銅・亜鉛めっき、DLC、 クロムメッキの基礎 グラビア製版の技術動向を解説

銅・亜鉛めっき、DLC、
クロムメッキの基礎
*TCXWTG グラビア製版の技術動向を解説
日本印刷学会 技術委員会 グラビア研究会
(一社)日本印刷学会 技術委員会 グラビア研究会(河村英
司主査)は、6月5日(水)午後1時10分より、日本印刷会館
201、202、203号室において、平成25年度第1回勉強会「進化
するグラビア製版技術」を開催しました。グラビア製版の技術
動向などにスポットが当てられた今回の研究会では、グラビア
印刷用シリンダー製版システムメーカー2社、コンバーター1社
が講演を行いました。参加者は、コンバーター、製版業者など、
定員35名のところ88名が参加し、注目の高さが伺えました。
グラビア製版で使われる
銅シリンダーの製造方式銅めっき
る。
従来よりも高い伝導度を持つ陽極を使い、めっ
き中の電圧を低下することができる。
外 部 銅 溶 解 シ ス テ ム
「CuMax」は、外部装置
化学的に銅を溶かすので、不要なスラッジは発
の CuMax ジェネレータ
生せず、液も汚れないし、メンテナンスも楽であ
ーで2cm 角ほどの無酸
る。必要なものしか溶かさないので、添加剤の消
素銅のナゲットを化学プ
耗等も削減されて効率が良い。
ロセスで溶解する。硫酸
生産性は、最大で1分間に5μ m を目標に使っ
ていただければ。CuMax ジェネレーターは、従
銅が生成され、タンク内
電解液の同イオンを高め
6
日本印刷学会技術委員会
グラビア研究会の
河村英司主査
ヘル・グラビア・ジャパン㈱
高山喜登氏
来の K.WALTER 社や MDC 社のめっき槽を改造
る。溶解した銅濃度は自動計測調整で計測され、
してジェネレーターだけを付けることも可能で、
常に一定の範囲で管理される。その後、電解液は
こうした改造も含めて全世界で70セット設置さ
濾過されめっき槽に送られる。銅めっき表面の均
れている。
一性や均質性、彫刻に適した銅の性質を持たせる
亜鉛めっきについては、亜鉛はレーザーで彫刻
添加剤により、平滑性および光沢性に優れた銅表
するための母材で、従来はアルカリ性溶液に亜鉛
面を生成する。
を溶かして不溶性陽極でめっきしていた。しかし、
常に添加剤を分析、フィードバックし、コント
この方法では1分間に1∼2μ m のスピードしか
ロールしている。過電流が流れないように電流の
だせないが、今回紹介する酸性の亜鉛めっきは1
回り込みを少し抑えてシリンダーの径状を安定し
分間に4μ m。銅と同等のスピードでめっきでき
て、両サイドが盛り上がらないめっきを考えてい
るようになった。40∼50μ m の亜鉛めっきした
GPJAPAN 2013.9
ものを銅と同じプロセスで、表面を研磨して仕上
次世代グラビア製版技術の試み
げ、DLS(ダイレクトレーザーシステム)で彫刻。
グラビアのめっき工程
酸性亜鉛の硬度が約160∼180のため、従来の
において使用される六価
彫刻機でも彫ることができる。また、版深の深い
クロムの代替として
80∼100μ m のシリンダーにも対応できる。こ
DLC(ダイヤモンドライ
うした深い版は、クロムめっきするのが難しいが、
クカーボン)がある。真
亜鉛の表面にクロムめっきすることも可能。従来
空中でカーボンの膜を付
のアルカリ亜鉛に比べて、酸性の亜鉛めっきは耐
けるため、1時間に約1
食性に優れて硬度の高い彫刻機で彫刻できる。
μ m と、成 膜 に 時 間 が
亜鉛表面のシリンダーに亜鉛を厚く盛ったり、
かかる。また、クロムと違って硬度や摩擦係数な
銅の表面に亜鉛を50∼60μ m 付けて、Cellaxy
どが大分違う。クロムでは厚さ5μ m、中には10
で絵柄を付ける。グラビアで使われているバラー
μ m というものもある。しかし、DLC では1、2
ド方式にも亜鉛は使える。ただし、バラードにな
μ m でも十分優れた特性がある。そこで昨年、
る下地は銅でなければならないので、40μ m 程
同時に20本を成膜できる装置を開発した。現在
度の銅を付けた上に亜鉛を付ける。鉄芯は、鉄の
実用性テストが進行中である。こうした状況の中、
上に直接亜鉛をめっきしたり、母材の鉄に150μ
㈱ブルボンのメイン商品を DLC 版を使用し、富
m の亜鉛を付けてこの表面に絵柄をレーザリン
士特殊紙業筑波工場で水性グラビア印刷で作成、
グしたり、アルミニウムベースシリンダーに亜鉛
今年1月に開催された Convertech JAPAN2013
を付けることもできる。ただし、クロムを溶かし
で実製品を展示した。クロムに代わる厚さは1.5
ていると下地の亜鉛も溶かしてしまうので、リク
∼2μ m。それをブルボンの社長に見せたところ
ロームは今のところできない。
喜んでいただき、全製品でやろうということにな
亜鉛のコストは1kg 当たり約2.52ユーロ。銅
ったが、700∼800アイテムあるので、もう少し
は約7.24ユーロ。日本では銅を使って、半分く
待ってほしいということになっている。いずれに
らいの銅を効率良く回収しているので、単純な比
しても実際に市場にだせるものができた。
較はできない。
クロム厚4μ m と DLC2μ m のシリンダーに
㈱シンク・ラボラトリー
重田龍男氏
おける200万 m 相当の回転での耐久性の実験を
実施。クロムの方は銅の下地が露出していたが、
DLC では膜が壊れなかった。また、一番摩耗す
る水性グラビアインキの白において、クロム厚7
μ m、DLC2μ m でも同様の実験を実施したが
結果は同様であった。
レーザーグラビア製版システム「NEW FX」は、
クレーンを使わず、ロボット2台を使用してロー
ルを移送する。時間当たりで8∼10本のロールを
作ることができる。このシステムにより作られた
CuMax
FX-eco 版は本当にエコなのか、経済性が成り立
GPJAPAN 2013.9
7
つのか、印刷テストを繰り返してきた。200m/
がっていく。
分の同一条件で、FX レーザー10μ m、サカタイ
膜 厚の測定は、クロム付きのバラードを10
ンクスのハイソリッドインキ、レーザー版版深
10cm の一定面積の重量を量り、塩酸でクロムを
14μ m、彫刻版版深40μ m、サカタインクスの
溶かした後に重量を量る原始的な方法で測っている。
ベルカラーインキで、フィルムはフタムラ化学、
電解法は、専用の電解液で一定面積でクロムを
印 刷 は 千 代 田 グ ラ ビ ヤ で、イ ン キ の 使 用 量、
電気的に溶解し、電流量から膜厚を測る方法。
VOC が本当に減るのかを試験。彫刻版との比較で、
蛍光 X 線法は、試料に X 線をあて元素固有の
25%のインキ、VOC の大幅な削減ができた。
蛍光 X 線を測定し膜厚を測る。
「アワーズテック
100-FA」による測定から、クロムの色だけでク
グラビア製版のクロムめっき
耐刷性のばらつき、セ
ノードの劣化は部分的に始まり、放っておくとど
ルボリュームの不安定、
んどん酷くなる。アノード不良の他、めっき液の
濃度のばらつき、グラビ
三価クロムの上昇や重金属が増えていることが分
アインキの慢性的なイン
かった。
キかぶり、ツーツー汚れ
現状は、それなりに管理された状態のクロムめ
など、すべてがクロムめ
っきが得られるようになってきた。この状態のク
ロムめっきでグラビアセルの凹凸に対してクロム
っきのせいではないが、
製版にも問題がある。
8
ロムが付いていると判断してはいけない、白金ア
凸版印刷㈱
伊藤竜男氏
めっきが実際にどのように付いているか。シリン
従来は破壊して測定していたが、データ入手に
ダーに絵柄のある部分とない部分を腐食法と彫刻
時間が掛かるため、クロムに関しては分からない
法で作り、クロムめっきをして、それぞれの部分
ことが多いことが課題である。
の厚みを測定した。
クロムめっきの原理は、六価が三価→二価→ゼ
断面撮影法による評価は、彫刻版の絵柄のある
ロ価になる多段階の反応を踏んでいる。
土手のある部分の膜厚は、絵柄のない膜厚に比べ
電流密度は、シリンダー全体の面積に対して、
てかなり薄くなっている。対して、彫刻ではクロ
どれだけの電流を流すかということだが、半没や
ムの厚みは殆ど変わらないことが分かった。絵柄
1/3没など様々な浸漬方法があるので、その場合
のある部分の膜厚が絵柄なしの部分に比べて薄く
は浸漬しているカソード面積に対する電流で計算
なるのは、表面積の高い部分での電流密度低下に
する。
よる電流効率の低下もあると考えられる。
電流効率は、クロムの実測析出量を理論析出量
クロムめっきは RoHS 規制などで厳しい環境
で割ったもの。理論析出量は1ファラデーの電気
にあり、今後も生き残これるかは難しいが、物性
量でどれだけ金属が析出するかを計算して考える。
的には良いものなので、DLC に置き換わってい
銅めっきでは95%ほどの銅が電析するが、クロ
くにはもう少し時間がかかるのではないか。ただ、
ムの場合は1/5程度しか使われない。
今までのところ DLC が耐摩耗性などでは一番良
電流密度が高ければ効率は上がっていく。ただ、
いのではないか。ニッケル・タングステンめっき、
電流密度ばかり上げても光沢のないめっきになる。
三価クロムなども出てきているが、摩耗性では
温度を下げていくと、同じ電流密度でも効率は上
DLC に可能性がある。
GPJAPAN 2013.9