中学校における言語活動の充実に向けた指導方法についての研究

中学校における言語活動の充実に向けた指導方法についての研究
平生町立平生中学校
1
教諭
加藤
薫子
研究の意図
(1) 言語能力に関する現状と課題
ア
生徒の言語能力についてのアンケートから
生徒の言語能力についての課題を把握するため、所属校の教師を対象にアンケートを実施
した。その結果、次のような課題が挙げられ、これらの課題が各教科等の目標達成にも影響
しているとの意見があった。
ご
い
・語彙力が不足している。
・鑑賞の場面で、感じたことをうまく表現できない。
・聞いているように見えても説明を正しく聞き取ることができず、イメージできない。
・話合い活動がうまくいかない。
・感想は言えるが、問題を分析して、自分の考えを発表することは苦手である。
・聞く力や読む力が足りないため、内容理解が難しい。
・文章題等の問題が読み取れないため、問題が解けない。 など
また 、考える力が十分でなく 、考えようとする意欲も低いことが挙げられている 。例えば 、
「自分で考え、自分の言葉で考察を書くのではなく、正解を待ち、考えずに答えを写して済
まそうとする 」、「難しい内容でなくても、ただ長文であるというだけで投げ出してしまう」
などの指摘から、考えようとする意欲や態度にも課題があると思われる。
イ
言語活動の充実とは
読む力や考える力、考える意欲に関する課題は、PISA調査(OECD
習状況調査(文部科学省
2003)や全国学力・学
平成19年)の結果等に見られる全国的な傾向と重なる。これらの
課題を解決するために言語能力を育成する必要があり、新学習指導要領(文部科学省
平成
20年)においても、各教科等において言語活動の充実が求められているところである。
本研究では、言語活動の充実を、生徒が感じていることや考えていること等、自らの内面
を表現し、更に話合いを通して自らの考えを深めることであるととらえる。したがって、単
に生徒が言語活動を行ったというだけでなく、言語活動を通して生徒が認識、理解及び思考
をより深めることができてはじめて、言語活動が充実したと考える。生徒にとって学びの高
てつ
まりのある言語活動が授業で行われたかどうかが重要であり 、「活動あって学びなし」の轍
を踏まないように心掛けなければならない。
言語活動を充実させるためには、生徒に意欲をもたせるとともに、生徒の主体的な取組を
引き出す必要がある。生徒の意欲を喚起し、自分の思いを表現したくなる、伝えたくなるよ
うな状況をつくらなければ、生徒の思いを表出させることは難しい。また、生徒が授業に主
体的に取り組むからこそ、話合いを通して友だちの思いに触れ、討論や意見交流を通して理
解や認識を深めることができるのである。こうして、言語活動を充実させることを通して、
生徒の言語能力が高まれば、各教科の学習も一層充実し、授業のねらいを十分に達成するこ
とにもつながると考える。
ウ
本研究における言語能力のとらえ方
ここで 、言語能力についてのとらえ方を明らかにしたい 。
「 言語力の育成方策について( 報
- 67 -
告書 )」(言語力育成協力者会議
平成19年)では、言語力(言語能力と同意)を「知識と経
験、論理的思考、感性・情緒等を基盤として、自らの考えを深め、他者とコミュニケーショ
ンを行うために言語を運用するのに必要な能力」としている。これに基づき、本研究では、
「話す力 」、「聞く力 」、「書く力 」、「読む力」に加え、生徒の言語能力についてのアンケー
ト結果も踏まえて、分析・評価し、筋道立てて考える「考える力 」、想像し、感じたことや
考えたことを言葉に置き換える「表す力」に焦点を当てることとした。
(2) 研究の仮説
以上のことを踏まえ 、「各教科等の授業において、生徒の主体的な取組を引き出し、言語活
動を充実させることで、言語能力を高めるとともに授業のねらいを達成することができる」と
仮説を設定し、研究を進めることとした。
2
研究の内容
(1) 各教科等における言語活動の充実に向けた指導方法の検討
各教科等における言語活動の充実に向けた指導方法について検討するに当たり、所属校教師
が行った実践事例のうち、言語活動が充実していると判断したものを取り上げて考察すること
とした。
ア
思考力・判断力・表現力等を育てる6つの学習活動例
表1 の①~⑥は、中央教育審議会答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援
学校の学習指導要領等の改善について 」(平成20年)に示された、思考力・判断力・表現力
等を育てるための6つの学習活動例である。言語活動が充実していると判断し、取り上げた
すべての実践事例に、この6つの学習活動例を当てはめて考えることができた。
表1
思考力・判断力・表現力等を育てる学習活動例
①体験から感じ取ったことを表現する(感受・表現 )。
②事実を正確に理解し伝達する(理解・伝達 )。
③概念・法則・意図などを解釈し、説明したり活用したりする(解釈・説明 )。
④情報を分析・評価し、論述する(評価・論述 )。
⑤課題について、構想を立てて実践し、評価・改善する(課題追究 )。
⑥互いの考えを伝え合い、自らの考えや集団の考えを発展させる(討論・協同 )。
※( )内の、活動内容を短くまとめた言葉は 、「言語力育成協力者会議第8回配付資料:言語力育成に
関する整理用一覧表 」(以下「一覧表 」)から引用。ただし、⑤は、一覧表に言葉がないため 、「課題追
究」と表す。
①、②は学習の基礎となる活動である。そして、これ
確かな理解が表現につながる
を踏まえた上で、段階的に生徒の判断や解釈を求め③、
振り返って修正し改善する④、⑤の学習へと高めていく
必要がある。さらに、⑥の討論・協同の活動を通して、
理解
生徒同士が様々な意見に触れて学び合い、高め合うこと
思考
表現
判断
も重要である。これらの6つの学習活動例により、言語
活動が充実した授業とするためには、理解したことを基
に考え、判断し、表現するということが必要である。ま
た、表現することで、考える力が身に付き、理解も確か
になると考える。 図1 は、その授業の形を示したもので
ある。
- 68 -
表現することで考える力が
身に付く
理解が確かになる
図1
言語活動が充実した授業の形
イ
実践事例の分析
表2 は、所属校教師が平成19年度に行った実践事例のうち、言語活動が充実していると考えら
れるものを取り上げ、 ア で考察したことを基に分析したものである。
表2
例
1 英語
所属校教師による実践事例(平成19年度実施分)
一般動詞を使って尋ねてみよう
②理解・伝達
⑥討論・協同
“ Do you play / like / have / eat ~ ? ” の表現を使って質問をしたり、その質問を聞き取った
りして、 “ Yes,I do. / No,I don't. ” で正しく答える練習をさせた ② 。ペアで10の質問をしたり、答
内 容 えたりとクイックレスポンス練習をさせた。また、生徒に絵を描いたカードを2枚持たせ、出会った
友だちにカードを見せ、 “Do you ~ ? ” の質問をし、6人と会話させた ⑥。さらに “Do you ~ ? ” の
表現を使い、ALTが “ Yes” と答える質問と “ No” と答える質問を3つずつ考えさせた。文型を理解させた
後、文型を使って伝え合わせた②⑥ 。
生徒が話したくなる状況を設定し 、ゲーム感覚で楽しませることを通して、生徒に表現を学ばせた。
手だて 人間関係づくりの手法も取り入れ、多くの友だちとコミュニケーションを行わせた。
成
果
例
2 国語
基本文型を確実に習得させることで、基礎学力も向上した。
俳句の表現を楽しむ
句会
①感受・表現
③解釈・説明
⑥討論・協同
感じたことを俳句に表現させ①、句会を行った⑥。共感できる俳句を選び、批評させることで ③、
内 容 言語感覚を磨き、表現力を高めた
①。
四季ごとに教室を出て、景色を見て季節のうつろいをとらえ、句作を行う学習を積み重ね、句作に
手だて 意欲をもたせた。また、句会だけでなく、作品を掲示し、互いに鑑賞し合う機会を設け、表現方法も
工夫させていた。
継続して句作を行ったことで表現が磨かれた。「どこが、どう、いいと思うのか」を、自分なりの
成 果 言葉で伝え合うという学合いが、互いの表現力を高めることにつながった。
例
3 理科
電流の働きを調べよう
③解釈・説明
④評価・論述
⑤課題追究
⑥討論・協同
14Wと6W及びW数が不明な電熱線に、5Vの電圧を加えて電流を流し、電流を流す時間と水温の
関係、W数(電力)と発熱量の関係を調べる実験をさせた ⑤ 。班ごとに実験装置を選ばせ、班内で実
内 容 験方法について意見交換をさせた ⑥ 。実験では、結果を予想させて見通す力を付けるとともに、予想
と実験結果とを比較し 、考察させた③④ 。なぜそう考えたのか理由を確認するとともに 、考えを評価 、
改善させるように意図した ④⑤。
W数の分からない電熱線も含めて、W数と水の量を選択させるとともに、自作の実験装置を使わせ
ることで、主体的な取組を引き出そうとした。班ごとに実験装置を選択させ、実験方法についての各
手だて 自の判断を求める場面を設定することにより
、生徒一人ひとりの意見を表出させ、活発に話し合わせ、
主体的に実験に取り組ませた。
成 果 教合いや協力の姿勢も育ち、理科学習への意欲を育てることにもつながった。
例
4 音楽
豊かな合唱表現(聴かせどころの追究)①感受・表現
⑤課題追究
⑥討論・協同
「卒業生を送る会」の合唱曲の練習を通して、卒業生への感謝の気持ちを歌で伝えさせた ① 。より
内 容 美しい音楽表現をめざし ⑤ 、話し合うことを通して楽曲分析させ ⑥ 、曲の理解を深めさせた。生徒は
録音した自分たちの合唱を分析・評価し⑤、 表現に生かした① 。
パート別に練習を自主的に行い、生徒同士が自分の考えをもってかかわり合うことができるように
手だて 指導を積み重ねていた。自分たちの演奏を客観的に聴き、評価、修正して更に追究させた。
成 果 生徒はより一層曲に魅力を感じるようになり、歌声に響きが増してきた。
例
5 特別活動
流れ星(人間関係づくりAFPY)
⑤課題追究
⑥討論・協同
バスケットボールにバレーボールを当てて、自分の陣地にあるバスケットボールが少なければ勝ち
内 容 というルールでゲームを行わせた。活動を通してグループ内のそれぞれの役割分担の大切さに気付か
せ、目的を達成するために、それぞれの役割を果たそうとする意識を高めた。積極的に意見交換させ
るとともに、活動を振り返らせ、考えを深めさせた⑤⑥ 。
グループでボールゲームをさせ、話合いをしなければ乗り越えられないプログラムを設定した。活
手だて 動を振り返り、言葉にして表すことで、考えを深めさせるとともに、協力することの大切さを意識さ
せた。
継続的に活動させることで、積極的に意見を言う生徒や、他の人の意見に耳を傾ける生徒が増えて
成 果 きた。
例
6 道徳
「兄をどうする?」(モラルジレンマ)
内
③⑤⑥。「生命の尊重
容 押しのけて兄を医者に診せた妹の行動について賛成か反対かを問い、討論させた
・家族愛」と「社会秩序・公正公平」との価値の間で生じる葛藤(かっとう)を通して、より高次の
③解釈・説明
⑤課題追究
⑥討論・協同
地震で倒壊した建物の下から救出された兄を救うため、うそをついて診察の順番を変え、他の人を
道徳的思考に到達し、主体的な判断ができるようになることを意図した。
価値葛藤(かっとう)の場面を仕組んだ。立場を明確にする氏名札を黒板に貼らせ、討論させた。
手だて グループ討議も取り入れ、友だちの思いを受け止めさせた。
人の意見に耳を傾け、互いに意見を言い合う中で、生徒の道徳的判断力が高まった。生徒の言語能
成 果 力が高まり、相手の思いを受け止める態度が育った。
※文章中の①~⑥は、 表1 の思考力・判断力・表現力等を育てるための6つの学習活動例である。
- 69 -
言語活動が充実していると判断し、取り上げた実践事例の共通点として、次の3点が確認で
きた。
○生徒が主体的に授業に取り組み、深く考えるとともに、それぞれの思いを表現したくなる
ような手だてがあること。
○生徒同士が、互いに自分の考えをもってかかわり合い、意見交流をして高め合っていること。
○それぞれの授業で、振り返り、評価し、修正して、更に学習を進めていること。
実践事例はすべて、生徒が自分の内面を表現することで、更に理解を深めている様子がうか
がえた。また、どの実践事例も活発に話合いが行われており、互いの意見交流を通して、考え
を深めていた。
さらに、実践事例に、思考力・判断力・表現力等を育てるための6つの学習活動例を当ては
めてみると、実践事例はすべて⑥の活動が行われるとともに、①~⑤の学習活動例が効果的に
行われていることが分かった。
例えば、理科の実践事例は、生徒の科学的な思考力を高めるとともに、生徒の言語能力も高
める授業となっていた。班内での意見交換⑥を通して、課題を見出し、実験を計画・実施する
学習活動⑤、実験の結果を分析し、解釈する学習活動③、科学的な概念を用いて考えたり、説
明したりするなどの学習活動④が行われていた 。この授業を通して 、事象や実験結果を比較し 、
関連付けて考える力や、概念・法則を活用して考える力が身に付くと考える。
このように実践事例を分析する中で、特に④「評価・論述」の活動が重要であることに気付
いた。思考力・判断力・表現力等を育てるためには、生徒に振り返り、評価させるとともに、
自分の考えをまとめて論述する力を付けることが不可欠である 。そのためにも 、授業において 、
「 考える力 」や 、考えをまとめ 、広げ 、深めようとする意欲や態度を育てることが肝要である 。
したがって、国語科においても 、「考える力」や「書く力」等、他教科との関連を意識して各
教科等の学習を支える言語能力を高めていくという視点で授業を考える必要があると考える。
ウ
学習活動例の有効性
表2 の「成果」は、授業実践した教師の授業後の考察からまとめたものである。授業実践し
た教師は、授業後の考察の中で、教科の学習が充実し、教科の目標を達成するとともに、生徒
の意欲や言語能力が高まったことを挙げている。したがって、この6つの学習活動例を基に授
業を構想することは、言語活動の充実に向けた有効な手だてとなりうると考える。
(2) 言語能力育成を図る国語科での授業実践
実践事例の分析・考察を基に、国語科と他教科との連携を図って、生徒の言語能力の育成をめ
ざし、授業実践を行った。
ア
授業を構想するに当たっての留意点
授業を構想するに当たっては、次の3点に留意した。
○所属校教師を対象としたアンケートで、課題として挙げられた生徒の言語能力を高める
ことをめざす。
○実践事例の分析結果を基に、言語活動の充実をめざし、6つの学習活動例に当てはめて
授業を考える。
○学習活動例④「評価・論述」の活動を必ず取り入れる。
言語活動の充実を図るため、生徒の主体的な取組を引き出すとともに、 表1 の学習活動例を
当てはめて2つの授業実践を構想した( 表3)。
- 70 -
表3
題
材
活動例
授業実践1
授業実践2
「推論する 」(判断推理問題)
「鑑賞文を書こう『竹林の小道 』」
②理解・伝達 ③解釈・説明 ④評価・論述
⑥討論・協同
①感受・表現 ③解釈・説明 ④評価・論述
⑥討論・協同
課
題
読む力や考える力が十分でない
考えようとする意欲が低い
感じたことをうまく表現できない
関
連
論理的な思考力を育てる教科
感性・情緒等を育む教科
数
連携教科
学
科
美
術
科
数学科教師の補助、複数教師による指導
指導の関連性を考えた単元構成
クイズ形式の文章題(判断推理問題)を読
み取り 、数学的な考え方を用いて解かせる ② 。
解き方を友だちに説明させることを通して推
論し ③④⑥ 、筋道を立てて考え、説明する力
を身に付けさせる。
美術科教科書の中学生風景画作品「竹林の小
道」を鑑賞させ、生徒が感じたことを引き出す
① 。さらに、鑑賞の視点や鑑賞文の書き方のポ
イントを理解させ、鑑賞文を書かせる ③④ 。絵
から感じたことを意見交流するとともにでき上
がった作品を相互批評させる ⑥ 。
クイズ形式の判断推理問題を教材とするこ
とで、意欲を喚起する。4種類の問題を準備
する。
生徒が感じたことを引き出し、それぞれの感
じ方に自信をもたせる。良さを認め合う場面を
設定する。
発 展
数 学 科 「 図 形 の 性 質 と 合 同 『 証 明 』」 に つ な
( 他教科 ) がる。
美術科「風景画制作『生命を見つける 』」につな
がる。
連携形態
内
容
手だて
イ
他教科と連携した2つの授業実践の概要
授業実践1
(ア) 授業の意図
授業実践1は、国語科と論理的な思考力を高める教
科である数学科との関連を考えたもので、数学科教師
の補助により、国語科教師が指導に当たった(図2)。
また、この授業を、数学科の「根拠に基づき筋道を
立てて結論を導く証明の学習」と、国語科の「論理
の展開の仕方を吟味しながら論説文を読む学習」の
導入として位置付けた。
所属校教師を対象とした「生徒の言葉や言語能力
図2
複数教師による授業の様子
に関するアンケート」において挙げられた 、「読む力や考える力が十分でなく、考えようとす
る意欲が低い」という課題の解決をめざし、分析・評価し、筋道を立てて考える「考える力」
や、文章題を読み取る「読む力」を付けることをねらいとした。
言語活動を充実させるため、次の4つの学習活動例を授業に取り入れた。
②内容を正確に理解し、伝達する(理解・伝達 )。
③解釈したことを説明する(解釈・説明 )。
④情報を分析し、筋道を立てて述べる(評価・論述 )。
⑥互いの考えを伝え合い、自らの考えや集団の考えを発展させる(討論・協同 )。
さらに、学ぶ意欲を喚起するために、判断推理問題を授業で取り上げることとした。判断推
理問題とは、数学的な考え方や推論の方法を用いて解く、クイズ形式の文章題である。この授
業では、数学的な推論の意味及び推論方法を理解させるとともに、論理的に表現し、考察する
能力を養うことをめざして、数学科と国語科との教科の関連する部分を教材として扱った。授
- 71 -
業で使った問題は、数学科の教師と協議し、数学検定問題、初級公務員試験判断推理問題等を参考
に作成した( 表4 )。
表4
問題例1
(学習指導案
授業で使った問題例
学習内容3
①)
昔、ある国に大変頭の良い兄弟がいました。ある日、王様が兄弟をお城に呼んで、こんな問題を出し
ました。
「ここに赤い帽子が1つと白い帽子が2つある。今からお前たちは目隠しをされ、帽子を1つずつか
ぶらされる。その後で目隠しを取って、自分の帽子の色を当てるのじゃ。ただし、見えるのは相手の帽
子の色だけで、相手に帽子の色を教えてはもちろんいけない 。」
そして、王様は2人に両方とも白い帽子をかぶせました。目隠しを取った2人は、少し考えて、2人
同時に「わたしがかぶっているのは白い帽子です!」と答えました。
どうして、2人は自分のかぶっている帽子の色が分かったのでしょう。
ヒント
すぐには答えられなかったんだよね。
目隠しを取った2人が 、「 少し考えて 」答えたんだよね。
問題例2
(学習指導案
学習内容3
相手の帽子が、赤の場合と白の場合
と場合分けして考えるとできる問題。
比較的易しい問題。
③)
あい、まい、ゆみ、あみの4人は、クリスマスにプレゼント交換を
しました。4人はそれぞれプレゼントを1つずつ持ってきました。
それらは次の4つです。
キティちゃんシャープペンシル
ミッキーぬいぐるみ
リラックマ キーホールダー
ミニーポーチ
文章題の読取りが苦手な生徒
は、要らない情報に惑わされてし
まうとの数学科教師の指摘によ
り 、情報量を増やして問題を作成 。
情報を整理し、単純化して、筋
道立てて考えさせるように意図し
た問題。
次の4人の話から、4人が持ってきたプレゼントは何か答えなさい。
あい
まい
ゆみ
あみ
「自分の持ってきた物をもらった人はいないよね。それから、わたしもまいも持ってきた
プレゼントはシャープペンシルでもキーホールダーでもないよ 。」
「ミニーポーチをもらったのは、あみではないよ 。」
「わたしはキティちゃんシャープペンシルをもらったよ 。」
「ミッキーぬいぐるみをもらったのは、わたしでもあいでもないよ 。」
ヒント
数学の先生からヒント!
要らない情報は捨てて、情報を単純化して考えるといいよ。表にしてみよう。
まず、あみが何を持ってきたかを考えるといいかも。
答え
4人が 持ってきた プレゼントは、
あい
問題例3
まい
(学習指導案
ゆみ
学習内容3
あみ
④)
太郎、次郎、三郎、史郎、吾郎の5人の兄弟は、サイズは違うが形は同じ帽子を持っている。
サイズの一番大きなのは太郎で、以下次郎、三郎、史郎、吾郎の順になっている。
ある朝、全員が自分のサイズと違う帽子をかぶった。次郎、三郎、吾郎は自分のより大きい帽子を
かぶっていたが、太郎、三郎は自分のサイズより小さい帽子をかぶった。また、吾郎は三郎の帽子を
かぶっていた。
このとき確実に言えるのは、次のうちどれか。
①史郎は次郎の帽子をかぶった。
②太郎は史郎の帽子をかぶった。
③三郎は吾郎の帽子をかぶった。
④三郎は史郎の帽子をかぶった。
⑤史郎は太郎の帽子をかぶった。
○
△
△
△
×
答えは
ヒント
関係を整理してみよう。
- 72 -
大きさの関係を整理して表すと理解
できる問題。条件を読み落とさないよ
うに注意させる。
太郎、三郎は、史郎か吾郎の帽子を
かぶることになるが、どちらがどの帽
子をかぶったか分からない 。「確実に言
える」条件にあったものを選択させる。
(イ) 授業の実際
a
b
c
教材名 「推論する 」(判断推理問題)
実施学年 2年
本時のねらい
推理方法を使って判断推理問題を解き、その解き方を友だちに説明することを通して、筋道
を立てて考える力を身に付ける。
d
学習過程
1
学 習 内 容 ・ 活 動
指 導 上 の 留 意 点
判断推理問題について考える。
1 判断推理問題を提示して考えさせる。
( 一斉 ) 学習プリントを配り、問題を解かせる。
○ T1(国語科)は全体説明、進行、支援
T2(数学科)は補助や個別支援
隆浩君、充孝君、良和君の3人の中学生は、野球部、サッカー部、剣道部に入っている。
3人は入っている部も学年もそれぞれ異なっている。
・隆浩君は3年生ではない。
・充孝君はサッカー部に入っていない。
・良和君は剣道部に入っている。 ・野球部に入っているのは2年生である。
以上のことから言えることとして正しいのはどれか。
①隆浩君は1年生である。
②剣道部に入っているのは1年生である。
③サッカー部に入っているのは3年生である。
○
少し考えさせ、解答できない生徒にはヒントを
与える(T2 )。
・関係を整理して、メモすること。
・3人の所属する部活動から考えること。
○ 生徒に問題の解き方を説明させる。
考えるためのポイントを押さえる。
2
推論するために必要なことを理解 2 問題を解く過程を振り返らせ、推論するため
する 。
( 一斉 ) に必要なことを確認する(T1 )。
・情報を整理する。
○ 推論が各教科の学習や生活に生きることを確認
・場合分けして考える。
する。
・順序良く考える。
数学科の立場から(T2)
・根拠を明確にする。
国語科の立場から(T1)
○ 推論は誤りやすいものであるので、情報を吟味
し、推論の誤りを発見することも重要であること
を確認する。
3
判断推理問題について考える。
3 3~4人班で問題を解かせる 。課題については 、
( 個→小集団 ) 種類や難易度の違う問題を用意し、まずは自分の
①王様の帽子問題
力で解かせる。
②カップの中身当てクイズの問題
○ 協力して問題を解かせ、互いに教え合わせる。
(佐藤雅彦氏著『プチ哲学』から)
班員全員が理解したら、教師に知らせるよう指示
③プレゼント交換の問題
する。その際、班で最低1つは問題の解き方を理
④兄弟の帽子問題
解し、班員全員が説明できるようにしておくよう
指示する。
○ 机間指導を行う(T1・T2 )。
4
問題の解き方の説明をする。
4 班員が全員理解できたら、解き方を説明する文
( 小集団 ) 章を書かせる。ほかの班に解き方がよく分かるも
のにするよう指示する。
◇
5
問題の解説をする 。
( 一斉 ) 5
判断推理問題の解き方を、筋道立てて説明す
ることができたか。
代表班に、班で考えた解法を全体の場で発表さ
せる 。すべての班に解説させることは難しいので 、
班で作成した解答を教室に掲示して発表すること
を伝える。
- 73 -
(ウ) 授業実践後の考察
生徒は、大変意欲的に学習に取り組んだ。予想以上に問題への関心が高く、集中して考えてい
た 。班での活動も活発で 、全員が分かり合ったときには 、ハイタッチをして喜び合う班もあった 。
また、授業後 、「今までこんなに考えたことはなかった 」、「考えすぎて頭が痛くなった 」、「家族
にも問題を出したい」と、話しに来る生徒がおり、生徒の様子からも、生徒の意欲や主体的な取
組を引き出すことができたと考える。
授業の検証は、授業後の生徒の自己評価と感想及び参観者の感想( 図3 )を通して行った。
「推論する」 授業後の生徒の 自己評価
できた
できた
意欲的に授業に取り組んだか
96%
96 %
しっかり考えることができたか
1 0100%
0%
問題文を正確に読み取ることができたか
84%
84%
解き方を友だちに分かりやすく説明することができたか
56%
56%
友だちと協力して、問題を解くことができたか
8 80%
0%
0% 10% 20% 30% 40% 50%
50% 60% 70% 80% 90% 100%
100%
0%
とても
生徒の
感想
参観者の
感想
まあまあ
あまり
全然
・興味深い内容で本当にあっという間だった 。脳が活性化され 、分かったときは気分が良かった 。
・すごく頭を使った。解けるまでモヤモヤしていたけれど、解けたときのスッキリする気持ちが
良かった。
・推理するのは難しかったけど面白かった。解き方が分かると人に伝えたくなった。
・しっかり考えることができた。自分の意見とみんなの意見をぶつけ合って納得することができた。
・自分一人ではできなかったところを友だちに教えてもらったり、一緒に考えたりできたので、
よりよく頑張れた。
・文章を表や図に表して問題を読み取った 。大切なところだけを抜き出す力を付けたいと思った 。
・問題文を何度も音読し、大事なところを読み取ることができた。
・自分で分かっていても、相手に伝えることができなかった。
・頭で分かっていても言葉で説明するのは難しかった。
・言葉で説明できても、解答例を書くのは難しかった。
・とても楽しかった。今日勉強したことをほかの教科でも生かしたい。考えることはとても大切
だと思った。
・問題への関心が高く 、熱心に話し合い 、答えを導き出そうとする姿がとてもほほ笑ましかった 。
・問題文に線を引いたり、表を作ったりと考える上で必要なことを用いながら考えていた 。「考
える」という部分に焦点を絞ってあったので、とても良かったと思った。
・考えることを投げ出してしまう生徒たちに 、考える楽しさを伝えていくことが大切だと思った 。
図3
授業実践1の生徒の自己評価と感想及び参観者感想
生徒の自己評価によると 、「意欲的に取り組んだか」の項目については 、「とても 」、「まあま
あ」を選び 、「できた」と答えた者が、96 %である。同様に、授業のねらいである「筋道を立て
てしっかり考えることができたか」の項目については全員が 、「問題文を正確に読み取ることが
できたか」については84 %が 、「できた」と答えている。これらのことから、生徒は筋道を立て
て考え、意欲的に学習に取り組んでいたと考える。また、生徒の感想からは、考え抜いたことに
よる達成感や、友だちとともに学ぶ喜びを感じていることが読み取れた。さらに、参観者の感想
からも 、生徒の主体的な取組を引き出し 、言語活動を充実させることができたと考える 。したがっ
て、言語活動を充実させることで、授業のねらいである言語能力「考える力」を身に付けること
については達成できたと考える。
しかし 、「解き方を友だちに分かりやすく説明することができたか」については 、「できた」
- 74 -
と答えた生徒が56 %にとどまっており、生徒は自分では理解したつもりでも、相手に説明し、
伝えようとしても伝わらず、相手に分かりやすく説明することの難しさを感じている。このよ
うに、筋道を立てて、相手に分かりやすく伝えることや論述することについては、課題が残る
ため、今後継続して指導する必要があると考える。生徒の課題意識が高まったところで、更に
振り返り、評価・改善する活動を取り入れて学習を発展させ、この課題を克服していきたい。
ウ
授業実践2
(ア) 授業の意図
授業実践2は、感性や情緒等を育む教科との関連を考え、美術科と連携した「鑑賞文を書こ
う」の授業である。アンケートの「鑑賞の場面で、感じたことをうまく表現できない」という
課題から 、感じたことを言葉に置き換えて表現する「 表す力 」を付けることをめざした 。また 、
鑑賞の視点や鑑賞文の書き方を理解した上で、感じたことを鑑賞文にまとめる「書く力」を付
けることもねらいとした。
芸術作品の鑑賞に取り組むということで、構想の段階から、美術科のみならず音楽科の教師
にも協力を得ることができた。教材としては、生徒が使っている教科書『美術2・3上 』(日
本文教出版
平成18年)掲載の風景画「竹林の小道 」(生徒作品)を取り上げた。
「竹林の小道」は、柔らかな色彩で描かれた水彩画で、明るい日差しと光に包まれた作品で
ある。遠近法が用いられ、竹林がずっと奥まで続いている。単に風景を写したのではなく、作
者の思いを象徴していると感じ取れる作品で、鑑賞する者の様々な思いや感じ方を引き出すこ
とができる作品である。また、中学生の作品でもあり、生徒は親しみをもって鑑賞するのでは
ないかと考えた。
生徒の主体的な取組を引き出すために、自分の感じ方に自信をもたせるとともに、意見交換
させ、鑑賞文を相互批評させるなど、互いの良さを認め合う場面を設定した。
言語活動を充実させるため、次の4つの学習活動例を授業に取り入れた。
①感じ取ったことを言葉に置き換え表現する(理解・伝達 )。
③風景画に込められた作者の意図を解釈し、説明する(解釈・説明 )。
④鑑賞の視点を生かして、鑑賞文を書く(評価・論述 )。
⑥互いの考えを伝え合い、自らの考えや集団の考えを発展させる(討論・協同 )。
(イ) 授業の実際
a
教材名
「鑑賞文を書こう」
b
実施学年
c
本時のねらい
2年
・感じたことを言葉に表し、友だちの言葉に触れて、自分の言葉を豊かにする。
・鑑賞の視点や鑑賞文の書き方のポイントを知り、自分の表現に生かして鑑賞文を書くこと
ができる。
d
学習過程
学
1
習
内
容
・
活
動
指
導
上
の
留
意
点
1枚の絵「竹林の小道 」(美術科教科書掲 1 感じたことを単語や文章でプリントに記入
載、中学生作品)を見て、感じたことを言葉
させた上で、発表させる。
に表す 。
( 個→全体 )
○ プリントへの記入が十分でない場合は次の
- 75 -
( 絵について )
ような観点を示し、言葉を引き出す。
・竹林がどこまでも続いている。奥行きがある。
・写真のように葉先まで丁寧に描かれている。
・緑を基調として優しい色調の作品である。
・竹林の中を通る小道は凸凹であり、決して平たんで
はない。微妙な色の変化がある。
・光や影がうまく表現され、季節や時間帯も分かるよ
うな気がする。
・竹の質感がうまく表現されている。
( 自分の感じ方について )
・明るく暖かい感じがする。
・すがすがしく涼しい感じがする。
・吸い込まれるような感じがする。
・和やかでいやされる。
・鳥のさえずりや風に揺れるささの音が聞こえる。
・竹林の先には 、明るい光が差していて希望がもてる 。
・未来へと続く道で、明日が待っている。
2
・好きか嫌いか。
・季節はいつか。
・時間帯はいつか。 ・水彩画か油絵か。
・ 作者はこの景色をどう思っているのか。
・この絵を見てまねたい点があるか。
○
鑑賞では、感じ方や表現は自由であること
を確認し、自分の感じ方に自信をもたせ、思
いを自由に表すことができるようにさせる。
○生徒の反応を次の観点で整理して板書する。
・絵について気付いたこと。
・自分の感じ方について気付いたこと。
○
作者は、技法を用いて自分の思いを表現し
ていることを確認する。良い風景画は単に風
景を写し取っただけではなく、作者の思いが
表現されたものであるという美術科教師の言
葉を紹介する。
鑑賞の仕方や鑑賞文の書き方について理解 2 1の学習を踏まえ、学習プリントで鑑賞の
する 。
( 全体 ) ポイントや鑑賞文の書き方のポイントについ
・表す言葉
て説明し、理解させる。
・作品を見る視点・観点
○ 作品世界に入り込んで豊かに想像すること
・豊かに表現するための技法
が大切であることを押さえる。
ひ
描写
ゆ
比喩表現
擬声語・擬態語
3
鑑賞文例から、鑑賞文の書き方のポイント 3 鑑賞文例を示し、鑑賞のポイントに当ては
を確認する 。
( 全体 ) めて考えさせ、鑑賞文の書き方の参考にさせ
・作品の印象・良さ
る。
・技法や構成から引き出された世界
○ あくまでも一例であって、生徒の感じ方を
・作品に込められた作者の思い
否定したり、強制したりするものではない。
・五感を働かせて想像
感じ方や表現は自由であることや、自分の感
・作品から受けた自分の感じ方を大切にする
じ方を大切にすることを確認する。
こと。
4 鑑賞文を書く 。
( 個 ) 4 プリントを参考にしながら、自分の感じ方
・解説文
を、言葉に表し、鑑賞文にまとめさせる。
・紹介文
書き方に戸惑う者がいる場合は、表現形式
・作者への手紙
を例示する。
・自分への手紙
○ 鑑賞文を書き終えた者は、プリントの評価
の観点に沿って自己評価させる。
5
鑑賞文を相互批評する 。
6
鑑賞文を紹介し合う 。
( 小集団 ) 5
必ずコメントを記入させるとともに、意見
交換をさせる。
( 全体 ) 6
班内で相互批評後、班代表の鑑賞文を紹介
させる。
◇
鑑賞文例を参考に、鑑賞文の書き方のポ
イントを押さえて、鑑賞文を書くことがで
きたか。
(ウ) 授業実践後の考察
生徒は、友だちの発言を聞いてイメージを膨らませ、五感を働かせて作品を鑑賞した。鑑賞
の場面では、生徒から上記の学習指導案に示したような内容の発言があり、生徒は絵から感じ
たことを言葉に置き換えて表すことができていた。また、真剣に学習に取り組む生徒の様子や
発言から、授業に主体的に取り組んだことが判断できた。さらに、提出された鑑賞文では、ほ
とんどの生徒が鑑賞の視点( 図5 )を生かし、それぞれの思いを言葉で表しており( 図6)、
生徒は自分の感じ方に自信をもつとともに、友だちと高め合うことができたと考える。
- 76 -
図5
鑑賞の視点、書き方プリント
図6
生徒の鑑賞文の例
授業の検証は、授業後の生徒の自己評価と感想( 図7 )並びに生徒の鑑賞文で行った。これら
の結果から、授業のねらいはほぼ達成できたのではないかと考える。
できた
「鑑 賞 文 を書 こ う」 授 業 後 の 生 徒 の 自 己 評 価
意欲 的 に 授 業 に取 り 組 んだ か
9977%%
鑑賞 の 仕 方 や鑑 賞 文 の 書 き方 に つ いて 理 解 で きた か
9966%%
鑑 賞 の 視 点 を生 か し 、作 品 か ら 感 じ た こ と や 思 っ た
こ とを 言 葉 に して 鑑 賞 文 が 書 け た か
8888%%
00%
%
10 %
とて も
生徒の
感想
2 0%
3 0%
4 0%
まあまあ
550%
0% 60 %
70 %
あまり
80 %
90 % 1 100%
00%
全然
・素直に心に感じ取ったことを、自由に言葉で表現するのは楽しかったし、面白かった。
・人によって感じ方が違うので、人の意見を聞くと、考えが広がり、イメージも膨らんだ。
・心を込めて絵を描くことの大切さが分かった。絵を見て、描いたときの作者の気持ちや思いが
伝わるような気がした。今までよりも深く鑑賞できるようになった。
・絵を鑑賞して表現することで 、絵の世界に深く入ることができ 、絵画に対する興味が深まった 。
・鑑賞文の表現の仕方が難しかったけど、自分ではよく書けたと思う。
・みんなの考え方がよく分かってよかった。みんな鑑賞文に良いことを書いていてすごかった。
図7
授業実践2の生徒の自己評価及び感想
(3) 2つの授業実践を通しての考察
研究仮説「各教科等の授業において、生徒の主体的な取組を引き出し、言語活動を充実させる
ことで、言語能力を高めるとともに授業のねらいを達成することができる」の検証を、2つの授
業実践を通して行った。授業実践1、2とも、授業中の生徒の学習への取組の様子や、授業後の
生徒の自己評価と感想及び参観者の感想により、生徒の主体的な取組を引き出し、言語活動を充
実させることができたと考える。また、言語能力を高めるとともに授業のねらいを達成できたか
どうかについては、生徒の自己評価で検証した。授業実践1では 、「筋道を立ててしっかり考え
ることができた」100 %、「問題文を正確に読み取ることができた」84 %、授業実践2では 、「鑑
賞の視点を生かして 、作品から感じ取ったことや思ったことを言葉にして 、鑑賞文が書けた 」88%
であったことから、ほぼ達成できたと考える。
しかし、生徒自身も相手に分かりやすく説明することや、書くことの難しさを感じており、論
述する力である「話す力」や「書く力」については、課題が残る。分かりやすく説明したい、書
- 77 -
き表したいという生徒の思いを受けて、これからも継続して指導する必要がある。生徒が学習
を振り返り、生徒の課題意識が高まったところで、課題の解決に向けて学習を進めていけば、
生徒の言語能力も効果的に高めることができると感じているところである。
3
まとめと今後の課題
(1) 研究のまとめ
本研究では、生徒の言語能力についての課題を解決するために、各教科等における言語活動
の充実に向けた指導方法を考えた。まず、各教科等の授業において、言語活動を充実させると
はどういうことであるか考察し、実践事例の分析を通して、思考力・判断力・表現力等を育て
る6つの学習活動例を基に授業を構想することが有効であることを確認した。次に、授業実践
では、生徒の意欲や主体的な取組を引き出し、6つの学習活動例を基に言語活動を充実させる
ことによって、生徒の言語能力を高めることができることを検証した。
また、今回の研究を通して、国語科と他教科とが連携し、言語能力を高める指導を行うこと
により、各教科等の学習を一層充実させることもできたのではないかと感じている。授業実践
に当たって、連携した数学科と美術科の教師から、今回の取組がそれぞれの教科のねらいを達
成する上で有効であるとの感想を得た。さらに、美術科の教師からは 、「風景画制作『生命を
見つける 』」にこの学習を生かしたいとの意向を受けた。授業の参観者からも 、「国語科と他
教科との重なりの部分をもっと意識していく必要があることを強く感じた。教科の枠組みを超
えて、新しい授業づくりに挑戦しなければならないと思った」という感想があり、国語科と他
教科とが連携して生徒の言語能力を高める取組が評価された。
今回の授業実践を通して、他教科と連携することで、生徒の学びが広がり、深まることを実
感している。教科間連携には難しい点もあるが、他教科との重なりの部分を意識し、連携を深
めることで、生徒の言語能力や学力を効果的に高めることができるのではないかと考える。
(2) 今後の課題
各教科等で言語活動の充実が求められる中、各教科等の学習を支える言語能力の育成をめざ
して、今後も国語科の授業改善に努めたい。特に、論理的に思考し表現する能力、評価・論述
の活動を行うための言語能力を育てるため、批評、論述、討論等の活動を取り入れ、言語活動
のより一層の充実を図りたいと考えている。また、引き続き他教科との連携の可能性を探り、
他教科と連携を深めることで、言語活動を充実させる指導方法についての提案を続けていきたい。
【引用文献】
言語力育成協力者会議 、『言語力の育成方策について(報告書 )』、2007、p1
中央教育審議会 、『幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について
(答申 )』、2008、p25
言語力育成協力者会議 、『言語力の育成に関する整理用一覧表(修正案:反映版 )』、2007
【参考文献】
文部科学省 、『中学校学習指導要領 』、2008
文部科学省 、『読解力向上に関する指導資料~PISA調査(読解力)の結果分析と改善の方向~ 』、2005
文化審議会 、『これからの時代に求められる国語力について(答申 )』、2004
山口県検証改善委員会 、『平成19年度
全国学力・学習状況調査(報告書 )』、2008
佐賀大学文化教育学部附属中学校 、『研究紀要
第24号
学びに培い,自己表現を育む国語力の研究 』、2005
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