渡良瀬遊水地の自然環境の保全 渡良瀬遊水地アクリメーション振興財団 1. 白井勝二 渡良瀬遊水地と自然環境 渡 良 瀬 遊 水 地 は 、 東 京 か ら 60 ㎞ に 位 置 し、群馬、栃木、茨城、埼玉の4県にまた が り 、 そ の 面 積 は 3,300ha( 山 手 線 の 内 側 の約半分に相当)と広大で豊かな環境を有 しています。 渡良瀬遊水地 ここに流入する、渡良瀬川、思川、巴波 川の洪水を一時貯留し、利根川のピーク時 に影響を与えない治水の役目と谷中湖に水 を貯めておき利根川の水が少なくなったと きに、補給する利水の役目をもった施設で す。 また、自然豊かで広大な空間は、スポ 図―1 渡良瀬遊水地位置図 ー ツ 、 レ ク リ ェ ー シ ョ ン な ど 様 々 な 利 用 が な さ れ て 年 間 100 万 人 が 利 用 し て い ま す 。 渡良瀬遊水地は、河川法で開発行為が規制され、ヨシ焼きなどにより豊かな緑 を有 し 、 本 州 最 大 の ヨ シ 原 (1,500ha)で 多 く の 動 植 物 の 生 息 空 間 と な っ て お り 、 2012 年 7 月にはラムサール条約湿地に登録されました。 表 -1 渡 良 瀬 遊 水 地 動 植 物 絶 滅 危 惧 種 数 写 -1 ヨシ焼 きの状 況 2.渡良瀬遊水地のヨシ焼きと環境保全 渡 良 瀬 遊 水 地 は 、明 治 40 年 ま で 谷 中 村 が あ り 人 々 が 生 活 し て い ま し た 。人 々 は 農 業 の他、多くの池沼や水路で、漁業を始め植物のヨシを利用したヨシズや、スゲを利用 した菅笠作りなどが行なわれていて、地域の伝統的な産業となっていました。 ヨシズ 作りには、真直ぐで良質なヨシが必要であり、この広大なヨシ原は で 3 月中旬~下旬 に、ヨシ焼きが行われています。これは、ヨシの病害虫を防ぎ、地表まで日光を当て ヨシの成長を促し、太くて背の高いヨシを育成するものです。これに伴い、ヨシ以外 の多くの植物も種からの発芽や根などから芽吹くことができ、多様な環境を創出して います。 ヨシ焼き後は、ヨシをはじめ絶滅危惧種のトネハナヤスリ、タチスミレなど多くの 植物が芽吹き一面青々とした景観となり、多くの動植物の生息の場になります。 ヨ シ 焼 き は 、 平 成 23 年 3 月 の 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 に よ り 平 成 23、 24 年 中 止 と な り 、 平 成 24 年 と 同 じ 場 所 で ヨ シ 焼 き 実 施 し た 平 成 25 年 植 生 調 査 し た 結 果 、 種 か ら 発 芽 し た 植 物 な ど 多 く の 植 物 が 確 認 さ れ ま し た 。 平 成 26 年 も ほ ぼ 平 成 25 年 と 同 様 な 結 果となりヨシ焼き中止による植物生育の影響はなくなったと思われ ます。このように ヨシ焼きの効果は大きく、良質なヨシの生育を始め多様な環境を維持し良好な景観が 維持され、ラムサール条約登録の貴重な湿地条件の保全のためにも必要で あることが 確認されました。 30 ヨシ焼きによる植生変化(種数) (6月上旬調査) ・平成25年ヨシ焼きにより、多くの植物が確認できた。 ・平成25年ヨシ焼き後は、一年草の発芽が多く確認できた。 25 調査区域 1×1m ヨ シ き 15 中 止 10 区 域 A 20 焼 ヨ シ 焼 き 多年草 [値] に よ る 増 加 5 多年草 [値] B 多年草 [値] 多年草 [値] 多年草 [値] 多年草 [値] 一年草 [値] 一年草 [値] 一年草 [値] 一年草 [値] 多年草 [値] 一年草 [値] H25A H26A H24B H25B H26B H24C 図―2 多年草 [値] 多年草 [値] 一年草 [値] 0 H24A D C 多年草 [値] H26C 多年草 [値] 多年草 [値] 多年草 [値] 多年草 [値] 一年草 [値] 一年草 [値] 一年草 [値] H25C E H24D H25D 一年草 [値] H26D 多年草 一年草 [値] [値] H24E H25E ヨシ焼き無し 一年草 [値] ヨシ焼き実施 H26E ヨシ焼きによる植生変化 写 ― 3・ 4 ヨシの生育比較 3 .乾 燥 化 と 外 来 種 等 の 侵 入 に よ る 環 境 悪 化 と 対 策 渡良瀬遊水地は、明治改修まで赤麻沼、石川沼など大小の沼や水路があ りました。 その後の渡良瀬川、思川の付け替えによって沼は埋まったことや調節池化工事による 地内水路整備などが周辺地下水の低下をもたらし乾燥化が進み、その環境に適応した 外 来 種 植 物 の 侵 入 が あ り 、古 来 よ り 生 息 し て い た 貴 重 植 物 の 環 境 は 、悪 化 し て い ま す 。 外来種の侵入の著しい第 2 調節池では、地下水程度まで掘削して湿地の再生事業が 行われている。 掘削跡地からは多くの貴重植物の発芽などが確認されてい ます。これらの植物は谷 中村の人々が生活していた時代の植物の種子が土の中で眠っていたものであります。 (埋土種子) 今後の遷移 を確認してい きたいです。 写 -5 表 -2 湿地再生地掘削地 写 -6 掘削前後貴重植物の確認比較 写 -7 ジョウロウスゲ マルバノサワトウガラシ
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