幼児教育におけるナショナル・カリキュラム導入の検討

幼児教育におけるナショナル・カリキュラム導入の検討
(その 2)米国の場合
○村田カズ 1・藤原美子 2
(1 聖徳大学短期大学部・2 ハリウッド大学院大学)
キーワード:幼児教育,学習内容,コモンコア
On Introduction of National Curriculum in Early Childhood Education ― Case of the U.S.A.
Kazu MURATA1 and Yoshiko FUJUWARA2
1
( Seitoku Univ. Junior College, 2 Graduate School of Hollywood Univ.)
Key Words: Early Childhood Education, Common Core
目 的
本研究は,日本の就学前後の学習内容について英米と比較
検討しようとする一連の研究のひとつである。2013 年に実施
された高校生を対象とした日米中韓の意識調査では,自然や
科学に関心があると答えた高校生の割合は日本が最低であり
(国立青少年教育振興機構,2014)
,興味があることを自分で
調べたり学習したりしていると答えた日本の高校生は 20.2%
に過ぎなかった。わが国の小学 1・2 年生は,1992 年度から
理科を生活科という教科で学んでいるが,その学習内容には
年長幼児にも十分に楽しく理解できるものがあるかもしれな
い。また,絵本を利用しての国語や小さな数の足し算引き算
も,年長幼児に学習可能であるかもしれない。ここでは,米
国イリノイ州にある公立小学校の就学前後の学習内容と比較
検討したい。
米国は合衆国憲法によって公教育に関する権限を各州に委
ねてきたが,米国内の子どもたちの学力低下が明らかになる
と,これを懸念した米国政府によって学力達成基準(コモン
コアと呼ばれ,2015 年 5 月現在では算数と国語についてのみ
完成している)の導入が推し進められるようになった。イリ
ノイ州はこの学力達成基準を昨年度から他の 41 州とともに
導入しているため,イリノイ州の公立小学校における学習内
容と日本の学習指導要領を就学前後について比較検討したい。
方 法
調査対象校:マーティン・ルーサー・キング・ジュニア小学
校(イリノイ州アーバナ市にある公立小学校,以下キング小
学校とする)
調査方法:30 数年前にキング小学校に通った日本人とその両
親へのアンケート調査,2001 年に実施されたキング小学校の
視察報告書(齋藤,2003)及びイリノイ州教育局のホームペ
ージより資料収集
調査時期:2014 年 9 月より 2015 年 5 月
調査内容:小学校へ通い始める年齢,就学前後の授業内容等
結 果
結果1.小学校へ通い始める年齢
イリノイ州は就学義務開始年齢を 7 歳としている。しかし,
実際には 9 月の新学期までに満 5 歳の誕生日を迎えた子ども
は,小学校に併設されている幼稚園に通い始め,翌年から小
学校 1 年生となる。幼稚園に入園する前が就学前とみなされ
ていることになる。米国政府による学力達成基準も,K-12
となっており幼稚園から 12 年生までのカリキュラムである。
結果2.約 30 年前のキング小学校の授業
算数などは,各自のレベルに合わせたテキストを自習し,担
任の教師が教えてくれていた。進度の早い同級生がいて驚い
た記憶があるとのこと。
結果3.幼稚園の算数のカリキュラム(コモンコア)
子どもたちは,上,下,前,後ろ,次など関係を表す言葉
を教えてもらい,
「2 の前はいくつ?」
,
「4 の次はいくつ?」
等を知る。その後は以下のように学んでいく。
10 までの数のものを数えられること→20 までの数を数え
られること→5 までの数のものを加えること,二つのグルー
プに分けること→10 までの数の足し算引き算とそれを表す等
式を知ること(幼稚園児は等式を書けなくてもよい)→11 か
ら 19 までの数を理解する→円,正方形,長方形,三角形,六
角形の名前と形を知り比べる→球,円錐,円柱,立方体の名
前と形を知り,さらに平面図形と立体形の違いに気付く。
結果4.小学 1 年生の算数のカリキュラム(コモンコア)
幼稚園で学んだ小さな数の足し算引き算を基に,数の概念
を学んでいく。白いマッチ棒 5 本を縦に並べた長さと,黒い
マッチ棒 6 本を縦に並べた長さが同じである場合,白 5 本と
黒 6 本は同じ長さであるが本数は違うことに気付かせる。さ
らに視覚的な違いに左右されずにカテゴリーを理解するため
に,例えば翅のある昆虫と翅の無い昆虫のそれぞれの数を数
えさせて,翅があっても無くても昆虫というカテゴリーに入
るから昆虫の数は翅ありと翅無しとの和であることを教える。
また 60 分間という時間の長さを理解するために,図形を半分
にすることや四分の一にすることを利用する。
考 察
約 30 年前のキング小学校ではかなり自由裁量のある授業
スタイルが取り入れられており,日本のような一斉授業もあ
ったが,算数等についてはテキストも進度も児童によって異
なっていたようである。しかし,米国政府が導入を推し進め
ている学力達成基準は,日本での学習内容とは異なった順序
で進めていく授業内容について細部にわたって定められてい
る。また学年度末に実施されるテストも,州ごとの実施では
なく全国統一テストとするようである。学力達成基準に反対
する州や導入したが撤退した州が出ている理由も理解できる。
日本の幼稚園教育要領(文部科学省,2008)にも,
「数量や
文字などに関しては,日常生活の中で幼児自身の必要感に基
づく体験を大切にし,数量や文字などに関する興味や関心,
感覚が養われるようにすること。
」という文言があり,幼稚園
児に算数の基礎を無理なく学習させることは可能と思われる
が,細かすぎるカリキュラムは幼児の主体的な活動時間の確
保との折り合いが難しいであろう。さらなる検討が必要であ
る。
引用・参考文献
国立青少年教育振興機構(2014)高校生の科学等に関する意識
調査報告書―日本・米国・中国・韓国の比較―
齋藤ひろみ(2003)マーティン・ルーサー・キング・ジュニア
小学校視察報告 国際教育評論,1,68-76.
文部科学省(2008) 幼稚園教育要領