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読切官能小説
二 度 目 に 会 っ た と き、 好 き に な っ
た。 セ ッ ク ス し た の は 六 度 目。 富
士山と老人しかない私の小さな世
界 に 現 れ た 宮 澤 さ ん は、 時 々、 東
京 か ら や っ て く る ―― 。
そのなかにある、みずうみ
窪美澄
一度目に会ったときはそうでもなかった。
でも、そのときだって嫌い、というわけでもなかった。
だけど、はっきりと、この人のことが好き、と意識したのは、二度目に会ったとき、あの居酒屋
の、銭湯風の玄関かもしれなかった。
とが
入り口にある下駄箱に各自、靴をしまう、というスタイルの居酒屋だった。マリービスケットく
らいの大きさの、厚みのある銀色の鍵を抜き取ると、自然に鍵が閉まる。帰るときは再び鍵を入れ
て、自分の靴を取り出す。しゅっと先の尖った靴を取り出して、薄汚れたすのこに座り込み、靴ひ
もを結ぶ宮澤さんの背中を見て、抱きつきたい、という気持ちが突然わき上がってきて、もしかし
しわ
たら私はこの人のことが好きなんじゃないかと、そのとき初めて思った。
皺の寄った水色のシャツの背中や、えり足だけなぜだかくるんと丸まった髪の毛や、耳の後ろに
まばた
ある茶色いほくろ。私の目は瞬きするたびに、それまで気づかなかった宮澤さんのさまざまな部分
を見つけ出し、私の頭の中に素早くそのデータを保存していった。
目の前にいる宮澤さんの横顔を見る。
宮澤さんは右を向いて、隣の茶の間にある音の出ないブラウン管テレビを見つめている。ぽって
あご
りした唇と顎のラインが好きだと思う。画面が変わるたびに、光の量や照らされる場所が変わって、
宮澤さんの顔にできる影の形も変わっていく。
そしやく
私も左を向く。
深夜のテレビショッピング。ハイテンションの男性と女性がお徳用キムチをすすめている。赤く、
ただ
爛れたような色のキムチを箸でつまんで口に入れる女性のアップ。咀嚼する女性の上唇の上に皺が
寄っている。足を伸ばして座る宮澤さんの上に私はまたがっている。梅雨の長い雨が続いて、夜に
なるといっそう肌寒くなったので、私も宮澤さんも上半身にはTシャツを着ている。雨が急に強く
なったみたいだ。さらさらという音がぽつぽつに変わった。宮澤さんが一度、下から突き上げるよ
うに腰を動かした。突き上げられるその刺激だけじゃなくて、接合した部分から漏れる音にも感じ
てしまう。
テレビを消して、宮澤さんはまるでセックスなんかしていないように、世間話を始める。私のこ
となんかおかまいなしに。なぜだかセックスをしているときのほうが、宮澤さんは饒舌なのだった。
「それでね、事務所のそばにある中華料理屋の天津飯がめちゃくちゃうまくて」
「マンションの塀の上でカマキリが猫を威嚇してたんだけど」
そんなふうなことを言いながら、宮澤さんは突然、Tシャツの上から胸の突起をきゅっとつまん
だりする。暗闇の中で、次第に目が慣れてきて、宮澤さんの顔が浮かび上がるように見えてくる。
するすると耳を通りすぎる意味のないおしゃべりの合間に、宮澤さんは、こすりつけるように動い
てみて、とか、8の字を描くように動いてみて、と私にアドバイスする。そう言われても、上手に
はできなくて、それでも、ぎごちなく言われたように動いてみる。予想もしないような、ふとした
角度に気持ちのいい場所は確かにあって、そんなときは自分の体に埋まった宝物を見つけたような
気分になる。
口のなかに宮澤さんのひとさし指が入ってきて、私はそれを舌で包み込み、吸う。濡れたひとさ
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そのなかにある、みずうみ
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