賃貸借契約の解約条項 - 相続税評価,支援事業,の事なら,東昭

平成 27 年 6 月
事務所便り 第 86 号
~賃貸借契約の解約条項~
ある事業者がビルのワンフロアーを賃借しているとする。このところ景気が良くなり
スタッフも増えてきたため、オフィスの移転・拡張を考えた。賃貸借契約を解約するに
は、概ね 3 か月前に賃貸人に申し入れなければならないのが一般的だ。念のため賃貸借
契約書を確認してみたところ、解約する場合の条項が存在しない。さて、この事業者は、
賃貸借契約を解約できるだろうか。
実は、この事業者すなわち賃借人は、賃貸借契約を解約することができないのである。
尤も、賃貸人が承諾すれば解約できるが、賃借人から一方的に解約することはできない
のである。賃借人は、いくら従業員が増えようとも狭いスペースをやり繰りしながら使
い続けるか、あるいは明け渡して広いオフィスに移転したとしても、元のビルの賃料を
支払い続けなければならないという苛酷な状況に置かれるのである。もし、それがオフ
ィスの拡張ではなく業績悪化に伴う縮小であったなら、賃借人は賃料の支払いのために
倒産してしまうかもしれないだろう。
契約期間が定められた賃貸借契約は、その期間内は解約できないのが原則である(床
面積<200 ㎡の居住用の定期借家の場合は例外あり)。一般的にいわれている事務所な
らば 3 か月前、居住用なら 1 か月前までの解約予告というのは、その賃貸借契約にその
旨取り決められている場合に限って成立するのである。したがって、賃貸借契約を締結
しようとするときは、その辺りをよく確認しないと取り返しがつかない状況に陥る危険
性があるといえるだろう。そこで、宅建業者には、賃貸借契約の成立前に、契約解除に
関する事項の説明義務が課せられているのである。
このように解約条項の存在しない賃貸借契約は、時として、賃借人に残酷な結果をも
たらす訳であるが、賃貸人にとっては、一定期間収益が安定するメリットがある。取り
分け、昨今の空室対策に腐心しなければならない状況下では、その効果はより大きいと
いえるだろう。実は、アメリカでは、解約条項のない賃貸借契約は珍しいものではない。
なぜなら、歴史的に、収益不動産をその収益力を基礎として評価し、古くからそれに基
づいて取引がなされてきたためである。投資家の視点においては、中途解約できない賃
貸借契約は、保有期間中の収益が高い精度で予測可能であるため、好都合なのである。
賃料の上昇期、すなわち中途解約によって生じた空室に、新たな賃借人を獲得すること
によってより高い賃料を獲得できた時代に形成された我が国の慣習とは、根本的に異な
っているのである。
ところで、J-REIT に代表される不動産と金融の融合が叫ばれて久しい。いうまでもな
く、我が国の賃料相場は、もはや右肩上がりではない。契約期間中に解約できない賃貸
借契約、つまり解約条項が存在しない賃貸借契約に対し、賃貸物件のオーナー側には強
いニーズがあるといえるだろう。近い将来、このような賃貸借契約の導入が一般の賃貸
物件にも普及し、一つのヴァリエーションとして存在する時代が到来するかもしれない。
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