物流 KPI 導入と効果事例 pg. 1 - AZ

物流 KPI 導入と効果事例
AZ Corporation Ltd.
岡田誉司(Okada
Takashi)
KPI(重要業績評価指標)とは Key Performance Indicator
KPI は「重要業績評価指標」または「重要経営指標」のことで、ビジネス戦略の観点から事業を観
察(モニタリング)するときに使う指標です。KPI というと、経済付加価値や営業利益率といった企業
全体の財務指標がイメージされがちです。しかし実際の KPI は、財務指標以外に、顧客・プロセ
ス・成長といった視点から、企業の業績評価をする為の指標を決めて、ビジネス状況をモニタリン
グする一番有効な手立てです。
特に製造業は、ビジネス活動と目的が違う組織(開発、設計製造、販売・保守)から構成され、活
動毎に異なったプロセスの視点の指標を設定する事が望まれる。例えば、開発部門では、特許出
願件数・技術転用件数や製品化までの期間などが上げられ、設計製造部門では部品点数・生産
台数や生産性、販売までの期間などの KPI を設定し、日常業務に近い指標で業績をモニタリング
できます。KPI を最終的に、従業員の実績評価とリンクさせる企業も多くなっています。次表に、某
機械部品メーカーでの設定例をあげます。
視点
KPI モニタリング項目
財務の視点
売上高・営業利益率・変動費率
顧客の視点
新規取引数・リピート注文率・クレーム発生件数
プロセスの視点
新規営業件数・品切れ率・生産サイクルタイム
成長・学習の視点
改善提案件数・改善報告件数・教育時間・特許件数
従業員の理解がポイント
従業員の理解ないまま KPI 導入を行った場合に起こる現象は、報告の数値がぶれたり、遅れや
中断したりする事です。担当者は苦労して KPI を設定したが、ビジョンや戦略を意識せずに収集・
管理・報告をしていることが原因です。これは、収集手順が複雑だったり、ビジョンや戦略と KPI の
因果関係の希薄さだったり、従業員への KPI 導入の趣旨徹底の甘さが起因しています。このよう
な状況に陥らない為には、視点単位に KPI でモニタリングする項目数を抑える(例えば、5 個程度
に抑える)事が適切と思われます。多くなると KPI の目的が理解できなくなる事が多い。
組織の目標や戦略の変更が有った場合には、従業員に指標の変更活動に参加してもらうと、ビ
ジョンや戦略と KPI との因果関係を従業員に再認識してもらえ、データ収集と管理への協力関係
が樹立でき、状態報告と課題認識までを従業員が意識できる従業員の育成に役立ちます。
KPI の定着化と付帯効果
KPI の定着化は別の効果を導き出す事があります。従業員に KPI の教育と指標決定プロセスと、
収集・管理・状態報告へ参加してもらう事です。指標の報告活動により、自らの活動の数値化がで
き、問題が生じた時ても、原因の究明や報告を積極的に行える様になる事です。例えば、組織活
動の修正や、改善(KAIZEN)実施が必要となった場合、その対策を試験的に試みて効果が出た
時、対策実施までの速さは驚くものが有ります。KPI の定着化で、企業の目的達成に柔軟に追従
できる、従業員・参加型の経営風土創出と、企業力強化の第一歩となります。
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KPI 導入効果のまとめ
KPI の導入で期待される効果をまとめると、以下の様になります。
・事業計画とビジョンおよび戦略明示される。
・従業員参加型の戦略志向の経営風土創出できる。
・従業員の責任と権限が明確化される。
・問題分析・解決型の従業員育成に役立つ。
・組織活動の修正や改善実行力強化ができる。
物流 KPI とは
物流 KPI は、企業活動におけるロジスティクスに対する管理指標です。欧米の 3PL 事業者など
では、エドワード H フレーゼルのプロセス管理視点マトリックスにより、「品質」「時間」「生産性」「財
務」といった視点から倉庫毎・荷主毎に物流 KPI を導入して、ロジスティクス活動をモニタリングし
て経営判断をしています。
製造メーカーの中には、物流事業者に自社の製品物流を業務委託する場合に、運用の負荷と
生産性を管理と、そこで発生する課題の分析と改善を物流事業者に望んでくる事が多い。委託契
約にも物流 KPI の報告を義務化する事が多い。この様な場合、業務委託者は、物流事業者から
物流サービスの提供と同時に KPI の報告による業務運営のモニタリングが可能となり、自社運営
時と同じまたは、それ以上の状態把握が可能となります。更に、波動予測に対する負荷と委託予
算額の予想が可能となり、業務上の課題を抽出する事も可能となります。複数拠点で業務委託し
ている場合には、拠点毎の個々の負荷や生産性と課題が浮き彫りとなり、大きなメリットが生まれ
ます。物流事業者としても、特に一拠点で複数の委託者から貨物を預かる場合などは、委託者毎
の負荷や生産性の把握が可能となる他、委託者や業務毎の KPI モニタリングで、物量の波動が
多い委託者や、業務負荷が明確になり、委託者との価格交渉のツールとして有効に活用できます。
物流 KPI は、企業経営には欠かせない存在です。
物流 KPI 適応例
欧米の 3PL 事業者では、一般に具体的な KPI 設定として、下記表(縦軸に KPI 観測の視点、横
軸に活動項目毎の表)をベースに、事業者毎に必要な KPI を設定して、物流拠点単位に管理を実
施しています。
此処で大切なのは、日々業務毎のデータ収集を行って、表計算ソフトできちんと管理をして、生
産性や単位コストや財務の面に関して月次集計とその推移を管理することです。経営者へは、生
産性が低下した理由や、対応の状況を報告しています。更に、KPI 推移の状況から今後の波動予
想などが報告されます。最近では、荷主貨物の扱において、荷主企業のイメージアップと CO2 削
減の法定義務化に先立ち、ECO 対応の KPI もモニタリング実施されています。
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物流 KPI 基本設定例(プロセス管理視点マトリックス)
物流 KPI と ABC
KPI の値において、単位コスト(ABC:活動基準単価)の管理とは、作業毎に単価管理をする事で
す。単位コストは、3PL 事業者に取って非常に有効に働きます。日々の諸作業のコスト評価と把
握のみならず、新しい作業の受託時には、その作業環境と作業動作や扱物が似ている KPI の作
業を基に、疑似的に新しい作業を行って生産性を測定し、新しい作業単価の見積作成する事がで
きます。また、入荷効率や保管効率や出荷効率を分析した値を荷主に報告し、倉庫スペース不足
時の交渉や、作業やスペース単価の交渉にも役立ちます。単位コストの管理と詳細分析で、現場
の課題も明確になります。更に、配送料金の個建化や改善実施にも役立つ事ができます。
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岡田誉司(Okada
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間違った物流KPI
国際物流事業者の中には、データ収集負荷を軽減する為か、物量評価(活動量)として、入荷量
と出荷量の平均をスループットとして相対的な物量管理を導入しています。
<問題が薄められるKPI例>
スループット=(入荷量+出荷量)/2
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・荷主毎の活動量
単位コスト=スループット/作業者延作業時間*平均単価
・・・・荷主毎の平均コスト
此れでは、まともな事業の負荷評価は出来ません。現実的に、入荷と出荷で物の荷姿の違いと、
オーダ商品数や件数の違いで負荷が異なります。入出荷の平均では問題が薄まってしまいます。
更に、単位コストでは、全作業者の延作業時間で割って出したりすると、実際の入荷や出荷の業
務毎の実負荷が異なるので、それで単位コストを求めて比較したりすると、現実的には何倍もの
乖離が発生する事があります。此れでは、作業のスケジューリングや、レイバの能力や評価が出
来ないKPIとなってしまっています。必要な事は、現場の負荷評価ができ、課題の想像と認識がで
きる物流KPIの収集必要という事です。
<負荷評価ができ、課題を認識できるKPI収集・例>
入荷量=入荷行数
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・荷主毎の活動量
出荷量=出荷行数
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・荷主毎の活動量
入荷単位コスト=入荷量/入荷延作業時間*平均単価
・・・・荷主毎の平均コスト
出荷単位コスト=出荷量/出荷延作業時間*平均単価
・・・・荷主毎の平均コスト
物流 KPI 導入効果
KPI の値から見て業績評価は、生産性の変移で判断ができます。つまり、KPI を継続的に取り
続けて長期間モニタリングする事で初めて発見できるという事です。例えば、在庫回転率なども標
準では直接管理をしていませんが、個々の品目単位ではなく全体的な物は、KPI の値を使って計
算する事もできます。
実際に3PL 事業者からの相談事例では、「稼動 6 ケ月で事業の収益が出てきたが、出荷の生産
性がその後 3 ケ月間で 30%近く低下してしまった。」という相談が有り。概要調査で以下の現象が
発見できました。①在庫品目数が増えて無い。②半年で在庫数が 40%近く増えている。という事
が解りました。荷主との契約では、倉庫スペースは支給。荷役費用は出荷個数の個建となってい
ました。倉庫の管理者は、毎月数%在庫が増えても問題の意識が全く無い状態でした。入庫時は
脚立で積増しに励み、パレットが置けなくなると、ネステイングラックをレンタル追加して荷主に請
求していました。出庫時も脚立を使って出庫し、出荷梱包場まで歩行(移動)。手間と歩行増加な
どで、生産性低下となった訳です。この事で、荷主に対して在庫の削減依頼をお願いし、荷役は
個建だったので単価の交渉をするしか無ありませんでした。荷主を説得するには物流 KPI の実態
値と、脚立運用時の負荷と歩行距離の測定して交渉をしました。相談から交渉までに 6 ケ月間掛
りました。更に、荷主から在庫削減が出来ないと知らせが入り、入荷作業も単価設定し、負荷に見
合う対価の支払う事が決まりました。稼動から 1 年掛けて荷主と合意形成がされました。
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この様に、負荷調査と評価に基づく物流 KPI の活用によって、荷主と 3PL 事業者が荷役負荷の
理解と単価の設定ができ、合意形成の為のツールとしての効果がありました。この裏には、日常
業務の中で KPI データ収集に負担を掛けない方法の樹立と、荷主負担が無い集計と管理の仕組
み構築が決めてとなりました。
物流 KPI 成功のカギは時間収集の自動化
物流 KPI は、継続的に取り続けていく事で、問題点を導く要素の変化を捉える事ができた説明を
しましたが、此処で大事なことは、生産性の視点である活動量(アクティビティー)は、簡単にとれ
るが、時間視点での活動時間収集は難しく、既定活動組織のタイムカード集計だったり、作業報
告書の仕訳や、管理者による按分が多く行われています。苦労するのは活動時間管理票への記
入と電子化です。この仕事は日々行われなくてはならず手間を取る事はこの上ない。やはり継続
的に活動時間を収集するには、デジタル時計がついたハンディーターミナルのお世話になるなる
事が望ましい。
物流 KPI の時間収集で一番難しいのは、物量の波動が大きい現場や、比較的に小規模な現場
の活動情報です。一人の人間が複数の仕事を受け持って作業を進める現場では、事務職の様に
データ収集を記憶に頼って按分するやり方が多い、此れを行っていると正確な活動時間が収集で
きず、異常値を報告する事があり、KPI は意味が無くなってしまいます。最近ではハンディーターミ
ナル以外の無線技術と IT 技術を使って、作業者の行動をトレースし、作業者の活動場所を特定す
る事で、リアルタイムに活動データを収集する事例があります。次表に、倉庫での活動時間収集
例をあげます。
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岡田誉司(Okada
Takashi)
位置特定による時間自動収集システム
作業者が物流作業をする特定エリアに対して作業者が圏内に入った、出た時間をトレースする
ことで、作業時間の収集を自動的に行う仕組みです。
上記断面図にある様に、作業者の腕に着けた腕時計ベルトに付いた「発信機」の信号を、作業
場の上部に取付けた「アンテナ」で検知し、中継器を介して PC に送って作業者の活動をトレースし
ます。「発信機」の小型化と適応範囲の拡張などで、今後の普及が期待されるでしょう。
KPI と IT の関係
KPI モニタリングに IT を活用することは、合理的な管理をする有効な手段とされています。大手
企業は ERP 基幹システムのデータウエハウスと BI(ビジネスインテリジェント)パッケージを使って
合理的なデータ収集、測定、分析、連携データ自動更新と配布に威力を発揮しています。
ERP や BI などが無い企業では、KPI を推進する事が負担となると思われがちですが、EXCEL と
メールを使った環境で、ルールとマニュアル整備によって事業運営の監視を行っている企業がたく
さん有ります。物流はというと、殆どの欧米国際物流事業者は、月次または週次で KPI 管理をして
います。その手法は、国の違いやインフラの違いがありますが、物流拠点・事業毎に「業務フロー
の可視化」と、「生産データ収集」し「分析と評価シミュレーションツール」※を使って BAM(ビジネス
アクティビティ・モニタリング)による負荷バランスや課題の発見を行っています。
※シミュレーションツールの問合せは、AZ Corporation Ltd.にお願いします。
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以上
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