ま た , 潮 位 が 高 い タ イ ミソ グ で の放 仔 は移 動 距 離 が短 くて す み , 外 敵 か らの 防 衛 に も有 効 で あ る と考x られ る。 4-3:8月 中旬 の ピーク 調 査 日別 の放 仔 個 体 数 の 推 移 に お い て,8月 と も, 注 目 され る事 実 で あ る(図3)。 中 旬 の大 潮 時 に突 出 的 な ピー クが 認 め られ た こ ア カ テ ガ ニの 抱 卵 期 間 は約1ヶ 月 で , い くつ か の 同 期 的 な グル ー プに 分 かれ て , 繁 殖 期 間 中 に2度 か ら3度 の 抱 卵 ・放 仔 を行 うこ とが 知 られ て い る (三 枝 1983)。 こ の知 見 に 従 え ば, 同 地 に お け る8月 中 旬 の突 出 的 な ピー クは , 早 期 に 放 仔 を は じめ た 同期 的 な グ ル ー プ と, 遅 れ て放 仔 を 始 め た グ ル ー プ が, この 時 期 に 合 流 した た め と判 断 され る。 4-4: 放 仔活動 の時間特性 次 に , 放 仔 の 集 中す る大 潮 の 日(満 月 , 新 月 の 当 日を 含 む1∼3日)に 関 し て, 日没 時 刻 と 放 仔 頻 度 の 関 係 をみ た 。 図4は , 横 軸 に 日没 時 刻 を基 準 と し て10分 刻 み に 時 刻 を と り, 縦 軸 に は10分 ご との 放 仔 個 体 数 を , 日 ご との 放 仔 個 体 総 数 に しめ る割 合(%)で 78 と り, 調 査 日 ご との放 仔 数 の時 間 推 移 を 図 01 00 57 57 56 52 52 48 47 46 41 40 32 31 20 13 02 50 42 30 19 09 08 59 5019191818!81818181818181818181818181717171717171616 日 日 日 日 10 日 日 +8月14日 刻 時 日 +7月29日 暇 37 10 20 53 23 50 23 38 24 04 09 40 30 57 51 37 13 47 09 24 29 05 28 27 2416221717182021161718212117172217211720172117172217 日 40 刻 時 潮 満 日 日 日 日 日 日 日 日 日308151617232429303167141524296142028613142129 月月 月月月月月月月月月月月月月月月月月月月月月月月677777777788888899991010101010 ∠ ,唄 ・ , 貝 ㍗・ r 0 1 120 90 60 ・・☆ ・・7月31日 潮 潮 潮 潮 潮 潮 潮 潮 潮 潮 潮 潮 潮 潮 潮 潮 潮 潮 潮 潮 潮 潮 潮 潮 潮 中 大小大大大小小 大大小小大大長大小大小大小大大小大 !▲'急 潮 日 日 +10月14日 う ・・舎 ・・10月13日 30 。 ・9月28日 一 昏 日 日 趣 O 4 +9月14日 [ 日 3。[ 日 、馬 ' 9' ヲ﹂ s ( U 大潮 の 日におけ る 日没 時刻 と放 仔頻 度 の関 係 図4 ,∼ 、 ■ み 楼10 ・・倉 ・・8月29日 ▲鳳 ノ 葦20 30 日没 -30 一60 “ ﹂ ,, 一 督 一・8月15日 4a 一 ■ 一 ・7月30日 30 日 酬 2・1 ・▲ 20 ⊥___亠__」__」_晶__」 0 日 、」 _」__一 .ゴ ・・ .. 二▲ 釦 調 戸`“ 10 冖 倉 一7月17日 。】 曝 20 』コ. 一 o 40 aE +7月15日 一 暑一・7月16日 30 調 査 日 の 日没 時 , 満 潮 時 一 覧 表1 「 40 (矢 部 ・岸) 小 網代 に おけ る アカテ ガ ニの放仔 活動 の時 間特 性 0 日 没 か らの 時 間(分) 79 No.30(2001) 慶應 義塾 大学 日吉 紀要 ・自然科 学 30% 1 25% 一・ ◆噂放 仔 個 体 数 デ ー タ ー疊 一 正 規 分 布 曲 線 . IIILー ㎝ り4 如 鮖 遡 黶 暈 胆 辻 恒 ー ● 四 ト. ⋮ 1 ﹁- 駢 4 1 1〆 ω・富 5 ● σ ㎝ { 暫 算 術平 均 μ=24.7 標 準偏差 σ=14.5 駢 .; -卜1 R2=0.99 の ■ ■ o% 一60 珂1ガ . ● 一一__起.『-一 一20 一40 一..一L一 一一一 ⊥ 一. ..r.1__r一 日没 一一 ⊥一一 一一一一一_L一_.一 20 一一一 ⊥一. 噸 !.. 40 60 100 80 日没 か らの 時 間(分) 図5 放仔個体 の頻度分布 示 した もの で あ る。 図 か ら判 断 す る と,7月 ,8月 始 ま り, 日没 後25分 付 近 で ピ ー ク を迎x, 徐hに の大 潮 の 日の放 仔 は, 日没 の ほ ぼ20分 前 に 減 少 す るパ タ ー ンを しめ し,9月 ,10月 の 大 潮 の 日の 放 仔 は , 開 始 そ の も の が 日没 後 にず れ こむ パ タ ー ン とな って い る。 調 査 日 ご との 日没 時 と満 潮 時 の一 覧(表1)を 参 照 す る と,7,8月 か な り過 ぎ て い るの に対 し,9,10月 の大 潮 の 調 査 日は 日没 時 に す で に満 潮 時 を の 大 潮 の 調 査 日は 日没 時 が満 潮 時 刻 に ほ ぼ 重 な るか , ま だ 満 潮 に いた って い な い とい う相 違 が あ る。 この 相 違 の も と で, 前 者 で は放 仔 の ピー クは 日没 に左 右 され , 後 者 で は潮 汐 の 影 響 を うけ る と い う事 態 が 生 じ て い る の で は な い か。 な お, 「カ ニバ ト」 の 実 施 され る7月 と8月 の放 仔 数 の デ ー タ を一 括 し て, 日没 を 基 準 と した10分 刻 み の 枠 で ま と め な お し, 放 仔 個 体 の 頻 度 割 合 と し て 図 示 す る と, 平 均 μ=24.7分 14.5分 の 正 規 分 布 曲 線 と, よ い一 致 を示 す パ タ ー ン と な っ た(図5)。 , 標 準 偏 差5= 正 規 分 布 に 関 す る基 本 的 な特 性 を 援 用 す る と, これ ら の ケ ー スで は, 日没 後 ほ ぼ25分 で放 仔 個 体 数 は 最 大 とな り, そ の 前 後29分(計58分 。 平 均 ±26)ほ どの 間 に, 放 仔 個 体 の95%以 上 が放 仔 を終 え るパ タ ー ン に な っ て い る と表 現 す る こ とが で き る。 この結 果 を, 小 網 代 の別 地 点 に お け る矢 部(1995)の 結 果 と比 較 す る と, 日没 と ピー クの 関 係 は ほ ぼ 一 致 して い るが , 放 仔 開 始 時 刻 に関 して , 矢 部 の結 果 は 日没 前5分 で あ る の に 対 して, 今 回 の結 果 は 日没 前20分 と, か な りの相 違 が で た 。 こ の相 違 は, 矢 部(1995)の 調 査 地 点Bは 日射 を遮 る も の が な く, 日没 直 前 ま で直 達 日射 が 届 く場 所 で あ る の に 対 し,A地 点 は岬 に よ り 日射 が遮 断 され て い る こ とに 関 連 す るの で は な い か と, 推 定 され る。 これ に 関連 して 注 目 され 80 (矢 部 ・岸) 小網代 にお け るア カテ ガニの放 仔活 動 の時 間特性 る の は ,7月15日 の ピ ー ク が 他 よ り も10分 早 く出 現 し て い る こ と で あ る 。 当 日 は 雨 で , 照 度 の 低 下 が 早 か っ た こ とが影 響 し て い る と考 え られ る。 5.お わ りに 小 網 代 に お け る 「カ ニパ トロー ル 」 は, 以 下 の 指 針 に沿 っ て実 施 され て きた。1)夕 刻,観 察 地 付 近 で 訪 問 者 に 呼 び か け, カ ニ パ ト ロー ル の 誘 導 に 従 った 観 察 を 要 請 す る。2)日 15∼20分 前 に, 放 仔 の行 わ れ る海 岸 線 の 海 側 ・浅 瀬 に観 察 者 を誘 導 す る。3)待 没 機 と観 察 の 時 間 は誘 導 後 ,40∼45分 ほ ど と し, 放 仔 の 状 況 を み な が ら引 き上 げ時 間 を 判 断 す る。 一 方 , 今 回 の 調 査 で 得 られ た , 小 網 代 に お け る ア カ テ ガ ニの 放 仔 の 特 性 は 以 下 の5点 で き る。1)小 網 代 の ア カ テ ガ ニ の放 仔 期 間 は ,6月 下 旬 か ら10月 上 旬 にわ た る。2)放 体 は大 潮 時 に多 く, 小 潮 時 に はす くな い 。3)8月 る。4)7,8月 に要約 仔個 中 旬 に放 仔 個 体 数 の 突 出 的 な ピ ー クが 現 れ の 大 潮 時 の 放 仔 活 動 は, 日没 前20分 ごろ に 開 始 され , 日没 後25分 ご ろ に ピ ー ク に達 し, ピー ク時 の 前 後 そ れ ぞ れ29分(計58分)の るパ タ ー ン とな って い る。5)放 間 に全 体 の95%ほ ど の個 体 が 放 仔 を 終 え 仔 開 始 時 刻 は地 点 に よ って ぼ らつ きが 大 き い 可 能 性 が あ る。 これ ら の結 果 は , 小 網 代 に お け る カ ニパ トロ ール の , 現 行 マ ニ ュア ル の 適 切 さを 基 本 的 に 支 持 す る 内容 で あ る。 た だ し, 現 行 の 指 針 は,9月 ,10月 に は 適 用 で きな い可 能 性 が 高 い こ と, ま た観 察 場 所 へ の 移 動 時 刻 の 設 定 に あ た っ て は場 所 の(恐 ら くは 日照 に 係 わ る)特 性 を十 分 に 配 慮 す る必 要 が あ る こ と も また , 示 唆 す る も の で あ る。 な お , 盛 夏 の 大 潮 の時 期 に放 仔 個 体 が 突 出 的 な ピー クを 示 す 状 況 に対 応 す るた め に, ピ ー ク時 の パ トロー ル を 強 化 し, 同時 に一 般 訪 問 者 の た め の観 察 は大 潮 の ピ ー ク 日を 避 け る工 夫 も あ っ て よ い か も しれ な い。 な お, 本稿 の よ うな デ ー タ が公 表 され る こ と に よ り, 平 日で も大 潮 に あわ せ て観 察 に 来 る観 察 者 が 増 加 す る可 能 性 も あ る と判 断 し な け れ ば な らな い 。 保 全 へ の 歩 み の 中 で これ に 適 切 に対 処 し て ゆ くに は, 通 常 の ボ ラ ン テ ィ ア活 動 を越xた パ トロ ー ル活 動 の 工 夫 も, 進 め て ゆ く必 要 が あ る と思 わ れ る。 6.謝 辞 今 回 の 調 査 に あ た っ て は , 平 日の夜 間 の作 業 に も か かわ らず , 小 網 代 の森 を 守 る会 の ナ チ ュ ラ リス トた ち, 宮 本 美 織 , 仲 沢 イ ネ 子 , 佐 藤 京 子 , 高 橋 淳 , 竹 内 晶 子 , 小 倉 雅 實 , 高 橋 伸 和 , 亀 田佳 子 , 神 田元 , 簗 瀬 公 成 , 松 原 あ か ね , 刈 田 悟 史 , 木 皿 直 規 , 森 真 紀 子 , 須 藤 伸 三 , 祖 父 川 精 治 , 橋 ち ひ ろ , 浪 本 梓 の 各 氏 に ご支 援 を い た だ いた 。 ア カ テ ガ ニの 挿 絵 は江 良 弘 光 氏 の 作 品 で あ る。 皆 様 に お 礼 を 申 し上 げ る。 なお 本 調 査 は , か な が わ トラス トみ ど り財 団 に よ る委 託 業 務 の一 部 で あ る。 調 査 を委 託 し て くだ さ り, 研 究 内容 の一 部 の公 表 を 認 め て 下 さ っ た , か な が わ トラ ス トみ ど り財 団 に, 深 く感 謝 の 意 を表 す る。 81 No.30(2001) 慶應 義塾 大学 日吉 紀要 ・自然科 学 引用文献 三 宅 貞 祥(1983): 橋 本 碩(1965)二 「原 色 日本 大 型 甲 殻 類 図 鑑 」, 保 育 社 。 河 川 流 域 に 生 息 す る ア カ テ ガ ニ の 放 卵 , 動 物 学 雑 誌 ,74,82-87。 三 枝 誠 行(1980)=生 殖 の 月 周 お よ び 半 月 周 リズ ム(1), 海 洋 と 生 物 ,9,248-254。 三 枝 誠 行(1980): 生 殖 の 月 周 お よ び 半 月 周 リズ ム(II), 三 枝 誠 行(1983): 動 物 の 行 動 か らみ た 海 と 陸 の 接 点 , 海 洋 と 生 物 ,26,174-179。 下 泉 重 吉 , 稲 村 鴻(1951): 矢 部 和 弘(1995): 岸 由 二(1987): 82 出 活 動 に つ い て , 動 物 学 雑 誌 ,60,51-52。 ア カ テ ガ ニ の 放 仔 :小 網 代 つ う し ん 総 覧 小 網 代 の 森 を 守 る会 。 「い の ち あ つ ま れ 小 網 代 」, 木 魂 社 。 岸 由 二 ほ か(1994): 99-1160 ア カ テ ガ ニ のZoea放 海 洋 と 生 物 ,10,372-377。 小 網 代 の 生 物 相(中 間 報 告), 慶 應 義 塾 大 学 日 吉 紀 要 自 然 科 学 ,No.15,
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