淀川水系等の水質調査 - 大阪府立公衆衛生研究所

平成 19 年度 研究実施 / 終了報告書
淀川水系等の水質調査
生活環境部 環境水質課
宮野啓一、田中榮次、土井 均、味村真弓、小泉義彦
高木総吉、枝川亜希子、安達史恵、渡邊 功
■研究目的
系および大和川水系において、平成 19 年 8 月(夏季)、
淀川は、大阪府下の水道水源の 90% を依存している重
平成 20 年 2 月(冬季)の 2 回行った。検出濃度は両水
要な河川であり、水道水源としての安全性を確保するため、
系において、夏季は< 1.0 ~ 23.0ng/L、冬季は< 1.0
水道法で規制及び未規制の有害物質に対する調査が必要不
~ 46.0ng/L となり、昨年とほぼ同レベルで低い濃度で
可欠である。本研究では、主として淀川水系における、将
あった。
来公衆衛生上問題になる可能性のある、もしくは現時点で
■誌上発表
問題になっている未規制物質を調査し、水道水源として安
全性を確保するための基礎資料を得る。
■研究実施状況
1) Sokichi Takagi, Fumie Adachi, Isao Watanabe,
Kurunthachalam Kannan, Concentrations of
Perfluorinated Compounds in Yodo River System,
今年度も社会的関心の高い有機フッ素化合物及び医薬品
Osaka, Japan, Organohalogen Compounds, 69,
に関する調査を継続した。その結果は次の通りである。
2808-2811(2007)
1) 有機フッ素化合物の経年変化を調べるために淀川水系
■平成 20 年度の研究実施計画
および大和川水系で調査を行った。主要対象化合物は
1) PFOS が POPs(残留性有機汚染物質)の一つとして検
PFOS と PFOA とし、平成 19 年 8 月(夏季)・平成 20
討されており、また PFOA も削減・全廃への取り組み
年 2 月(冬季)の 2 回調査を行った。その結果、すべ
が行なわれていることから、今後も引き続き有機フッ素
ての試料から両化合物とも ng/L レベルで検出されたが、
化合物のモニタリングを行い、データの蓄積を行なう。
昨年と同様のレベルであった。
2) 消炎・鎮痛剤等の 5 種類の医薬品の実態調査を淀川水
2) 淀川水系等において、対象とする医薬品の数を増やし、
実態調査を行う。
33
平成 19 年度 研究実施 / 終了報告書
水質試験における分析方法の開発等に関する研究
生活環境部 環境水質課
田中榮次、宮野啓一、味村真弓、小泉義彦
高木総吉、安達史恵、渡邊 功
■研究目的
より精度の高い分析法に改良できた。また、PFOS の分
水道水及び水道水源の安全性を確保するには、日常的な
析では 98%以上が直鎖のある標準品を使用することに
水質監視を行い突発的な汚染事故に対処する一方、規制物
より、より正確な分析法に改良できた。さらに、PFOA
質のみならず未規制微量有害物質の各種水環境中のレベル
の前駆体といわれるテロマーアルコールの GC/MS を用
を把握することが重要である。そのためには、水質監視や
いた分析方法を検討し、カラムの分離条件、モニターイ
未規制物質の実態把握を正確に行える分析法の確立が必要
オンなどを決定した。
不可欠である。本研究では、水質規制項目について高精度
4) LC-MS/MS を用いて環境水中における解熱鎮痛剤等の
で迅速簡便な分析法の開発を行うとともに、未規制有害物
医薬品の分析法について検討を行った。回収率の安定性
質による潜在的な水質汚染調査を行う上で必要な分析方法
向上と回収率に大きく影響する共存物質を除去する方法
の開発についても検討する。
について検討を行ったが、良好な処理法を見い出すには
■研究実施状況
1) 二酸化塩素の自動分析法を完成させ、その成果を防菌
至らなかった。
■誌上発表
防黴学会にて発表した。一方、残留遊離塩素と二酸化塩
1) 安達史恵 , 高木総吉 , 渡邊功:水環境中における医薬品
素の同時分離自動分析装置の開発を試みたが、良好に機
の分析 , 大阪府立公衆衛生研究所研究報告 , 45, 43-46
能する装置を作製する事が出来なかった。
(2007)
2) 陰イオン界面活性剤の外部精度管理を実施するにあた
り分析諸条件の検討を行った。その結果、保存容器、保
存温度、および残留塩素に起因する固相の分解からくる
影響はあったが、pH と全有機炭素による影響はなかっ
た。この成果を全国衛生化学技術協議会で発表した。一
方、非イオン界面活性剤(ノニルフェノールポリエトキシレート)と陰イ
■平成 20 年度の研究実施計画
1) 健康危機対応のために、自動分析装置を用いたシアン
の迅速分析法について検討を行う。
2) 環境水中の医薬品分析には公定法が無いので、医薬品
分析法の開発を検討する。
3) 水環境中における PFOS・PFOA と前駆体との関連性を
オン界面活性剤 (C12-LAS 成分 ) を各々河川水に添加し、
調べるために、テロマーアルコール以外の前駆体も含め
分解物の同定を試みたが、市販標準品が無いため同定に
分析方法を検討する。
は至らなかった。
3) PFOS、PFOA の 分 析 で は、13C で ラ ベ ル 化 さ れ た
PFOS、PFOA をサロゲートとして使用することにより、
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4) 水道水質検査における検査精度の向上と信頼性の確保
を検討する。
平成 19 年度 研究実施 / 終了報告書
環境微生物に関する調査研究
生活環境部 環境水質課
土井 均、肥塚利江、枝川亜希子
■研究目的
2) 大 阪 府 内 の 環 境 水 13 カ 所 35 試 料 に つ い て Nested
近年、レジオネラやクリプトスポリジウム等の水系感染
PCR 法を用いてクリプトスポリジウムの遺伝子の検出
を原因とした集団感染事故が各地で起こり公衆衛生上の問
を試み、11 カ所 26 試料について PCR 陽性となった。
題となっている。これら病原微生物による感染事故を防止
PCR 陽性となった検体について、シークエンスを試み
するためには、感染源および汚染実態の正確な把握と病原
た結果、2 カ所 2 試料からヘビ型およびシカ型のクリプ
微生物制御法の確立が必要である。本研究では、これらの
トスポリジウムと思われる配列を見いだした。
病原微生物の正確かつ迅速な検出法を確立し、水環境にお
■誌上発表
ける汚染実態および生息条件を把握するとともに制御法に
ついて検討する。また、レジオネラ属菌の宿主となる自由
なし
■平成 20 年度の研究実施計画
生活性アメーバの汚染実態および生息条件についても検討
1) レジオネラ属菌に対する制御法に関する研究
する。
低濃度領域オゾンのレジオネラに対する殺菌効果につい
■研究実施状況
て種々の物質が共存した場合の殺菌作用に及ぼす影響につ
1) 低濃度オゾン水のレジオネラに対する殺菌効果につい
て検討した。その結果、オゾン濃度が 0.034mg/L で強
い殺菌作用を示し、10 オーダーのレジオネラが1分
6
いて検討する。
2) 環境水等におけるクリプトスポリジウム等の汚染実態
に関する研究
後には完全に殺菌され、夾雑物の存在しない状態では
引き続き水道水源を中心とした環境水中のクリプトスポ
0.005mg/L の低濃度においても殺菌効果が認められた。
リジウムの汚染状況を調査し、その遺伝子型を PCR 法等
殺菌効果を表す 99.99% CT 値は菌株間の相違は少なく
の手法を用いて解析する。また、ジアルジアについても過
0.007 ~ 0.012min・mg/L( 平 均 0.010 ± 0.002min・
去の試料にさかのぼって同様の解析を行う。さらに、下水
mg/L)であった。
処理場等汚染源と考えられる場所の実態調査も行う。
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平成 19 年度 研究実施 / 終了報告書
小規模分散型生活排水処理システムに関する研究
生活環境部 環境水質課
山本康次、中野 仁、奥村早代子
■研究目的
大阪府の生活系排水対策は、従来、下水道整備により行
われてきたが、迅速な整備や経済性などの観点から近年、
整できることが分かった。今後、現地でのベンチスケー
ルの実験を行う予定である。
5) 紫外線を利用した物理化学処理では、クリプトスポリ
合併処理浄化槽の面整備が行われるようになってきた。本
ジウム不活化対策としての生物線量計を用いた紫外線の
研究は、合併処理浄化槽の面整備など小規模分散型生活排
照度測定と不活化、し尿処理水中のエストロゲンの分解
水処理システムの整備方法、および浄化槽の処理技術、維
を検討している。
持管理技術、情報管理方法、浄化槽整備が地域水環境に与
■誌上発表
える効果などについて検討する。また、安全性確保の観点
1) 山 本 康 次、 中 野 仁、 奥 村 早 代 子、 肥 塚 利 江、 坂 部
から紫外線を用いた微生物の不活化や処理水中の残存有機
憲 一、 山 内 正 洋、 高 萩 喜 美 子: 浄 化 槽 面 整 備 地 域 に
物質の分解を検討する。
おける事前現況調査と整備の効果予測、浄化槽研究、
■研究実施状況
1) 効率的処理・維持管理方法の研究に関しては、家庭用
19(3),1-12(2007)
2) 山本康次、中野 仁、奥村早代子、坂部憲一、小川浩、
小型浄化槽については豊能町高山地区の浄化槽群をモデ
木曽祥秋 :PFI 方式による浄化槽整備事業の有効性とそ
ルに、中規模以上の浄化槽については府営住宅に設置さ
の評価、用水と廃水、49(8),680-689(2007)
れた浄化槽をモデルにして継続的な調査検討を行ってい
3) 山本康次:PFI 事業を導入した浄化槽市町村整備事業、
る。特に、中規模以上の浄化槽については実汚泥搬出量
用水と廃水、50(1),55-62(2008)
(kg/ 日 ) を求め、汚泥管理の適正化について検討を行っ
■平成 20 年度の研究実施計画
ている。
2) 面整備された浄化槽群の処理機能や地域水環境に与え
る影響に関しては、豊能町高山地区で河川調査を行った。
1) 効率的処理・維持管理方法の研究に関しては、府営住
宅や市町村設置型小型合併浄化槽等を対象として検討を
行う。
また、富田林市の浄化槽面整備事業開始前の佐備川流域
2) 大阪府の施策でもある生活排水対策として整備される
水質調査結果を解析し、汚濁負荷量の算出や整備後の水
市町村設置型浄化槽群の地域水環境への影響評価に関し
質予測に関して論文としてまとめ、投稿し掲載された。
ては、豊能町高山地区、富田林市佐備川流域について継
3) 効率的な浄化槽面整備事業手法に関しては、PFI 手法
続して調査を行う。
導入の有用性、課題などについて検討した結果を雑誌に
3) 効率的な浄化槽面整備事業手法に関する検討に関して
投稿した。また、大阪府版 PFI 浄化槽整備マニュアル
は、府環境衛生課と連携して将来の人口減少の影響を反
を今年度中に作成した。実際に PFI 導入を検討する時に、
映できるモデルの作成に向けて検討を進める。
その効果の概要をシュミレーションできるソフトの試作
版を作成した。
4) 汚泥再処理センターでの余剰汚泥の有効利用方法の
4) 余剰汚泥の削減方法に関しては、ラボスーケール実験
で十分な効果が得られたので、今後、現地でのベンチス
ケール実験を行う予定である。
1 つに肥料化がある。肥料化では需要変動に合わせて
5) 浄化槽等の生活排水処理水に対し紫外線とオゾン併用
余剰汚泥量を調整できることが望ましい。そこで、好
によるエストロゲンの分解と、生物線量計を用いてクリ
気性消化法のラボスケールの実験を行い、SS 負荷量
プト不活化対策に用いられる紫外線照射装置が、省令に
0.0084kg-BOD/kg-MLSS/ 日以下の条件でほぼ 100%の
定められた照射量を確保できているかの測定を行う予定
減量が可能であり、需要に合わせて余剰汚泥の発生を調
である。
36
平成 19 年度 研究実施 / 終了報告書
環境放射能および環境放射線の測定
生活環境部 環境水質課
肥塚利江、味村真弓、渡邊 功
■研究目的
人工放射性降下物及び原子力施設等からの放射性物質漏
洩による環境汚染の有無を明らかにすること、また放射能
を行った結果、ガンマ線核種分析の精度は確保されている
ことを確認した。
■誌上発表
事故時の影響評価や対策等の基礎資料を得る事を目的と
1) 味村真弓、肥塚利江、渡邊功:大阪府における環境お
し、大阪府内における環境放射線ならびに環境および食品
よび食品中放射能調査(平成 18 年度報告)
、大阪府立
中の放射能レベルを把握する。さらに、天然放射性核種に
公衆衛生研究所研究報告、45、15-22(2007)
よる環境問題に資するため、大阪府内の天然放射性核種の
バックグラウンドレベルを把握する。
■研究実施状況
昨年度に引き続き、文部科学省委託による放射能調査を
2) 味村真弓、肥塚利江、渡邊功:大阪府における放射能
調査、第 49 回環境放射能調査研究成果論文抄録集、
211-214(2007)
■平成 20 年度の研究実施計画
主に、大阪府内の環境および食品試料中の放射能および空
引き続き、大阪府内における環境放射線ならびに環境お
間放射線量率調査を実施した。降水の全ベータ放射能測定
よび食品中の放射能レベルを把握するために、来年度も文
83 件、環境および食品中のガンマ線核種分析 40 件、空
部科学省の委託調査を中心に研究を進める。
間放射線量率測定 396 件を行った。
1)全ベータ放射能測定:降水について、低放射能測定装
平成 19 年度における環境および各種食品中の放射能お
置を用いて測定。
よび放射線のレベルは、昨年度と同様、すべて平常値であ
2)ガンマ線核種分析:大気浮遊塵、降下物、上水、土壌、
り、人工放射性物質の環境への新たな放出はないことを確
海水、海底土、米、牛乳、野菜、日常食等について、ゲ
認した。従って、今年度も、大阪府において人工放射性降
ルマニウム半導体検出器を用いて測定。
下物また原子力施設からの漏洩等による人工放射性物質の
3)空間放射線量率:当所中庭、大阪城公園等において、
新たな環境への放出はなかったことを確認した。
シンチレーション式サーベイメータを用いて測定。当所
さらにガンマ線核種分析の精度確認のため(財)日本分
屋上において、モニタリングポストを用いて連続測定。
析センターとのクロスチェック(分析確認試料 10 試料)
37
平成 19 年度 研究実施 / 終了報告書
研究終了
有害作業のある小規模事業所における
労働衛生管理の推進に関する研究
生活環境部 生活衛生課
熊谷信二、小坂 博、宮島啓子、吉田 仁、冨岡公子
■研究目的
■結 論
大阪府には多数の小規模事業所がある。これらの中には
1) グルタルアルデヒドの代替品であるオルトフタルアル
化学物質の取扱いなど有害作業を行っている所、あるいは
デヒドを使用した場合でも、洗浄従事者に自覚症状の訴
重量物取扱いなど負担作業を行っている所があり、これら
えが見られ、換気対策や保護具着用の必要性が明らかに
の作業従事者が化学物質による中毒や腰痛等の筋骨格系障
なった。
害に罹患することがある。本研究の目的は、これらの事業
2) 病院にて医療従事者は抗がん剤に曝露され健康影響を
所における作業の実態と従事者の健康状態を把握し、必要
受けていることが示唆された。また、安全対策が進んで
な場合には改善対策指導を行うことである。今年度は、①
いない状況で抗がん剤の調製を行っている病院が多く見
医療機関での内視鏡スコープの消毒時における消毒剤曝露
られたため早急な対策が必要である。この調査により、
と健康影響、②医療機関での抗癌剤取り扱い時の抗癌剤曝
発がん性物質の曝露評価に変異原性試験 (umu 法 ) が有
露と健康影響、③石綿工場周辺における過去の環境中石綿
効であることが再認識された。
濃度を推定する。④生体試料中の有害物濃度を測定する方
法を確立する。
■研究実施状況
1) 医療機関 23 ヶ所において消毒剤への曝露状況と自覚症
3) 石綿工場周辺の古い寺院の桟に堆積した粉塵中石綿濃
度は正確に測定できないため、過去の環境中石綿濃度を
推定する指標にはなりえない。
4) 尿中及び血液中カドミウムのフレームレス原子吸光法
状の調査を行ったところ、スコープの手動洗浄は、自動
による測定法を確立した。
洗浄機による洗浄に比べ、オルトフタルアルデヒドへの
■成果の活用
高い曝露が認められた。洗浄従事者の自覚症状の訴え
(こ
1) 宮 島 啓 子、 田 淵 武 夫、 熊 谷 信 二 : 大 阪 府 内 の 医 療
こ 1 ヶ月間)は、グルタルアルデヒド使用で 18.9%、
機関における内視鏡消毒作業の現状 , 産業衛生学雑
オルトフタルアルデヒドで 24.3% あった。
誌 ,48,169-175(2006)
2) 抗がん剤の変異原性試験により、いくつかのものは変
2)Yoshida J, Kosaka H, Nishida S, Kumagai S: Actual
異原性を有していることがわかった。また、抗がん剤を
conditions of the mixing of antineoplastic drugs for
取り扱う医療現場では抗がん剤の汚染が認められるとと
injection in hospitals in Osaka Prefecture, Japan, J
もに、取り扱う医療従事者に健康影響が生じている可能
Occup Health,50,86-91(2008)
性が認められた。府内の多くの医療従事者は抗がん剤の
3)Yoshida J, Kosaka H, Tomioka K, Kumagai S:
職業性曝露とその有害性について認識していたが、安全
Genotoxic risks to nurses from contamination of
対策が進んでいない病院も多く存在していた。
the work environment with antineoplastic drugs in
3) 過去の環境中石綿濃度を推定する指標として、石綿工
場周辺の古い寺院の桟に堆積した粉塵中石綿濃度の測定
を試みたが、検出限界付近のため使用できないことがわ
かった。
Japan, J Occup Health,48,517-522(2006)
4) 熊谷信二、車谷典男 : 石綿の近隣曝露と中皮腫罹患リス
ク , 産業衛生学雑誌 ,49,77-88(2007)
内視鏡の洗浄や抗がん剤取り扱い職場の調査結果は対象
4) 尿及び血液にカドミウムを添加した標準液を測定し、
現場に報告し改善指導を行うとともに、学会や学術雑誌に
いずれも正常値の範囲で精度よく測定できることがわ
発表した。また、生体試料中の重金属の測定法を確立でき
かった。
たので、健康危機管理時に貢献できる。
38
平成 19 年度 研究実施 / 終了報告書
研究終了
住居環境中の有害化学物質への曝露実態と
その評価方法に関する研究
生活環境部 生活衛生課
吉田俊明、松永一朗
■研究目的
■結 論
近年、住宅等の室内環境の汚染がその発症の原因の一つ
1) 調査を行った国産車 101 車種の室内空気より 275 種の
とされる「シックハウス症候群」や「化学物質過敏症」が
化学物質が同定され、大部分の新車の室内は高濃度の化
社会的に問題となっている。本研究では、化学物質による
学物質 ( 主として脂肪族および芳香族炭化水素類 ) によ
室内空気汚染の実態を明らかにするとともに、健康影響評
り汚染されていることが明らかとなった。これらから選
価および動物実験等を行い、これらの疾病に主眼をおいて
定された 14 物質の車内汚染濃度レベル ( 調査の中央値:
健康に及ぼす化学物質の影響を解析する。
o- キシレン 10μg/m3 ~ n- ヘプタン 150μg/m3) におけ
■研究実施状況
る乗員の経気道吸収量を算出したところ、2 時間の乗車
1) 新車購入直後の乗用車室内には特異臭があり、これま
において 7μg(2- メチルペンタン ) ~ 70μg(n- デカン )
でに当所への府民からの相談や問い合わせが多数あっ
であった。また、車内汚染濃度が同レベルであっても物
た。これに対し、我々は車内の内装材から放散される化
質により吸収量が異なることが明らかとなり、化学物質
学物質による車室内空気汚染の実態を調査した。また、
への曝露による乗員の健康影響を評価するためには、環
調査の結果から車室内の空気汚染に大きく関与している
境濃度のみでなく吸収量も考慮することも重要であるこ
と考えられる主要な化学物質 14 種 ( メチルシクロペン
とが示唆された。
タン、2- メチルペンタン、n- ヘキサン、n- ヘプタン、
2) 平均年齢が 30 歳である日本人妊婦において、ホルムア
n- ノナン、n- デカン、2,4- ジメチルヘプタン、トルエン、
ルデヒド曝露とアトピー性皮膚炎の有病率増加との関連
エチルベンゼン、o- キシレン、m- キシレン、p- キシレン、
性が推測された。
1,2,4- トリメチルベンゼン、スチレン ) を選定し、乗員
■成果の活用
におけるこれらの経気道吸収量を動物実験により推定し
た。
1) 本研究成果の一部は、すでに関連学会にて発表すると
ともに論文としてまとめ学術雑誌にて公表した。また、
2) 近年、急増しているアレルギー疾患の原因を解明する
未発表の成果についても近々学術雑誌に投稿する予定で
ため、大阪市立大学、福岡大学等と共同して、生活環境
ある。成果の公表により自動車および内装部品の各製造
の要因とアレルギー疾患発症との関連を探る長期的な研
会社を啓発し、有害化学物質の放散の少ない製品の開発
究を進めてきた。大阪府内の妊婦約 1000 人を対象に妊
に繋がることが期待される。また、研究成果は有害化学
娠中から、生まれた子供が 3 歳 6 ヶ月になるまで追跡
物質への経気道曝露によるリスクを評価するための基礎
する調査で、住居内の空気汚染や母親の食事習慣などを
的なデータと成り得る。
総合的に調査した。本研究では、ホルムアルデヒド曝露
2) 今回の解析は、ベースライン調査時点でのデータを使
と母親のアレルギー既往の関連について調べた。ホルム
用した横断研究であるため、因果関係を論じることはで
アルデヒド曝露濃度を上位 10%と下位 90%に分けて解
きない。しかし、アレルギー疾患のリスク要因を探索す
析を行うと、ホルムアルデヒド曝露濃度はアトピー性皮
るうえで、意義のあるエビデンスとなる。
膚炎の有病率と正の関連を示した。
39
平成 19 年度 研究実施 / 終了報告書
家庭用品に関する衛生学的研究
生活環境部 生活衛生課
中島晴信、宮野直子、松永一朗
■研究目的
S.: Volatile organic compound (VOC) analysis and
家庭用品の試験・検査・研究業務の遂行のため、公定分
anti-VOC measures in water-based paints, J. Health.
析法の検討や開発を行う。また、未規制物質の中で健康被
Sci., 53(3), 311-319 (2007).
害を引き起こす可能性のある物質を検索し、その分析法の
3) Nakashima, H. and Ooshima, T.: Analysis of
開発、分析調査、毒性評価を行って健康被害の未然防止を
inorganic antimicrobial agents in antimicrobial
計っていく。抗菌製品については、抗菌評価を行い安全性
products:Evaluation of a screening method by X-ray
を評価する。さらに、家庭用品による健康被害の原因究明・
fluorescence spectrometry and the measurement
再発防止の情報伝達システムの構築と方策の提言を行う。
of metals by inductively coupled plasma atomic
以上の研究により、府民の健康の保護に資する。
emission spectroscopy, J. Health. Sci., 53(4),
■研究実施状況
423-429 (2007).
1) 厚 生 労 働 省 家 庭 用 品 安 全 対 策 事 業( 家 庭 用 品
4) Sayama, Y., Kuriyama, T., Nakashima, H. and
規 制 基 準 設 定、 分 析 法 策 定 ): ゴ ム の 加 硫 促 進
Arakawa, Y.:Transference of Cytosolic Calcium to
剤 Zinc dibenzyldithiocarbamate 及 び 抗 菌 剤
Nucleus in Neurons by Organotin Exposure, Trace
2-Mercaptopyridine-N-oxide sodium の LC 及 び LC/
Nutr. Res., 24, 129-132 (2007).
MS による新たな分析法を開発した。
5) Yamaguchi, A., Kuriyama, T., Nakashima, H. and
2) 抗菌加工剤の安全性評価に関する研究:①乳幼児製品
Arakawa, Y.: Mechanism on the Cell Death of
を中心に抗菌製品の市販実態及び抗菌剤の使用実態を
T-lymphocytes Induced by Organotin in Vitro, Trace
継続調査した(大同生命研究助成)。②無機系抗菌剤が、
Nutr. Res., 24, 90-97 (2007).
皮膚常在菌へ及ぼす影響を観察した。人工汗・唾液中の
■平成 20 年度の研究実施計画
金属濃度(Ag,Cu,Zn,Cr)による最小殺菌濃度 (MBC)
1) 乳幼児製品(玩具、繊維製品)に使用されている染料
の違いを測定し、皮膚常在細菌(表皮ブドウ球菌、アク
の分析調査および文献調査などから日本において規制す
ネ菌)が死滅する金属濃度でも真菌(カンジダ、
白癬菌、
べき染料を選定する。それらの物質の分析法を検討し、
黒カビ)は生存し、皮膚常在菌のバランスが崩れて真菌
市販製品の分析調査を行う(厚生労働省よりの依頼研
症が発現する可能性が示唆された。
究)
。
3) 界面活性剤の皮膚常在菌への影響を検討するため、市
2)ポリ乳酸プラスチック等の重合触媒として使用され、
販の陰イオン界面活性剤 8 試料について皮膚常在菌等 6
残存しているオクチル酸スズ及び有機スズ化合物の分析
菌種の MIC(最小発育阻止濃度)、MBC(最小殺菌濃度)
法を開発し、医療用や家庭用の高分子材料について分析
の測定を行った。その結果、アルキルエーテル硫酸塩を
調査する(厚生労働省よりの依頼研究)
。
主成分とする 2 試料とドデシルベンゼンスルホン酸 Na
を主成分とする 1 試料が皮膚常在菌を含む St 属に対し
生育抑制を示した。
■誌上発表
1) 中島晴信ら:抗菌製品の市販実態と製品表示の使用抗
菌剤に関する調査研究- 1991 年から 2005 年-、薬学
雑誌 127(5)、865-888(2007).
2) Nakashima, H., Nakajima, D., Takagi, Y. and Goto,
40
3) 抗菌製品の市販実態及び抗菌剤の使用実態調査結果を
まとめる(大同生命研究助成)
。
4) 無機系抗菌剤(金属)が皮膚常在菌へ及ぼす影響をさ
らに詳細に調べ、真菌症との関係を明らかにし、無機系
抗菌剤の安全性評価を行う。
5) 洗濯や台所用洗剤の主成分には、陰イオン界面活性剤
と共に、非イオンおよび両性界面活性剤がある。これら
の市販品を入手して皮膚常在菌等への影響を検討する。
平成 19 年度 研究実施 / 終了報告書
大気汚染および住環境による健康影響に関する研究
生活環境部 生活衛生課
中島孝江、東恵美子、大山正幸
■研究目的
大気汚染や住環境の健康影響への関与を、疫学的調査、
られた。平成 19 年対象者については準備中である。
2) 大気中に存在する亜硝酸による喘息影響が懸念されて
動物曝露実験、試験管内実験などで明らかにする。大気汚
いるが、亜硝酸の動物曝露実験の報告はまだないため、
染物質の健康影響では、黄砂やディーゼル排気粒子などの
曝露実験用の亜硝酸ガス発生装置を開発し、約 0.2ppm
大気中浮遊粒子状物質や亜硝酸や二酸化窒素などのガス状
の亜硝酸ガスのマウス 3 週間連続曝露実験を実施した。
汚染物質と喘息症状やアレルギー反応などとの関係を明ら
肺の組織学的検索により肺気腫様変化(肺気腫は喘息や
かにする。また住環境の健康影響では、タバコ煙や建材な
気管支炎などにより生じる)などを認めた。再現性の確
どに含まれる主要な化学物質と頭痛などの症状との関係や
認実験や学会発表の準備中。
実態、化粧品等に含まれる界面活性剤の抗体産生との関係
■誌上発表
について調査研究を行う。これら健康影響に関する研究成
果をもって、府民の健康増進対策に資する。
■研究実施状況
1)Ohyama M, Otake T, Adachi S, Kobayashi T,
Morinaga K:A comparison of the production of
reactive oxygen species by suspended particulate
1) 多種化学物質過敏症とアレルギー疾患との関連や発症
matter and diesel exhaust particles with
要因を調べるため、A 市 3 歳 6 か月児健康診査受診者
macrophages.,Inhal Toxicol,19 Suppl 1,157-160
とその母親を対象に、平成 18 年 1 月より 2 年間、症状
(2007).
や住居環境や生活習慣などの約 150 項目の質問で構成
■来年度の研究実施計画
した調査票を用いた調査を実施した。回収率は 47.8%
1) 回収した 2 年間の調査票データを用い、統計学的手法
であった。回答者 2,085 人(母親は 2,074 人)の有症
により、多種化学物質過敏症とアレルギー疾患との関連
率は 3 歳 6 か月児とその母親で、アトピー性皮膚炎 9.9%
や各症状の発症要因を調べる。また、平成 19 年の調査
と 7.5%、花粉症 1.2%と 7.9%、気管支喘息 3.5%と
票回答者を対象とした症例 - 対照研究における、二酸化
2.2%であった。質問紙調査における多種化学物質過敏
窒素、ホルムアルデヒド、ダニ抗原、尿中ニコチン代謝
症の判定基準は、確立されておらず論文ごとに異なるよ
物の測定を実施し、これらが発症要因となる可能性など
うな状況である。そのため、既に報告されている判定用
を検討する。さらに、スギ花粉症状とスギ花粉の飛散量
質問に加え独自の判定用質問も実施した。現在、要因解
や大気汚染物質濃度との関係からスギ花粉症における大
析準備中である。
気汚染の影響を検討する。
さらに、母親において、上記有症者と関連疾患のない
2) 二酸化窒素の測定値やガスボンベ中には亜硝酸が常に
対照者を対象に、予備解析で症状との関連が疑われた要
含まれていることが近年わかってきた。従来の実験方法
因に関する約 90 項目の質問による調査票や二酸化窒素
による二酸化窒素曝露で、生じる肺気腫様変化は二酸化
やホルムアルデヒドの個人曝露量、ダニ抗原、尿中ニコ
窒素の影響か亜硝酸の影響かを調べるため、二酸化窒素
チン代謝物測定などを行う症例 - 対照研究を実施中であ
ガスに混入している亜硝酸を除去した純粋二酸化窒素の
る。平成 18 年協力者では築後 10 年以内の家屋に居住
動物曝露実験を行う。
する人がそうでない人より有意にホルムアルデヒド個人
曝露量が少ない結果(ビル管理学会発表済み)などが得
3) マウスに抗原と界面活性剤を同時に吸わせ、吸入によ
る特異的抗体産生の亢進について調べる。
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