第1回九州大谷文芸賞「1万2千字の出会い」講評 【講評】 審査委員長 梁木靖弘 高校生諸君のみずみずしい感性にふれたいという 思いで、今年から、九州大谷文芸賞を始めました。 自分をふり返ってみても、十代後半の頃、はじめて 表現の魅力にとりつかれ、それを形にすることのお もしろさを感じました。私は、高校時代、詩や小説、 8 ミリ映画などを手当たり次第に試しました。とうの 昔に散逸してしまった私の分身たちが、ふとした拍 子に、棘のようにチクチクするのを今でも感じます。 表現行為の良し悪しは、たとえて言えば、傷が浅い か深いか、です。かすり傷ではなく、容易に癒えな い傷を負った作品を、私は期待したいと思うのです。 さて、今回応募してくれた、戯曲 1 編を含む 9 編の小説と童話はどうだったか。12000 字(30 枚)と いう規定の限度まで使っていたのは、戯曲の「ロックンガールズコレクション」のみでした。短い会話の 積み重ねに面白さはあるものの、残念ながら劇としての構築力が弱すぎます。設定自体、ぎりぎりま で考え抜かれたという密度がないので、展開がいかにも間延びしてしまいます。 「逃ゲル」は、どこかで読んだことのある場面のつぎはぎで、展開も都合が良すぎてリアルな物語には なっていません。サスペンスとして面白くしたいのなら、細部の現実感をありきたりではなく、もっと独創 的なものにしなくてはいけません。 「こんぺいとうは家族に溶けない」は、文章力はあるものの、イジメ、母に嫌われている思い込む息子、 黒猫の恩返しと死など、安易な感動に寄りかかっているのが気になります。「時間」は、18 世紀パリの 街を疾走する自動人形という特異な題材で、アイデアはとても面白いのですが、これでは草稿にすぎ ず、完成した作品とはいえません。「優しさ」は、いかにもありがちなお話で個性がありませんし、「生き るための話」は、幼すぎます。 「三人姉妹」は、はじめと終わりがつながる、いわゆるループする童話で、ちょっとめまいがするような 構成をもっています。その一点については独創的な面白さを認めたいのですが、物語の展開(字の 間違いも含めて)という点では破綻が多すぎます。 「ある奴隷」は星新一ばりのショートショートで、破綻がなく作品としてそれなりの完成度を持っています。 アイデアとオチについても、ずばぬけて面白いというわけではありませんが、ほかの応募作にはない物 語の自律性を評価したいと思います。 「連夜五夢~続・夢十夜」は、文章の密度がずばぬけて高く、それは評価したいのですが、それぞれ の展開が単調で、5 つの夢という全体の組み合わせも生きていません。無意識の不気味な底知れな さを、第十三夜には感じました。 審査員の一致した意見として、今回、最優秀作、優秀作のレベルに達した作品は、残念ながら見当 たりませんでした。それぞれに肯定的な支持があった「三人姉妹」「ある奴隷」「連夜五夢~続・夢十 夜」の三作を、可能性を秘めているという期待を込めて、佳作としたいと思います。
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