第 2 回 債権の意義・機能[2]

2013 年度民法第 3 部講義レジュメ(米村)
2013 年 10 月 7 日
第 2 回 債権の意義・機能[2]
3
債権の種類
【事例 2-1】画商 A は、某画家の個展において、B との間で絵画を売却する旨の契約を締結した。A は 2 週間後の個展終
了を待って絵画を引き渡すことを提案し、B もこれを承諾した。しかし、1 週間後、当該絵画は A の不注意により発
生した火災により焼失した。B はいかなる請求をなしうるか。
【事例 2-2】陶磁製品の販売を業とする C は、D に対し皿 5 枚を売却する旨の契約を締結した。引渡しについては、C か
ら D の自宅に宅配便により送付するとの合意がなされ、その通り実行された。目的物はどの時点で特定するか。
【事例 2-3】
【事例 2-2】において、到着した皿を D が直ちに開封し確認したところ、うち 1 枚に微細な傷がついている
ことを発見したため、D は C に対し、この皿を別のものに交換するよう請求した。この請求は認められるか。
【事例 2-4】A は、知人 B から金 10 万円を借り受けた。契約条件は、年利 25%、弁済期 1 年後であった。1 年後、A は
元利金をともに支払ったが、その直後にこの金利が利息制限法違反であることに気がついた。A は B に対し返還請求
を行うことができるか。
(1) 総説
債権・債務は、その内容や法的性質によってさまざまに分類される。その一部につき民法は明文の規定を置く。
〔例〕引渡債務/行為債務、結果債務/手段債務、作為債務/不作為債務、特定物債権/種類債権
(2) 特定物債権・不特定物債権(種類債権)
a) 特定物債権
物の個性に着目し、特定の個物を給付対象とする債権。特定物の引渡しにつき、債務者は善管注意義務を負う(400 条)
。
もっとも、400 条の善管注意義務については近年さまざまな問題が指摘される。
不特定物の引渡義務についても善管注意義務を課すべき場合があるとする見解あり。
b) 不特定物債権(種類債権)
・給付の対象
給付対象は特定されず、定められた特性を備えた目的物のうちいずれかを引渡すことが給付内容となる。
ただし、品質につき合意がない場合は、債務者は「中等の品質を有する物」を給付する義務を負う。
(401 条 1 項)
*代替物・不代替物との関係
・特定の時期(401 条 2 項)
特定の時期は、合意があればそれによるが、合意がない場合は、
①債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了した時点、または
②債権者の同意を得て、その給付すべき物を指定した時点
となる。
①の時点は、持参債務(履行地は債権者の住所)の場合、履行地で債務者が現実の提供をなした時点であり、取立債
務(履行地は債務者の住所)の場合、個物を分離して債権者に通知した時点であるとされる。
・変更権
特定後も、債務者の側から給付対象を別の個物に変更することができる。元来が不特定物債権であったことによる。
債権者の側から給付対象の変更請求をなしうるかが争われているが、通説は否定する。ただし、当初給付された個物
に瑕疵がある場合は特定が生じないとする見解もあり、その場合は代物請求が可能。
(cf. 瑕疵担保責任の契約責任説)
c) 制限種類債権
一定の限定された特性を備えた種類物の給付を目的とする債権。基本的には通常の不特定物債権と同様に考えて良いが、
履行不能に陥りうる点で異なるとされる。しかし、通常の不特定物債権との差異は相対的。
(3) 金銭債権
・定義と分類
金銭の引渡しを内容とする債権をいう。以下の分類があるとされる。
金額債権 一定金額の支払いを内容とする債権。通貨は重要でなく、債務者が支払通貨を選択できる(402 条 1 項)
。
相対的金種債権 金額債権のうち、一定金額を一定の種類の金銭で支払うことを内容とする債権。支払通貨は特定さ
れるが、その通貨が強制通用力を失ったときは他の通貨で支払うことができる(402 条 2 項)
。
絶対的金種債権 特定の種類の金銭を一定数量引渡すことを内容とする債権。通用力は問題とならない種類債権。
特定金銭債権 古銭の取引など。純然たる特定物としての引渡を内容とする債権。
・特徴
金銭債権(金額債権)は、履行不能となることがない。種類債権の特定も生じない。
貨幣価値の変動によって債権額は変動しない(名目主義)
。
(4) 利息債権
元本債権から派生的に生ずる債権。民事法定利率は 5%(404 条)
、商事は 6%である(商法 514 条)
。
利息は原則として単利だが、特約があれば複利(利息が元本に組み入れられる)となる。特約がなくとも、利息を 1
年以上延滞し、債権者の催告によっても支払われない場合は複利となる(405 条)
。
利息規制につき、利息制限法等の特別法と、その適用をめぐる多数の判例が複雑に絡んだ難解な規律が展開されてきた。
・基本的規律(2006 年改正前)
利息制限法 1 条 1 項に上限金利の規定が置かれる(元本 100 万円以上の場合、15%が上限)
。
出資法には年 109.5%以上の金利を課した場合の刑事責任が定められ、この間が「グレーゾーン金利」と呼ばれた。
利息制限法の上限金利を超える場合でも、債務者が任意に弁済すれば有効。
(利息制限法旧 1 条 2 項)
*利息制限法旧 1 条 2 項
債務者は、前項の超過部分を任意に支払つたときは、同項の規定にかかわらず、その返還を請求すること
ができない。
・利息制限法旧 1 条 2 項をめぐる判例
既払の超過利息につき元本充当が可能(最大判昭和 39 年 11 月 18 日民集 18 巻 9 号 1868 頁<66>)
元本消滅後の支払利息は返還請求可能(最大判昭和 43 年 11 月 13 日民集 22 巻 12 号 2526 頁<67>)
利息の一括支払い後でも返還請求可能(最判昭和 44 年 11 月 25 日民集 23 巻 11 号 2137 頁<68>)
・規制強化と貸金業法の「みなし弁済」
サラ金問題等を踏まえた規制強化のため、
1983 年に出資法の刑罰対象金利が貸金業者につき 29.2%に引き下げられた。
同年に貸金業(規制)法が制定され、種々の書面交付義務が新設される代わりに、書面交付と債務者の任意弁済があれ
ば有効な弁済と「みなす」旨が規定され、これによって返還請求の可能性が大きく減殺された。
(
「みなし弁済」
)
*貸金業法旧 43 条 貸金業者が業として行う金銭を目的とする消費貸借上の利息の契約に基づき、債務者が利息として任意に支払つ
た金銭の額が、利息制限法第 1 条第 1 項に定める利息の制限額を超える場合において、その支払が次の各号に該
当するときは、当該超過部分の支払は、同項の規定にかかわらず、有効な利息の債務の弁済とみなす。(以下略)
・2006 年改正法
貸金業法の規制に対するさまざまな批判を受け、大幅な改正がなされた。
①「グレーゾーン金利」の原則廃止(営業的金銭消費貸借につき出資法の刑罰下限金利を 20%とした)
②「みなし弁済」制度の廃止
③その他の規制強化(利息制限法 1 条 2 項の廃止、貸金業への参入条件厳格化、過剰貸付抑制、ヤミ金融対策など)
*融資枠契約(コミットメント・ライン契約)
(5) 選択債権
債権の内容が数個の給付の中からの選択によって定まる債権。選択権の行使によって給付内容が特定する。
選択権は特約がなければ債務者が有する(406 条)
。その他、選択権の行使方法や移転等につき規定あり。
一部の給付が、選択権を有しない当事者の過失により不能となった場合、選択権者は不能な給付を選択する(不履行責
任を追及する)こともできる。それ以外の場合には、債権は残存する給付につき存在する(410 条)
。
*任意債権
4
第三者による債権侵害
【事例 2-5】歌手 C は、D 社の主催するイベント P への出演を依頼され、既に出演契約を締結していたところ、それと
同日に開催されるイベント Q を主催する E が C に対して高額の出演料での出演を持ちかけたため、C はイベント Q に
出演しイベント P には出演しなかった。D は E に対して何らかの請求をなしうるか。
【事例 2-6】F は G 所有の甲建物を G から賃借していたところ、ある日、G の債権者を名乗る暴力団風の数人が甲建物
を占拠し、以後 F の使用を妨害し続けている。F はいかなる手段をとりうるか。
(1) 基本原則
債権の相対性から、原則として当事者以外の第三者に対しては債権の存在を主張できない。しかし一定の範囲では、第
三者による債権侵害に対して何らかの救済手段を認める必要がある。
(2) 不法行為に基づく損害賠償請求
不法行為の一般理論との関係もあり複雑。伝統的通説に対する批判は強いが、それに代わる基準は一般化していない。
・伝統的通説
不法行為の違法性における「相関関係説」を前提に、「弱い」権利である債権の侵害が違法性を肯定できるためには、
行為自体の反規範性が強いことが必要であると理解し、以下の場合に債権侵害による不法行為の成立を認める。
①債権の帰属が侵害された場合は、故意・過失があれば不法行為が成立
②債権の給付が侵害された場合は、以下の 2 類型に分かれる。
(i) 債権自体が消滅する場合(目的物の破壊など)には、故意が必要。
(過失があればよいとする見解もあり)
(ii) 債権自体が消滅しない場合(債務者との共謀ある場合など)は、故意に加えて行為の強い違法性が必要。
・批判説
通説は観念的で現実の紛争類型に対応しておらず、不法行為の成立範囲が狭すぎると批判。
(星野、吉田邦彦など)
給付侵害類型につき、①二重譲渡型、②不正競争型、③引き抜き型、④労働争議型、⑤間接侵害型などの類型を提示し
た上で、個別の契約をめぐる状況や当事者の利益状況を考慮した責任範囲を検討すべきであるとする。
(3) 妨害排除請求
通説・判例は債権に基づく妨害排除請求を原則として否定。
(最判昭和 28 年 12 月 14 日民集 7 巻 12 号 1401 頁など)
しかし、登記等により対抗力を備えた不動産賃借権者は不法占拠者に対する妨害排除請求をなしうる(最判昭和 28 年
12 月 18 日民集 7 巻 12 号 1515 頁< 109>・最判昭和 30 年 4 月 5 日民集 9 巻 4 号 431 頁)
。
対抗力のない不動産賃借権については判例は否定するが、学説には反対もある。
ただし、債権者代位権の「転用」によって賃貸人(所有権者)の物権的妨害排除請求権を代位行使できる可能性あり。
不動産賃借権以外の債権についてはさほどの議論がないが、原則に忠実に妨害排除請求を否定するのが一般的。
※次回の予習範囲
第3回
弁済[1]:内田貴『民法Ⅲ』33~58、71~72、102~106 ページ
※民法第 3 部 授業予定一覧
回
実施日
曜日・講時
講義タイトル
1
10 月 3 日 木2
序論・債権の意義・機能[1]
2
10 月 7 日 月4
債権の意義・機能[2]
3
10 月 10 日 木2
弁済[1]
4
10 月 17 日 木2
弁済[2]
5
10 月 21 日 月4
債務不履行[1]
6
10 月 24 日 木2
債務不履行[2]
7
10 月 28 日 月4
債務不履行[3]
8
10 月 31 日 木2
債権譲渡・債務引受[1]
9
11 月 7 日 木2
債権譲渡・債務引受[2]
10
11 月 11 日 月4
代物弁済・相殺ほか
11
11 月 14 日 木2
債権者代位権
12
11 月 18 日 月4
詐害行為取消権[1]
13
11 月 21 日 木2
詐害行為取消権[2]
14
11 月 25 日 月4
多数当事者の債権・債務[1]
15
11 月 28 日 木2
多数当事者の債権・債務[2]
16
12 月 2 日 月4
担保物権総論・抵当権[1]
17
12 月 5 日 木2
抵当権[2]
18
12 月 9 日 月4
抵当権[3]
19
12 月 12 日 木2
抵当権[4]
20
12 月 16 日 月4
抵当権[5]
21
12 月 19 日 木2
質権
22
1 月 6 日 月4
留置権
23
1 月 9 日 木2
先取特権
24
1 月 16 日 木2
譲渡担保[1]
25
1 月 20 日 月4
譲渡担保[2]
26 補
未定
仮登記担保・所有権留保ほか
27 補
未定
予備日