第9章 化学系実験における安全

第9章 化学系実験における安全
1.一般的な注意
1)実験の目的、方法、使用する装置、薬品等について事前に予習し、理解を深めておくこ
と。
2)教員・ティーチングアシスタントの注意および実験室におけるルールを遵守すること。
3)単独での実験は行わないようにすること。
4)体調を整え、無理な実験をしないこと。
5)実験には常に危険が伴うので、慎重に行うこと。特に①未知の反応及び操作、②複合危
険のある実験(火災と毒ガスの発生等)③苛酷な条件での反応(高温・高圧等)には万全
の注意と準備が必要である。
6)実験を行う適切な服装、身支度をすること。必要に応じて保護用めがねや防塵マスク等
を使用する。
7)実験室での飲食や喫煙は禁止である。
8)毒物・劇物・可燃性物質・爆発性物質等を使用する場合には十分に注意すること。また、
一見危険性がないと思われる物質でも混合、
希釈などの操作によって危険な状態になるこ
とがあるので注意すること。
9)
実験に使用する試薬の多くは有害物質である。
誤って飲み込んだり、
皮膚へ付着したり、
蒸気等を吸入した場合は、速やかに教員やティーチングアシスタントの指示に従うこと。
10)実験装置や器具類は丁寧に取り扱うこと。
11)実験装置等に勝手に手を触れないこと。また、配電盤のスイッチ等には不用意に手を触
れないこと。
12)実験室内の清掃や実験台上の整理・整頓を常に心がけること。
13)万一の事故発生に備え、消火器置き場や避難経路等を確認しておくこと。
14)実験終了後は器具の洗浄や実験装置の手入れを行い、使用した器具は元の場所に戻すこ
と。
2.火気取扱の心得
不注意により、火災という惨事につながることがある。日常の実験における基本的な心得
を次にまとめた。
1)火を使用した後は、必ず消火を確認する。
2)実験終了後はガスの元栓がしまっていることを確認する。
3)引火性、爆発性のものは火に近づけない。
4)換気を十分にする。
5)点検を習慣づける。
6)火気周辺の整理整頓を行う。
3.装置・機器に対する安全の知識
取り扱いを誤れば、すべての装置が危険といえる。化学の実験装置で予想される主な事故
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を以下に挙げたが、実際に使用する実験装置についての具体的な注意事項等は指導教員・テ
ィーチングシスタントの指示、本書や他の実験安全指針に関する書籍を参照すること。
1)電気装置;感電、火災、爆発等
2)機械装置や遠心分離機などの高速回転装置;機械的な傷害
3)高圧装置;爆発、火災
4)高温・低温装置;やけど、凍傷、火災、爆発
5)高エネルギー装置;感電、やけど、失明
4.実験器具
実験器具の特性と機能をよく知って適切な使い方をするよう心がける。
1)ガラス器具
壊れやすくケガをする事が多いので、基本的な取り扱い方を練習することが大切であ
る。洗浄廃液の後始末にも注意しながら、器具を丁寧に洗浄する。洗浄液は汚れ具合に
よって使い分けるが、一般的に重曹(炭酸水素ナトリウム)
・アルコール性アルカリ液・
過酸化水素硝酸混合液・クロム酸混液などを用いる。洗浄後は、自然乾燥か乾燥機(80
~110°C)またはドライヤーなどを使用し乾燥させて保管する。保管時に誤って破損させ
ないよう、専用棚に格納する事が好ましい。器具同士を重ねる時は紙片を間に挟んだり、
丸底フラスコなど不安定な器具には台座を作って使用するなどの工夫が必要である。
2)栓
材質によって耐久性や耐薬品性が異なるので、その特徴に適した使用をしなければな
らない。天然ゴムは、柔軟性に富むが有機溶媒などにより変性しやすくまた耐熱性も低
い(およそ 120°C 以下)
。シリコンゴムは、耐熱耐寒性に優れている(-70~280°C で使用
可能)が種々のガス・水蒸気を透過するのが欠点である。フッ素ゴムは、耐熱耐薬品性
が極めて高いが高価である。コルクは、有機溶媒にはゴムよりも耐性であるが、強酸・
酸化剤・強アルカリには侵されやすい。
3)管
管はゴム管の他に種々の合成高分子製品(塩化ビニル・ポリエチレン・シリコン・テ
フロン)が用いられており、溶媒に触れると膨張したり可塑剤が溶けだして資料を汚染
させたりする事があるので安全性を確かめておく必要がある。
4)電気器具
電気器具の不注意な取り扱いは火災の原因になるので、使用時は過負荷、ショート、
漏電がないかを確認し、もしそのような不安がある場合は、直ちに対処する。電線・コ
ンセントに規定以上の電流を流してはならない。ヒューズは必ず所定のものを使用する。
ビニールコードは熱に弱いので電熱器やハンダごてに使用してはならない。電気器具の
上に試薬や実験ノートを置いたり、スイッチや発熱する器機の近くに引火性物質を置か
ない。停電時は電気器具の電源は切っておく。電熱器などの発熱体の下は蓄熱されるの
で、実験台との間に隙間をつくるなどして火災のもとにならにように心がける。
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5.各種化学実験の安全
1)真空系を使用する実験
(1) 化学実験では濾過や真空乾燥等で各種真空ポンプを用いる。必要な操作に応じて適
当な真空到達度を得られるポンプを安全に使い分ける必要がある。
(2) 水流ポンプ(アスピレーター)には、水道蛇口に直接取り付けるものと、水槽と送
水ポンプを組み合わせたものがある。前者は水道水の節約を考慮し短時間の使用を原
則とする。長時間の使用には後者を使用する。両者とも適切な水量調節を心掛け水漏
れによる事故を防ぐように努める。
(3) ロータリーポンプは、酸性物質、水蒸気、揮発性有機物を除去するトラップを取り
付け、定期的なオイル交換を行なう必要がある。これによりポンプからの排出される
有害ミストを防ぐよう努める。
(4) ポンプに接続する真空配管、真空デシケーター、摺り合わせガラス器具類は傷等の
破損がないことを確認してから使用する。
2)加熱を必要とする実験
(1) 加熱は火災や爆発の原因となる可能性があることを心得て、安全に注意しなければ
ならない。周囲に可燃物を置かないこと。火傷にも十分な注意が必要である。
(2) 加熱する反応容器は一般に密封してはならない。液量は容器の50%までを目安と
する。過熱する物質の沸点を調べ、適切な加熱法を講じる。有機物には直火は厳禁で
あり、湯浴、オイルバス、ホットプレート等を使い分ける。加熱を行なう際には温度
のモニターを行なう必要がある。
(3) 沸騰石の使用、または溶液の撹拌により突沸を防ぐ。
(4) 引火性液体の加熱は、必ず還流冷却器を使用する。
(5) 反応容器の転倒を防ぐよう、確実な支持固定を行なう。
(6) 避難路の確認、消火器の場所と使用法を熟知しておく必要もある。
3)冷却を必要とする実験
(1) 実験によって必要な冷却温度が得られる冷却系を選択する。ドライアイスや液体窒
素を使用する際は皮製手袋を使用し凍傷に十分注意する。
(2) 通常使用される主な冷却系とその温度を以下に示す。氷(0℃)氷/食塩(約
ドライアイス/メタノール、エタノールまたはアセトン(約
−20℃)
、
−70℃)
、液体窒素(−1
95℃)
(3) ドライアイス/メタノール、エタノールまたはアセトン系冷媒は、専用のデュワー
瓶(硬質ガラス製またはステンレス製)で使用し、吹きこぼれに十分注意する。
(4) 液体窒素を使用する際には、破損を避けるため硬質ガラス製ではなくステンレス製
のデュワー瓶を使用する。液体窒素の運搬・貯蔵容器の取扱にも十分注意する。
4)抽出
(1) 溶液からの抽出(分液ロート使用)
:試料溶液と抽出溶媒の混合により、発熱または
ガスの発生により容器内圧が高くなる可能性があることを考慮する。初めは緩やかに
振り動かしガス抜きを行いながら、様子を見て激しく震盪する。
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(2) 固体からの抽出:粉砕した固体試料を溶媒中(必要なら加熱から煮沸)で撹拌する。
抽出効率が悪い場合は、ソックスレー抽出器を使用する。いずれでも、溶媒への引火
に十分注意する。
5)乾燥
(1) 液体の乾燥:乾燥剤は溶媒や溶質と反応しないもの調べて用いる。物質の組み合わ
せによっては、爆発の危険性があるものもある。必要な乾燥の程度によって、一般用
乾燥剤(数~1%までの脱水)と特殊な乾燥剤(1%~ほぼ完全な脱水)を使い分け
る。
(2) 固体の乾燥:乾燥の程度により、風乾、デシケーター乾燥(常圧または真空)
、加熱
乾燥(常圧または真空)を使い分ける。デシケーターに入れる乾燥剤の種類も乾燥す
る固体により使い分ける。爆発性の塩類は加熱乾燥してはならない。
(3) 気体の乾燥:一般には固体乾燥剤をつめたガラス管か、濃硫酸をいれたガス洗瓶を
通過させる。沸点の非常に低い気体はドライアイスまたは液体窒素で冷却したトラッ
プを通過させる。必要な乾燥の程度により使い分ける。
6)ロータリーエバポレーターによる有機溶媒の濃縮
(1) 水流ポンプ(アスピレーター)は水槽と送水ポンプを組み合わせたもの、またはダ
イヤフラム式のものを用い、廃水へ有機溶媒が流出しないようにする。
(2) 低温の冷却水循環装置等を用いてできるだけ有機溶媒を凝縮回収する。
(3) 濃縮する有機溶媒の沸点によって水浴の適切な温度調節をする。
(4) 長時間を要する濃縮でも装置を時々点検する。
参考文献
1.
「工学部安全マニュアル」茨城大学工学部安全管理委員会編
2.
「実験実習の安全マニュアル」茨城大学理学部編
3.
「新版 実験を安全に行うために」化学同人編集部編 化学同人
4.
「新版 続実験を安全に行うために」化学同人編集部編 化学同人
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