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共同研究 - 防災科学技術研究所

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4.共同研究
(1)土砂災害及び地震観測データ交換
研究代表者
地震:汐見勝彦
実施期間
平成 18 年度~平成 22 年度
研究参加者
共同研究先
[目
大韓民国地質資源研究所(KOREA INSTITUTE OF GEOSCIENCE & MINERAL RESOURCES)
的]
日韓における地震検知能力向上と地震調査研究の進展を図るため。
[実施内容]
それぞれの地震観測データを準リアルタイムでインターネットを経由して交換した。
[成果と効果]
当研究所では地震調査研究推進本部の方針に基づき、基盤的地震観測網の運用業務を担当しており、日本全国 2000
箇所以上に地震観測施設を有している。そのうち、高感度地震観測網 Hi-net および広帯域地震観測網 F-net について
は、連続的にデータを収集し、日本周辺における地震活動の常時把握に利用されている。一方、KIGAM は大韓民国内
で最大規模の地球科学系研究機関であり、国内に数10点もの地震観測施設を有し、連続的にデータ収集を行ってい
る。それぞれの地震観測データを準リアルタイムで交換することは、日本海や対馬海峡周辺を含む両国間地域におけ
る地震活動の検知、地殻構造解明において、大いに有効である。
[防災行政等への貢献]
特になし。
[成果の発表]
なし。
4.共同研究
(2)地震観測データの効率的かつ円滑な流通と利用方法に関する研究
研究代表者
地震:青井真
研究参加者
地震:堀
共同研究先
実施期間
平成 15 年度~平成 22 年度
貞喜,関口渉次,松本拓己
北海道大学、弘前大学、東北大学、東京大学地震研究所、名古屋大学、京都大学防災研究所、
九州大学、鹿児島大学
[目
的]
地震調査研究推進本部の「地震に関する基盤的調査観測計画」に基づいて整備されている地震観測網により、オン
ラインかつリアルタイムで得られるデータを効率的かつ円滑に流通することで、地震現象等の迅速な解明及び地震災
害の軽減等に資することを目的とする。
[実施内容]
微小地震から巨大地震に至る、さまざまな規模や発生様式の地震によって励起される地震動を高精度で記録するこ
とのできる広帯域地震計及び高感度地震計等からなる観測施設の運用を効率化し、得られるデータを用いて、日本及
びその周辺地域の地殻活動・地震テクトニクス等について、持続的かつ迅速にモニタリング及び解析を行った。
[成果と効果]
基盤的地震観測網の1つである広帯域地震観測網を構成する重要な観測点として共同研究機関に設置した地震計よ
りデータを収集することにより、全国の広範囲の地震波形データを定常的に収集することが出来た。それらのデータ
を用いることにより、日本およびその周辺の地震に対して震源過程解析の定常処理を実施することができた。
[防災行政等への貢献]
プロジェクト研究「地震観測データを利用した地殻活動の評価及び予測に関する研究」の成果の一部として政府の
地震調査委員会に震源過程解析解結果(モーメントテンソル解)を定期的に報告した。
[成果の発表]
・政府機関等への資料提供
12 件
4.共同研究
(3)東海・東南海・南海地震対象地域等における地震・地殻傾斜・地下水・地殻歪等観測研究
研究代表者
地震:廣瀬仁
研究参加者
地震:汐見勝彦
共同研究先
産業総合技術研究所:小泉尚嗣、高橋誠、松本則夫、北川有一、板場智史
[目
実施期間
平成 18 年度~平成 27 年度
的]
地震調査研究の一環として、東海・東南海・南海地震対象地域や近畿地方における地震活動・地下水・地殻歪・地
殻傾斜等の観測研究を推進するため。
[実施内容]
・東海・東南海・南海地震対象地域における地震・地殻傾斜・地下水・地殻歪等の観測・研究
・近畿地方における地震活動の研究
・近畿地方における地下水等総合観測
・効率的な観測データ通信に関する研究
・以上の観測データを統合して解析・研究することにより、震災軽減のための地震活動と地殻変動・地下水変化に
関する理解の向上
[成果と効果]
東海・東南海・南海地震対象地域や近畿地方における産総研地震観測データを既存の高感度地震観測網データとマ
ージ処理することにより、当該地域における検知能力向上、及び地震活動の詳細な把握が可能となった。また、産総
研が実施している地下水・地殻歪等のデータと防災科研 Hi-net 高感度加速度計等データのリアルタイムデータ交換
を開始した。次年度以降、両者のデータを合わせた地殻変動解析などを行っていくうえでの基盤が整った。
[防災行政等への貢献]
特になし。
[成果の発表]
なし。
4.共同研究
(4)高速広域レイヤー2 網によるリアルタイム地震観測波形データ交換システムの構築
研究代表者
地震:木村尚紀
実施期間
平成 22 年度
研究参加者
共同研究先
[目
情報通信研究機構
的]
JGN2通信回線を利用することにより、地震観測波形データのリアルタイムデータ交換システムを構築して地震
観測波形データの効率的・効果的利用を促進するとともに、通信・放送技術の著しい向上を図ることを目的とする。
[実施内容]
東京大学の地震観測ネットワークとJGN2、情報通信研究機構つくばリサーチセンター、つくばWAN経由で
防災科研と接続し、地震観測波形データのリアルタイム交換を実施する
[成果と効果]
首都直下プロジェクトにおいて東京大学地震研究所が整備運用を行なっている首都圏地震観測網 MeSO-net のデー
タを防災科研高感度地震観測網 Hi-net のデータとマージすることにより、首都圏におけるプレートモデル構築のた
めの研究を推進した。
[防災行政等への貢献]
首都圏で発生する地震の震源断層モデル構築を通じて地震防災対策に貢献する。
4.共同研究
(5)GPS による神奈川県西部地震震源域周辺の地殻変動観測に関する共同研究
研究代表者
地震:島田誠一
実施期間
平成 20 年度~平成 22 年度
研究参加者
共同研究先
[目
神奈川県温泉地学研究所研究課:原田昌武
的]
神奈川県西部の小田原市周辺では、M7クラスの直下型地震(神奈川県西部地震)の発生が懸念されている。本共
同研究では、この地震の想定震源域周辺の静岡県小山町におけるGPS観測により同地域の地殻変動を明らかにする
とともに、神奈川県西部地震のメカニズムを調査することにより地震調査研究に資する。
[実施内容]
小山地球測位システム観測施設におけるGPS観測を実施し、観測データの解析を行うことによって神奈川県西部
地域周辺の地殻変動を解明する。本年度においては、小山観測施設を含む箱根火山・小田原周辺の観測点において、
2010 年 4 月から 2011 年 3 月まで観測を行い、3 月に発生した東北地方太平洋沖地震及びこの地震に伴い箱根火山で
発生した群発地震や静岡県東部地震を含む期間の地殻変動を観測した。また、GEONET データ等を用いて小山地球測位
システム観測施設近傍の富士山および箱根火山周辺の歪場の経年変化を調べ,それとそれぞれの火山体近傍で発生し
ている低周波地震活動の経年変化を比較して,膨張歪と低周波地震活動との関連性を検討した。
[成果と効果]
図 1 にこのようにして観測した各観測点間の基線長の
時間変化を示す。真鶴観測点に対する基線長変化からは、
特に東西成分が大きい観測点で、東北地方太平洋沖地震
によるコサイスミックなステップが観測されている。
また、富士山および箱根火山周辺の膨張歪と低周波地
震活動の経年変化を調査した結果、箱根火山については
群発地震に伴う膨張歪と低周波地震活動の時間的な相関
は見られなかった。一方、富士山については 2008 年以降
の膨張歪と低周波地震活動の活発化がほぼ同時期に始ま
っており、富士山直下のマグマ溜まりの圧力が高まって
膨張歪を生じさせるとともに、低周波地震活動の活発化
をもたらしたと考えられる。
[防災行政等への貢献]
東北地方太平洋沖地震は、広域の地殻活動に影響を及
ぼしており、同地震の発生直後から、箱根火山や北伊豆
断層帯北部で地震活動が活発化した(図 2)。神奈川県
西部地震の推定震源域周辺では、北伊豆断層帯から箱根
火山、平山断層、国府津-松田断層帯と続く地殻構造が
確認されており、箱根火山や北伊豆断層帯での地震活動
の活発化は、県西部地震に何らかの影響を及ぼす可能性
があるため、今後も継続して調査する必要がある。
東北地方太平洋沖地震後の神奈川県西部地域の地殻活
動状況については、火山噴火予知連絡会や地元自治体の
防災行政に観測・調査結果等の資料を提出しており、活
動状況の推移を検討する重要な資料となった。
[所外共同研究]
静岡県小山町に既存の防災科学技術研究所小山地球測
位システム観測施設のGPS観測用アンテナ基台及び観
図 1
果。
真鶴観測点を基点とした各観測点の GPS 観測結
測小屋を利用して、温泉地学研究所がGPS観測を実施し、観測データを温泉地学研究所及び防災科学技術研究所が
それぞれ解析することにより、同観測点における地殻変動を明らかにして、神奈川県西部の小田原市周辺で発生が懸
念されているM7クラスの直下型地震の地震調査研究を行う。
[成果の発表]
・第 119 回火山噴火予知連絡会(平成 23 年 3 月 22 日開催)へ資料提出
・地震月報 3 件(毎月、温泉地学研究所発行が発行している神奈川県周辺の地震・地殻変動活動状況の報告書に
GPS 観測結果を 2011 年1月号~3 月号に掲載)
・シンポジウム・講演会等 1 件(2010/10/14 小田原市動く市政教室)
図 2
箱 根 火 山 周 辺 の 地 震 活 動 ( 1995/04/01 ~
2011/06/29)。
4.共同研究
(6)群発地震発生域における地震観測手法に関する研究
研究代表者
地震:小村健太朗
研究参加者
地震:小原
共同研究先
京都大学防災研究所:飯尾
[目
一成,汐見
実施期間
平成 20 年度~平成 22 年度
勝彦
能久
的]
地震調査研究推進本部の「地震に関する基盤的調査観測計画」に基づいて整備されている高感度地震観測施設およびその周
辺において、臨時に高サンプリング地震観測データを取得し、群発地震発生域における地震観測手法を検討するとともに、地
震災害の軽減に関する研究に資することを目的とする。
[実施内容]
長野県木曽郡王滝村に整備されている高感度地震観測施設内およびその周辺に設置されている高サンプリング地震観測装置
を利用し、群発地震発生域における極近地の地震動の高精度記録データを用いて、地震波形解析などを実施し、地震観測手法
の検討を行なう。
[成果と効果]
長野県木曽郡王滝村の1984 年長野県西部地震震央周辺の群発地震発生域で高感度高サンプリング地震観測をおこない、極
近地の地震波形データなど、高精度の地震データを取得した。高周波数で質の良いデータが取得されたことから、解析により、
地震震源域での分解能の高い応力場を推定することができた。
高感度高サンプリング地震データを用いて推定された応力場.2つの断面の位置は右下の震央分布図に示されている.
応力比 R で色分けされている.
[成果の発表]
・口頭発表
1件
・シンポジウム等
2件
4.共同研究
(7)熱年代学による温度履歴解析を用いた断層運動と 熱水変質現象の活動性評価に関する研究
研究代表者
地震:山田隆二
実施期間
平成21年度~平成23年度
研究参加者
共同研究先
京都大学大学院:田上高広、堤昭人、渡邉裕美子、郁芳随徹
(独)日本原子力研究開発機構:花室孝広、山田国見、山崎誠子
[目
的]
(U-Th)/He 年代測定システムを用いたアパタイトの分析手順を確立すると共に、断層岩や熱水変質岩に対して熱年
代学を用いた温度履歴解析を行い、長期的な断層運動や熱水活動の活動度を評価する方法論を確立する。
[実施内容]
国内で初めて開発した(U-Th)/He 年代測定システムをはじめ、フィッション・トラック法なと複数の放射年代測定
法を用いた熱年代学分析により、代表的な断層岩や熱水変質岩などの温度履歴復元を行い、それらの活動性の評価を
通して活動性評価手法の構築をはかる。また変動地形学的データなどにより、その評価の妥当性や適用範囲を検討す
る。
平成 22 年度は、断層岩や熱水変質岩の地表試料に対して、熱年代学を用いた温度履歴解析によって長期的な断層
運動や熱水活動の活動度の評価、および変動地形学的データなどに基づく解析結果の妥当性を検討するための方策を
検討した。
[成果と効果]
U-Th/He 法とフィッション・トラック法の閉鎖温度を比較すると、一般的な地質学的時間レンジにおいては、後者
の方が高いことが知られている。しかし、1 時間-10000 時間に及ぶ室内加熱実験に基づいた反応速度モデルによると、
断層運動に伴う摩擦や熱水加熱現象のような数分以下の短時間加熱現象において閉鎖温度の逆転が示唆されている。
従来のモデルが短時間領域においても有効であるかどうかを検証するために、短時間加熱した 4 種のジルコンからの
He の拡散を測定した。その結果、3 種の試料は従来のモデルに整合的な実験結果となったが、最も短い温度で加熱し
た試料に関してはモデルから大きく外れる結果となった。これにより、長時間から 1 分程度までは従来のモデルが有
効であるが、それより短い時間領域では別の拡散様式に支配されている可能性が示唆された。
[成果の発表]
・口頭発表
図
2件
ジルコンフィッション・トラック法(細線)と U-Th/He 法(太線)の加熱反応速度モデルと今回の測定結果を示
したアレニウス図。縦軸は加熱時間の対数、横軸は加熱温度の逆数。今回測定した試料の加熱条件と結果は右下
に示した。△で示した試料(550℃、10 秒間加熱)を除き、従来のモデルと整合的であった。
4.共同研究
(8)ボアホールを利用した宇宙線ミュオンによる地下測定技術の開発
研究代表者
地震:小村健太朗
研究参加者
地震:汐見
共同研究先
東京大学地震研究所:田中
[目
勝彦、松本
実施期間
平成 22 年度
拓己
宏幸、西山
竜一
的]
宇宙線ミュオンにより地下構造(地層構造、断層構造など)を精度良く非破壊検査するための地下測定技術の開発
へ向けた基礎研究を行う。
[実施内容]
防災科学技術研究所地震観測施設内のボアホールに宇宙線ミュオンセンサを設置し、観測を実施するとともに、得
られたデータの解析により、地下構造を推定する基礎データを取得する。
[成果と効果]
ボアホール型宇宙線ミュオンセンサのプロトタイプについて、地上で試験をおこない、動作確認を行った。また、
ボアホール内での観測に向けて、府中と江戸崎地殻活動観測施設を例に、観測井の横の組立孔(内径約 12cm、深さ約
10m)にミュオンセンサのダミーを降ろしてみるとともに、観測小屋を実地に調べ、観測装置の設置、観測手順を検
討した。
ミュオンセンサ
組立孔
観測井
観測井
組立孔
府中(左)、江戸崎(右)地殻活動観測施設の観測井と組立孔。組立孔へのボアホール型ミュオンセンサの設置を
検討した。
4.共同研究
(9)強震観測データの緊急地震速報への活用に関する研究
研究代表者
地震:青井真
研究参加者
地震:㓛刀卓、汐見勝彦
共同研究先
気象庁地震火山部
[目
実施期間
平成 22 年度~平成 24 年度
防災システム:中村洋光、藤原広行
的]
地震による被害を軽減するため、首都直下地震に対応した緊急地震速報の高度化を図る。そのため、防災科学技術研
究所が所有する 500m 以深で観測している強震観測データ等を気象庁へ伝送し、緊急地震速報で活用するための調査
研究を行うことを目的とする。
[実施内容]
関東地方において 500m 以深で強震観測を行っている地点を含む 30 箇所の KiK-net 観測点をリアルタイム化し、地
中・地上の強震記録を連続的に防災科研及び気象庁へ伝送できるようにした。また、現行の緊急地震速報で用いられ
ている多機能型地震計の機能を、対象となる KiK-net 観測点に付加し、地中・地上ぞれぞれの観測データに対して
100 ガル超過判断処理や B-Δ処理を現地で行い、情報を伝送できるようにした。更に、新たな情報として㓛刀・他
(2008)の震度のリアルタイム演算法によって得られる即時値を伝送できるようにした。
[成果と効果]
中深層 KiK-net 観測点の現地処理情報と連続波形を伝送できるようになったため、緊急地震速報システムに実装され
ている気象庁や鉄道総研の開発した単独観測点処理、複数観測点処理(テリトリ法とグリッドサーチ法)システムと
防災科研が開発した REIS の両方で利用することが可能となり、今後はそれらの情報を用いることで実証的に緊急地
震速報高度化のための新たなシステムの検討が行えるようになった。
図 中深層 KiK-net データの利用による緊急地震速報高度化のイメージ(気象庁資料)
4.共同研究
(10)平成 22 年度緊急地震速報の高度化に関する研究
研究代表者
防災システム:藤原広行
研究参加者
防災システム:河合伸一、青井真、㓛刀卓、中村洋光、森川信之、堀内茂木
共同研究先
気象庁地震火山部、気象研究所、(財)鉄道総合技術研究所、東京大学地震研究所
[目
実施期間
平成 22 年度
的]
防災科学技術研究所が中核機関となり、平成 15 年度~19 年度にリーディングプロジェクト「高度即時的地震情報伝
達網実用化プロジェクト」を実施してきた。その成果は気象庁の処理情報と統合され、緊急地震速報として平成 19
年 10 月から一般提供されている。一方、システムが実運用される中で、改めて下記のような緊急地震速報の課題が
浮き彫りとなってきた。それは、(1)情報の提供が主要動到達に間に合わない、(2)震度の予測精度、(3)誤報である。
そこで本研究では、高度即時的地震情報伝達網実用化プロジェクトの成果を活用しつつ、更に震源推定精度の向上や
震度予測精度の向上等を図り、緊急地震速報を高度化することを目的とする。
[実施内容]
東北地方太平洋沖地震における緊急地震速報(警報)が提供されてから大きな揺れが各地に到来するまでの猶予時間
に関する検討を行った。
[成果と効果]
東北地方太平洋沖地震で得られた K-NET 及び KiK-net のデータから㓛刀・他(2008)の震度のリアルタイム演算法に
よって得られる即時値を用いて、緊急地震速報(警報)提供時の震度相当値の分布及び各地が震度 5 弱相当を超過す
るまでの猶予時間を算出した。その結果、警報時の各地の震度は大きくても震度 2 程度であったことが分かった(図
1)。また、5 弱超過までの猶予時間をみると、地盤の影響等により大きく揺れ出すまで時間は場所毎に異なることに
注意が必要であるが、宮城県で 15 秒程度以上、岩手県、福島県で 20 秒程度以上、茨城県、栃木県で 1 分程度以上、
千葉県、埼玉県、東京都で 2 分程度以上あったことが分かった(図 2)。今回の地震はマグニチュード 9 という超巨
大地震であったが、緊急地震速報はそのマグニチュードの成長を完全にはとらえることができず、十分な範囲に警報
を発することができなかった。また、広範囲に渡って地震活動が活発化したことによりほぼ同時に発生する地震を分
離することができず、不適切な震源情報によって警報を提供してしまう事象が発生している。これらの課題を克服す
るには、広域に設置された強震観測網をリアルタイム化し、そこから得られる強震指標から、震源情報に戻ることな
く、直接的に警報が出せるような仕組みが必須であると考える。
警報提供時の震度の即時値の分布
図2
震度相当値
震度の即時値
図1
警報提供時から 5 弱相当を超過するまでの猶予時間分布
4.共同研究
(11)強震動指標のリアルタイム配信と地震動マップ即時推定システムでの活用に関する研究
研究代表者
防災システム:青井真
研究参加者
防災システム:㓛刀卓、中村洋光、藤原広行
共同研究先
産業技術総合研究所:関口智嗣、松岡昌志、山本直孝
[目
実施期間
平成 22 年度~平成 24 年度
的]
防災科研における強震動情報の提供は主に WEB を通じて行っている。また、特定の機関への即時的かつ能動的な情報
の送信としては主に計測震度があり、現状では気象庁や地方自治体へのデータ分岐等の実績がある。今後、さまざま
な分野へのリアルタイム地震動情報の活用を図るためには、個別の事情に対応して適切な強震動指標に関する研究を
行うと共に、適切な情報配信手法に関しても研究を行う必要がある。本研究では、その一環として産総研が構築中の
地震動マップの即時推定システム(QuiQuake)への強震動指標の試験的な配信等を通してリアルタイム配信の方法や
強震動指標の活用について具体的な検討を行うことを目的とする。
[実施内容]
地震直後からの被害推定や災害対応等に資するべく、産総研では日本全国を対象とした広域かつ詳細な地震動マップ
を推定し結果を配信するシステム「地震動マップ即時推定システム(QuiQuake)」を構築中である(図 1 参照)。今
年度は空間補間計算アルゴリズムの最適化を行うと共に防災科研から配信される最大速度、計測震度の地震動指標を
入力として、地震計がない地域の最大速度と計測震度を地盤の揺れやすさを考慮して即座に推定するアプリケーショ
ンを産総研の GEO Grid クラスタに実装した。
[成果と効果]
空間補間計算の最適化については、オリジナルのコード(RASMO)と比較して OpenMP 無しで約 9 倍、8 コアの OpenMP
有りで約 34 倍の高速化を実現した。これにより、M7 程度までの地震であれば防災科研からのデータ受信後 5 分以内
に最大速度と計測震度の地震動マップを計算し、ホームページへの掲載および WMS での即時配信を行えるようになっ
た。2011 年 2 月から試験配信されたデータに基づいて計算した地震動マップ公開の一例を図 2 に示す。他機関のポー
タルサイトや Google Earth のようなクライアント、個人の GIS 等での利活用が可能であり、地震直後からの各種意
志決定に利用されることが期待される。
[成果の発表]
・シンポジウム等
1件
図1
QuiQuake の概要
図2
2011 年 2 月の地震動マップの一例
4.共同研究
(12)各火山の岩石コア試料の基礎調査
研究代表者
火山:鵜川元雄
実施期間
平成 21 年度~平成 25 年度
研究参加者
火山:長井雅史、棚田俊收、藤田英輔、上田英樹、小園誠史、河野裕希、小澤拓、實渕哲也
共同研究先
北海道大学理学研究科、岩手大学教育学部、東京大学地震研究所、阿蘇火山博物館、
熊本大学教育学部、京都大学理学部、日本大学文理学部
[目
的]
平成 21~22 年度に整備した有珠山、岩手山、浅間山、阿蘇山、霧島山の火山観測施設において、観測井を掘削す
る際に採取した岩石コア試料を各火山の研究を進めている共同研究先機関と共同で分析し、それぞれの火山の噴火史の解明に
資することを目的とするものである。
[実施内容]
平成 22 年度は、平成 21 年度に引き続き、各対象火山について防災科学技術研究所がコア試料を採取するとともに、
共同研究先機関においてコア試料を保管し、双方が共同でコア試料の調査方法について検討した。なお、対象火山と
共同研究先機関は下記のとおりである。
1. 有珠山
北海道大学理学研究科
2. 岩手山
岩手大学教育学部
3. 浅間山
東京大学地震研究所
4. 阿蘇山
阿蘇火山博物館
5. 霧島山
東京大学地震研究所
日本大学文理学部
京都大学理学部
熊本大学教育学部
[成果と効果]
すべての対象火山において深さ 200m までのコア試料を採取し、研究の基礎を作ることができた。このコア試料に
より噴火履歴に新たな知見が加わり、火山災害予測の精度が高まることが期待される。
なお各火山で掘削・採取された岩石コア試料の主な特徴は以下のようなものである。
1. 有珠山(有珠山壮瞥火山観測施設)
深度 205m から深度 79m までは主に未固結の礫岩層からなり、しばしば軽石凝灰岩層を伴う。深度 79m以浅はそ
れを基盤にして有珠火山初期の外輪山火山体形成期の玄武岩質溶岩流が累重している。最上部の約 24m は歴史時代
噴火の火砕流堆積物ないしその二次堆積物が主体となっている。
2. 岩手山(岩手山松川崋山観測施設)
深度 203m から深度 135mまでは熱水変質が著しい凝灰角礫岩主体で、部分的には溶岩と思われる塊状岩体も存在
する。深度 135m 以浅は岩手火山の基盤である松川安山岩や中倉山火山噴出物の可能性の高い火山角礫岩、凝灰角礫
岩からなる。試料にはせん断変形が認められる部分が多く存在し、特に深度 150mから 130m付近は変形が著しく縞
状の構造が発達している。
3. 浅間山
①
浅間山鬼押出火山観測施設
深度 201mから深度 98m までは浅間火山初期の黒斑火山に属すると思われる安山岩質の火砕流や土石流
の堆積物を主体とし、深度 98mから深度 72mまでは仏岩火山に関係するデイサイトや軽石混じりの土石流
堆積物からなる。深度 98m以浅は主に安山岩質火砕流堆積物の累重からなり、約1万年前から活動を続け
る前掛火山に属するとみられる。
②
浅間山高峰火山観測施設
深度 201mから深度 94m までは浅間火山の基盤である烏帽子火山群に属すると思われ、深度 201mから
深度 104m までは安山岩質の火砕流堆積物ないし自破砕状溶岩、深度 104mから深度 94m までは塊状の溶
岩流からなる。深度 94mから深度 6m までは浅間火山初期の黒斑火山に対応するとみられる土石流や火砕
流の堆積物で、深度 6m 以浅は仏岩火山に関係するデイサイト質火砕流堆積物からなる。
4. 阿蘇山
①
阿蘇山一の宮火山観測施設
深度 200mから深度 140m までは玄武岩質の溶岩流、深度 140mから深度 55mまでは火砕流や土石流の
堆積物を主体としている。深度 55m 以浅は中岳火山噴出物と思われる玄武岩質の降下火山灰層と土壌層、
火砕流堆積物の互層からなる。
②
阿蘇山白水火山観測施設
深度 201mから深度 60m までは主に安山岩-デイサイト質の溶岩流や降下軽石層、土壌層からなる。深
度 60m以浅は中岳火山に関係すると思われる玄武岩質溶岩流が主体である。
5. 霧島山
①
霧島山万膳火山観測施設
深度 201mから表土下の深度4mまでの大部分が厚い安山岩質溶岩流からなる。溶岩流は 4 枚程度に分れ
ており、境界部には変質した土石流堆積物や火砕流堆積物が挟まれている。
②
霧島山夷守台火山観測施設
深度 201mから深度 20mまでの大部分が厚い安山岩質溶岩流からなる。溶岩流は7枚程度に分れており、
境界部には変質した土石流堆積物や火砕流堆積物が挟まれている。深度 20mから地表までの間は甑岳、韓
国岳、高千穂峰等の最近数万年間に活動した火山体に由来する多数の降下軽石層・スコリア層を挟む土壌層
からなる。
[成果の発表]
・研究報告
1件
口頭発表
1件
4.共同研究
(13)合成開口レーダ干渉法による火山性地殻変動モニタリングに関する研究
研究代表者
火山:小澤拓
実施期間
平成 22 年度
研究参加者
共同研究先
[目
宇宙航空研究開発機構
的]
本課題は、陸域観測技術衛星「だいち」に関する研究公募に基づいて提供される陸域観測技術衛星「だいち」の
SAR データを使用するためのものであり、プロジェクト研究「火山噴火予知と火山防災に関する研究」における「SAR
干渉法解析技術開発に関する研究」と関連するものである。特に、本課題は、プロジェクト研究「火山噴火予知と火
山防災に関する研究」において開発する SAR 干渉解析手法の精度検証を目的としたものである。
[実施内容]
画像内につくばを含む PALSAR データを入手し、精度検証に用いるための SAR 干渉画像を作成した。また、プロジ
ェクト研究「火山噴火予知と火山防災に関する研究」において開発した新 InSAR 時系列解析手法をそれらの SAR 干渉
画像に適用し、得られた結果を国土地理院の GEONET による地殻変動データと比較した。
[成果と効果]
画像内につくばを含む PALSAR データを入手し、精度検証実験に用いるための干渉画像を作成した。それらにプロ
ジェクト研究「火山噴火予知と火山防災に関する研究」において開発した新 InSAR 時系列解析手法を適用したところ、
GEONET による地殻変動データとおおよそ 1cm で整合する結果が得られた(図1)。特に、地下水の水位変化に伴う地
盤変動と考えられている 1-2cm 程度の振幅を持つ年周的な変化に対しても、若干ながら感度を持つことを示す結果が
得られた。平成 21 年度に実施した解析においては、このような変化に対する感度は得られなかったことから、入力
パラメータの高精度化等の改良により、得られる地殻変動精度が向上したと考えられる。
本課題による解析は、プロジェクト研究「火山噴火予知と火山防災に関する研究」における新 InSAR 時系列解析手
法の開発に役立てられた。新 InSAR 時系列解析手法の開発に関する成果と効果については、プロジェクト研究「火山
噴火予知と火山防災に関する研究」に関する報告において述べたので、そちらを参考されたい。
図1
新 InSAR 時系列解析により求めた地殻変動(三角印)と国土地理院の GEONET による地殻変動(黒点)との比較。
GEONET の固定点は守谷観測点。(a)つくば 3 観測点における準上下成分
(c)石下観測点における準上下成分
(d) 石下観測点における東西成分
(b) つくば 3 観測点における東西成分
4.共同研究
(14)降雨浸透が斜面内の温度分布に与える影響
研究代表者
水・土砂:酒井直樹
研究参加者
水・土砂:石澤友浩,福囿輝旗
共同研究先
産業技術総合研究所:内田洋平
[目
実施期間
平成 22 年度
的]
大型降雨実験施設C区画内の大規模盛土に対して,自然降雨および乾燥の繰り返し履歴を与え,斜面内の温度分布
の連続観測および電気探査による定期的な比抵抗モニタリングを行う.本研究では,大型盛土内の水移動の空間的な
時間変化を把握する技術の開発を最終的に目指すものである.
[実施内容]
大規模盛土斜面に対して,4 地点(No.2 ~No.5 温度センサ群)5 深度に温度センサを埋設し,精密な地下温度のモ
ニタリングを開始した.図 1 に温度センサの測定位置,温度センサ群の現場設置図を示す.測定データは,計測小屋
内に設置したデータロガーおよびパソコンで記録・管理を行った.
[成果と効果]
降雨施設を移動し,盛土を自然状態下におき,数ヶ月の観測を行い複数の降雨時の温度変化挙動を得た.それら
の結果より,それほど強くない降雨時の記録より,降雨浸透に伴い 50cm 程度までは温度の変化が数度と大きいが,
それ以下の深度では,ほぼ一定であることがわかった.また斜面下部には地下水が高く存在することから,No.2 にお
ける温度変化は地下水の影響を受けており,他地点での挙動と傾向が異なるという結果が得られた.
以上の結果より,降雨時の斜面内部の温度変化の機構が,降雨浸透と地下水の分布の影響を受けていることが示唆
されるため,今後地下水の把握と降雨浸透解析を行い温度の変化機構を明らかにする予定である.
図1
温度センサの測定位置,温度センサ群の現場設置図
4.共同研究
(15)ゲリラ豪雨を対象としたリアルタイム降雨計測と地盤の応答に関する研究
研究代表者
水・土砂:酒井直樹
研究参加者
水・土砂:石澤友浩,福囿輝旗
共同研究先
京都大学:小山倫史
[目
実施期間
平成 22 年度
的]
近年,発生数が増加傾向にあるゲリラ豪雨は,大きな降雨強度が随時変化しているといった特徴を持つ.従来,降
雨を評価する場合には,時間雨量(1 時間毎の降雨量)が用いられてきたが,ゲリラ豪雨を時間雨量で評価すると,
降雨強度が平均化され,地盤の飽和度の増大やサクション圧の変化,有効応力の変化といった降雨強度のインパクト
が過小評価される可能性があることから,ゲリラ豪雨の降雨量をリアルタイムで計測し評価に反映する必要がある.
しかしながら,現在降雨量計測に使われている転倒ます型雨量計は,ますに雨水が溜まることで転倒する回数から降
雨量を計測するという原理から,ますを大きくすると転倒するまでにタイムラグが生じ,ますを小さくすると,大き
な降雨強度の場合には,ますがうまく転倒せず,降雨量を精度よく計測できないといえる.そこで,ゲリラ豪雨の降
雨量を精度よく計測できることを目的とし,新たにレーザー変位計を用いたリアルタイム雨量計を開発した.
[実施内容]
①200mm/hr 約 1 時間×3 回
②15mm/hr,100mm/hr 各約 10 分を交互に 3 回
以上の降雨を計測.リアルタイム雨量計と同時に転倒ます型雨量計でも計測している.
[成果と効果]
①
レーザー変位計を用いたリアルタイム
雨量計での計測結果は,転倒ます型雨量
計の計測結果よりも降雨量が多く計測さ
れている(レーザー:約 235mm/hr,転倒
ます:約 176mm/hr).レーザー雨量計で
は,計測初期段階(レーザーから反射板
までの距離が長い)において,計測に若
干のばらつきがみられる.
-
②
レーザーを用いたリアル
タイム雨量計での計測結果
において,降雨強度が変わ
るときに計測のばらつきが
目立つ.また,ケース①同
様,計測初期における計測
精度が低い.
[成果の発表]
・口頭発表
1件
4.共同研究
(16)排水条件の変化が斜面安定性に及ぼす影響に関する研究
研究代表者
水・土砂:酒井直樹
研究参加者
水・土砂:石澤友浩,福囿輝旗
共同研究先
長岡技術科学大:豊田浩史
[目
実施期間
平成 22 年度
的]
09 年度に実施した防災科学研究所大型降雨施設での実験は,斜面下端部に排水機構を設けることで,斜面下端部の地
下水を排水することによって,それが斜面内水分分布や斜面の抵抗性にどのように影響するかについて検討した.そ
の結果,斜面下端部に排水装置を設けることで,斜面内の水位が上昇する時間を遅らせる効果と,斜面と平行に地下
水位が上昇する場合に,地表面変位が急増する可能性が示唆された.そこで本研究では,排水性能や排水位置を変化
させた実験を行い,それが斜面内水分分布や斜面の抵抗性,斜面の崩壊時刻にどのように影響するかについて検討し
た.また,08 年度と同様の条件での実験を実施し,計測結果の再現性の確認も行った.
[実施内容]
初めに履歴降雨として降雨強度 15mm/h の雨を 4 時間程降らせた.この履歴降雨は,08 年度の地表面変位と地下水
位の実験結果を参考に決定されたものである.その後,地盤の変動や地下水位が安定するまで待ち,翌日に斜面が崩
壊するまで降雨強度 50mm/h の雨を降らせた.
実際の自然界では降雨があって地盤がある程度湿った後に,再度降雨があった場合に斜面崩壊に至るケースが多い.
そのため,本実験ではそれを再現するために,このように,履歴降雨を降らせた丸一日後に本降雨を降らせた.
[成果と効果]
Fig.1,Fig.2 より,case1,case2 ともに,本降雨開始直後に平坦部の先端(P1),平坦部と斜面部の境界部(P2)
の水位が上昇した.斜面部の水位上昇は,case1,case2 いずれの場合も境界部(P2)の水位が 45 ㎝程度まで上昇し
た後,斜面下部(P3)から上部(P4,P5)にかけて水位上昇が見られた.これは境界部(P2)の水位がほぼ地表面ま
で達したため,斜面内の土中水が平坦部へ移動できなくなり,土中水が斜面上部へと移動したものと考えられる.つ
まり,斜面上部から下部へと浸透水が流れることによって生じた履歴降雨時の斜面内の水位上昇とは性質が異なる.
これより,斜面下部からの水位上昇は境界部(P2)の水位が地表面付近まで上昇することにより生じるため,斜面部
の水位上昇抑制には境界部(P2)の水位を低下させることが重要であるということがいえる.case2 では,排水開始
以降,斜面下端部の排水機構から土中水が排水されることにより平坦部の先端(P1)の水位上昇がほとんどなくなり,
(P2)の水位が上昇する速度が低下した.斜面部の水位上昇も case1 と比較して各計測点(P3~P5)で 10 分程度遅
れている.これより,斜面下端部に排水機構を設置することで,境界部(P2)の水位上昇を抑制し,その結果多少で
あれば,斜面内の水位上昇を抑制することが可能であるといえる.しかし,今回の排水機構の条件,設置位置では十
分といえる効果はあまり見られなかった. また 08 年度との実験の再現性は,水位では確認されなかったが,崩壊時
刻においては確認された.
160
160
本降雨
8
履歴降雨
本降雨
140
120
120
6
100
5
80
4
GroundwaterLevel (cm)
140
100
80
60
p2
40
20
3
p2
p1
40
p4
p5
20
p5p4 p3
p6
0
2
1
p3
p6
0
0
0
Fig.1
p1
60
7
5
10
15
Time (h)
20
25
case1 の降雨時間と地下水位変動の関係
[成果の発表]
・口頭発表
2件
30
Quantity of Flow (L/min)
GroundwaterLevel (cm)
履歴降雨
0
5
Fig.2
10
15
Time (h)
20
25
30
case2 の降雨時間と地下水位変動の関係
4.共同研究
(17)スペクトラム拡散通信システムの実用試験およびパルス加振の応答観測による斜面内の状態推定に
関する研究
研究代表者
水・土砂:酒井直樹
研究参加者
水・土砂:石澤友浩,福囿輝旗
共同研究先
群馬大学:松本健作
[目
実施期間
平成 22 年度
的]
降雨による斜面崩壊場における温度および・電位の継続計測を行い,その特性から崩壊の早期予測に資する知見の
抽出を試みた.斜面中央の底部には砕石を充填した人工の水ミチが設置されており,水ミチの存在による崩壊特性の
変化,および各種センサによる斜面内の水ミチ位置の探知精度に関する検討も併せて行うことを目的とするものであ
る.
[実施内容]
写真-1 に実験斜面とセンサ設置状況を示す.図中,赤色逆三角は温度センサ(上部の塗りつぶしは土中の他のセン
サと位置が重なった為,予定より上に 20cm,斜面向かって右に 20cm ほど位置変更をして設置したもの)で測温体を斜
面上下方向に 3 列,計 18 測点,黄色丸が電位センサで,酸化膜被覆の鉛電極を斜面上下方向に 2 列 12 測点とグラン
ド値として斜面向かって左下部に 1 測点の計 13 測点,斜面中央に斜面上下方向に 1 列,傾斜計として MEMS 型加速度
センサを計 5 測点設置した.
[成果と効果]
ここでは温度計測の挙動を確認する(図 2)と,3ch 全てで同様の挙動を示していることが判る.③の通水量増加
の時刻までは漸減し,そこから崩壊まで比較的高い上昇速度で昇温して崩壊に至る.これら温度変化の要因はまだ解
明できていないが,通水および散水させる水がタンクからの試用であるため,貯水状態に時点で元々温度勾配を有し
ていた可能性もある.温度を指標として定量的検討を行う場合にはこれらの点に今後改善が必要であろうと考えられ
る.しかし,各時刻における 3ch の温度を比較すると,常に ch5 のみが 0.2 度ほど低くなっている.本実験で使用し
た温度センサの感度が 0.003℃であることから,有意な温度差を計測しているものと思われる.ch5 は人工水ミチの
直上に位置しており,水ミチの通水による冷却効果を捉えている可能性が高いと考えられる.
写真1 計測機器設置位置
[成果の発表]
・査読誌
1件
・口頭発表 1 件
図2 温度の経時変化(ch4,5,6)
4.共同研究
(18)豪雨による斜面崩壊メカニズムの解明とモニタリング手法に関する研究
研究代表者
水・土砂:酒井直樹
研究参加者
水・土砂:石澤友浩,福囿輝旗
共同研究先
茨城大学:村上哲
[目
実施期間
平成 22 年度
的]
降雨時の斜面崩壊を模擬した大型降雨模型実験において加速度センサ IC タグを用いた斜面モニタリング手法の有
効性を検討した。
[実施内容]
実験は,雨水が斜面に浸透することにより,重錘落下による斜面の
振動特性がどのような変化を示し,崩壊に至るのかを把握するため,
防災科学技術研究所の室内大型降雨実験装置を用いて大型降雨模型実
験を実施した。図1に模型斜面の概要とセンサ配置箇所を示す。土槽
は,底部にコンクリートを用いて,両端面,上端面には鉄板が設置さ
れている。斜面下部において排水状態となっている。寸法は,斜面長
10m,幅4m,地盤深1m,傾斜30°である。地盤の作成方法は,茨城県
図 1 模型斜面の概要とセンサ配置図
で採取された含水比7.5%程度のまさ土を用い,1層20cm毎に試料を人
力によって締固め,計25層全ての密度を測定し,平均乾燥密度が約
1.6g/cm3になるように地盤を作成した。
重錘落下による加速度測定は,斜面から10m離れた位置に鉄板を置き,その上に約50cm,約100cm,約150cmの三段
階の高さから質量20kgの鉄塊を落下させ,その時の加速度を測定した。測定は降雨開始時から20分間隔で崩壊に至る
まで実施した。
[成果と効果]
図 2 は,各測定時刻で測定した加速度波形データから,加速度の絶対値の最大値を最大加速度として求めた結果を
示したものである。降雨継続時間の経過に伴い最大加速度は減少傾向にあることがわかる。また,重錘落下高さや重
錘落下位置の地盤のコンディションが厳密に一定でなかったことを考慮すると,入力波の補正が必要である。そこで,
入力波の補正をする目的で,各測定時刻の ID01 の最大加速度に対するそれぞれの最大加速度の比をとった(図 3 参
照)。図 3 より,降雨継続時間の経過に伴う最大加速度の減少傾向が図 2 同様に認められた。また,図 3 では,崩壊
前の 160 分,180 分,200 分において全ての最大加速度の比率が 1 より小さくなった。これは,降雨継続時間の経過に
伴い斜面が脆弱化することにより,最大加速度が減少したのではないかと考える。以上のことから,加速度センサ IC
タグを用いた斜面モニタリング手法の構築の可能性が示されたと考える。
2
最大加速度(gal)
60
50
40
ID01
ID02
30
ID03
20
ID04
ID05
ID06
ID08
ID09
10
0
0
50
100
150 ID07
200
ID01に対する比率
70
1.5
1
ID01
ID02
ID03
0.5
0
ID04
ID05
ID06
ID08
ID09
0
50
図 2 最大加速度と降雨継続時間の関係
[成果の発表]
・口頭発表 1件
100
150 ID07
降雨継続時間(分)
降雨継続時間(分)
図3
降雨継続時間と ID01 に対する比率
200
4.共同研究
(19)表面被覆が浸透能力と土砂流出に及ぼす効果の実験的検証
研究代表者
水・土砂:酒井直樹
研究参加者
水・土砂:石澤友浩,福囿輝旗
共同研究先
長岡技術科学大学:恩田裕一
[目
実施期間
平成 22 年度
的]
降 H20.7 に神戸の都賀川をゲリラ豪雨が襲い, 河川の水位が上昇し 5 人が亡くなる事故が発生した. 事故の原因は,
周囲に降り注いだ強い降雨が地表に吸収されず一気に河川に流入し, 10 分間で 1.3m の水位上昇を招いた. 対策とし
て, 地中への流出を促進させる, または表面流の河川への流入時間を遅らせるなどの方法が考えられる. たとえ数分
でも表面流の発生を遅延できればピーク流量を抑えることができ, 被害を軽減させられる可能性がある. 例として,
浸透ますの導入が挙げられるが設備投資の際, 実地試験や設置後の維持コストがかかるなどの問題点がある. 洪水は
雨滴の衝撃により土壌の団粒構造が破壊され, 表面に不浸透性の膜が生成することが要因とされている. 植生やリタ
ーによる表面被覆は表面流出を抑制する効果がある. 本研究では,浸透能の低下を抑制する植生が, 不浸透領域と化
した土地の上部からの流出浸透にどのように関与するか検討することである.
[実施内容]
1.5×10mのプロットを二本設置し, 発生する表面流の量を一定にした. 後, 右端のプロットの最下部から30cmほ
どスペースを置いた1mの面積に植生(日々草)を設置し, 流量や表面流の発生時間を比較した. 植生効果を知るため裸
地プロットとの比較を行った. 尚, 表面流は三角堰で測定した.
Fig.1
設置したプロットの概要
[成果と効果]
70mm/h の降雨実験の際, 表面流の発生時間は裸地のほうが一分ほど早かった. しかし, 降雨 17 分後に裸地と植生有
プロットの流量が逆転した. この実験結果を受けて, 次からの実験の降雨強度を 60mm/h に設定した. 結果, 園芸植
物を斜面下部に置くことにより 60mm/h の降雨時において表面流発生時間を最大 6 分遅らせることができ, ピーク流
量を軽減することができた. 各実験結果を Fig.2 に示す.
Fig.2 時間経過ごとの流量の変化
[成果の発表]
・口頭発表 2件
4.共同研究
(20)繰り返し降雨履歴が変形プロセスに与える影響に関する研究
研究代表者
水・土砂:酒井直樹
研究参加者
水・土砂:石澤友浩,福囿輝旗
共同研究先
高知大:笹原克夫
[目
実施期間
平成 22 年度
的]
降雨時の斜面崩壊には,地下水位が上昇し崩壊に至る場合だけでなく,地下水位が形成されない不飽和状態におい
て,飽和度の上昇により斜面の変形が進行し崩壊に至る場合も存在する.しかし,実際に自然斜面の崩壊までを観測
することは困難であり,現実の斜面の地盤構造・土質等を単純化した模型斜面で崩壊実験を行う手法が採られてきて
いる.本研究では,繰り返し降雨を受けているという自然斜面の特性の一つを有した模型斜面による斜面崩壊実験を
行い,繰り返し降雨による自然斜面の形成過程の観察,および繰り返し降雨履歴の有無が斜面の挙動に与える影響を
検討し,繰り返し降雨を受けた斜面内部における降雨下での変形挙動を把握することを目的とする.
[実施内容]
表-1 降雨履歴
模型斜面の変形挙動を観測するために,斜面鉛直方
期間
向の変位(変位計:VD),斜面水平方向の地表面変位
δSD(インバー線式伸縮計:SD)を計測した.ここで,
7/29,10時10分
(防護期間(7/29, 10時10分~9/10,13時17分))
斜面鉛直方向の変位は,斜面表面と土中内の鉛直変位
δVD を計測した.(土中の鉛直変位δVD の計測は,
備考
2010/6/21,15時~
自然降雨期間NR
模型斜面に自然降雨を与えた期間
防護シートを設置し,降雨影響はない.
人工降雨:計10回
人工降雨期間AR
2010/9/10,13時17分~
(時間降雨量30mm/h,2時間:計9回)
10/18, 16時55分
(時間降雨量50mm/h,変形が生じるま
直径 5 ㎝の円盤を設置深度 GL-0.1, 0.2, 0.3, 0.4,
で散水した.:計1回)
0.5mに挿入して,鉛直変位を計測した.)
この実験における降雨条件は同一模型斜面に自然の降雨履歴を与えた実験の後,計 10 回の人工降雨履歴を与えた
実験をおこなった(参照:表-1).
[成果と効果]
結果の一例として,図-2 は,初期人工降雨履歴(人工降雨履歴 01:30mm/h, 2 時間)における斜面中腹部の体積含水
率(正(+)は増加量.),サクション(正(+)は低下量.),圧縮ひずみ(正(+)は圧縮.),せん断ひずみ(正(+)は
斜面下方方向のせん断.)の変化量を示している.これらの圧縮・膨張の経時変化を見ると,降雨時には雨水浸透に
伴う土の単位体積重量増加によって上載圧が増加しているにも関わらずほとんど圧縮・膨張は進行しない場合もあり,
逆に降雨後の排水に伴う上載圧の減少によりそれらが進行することが確認された.これにより,斜面の圧縮・膨張変
形は降雨後の上載圧減少および土壌水分吸引圧増加に伴い進行すると考えられる.
50
0.005
40
体積含水率
35
30
0.004
SW04(GL-45cm)
SW05(GL-35cm)
SW06(GL-25cm)
SW07(GL-15cm)
SW08(GL-05cm)
25
20
0.000
-0.001
-0.003
5
-0.004
0
-0.005
τ(GL-4.6cm)
τ(GL-13.8cm)
τ(GL-23cm)
τ(GL-32.2cm)
τ(GL-41.4cm)
τ(GL-50.4cm)
20
10
/0
9/
10
13
20
:00
10
/0
9/
10
1
5:0
20
10
0
/0
9/
10
17
20
:00
10
/0
9/
10
1
9:0
20
10
0
/0
9/
10
21
20
:0
10
0
/0
9/
10
23
20
:00
10
/0
9/
11
01
20
:0
0
10
/0
9/
11
03
:0
0
10
0.01 0
降雨期間
ε01(GL0-10cm)
ε02(GL10-20cm)
ε03(GL20-30cm)
ε04(GL30-40cm)
ε05(GL40-50cm)
0.00 8
サクション
0.00 6
Compressive strain ε
TM01( GL-5cm)
TM02( GL-15cm)
TM03( GL-25cm)
TM04( GL-35cm)
TM05( GL-45cm)
0.00 4
圧縮ひずみ
0.00 2
0.00 0
-0.00 2
-0.00 4
-0.00 6
-0.00 8
降雨期間
17
20
:00
10
/0
9/
10
1
9:0
20
10
0
/0
9/
10
21
20
:00
10
/0
9/
10
2
3:0
20
10
0
/0
9/
11
01
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10
/0
9/
11
03
:0 0
00
20
1
0/
09
/1
0
15
:
13
:0 0
9/
10
20
10
/0
/1
0
20
10
/0
9
20
20
10
/0
9/
10
15
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10
/0
9/
10
17
20
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10
/0
9/
10
19
20
:0
10
0
/0
9/
10
21
20
:00
10
/0
9/
10
23
20
:0
10
0
/0
9/
11
01
20
:00
10
/0
9/
11
03
:00
-0.01 0
13
:00
Suction (kPa)
せん断ひずみ
0.001
-0.002
75
70
65
60
55
50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
-5
降雨期間
0.002
15
/1
0
20
10
/0
9
0.003
Shear strain
降雨期間
20
10
/0
9/
10
13
20
:00
10
/0
9/
10
15
20
:00
10
/0
9/
10
17
20
:0
10
0
/0
9/
10
19
20
:00
10
/0
9/
10
21
20
:00
10
/0
9/
10
23
20
:00
10
/0
9/
11
01
20
:00
10
/0
9/
11
03
:00
Water content by volume (%)
45
図-2 人工降雨履歴 01 の体積含水率,サクション,圧縮ひずみ,せん断ひずみの変化量
[成果の発表]
・口頭発表 1件
4 共同研究
(21)小型気象レーダの開発と気象災害の予測
研究代表者
水・土砂:眞木
雅之
研究参加者
水・土砂:眞木
雅之
実施期間
平成 18 年度~平成 23 年度
コロラド州立大学:V. Chandrasekar, Yanting Wang
[目
的]
高度に発達した交通網や通信網を有し、数百万の人が生活する大都市には、集中豪雨、落雷、突風などの局地的な気
象擾乱に対する脆弱性が内在する。例えば、アスファルト舗装の道路や密集したコンクリート建物のために、局地的
な豪雨があると雨水が一気に下水道へ流れ込む。排水処理機能がこれに追いつかない場合には雨水が下水道からあふ
れ出し、道路や鉄道の冠水、繁華街や地下街での浸水による被害が発生する。また、都市への人口集中に伴い丘陵や
山麓に開発された住宅地は、局地的な豪雨による土砂災害の危険をはらんでいる。落雷や竜巻等の突風による通信施
設や電力施設への被害は、都市機能を麻痺させ、都市経済や人間生活に多大な被害をもたらす。このような気象災害
を対象に、安価な小型気象レーダの開発と密なネットワーク化により、高度3km以下の気象災害の観測・理解・予
測の革新をはかる。なお,本共同研は国土交通省の委託研究「MP レーダによる雨と風の3次元分布推定手法の開発」
から支援を得ておこなっている。
[実施内容]
(1)ネットワークレーダ観測シミュレーター
・レーダネットワーク観測シミュレーションプログラムを 2009 年に完成させ,雨と風の3次元分布情報を求める
ための最適なアンテナスキャンモードを提案する。
・疑似降雨モデルに対して観測シミュレーションをおこない,下記の開発アルゴリズムの動作確認をおこなう
(2010 年~2012 年)。
(2)3次元分布作成アルゴリズム
・雨滴形状,温度,アンテナ観測仰角を考慮した降雨量推定アルゴリズムの高度化を 2009 年度に終了した。
・雨の3次元分布情報を求めるアルゴリズムを 2010 年度に開発し,2011 年度に試験運用と改良をおこなう。
・風の3次元分布情報を求めるアルゴリズムを 2011 年度までに終了し,2012 年度に試験運用と改良をおこなう。
(3)風水害等の予測に有効なパラメータの算出
・鉛直積算雨水量を推定するアルゴリズムを 2010 年度に開発し,2011-2012 年度に試験運用と改良をおこなう。
・3大都市圏を対象に,流域面積雨量を推定するアルゴリズムを開発し,2011-2012 年度に試験運用と改良をおこ
なう。
・実効雨量を求めるアルゴリズムを 2010 年度に開発し,2011-2012 年度に試験運用と改良をおこなう。
[成果と効果]
欧州レーダコンファレンス(ルーマニア)に参加し首都圏での X バンドレーダネットワーク(X-NET)について紹
介するとともに欧州での小型レーダ利用について調査をおこなった。また,コロラド州立大学の Chandra 博士と降水
ナウキャストの共同開発について議論した。将来の首都圏を試験地として X-NET 情報を地方自治体,民間企業に提供
し開発したアルゴリズムの実利用実験を開始した。
[防災行政等への貢献]
国土交通省「レーダ活用による河川情報高度化検討委員会・X バンドレーダ分化会」において、本研究成果を紹介。
4.共同研究
(22) X バンドMPレーダネットワークを用いた山岳地域の降雨量分布に関する研究
研究代表者
水・土砂:眞木雅之
研究参加者
水・土砂:眞木雅之、清水慎吾、若月強、キム
共同研究先
釜慶国立大学:リー ドンイン、ジャン ミン、ソー ギルゾング
[目
実施期間
平成 22 年度~平成 24 年度
ドンスン、P.C.シャクティ
的]
山岳域の降雨量分布の推定は,自然環境保護,水資源管理,土砂災害の監視にとって重要である。詳細な雨量分布
を求める手段としては,密な地上雨量計ネットワークによる観測が有効であり,これまで平坦な場所では研究目的に
限らずルーチン的にも良く用いられてきた。しかしながら,山岳地域は雨量計の設置や維持が困難であるため,密な
雨量計ネットワークによる観測はほとんど行われていない。一方,気象レーダは1台で半径 100km 程度の円内の雨量
分布を測定することができるが,在来型レーダの場合,ビームの地形による一部遮蔽,雨滴粒径分布の変動や送信電
波の降雨減衰に伴うZ-R関係式の誤差などのために精度良い降雨量推定は困難である。これに対して,マルチパラ
メータレーダ(以降,MPレーダ)による観測は,これらの影響を受けにくいとされており,山岳域の雨量分布を求
める有効な手段と考えられる。本研究の目的は複数台のMPレーダ観測により山岳域の詳細な雨量分布を推定し,そ
の時空間変動を明らかにすることである。
[実施内容]
(1)XバンドMPレーダによる観測と解析
防災科学技術研究所のMPレーダによる降水観測を実施し取得したデータを解析する。データ解析に当たっては国
交省MPレーダや山梨大学のMPレーダのデータもあわせて解析する。観測対象エリアは丹沢山地,箱根山地,奥多
摩山地,富士山地域とする。
(2)地上雨量計による観測と解析
釜慶国立大学の 10 台の地上雨量計を試験山域に配置しデータ取得と解析を実施する。観測にあたって,釜慶国立
大学は雨量計を韓国からつくばへ輸送し事前に機器の調整をおこなう。防災科学技術研究所と国立釜慶大学校と協議
の上,雨量計の設置地点の選定し,観測を実施する。また,降水微物理過程への山岳地形の影響を調べるために,デ
ィスドロメータを山岳の風上側と風下側に設置して雨滴粒径分布,雨滴形状,降水タイプなどの基礎的なデータを取
得する。
[成果と効果]
・予備調査として気象庁の C バンドレーダ雨量情報を用い
て関東地域の降雨量分布の特性を調べた結果,層状性の雨
は標高依存性が認められたが対流性降雨は認められなかっ
た。
・箱根エリアに雨量計 10 台を設置して海老名 MP レーダに
よる観測をおこない,データを取得した。
・地形によるビームの一部遮蔽の効果を補正するための
DEM モデルを作成した。
4.共同研究
(23)マルチパラメータレーダ降雨観測法開発とレーダ観測データの雲解像数値モデルへの同化法に関する研究
研究代表者
水・土砂:眞木雅之
研究参加者
水・土砂:清水慎吾
共同研究先
名古屋大学地球水循環研究センター:
[目
実施期間
平成 22 年度~平成 23 年度
前坂剛
坪木和久
的]
名古屋大学地球水循環研究センター(以下、 HyARC)は、 X バンド MP レーダと雲解像数値モデル CReSS を用いて、
局地的な大雨や集中豪雨の予測技術の開発を進めている。一方、 防災科学技術研究所(以下、防災科研)は、X バンド
MP レーダを導入し、雲解像モデルを用いたデータ同化手法による降水予測手法の開発を行っている。本共同研究は、
両研究機関が所有する MP レーダデータと数値モデルを用いて、定量的降雨量推定手法の高度化を行う。
これにより、MP レーダのデータ同化による降雨量推定のさらなる精度向上を図る。
[実施内容]
2010 年 7 月 5 日に東京都板橋区で発生した豪雨事例に関する予測・同化実験をおこなった。これまでの三次元変
分法同化による初期値改善に加えて、初期時刻から一時間程度に渡って、ナッジング四次元同化法による雨域の修
正を行った。また、防災科研で開発した同化システムを 2010 年 7 月 15 日に岐阜県可児市で発生した豪雨事例につ
いて、HyARC のマルチパラメータレーダが取得したデータに適用し、予測同化実験を行った。
[成果と効果]
板橋豪雨に関して、豪雨が発生する 2 時間前の初期値をレーダデータ同化法で改善し、雨域・雨量の予測精度を
大きく改善することができた(図 1 左上:観測結果, 左下:今回開発した予測法の結果)。同様に、岐阜県可児市の豪
雨発生の 3 時間前の初期値をレーダデータで改善し、集中豪雨を精度良く再現することができた。防災科研で開発し
た同化手法が、関東以外の地域で、XNET 以外のマルチパラメータレーダデータにも適用できることを示し、手法の汎
用性を高めることができた。またこれらの成果は国内学会(2 件)と国際学会(1 件)にて発表することができた。
図 1 2010 年 7 月 5 日に東京都板橋区付近で発生した豪雨事例の高度 500m におけるレーダ反射強度と風速分布
(左上). データ同化を行わなかった場合の反射強度分布の予測 (右下).リアルタイムで運用している GPS とレ
ーダデータ三次元データ同化手法による予測(右上). 三次元同化およびナッジング同化による予測(左下)
[成果の発表]
・口頭発表
3件
(国内 2 件
国際 1 件)
4.共同研究
(24)斜面水文観測に基づく崩壊発生周期の予測に関する研究
研究代表者
水・土砂:若月
研究参加者
水・土砂:三隅良平
共同研究先
筑波大学:八反地
[目
強
実施期間
平成21~23年度
剛
的]
ある1斜面において、表層崩壊が発生した後、同じ位置でもう一度崩壊が発生するまでの時間を崩壊発生周期とい
う。崩壊発生周期は、崩壊発生に必要な豪雨の再現時間と崩壊地の土層回復速度によって決まると考えられる。本研
究の目的は、この2つを定量的に明らかにすることによって、崩壊発生周期を推定することである。今年度は、茨城
県多賀山地の地質の異なる2斜面において、崩壊発生に必要な豪雨の再現時間を評価するための水文観測を実施し、
斜面の安定条件を考察した。
[実施内容]
茨城県多賀山地において1977年9月の台風(7711)によって表層崩壊が多発した黒雲母花崗岩地域(以下Gb地域)と
角閃石黒雲母花崗岩地域(以下Ghb地域)のそれぞれ1斜面において観測を実施した。それぞれの斜面において、崩壊
地外側部の斜面土層中へテンシオメーターを設置し、潜在崩壊面の深度における圧力水頭を10分毎に自動観測を行っ
た。雨量計による降水量の変化とそれに対する圧力水頭の応答を調べ、降水に対する斜面土層中の地中水の挙動を調
査した。観測期間は2009年6月~2010年10月である。また、調査斜面において簡易貫入試験や土層の採取などによる、
各種物性値など土層の力学的性質・物理的諸性質の調査、および斜面の安定解析を行った。これらの結果より、地中
水の挙動と斜面崩壊の関係を考察した。
[成果と効果]
(1)角閃石黒雲母花崗岩地域(Ghb地域)は、崩壊密度は低く、主流脇の急勾配斜面のみで崩壊が発生していた。黒
雲母花崗岩地域(Gb地域)は、崩壊密度が高く、主流脇だけでなく小流域内でも崩壊が発生していた。
(2)Gb斜面とGhb斜面は、土層に透水性の違いはほとんどないが、Ghb斜面の方が土層が厚い(図1)。そのような違
いを反映して、Gb斜面では、土層・基盤岩境界付近で降雨時に圧力水頭が素早く上昇し、降雨後も高い状態を維
持した(図2)。すなわち、先行降雨の影響を受けやすい土層構造と考えられた。一方で、Ghb斜面では、降雨に
対しての反応はかなり遅い(図2)。以上より、Gb斜面はGhb斜面よりも少ない降水量でも崩壊する可能性がある
と考えられた。
Gb
80
40
100
0
0
-100
2009/10/25
0
20
10/26
Ghb
40
100
0
-100
-200
-200
図2
[成果の発表]
10/28
160
圧力水頭(cmH2O)
雨量(mm)
圧力水頭(cmH2O)
10/27
・口頭発表
1件
降雨イベントにおける圧力水頭の変化
10/27
10/28
160
80
0
積算雨量(mm)
20
10/26
積算雨量(mm)
2009/10/25
0
土層の透水性
雨量(mm)
図1
4.共同研究
(25)マルチパラメータレーダを用いた短時間気象予測に関する研究
研究代表者
水・土砂:鈴木 真一
研究参加者
水・土砂:眞木 雅之、岩波 越、三隅 良平、加藤 敦、前坂 剛、清水 慎吾
共同研究先
[目
(財)日本気象協会:山路
実施期間
昭彦、増田 有俊、竹下
平成 21 年度~平成 23 年度
航、田中
創、木村
洋一、東山 真理子
的]
防災科学技術研究所は X バンド(3cm 波長)のマルチパラメータレーダ(以下、MP レーダ)を用いて高分解
能・高精度で雨量を推定する方法を開発し、相関法や雲解像モデル CReSS を用いた降水予測手法の開発を行ってい
る.また、複数台の X バンドレーダを用いた風速の観測手法の開発も行っている.日本気象協会は、X バンドレーダ
を用いた観測を関東地方で行い、防災科学技術研究所とレーダ観測ネットワークを構築すると共に、オープンソース
のメソ数値予測モデルをベースにして独自の改良を加えた数値予測システム SYNFOS を運用している.防災科学技
術研究所と日本気象協会はこれまでにも共同研究を実施し、X バンドレーダを用いて強風の短時間予測を行う強風ナ
ウキャストシステムの開発などを行ってきた
MP レーダよる高分解能・高精度の雨量及びドップラー風速を,日本気象協会による数値予測システムの初期条件
として組み入れるデータ同化を更に高度化することにより,風水害・土砂災害等を引き起こす恐れのあるメソスケー
ル気象現象の予測の精度を高めることができると期待できるとともに,両機関が行っている予測手法の比較により,
相互に予測技術を高めることが期待できる.また,両者のシステムを活用して,日本気象協会が開発した洪水リスク
ポテンシャル情報をリアルタイムで作成し,その結果をHPで公開することも目的とする.
MP レーダの特色に偏波パラメータを用いた観測があり、これをもとにした降水粒子の判別が防災科学技術研究所
で試みられている.しかし、その結果を検証するための観測データを得ることが困難となっている.日本気象協会の
運営する Web サイトを用いて雹などの降水粒子の情報収集を行い、レーダを用いた粒子判別の検証を行うことも目
的とする.
[実施内容]
・日本気象協会の運営する tenki.jp への情報の投
稿から、雹や雷、突風などの情報を抜き出して電
子メールで送るシステムで,降雹や突風に関する
情報の収集を行った.
・強風ナウキャストシステムを防災科研のワークス
テーションにインストールし、リアルタイムでの
稼働を始めた.
[成果と効果]
・強風ナウキャストをリアルタイムで運用すること
により,初期値依存性や結果の利用など,いろい
ろな検証で用いることができるようになった.
[成果の発表]
・シンポジウム等 1 件
強風ナウキャストの例.2011 年 3 月 7 日 01:30 (UTC)
を初期値(左上)とした 10 分毎 50 分先までの予測さ
れた風速分布.
4.共同研究
(26)国土交通省 MP レーダネットワークデータを用いた定量的降雨量推定手法の高度化と検証に関する
研究
研究代表者
水・土砂:眞木雅之
研究参加者
水・土砂:眞木雅之、前坂 剛、加藤 敦、出世ゆかり、川田真也、吉井
共同研究先
国土技術政策総合研究所:吉谷純一、菊森佳幹、土屋修一、加藤拓磨
[目
実施期間
平成 22 年度~平成 24 年度
護
的]
国土交通省国土技術政策総合研究所(以下、 国総研)は、 三大都市圏等に設置される X バンド MP レーダネットワ
ーク情報を用いて、局地的な大雨や集中豪雨の予測技術の開発や洪水予測の高度化研究を進めている。一方、 独立
行政法人防災科学技術研究所(以下、防災科研)は、 2000 年に研究用 X バンド MP レーダを導入し、偏波パラメータを
用いた高分解能・高精度の雨量推定アルゴリズムを開発し、相関法や雲解像モデルを用いた降水予測手法の開発、風
水害リスク情報に関する研究を行っている。本共同研究は、両研究機関が所有する地上検証用データや MP レーダデ
ータを用いて、定量的降雨量推定手法の高度化と検証を行う。これにより、MP レーダネットワークの降雨情報のさら
なる精度向上を図る。
[実施内容]
・雨量精度向上のための降水観測
MP レーダによる降水パラメータ推定手法の開発、国交省 MP レーダ雨量情報の精度向上のために研究用レーダに
よる観測(防災科研)および雨滴粒径分布測定装置による観測(国総研)を実施した。
・降水パラメータ推定手法の開発
上記の観測データを用いて MP レーダによる降水パラメータ推定手法の検討および精度検証をリアルタイムでお
こなうためのシステムを構築した。
[成果と効果]
・MP レーダ情報および雨滴粒径分布測定装置による観測情報をもとに降水パラメータ手法の検討を行った。また、
降水量推定のリアルタイム検証システムの構築を実施し、顕著イベントに対する定量的雨量推定の速やかな実施
が可能になった。
4.共同研究
(27)MP レーダを用いた降雨時列車運転規制に関する基礎研究
研究代表者
水・土砂:三隅良平
研究参加者
水・土砂:眞木雅之・加藤敦・若月強
共同研究先
JR東日本防災研:島村誠・森島啓行・外狩麻子
[目
実施期間
平成22年度
的]
現在、JR東日本では鉄道沿線の約10kmおきに地上雨量計を設置し、ある降雨量を超過した場合に列車の運転を中断
するといった運転規制を行っている。今後、より合理的な運転規制を行うためには、沿線の連続的な降雨観測をする
必要がある。そこで、雨量計が不要で500mの空間分解能が可能なMPレーダを用いた降雨時運転規制の基礎研究を行う。
[実施内容]
局所的豪雨などの短時間に強い降雨に見舞われた際に,狭小河川や排水施設が適切に機能できずに氾濫・洪水が引
き起こされ,線路冠水や地下施設・アンダーパスが水没する事例が報告されている。そのような状況の予測可能性を
検討するため,横須賀線の通る横浜市今井川流域を対象として,分布型流出モデルを用いた流出解析を行った。入力
雨量としてJRのプレダス雨量計,気象庁解析雨量,MPレーダ雨量の3つを用いて,ハイドログラフの再現性を比較
した。
[成果と効果]
2007年10月7日の出水イベント(図1)では,アメダス解析雨量を使用した流出解析結果は,実績値の流量ピーク
を再現しきれなかった。MPレーダを使用した結果は,流出波形は実績値の波形に近いが,出水全体では過少評価と
なる傾向が出ている。検証に使用した出水イベントのうち,レーダがベースとなっている降雨情報を使用した解析結
果は,ピーク出現が鈍く過少評価となる傾向が見られた。今後更なる事例解析を行い,MPレーダの有効性を検討す
る必要があるが,MPレーダを用いた流量予測モデルのプロトタイプを構築することができた。
図1
(上)今出川流域図。(右)2009 年 10 月 7 日に
おけるハイドログラフ。分布型流出モデルによる計算
値を実線、実測値を点線で示している。
4.共同研究
(28) ろ紙式含水率計を用いた降雪粒子含水率の観測に関する研究
研究代表者
雪氷:中井専人
研究参加者
雪氷:本吉弘岐、石坂雅昭
共同研究先
北海道大学低温科学研究所:藤吉康志
[目
実施期間
平成22年度~平成23年度
水・土砂:三隅良平
的]
北陸など温暖な積雪地域の降雪粒子は、融解した水を含むことが多くあり、その度合いを表す含水率は積雪の性質、
発生する雪氷災害に影響を与えるだけでなく、降雪過程と大気の状態との関係を定量的に理解するため不可欠な基礎
的雲物理量である。にもかかわらず、測定が容易でないため、観測データが極めて不足している。
ろ紙観測法に基づいて開発された含水率計は、このデータを連続的に取得可能な唯一の機器である。本研究では、
湿雪が多く降り有効なデータを得やすい長岡においてこの機器を用いた観測を行う。解析においては、個々の濡れ雪
片の含水率と密度、形、落下速度、およびそれらと気温等の関係に注目する。それらにより、降雪粒子含水率の特性
の解明につなげることを目的とする。
[実施内容]
(1)観測
防災科学技術研究所雪氷防災研究センターの降雪粒子観測施設内に含水
率計を設置し、湿雪時に観測を行う。輸送・設置は北海道大学が行い、観
測作業は防災科学技術研究所が行う。
(2)含水率計データの解析、および露場データ等との比較解析
北海道大学と防災科学技術研究所の双方において、含水率計データの解
析、および、防災科学技術研究所雪氷防災研究センター露場の観測値等と
の比較解析を行い、降雪粒子含水率と気象場との関係についての知見を得る。 図1 雪氷防災研究センター(長
岡)降雪粒子観測施設防風ネット
平成22年度は、設置、動作確認、試験観測を行った。
内に設置された含水率計
[成果と効果]
設置に伴う2mの除雪など、自動的な連続観測を行うまで相当の労力を要し、観測上の課題が多かったが、試験観測
としてのデータを得ることができた。含水率計は従来から行われているろ紙法をそのまま自動化したもので、人力で観
測するのと同様のろ紙上に降雪粒子をサンプリング、撮影、融解のち撮影、画像処理の一連の観測を連続で自動処理す
る(図2)。ろ紙送り、温度などの制御は秀逸であり、画像解析による含水率の値についても手作業の含水率測定結果と
比較的良く一致した(図3)。しかし、画像処理においてノイズを拾って正確な計測ができないケースがあり、計測失敗
を回避することも課題である。
融解前
融解後
融解前
融解後
二値化
二値化
図2
含水率計によって自動的に得られた画像。左が
図3
画像処理過程の比較。含水率計によ
融解前で、もともと降雪粒子に含まれていた水が測定
る観測画像を使用し、含水率計と手作業の
されている(黒い点)。右が融解後で、粒子の固体部分
2つの方法で画像処理して求めた含水率を
も含めた全量が測定されている。
示す。
4 共同研究
(29)降雪粒子観測機器の特性および降雪粒子判別法に関する研究
研究代表者
雪氷:石坂雅昭
実施期間
平成 20 年度~平成 22 年度
研究参加者
共同研究先
[目
大阪教育大学:小西啓之、国立局地研究所:和田誠、平沢尚彦
的]
光学式雨量計、光学式地吹雪計、POSS、粒径分布計など、種々の降水粒子観測器の同時比較観測を冬季は長岡、北
見、夏季は大阪で行い、降雪粒子判別や降水強度、降水量を推定する上での基礎データを蓄積する。これら観測デー
タを相互比較することによって、低温強風下の極域で降水粒子判別や降水量推定を行う場合に用いるべき観測器およ
び観測手法について検討する。
[実施内容]
・夏季、大阪において光学式雨量計、光学式地吹雪計、POSS、粒径分布計による降雨観測を実施。
・冬期、北見において同上の各測定機器による降雪・降水観測を実施。合わせて有人詳細観測を行い検証データを取
得した。
・これまでのデータの解析を実施。
[成果と効果]
地上気温が-1~0℃の暖候地の降雪の場
合について間接的な各降雪量計(光学的
disdrometer、POSS、天気計)で測定した
5 分間降雪強度と高分解能で直接的な降
雪量計のそれとを比較した結果、光学的
disdrometer で求めた降雪強度が最も信
頼性が高かった。ただし、雨の場合に比
べると降雪の場合の相関係数は低く、光
学的 disdrometer による降雪量の推定は、
光学的 disdromete での降水量(横軸)と直接測定降水量
そのままでは完全ではないことがわかっ
図
た。そこで、光学的 disdrometer が測定
(縦軸)の比較.右は補正前、左は新推定手法による補正後の関
している粒径と落下速度から降水量を推
係.
定する手法を開発し、比較したところ良
好な結果を得た。
一方、南極等の極域では、日本に比べ降雪強度がはるかに小さいためにその変動を調べるためには、より小さい氷
晶サイズの粒子の空間濃度の変動を測定できる測器を使用する必要がある。そこで、その可能性を調べるため、500
μm 以下の小さい粒子を測定できる光学式の地吹雪計を用いて 0.1mm/hr 以下の弱い降雪について降雪量の変動を調べ
た。その結果、天秤式と地吹雪計の変動傾向は似通っており、小さなサンプリングボリュームで粒子カウンターとし
て使われる地吹雪計からも降雪量を推定できそうなことがわかった。一方、鉛直上方へ射出した近赤外光の後方散乱
量を測定するシーロメータの変化傾向も降雪強度のそれと似たところがあり、両者はサンプリングボリュームが大き
く異なるにもかかわらず、条件によっては似た傾向を示すことがわかった。
[所外共同研究]
国立極地研究所共同研究「降雪粒子観測機器の特性および降雪粒子判別法に関する研究」代表
育大学)の研究を分担。国立局地研究所担当教員は和田誠・平沢尚彦(国立局地研)
[成果の発表]
・口頭発表
3件
小西啓之(大阪教
4.共同研究
(30)雨氷現象による電気鉄道の架線凍結対策の研究
研究代表者
雪氷:根本征樹
研究参加者
雪氷:望月重人
共同研究先
平成 22 年度
日本旅客鉄道株式会社長野支社:下原光幸、鵜飼毅彦、中島
実、根石智史、矢島
[目
実施期間
等、岡田幸雄、北原敏彦、西村一
聡、小林祐一、小山輝晃、田中裕司
的]
雨氷現象により電気鉄道の架線が凍結し、パンタグラフからの集電ができなくなることから、列車の運行に支障
を与える事象が発生している。本研究では、雨氷現象により凍結した架線に対し、どのような処置を行うことが適切
かの研究を行う。
[実施内容]
トロリ線のサンプルに雨氷現象による着氷を再現させ、外気温とトロリ線に付着した氷の硬度測定を行うとともに、
除去にための各種手段について検証する。
1.着氷再現試験
2.外気温を指標とした、氷のトロリ線に対する付着力測定
3.着氷時のパンタグラフ通過試験
4.各種除去方法の比較
5.凍結防止剤の比較
[成果と効果]
18
実験1では、周囲温度を-10℃に設定した試験室内において、トロリ線に
8ℓ/min の水道水を噴霧し、トルネードファン 4 基を用いて 3m/sの風を発
生させ、噴霧した水を空中で急激に冷却させることにより着氷させ作成し
た。
試験2では、試験室内の温度を-10℃から、-1℃まで変化させ、試料温度
16
付着力 F[kgf]
向かって高さ 1.8mの位置に設置した園芸用スプレーから水温 2[℃]、流量
実測値
平均値
14
12
10
8
6
4
やすりによる除去
2
が試験室温度と等しくなった後に、プッシュプル計を用いて、各温度とも
0
-12
に 10 点以上の測定を行った。付着力の平均を算出したところ、温度が±0℃
-10
-8
次に噴霧時間を変化させた試験においては付着量の変化に伴う付着力変化は
微細なものであった。このため付着量が変化しても、つららとして成長
とがわかった。(図1)
0
温度変化による付着力
8
7
付着力 F[kgf]
を確認した結果、外気温が-3[℃]以上になると容易に氷が除去できるこ
-2
外気温 T [℃]
図1
9
するのみで付着力には大きな影響を与えていないと判断できる。(図
また、やすりで擦る方法と、トロリ線に衝撃を与える方法で除去し易さ
-4
衝撃による除去
に向かって上がっていくにつれ付着力が減少していくことが明らかになった。(図1)
2)
-6
試験3では、パンタグラフの通過回数が増せば徐々には削れるが、トロリ線の摺面に
6
5
4
3
2
付着量
付着量
付着量
小
中
大
1
0
2:00
付着している氷は完全には除去できず、4 回通過をしても、集電が可能な状態にはなら
3:00
4:00
図2
なかった。
5:00
6:00
7:00
付着量別測定
温風、凝固点降下等は効果が確認できなかった。
試験5では、無加工の付着力に対して、トロクリーン、撥水スプレー、超撥水スプレ
ーではどれも良好な値となったが持続性については継続調査が必要である。(図3)
[防災行政等への貢献]
・着氷防止剤を活用し駅中間での運行不能列車の早期救出。(試験
5)
付着力 F[kgf]
試験4では、高温の熱源による加熱は、外気温の変化に関係なく容易に除去が可能であったが、 9
8
7
6
5
4
無加工
3
2
従来加工
撥水加工
1
・運転再開見込みの適正化により輸送混乱防止。(試験1の基準より)
0
0
超撥水加工
0.5
1
1.5
2
2.5
3
[成果の発表]
・口頭発表
図3
1件
・その他(社内発表)
2件
防止剤による加工
3.5
4
4.5
4.共同研究
(31)建築物の着雪防止技術に関する研究
研究代表者
雪氷:佐藤
研究参加者
雪氷:望月重人
共同研究先
北海道工業大学:苫米地司
[目
威
実施期間
平成 22 年度
的]
近年、建築物の高層化やデザインの多様化が一因で、雪が少ない関東地方においても着雪が発生しており、着雪の
落下による被害が報告されるようになった。本研究では、建築物の着雪防止技術に関する基礎資料の蓄積を目的に、
吹雪風洞実験を行った。
表1 実験シリーズ
[実施内容]
本研究は、建築物外周にネットを配置し、着雪緩和および雪氷塊の落下飛
網目の
大きさ
[mm]
No.
散防止をはかることを想定している。先ず、ネット本体への着雪性状を把握
ネット1
ネット2
ネット3
ネット4
ネット5
し、次に、円柱部材の風上側にネットを配置し、それぞれの着雪性状を把握
した。実験に用いたネットの仕様を表 1 に示す。表のように、閉塞率が異な
る 5 種類のネットを用いた。実験方法を図 1 に示す。図のように、風洞内部
の温度は-5~-3℃とし、風速は 9m/s に設定した。風洞内部に人工雪を供給す
網の直径
閉塞率
[mm]
[%]
100
40
40
50
30
1.6
1.3
1.6
2.7
1.6
3.2
6.5
8.0
10.8
10.7
るとともに、着雪し易い状況となるように、水を噴
回転ブラシで雪を供給
霧した。人工雪および水の供給口から風下 5m に位
置にネットを設置し、実験を行った。
ネット
*
円柱
[成果と効果]
室温-5~-3℃
*
*
*
*
*
*
*
*
風向
*
風速9m/s
*
ネットの閉塞率と実験時間 20 分における着雪重
量との関係を図 2 に示す。図のように、ネットの閉
塞率の増加に伴い着雪重量が増加する関係を示し、
たネット 2’とを比較すると、固定度の高いネット
2 の着雪重量が小さくなる。また、ネット 4 とネッ
ト 5 の閉塞率は両者で近似しているものの、網目の
大きいネット 4 の着雪重量が小さくなる。このよう
に、ネットの固定度が高いほど着雪し難く、同じ閉
塞率でも網目が大きいほど着雪し難いことがわかっ
た。
図1 実験方法
実験時間20分の着雪重量(kg)
ネット四辺を固定したネット 2 と上辺のみを固定し
水を霧状に
噴射
5m
0.8
ネット5
0.6
ネット2'
0.4
ネット4
ネット3
ネット2
0.2
ネット1
0
次に、円柱部材のみの着雪重量と円柱部材の風上
側にネットを配置した場合の着雪重量とを比較した
結果を写真 1 に示す。写真のように、着雪の総重量
は両者で近似しているものの、ネットを配置した場
合は、ネット本体に着雪が発生するため、円柱部材
0
2
4
6
8
図2 ネットの閉塞率と着雪重量との関係
円柱の着雪深さ:29mm
円柱の着雪重量:0.57kg
円柱の着雪深さ:22mm
円柱の着雪重量:0.41kg
ネットの着雪重量:0.26kg
合計着雪重量:0.67kg
の着雪重量が減少した。ネットへの着雪重量は小さ
く、そこからの落雪が許容できれば、円柱部材から
の落雪・飛散はネットで防止できる。従って、ネッ
トによる対策は十分機能するものと考えられる。
[成果の発表]
・査読誌
1件
・口頭発表
1件
10
12
ネットの閉塞率(%)
写真1 ネットと円柱の着雪性状
4.共同研究
(32)遠赤外線放射による融雪
研究代表者
雪氷:阿部修
研究参加者
雪氷:望月重人
共同研究先
(株)ユニ・ロット:足本東史雄、宮谷繁、瀬戸征幸、北谷公昭
[目
実施期間
平成 22 年度
的]
雪氷路面による交通事故を防止するため、改良を加えた遠赤外線を用いた融雪装置の性能試験を行い、遠赤外線放
射強度と融雪能力との相関関係を分析し、実運用を目指す。
[実施内容]
各種機器の融雪実験内容は下記の通りである。(1)既設遠赤外線スポットライトヒーター300w100v と新型遠赤外
線スポットライトヒーター300w200v の比較、(2)既設遠赤外線スポットライトヒーター4kw と新型遠赤外線スポッ
トライトヒーター4kw の比較、(3)4kw 遠赤外線スポットライトヒーター堆積融雪の実験、(4)2kw 遠赤外線スポ
ットライトヒーターの融雪実験、(5)1kw 遠赤外線スポットライトヒーターの融雪実験。
図1
図3
300w 機(左)と 1kw 機(右)の実験状況
現行 4kw 機の堆積融雪実験開始時(左)と実験終了時(右)の比較
[成果と効果]
300w 機は現行 100v 機しか無かったが、200v 機が出来上がり、その融雪状況を確認したところ、100v 機同様の融雪
面積が確保でき、これにより電源の適応範囲が広くなった事が確認できた。
4kw 機の現行と新型の融雪状況は新型が、予測していたよりも面積が確保できなかったので、さらなる改良が必要
とされる。また、あらかじめ堆積した状況を作り、現行 4kw 機で融雪実験を行ったところ、融雪時間は予測の時間
/3cm 程度の融雪が確認された。
2kw 機の降雪中の融雪状況は予測より、融雪面積が少ない結果となったので、融雪面積を確保出来る様に改良をく
わえなければならない。1kw 機の降雪中の融雪は予測通りの結果となった。
[防災行政等への貢献]
ロードヒーティングに比べると施工の早さと予熱時間が無い事が特徴として上げられる。この事により省エネ効果
が期待出来る。また、取り付けが簡単なのでスポット的に凍結防止が可能である。
4.共同研究
(33)南極の地吹雪中における建物形状と吹きだまりの関係
研究代表者
雪氷:阿部
研究参加者
雪氷:望月重人
共同研究先
日本大学理工学部:半貫敏夫、小野康弘、横山竜大、河合剛、佐藤翔、矢口あみか、吉富彩希
[目
修
実施期間
平成 22 年度
的]
地吹雪中の建物周辺に発生する雪の吹きだまり(スノウドリフト)を低減する方策とその効果を模型実験で調査し、
南極観測用建物設計のデータベースを充実させることが目的である。
2 層程度の箱型建物単体として建築する場合は、高床式として床下に吹雪流が通り抜ける空間を確保すれば建物が
雪に埋没するのは防げるということはすでに風洞実験及び昭和基地での経験によって確かめられている。しかし、発
電機格納庫や大型車両整備用の建物等では、その機能上、高床式を採用するのが難しい。この場合は建物形状の工夫
によって建物周囲のスノウドリフトを低減させるほかはない。本実験はその効果を確認したものである。
[実施内容]
建築空間としては習慣上、直方体が使いやすいが、建物が吹雪流中にある場合は、周囲の流れの剥離を抑えて出来
るだけ吹雪流を乱さないことが、建物周囲のドリフト低減策の基本である。建物形状を表す変数としては壁面、屋根
面の形状、建物平面および立面アスペクト比等が考えられる。本実験では 1 辺 100mm の立方体を基準として 6 種類の
模型を準備した。(1)建物模型を風洞測定部内にセット、(2)気温-15℃、規準風速 6m/s の風に、風上の吹雪粒子供給
装置から雪粒子を送り込んで人工的な地吹雪状態を作成、(3)5 分~10 分間隔で模型周囲の吹きだまり深さをレーザ
距離計で測量、の順で実験を進めた。実験変数は風
向角で、0°、45°の 2 種類とした。
[成果と効果]
立方体の壁面を加工して 8 角形平面にすると吹き
だまり量が大幅に低減できることが分かった。建物
風上角点の剥離流の風向が吹きだまり量に影響して
Type1
Type2
Type3
いることが推察できる。
地吹雪輸送の最も多い地表付近の壁面積を縮小し
たタイプ 4 では吹きだまり量低減について予想を下
回る効果であった。平面形を 8 角形にすると改善で
きる可能性がある。2 階建ての建物設計ではこの程
Type4
Type5
Type6
度のプロポーションまでが現実に許されるであろう。
図1
図2
建物周囲のスノウドリフトと吹雪継続時間関係
図3
建物模型の形状
建物周囲のスノウドリフトと模型形状の関係
[防災行政等への貢献]
建物形状とスノウドリフト量の関係は最も基本的なデータであり、地吹雪の多い地方の建築設計資料として有用と
考えられる。
[成果の発表]
・口頭発表
1件
4.共同研究
(34)気候変動下における永久凍土流域での融雪洪水
研究代表者
雪氷:山口
研究参加者
雪氷:望月重人
共同研究先
海洋研究開発機構:鈴木和良
[目
悟
実施期間
平成 22 年度
的]
融雪洪水予測にとって重要となるプロセスであるが、現段階でモデルに十分反映されていない河川氷と凍結土壌へ
の融雪水浸透の過程をモデル化し、これらの過程を流域水循環モデルに組み込む。さらに、気候変動に対する融雪出
水並びに洪水の変動を評価することを目的とする。
[実施内容]
<凍土実験>昨年度の実験に引き続き、豊浦砂を用いた凍結砂の通気係数測定実験を行った。粒径 0.8-2.8mm の
豊浦標準砂を 100cc のステンレス製の円筒管(底面積 20cm2×高さ 5cm)に入れて試験体を作った。試験体の合計で
あった。各試験体の空隙率は、デジタル実容積計(DIK-1150)により測定され、全 40 個体の平均と標準偏差は、
47.1cm3 と 1.1cm3 であった。その砂に 10cm3 ずつの水を、0cm3、 10cm3、 20cm3、 30cm3、 40cm3 の 5 種類加え
て、飽和度の異なる試験体を、それぞれ8個体ずつ作成した。その後、飽和度の異なる試験体20個体について-5℃
で 24 時間冷やして凍結させた。残りの 20 個体については常温の室内においた。これにより、凍結した試験体と未凍
結の試験体を、それぞれ同じ飽和度で4個ずつ作った。その試験体に対して、低温室内の温度を-5℃、-2.5℃、0℃、
ならびに 2.5℃と変化させ、土壌通気性測定器(DIK-5001)によって通気係数を測定した。なお、未凍結の試験体は、
氷点下以下の室温で凍結しないように、常温の室内に実験直前まで試験体を置いておき、実験時のみ試験体を低温室
内に入れた。一方、凍結した試験体に関しては、試験体が室温になじむように、実験を始める2時間以上前に室内に
入れておいた。
[成果と効果]
実験で得られたデータを基に、初期
解析を行った結果を示す。図1a、b
は、異なる温度条件下での通気係数
と試験体の飽和度との関係を示して
いる。-5℃では、未凍結固体と凍結
固体に大きな差は生じていない。し
かしながら、0℃の条件下では、未
凍結固体の通気係数は、飽和度 0.4
で急激に減少したのに対し、凍結固
体では-5℃の条件と同じように含水
が増えるに従い、徐々に減少してい
った。どちらの凍結固体ならびに未
凍結固体と共に温度が高くなると同
じ含水量でも通期係数が大きくなる
傾向になる。
[成果の発表]
・口頭発表
2件
図1通気係数と飽和度の関係。環境温度(a)-5℃、(b)0℃
4.共同研究
(35)寒冷地対策試験用 m-TRITON ブイ
研究代表者
雪氷:佐藤 威
研究参加者
雪氷:望月重人
共同研究先
海洋研究開発機構:石原靖久、馬場尚一郎、福田達也、大田 豊
[目
実施期間
平成 22 年度
的]
南大洋に設置する海洋観測ブイの開発に際して、南大洋の冬場環境を模擬した(気温-10℃、風速 3-4m/s、波によ
る液滴飛来)環境下における、気象センサーの動作を確認する。但し、温湿度計、大気圧計に関しては、樹脂製カバ
ーによる着氷防止効果を明らかにする。また、風向風速計に関しては可動部のない超音波式を採用し、トランスデュ
ーサー部におけるヒータによる融解条件を明らかにする。
[実施内容]
1.着氷防止カバー確認試験
実験室に温湿度計と大気圧計を設置し、これに2種類のテフロン製カバー(センサ個別カバーと大型カバー)で着
氷防止対策を行い、各センサの動作確認を行った。
A)両センサに個別カバーにて対策
B)大型カバーで両センサを一括対策
試験条件;風速 3~5m/s、温度-10℃、降雨条件 6.29mm/h~321mm/h(流量、計測位置により大きく変動)、水温0~
5℃、降雪条件 1mm/h×1.5h
2.ヒータによる風向風速計の着氷確認試験
超音波式風向風速計のトランスデューサ部にヒータ線を捲いたセンサを設置し、ヒータへの供給電力を 15、18、
21W の3段階で着氷防止効果の確認を行った。
試験条件;1.に同じ
3.暴露でのセンサ性能確認試験
動作原理上、1.の着氷防止カバーに収納できない、短波放射計、雨量計(光学式、容量式)について、暴露状態
とし、動作確認を行った。
試験条件;1.に同じ
[成果と効果]
1.着氷防止カバー確認試験
・個別カバー
大気圧計には効果的であったが、温湿度計ではカバー着氷により、測定温度が実際の温度よりも上昇した。
・大型カバー
内部の循環があり大気圧計、温湿度計とも計測が可能であった。
2.ヒータによる風向風速計の着氷確認試験
ヒータへの供給電力として 21W 以上必要であるが計測可能ことが判明した。
3.暴露でのセンサ性能確認試験
短波放射計、光学式雨量計とも着氷のため、使用できないことが判明した。容量式雨量計については、ヒータ
(平均 26.6W、最大供給 35.5W 程度)を使用すれば、計測可能であることが判明した。但し、いずれのセンサーも
着氷が融解すると、計測可能な状態に回復した。
[防災行政等への貢献]
本年度は、昨年度の成果を元に、各種着氷対策を考案し実施したが、大気圧計、温湿度計、超音波式風向風速計、
容量式雨量計については満足のいく結果を得ることが出来た。今回の結果を応用すれば、これまでデータを取得する
ことが難しかった、南大洋域での洋上の気象データの取得が可能となり、気候変動予測精度向上に貢献することが可
能となる。
4 共同研究
(36)新しい降雪粒子測定手法に関する研究
研究代表者
雪氷:佐藤篤司
実施期間
研究参加者
雪氷:望月重人
共同研究先
富山高等専門学校:高田英治、岡本憲拓、坂井陽介
平成 22 年度
新潟電機株式会社:丸山敏介、石丸民之永、斉藤隆幸、羽賀秀樹
[目
的]
雪の密度は重量計で測定した積雪重量と体積から算出されており、リアルタイム測定とはいいがたい。そこで我々
のグループでは、放射線を使用しその減衰から雪の密度をできるだけリアルタイム測定する手法について検討してお
り、今年度は放射線源(密封小線源)を用いた動的降雪重量測定について検討を行った。また路面状況測定のために
レーザー一次元スキャン型距離センサ(スキャンセンサ)の使用を検討しており、その測定精度評価や降雪粒子測定
への適用可能性について検討を行った。
[実施内容]
(1)
147
放射線による降雪重量測定手法の検討
Pmβ線源からのβ線をシンチレーション検出器に入射させておき、雪片がβ線の通過経路を横切った場合の信号
の変化から雪片重量を測定することを試みた。シンチレーション検出器ではシンチレータとして平板状の GSO シンチ
レータを用いた。
(2)
スキャンセンサによる路面状況測定と雪片計測への適用可能性検討
スキャンセンサを高さ 2m に設置し、低温室内の床に向けてレーザーを照射して測定を行った。人工的に凹凸の雪
面を作った場合について測定して積雪深測定の精度評価を行うとともに、降雪時にも測定を行い、降雪粒子測定への
適用可能性を検討した。
[成果と効果]
(1)
放射線による降雪重量測定手法の検討
40.0
い状態でも想定したような信号の変化は観測されなかった。原因
35.0
としては、測定対象の降雪粒子が落下している時にβ線が測定対
象領域を通過していなければ測定できないにも関わらず、放射線
源から放出される放射線数が少なかったことがあげられる。従っ
て、来年度は放射線源ではなく、X 線発生装置を用い、再度測定
可能性を検討する予定である。X 線発生装置は今回の放射線源よ
りも放出される放射線(X 線)のエネルギーは低いが、特定の方
向にのみ大きい強度で X 線を放出でき、本研究の用途に適してい
測定された積雪深 [cm]
降雪強度を変化させて放射線測定を試みたが、降雪強度が大き
30.0
25.0
20.0
15.0
10.0
5.0
0.0
-100.0
-50.0
るということができる。
(2)
スキャンセンサにより水平面を測定した結果の一例を図-1 に
(a)
示す。図-1(a)は幅の狭い信号を除去する前の状態を、図-1(b)は
40.0
除去した後の状態を示す。図-1(a)に示す幅の狭い信号は降雪粒
] 35.0
m
c[
[ 30.0
・
25.0
・
マ
・ 20.0
ス
・
・ 15.0
ウ
・
10.0
ェ・
・ 5.0
の可能性を示している。一方、スキャンセンサによって凹凸や平
均積雪深が測定可能であるとの結果も得られた。現在、スキャン
センサを札樽自動車道金山 PA に設置し、高速道路上の積雪深や
凹凸状況を測定する実験を継続中である。
[防災行政等への貢献]
100.0
降雪粒子の除去前
0.0
ここで対象としているシステムが実現できれば、重量測定や凹
-100.0
-50.0
凸測定などとともに、冬季道路管理及び防災行政への貢献が可能
1件
0.0
50.0
位置 [cm]
である。
[成果の発表] ・口頭発表
50.0
位置 [cm]
スキャンセンサの適用可能性検討
子にレーザーが当たった際に得られた信号であり、降雪粒子測定
0.0
(b)
図-1
降雪粒子の除去後
スキャンセンサによる測定結果
100.0
4.共同研究
(37)風洞実験による屋根上積雪分布形状の推定に関する研究
研究代表者
雪氷:阿部
研究参加者
雪氷:望月重人
共同研究先
桜井修次(北海学園大学工学部)、城
[目
修
実施期間
平成 22 年度
攻(北海道大学名誉教授)
的]
多雪地域に建設する大型建物の構造設計においては、屋根雪の偏荷重を適切に評価する必要がある。しかし、屋根
雪の合理的な偏荷重評価法は未だ確立していないのが現状である。筆者らは、屋根雪の偏分布形状へ影響を与える屋
根近傍の気流性状の特性として、屋根面風圧分布に注目した。筆者らの既往の研究において、風圧分布の増減による
圧力勾配と屋根雪の偏分布特性とは強い相関関係を有することを実験的に明らかにしてきた。
平成 22 年度は、切妻屋根を対象にして、屋根勾配 10 度、20 度および 30 度の 3 種類について降雪風洞実験を行っ
た。屋根勾配の違いによる屋根雪の偏分布特性を明らかにし、別途行う風圧風洞実験の結果と比較検討することを目
的としている。
[実施内容]
図 1 に示す 3 種類の建物について、平成 22 年 8 月 23 日~27 日の 5 日間降雪風洞実験を行った。
屋根勾配 10 度
図1
屋根勾配 20 度
実験模型と雪粒子流線
屋根勾配 30 度
[成果と効果]
CL
CL
2.5
1.5
1.0
0.5
0.0
2.0
1.5
偏分布係数
偏分布係数
2.0
偏分布係数
CL
2.5
2.0
1.0
0.5
2 3
4
5
6 7
8
9 10 11 12 13 14 15
測定点
1.0
0.5
0.0
0.0
1
1.5
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16
測定点
屋根勾配 10 度
図2
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
屋根勾配 20 度
3 種の切妻屋根の屋根雪偏分布係数
測定点
屋根勾配 30 度
レーザーセンサーによって、屋根雪深さを測定した。3 種の切妻屋根の屋根雪偏分布係数(屋根平均深さに対する
各測定点の屋根雪深さの比)は、図 2 のようになる。横軸が積雪測定点、縦軸が屋根雪偏分布係数である。CL より
左側が風上側、右側が風下側である。屋根勾配 10 度の場合、積雪量は風上側が少なく、風下側が明らかに多い。こ
れに対し、屋根勾配 20 度の場合、風上側と風下側の積雪量の差異は小さくなっている。さらに、屋根勾配 30 度にな
ると、10 度の場合とは逆に風上側で積雪量が多く、風下側で少なくなっている。
[防災行政等への貢献]
筆者らの既往の研究は、日本建築学会「雪荷重小委員会」の資料として提出している。
[成果の発表]
・口頭発表
2件
・シンポジウム等
1件
4.共同研究
(38)寒冷環境下での風観測の安定化
研究代表者
雪氷:佐藤威
研究参加者
雪氷:望月重人
共同研究先
神奈川工科大学:木村茂雄、吉岡貴文、川上和樹、上条秀俊、長谷川実嗣
[目
実施期間
平成 22 年度
的]
昨今、風観測において、保守点検の容易であることや応答性が高いことから超音波風速計の利用が広まってきてい
る。しかし、超音波風速計による風計測時に異常値(許容範囲の風速域ではあるが、計測期間中の平均的な風速値を
大幅に上回る値と定義する)を出力するという問題点が指摘されている。原因の一つは、風速計上部に鳥が停留する
ことによる超音波の送受信の阻害である。もう一つは、寒冷期における発生であり、他の気象データから、雪氷の影
響と推察されている。異常値発生は継続的かつ安定的な風データの取得に対して影響があるばかりでなく、風速が交
通規制に用いられる場合、最大風速が規制値を超えることによる不要な規制を行うという結果をもたらす。本研究で
は、この異常値発生の原因として着雪の影響の場合に限定し、風洞試験を実施することでその発生機構を調査・解析
することを目的とした。
[実施内容]
試験は CES 内の風洞内で実施した。風洞計測部の天井に降雪装置を、下流の適切な位置に風速計を設置し(Fig.1 参
照)、風の有無での異常値発生時の超音波風速計の超音波送受信部での着氷雪状態を観察した。試験に使用した風速計
は、Vaisala 社製 WS425(非加熱型)と WS425F(加熱型)および Gill 社製 WindObserverII の 3 種である。なお、風速
は、 0、1、2、6 m/s、環境温度は‐2、 ‐12 ℃とした。
Snowfall machine
[成果と効果]
有風時においてはいずれの風速計においても異常値の発生はなかった。
風洞試験においては風向が極めて安定しているため、風向が絶えず変動す
Airflow
Anemometer
る実際の環境と異なっている。このため、これを模擬するため、試験開始
後 10 分で風速計を 45°回転させて試験を行ったときの結果が、Fig.2 と
Fig.1 Snowfall machine and anemometer
Fig.3 である(WS425F、風速 6m/s、環境温度‐12℃)。円筒状の送受信部
の大きな範囲に二次着氷(付着した雪が融解し、再凍結)が発生し、これ
が超音波の送受信時の障害となったと考えられる。別途実施したモデル試
験によると、二次着氷と超音波送受信部の間に空隙がある場合に異常値が
発生することがわかっている。本試験では、空隙の確認はなしえなかった
が、Fig.3 にみられるように不均一に異なった質量の氷球の付着によって
も異常値が発生することが確認できた。無風・弱風時の冠雪の状況を
Fig.4 に示す。冠雪は非加熱の風速計である WS425 にのみ発生した。風速
計本体とアームによって冠雪が支持され、時間の経過に伴う冠雪部の上昇
Fig.2 Incorrect wind speed measurement によって超音波の経路が遮断、あるいは雪面での異常な反射により異常値
を出力した。 本試験の実施により、実地観測や、モデル化された着氷条件下だけでな
く、降雪時においても超音波風速計における異常値出力が確認された意義
は大きいと判断する。
Fig.3 Ice accretion on the transducer [防災行政等への貢献]
本成果は、風に起因する交通災害の防止のための、寒冷期における超音波
風速計による風観測の精度・安定性の向上に寄与しえると考える。
[成果の発表]
・査読誌 2件
Fig.4 Snow accumulation on WS425 4.共同研究
(39)着氷対策型風速計の開発
研究代表者
雪氷:阿部
研究参加者
雪氷:望月重人
共同研究先
株式会社ホリー:大小原 健、佐藤真人
[目
修
実施期間
平成 22 年度
的]
寒冷地において風速計の回転部が凍結し、測定不能になる問題を解消すべく、形状および外装塗料について新たな
発想に基づき開発した新型風向風速計についての環境負荷試験を行う。試験においては一年間環境暴露した風速計を
使用する。
[実施内容]
プロペラ式風向風速計を用いて、人工降雪装置および横風発生装置により、風速計周囲における実際の着氷凍結状
態を人工的に作り出すことで環境負荷試験を行った(下図)。
図
試験中のプロペラ式風向風速計(3種)。左から従来型-新型-新型ヒーター付き。新
型は着雪し難いよう形状を変えたタイプであり、ヒーターの有無に関わらず外装塗料に
CERAMIC が用いられている。
[成果と効果]
温度、風速、水滴の噴霧の有無により、計6つの条件下における着氷凍結状態を観察した。その結果、最も過酷な
条件である、無風状態で水滴噴霧後降雪させ、微風(1m/s)を吹かせた場合でも、新型風向風速計では回転軸付近に
着氷はみられるものの、プロペラが回転停止に至ることは無かった。また従来型風向風速計では、プロペラのラビリ
ンス部分が固着し回転停止した。その状態で風速を 5.5m/s まで増加させても回転は回復せず、外気温度を+2.7℃に
上げて、ようやく回復した。
新型風向風速計では外装塗料の撥水性の持続と、シャフト径の縮小によるモーメント増大の効果によって、着氷リ
スクが回避できることが改めて証明された。
[防災行政等への貢献]
今回は CERAMIC 塗料の耐環境性能を検証するべく昨年と同様の機器を用いたが、表面の撥水性能も維持しており性
能の劣化はみられなかった。東北新幹線の青森−八戸間他、着氷地域では新型の風向風速計が正式運用しており、今
後さらに(独立行政法人)鉄道・運輸機構の北陸、北海道整備新幹線計画に組み入られる予定である。
[成果の発表]
・口頭発表
1件
4.共同研究
(40)防雪林の抗力係数に関する風洞実験
研究代表者
雪氷:根本征樹
研究参加者
雪氷:佐藤 威、望月重人
共同研究先
北海道立総合研究機構 林業試験場:鳥田宏行
[目
実施期間
平成 22 年度
的]
防雪林の抗力係数は,防雪効果および強風害(防雪林の幹折れ・風倒)の危険度などを推定する際の重要な係数で
ある。しかしながら,防雪林を構成する各立木は,人工構造物に比較すると複雑な形状を有し,抗力係数に関する基
本的な知見は十分には得られていない。そこで,本研究では北海道で防雪林の主要植栽樹種であるアカエゾマツとヨーロ
ッパトウヒについて,抗力係数を測定した。
[実施内容]
抗力係数を測定するため,高さ 50cm 前後の苗木計 5 本(アカエゾマツ 3 本,ヨーロッパトウヒ 3 本)を用いて風
洞実験をおこなった。実験は風洞設定風速を 0~20m/s の範囲とし,4m/s 毎に測定をおこなった。抗力係数の測定は,
各苗木を弾性体と仮定し,風洞実験を実施する前に幹の変位と荷重の関係式を求めておき,風洞実験時の幹の変位か
ら風荷重を推定して抗力係数を決定した。
[成果と効果]
抗力係数Cdは,全体的には風速依存性があり,風速の増加とともに減少する傾向があった(図-1,写真-1)。
しかしながら,サンプルによって,その減少程度には差があり,風速が増加しても抗力係数が大きく変化しないケー
スもあった。また,サンプルによって抗力係数の値そのものにも大きく差異がみられた。今後,樹木の個体差,形状の複
雑さ等を克服して,Cdの値について定量的な解明をおこなうには,模型樹木等を用いるなどサンプルの均一性を担保することが必要だと考
えられる。
0m/s
12m/
4m/s
16m/s
8m/s
図-1.
抗力係数の測定結果
[成果の発表]
・口頭発表
1件
20m/s
写真-1.
風洞実験の様子
4.共同研究
(41)建築物周辺の複雑乱流場における Snowdrift 現象の解明と CFD モデル開発
研究代表者
雪氷:根本征樹
研究参加者
雪氷:佐藤 威、望月重人
共同研究先
富永禎秀、岡田良太(新潟工科大学)、持田 灯、大風 翼、佐々木康友(東北大学)
[目
実施期間
平成 22 年度
的]
建物周辺の複雑な流れ場に適応可能な飛雪モデルを開発するために、発達する saltation 層を対象とした風洞実験を
行う。PIV 技術を用い、ハイスピードカメラで撮影した発達過程の saltation 層の画像解析を行うことで、雪面付近
の雪粒子の平均移動速度を得る。また、k-εモデルを基礎とした CFD を用いた吹雪モデルを構築するために、発達過
程の saltation 層中の風速・飛雪流量を測定する。
[実施内容]
図 1 に風洞実験の概要図を示す。風洞の風上側 1.0[m]
は loose な雪面に 0[°C]の水を噴きつけて凍らせ、saltation
が発生しない hard な雪面を形成し、雪面を hard から
loose に切り替えることによって発達過程の saltation 層を
作り出した。hard な雪面と loose な雪面の境界を x=0[m]
とし、風下側の x=6, 9, 11.5[m]の 3 地点で PIV により、
画 像 の 撮 影 を 行 っ た 。 設 定 風 速 〈u0〉( 流 入 面 の 高 さ
Wind
図1
風洞実験の概略図
0
z=0.4[m]における風速)は 5.0、7.0、9.0[m/s]の 3 段階とし、
5.0[m/s]
実験時の風洞室内の気温は−10[°C]とした。
秒間の動画(6000 枚画像)から 5 秒間の動画(1500 から
4500 枚の 3000 枚の画像)を対象とし解析を行った。カメ
z [m]
PIV の解析条件については、各測定点で撮影された 10
ラの撮影スピードは 1/600 とした。撮影範囲は、画素数
X: 228 pixel、Z:320 pixel とし、解析領域については
X:227 dot、Z:20 dot として解析を行った。今回の実験
では、1 pixel に対応する実スケールは、およそ 400[μm]
x [m]
図2
である。
粒子の平均移動速度(〈u0〉 = 9.0[m/s]、x = 11.5[m])
[成果と効果]
図 2 に 〈u0〉 = 9.0[m/s] 、 x = 11.5[m] 付 近 に お け る
z = 0.04[m]までの雪粒子の移動速度の平均ベクトルを示
す。図 6 では、x = 11.5[m]を原点(x = 0)として描いている。
平均速度ベクトルは、どの領域でも、概ね雪面と平行な
向きであり、雪面に近づくにしたがって、値が小さくな
っている。図 3 に、x = 11.5[m]における平均風速と粒子
の平均移動速度を示す。図 3 より、設定風速に関係なく、
雪粒子の移動速度が遅く、移動速度の鉛直分布は、ほぼ
図3
風速と移動速度の鉛直分布
対数分布に従うといえる。また、その移動速度は、風速
による変化は多少あるものの、風速の変化に対する変化量は小さいことがわかった。風速に対する雪粒子の移動の比
を求めると 0 < z < 0.04 [m]の範囲では、およそ 0.3 ~ 0.5 になっていることもわかった。
[防災行政等への貢献]
Snowdrift のモデリング精度の向上は,吹雪や吹き溜まりに関連する雪氷防災における効果的な予測・対策・評価に
大いに資するものと期待される。
[成果の発表]
・査読誌
4件
・口頭発表
15 件
4.共同研究
(42)湿雪の破壊強度に関する研究
研究代表者
雪氷:平島寛行
研究参加者
雪氷:望月重人
共同研究先
(独)土木研究所寒地土木研究所:松下拓樹、伊藤陽一、伊東靖彦
[目
実施期間
平成 22 年度
的]
冬期の降雨に伴う湿雪雪崩の発生機構の解明のため、積雪中に雨水が浸透する状況とそれによる含水率増加及び雪
の破壊強度の変化特性を把握することを目的として実験を行った。
[実施内容]
実験は雪氷防災実験棟において行った。まず準備作業として、降雪テーブル上に断熱材(厚さ 9.5cm)を敷いた後、
屋外より雪を運び入れて深さ 10~11cm の圧雪層を作成し、その雪面に噴霧器を使って薄い氷板を形成させた。この
上に積もらせた降雪装置B(氷球)による深さ約 30cm の積雪に対し、降雨装置より雨を降らせた。雨は、積雪形成か
ら 21 時間後に、降水強度約 2mm/h で約 3.5 時間降らせた。また、最初の降雨終了から約 1 日後に再び、同じ降水強
度で約 3 時間雨を降らせた。これら 2 回の降雨前後の積雪の温度、密度、硬度、含水率の鉛直分布の測定と、粒子の
顕微鏡写真撮影を行った。硬度の測定にはプッシュゲージ(アタッチメント直径 15.4mm)を用い、含水率は熱量方式
(遠藤式)による重量含水率である。なお、積雪の破壊強度の指標として、シアーフレームによる剪断強度の測定が困
難であったため、プッシュゲージによる硬度に着目した。室内温度は、降雪時は-5℃、降雨時は 3℃、降雨後は 0℃
とした。
[成果と効果]
図1(a~d)は、最初の降雨前後の雪温、密度、硬度、含水率の鉛直分布である。雨水が浸透した高さ 15 cm 以上の
積雪層では、雪温が 0℃になり、含水率の増加とともに硬度が小さくなった。図1(e)の含水率と硬度の関係より、雨
水の浸透による含水率の増加に伴い硬度が急速に小さくなったことがわかる。また図1(f)より、降雨前は粒径約
0.1mm のしまり雪であったが、降雨後は粒径 0.5~1mm まで大きくなった。降雨後、雨水はさらに積雪下部へ浸透し、
雪面付近を除く高さ 10cm 以上の積雪の含水率は、約 13%の一定値となった(図2d)。この層の雪粒子(図2f 左上)
は、粒径 1mm 以上のざらめ雪であった。ここで2回目の降雨を実施した。図2b と d より、高さ 10cm 以上のざらめ雪
の密度と含水率は降雨前後で大きな変化がないものの、その下の氷板付近では含水率が 22.9%となり浸透した雨水が
帯水したと考えられる。今回の実験条件において、濡れたざらめ雪は含水率 13%以上の水を保持することなく、水は
急速に下の積雪へ移動したと考えられる。ただし、図2(e)の硬度と含水率との関係をみると、この層(含水率 22.9%)
の硬度は竹内ほか(2007)によって推定される値より大きい。また図2f(右下)より、粒径は大きくなったもののまだ
1mm 以下である。竹内ほか(2007)に対応する硬度まで低下するには、雪粒子が変態して大きくなるための時間を要す
ると考えられる。
今後、降雨後の経過時間や粒子の変態等を含めた積雪の破壊強度特性に関する詳細な解析を進めていく予定である。
雪面(降雨後)
30
25
20
15
10
5
0
-3.0
-2.0
-1.0
雪温 (oC)
30
25
20
15
10
5
0.0
雪面(降雨後)
(c)
35
300
400
密度 (kg m-3)
30
25
20
15
10
5
500
降雨前
雪面(降雨前)
降雨後
雪面(降雨後)
40
400
35
降雨後
30
25
20
15
10
100
200
300
硬度 (kN m-2)
(f)
降雨前 29.5 cm
降雨後 28.0 cm
竹内ほか(2007) 密度=300kg m‐3
300
竹内ほか(2007) 密度=350kg m‐3
竹内ほか(2007) 密度=400kg m‐3
200
1mm
降雨前 21.5 cm
100
1mm
降雨後 20.0 cm
5
0
0
0
(e)
降雨前
(d)
400
0
10
20
重量含水率 (%)
0
30
5
10
15
20
25
重量含水率 (%)
1mm
1mm
最初の降雨前後の(a)雪温、(b)密度、(c)硬度、(d)含水率の鉛直分布、(e)含水率と硬度との関係、(f)雪粒子
雪面(降雨後)
40
(a)
30
25
20
15
10
5
0
35
降雨前
雪面(降雨前)
降雨後
雪面(降雨後)
(b)
30
25
20
15
10
5
0
-3.0
-2.0
-1.0
雪温 (oC)
図2
0.0
降雨前
雪面(降雨前)
降雨後
雪面(降雨後)
40
(c)
35
30
25
20
15
10
5
0
200
300
400
密度 (kg m-3)
500
40
降雨前
雪面(降雨前)
降雨後
雪面(降雨後)
35
100
200
300
硬度 (kN m-2)
400
(e)
降雨前
降雨後
30
25
20
15
10
(f)
降雨前 13.5 cm
降雨後 12.5 cm
竹内ほか(2007) 密度=300kg m‐3
300
竹内ほか(2007) 密度=350kg m‐3
竹内ほか(2007) 密度=400kg m‐3
200
1mm
1mm
降雨前 1.5 cm
100
降雨後 1.5 cm
5
0
0
0
400
(d)
硬度 (kN m -2)
雪面(降雨前)
降雨後
氷板からの高さ (cm)
降雨前
-4.0
雪面(降雨前)
降雨後
0
200
氷板からの高さ (cm)
氷板からの高さ (cm)
(b)
35
降雨前
40
氷板からの高さ (cm)
図1
35
雪面(降雨後)
0
-4.0
40
雪面(降雨前)
降雨後
氷板からの高さ (cm)
氷板からの高さ (cm)
氷板からの高さ (cm)
(a)
35
降雨前
40
硬度 (kN m-2)
雪面(降雨前)
降雨後
氷板からの高さ (cm)
降雨前
40
0
10
20
重量含水率 (%)
30
0
5
10
15
重量含水率 (%)
20
25
1mm
1mm
2回目の降雨前後の(a)雪温、(b)密度、(c)硬度、(d)含水率、(e)含水率と硬度との関係、(f)雪粒子
[防災行政等への貢献]
今回の成果は、防災行政における湿雪雪崩の発生危険度判断のための基礎検討資料として活用していく予定である。
4.共同研究
(43)人工降雪装置及び日射装置を使用した圧雪形成実験
研究代表者
雪氷:根本征樹
研究参加者
雪氷:望月重人
共同研究先
鉄道総合技術研究所:鎌田 慈、飯倉茂弘、栗原 靖、高橋大介
[目
実施期間
平成 22 年度
的]
車輪フランジ通過部(以下、フランジウェイと呼ぶ)の雪は、列車通過時にフランジによって圧密されるため、密度、
硬度ともに大きい圧雪が形成されることがある。フランジウェイに圧雪が形成されると、列車が圧雪に乗り上げ、最
悪の場合は脱線に至る場合がある。そこで鉄道総研では、フランジウェイ圧雪の形成過程や形成に寄与する要因を明
らかにすることを目的として、現地調査および室内試験(再現試験)を実施している。本共同研究はその一環として、
雪氷防災実験棟において圧雪形成試験を行い、気温や雪質、日射が圧雪の形成に与える影響を調べた。
[実施内容]
押し付け方向
本試験手順は次の通りである。最初に圧雪形成試験装置の軌道内に雪を敷
フランジ
き詰めて、油圧ポンプにより模擬車輪を 55kN(一部の試番では 25kN)の力でレ
模擬車輪
ールに押し付ける(図 1)。そしてフランジの押し付けによってできた雪面の凹
レール
レールから240mm
部に、敷き詰めた雪と同質の雪を充填し、再度、押し付ける。この一連の作
物性の測定領域
業を繰り返すことで圧雪を形成させた。本共同研究では、押し付け回数の他、
気温(雪質)や日射条件の異なる 7 試番(表 1)を実施した。圧雪の成長指標とし
雪試料
て、定期的に測定した積雪の物性(密度、硬度)を測定した。
[成果と効果]
(1)雪質が圧雪の形成へ与える影響
試験
番号
試番1
試番2
試番3
試番4
試番5
試番6
試番7
乾き雪(試番 1、2、3)と濡れ雪(試番 4、含水率 7.9~10.9%)の違いが
圧雪形成に与える影響を調べた結果、押し付け回数が増えると乾き雪、濡れ
雪ともに硬度が増加する傾向が得られた(図 2)。雪質で比較した結果、濡れ雪
の方が乾き雪よりも硬度の増加率は大きく、同じ雪質でも室温が高い方が硬
室温
-5℃
-5℃
0℃
2℃
-5℃
-3℃
-10℃
押しつけ
日射照射
回数
15回
なし
50回
なし
35回
なし
20回
なし
5回
1H×1回、0.5H×1回
10回
1H×2回
10回
1H×2回
度の増加率は大きかった。この原因として、氷の硬度は温度の高い方が小さ
く、変形しやすいこと、さらに積雪中に水が存在する場合は雪粒子を結び付
700
ける働きをするため圧密が促進され、高密度化が進むことが考えられる。
400
300
200
100
で一時的に融解が進行し、硬度が減少した(図 3)。試番 5、試番 7 については、
50回
35回
30回
25回
20回
日射照射後の硬度が増加した。これは、日射により雪面で融解が進行したも
15回
0回
0
11回
なくレール(日射照射後、レール温度はプラス)からの熱量により、雪面付近
500
10回
日射が圧雪の成長へ与える影響を調べた結果、試番 6 の場合、日射だけで
試番2(室温-5℃)
試番4(室温2℃)
600
硬度(kPa)
(2)日射が圧雪の形成へ与える影響
試番1(室温-5℃)
試番3(室温0℃)
のの、周囲の温度およびレール温度(両者ともマイナス)が低く、再凍結が生
じたためだと考えられる。また、日射と押しつけ回数の関係に着目すると、
押しつけ回数が増えるにつれて硬度も増加する傾向がみられ、試番 6 の硬度
試番5(室温-5℃)
試番7(室温-10℃)
[成果の発表]
・口頭発表
1件
10回
圧雪の形成過程および形成に寄与する要因を明らかにしていく予定である。
日射(0.5hまた
は1h)
今後は、本研究で得られた知見および現地調査結果から、フランジウェイ
5回
響を考慮する必要性が明らかになった。
日射(1h)
から、フランジウェイ圧雪の形成には、日射の影響に加え、レール温度の影
700
600
500
400
300
200
100
0
0回
密され、外気温の影響を受けて再凍結したためだと考えられる。以上のこと
硬度(kPa)
(10 回後)が最も大きくなった。これは、濡れ雪状態の雪が押しつけにより圧
試番6(室温-3℃)
4.共同研究
(44)落雪対策技術の高度化に関する基礎的評価研究
研究代表者
雪氷:根本征樹
研究参加者
雪氷:望月重人
共同研究先
東京電力株式会社
実施期間
平成 22 年度
技術開発研究所 送変電技術グループ:斎藤 善征
[目 的]
撥水性や振動機能等を持たせた落雪対策品について、自然環境に近い条件での状況を再現し、対策品への着雪有
無・着雪量等の定量的データを取得する。
[実施内容]
(1)回転型難着雪対策品の性能評価
(2)振動型難着雪対策品の性能評価
(3)赤外線LED内蔵型リングの性能評価
[実施成果]
各対策品の実験条件を以下の通りとし、人工着雪実験を行い、10 分間毎に着雪重量を測定した。
風洞内気温:2℃、風速:5m/s、雪の含水率:2%前後、7%前後、降雪強度:3 ㎜/h
1.回転型難着雪対策品
6 種類の撥水性材料を回転型難着雪対策品に
使用した時の難着雪効果を確認する。
◆実験結果
含水率 2%の雪では、接触角度を 140°程度
を有する材料を使用することで、難着雪効果が
発揮されることが分かった。
2.振動型難着雪対策品
3 種類の撥水性材料を振動体表面に装着し、
振動させたときの難着雪効果を確認する。
◆実験結果
振動と撥水を組み合わせることが効果的
で、接触角度が 100°以上あると効果が発
揮されることが分かった。
3.赤外線 LED 内蔵リング
赤外線 LED を内蔵したリングを電線に取り付け、
発光による融雪効果を確認する。
◆実験結果
無対策品と比較し、着雪重量は約 10%程度軽く、外見的にも着雪片の融解や水滴付着が確認されたことから、
融雪効果はあるものと考えられる。
[防災行政等への貢献]
本研究において、難着雪効果を発揮する接触角を明確にした。当社としては、引き続き接触角の高い撥水材料の調
査と、実設備での性能評価を推進し、更なる貢献を果たしたい。
4.共同研究
(45)雪平成22年度遠赤外線と融雪との相関関係の検証
研究代表者
雪氷:上石
勲
研究参加者
雪氷:上石
勲
共同研究先
ユニロット
:北谷公昭、足本東史雄、瀬戸征幸
[目
実施期間
平成 22 年度
的]
昨年度より改良を加えた遠赤外線を用いた融雪装置の改良性能試験を行い、遠赤外線放射強度と融雪能力との相関
関係を分析し実運用に必要なデータ取得する。
[実施内容]
実験は、雪氷防災研究センター構内において、氷を砕いて作成する積雪に遠赤外線を照射し、融雪量を測定した。
地面からの高さと機器角度を変化させて融雪状況を連続記録するとともに、0.5 時間程度の間隔で、積雪密度ならび
に積雪深を測定した。得られたデータを整理し、融雪量と遠赤外線照射量の関係を解析した。
以上から遠赤外線融雪装置の性能を評価した。
[成果と効果]
昨年度同様、遠赤外線照射された中心部から融雪していく状況が確認され、時間とともに融雪面積が徐々に広がる
ことが判明した。また、照射量が大きく、また、照射高さが低いほど融雪量が大きくなることがわかった(図1)。
[防災行政等への貢献]
本研究結果により、積雪等による防止対策を実施していくうえで、ETC 車両検知器センサー・コリドール通路・スマートインター路
面等で融雪の安全走行及び人の往来による転倒を軽減することを目指している。
図1
遠赤外線による融雪状況の一例
4.共同研究
(46)中高層建築物の外壁部および庇等の積雪障害防止に関する研究
研究代表者
雪氷:根本征樹
研究参加者
雪氷:佐藤 威、望月重人
共同研究先
北海道立総合研究機構北方建築総合研究所:堤 拓哉
[目
実施期間
平成 22 年度
的]
近年、意匠性の向上ならびに省エネルギー対策を目的として外壁や窓周りに庇状の化粧材や庇・ルーバなど環境制
御を目的とした部材を設置する中高層建築物が増えている。このような中高層建築物の外壁に取り付けられた環境制
御部材に雪が堆積することにより、落氷雪事故が懸念されるほか、空隙を持つ部材に作用する積雪荷重の資料も不足
している。本研究は、積雪地における建築物の外壁部および庇等における技術的課題を明らかにすること、積雪障害
防止に関する技術的知見を示すことを目的とする。
[実施内容]
降雪装置と実物大試験を用いた堆積実験:
低温室内に形状を変化させたルーバ型庇の試験体を設置し、複数の降雪条件下で庇上への雪の堆積実験を行った。
今年度は、ルーバ型庇の部材幅や部材間隔を変化させ、庇上の積もり係数との関係を調べた。
写真 1
試験体設置状況
写真 2
試験体上の堆積状況
[成果と効果]
ルーバ型庇上の積雪性状および部材幅と積もり係数との関係を明らかにした。積もり係数は空隙率が一定でも部材
積り係数
幅により大きく異なることが示された。
人工降雪A
人工降雪B
人工降雪C
屋外(0912.15)
屋外(0912.17)
2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 0
図1
20
40
60
80
100
部材幅(mm)
ルーバ型庇の部材幅と積もり係数(庇上の積雪と地上積雪の比)との関係
空隙率 50%の場合
[防災行政等への貢献]
本研究成果は、雪国における建築設計に関する基礎資料となり、落雪事故など積雪障害防止に繋がる。
[成果の発表]
・口頭発表
1件
4.共同研究
(47)雪温と滑走速度に依存するスキー滑走抵抗の研究
研究代表者
雪氷:阿部
修
実施期間
平成 22 年度
研究参加者
雪氷:望月重人
共同研究先
電気通信大学:仁木國雄、金子克己、斎藤悟、青木猛、荒川欣吾、住谷修、武田麻衣子、西塚
貴章、大森幹夫、谷口将隆、畑総祐
金沢大学:香川博之、伊藤智季
[目
的]
スキー滑走は摩擦融解説による潤滑摩擦で説明されるのが通例である。しかし我々は前回までの共同研究で摩擦融
解の起きない低温・低速条件で実際の高速度滑走と同程度の小さな摩擦係数を観測した。ここでは、この矛盾を解決
するために摩擦の原理を明らかにする。
[実施内容]
粒子径の異なる雪を用いて、静摩擦係数の待機時間依存性を測定した。防災研実験棟で作成した不純物を含まない
雪を圧密後測定温度に16時間静置してから測定した。雪面は平滑で十分硬く、除雪抵抗、圧接抵抗は考慮しなくて
良い。滑走体は、実際のスキー(滑走面材:高密度ポリエチレン)から切り出し、滑走面を平坦に加工した長さが 20
cm のものを用いた。雪の粒子径は篩いを用いて分別した。
[成果と効果]
図は、(a)粒径 2 mm と(b)粒径 5 mm
の雪の最大静摩擦係数を 4 種類の室温で測定した結果を示す。
静摩擦係数は待機時間(contact time)の対数に比例して増加した。また、粒子径が大きい方が摩擦係数は小さくな
った。さらに、これらの現象に荷重依存性は見られなかった。このことから、静摩擦の起源は真実接触面積における
凝着(分子間引力)のせん断が主な原因であると推察される。雪粒子を均一な球と仮定すると滑走体との見かけの接
点の数は 2 mm の粒子の場合 5 mm の場合の約5倍となる。摩擦の際の真実接触点が上述した見かけの接点のいくつか
と考えれば、粒子径を変えたのは、真実接触面積を大きく変えたことに相当する。従って、真実接触面積の小さな
(b)では静摩擦係数は小さく温度依存性もほとんど観測されないが、真実接触面積の大きな(a)では静摩擦係数の値が
大きい上に温度依存性が顕著に見られ、融点近くで急激に大きくなる。
また、動摩擦係数には粒子径が小さい場合に低速度(1 m/s 以下)で顕著な温度および速度依存性が見られたが、大
きな粒子では低温で摩擦係数が大きくなるものの顕著な速度依存性は観測されなかった。
動摩擦力も凝着の待機時間の短いもののせん断力と考えれば、全ての現象が説明できる。すなわち、真実接触面積
が十分に大きい場合は、温度が上昇すれば雪粒子の擬似液体層が厚くなり凝着力が増加し摩擦係数も上昇するが、一
方で融点近傍ではせん断応力が小さくなり摩擦係数は急激に減少する。しかし、真実接触面積の小さな雪の場合擬似
液体層の効果は摩擦係数に顕には影響しない。
[防災行政等への貢献]
摩擦現象のメカニズムの研究は、スノー・スポーツのみならず雪崩、屋根雪の落下や歩行者、自動車のスリップなど
の安全対策に応用できるものと考えている。
[成果の発表]
・口頭発表
3件
4.共同研究
(48)吹雪による堆積・削剥・昇華過程のモデリング
研究代表者
雪氷:佐藤 威
研究参加者
雪氷:望月重人
共同研究先
海洋研究開発機構:杉浦幸之助
[目
実施期間
平成 22 年度
的]
吹雪による積雪の再配分は、南極大陸や寒冷積雪域の雪氷水循環における重要なプロセスである。これまで国内外
で吹雪の物理モデルが開発されてきているが、積雪面の堆積・削剥・昇華過程に関して十分な観測結果が得られてい
るとは言い難い。そこで本研究では、風速と温度を自由に設定することができる大型低温風洞実験装置を用いて積雪
面の堆積・削剥・昇華に関する実験を実施し、吹雪時における積雪の堆積・削剥・昇華量と積雪物理量(積雪水量、
密度、硬度)及び気象要素(風速、気温、湿度)との関係を調べることを目的とする。
[実施内容]
雪を低温風洞内の床に敷き詰めから雪面を氷化させて、削剥が生じない硬雪面を作成した。そして風上から雪粒子
を供給して吹雪を発生させた。風下端の鉛直トラバース装置に取り付けられたスノーパーティクルカウンター
(SPC)により、吹雪量を計測した。また、その鉛直トラバース装置には温湿度計も取り付けて、温湿度の時間変化
を計測した。雪面からの測定高は、3cm、6cm、12cm、24cm、40cm である。風速は 10m/s と 7m/s、温度は-5℃、10℃、-15℃、雪供給装置の供給上昇率は 4%と 10%と変化させた。
なおこの実験では、 風速 10m/s と 5m/s で温湿度計(Vaisala: HMP233)の応答特性も測定した。
写真1
トラバース装置に取り付けられた SPC(右)、温湿度計(中央)、超音波風速計(左)。吹雪は右下から左上に流れる。
[成果と効果]
温湿度計の応答特性を図1に示す。はじめに雪で覆われた空間内に温湿度計をしばらく放置した後に雪粒子の供給
をしないで風のみをあてたときの、初期の温湿度から定常な温湿度に達するまでの時間変化が示されている。風速
5m/s の場合の初期温湿度は-18.2℃と 77.5%で、定常温湿度は-9.5℃と 64.1%であった。風速 10m/s の場合の初期温湿度は-18.3℃と
78.2%で、定常温湿度は-8.8℃と 58.8%であった。温度と湿度ともに、風速が大きい方が応答は速い様子がわかる。昇華量と
風速及び温湿度との関係を調べるためには、このようなセンサーの応答を事前に把握しておくことが重要である。こ
の結果をもとに、得られた各種データの解析を今後進めて行く予定である。
図1 温度(a)および湿度(b)の応答性。 <T>とは、初期温度から定常温度に達するまでの温度を定常温度で規格化した値。<RH>とは、初期湿度から定常湿度に達す
るまでの湿度を定常湿度で規格化した値。
4.共同研究
(49)低温風洞による樹氷の生成・生長における着雪効果の実験的研究
研究代表者
雪氷:佐藤 威
研究参加者
雪氷:望月重人
共同研究先
秋田大学教育文化学部:本谷 研、小松聡佑子、高橋亘大、松本麻美
[目
実施期間
平成 22 年度
的]
蔵王などで見られる樹氷(スノーモンスター)の成
長過程における降雪・着雪が果たす役割について、実
験的な考察を行う。人為的に制御した環境で樹氷を生
風向
成することにより雪質や気象条件による成長速度の差
異、昇華による消耗や物質濃集について調べる。
図1.実験の模式図
[実施内容]
防災科学技術研究所雪氷防災センター新庄支所の低温風洞設備内に、風上に液水を噴霧するスプレーノズル、6~
8m 程度風下に樹氷生成の核になる試験体(葉が密生した針葉樹に見立てた小型のクリスマスツリー)を設置した(図1
参照)。風速を約 2ms-1、4 ms-1、6 ms-1 の 3 つの条件、および気温-10℃または-18℃とした条件で液水をスプレーする
と、流下中に過冷却水滴となり試験体風上側に凍着し樹氷の基本形となる rime が成長する。また、降雪実験では同
支所の人工降雪装置により樹枝状の雪を準備し、風洞上部の降雪装置(ふるい)により降雪を加えた場合についても検
討した。スプレーに用いた液水(原水)、各条件下で着氷および着氷雪を作成し、溶存物質の濃集(または昇華・蒸発
量の推定) による塩素
イオン濃度の変化など
Cl-濃度
濃度変化
サンプル名
(mg/l)
を調べた。
(mg/l)
①0214 原水
7.99
0
②0214 雨氷(2m/s,-10℃)
2.53
-5.46
③0214 ツリー樹氷(2m/s,-10℃)
8.81
塩化物イオン濃度変化
④0214 風下金網着氷(2m/s,-10℃)
を表 1 に示す。最も濃
[成果と効果]
Cl-濃度
濃度変化
(mg/l)
(mg/l)
サンプル名
⑩0216 夕方,金網(4m/s,-18℃)
9.12
0.91
⑪0217 原水
8.22
0
0.82
⑫0217AM ツリー樹氷(4m/s,-18℃,雪)
8.37
0.15
9.37
1.38
⑬0217AM 金網着氷(4m/s,-18℃,雪)
9.04
0.82
⑤20110215PM 原水
8.18
0
⑭0218AM 原水
8.21
0
⑥0215PM ツリー樹氷(4m/s,-10℃,雪)
9.22
1.04
⑮0218AM,ツリー樹氷(2m/s,-18℃,雪)
5.69
-2.52
11.15
2.97
⑯0218AM,ツリー樹氷(6m/s,-18℃)
8.81
0.6
⑰0218AM,金網着氷(6m/s,-18℃)
9.14
0.93
⑱0218 夕,降雪装置 B 内残雪
0.17
温度と風速を変化さ
せて作成した着氷雪の
度変化が大きくなった
のは-10℃、風速 4m/s
で降雪ありのケース
⑦0215PM 金網着氷(4m/s,-10℃,雪)
(表 1⑦)であった。水
⑧0216 夕方,原水
8.21
0
⑨0216 夕方,ツリー樹氷(4m/s,-18℃)
9.02
0.81
滴の蒸発(と着氷の昇
華)が最大であったこ
とに対応すると思われ
表1原水および着氷雪の塩化物イオン濃度と濃度変化(原水に対する増減)
る。同条件(-18℃、風速 4m/s)で降雪のあるなしを比較すると、降雪なしでは 0.81mg/l 増加(⑨)に対し降雪ありでは
0.15mg/l 増加(⑪)に止まっており着雪(人工雪なので塩化物イオン濃度は低い)によって希釈されたものと解釈できる。
この他、雨氷となった②では濃度変化は負となり、これは水滴レベルで水の蒸発より塩化物イオンの抜気が上回った
か、着氷時の脱塩が生じたためと予想される。
[防災行政等への貢献]
本実験により、着氷・着雪が同時または交互に進行する過程を研究することで着氷・着雪被害軽減のための基礎的
知見となり得ることが期待される。特に、着氷前後の塩化物イオン濃度変化の測定では、重量変化等での直接測定が
困難な昇華・蒸発量を間接的に推定することができると考えられるほか、wet growth か dry growth かといった着氷
成長の違いを反映した指標として期待が持てる。さらに本年度は rime の成長動画をテレビ番組(TBSテレビ「情報
7days
ニュースキャスター」)に提供し、樹氷特集の解説に役立ててもらった(2011 年 2 月 19 日 23 時頃に放送)。
[成果の発表]
・口頭発表
1件
・その他
1件
4.共同研究
(50)視程計測の規準化に関する研究
研究代表者
雪氷:佐藤威
研究参加者
雪氷:小杉健二、根本征樹
共同研究先
(独)土木研究所寒地土木研究所:松澤勝、伊東靖彦、武知洋太
[目
実施期間
平成 21 年度~平成 23 年度
的]
吹雪による視程障害は、冬季の道路交通の安全阻害要因の一つである。その対策の一環として、視程計による視程
のモニタリングや視程の予測に関する研究も進められている。しかし、視程計には測定原理が異なるものがあり、相
互の計測値の関係は十分に把握されていない。本研究は、
測定原理が異なる様々な視程計による吹雪時の視程の同
時観測を通じて、視程計測の規準化を行うことを目的と
する。
[実施内容]
1)石狩吹雪実験場における、視程計による視程の同時・
連続観測(図 1)
2)石狩吹雪実験場における、一般気象の観測と画像デー
タの取得
3)視程計測値に関する気象依存特性の把握
4)視程計測値の相互比較により、基準とする透過型視程
計計測値に対する変換手法の検討
5)視程計測値相互変換の気象依存性検討
[成果と効果]
図1
石狩吹雪実験場に設置した各種視程計
寒地土木研究所石狩吹雪実験場における透過式視程計、
降雪時
反射式視程計、前方散乱式視程計の比較観測の結果、以下
10000
のことが明らかとなった。
1.降雪時(図 2)
雪時の校正による視程の算出式を用いていて、降雪時には
視程を過小評価するとの既往の研究結果と整合している。
もう 1 台の反射式視程計も同様の傾向であった。前方散乱
1000
反射視程A [m]
反射視程が透過視程より小さく、この反射式視程計は吹
100
式視程は、透過視程と同程度となるものと、透過視程より
10
小さくなるものがあった。
2.地吹雪時(図 3)
1
地吹雪時には高度とともに飛雪流量が小さくなり逆に視
1
10
程値は大きくなる。このため視程計の比較は同一高度で行
う必要があるが、観測では各視程計センサーの雪面からの
高度を揃えることができなかった。このため、定量的な比
図2
100000
研究機関が使用している視程計は、必ずしも同一(原理)で
はなく、相互の関連については明らかではなかった。本研
10000
前方散乱視程B [m]
これまでは、道路管理を行っている機関、冬期の道路環
10000
地吹雪時
乱視程の対応は余りばらつかず良好であった(図 2)。
境等の調査業務を行っている民間企業、吹雪を対象とする
1000
反射視程と透過視程の比較(降雪時)
較は十分ではないが、異なるメーカーによる 2 つの前方散
[防災行政等への貢献]
100
透過視程 [m]
1000
究により、視程計の規準化が達成することにより、それぞ
100
10
れの計測値を統一的に扱うことが可能となり、吹雪対策の
高度化に寄与する。また、吹雪に関する研究成果を現場の
1
1
吹雪対策に直接応用することが可能となる。
10
100
1000
10000
100000
前方散乱視程A [m]
図3
2 つの前方散乱視程の比較(地吹雪時)
4.共同研究
(51) 降雪粒子・降水強度の複合観測及びレーダー観測との比較
研究代表者
雪氷:中井専人
研究参加者
雪氷:本吉弘岐、石坂雅昭
共同研究先
長岡技術科学大学:熊倉俊郎
実施期間
農業・食品産業技術総合研究機構北陸研究センター:横山宏太郎
森林総合研究所十日町試験地:村上茂樹
[目
平成22年度~平成24年度
韓国Kyungpook National University:Gyuwon Lee
的]
地上観測によるアルゴリズム検証のうち、主に降雪についてGPM 標準アルゴリズムの開発、改良に資する検証デー
タおよび検証に必要となる気象学的知見を得る。
[実施内容]
複数の試験研究機関による気象、雪氷に関する地上研究観測および偏波レーダー観測が冬期間行われている新潟県
域において、時間分解能の高い降雪強度観測と詳細な降雪粒子観測を展開する。さらに、得られたデータを用いて卓
越する降雪粒子の種類、降水強度の変動、降水系の特徴の関係について解析する。平成22年度は共同研究3機関への
降雪粒子・高分解能降雪強度観測サイト(SPOS : Snowfall Particle Observation Site)の設置を行い、雪氷防災研
究センター(長岡)と合わせて4地点での観測を行った。
[成果と効果]
SPOS観測点の設置、データサーバーの設置とデータ回収体制の確立、冬季連続観測に成功した。突風、停電等のトラ
ブルはあったものの、準備した機器は比較的順調に稼働し、降雪粒子と降雪強度の詳細な変動のデータが得られた。特
に降雪粒子について、データチェックのため長時間(10日間)積算をしたところ落下速度-粒径の2次元分布が気温の低
下に伴う変化を示し、卓越する降水が雨から雪片に変わって行ったことを表す結果が得られた(図1)。このことは、降
雪粒子の特性を把握するものとして観測方法の妥当性を示すと考えられる。
これらの品質管理したデータ整理および比較解析、また観測の問題点と対処法の検討を平成23年度前半に行い、後半
の観測につなげていく予定である。
[成果の発表]
・口頭発表
4件
雨が卓越
雨と雪
図1
雪 氷防 災研 究セ ンタ ーで 観測 され た、
2010 年 12 月と 2011 年1月の3期間におけ
る、10 日間積算した降水粒子の粒径-落下速度
分布。同時に観測している露場データをそれぞ
雪片が卓越
れの分布図に対応させて右側に示す。
4.共同研究
(52)積雪地域における多機能型太陽光発電システムの開発に関する研究(4)
研究代表者
雪氷:小杉健二
研究参加者
雪氷:佐藤
共同研究先
北海道工業大学:細川和彦
[目
実施期間
平成 21 年度~平成 22 年度
威
的]
環境に配慮したエネルギー利用として、近年、太陽光発電が注目されているが、積雪・寒冷地域においては、積雪、
着雪等による効率低下の評価やその対策が課題となる。
本研究では、太陽光発電システムの普及拡大の実現に向けて、これまで不利な条件とされてきた積雪地域における
発電効率について、観測により明らかにするとともに、その改善方法を開発することを目的とする。本研究の結果は、
太陽光発電システムを有効利用した雪氷防災・雪処理技術等の多機能システムへつながることが期待される。
[実施内容]
これまで 2006/07 冬期から 2009/10 冬期までの 4 冬期にわたり、防災科学技術研究所雪氷防災研究センター新庄支
所(山形県新庄市)及び北海道工業大学(北海道札幌市)において、同一試験体を用いて太陽電池の着雪状況の屋外
観測を行った。観測に用いる試験体は、多結晶型太陽電池三枚をそれぞれ角度 90°(鉛直)、60°及び 45°に設置
したものである。各々の太陽電池の発電量をデータロガーで記録するとともに、太陽電池上に雪が堆積する様子をタ
イムラプスビデオにより観測した(観測の状況は前年度の年報を参照)。
0
0
11月
発電量は全体として日
射量に伴って変化し、
200
45°の太陽電池の発電
量が最も多く、60°、
90°の順に少なくなる。
1日当たりの発電量 (Wh)
んど無い 11 月には、
1月
2月
2006/07冬期
150
100
5
50
電池ほど雪で覆われる
ことが多くなるためこ
0
12月
1月
2月
2008/09冬期
図1
12月
1月
2月
2007/08冬期
3月
15
発電量(45°)
発電量(60°)
発電量(90°)
日射量
降雪深
150
10
100
5
50
0
0
3月
1日当たりの日射量 (MJ/m 2 )
及び降雪深 (cm)
0
200
0
11月
5
50
0
15
10
10
100
11月
降雪がある 12 月~3 月
には角度の小さい太陽
150
3月
発電量(45°)
発電量(60°)
発電量(90°)
日射量
降雪深
12 月に最小となってい
る。降雪の影響がほと
12月
15
発電量(45°)
発電量(60°)
発電量(90°)
日射量
降雪深
1日当たりの日射量 (MJ/m 2)
及び降雪深 (cm)
平均値)。太陽電池の
5
50
1日当たりの発電量 (Wh)
を除いた 1 日当たりの
100
1日当たりの発電量 (Wh)
(値はいずれも欠測日
10
1日当たりの日射量 (MJ/m 2)
及び降雪深 (cm)
毎の推移を図1に示す
1日当たりの発電量 (Wh)
日射量及び降雪深の月
150
1日当たりの日射量 (MJ/m 2 )
及び降雪深 (cm)
発電量(45°)
発電量(60°)
発電量(90°)
日射量
降雪深
新庄における 4 冬期
の各太陽電池の発電量、
200
15
200
[成果と効果]
11月
12月
1月
2月
2009/10冬期
3月
太陽電池の発電量、日射量及び降雪深の月毎の推移
1.3
ることもしばしば生ずる。
図2は上記の関係を定量的に表したものである。1 日
の降雪深が概ね 5cm より小さい場合は 90°の太陽電池の
発電量に比べ 45°のそれが大きな値を取るが、降雪深が
それ以上になると両者の大小関係は逆になることが分か
る。
45°と90°の太陽電池の発電量の比
の関係は崩れ、90°の太陽電池の発電量が最も大きくな
11月
12月
1月
2月
3月
1.2
1.1
1
0.9
0.8
0.7
0
図2
係
2
4
6
1日当たりの降雪深 (cm)
8
10
45°と 90°の太陽電池の発電量の比と降雪深の関
4.共同研究
(53)長野県大北地区における雪崩発生危険度情報の活用方法検討
研究代表者
雪氷:上石
勲
研究参加者
雪氷:山口
悟、平島寛行、佐藤篤司
共同研究先
NPO 法人 ACT
[目
実施期間
平成 22 年度
NPO 法人 ACT:元村幸時、太田あみ
的]
長野県大北地区の気象、積雪等雪崩情報について収集して、防災科学技術研究所で開発研究中の雪崩発生予測シス
テムによる雪崩発生予測結果を検証し、NPO 法人 ACT で情報提供中の雪崩危険度情報への雪崩発生予測情報の活用方
法を検討することを目的とする。
[実施内容]
(1)気象、積雪、雪崩発生に関する情報収集
(2)雪崩発生予測結果の検証
(3)雪崩発生予測情報の活用方法検討
[成果と効果]
(1)気象、積雪、雪崩発生に関する情報収集
長野県大北地区における気象、積雪、雪崩発生、雪崩の予兆現象等の過去ならびに現在の情報を収集した。
(2)雪崩発生予測結果の検証
長野県大北地区における気象、積雪、雪崩発生と、防災科学技術研究所雪氷防災研究センターで研究開発中の雪
崩発生予測システムによる雪崩発生予測結果を比較検証した(図1)。
(3)雪崩発生予測情報の活用方法検討
防災科学技術研究所雪氷防災研究センターの雪崩発生予測情報を NPO 法人 ACT で情報提供中の雪崩危険度情報へ
活用する方法を検討した。
雪崩危険度稜線付近
12月17日~2月16日
危険度 5:危険
危険度 1:安全
5
NIED
4
3
2
1
0
0
1
2
3
4
5
ACT・FC平均
図1
雪崩危険度の比較(NIED、NPO 法人 ACT)
2009 年 12 月 17 日~2010 年 2 月 16 日
4.共同研究
(54)路面積雪の圧雪過程における散乱機構の研究
研究代表者
雪氷:阿部
研究参加者
雪氷:小杉健二、千葉大学:西尾文彦、Josaphat Tetuko Sri Sumatyo 、長康平
共同研究先
千葉大学環境リモートセンシング研究センター
[目
修
実施期間
平成 22 年度
的]
道路路面上の積雪や氷膜の状態をモニタリングするためのマイクロ波雪氷センサを開発するための基礎資料とするために、積雪や氷膜によ
るマイクロ波の反射、散乱、透過等の特性を明らかにすることを目的とする。
[実施内容]
マイクロ波送受信用ホーンアンテナ、ベクトル・ネットワーク・アナライザからなるマイクロ波計測器を用い、積雪(人工雪および天然
雪)をターゲットとしたマイクロ波の反射波の計測を行う。さらに、得られた計測結果を解析し、積雪によるマイクロ波の反射の諸特性を把
握する。
[成果と効果]
(独)防災科学技術研究所雪氷防災研究センター新庄支所の低温実験室において、
雪氷の複素誘電率計測を実施した(図1)。ここでは乾雪および純氷の計測事例
を紹介する。なお、ベクトル・ネットワーク・アナライザには Anritsu MS2036A
を使用し、周波数4-6GHz の範囲で計測を行った。
計測および推定の結果を表1、2に示す。乾雪では複素比誘電率の実数部が
1.59、氷では3.03 となった。一般に雪は2-3 以下、氷の比誘電率の実数部は3 前
後であるので、概ね妥当な計測結果が得られた。
図1 測定方法
E P S : 発 泡 ス チ ロ ー ル (Expanded PolyStyrene
[防災行政等への貢献]
誘電率は媒質境界面における電波の反射、透過、媒質内における電波の伝搬、減衰などを決定するパラメータであり、媒質からの反射波を
計測・解析することで誘電率を逆推定することが可能である。また誘電率は媒質の物理状態に応じて変化するため、媒質の物理状態(雪密度
や含水率など)を推定することができ、それらに基づいて雪質や凍結の有無を把握することができる。これらの計測原理を応用したマイクロ
波リモートセンシング手法は、国道や高速道路における冬期の道路維持管理業務に供する道路雪氷モニタリングの有力な手段となる可能性が
ある。
[成果の発表]
・口頭発表
1件
4.共同研究
(55)雪の舞い上がりに及ぼす雪質と風速の影響評価
研究代表者
雪氷:根本征樹
研究参加者
雪氷:望月重人
共同研究先
鉄道総合技術研究所:鎌田慈、高橋大介、栗原靖、飯倉茂弘
[目
実施期間
平成 22 年度
的]
積雪地域では、列車走行に伴い舞いあげられた雪が床下機器に付着し、これが落ちることで地上機器の破損や分岐
器の不転換事象を引き起こすことがある。このように雪の舞い上がりは着雪現象に深く関わっており、舞い上がり量
を知ることは着雪量を推定する上で重要である。本共同研究では、吹雪の発生・発達メカニズムと雪の舞い上がり現
象との共通点を明らかにし、既存の吹雪モデルを改良して列車走行時の雪の舞い上がり量を推定するモデルを構築す
ることを目的とする。
[実施内容]
鉄道総研では、模型を用いて最高速度 40m/s までの舞い上がり試験を行い、雪質、走行速度と舞い上がり量の関係
を調べることとし、防災科研では既存の吹雪モデルによる舞い上がり現象の数値計算を行うことした。打ち合わせに
より、以下のように舞い上がり試験の測定項目を決定した。
雪の舞い上がり発生機構は、①列車風の摩擦応力による雪粒子の飛散、②雪面と積雪内部の圧力差による雪塊の飛
散が考えられる。既存の吹雪モデルは、雪面上の雪粒子の空間雪密度は雪面位置での風速の摩擦速度の関数として表
すことができる。そこで、上記①についての測定項目をドラッグメータによる雪面位置での摩擦速度、飛雪粒子計
(SPC)による雪面上 100 ㎜の飛雪フラックスとした(図 1)。しかしながら、上記②については現行の吹雪モデル
A
には考慮されて
いないため、今
後のモデル改良
排雪力測定試験装置
走行台車
走行台車
ワイヤーロープで牽引
のための基礎デ
ータとして、小
型風圧計を用い
床下機器箱
模型
飛雪粒子計
飛雪粒子計
て雪面と積雪内
部の圧力勾配を
移動方向
100mm
風圧計
(P1)
100mm
雪試料
100mm
風圧計
(P2)
雪試料
ドラッグ
メータ
測定することと
床下機器箱
模型
人工芝
した。
図1
雪の舞い上がり試験の概要図
図 2 に雪密度が 40kg/m3 の乾き雪と濡れ雪の新雪を用いて
実施した雪の舞い上がり試験の結果の一例を示す。どちらの
雪質でも床下機器箱模型が通過した直後に飛雪フラックスが
急激に増加し、徐々に減少する傾向が見られた。また、同じ
新雪であっても乾き雪は濡れ雪と比較して飛雪フラックスが
大きいことおよび舞い上がりが継続する時間が長いことがわ
かった(図 2)。
今後、既存の吹雪モデルによる空間雪密度との比較により
モデルのチューニングを実施していく計画である。
飛雪フラックス (kg/m2/s)
A-B断面図
[成果と効果]
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
乾き雪
濡れ雪
0
1
B
雪密度:40kg/m3
走行速度:30m/s
2
3
経過時間 (sec.)
4
※経過時間 0sec.は、床下機器箱が飛雪粒
子計位置を通過した時刻を表す。
乾き雪:気温-0.2℃、含水率 0%
濡れ雪:気温 0.8℃、含水率 4.8%
5
4.共同研究
(56)ドップラーレーダーデータを用いた新潟県海岸平野部の大雪に関する研究
研究代表者
雪氷:中井専人
研究参加者
雪氷:本吉弘岐
共同研究先
新潟地方気象台:池田
[目
実施期間
平成22年度
靖、横木保則、渡邊大郎、青木弘徳、荒木健太郎
的]
平成22年冬季には12月中旬、1月中旬、2月上旬に海岸平野部で大雪が降り、特に新潟市付近で記録的な積雪とな
って県民生活に大きな影響を与えた。この大雪は精度よく予想されなかったことから、レーダー(ドップラー速度含
む)やウィンドプロファイラなどのデータを用いて、大雪をもたらした雪雲の気流構造やその周囲の大気構造につい
て解明し、降雪量予測精度の向上を図る。
[実施内容]
(1)観測データの交換
防災科学技術研究所雪氷防災研究センターのXバンドドップラーレーダーと気象庁新潟レーダーで観測されたデー
タを相互に交換する。
(2)ドップラーレーダーデータのdual解析
防災科学技術研究所雪氷防災研究センターおよび気象庁新潟地方気象台において、解析ソフトDraftを用いて、ド
ップラーレーダーデータのデュアル解析を行う。
(3)解析結果の交換・評価
それぞれの機関における解析結果を交換し、共同で評価し、大気構造を解明する。
[成果と効果]
2010年1月13日に新潟県に上陸したメソ擾乱による局地降雪、及び、2010年2月4日に新潟県海岸平野部で記録的な大雪
となって生活に大きな影響を与えた雪雲について、デュアルドップラー解析の結果を基に、大雪の発生に至ったプロセ
スを解析した。
2月4日の事例では、強い降水に対応する下層シアーラインの動きが明瞭に解析された。これは、発達した雪雲の一
見複雑に見える動きが、内陸からの冷気塊と季節風との収束線の変化に影響されていたことを示すものであり、デュア
ルドップラー解析が集中豪雪の監視、予測に有効に使えることが期待される。ただし、常にこのようなしくみで雪雲の
動きが決まるわけではないので、一般化した手法を確立するためには事例解析を重ねることが必要と考えられる。また、
風のシアーが高度2km付近まで確認されたが,それが陸上から吹き出した寒冷気塊の厚みとは考えにくいため、シアー
ライン付近の大気の構造についての解析が課題として残った。
1月13日には、渦状の降水分布を持つメソ擾乱がいくつも新潟県域に上陸して暴風雪をもたらした。そのうちのひと
つについて、デュアルドップラー解析によりメソ擾乱内部の気流構造を調べたところ、メソ擾乱の西側で高度2~3km よ
り下層に、季節風である北西風と擾乱後面の北寄りの風の水平収束の大きい領域が見られた。これとは別に、擾乱の南
側で西南西風と季節風の強い水平収束によって上昇流が形成され、エコー頂が高度5km に達する降雪雲が発達する構造
が確認できた。西南西風は富山や新潟県上越の地上観測でも確認できることから、吉原ほか(2004; J. Meteorol Soc. Japa
n, 82, 1057-1079)が指摘するように地形によって季節風が変質されたものであると推察される。これらのことから、メ
ソ擾乱が能登半島と佐渡の間を南東進するとき、地形的に収束線の形成されやすい上越から中越の海岸平野部でも大雪
になる可能性が高いと考えられる。この結果は、集中豪雪の予測と監視のアルゴリズムを開発する上で有用なものと期
待される。
[成果の発表]
・その他誌上発表
1件
・口頭発表
6件
4.共同研究
(57)数値モデルとドップラーレーダーデータを用いた雪雲の解析
研究代表者
雪氷:中井専人
実施期間
平成22年度
研究参加者
共同研究先
[目
気象大学校:山田芳則
北海道大学:藤吉康志
大阪教育大学:小西啓之、吉本直弘
的]
冬期に出現する雪雲の構造に関しては現在でも解明されていないことが多い。降水システムの解明にとって必要
不可欠な手段である数値モデルとドップラーレーダーを用いて、北海道に出現するさまざまな雪雲の構造を総合的に
解析する。また、数値モデルの改良や開発、及びドップラーレーダーデータから精度の良い3次元気流構造の解析シ
ステム等の開発も合わせて行う。
[実施内容]
非静力学モデルや低温科学研究所で運用されている複数のドップラーレーダーを用いて、北海道に出現する雪雲の
構造を総合的に解析する。また、モデルの改良や開発、及びドップラーレーダーデータから精度良い3次元気流構造
や降水システムの内部構造を推定するための高度な手法を開発する。数値モデル計算結果と観測結果に基づいて、数
値モデルや解析手法の改良等を行う。
[成果と効果]
1.2010年1月17日に北海道の西岸に出現し、石狩地方に大雪をもたらした帯状雲(西岸帯状雲)の形成機構を明ら
かにするため、水平解像度 5 km の気象庁非静力学モデルを用いた実験を行うとともに、気象庁レーダーやアメダス
データ、衛星画像、高層観測データの解析も合わせて行った。この西岸帯状雲の形成は、衛星やレーダー画像によれ
ば利尻島・礼文島付近において16日 17 - 18 JST 頃である。その後、帯状雲は次第に発達して、長さや幅、反射強
度を増しながら 17 日 00 JST 頃には石狩平野に到達した。このとき帯状雲の走向は、宗谷地方の沖から暑寒別岳付
近の沖合までほぼ南北方向であり、帯状雲の長さは約 250 km 、幅は約 30 km であった。この帯状雲の南端付近が
石狩湾から石狩平野に進入し、大雪をもたらした。
非静力学モデルの実験結果によれば、樺太から稚内付近の上空を通って北海道上空に流入する低相当温位の空気
(高度約 1 km 以下) と北西の季節風とが北海道の沖合で収束し、この収束域に対応して西岸帯状雲が形成されてい
た。この収束域は時間とともに長さが南に延び、これに対応して西岸帯状雲は長さを増していった。この冷たい北風
の流入は、オホーツク海上に停滞していた小低気圧が南東進したことと関連している。西岸帯状雲が出現している間、
北海道の西岸では冷たい陸風が日本海上に吹き出し、この陸風と季節風との収束も西岸帯状雲の形成に寄与していた
のではないかと推定される。利尻島や礼文島は西岸帯状雲の形成には影響していないが、メソスケールの渦状構造へ
の寄与の有無を議論するためには、モデルの解像度をさらに上げた実験が必要である。2005年から2010年までの間に
出現した西岸帯状雲数例について同じ水平解像度で数値実験を行った結果、形成機構はほぼ同じであることを確認し
た。ただし、西岸帯状雲の長さや幅、組織化、降雪強度等は事例ごとに異なっていた。
2.複数のドップラーレーダーデータから精度よく3次元気流構造を算出する上で極めて重要な処理の一つである、
ドップラー速度データの品質管理の処理において、質が悪いと判断されたデータを再度点検するためのアルゴリズム
を追加した。これによって速度データの品質管理性能が格段に向上した。
3.これまで北大・低温研共同研究で開発してきた高精度の風算出方法をオホーツク沿岸部に設置されている2台の
ドップラーレーダーによるデュアル解析に適用して、オホーツク海上に出現する渦状擾乱内の小さな渦の構造を解析
した結果、水平スケールが数 km の小さな渦を解析できることがわかった。この結果は、単一のドップラーレーダー
観測による渦の検出アルゴリズムの精度と妥当性をデュアル解析によって検証できる可能性を示している。
[成果の発表]
・口頭発表
1件
4.共同研究
(58) 積雪変質・アルベドプロセスモデルの検証及び高度化
研究代表者
雪氷:山口悟
研究参加者
雪氷:本吉弘岐
共同研究先
気象研究所:青木輝夫、朽木勝幸、庭野匡思
[目
実施期間
平成 22 年度~平成 23 年度
的]
気象研究所で開発している積雪変質・アルベドプロセス(SMAP)モデルは、積雪の変質過程とアルベド過程を物理
的に計算するためのプロセスモデルであり、地球システムモデルに組み込むことで、気候変動に伴う積雪物理量の変
化や、積雪に含まれる吸収性エアロゾルの気候への影響評価を行うことが可能である。SMAP モデルの高精度化のため
に、様々な条件の積雪によって検証し、全球対応のための改良を行う必要がある。本共同研究では、雪氷防災研究セ
ンターにおける気象・積雪の観測データを利用して、湿雪、多雪の条件下での SMAP モデルの検証と高度化を行う。
[実施内容]
22年度冬期に雪氷防災研究センター露場において SMAP モデルの検証用の積雪・気象を行った。雪面アルベドお
よび放射収支の詳細な測定のために、既存の自動気象観測装置に含まれる全天日射計(上・下)、赤外放射計(上・
下)に加えて、直達・散乱日射計および近赤外域全天日射計(上・下)を追加で設置し、これらの放射観測について
1分毎での測定データを取得した。また、雪氷防災研究センターで通常行っている積雪断面観測に加えて、積雪不純
物濃度の測定のために積雪サンプリングを行った。
[成果と効果]
1月中は強い寒気による断続的な降雪により測器への著しい着冠雪が頻繁に生じた。特に下向き放射観測の各測器
が着冠雪の影響を受けた(図1)。除霜ファンの効果を上回る強度の降雪による着冠雪に対しては、ヒーターの使用
など別途対策が必要である。積雪変質モデルの検証用のデータは連続性が必要とされるため、着冠雪による欠測を防
ぐことは今後の改善すべき課題である。2月以降については着冠雪は少なくおおむね良好なデータを取得することが
できた。図2にこの時期に得られた雪面アルベドの測定値を示す。降雪粒子観測施設においては降雪粒子の自動観測
も行っており、これらのデータも組み合わせることで、積雪変質モデルの検証に利用する予定である。
図1:追加設置した近赤外域全天日射計(上・下)と直達・散乱日射計。それぞれ無積雪期(左)と冠雪が著しか
った 01/11(右)の写真を示す。
1
アルベド, 直達比
0.8
0.6
250
0.4
200
0.2
150
0
100
0 2 /0 1
0 2 /0 2
0 2 /0 3
0 2 /0 4
0 2 /0 5
0 2 /0 6
0 2 /0 7
0 2 /0 8
積雪深(cm )
短波長アルベド
可視域アルベド
近赤外域アルベド
直達比
0 2 /0 9
時刻(LT)
図2:降雪が落ち着いた2月上旬の広帯域アルベドの各成分(短波長、可視域、近赤外域)と直達比。また、積雪
深を灰色の棒グラフで示す。
4.共同研究
(59) 吹雪による視程障害予測情報の活用に関する研究
研究代表者
雪氷:佐藤 威
研究参加者
雪氷:根本征樹
共同研究先
新潟市土木部:吉田 正宏、佐藤 隆洋
[目
実施期間
平成 22 年度
的]
雪国における道路交通の安全確保において吹雪による視程障害の
予測情報は有用である。本研究では新潟市内を対象として、吹雪の
数値モデルによる視程障害の予測計算を実施するとともに、視程障
害発生予測情報の実用化に向け、予測情報の有効な活用方法の検討、
ならびに予測情報と道路管理情報との比較・検証を実施する。
[実施内容]
新潟市内を対象とし、数値モデルを用いた吹雪視程障害の予測計
算を実施した。また、視程障害予測情報の活用方法を検討するとと
もに、新潟市が実施している道路パトロール等の道路管理情報を収
集し、モデルによる予測結果との比較検討を行った。
[成果と効果]
吹雪による視程障害の予測情報の活用方法について検討し、以下
図 1
の方針で予測情報を道路管理に試験的に利用することとした。
新潟市の 8 つの区毎の警戒レ
ベルを伝える携帯メールの内
・新潟市の 8 つの区毎に、区内の予測情報の格子の数が区内の
容の例。
全格子数の 20%以上となった場合に「警戒」とし、20%未満を「安
全」と判断する。
・一日に 2 回(4 時と 16 時)更新される予測情報
から、各区の警戒レベルを判断し、図 1 に示
した携帯メールであらかじめ登録しておいた
道路管理者等に送信する。
・メールで「警戒」とされた区の道路管理者は詳
細な予測情報(図 2)を閲覧し、必要に応じて道
路パトロール体制をとる。
・道路パトロールを実施し、危険性が高いと判
断した場合は道路を通行止めとする。
2010/2011 冬期においては、新潟市江南区で上記
の手順により通行止めの措置がとられ、吹雪による
交通事故・障害が未然に防された例が 2 例あり、吹
雪による視程障害の予測情報の有効性が実証された。
図 2
新潟市を対象とした 吹雪のよる視程障害の予
測情報の例(分解能 1.2km で視程距離が色分けして示
されている)
しかし、他の区においては、「警戒」と判断された強い視程障害の時でも通行止めには至らない場合もあり、予測情報
そのものの検証に加え、それぞれの区の道路周辺環境の調査や道路管理体制に関する検討が必要であることが明らか
となった。
[防災行政等への貢献]
吹雪とそれに伴う視程障害は突発的に発生し、冬期間の重大な交通事故の原因となる。視程障害の予測情報は、吹
雪による吹きだまりの除雪や通行止めなどの対策を効率的に進める上で極めて有用であり、この共同研究による予測
情報の検証とそれに基づく予測の改良が当該分野に及ぼす効果は大きい。
4.共同研究
(60) 視程障害予測情報の道路管理への適用に関する研究
研究代表者
雪氷:佐藤 威
研究参加者
雪氷:根本征樹、上石 勲
共同研究先
国土交通省 北陸地方整備局 新潟国道事務所:佐藤富穂、川合忠夫、山田淳央
[目
実施期間
平成 22 年度
的]
雪国における道路交通の安全確保において吹雪による視程障害の予測情報は有用である。本研究では新潟県内を対
象として、吹雪の数値モデルによる視程障害の予測計算を実施するとともに、視程障害発生予測情報の道路管理への
有効な適用方法の検討、ならびに予測情報と道路気象データならびに道路監視映像との比較・検証を実施する。
[実施内容]
新潟県内を対象と
し、数値モデルを用
いた吹雪視程障害の
予測計算を冬期にお
いて実施した。また、
視程障害予測情報の
道路管理への適用方
法を検討するととも
に、新潟国道事務所
が実施している道路
気象観測ならびに道
路監視等の情報を収
集し、モデルによる
予測結果との比較検
討を行った。
[成果と効果]
2011 年 1 月 16 日 4
時に発表した視程の
予測情報(図 1)では、
11 時過ぎから新潟市
図 1
新潟市域を階第表示した 吹雪のよる視程障害の予測情報の例(分解能
1.2km で視程距離が色分けして示されている)。写真は新潟国道事務所の道路監視
カメラの映像。日付は 2011 年 1 月 16 日。
域で吹 雪が強 まるが 、新潟
新潟国道事務所監視カメラ(善光寺)
国道事 務所の 道路監 視カメ
2011/1/16
3
録(例を図 1 の中の写真に示
した)を読み取った吹雪状況
視程ランク
ラ(小瀬と善光寺)の映像記
2
1
(図 2)と概ね整合している。
0
7:00
しかし 、冬期 間全体 を通し
8:00
9:00
10:00
11:00
12:00
13:00
14:00
15:00
16:00
17:00
14:00
15:00
16:00
17:00
て見る と、視 程が悪 化する
新潟国道事務所監視カメラ(小瀬)
と予測 されて も実際 には吹
2011/1/16
3
今後、 予測に 際して 積雪の
状態な どを考 慮する 必要が
視程ランク
雪が発生しない場合もあり、
2
1
ある等 の課題 が明ら かにな
った。
[防災行政等への貢献]
吹 雪 に よ っ て 発生 す る う
視程障 害の予 測情報 は、雪
0
7:00
図 1
8:00
9:00
10:00
11:00
12:00
13:00
新潟国道事務所の道路監視カメラの映像から読み取った吹雪状況。ラ
ンクは 0:吹雪なし、1:弱い吹雪、2:中くらいの吹雪。3:強い吹雪。
国の道路交通における災害防止ならびに安全確保において極めて有用であり、吹雪予測情報の高精度化を目指す本研
究により得られる成果が当該分野に及ぼす効果は大きい。
4.共同研究
(61)衛星受信アンテナへの着雪氷による影響及び防雪カバーの効果に関する研究
研究代表者
雪氷:石坂雅昭
研究参加者
雪氷:山口
共同研究先
スカパーJSAT:水野勝成、齋籐
[目
実施期間
平成 22 年度
悟、佐藤篤司
誠
的]
積雪地域においては、例年、降雪及びパラボラアンテナへの着雪による受信障害をはじめとする着雪氷の影響が問
題となっている。本研究では防雪カバーを取り付けたアンテナと取り付けないアンテナとを比較し、その効果および
着雪氷がアンテナ鏡面の塗料や取り付け金具に与える影響について経年劣化を含めた総合的な観点でアンテナへの着
雪氷の影響を明らかにする。
[実施内容]
実際の衛星からの信号を受信し、受信強度・受信映像を記録・確認するとともに、アンテナへの着雪氷状況をカメ
ラにて映像取得する。併せて、雪氷防災研究センター構内の気象観測データを参照し、さらに昨年度の研究結果・デ
ータと比較しながら、受信に影響を与えるメカニズムを改めて検討する。また、防雪カバーを取り付けたアンテナと
取り付けないアンテナの露場観測を実施し、取り付け金具等を含めた経年劣化を観測する。
[成果と効果]
昨年度実施した「衛星受信アンテナへ
の着雪による受信信号への影響及び防雪
カバーの効果に関する研究」の解析を行
った。降雪状況及び付着する雪氷の状態
と受信電波の品質とを継続的に測定した
結果、防雪カバー対策が一定の範囲で有
効であることが明らかになった。
また、2011 年 1 月より 3 月まで、防雪
効果と対策治具の耐久性を調べるため、
被検査アンテナの種類を昨年の 6 種から
8 種に増やして、雪氷防災研究センター
(長岡)の露場において観測を実施した。
現在解析中である。
図
対策、非対策を含め 8 種のアンテナによる露場試験.
4.共同研究
(62)吹雪モデルを活用した視程障害予測情報の高度化に関する研究
研究代表者
雪氷:佐藤 威
研究参加者
雪氷:根本征樹
共同研究先
(株)ネクスコ・メンテナンス東北:深沢 幸仁、大貫 利文
[目
実施期間
平成 22 年度
的]
雪国において、吹雪による視程障害の予測情報は冬期交通環境を安全に保つために有用である。本研究では山形県
内の高速道路周辺を対象として、吹雪の数値モデルによる視程障害の予測計算を実施するとともに、気象・吹雪観測
や道路パトロール等による実測データとの詳細な比較・モデル検証を行う。さらに視程予測情報の吹雪災害対策への
有効な適用方法を検討する。
[実施内容]
1.2010/2011 冬期に、雪氷災害発生予測システムの一部である吹雪モデルを用いて、山形県のほぼ全域を対象とし
た数値計算を実施し、風向・風速、気温、降雪量、吹雪輸送量、視程の水平分布の予測値を計算した。数値モデ
ルにより得られた予測計算結果を、吹雪・気象観測などの実測結果や高速道路パトロールの結果と比較し、モデ
ルの検証を行うとともに、視程障害予測情報の吹雪対策への適用手法を検討した。
2.2009/2010 冬期における予測値と実測値について①と同様の比較検討を行った。
[成果と効果]
1.各地点の視程・風速・気温の比較
[気温]気温の時系列から、庄内地方の平野部にある地点に
おいて厳冬期以外の時期の 9 時前後に観測値より予測値が
かなり低温となることがある。気象予測モデルにおける地
表面状態の取扱以外の要因も考えられるので、今後検討が
必要である。また、内陸では、気温の予測値の振幅が観測
値の振幅より大きい地点や予測値にマイナスのバイアスが
かかっている地点がある。前者の原因は不明であるが、後
者については、気象予測モデル地形における地点標高と実
際の地点標高の違いの影響なども検討が必要である。
図 1 吹雪のよる視程障害の予測情報の例(分解能
[風速]風速については、ほとんどの地点で予測値と風速値
1.5km で視程距離が色分けして示されている)
の値は一致しない。これは、予測値が高度 10m の値である
ことや、風速計が設置されている場所の近傍の状況、気象モデルで設定している地形は現実の地形を平滑化している
ものであることなどによると考えられる。
[視程]視程については、全般的に予測値と観測値の一致は良くない。これも、視程の予測値が高度 1.2m の値で視程計
の高度と異なること、視程計が設置されている場所の近傍の状況(防雪柵がある、吹雪をさえぎるものがそばにあるな
ど)による影響のほか、視程計に対する着雪の影響で誤データとなる場合があるなど、避けられない面がある。
2.パトロール記録との比較
視程の予測値がかなり低下している期間のうち、一部は道路パトロールで実際に視程が悪化していることが確認さ
れた。パトロールで「地吹雪/吹雪」と記載された時に予測で視程が低下していたか否かについて、それぞれの回数を
表にまとめた。表より、少なくともパトロールによって実際に「地吹雪/吹雪」が確認された事例のほとんどについて、
表 1
道路パトロールで「地吹雪/吹雪」と記載された時の予測結果
(事例数)
視程の予測値が低下
している
視程の予測値が低下
していない
最上川
黒森
白鳥大橋
赤川橋
4
2
下川橋
2
熊出
笹谷TN
赤川橋
東
1
1
合計
視程低下の予測がなされていると見ること
ができる。
[防災行政等への貢献]
吹雪とそれに伴う視程障害の予測情報は、雪
10
国の道路交通における災害防止ならびに安全確
保において極めて有用である。したがって吹雪
1
0
1
0
0
2
予測情報の高精度化を目指す本研究により得ら
れる成果が当該分野に及ぼす波及効果は大きい。
4.共同研究
(63) 雪崩発生ならびに吹雪発生予測情報の雪氷災害対策への適用に関する研究
研究代表者
雪氷:上石 勲
研究参加者
雪氷:佐藤 威、根本征樹、
共同研究先
新潟県:丸山朝夫、石野友則、折笠 昇、瀬戸民枝、長谷川一成、廣田直之
[目
実施期間
平成 22 年度
的]
雪国の冬期の安全確保において
雪崩発生や吹雪による視程障害の
予測情報は有用である。本研究で
は新潟県内を対象として、数値モ
デルを用いた雪崩発生危険度と吹
雪による視程障害の予測計算を実
施するとともに、雪崩発生ならび
に視程障害発生予測情報の雪氷災
害対策への有効な適用方法の検討、
ならびに予測情報と気象データな
らびに雪崩、吹雪発生状況との比
較・検証を実施する。
[実施内容]
新潟県内を対象とし、数値モデ
ルを用いた雪崩発生ならびに吹雪
による視程障害の予測計算を実施
図 1 雪崩発生危険度予測。左上:雪質、右上:積雪安定度、左下:
した。また、雪崩発生ならびに視
底面流出量、右下:気温で、いずれも過去 3 日間と 12 時間先までの
程障害の予測情報の雪氷災害対策
予測。
への適用方法を検討するとともに、
新潟県が実施している気象観測ならびに雪崩・吹雪
発生状況の情報を収集し、モデルによる予測結果と
の比較検討を行った。
雪崩については、新潟県内の計 20 か所の雪崩危
険個所について近隣の気象積雪観測データから積雪
安定度を算定して雪崩発生危険度(図 1)を解析し、
共同研究者である新潟県道路管理者、集落雪崩対策
関係者がその結果を閲覧した。吹雪による視程予測
情報(図 2)も新潟県道路管理者が閲覧した。
[成果と効果]
雪崩については予測結果に基づいて雪崩危険時の
パトロール体制などを構築した。新潟県が整理した
雪崩発生データと予測結果を検証した結果、特に全
層雪崩については予測精度が低く、今後の改善が必
図 2 吹雪のよる視程の予測情報の例(分解能
要なことがわかった。
1.2km で視程距離が色分けして示される)
[防災行政等への貢献]
これまで雪崩発生予測は経験的になされていたが、、今後の発生予測精度の向上により、雪崩危険時のパトロール
の構築などに役立つ定量的な資料が提供可能となるものとして期待されている。
4.共同研究
(64) 雪崩対策に伴う斜面雪圧の算定方法に関する調査研究
研究代表者
雪氷:阿部
修
実施期間
平成 22 年度
研究参加者
雪氷:望月重人、神鋼建材工業(株):松田博・仲岡重治・滝本義久、(株)ケーティービー:阿
部孝幸
共同研究先
[目
神鋼建材工業(株) 、(株)ケーティービー
的]
近年、道路法面に設置した雪崩防止工が斜面雪圧により破壊される事例が多く見られる。この背景には構造物周辺
の積雪の力学的性質が未解明であることがあげられる。このため、雪崩防止柵、グライド抑止柵および階段工の単独
およびこれらの組み合わせによる斜面雪圧を連続測定するとともに、最大雪圧発現時の積雪断面観測を実施し、両者
の因果関係を明らかにすることにより、我が国における上記工法の適切な設計ガイドラインの作成に資することを目
的とする。
[実施内容]
実験斜面において各種対策工の斜面雪圧の算定手法に関する調査研究を行った。具体的には、階段工の有する斜面
に設置した雪崩防止柵 2 基、グライド抑止柵 7 基の周辺における積雪深、雪圧、平均密度を測定するとともに、斜面
積雪の表面測量及び断面調査を行い、これらの結果から斜面雪圧の算定方法について検討した。
写真 1
野外実験場全景(下段・グライド柵)
図1
雪崩柵で確認した縦横方向の雪圧観測値
[成果と効果]
一例として積雪に埋没したグライド抑止柵(写真 1)に作用した雪圧変化を図 1 に示す。断面調査によれば、部材
周辺の雪密度が高く斜面上方の積雪を支える強度を有しており、グライド量(移動量)が少なく斜面積雪が安定してい
たことから、抑止柵の効果が確認された。また階段工と雪崩防止柵を組合せた工法等では階段工の有効活用と防止柵
の小型化の可能性を確認するとともに、設置条件に見合った雪圧算出方法の標準化を図ることができた。
[防災行政への貢献]
雪崩防止柵等に作用する雪圧を斜面と平行・垂直の二方向で測定し、さらに雪圧の影響範囲を断面調査により明瞭
化したことにより、これまでより具体的な雪圧の算出方法が可能となり、雪圧に破壊されることなく効率性の高い雪
崩防止柵等の改善に役立つと考えられる。
4.共同研究
(65)建物の積雪予測のためのコンピュータを用いた積雪シミュレーションシステムの開発
研究代表者
雪氷:佐藤威
研究参加者
雪氷:根本征樹
実施期間
平成 20 年度~平成 22 年度
共同研究先
北海道立北方建築総合研究所:堤拓哉、北海道工業大学:苫米地司、東北大学:持田灯、
新潟工科大学:富永禎秀、(株)雪研スノーイーターズ:植松孝彦
[目
的]
雪国の建物では、雪の吹きだまりや雪庇などによる雪の問題が毎年発生している。特に、出入口や通路上の吹きだ
まりは日々の除雪の負担を大きくし、屋根上の積雪は構造的な被害や落雪事故の原因となる。このような雪の問題を
回避するためには、計画時に予め対策を検討し、その有効性を評価する必要があるが、建物周囲の積雪は複雑な風の
流れの影響を受けており、一般の建築技術者が建物の積雪を予測することは極めて困難である。本研究は、建物の雪
対策の検討を支援するため、コンピュータを用いた積雪シミュレーションシステムを開発することを目的とする。
[実施内容]
近年、進歩が著しい CFD 技術を応用し積雪シミュレーションシステムを開発する。このために以下の研究を実施し
た。
(1) 吹きだまりを数値計算により予測する計算モデルの構築
(2) 計算モデルと対比できるデータ(詳細な風および積雪深分布)を整備し比較
(3) 実務で使用できるよう、データの入出力ツールの開発、計算方法などを検討
[成果と効果]
計算モデルの構築では、乱流モデルの検討を行い流れ場の計算を改良するとともに、跳躍層(雪面付近)の計算方
法を改良した。また、複雑な結晶形状をしている降雪起源の雪粒子と雪面との衝突を繰り返すことによって球形状の
形になった雪面起源の雪粒子の 2 つに分け、各々に輸送方程式を適応することにより、粒子の特性を考慮したモデル
を構築した。実大モデルの周囲の吹きだまりとの比較により、建物風上側は概ね近似した傾向にあるが、風下は建物
から離れた位置で過大になる傾向を明らかにし、さらなるモデルの改良が必要であることを示した。また、実務で使
用できるよう、データの入出力ツールを開発した。
図2
図1
吹き溜まりの計算結果の例
積雪シミュレーションシステムの構成
[防災行政等への貢献]
コンピュータによる積雪シミュレーションシステムの実用化により、建物周囲の積雪分布の把握や雪対策の技術的
検討が可能になる。
4 共同研究
(66) 積雪変質モデルを用いた積雪底面からの流出量の面的予測の検証
研究代表者
雪氷:山口
研究参加者
雪氷:平島寛行
共同研究先
北海道大学
[目
悟
実施期間
低温科学研究所:石井吉之
平成 22 年度
兒玉祐二
的]
全層雪崩や融雪災害などの予測には積雪内部をどのように水が移動するかをモデル化する必要がある。また積雪域
の水文研究においても、 積雪の有無がどのように流出に影響するかのモデル化は非常に重要である。
本研究では、防災科学技術研究所が積雪中の水分移動過程等に関して改良を進めている積雪変質モデル
“SNOWPACK”のシミュレーション結果と実測値との比較を通じてモデルの検証を行い、積雪内部の水の移動モデ
ルの改良と精度向上を目指す。
[実施内容]
北海道大学 低温科学研究所 水文気象グループが観測を行った 2004/2005 冬季の母子里の気象データを入力データ
とし、不飽和状態下の水分移動を考慮した積雪変質モデル(以後 SNOWPACK 改良版)を用いて、積雪底面流出量の時
系列変化の計算を行った。
[成果と効果]
従来の SNOWPACK では再現されなかったピーク後の底面流出量の緩やかな減少が、SNOWPACK 改良版では再
現できる事が分かった(図 1)。このことから不飽和流の概念の導入は積雪内部の水の移動モデルの本質的な改良につ
ながったことが明らかになった。また母子里の流域の一部における積雪底面流出量の面的時間変化の計算結果におい
ても、積雪内部に蓄えられた水が表面融解のない夜間に排出され積雪底面流量が生じるなど、実際の現象と
SNOWPACK 改良版の計算結果は比較的よく一致するようになった。
図 1. 母子里における実測値(ライシメータ)とモデルの計算結果との比較
[防災行政等への貢献]
積雪内部の水の移動が 比較的精度よくモデル化できたことにより、今後の全層雪崩や融雪災害の予測精度が向上す
ることが期待される。
[成果の発表]
・査読誌
2件
・口頭発表
3件
4.共同研究
(67) 画像処理を用いた高精度振動計測法の研究
研究代表者
システム:御子柴
正
実施期間
平成 20 年度~平成 22 年度
研究参加者
共同研究先
[目
東京電機大学:新津
靖
的]
高精度3次元振動計測システム(変位計測)はE-ディフェンスで破壊実験など重要な実験において利用されてい
る。しかしながら、現時点では画像計測による3次元変位計測結果は、他の測定装置による測定結果を補完するか、
精度の確認などに利用されるのみであり、3次元計測結果が十分に利用されているとはいえない。そのため、より高
精度な計測を実現するための基礎的知見を得ることを目的とする。ここでは、マーカーのサイズが測定精度に及ぼす
影響と、マーカー捕捉の計算方法が測定精度に及ぼす影響を調べた。
[実施内容]
画像計測に使用したマーカーを図-1 に示す。振り子試験体は中型と小型の2種類、合計4台を振動台テーブルに設
置し振動実験を行った。これは、振動台テーブルからの相対変位が画像計測で正確に評価できることを検証するため
の試験体である。振動台の加速度は高性能なサーボ型加速度計を用いて計測を行った。変位計測の精度の検証だけで
なく、画像計測で得られる変位データから加速度を正確に算出する手法の検証と精度の確認を行った。
[成果と効果]
図-2 に 1Hz と 5Hz のテーブル変位の計測結果を近距離で計測した結果を示す。近距離では中型より小さいマーカー
が高い精度で測定できることがわかった。図-3 は、100mm→0.5mm→1mm→2mm→4mm→-2mm→-1mm→-0.5mm→-100mm と
マーカーを移動させたときの計測結果である。ここでも、中型マーカーの方が雑音は少なく、良い結果が得られた。
(大型、中型、小型のマーカー)
図-1
計測に使用した 3 種類の発光マーカー
(近距離配置)
(遠距離配置)
図-2 1Hz (上)と 5Hz (下)の振動
中型(上)、大型(下)
実験における画像計測結果
図-3
ステップ変位の計測結果の
マーカー種類の差
4.共同研究
(68) 組積造建築物の耐震要素実験
研究代表者
システム:御子柴 正
実施期間
平成 22 年度
研究参加者
共同研究先
[目
三重大学:花里 利一
的]
木骨煉瓦造建築物は途上国の住宅建築や国内外の歴史的建築物にみられる構造様式である。実大スケール試験体の
振動台実験の予備実験として、構造要素を用いた振動台実験を行い、耐震性と補強効果について基礎的な知見を得る。
[実施内容]
試験体は焼成煉瓦による柱状組積体、それぞれ①無補強組積体、②縦筋(D10×1)補強組積体、③チキンメッシュ補
強組積体、④ワイヤーメッシュ補強組積体、の計 4 体である(図-1)。煉瓦は日本産の長さ 230×幅 110×高さ 60(mm)
のものを使用し、ジョイントモルタルは、容積比がセメント:砂=1:6 とした。なお使用した砂は、含水率が
6.87%、吸水率が 1.74%である。目地の厚さは 15mm 程度で、柱状組積体の高さは 2000mm 程度である。試験体③と④
のメッシュは煉瓦にドリルで穴開け後、コンクリートプラグで留めた。
実験方法は大型耐震実験施設にて 4 体の柱状組積体に加振を行った。なお、計測は加速度計と 3 次元画像計測であ
る。3 次元画像計測は、試験体に設置した LED マーカーの挙動をカメラで撮影し、その記録のデータを解析し、各マ
ーカーの初期座標値からの差を変位として算出した。
[成果と効果]
入力波である JMA 神戸 NS の変位を 25mm ピッチで最大 200mm までの加振を行った。その結果、75mm 時で試験体①が
倒壊、175mm 時で試験体③が倒壊、200mm で試験体②、④の順に倒壊した。試験体①は下から 4 層と 5 層目間の目地
の上部で剥離し倒壊した。試験体③は加振前からクラックが大きく入っていたが、倒壊を支えていたチキンメッシュ
が裂け倒壊した。試験体②は根元から D10 の縦筋が抜け倒壊した。試験体④はワイヤーメッシュが裂け、下から 3 層
目から倒れた。(図-2)
以上のことから、補強は、ワイヤーメッシュ、縦筋の挿入、チキンメッシュの順で耐久性があるということが分か
った。試験体は加振により大きく変位し、ジョイントモルタルの目地の上部と煉瓦間の剥離は多数見られ、すべての
試験体が全長の下から 1/4 以下で折れて倒れた。しかし、メッシュによるジャケッティングや鉄筋により、長い間倒
壊を免れられることが分かった。
試 験 体
試 験 体
試験体①
試 験 体
試験体②
試 験 体
図-1 加振前の柱状組積体 4 体
試験体③
試験体④
図-2
倒壊後の試験体
4.共同研究
(69) 木骨煉瓦造実大模型建築物の耐震実験
研究代表者
システム:御子柴 正
実施期間
平成 22 年度
研究参加者
三重大学:花里 利一、
共同研究先
[目
公益財団法人文化財建造物保存技術協会:近藤展由、冨永善啓
的]
重要文化財木骨煉瓦造建築物の実大スケールの試験体を作製し、耐震性能評価と耐震補強法の検証を行う。
[実施内容]
本研究は、旧富岡製糸場の重要文化財建造物群のうち、木骨煉瓦構造である西置繭所(写真-1) の面外を対象とし
た。旧富岡製糸場が建設された明治初期の煉瓦は低強度であり、目地モルタルにもセメントが使用されておらず強度
が低い。そのため、材料強度を再現した実大スケールの試験体を用いて、耐震診断に有用な地震時安全限界に至るま
での地震挙動実験を行った。試験体は、平面 3600mm×3600mm、高さ 4.8mm の木骨煉瓦壁を 2 面連結し、2 体設置(写
真-2)した。煉瓦はフランス積みで構成されており、試験体の4面はそれぞれ無補強・補強(表-1)である。
面
無補強
補強
表1
補強方法
名称
A-1
A-2
B-1
B-2
隙間
有
無
無
無
補強
無補強
無補強
片面補強
両面補強
※補強はアラミドロッド挿入置換法による
写真-1
旧富岡製糸場西置繭所
写真-2
試験体
[成果と効果]
破壊に至るまでの挙動は、A-1 面の煉瓦が数個飛び出しクラックが拡大した。その後、A-2 面は最上段の煉瓦と木
骨部の隙間のクラックが目立ち、JMA Kobe 100%で A-1 面は崩壊し、A-2 面は、二回目の JMA Kobe 110%で崩壊した。
B-2 面に目立った変化は見られなかった。JMA Kobe 100%入力後の A-1 面の損傷状態を写真-3 に示す。
実験の結果から、木骨煉瓦造の構造特性については、設計用入力波による加振においても崩壊に至らず、一定の耐
震性を有していることや、面外方向に最大変形角(水平)約 1/21~1/16 の大きな変形性能があることが確認された。
また、煉瓦上部と木梁の間の隙間を充填するだけでも耐力の向上が見られた他、アラミドロッド目地補強の有効性が
示された。
写真-3
A-1 面
4.共同研究
(70) 重量棚等のスロッシングダンパーの制震実験
研究代表者
システム:御子柴 正
実施期間
平成 22 年度
福山大学:寺井雅和、
アイディールブレーン(株):佐藤孝典、鈴木利哉
研究参加者
共同研究先
[目
的]
重量棚や書架等(以下、棚)は、地震時における転倒防止や積載物転落防止のために、製造メーカーによって JIS 規
定より高い強度で設計がなされている。そこで、これらの頂部にスロッシングダンパーを付加することで、より少な
い材料で設計自由度の高い棚が実現可能となる。本実験は、実際の棚におけるスロッシングダンパーの地震波に対す
る制震効果を把握することを目的として、振動台実験を行った。
[実施内容]
試験体は、3 連の固定書架および 3 連の制震書架の 2 種類であり、書架の寸法は、幅 0.5m×長さ 3m×高さ 2.2m で
ある。制震書架は、天板上部に周期を同調させたスロッシングダンパー(水槽)を設置した。加振は、固定書架および
制震書架に対し、JMA 神戸波 NS 方向を入力して振動実験を行った。入力倍率は、最大加速度を 0.1m/s2、0.2m/s2、
0.3m/s2 と徐々に大きくした。試験体全景を写真-1 に示す。
[成果と効果]
入力最大加速度を 0.1m/s2 とした場合における書架頂部応答加速度の時刻歴とフーリエスペクトルを図-1 に、入力
最大加速度を 0.3m/s2 とした場合における書架頂部応答加速度の時刻歴とフーリエスペクトルを図-2 に示す。
(1)主要動以降の自由振動域について、制震装置が有効に働いていることが確認された。
(2)主要動時の応答加速度は、JMA 神戸 NS 波(入力最大加速度 0.1m/s2)については 25%程度低減されたが、JMA 神戸
NS 波(入力最大加速度 0.2m/s2,0.3m/s2)では、書架周期と水槽周期にズレがあるためか、あまり効果が見られ
なかった。
(3)周波数特性より、水槽周期と制震書架の周期に大きな差が見られること、水槽周期近傍のフーリエ振幅が低減
されていることから、水槽周期を制震書架に同調させることにより、最大応答加速度を低減できる可能性が見
受けられる。
これらの結果から、下記の項目を確認した。
(1)スロッシングを利用した制震書架は、主要動以降の自由振動域について制震装置が有効に働くことが確認された。
(2)水槽周期を制震書架に同調させることにより、最大応答加速度を低減できる可能性が見受けられることが確認さ
8
4
0
-4
-8
8
4
0
-4
-8
制震有り頂部
4
10
Fourier Spectrum
[m/s2・s]
Acceleration Acceleration
2
2
[m/s ]
[m/s ]
制震無し頂部
6
8
10
12
14
16
18
20
22 24 26
Time [sec]
28
水槽周期f=1.28[Hz]→
8
30
32
34
36
38
40
42
4
2
0
1
2
3
4
制震無し頂部
制震有り頂部
4
10
6
0
8
4
0
-4
-8
8
4
0
-4
-8
44
制震無し:1f=1.4282 [Hz]
制震有り:1f=1.0864 [Hz]
Fourier Spectrum
2
[m/s ・s]
Acceleration Acceleration
[m/s2]
[m/s2]
れた。
5
6
写真-1
0.3m/s2)
試験体全景
図-1
試験結果(入力最大加速度 0.1m/s )
10
12
14
16
18
20
22 24 26
Time [sec]
28
30
32
34
36
38
40
42
44
制震無し:1f=1.2085 [Hz]
制震有り:1f=1.0010 [Hz]
6
4
2
0
0
Frequency [Hz]
2
8
水槽周期f=1.28[Hz]→
8
図-2
1
2
3
Frequency [Hz]
4
試験結果(入力最大加速度
5
4.共同研究
研究代表者
(71)地震工学における地盤・基礎に関する共同研究
システム:佐藤正義
実施期間
平成 18 年度~平成 22 年度
研究参加者
共同研究先
アテネ国立工科大学(ギリシア):Professor G. Gazetas、清水建設(株):張 至鎬
[目
的]
斜杭基礎と直杭基礎の動的挙動を比較することにより、斜杭基
礎の耐震性を評価するための遠心振動実験を実施した。遠心振動
実験より計測された加速度、変位、杭のひずみの応答を数値シミ
ュレーションにより再現することを目的としている。
[実施内容]
数値シミュレーションは、2 次元FEM 動的解析手法を行って
おり、その解析モデルを図1 に示す。実験では、直杭基礎と斜杭
基礎を1つのせん断土槽に設置しているが、数値シミュレーショ
ンは別々にモデル化している。フーチングはソリッド要素、模型
杭は梁要素でモデル化し、杭の非線形性は考慮していない。解析
モデルの底面境界条件は固定とし、側面の境界条件は実験ではせ
ん断土槽を用いていることから、周期境界(側面の節点が同変
位)としている。地盤は、初期せん断剛性の拘束圧依存性と非線
図1
解析モデル
形性が考慮できるモデルとし、地盤の拘束圧依存性は、珪砂7 号
の中空ねじり試験から得られた初期剛性G0と平均主応力の関係か
ら、静止土圧係数K0=0.3 状態の試験結果に準じている。地盤の
非線形特性は、Ramberg-Osgoodモデルにより表現している。
数値シミュレーション結果として、最大変形および最大せん断
ひずみ分布(色分けされている)を図2 に示す。斜杭基礎と直杭
基礎では杭の変形の違いが良く表れている。地盤の最大せん断ひ
ずみは約0.2%であり、非線形が現れている。図3 はEL-Centro波
の 入力加速度αmax=50Galにおける入力に対する杭頭の軸力と曲げ
モーメントおよびフーチングの周波数応答関数で、斜杭基礎と直
杭基礎の比較である。フーチング加速度の周波数応答関数は、全
周波数領域において斜杭基礎が小さくなっており、斜杭基礎は直
杭基礎と比較し、加速度応答を低減する効果が得られている。こ
図2 最大変形および最大せん断ひずみ分布
れは、斜杭基礎は地盤変形に対する水平抵抗が増加することによ
ると解釈できる。一方、杭頭における軸力と曲げモーメントの周
波数伝達関数は、全周波数領域において斜杭基礎が直杭基礎を上回っている。これらの結果は、遠心振動実験と整合
性のある結果である。
[成果と効果]
斜杭基礎の耐震性を数値シミュレーションにより検証した。その結果、斜杭基礎は直杭基礎に比べてフーチング加
速度応答の制震効果があるという結果が得られ、これは遠心振動実験の結果とと整合している。
図3
軸力と曲げモーメントおよびフーチングの周波数応答関数
4.共同研究
(72)地震被害予測システムの開発に関する研究
研究代表者
防災システム:藤原広行
研究参加者
防災システム:大井昌弘
共同研究先
千葉県防災危機管理監防災危機管理課:布施高広、浅尾一巳
[目
実施期間
平成19年度~
的]
千葉県の震度観測網(千葉県震度情報ネットワーク)と防災科学技術研究所の強震観測網 K-NET による地震動情
報に基づき、地震動分布や建物被害分布、及び死傷者数等を推定する地震被害予測システムの開発に関する研究、検
討を行う。
[実施内容]
地震被害予測システムにおいて SVG 形式の被害推定図を市区町村・町丁目単位で出力・表示できるようにするとと
もに、被害分布図を市町村に FAX 送信するためモノクロ出力に対応した。また、1/25000、1/2500 相当の地図データ
を SVG 形式に変換した上で背景地図として整備した。
[成果と効果]
市区町村・町丁目単位での被害推定結果を地図情報と重ねて表示することが可能となるため、地震発生後の初動体
制確立における重要な判断材料の一つとなった。
[防災行政等への貢献]
千葉県と市町村では、地震被害予測システムの訓練モードによる推定結果に基づいた図上訓練が実施された。また、
東北地方太平洋沖地震発生時においては、K-NET と震度観測網を用いた震度分布(図1)や液状化分布(図2)等
の推定結果を県災害対策本部の参考データとして、初動体制の確立、市町村との情報連絡に活用した。
図1 震度分布の推定
図2 液状化分布の推定
4.共同研究
(73)長岡市における災害リスク情報プラットフォームに関する研究
研究代表者
防災システム:長坂俊成
研究参加者
防災システム:臼田裕一郎、田口仁、岡田真也、須永洋平、李泰榮、坪川博彰
共同研究先
長岡市、同市山古志支所
[目
実施期間
平成22年度
的]
本共同研究は、中越地震という被災経験を有し、中山間地域の集落において、集落単位の災害対応や支所を中心と
する災害時の広域的な連係対応のあり方について共同で研究するものである。
[実施内容]
1
訓練計画策定過程によるリスクコミュニケーション手法に関する研究
当研究所が開発中のeコミマップ及びeコミを活用したリスクコミュニケーション手法を用いて、地域のリスクガバ
ナンスの高度化に長岡市山古志地区の虫亀集落及び池谷集落、楢木集落の3地区が取り組んだ。地域コミュニティが
中越地震と同程度の地震リスクを想定し、集落が概ね5日程度孤立したケースの災害対応シナリオを作成し、それら
の対応シナリオに基づく実働訓練を実施した。
[成果と効果]
3集落とも集落毎の災害リスクの特性を理解し、それぞれのリスクの特徴に応じた訓練計画が策定された。これに
よって、行政主導による画一的な訓練ではなく、地域の内発性に基づきリスクベースの訓練が企画・実施されること
で現状の防災体制の実質化や改善に向けた課題の抽出が行われるなど、訓練計画及びその実施を通じたリスクコミュ
ニケーション手法の有効性が確認された。
得に、虫亀集落では、被災後に新たに整備した防災体制での訓練などを実施していない状況であったため、新しい
防災体制が適切であるかどうかの検証として、本手法が効果的だった。(例えば、安否確認の方法は事前にできてい
たが、本手法での話し合いをすることで「けが人がいた場合」などの対応に不備があることが分かり、新たな対応策
が検討され、整備された。)また、楢木・池谷集落では、防災以外も含めこれまでに両集落での協力関係がほとんど
無かったが、今回の一連の取り組みで震災時の助け合いの関係が築かれた。
[成果の発表]
・口頭発表
1件
4.共同研究
(74)最新の観測事実に基づく地震動予測手法の改良
研究代表者
防災システム:藤原広行
研究参加者
防災システム:森川信之
共同研究先
東京大学地震研究所
[目
実施期間
平成 21~23 年度
的]
最近の比較的規模の大きな地震において観測された多数の強震動記録を基に、それらを反映した距離減衰式を開発
し、強震動予測を精緻化することにより、地震動予測地図の高度化などへ資することを目的とする。
[実施内容]
強震動データベースに 1 年分のデータの追加を行った。以前開発した Kanno et al. (2006) の距離減衰式に関する
課題を整理し、それらを改良するための新たな距離減衰式の開発に着手した。
[成果と効果]
Kanno et al. (2006) の距離減衰式では、震源の深さ 30km 境とした二通りの式を導出していたが、両者が不連続
であることから、地震動予測地図への適用において、深さが 30km 地震と 31km 地震でハザード評価結果に大きな差が
生じるという問題があった。また、最近のマグニチュード(M)7 程度の地殻内地震における震源近傍の観測記録に対
して過小評価となっている傾向が見られる一方で、マグニチュード 8 以上の海溝型巨大地震に対しては既往の距離減
衰式などとの対比から、特に長周期成分において過大評価となっている可能性が高いことが確かめられた。
これらを改良するため、地震動予測地図における地震カテゴリ-別に回帰することにより求めた。得られ距離減衰
式は、Kanno et al. (2006) に比べて M7 程度の地震における近距離で大きく、M8 の地震では小さくなっており、最
近の地震による観測記録を用いることで上記の課題が改良されたことが確認できた。
4.共同研究
(75)WINDS を利用した災害時情報集約・配信システムに関する実証実験
研究代表者
防災システム:長坂俊成
研究参加者
防災システム:臼田裕一郎・田口仁
共同研究先
JAXA:衛星利用推進センター
[目
実施期間
平成 21 年度~平成 22 年度
的]
防災科研が開発する災害リスク情報プラットフォームとJAXAが開発する超高速インターネット「きずな」
(WINDS)通信網システムが、高速かつシームレスに接続され、被災後の情報を集配信可能なことを検証することで、
災害対応に有効であることを実証する。
JAXAは WINDS 通信網システムの特長である超小型地球局で、防災科研の災害リスク情報プラットフォームに、
高速かつシームレスに自治体災害情報システムが接続され、被災後の情報を集配信可能なことを実証する。防災科研
は自治体と協働して、災害リスク情報プラットフォームと自治体災害情報システムが、WINDS 通信網システムを通じ
て相互運用可能であることを実証する。
[実施内容]
今年度は昨年度に立案した実証実験計画に則り、神奈川県藤沢市を対象に実証実験を行なった。
方法としては、まず、事前に藤沢市の庁内ネットワークと外部のインターネットとの接続の方法について、平時と
発災時にどのような切り替え方法が可能かを、NIED、JAXA、市職員で共に議論し、可能な方法を模索した。その後、
実際に発災時を想定した実証実験を行なった。具体的には、藤沢市側から地震被害想定サーバにアクセスし、藤沢市
の所有する建物データ、および南関東地震を想定した際の震度データの取得先を入力データとして、防災科研の地震
建物被害想定サーバへ地震による建物被害想定のリクエストを行い、そのレスポンスとして地震建物被害想定データ
を受信するというものである。
[成果と効果]
実証実験として、双方目的としていた事項は問題なく達成できたことを確認した。その上で、下記のとおり知見
が得られた。
(1) 災害時の代替の通信回線として、WINDS 回線は地上のインターネット回線を使用する場合と遜色のないことを実
証できた。自治体にとって、実際の災害時における大きな助けになるものと考える。この際、短時間に機材を
輸送し、通信回線を立ち上げる必要があるが、そのためには、事前にネットワークや通信の設定パラメータを
予め定めておくことが望ましい。特に、ネットワークの切り替えについては、自治体におけるセキュリティポ
リシーなどの制限を考慮した上で、ネットワーク内のどの部分を WINDS 回線に接続し、どのような切り替え作
業が必要になるか、について、事前に綿密な検討をしておくことが必要である。また、ネットワークの切り替
え作業については、災害時という緊急性を考慮すると、自治体の職員のみで作業を行えることが望ましいため、
詳細なマニュアルを準備し、十分な訓練を行って備えておくことが望ましい。
(2) 相互運用型システムはスタンドアローン型に比べ、常に最新のアルゴリズムを使用した処理が可能であること、
そのメンテナンスが不要であることといった利点があるが、その弱点はネットワーク接続に大きく依存する点
である。しかし、WINDS 回線による接続が実現すれば、その弱点が克服されいち早く最新の被害推定等を行うこ
とが可能となる。今回の実証実験でその可能性が実証された。ただし、接続実現までにかかる間にも、被害推
定が必要な場合も考えられ、そのためには、一定のキャッシュ機能を保持し、初動の対応を図ることができる
ようにしておく必要がある。
[防災行政等への貢献]
相互運用による被害想定のメリットとデメリットの双方について、また、平時と発災時のネットワークの切り替え
方法について、今後具体的な議論が必要であるということで、自治体職員の認識が得られた。神奈川県藤沢市とは継
続的に共同研究を行なっており、その中で引き続き議論と検討を行なっていくこととなった。
4.共同研究
(76)詳細な建物マップを用いた地震防災への利活用に関する研究
研究代表者
防災システム:藤原広行
研究参加者
防災システム:大井昌弘
共同研究先
九十九里町:鑓田優行、山本竜夫、古関保、小川晃永
[目
実施期間
平成21年度~
的]
詳細な建物マップ作成(構造、築年、屋根構造、階数など)に係る課題を整理するとともに、詳細な建物マップを
用いた地震防災への利活用について検討を行う。
[実施内容]
住宅地図の家屋形状と固定資産家屋データをマッチングさせるため、航空写真、地番データを用いたマッチングシ
ステムの高度化を実施した。また、詳細な建物マップと住家被害認定調査システム(図1)を用いて、地震時の住家
被害認定を想定した実証実験を実施した。
[成果と効果]
地番データと固定資産家屋データ、及び宛名データと固定資産家屋データによるマッチング結果から、今後の家屋
現況図作成のための課題を抽出することができた。また、実証実験では、住家被害認定調査システムと PDA を用い
た現地調査を通して、操作性等の改善すべき課題を得ることができた。
[防災行政等への貢献]
九十九里町では、本共同研究において、数回の実証実験を実施していたため、東北地方太平洋沖地震によって津波
被害が発生したが、いち早く町職員による住家被害認定調査システムを用いた現地調査が実施でき、被災住民に対し、
迅速かつ的確な罹災証明書の発行に貢献した。また、地図上で空間的に家屋被害状況を把握することができたため、
被害地域の確認が容易にでき、東北地方太平洋沖地震における被害状況資料の作成にも貢献した。
図1 住家被害認定調査システム
4.共同研究
(77)藤沢市における災害リスク情報プラットフォームに関する研究
研究代表者
防災システム:長坂俊成
研究参加者
防災システム:臼田裕一郎、田口仁、岡田真也、李泰榮、坪川博彰、中根和郎、藤原広行
共同研究先
藤沢市
[目
実施期間
平成22年度
的]
本共同研究は、災害リスク情報プラットフォームに関する研究開発の一環として、神奈川県藤沢市において、リス
クガバナンスを高度化することを目的として、藤沢市の協力を得て公民連携によるマルチハザード対応の統合的な防
災情報システムを開発し、リスクコミュニケーション、地域経営等、それらを運用するための社会システムについて
研究するものである。
[実施内容]
1
災害リスク情報の利活用システムを用いた実証実験環境の構築と実証実験
当研究所が開発したオープンソースの災害リスク情報の相互運用配信サーバー「相互運用gサーバー」及び「eコ
ミマップ」などを用いて、同市の庁内統合型地理情報システムや防災GISを高度化し、庁内の各種事務事業の平常業
務に利用する各種情報を二次利用可能な形式で相互運用し新たなリスク評価を行うと共に、住民等が生成されたハザ
ード・リスク情報を活用しリスクコミュニケーションを行うための実証実験環境を構築し、段階的に実証実験に取り
組んでいる。
今年度は、昨年度に防災科研が実施した微動観測により構築された詳細な地盤モデルに基づく揺れやすさマップを
利用し、住民参加による地震災害のワークショップを市全域で実施した。ワークショップで紙地図に書き込んだ情報
はeコミマップへ登録し、eコミを活用したワークショップへ展開する予定である。
藤沢市における次期防災GISを構築するにあたって、仕様の検討について助言を行った。また、防災GISのプロトタ
イプとして、eコミを使ったサイトを構築した。
藤沢市役所の庁舎内から外部データを用いて、分散相互運用に基づく地震被害想定を行うシステムを構築し、実際
に庁内で稼働可能か実験した。地盤のボーリングデータから地盤モデルを生成し、さらに、市が保有する建物データ、
外部の震度データ等を用いて、建物全壊率や火災延焼シミュレーションなどの被害想定を行う一連の操作を、庁内イ
ントラ環境から行えることを確認した。さらに、地震発生時にインターネット回線が遮断された場合を想定し、
WINDSを用いて外部インターネットへ接続した上で、庁内から被害想定が行えることを確認した。
2
地域経営プラットフォームを用いたリスクガバナンスに関する研究開発
当研究所が開発中のeコミュニティプラットフォーム(CMS,SNS,社会的なグループウェア、相互運用GISなどの機能
を有するオープンソースのソーシャルウェア)を用いて、同市が推進している自治体の行政機能の地区内分権と町内
会・自治会を超える広域的かつ包括的な市民自治(地域経営)の情報基盤や活動、協働を支援するプラットフォームを
構築した。地域経営会議のサイトをeコミによって8つ構築し、さらに継続的利用のためにeコミの講習会を実施した。
また、地域情報を編集し、地域資源や社会関係を活用し地域の課題解決や魅力を高める地域プロデューサーの人材養
成の講座を5回実施した。他にも、eコミを使った町内会や自治体、市民団体のためのグループページとして、eコミ
ふじさわを新規に構築し、共同で運用を開始した。
[成果と効果]
庁内における分散相互運用環境による災害リスクの利用が可能なことが実証された。また、eコミを使った地域協
働による防災活動を実施するためのサイトを構築し、実運用を開始することができた。また、23年度以降の各種実証
実験のためのプロトタイプシステムとデータが整備できた。
[成果の発表]
・口頭発表
1件
4.共同研究
(78)広域の強震観測データを用いた長周期地震動を考慮したエレベータの被害推定に関する研究
研究代表者
防災システム:青井真
研究参加者
防災システム:㓛刀卓、中村洋光、藤原広行
共同研究先
三菱電機ビルテクノサービス株式会社、三菱電機株式会社
[目
実施期間
平成22年度~平成23年度
的]
長周期地震動が発生すると高層ビルでは共振が発生し、大きく揺れることがある。この揺れにエレベータロープが共
振を起こすと、エレベータの運行に危険が生じる恐れがある。このため、高層ビルに長周期地震動を計測できる地震
計を設置し、ビルの揺れを計測し、この揺れからロープの横揺れを推定することで、大きなロープの横揺れが発生し
た場合にエレベータの管制運転を行う装置がある。しかしながら、長周期地震動の検知には高精度の地震計が必要と
され、地震計を含む装置は高価である。また、整備の行き届いた状態でないと長周期地震動を計測できないため、メ
ンテナンスコストも高い。したがって、個々のビルに地震計を含む装置を設置することはなかなか進んでいないとい
う現状がある。一方、一般に地震波の周期が長いと、距離が離れても波形がほぼ一致することが知られている。長周
期地震波は周期の長い地震波であるから、近隣にある広域の強震計で測定した地震波を、高層ビルのある地点で計測
した地震波の代用(代用波)とすることができる可能性がある。そこで、地点を代表する一箇所の強震観測記録を用
いて、個々の高層ビルの揺れを推定し、その揺れからエレベータロープの横揺れを推定し、大きなロープの横揺れが
発生した場合にエレベータの管制運転を行うシステム(around-site warning system)の構築に向けた基礎的な検討を行
うことを目的とする。
[実施内容]
日本でも有数の超高層ビルが建ち並ぶ新宿区に設置された地震計(K-NET 新宿;新宿区上落合)で得た強震記録を代
用波として利用できる可能性を、東京ガスの超高密度リアルタイム地震防災システム(SUPREME)で得た記録を用い
て検討した。検討対象とした地震は、SUPREME で多くの加速度記録が得られている 2004 年新潟県中越地震、2005 年
宮城県沖の地震、2007 年新潟県中越沖地震である。データは、加速度記録から、周期 3 秒から 8 秒まで 0.5 秒ごとに
それぞれ減衰率 0,1,2,5%とした速度応答及び変位応答を用い、K-NET 新宿の応答値を基準とした応答値比を算出
し、検討に用いた。
[成果と効果]
応答値比の空間分布と地下構造との関係について、2004 年新潟県中越地震や 2007 年新潟県中越沖地震では、周期 5
秒以下の短周期側では J-SHIS で公開している浅部地盤の増幅率とよい相関を示し、5 秒以上の長周期側では S 波速度
900m/s 下面の深さ分布とよい相関を示した。対象とした 3 地震の解析結果を総合すると、K-NET 新宿から数 km の領
域内における周期 3~8 秒の応答値のレベルは、K-NET 新宿で観測されるレベルの倍半分程度以内であった。今回は限
られた地震での解析結果ではあるが、倍半分の範囲であれば、K-NET 新宿の記録を限られた領域で長周期地震動の代
用波として利用することは可能であることが示された。また、実際のシステム構築に向けて、広域に設置された複数
の地震計から得られる情報により領域毎の長周期地震動を推定し、各領域のクラス別の建物及びエレベータロープの
揺れを効率よく予測するシステムについて特許出願を行った。
[成果の発表]
・口頭発表
1件
・特許出願
1件
謝辞:本研究では、東京ガス株式会社の超高密度リアルタイム地震防災システムの記録を使わせて頂きました。
4.共同研究
(79)土砂災害軽減のための地すべり活動度評価手法の開発
研究代表者
防災システム:
井口
研究参加者
防災システム:
内山庄一郎(契約研究員・技術員型)・土志田正二(契約研究員・研究員型)
共同研究先
北海道立総合研究機構地質研究所: 石丸
[目
隆
実施期間
聡・田近
平成 22 年度~平成 23 年度
淳・小澤
聡・川上源太郎
的]
北海道の地域性を考慮した地すべり活動度の判定法を確立し、あわせてこの手法を全道で活用可能とす
るためのデータベースを作成することにより、効果的な土砂災害の軽減・防止対策に資する。
[実施内容]
データベースの基図となる地すべり地形分布図の電子データを順次作成し、Web-GIS上に公開するととも
に、地質研究所に提供する。地質研究所では地すべり防止区域(206箇所)を中心とした既存地すべり情報
を基に地すべり台帳等の基本情報の収集を行なう。地すべりデータベース・地すべり活動度評価マップ表
示システムの作成(H22~23)を進める。
[成果と効果]
道内地すべりのデータベースを整備し、判定法による結果を地すべり活動度評価マップ(図-1 右)として効果的に表示す
るための仕組を作成している。
「北海道の地すべり地形」の GIS 化(図-2)、既存地すべり情報の収集、地形・地質情報を付加した地すべりデー
タベース(図-3)を作成し、「地すべり地形分布図」との統合を行なう。
[防災行政等への貢献]
本研究により作成される地すべり評価手法により、これまで一般技術者レベルでは困難であった地すべりの活動度の判定
が可能となる。「地すべり評価マニュアル」を用いた一般技術者向け講習会等の普及活動により、道内に分布する地すべり
の活動度(危険度)の評価・地すべり活動度評価マップの作成が進み、作成した地すべりデータベースと併せ、道庁地すべり
部署において、より優先的に対策を実施すべき地すべりの抽出や指定に活用されることが見込まれる。
[成果の発表]
・その他誌上発表
2件
・口頭発表
1件
図-1 作成したチェックシート(左)と、判定結果を表示する地すべり活動度評価マップの例
図-2 北海道の地すべり地形データマップ(WebGIS 公開済)
図-3 地すべりデータベースのイメージ
4.共同研究 (80)佐用町での災害対応業務における e コミュニティ・プラットフォームの活用に関する研究
研究代表者
防災システム:長坂俊成
研究参加者
防災システム:臼田裕一郎・田口仁・岡田真也
共同研究先
兵庫県佐用町:企画防災課
[目
実施期間
平成 22 年度
的]
防災科研が進める災害リスク情報プラットフォームに関する研究開発プロジェクトの一環として、防災科研が開発
した「e コミュニティ・プラットフォーム」を、平成21年8月の台風9号により水害に見舞われた兵庫県佐用郡佐
用町での災害対応業務に活用し、その有効性を評価検証することを目的とする。
[実施内容]
(1)災害対応業務に向けた e コミュニティ・プラットフォームのカスタマイズ
防災科研が開発した「e コミュニティ・プラットフォーム」を、兵庫県佐用郡佐用町での災害対応業務に合
わせてカスタマイズする。
(2)災害対応業務における活用と有効性評価及び課題抽出
「e コミュニティ・プラットフォーム」をカスタマイズした災害対応業務を支援するシステムを、実際に業
務の中で活用することで、その有効性の評価と課題の抽出を行う。
(3)e コミュニティ・プラットフォームの高度化と汎用化に向けた検討
(1)および(2)の結果を踏まえ、「e コミュニティ・プラットフォーム」の高度化と汎用化に向けた検
討を行う。
[成果と効果]
(1)については、「e コミュニティ・プラットフォーム」の最大の特徴である「オンラインでの相互運用」が、
罹災証明発行業務においては、個人情報保護の観点から困難であるとの指摘があった。そこで、カスタマイズとして、
事前にオンラインでの相互運用が必要な処理(地図データの取り込みや住所と位置の照合等)のみを行なった上で、
以後はオフラインで運用可能な「オフラインモード」を開発し、実装した。
これを(2)として実際に業務として活用し、問題なく運用できたことからその有効性を実証できた。また、課題
としては、地図データや住所情報、新築された家屋の情報など、更新情報の取り込み方法を今後検討する必要がある。
(3)として「e コミュニティ・プラットフォーム」の高度化の一環に含め、開発を実施した。課題である更新情
報の取り込みについては、現時点でも、更新は別のシステムから行い、オフラインで当システムに取り込むことで実
施は可能であるが、今後、汎用機能として検討を進める予定である。
[防災行政等への貢献]
実際に佐用町での罹災証明発行業務や復旧・復興業務で使用されている。また、折しも 3/11 に発生した東日本大
震災においても、この仕組みに期待が寄せられ、岩手県大槌町、陸前高田市等での罹災証明発行業務でも活用されて
いる。
4.共同研究 (81)構造物の耐震性能を高機能化する次世代パッシブトリガーダンパーの開発
(振動台実験による性
能検証)
研究代表者
防災システム:御子柴 正
実施期間
平成 22 年度~平成 23 年度
研究参加者
共同研究先
[目
建築研究所:山口修由
的]
土木及び建築向けの耐震用高減衰ゴムダンパーの振動台実験による総合的性能評価を行い、耐震用高減衰ゴムダン
パーによる構造物の応答低減効果を調べる。
[実施内容]
大型振動台に橋梁および住宅を想定した構造体を設置して積載荷重を加える振動台実験を予定している。この実験
においては、耐震用高減衰ゴムダンパーを組み込んだ状態でフルサイズの神戸波を入力して、ダンパーの応答の低減
効果を調べる。平成 22 年度は,これらの実験を実施するための検討を行った。
[成果と効果]
平成 22 年度は平成 23 年度に予定している橋梁および住宅を想定した振動台実験のための実験計画の作成を行った。
振動台のスペックを確認し,振動台上に橋梁および住宅を想定した試験体と振動台のテーブルを接合する治具の検討
を行った。また,測定に必要なチャンネル数と,センサーおよび計測装置などの測定計画の作成を行った。その他,
振動台実験に使用する加振波に関する検討を行った。
これらの成果によって,平成 23 年度の振動台実験を行う準備が整った。
4.共同研究
(82)構造物破壊過程における震動台の運転・制御に関する研究
研究代表者
兵庫耐震:梶原浩一
研究参加者
京都大学防災研究所 榎田竜太,山口真矢子,中島正愛
[目
実施期間
平成 22 年度~平成 23 年度
的]
近年,通常の設計で想定する以上の地震動が記録されている.これら地震動には 20Hz 以上の高振動数成分を含む
こともあり,剛性の高い構造物(例えば電力施設)の応答を刺激する懸念が高まっている.この現象を検討するため
には,高振動数成分を再現できる振動台を用いた振動実験が欠かせないが,大多数の振動台の駆動源である油圧式サ
ーボアクチュエータでは,20Hz 以上の高振動数を精度よく再現することは難しい.本研究では,通常の振動台の上
に,低振動数と高振動数をもつ 2 つのバネ質量系を設置し,両者を衝突させることから高振動を実現する仕組みと,
所定の高振動波形を再現するための制御法を開発し,その有効性を実際の振動台実験から検証する.
[実験の方法]
ある固有振動数(x Hz)を持つ系が衝撃力によって自由振動する場合に,その応答は xHz の振動数成分が支配的に
なる.系は本質的に減衰を持つので,その揺れは時間の経過とともに減衰する.この過程で断続的に衝撃を与えれば,
図1のように,十分な振幅を保ちつつ,x Hz での自由振動が続く.この基本的な性質に着目して,本研究では衝突と
自由振動を応用した実験手法と実験システムを構築する.
[実験システムとその制御]
図2は提案実験システムの概要で,振動台の再現可能振動数以上の固有振動数を持つ高振動数システムと,衝突シ
ステム(固有振動数を比較的低く設定)からなる.高振動数システムに力積を加えることでこのシステムは自由振動
するが,この力積を与えるハンマーの役割を衝突システムが担う.また衝突システムの揺れは,衝突システムと共振
する正弦波を振動台に入力することから励起させる.高振動システムを第二振動台として使い,その上に試験体を設
置することによって,振動台の限界以上の振動数を実現することが可能となる. 提案システムを用いた定常振動
(固有の振動数をもった擬似正弦波)は,振動台に正弦波を入力することで得られるが,非定常振動(任意波形)を
高振動数システム上で再現することも本研究の課題とする.高振動数システムと衝突システムとのギャップ距離を調
節し,さらには振動台への入力波を制御理論によって推定し非定常波形を実現する.具体的には,動的逆問題を応用
した IDCS(Inverse Dynamics Compensation Via Simulation)手法を用いた振動台入力同定手法を用い,また衝突に付随
する強非線形性に対応するために,非線形制御手法である MCS(Minimal Control Synthesis)を適用する.
高振動数システム
衝突システム
振動台
図 1 多重自由振動波形
図 2 衝突振動台実験手法の概略
[検証実験]
提案する衝突振動台実験手法を実験的に検証するため,本研究では京都大学防災研究所の電気・油圧サーボ方式の
振動台を用いる.振動台のテーブル寸法 5.0m×3.0m,最大変位 0.3m,最大速度 1.5m/s,最大加速度 10m/s2(15ton 積
載時),再現可能振動数 0.1~50Hz,である.防災研究所の振動台の再現可能振動数は 50Hz 程度の比較的高振動数ま
で対応できる振動台であるが,本研究ではこのような高振動数成分を用いずに,提案する衝突振動台実験手法によっ
て高振動数を実現する.衝突振動台実験では図 3 に示す実験システムを用いる.
衝突距離(22mm),最大の振動台入力(振幅:9.4m/s2,3Hz 正弦波)を用いた実験を紹介する.この振動台実験
時の高振動数システムの応答加速度は図 4(a)であり,最大加速度 50 m/s2 の定常的な応答が実現されている.高振動数
システムの応答のある 1 秒間(9~10 秒)を示すと図 4(b)となり,高振動数システムの応答の不連続となっているとこ
ろで衝突が生じ,入力波を 3Hz としているため,一秒間に 3 回の衝突が生じている. 図 4(b)には 30 回の起伏が見ら
れ,衝突直後に高振動数システムが自由振動することで減衰による振幅の減少が多少あるもの,高振動数システムは
30Hz の擬似的な正弦波を実現している.高振動数システムの応答加速度をフーリエ変換した図 4(c)からも,入力波に
は 30Hz を励起する振動数成分が全く含まれていないにもかかわらず,高振動数システムは 17 m/s2 の 30Hz の振動数
成分を励起している.
[成果と効果]
本研究では,振動台の再現可能振動数以上の振動数成分を含む応答を実現することを目的とし,衝突と自由振動
を応用した衝突振動台実験手法を提案した.この実験手法は再現可能振動数以上の固有振動数を有する高振動数シス
テムを振動台上に載せ,衝突システムによって十分な力積を与えることで,高振動数システムに自由振動を励起させ
るものである.実際の実験システムを用いた衝突振動台実験では,継続的な衝突によって擬似的な 30Hz の正弦波が
実現され,衝突振動台実験手法の有効性が示された.また,システム同定によって得たパラメータを参考にした数値
解析モデルに実験時に振動台で計測された入力波を用いた衝突振動解析では,実験結果とほぼ等しい結果を得ること
ができた.
[成果の発表]
1)
査読誌
1件
・口頭発表
6件
榎田竜太,梶原浩一,長江拓也,中島正愛:振動台の再現可能振動数を超える高振動入力を実現する衝突振動台
実験手法,日本建築学会学構造系論文集,No.657,pp.1975-1982,2010.11. (査読有)
2)
榎田竜太,梶原浩一,長江拓也,中島正愛:振動台限界を超える高振動数入力を実現する振動台実験手法,第
13 回日本地震工学シンポジウム,pp.2266-2270,2010.
3)
榎田竜太,梶原浩一,長江拓也,石運東,山崎友也,中島正愛:振動台の再現可能振動数を超える応答を実現す
る振動台実験手法の提案
その 1. 衝突振動台実験手法の概念,学術講演梗概集. B-2, 構造 II, 振動, 原子力プラ
ント, pp.43-44. 2010.
4)
山崎友也,榎田竜太,梶原浩一,長江拓也,石運東,中島正愛:振動台の再現可能振動数を超える応答を実現す
る振動台実験手法の提案
その 2. 衝突振動台実験手法の実験的検証,学術講演梗概集. B-2, 構造 II, 振動, 原子
力プラント, pp.45-46. 2010.
5)
石運東,榎田竜太,梶原浩一,長江拓也,山崎友也,中島正愛:振動台の再現可能振動数を超える応答を実現す
る振動台実験手法の提案
その 3. 衝突振動解析と実験結果の比較,学術講演梗概集. B-2, 構造 II, 振動, 原子力
プラント, pp.47-48. 2010.
6)
榎田竜太,梶原浩一,長江拓也,石運東,山崎友也,中島正愛:振動台の再現可能振動数を増強する振動台実験
手法の提案,その1衝突振動台実験手法の提案,日本建築学会近畿支部研究報告集,第 50 号・構造系,pp69-72,
2010.6.
石運東,榎田竜太,梶原浩一,長江拓也,山崎友也,中島正愛:振動台の再現可能振動数を増強する振動台実験
手法の提案,その 2 衝突振動台実験手法の実験的検証,日本建築学会近畿支部研究報告集,第 50 号・構造系,
pp73-79,2010.6.
②質量2
⑤リニアスライダ
60
④バネ2
582
③バネ1
Acc [m/s2]
①質量1
⑥台座
30
0
-30
-60
0
2
4
6
8
10
time [s]
(a) 高振動数システムの応答
750
Unit:mm
Acc [m/s2]
60
30
0
-30
-60
9
9.2
9.4
9.6
9.8
(b) 高振動数システムの応答(9-10 秒)
10
time [s]
20
2
|F(f)| [m/s ]
7)
15
10
5
0
0
10
20
30
40
50
frequency [Hz]
(c) 高振動数システムの応答のフーリエ振幅スペクトル
図3
実験システム
図4
衝突振動台実験
4.共同研究
(83)伝統的木造軸組構法の耐震性能検証に関する実験
研究代表者
兵庫耐震:梶原浩一
研究参加者
兵庫耐震:中山学、山下拓三、井上貴仁
共同研究先
特定非営利活動法人 緑の列島ネットワーク
[目
実施期間
平成 22 年度
的]
伝統構法木造建築物の設計法の構築を目的として伝統構法の構造力学的な解明とともに大地震時の挙動を明らかに
するために、石場建て構法を含む伝統構法木住宅の実大試験体を製作して振動台加振実験を実施する。これにより、
伝統構法の設計クライテリアと耐震性能を検討し、設計法に役立てる。
[実施内容]
本研究では、石場建ての柱脚の移動が建物の応答や耐震性能に及ぼす影響、水平構面の変形や偏心、1 階と 2 階の
耐力バランスが建物の挙動与える影響、伝統構法の設計のクライテリアについて検討することのできるデータを取得
するために、平屋建て 2 棟、及び 2 階建て試験体 2 棟の振動台実験を行った。実験期間は、H22.12.23(木)~
H23.1.24(月)までで、試験体 No.4 については、公開実験を実施した。
図1
実験前の試験体 No4
図2
実験後の試験体 No.4
[成果と効果]
本実験では、伝統構法で未解明な石場建て(礎石建て)構法の柱脚の移動に注目し、平屋建て 2 棟の実大試験体に
より、柱脚の滑りの発生条件、滑り量について検証を行い、柱脚と礎石との摩擦、上部建物の耐力、入力地震動レベ
ルとの関係を明らかにするデータが得られた。次に、限界耐力計算など解析的に課題となっている水平構面の変形や
捻り振動による変形などの解明とともに柱脚仕様による大地震時の挙動への影響を検証するためのデータが、石場建
て(柱脚フリー)と柱脚固定の 2 階建て試験体 2 棟の振動台実験で得られた。これらのデータを基に、伝統構法の設計
クライテリアの設定方法や地震時の応答評価方法などを検討することで、実務者が使いやすい伝統構法の設計法を作
成し、伝統構法にかかわる実務者、行政担当者などへの普及を図るなど、当震動台実験の成果を社会的に還元する。
[防災行政等への貢献]
本研究は、国土交通省の補助事業により実施された。本研究により、実務者が実践的に使える石場建て構法を含む
伝統構法木造建築物の設計法が構築され、確認申請・構造計算適合性判定の円滑化に貢献する。
[委員会]
伝統的構法の設計法作成及び性能検証実験検討委員会:
委員長:鈴木 祥之
委員:中島正愛兵庫耐震工学センター長他
15 名
[成果の発表]
・マスメディア対応
・実験映像の公開
複数件
http://www.green-arch.or.jp/dentoh/experiment.html
4.共同研究
(84)建築物スケルトンの健全性評価へのモニタリング技術適用に関する共同研究
研究代表者
兵庫耐震:梶原浩一
研究参加者
兵庫耐震:佐藤栄児
共同研究先
国土交通省国土技術政策総合研究所:高橋暁、有川智
[目
実施期間
平成 20 年度~平成 22 年度
的]
共同研究では、長期耐用住宅のスケルトン(構造・共用設備)の健全性評価に、先導的技術であるヘルスモニタリ
ングの適用を検討するため、実大建物の加振実験のデータを活用し、計測精度やデータ転送・解析速度等の性能特性
の把握と、住宅にも適用可能なモニタリングシステム設計のための技術資料を整備することを目的とする。平成 20
年 11 月に契約を結び、21 年度は、E-ディフェンスで実施した病院耐震実験のデータを活用した損傷推定解析手法の
検討を行い,平成 22 年度は,E-ディフェンスの実験において、損傷推定解析手法の効果を検証するモニタリング技
術の検証を行った。
[背
景]
国土交通省総合技術開発プロジェクトである「多世代利用型超長期住宅及び宅地の形成・管理技術の開発(H20~
22 年度)」3) 多世代利用型超長期住宅の管理技術の開発1)、における一部課題に係り共同研究を実施し、国民の安
全・安心な社会の構築に貢献する。上記総プロ「3)多世代利用型超長期住宅の管理技術の開発」の部会では、以下
を検討テーマとしている。
検討テーマ1:住宅の健全性評価に適用可能なヘルスモニタリング技術の開発
①長期耐用住宅の建物管理の高度化に向けた新たな技術適用に関する調査
②実大建物の加振実験データを用いたモニタリング技術の性能検証
③住宅へのヘルスモニタリング技術システムの適用ガイドライン(案)の検討
検討テーマ2:実施すべき維持管理における計測技術・データの活用手法について
①管理技術の基本要件の検討
②計測技術(モニタリングシステム)の導入方法
③データの取得・解析等の運用方法、
④「ヘルスモニタリング技術の利用と運営モデル」の提案
防災科研と国総研の共同研究は、検討テーマ1②の「実大建物の加振実験データを用いたモニタリング技術の性能
検証」に関わる。図 1 を参照されたい。
[実施内容]
平成 20 年度と同じ試験体を用いて、独立行政法人防災科学技術研究所が、兵庫耐震工学研究センター(E-ディフ
ェンス)で実施する中層 RC 造の実大規模建築構造物の震動台加振実験において、一例としてのモニタリングシステ
ムを実装し、技術の有効性の検証と課題の抽出を行った。この実験の本来の目的は、中層 RC 造の病院について、地
震による機能の保持性能を、免震構造と耐震構造にした際の比較を含めて行うことにあるが、耐震構造での実験を、
更に国民の地震防災に有効に活用するために共同研究を行ったものである。
具体的には、将来の住宅管理・流通における構造ヘルスモニタリング(SHM) 技術利用を想定して、試験体に通信機
能を有するスマートセンサを設置し常時振動及び大小地震波加振時の加速度波形データを計測し、データ蓄積サーバ
を介してオフサイトで解析を行った(図 2)。
[成果と効果]
本共同研究の成果を一部とし、国交省国総研では、地震時を想定した実大建物の加振実験による技術検証を踏まえ、経年と地震による新動
特性劣化を把握し、わかりやすく情報提供する構造ヘルスモニタリング技術利活用に係る指針・基準、実現手法を示しガイドラインとして公
表する予定である。この素案については、国交省国総研のHPにある、平成 22 年度 第2回検討会配付資料(PDF)(2011/2/28)2)の参考資
料 2-5-1 多世代利用住宅の管理・流通を支える構造ヘルスモニタリング技術の利用ガイドライン(素案)に掲載され、国民の安全・安心な
社会の構築に貢献する。
[参
考]
1)国土交通省総合技術開発プロジェクト:多世代利用型超長期住宅及び宅地の形成・管理技術の開発(多世代利用総プロ)、(平成20~
22年度);http://www.nilim.go.jp/lab/ieg/tasedai/portal.htm
2)国土交通省総合技術開発プロジェクト:多世代利用型超長期住宅及び宅地の形成・管理技術の開発(多世代利用総プロ)、(平成20~
22年度)検討会資料:http://www.nilim.go.jp/lab/ieg/tasedai/shiryou.htm
図1 国土交通省総合技術開発プロジェクトの研究年次計画・研究テーマとの関連
兵庫県三木市 (防災科研 E-defense)
試験体
計測トリガの設定(強震時:計測開始トリガ値、微小振動時:計測開始時間)
東京
(国総研)
実験棟内
AC電源
無線LAN子機
LANケーブル
AC電源
計測
デー
タ
通信キャリア
(DoCoMo)
スマートセンサ
(フロア内1箇所)
4階床
蓄積・管理、評価
無線LAN
ルータ
デ
測
計
RC造4階建て医療施設
(耐震構造+頂部免震床)
計測データ送信
(即時)
ー
タ
本館会議室
データ管理・解析
サーバ
診断結果受信
(即時)
振動特性の変化
1階床
対象住宅
ユーザPC
ユーザー
(オーナー、作り手、
住まい手等)
図 2 平成 22 年度に行われた防災科研 E-defense 実験における
国総研との共同研究に基づく検証の枠組み
診断サービス
事業者
4.共同研究
(85)地震時の退避行動に関する予備実験
研究代表者
兵庫耐震:梶原浩一
研究参加者
大阪市立大学:生田英輔
[目
-震動台の活用に関する検討-
実施期間
平成 22 年度~平成 23 年度
的]
近年の研究により今後の発生が確実視されている長周期成分を含む地震動では、高層建築物、免震構造建物にて数
十センチから数メートルの変位が長時間に渡って継続することが予測されている。特に、このような地震動が入力す
る高層建物の居室内では、家具等による人的な被害発生に加え、耐震化された建築物内であっても、退避行動の困難
さによりその過程で人的被害が頻発するものと想定される。気象庁震度階では、震度 5 強では、「物につかまらない
と歩くことが難しい」、震度 6 弱では、「立っていることが困難になる」、震度 6 強では、「はわないと動くことが
できない」の記述があるが、既往の研究からも知られているように、同じ震度でも振動周期などによって、人間は
様々な感覚を覚え、一概に震度で退避行動の可否を決定することは困難である。さらには、緊急地震速報の運用が始
まり、個々人の判断に基づいた退避行動が、被害の低減に大きく影響すると考えられ、振動下での人間行動の特性を
明らかにする必要性が高まっている。特に、今後発生が確実視されている地震に対して、高層建物での就労者、居住
者への防災対応も含め、より適切な退避行動の指針整備は喫緊の課題である。
本共同研究では、上記の指針整備を目指すに当たって、被験者を用いた地震時の退避行動に関する各種実験・計測
に関して予備的な検討を行った。なお、E-ディフェンスの実験データの活用は見据えるが、E-ディフェンスへ人
を乗せての実験については予定されていない。
[実施内容]
研究では、地震時の退避行動の指針を検討する上で、振動中の人間の行動の特性を把握するために複数の計測手法
を実施する。ここでは、心拍数や血圧、恐怖感といった生理的・心理的影響の計測、退避行動時の 3 次元動作解析、
揺れへの反応と行動の特性などが計測の対象となる。
今年度は、無線で計測可能な心電図テレメータ及び加速度計をセンサについて、計測の可能性を検討した。これは、
被験者への各種センサの具備が容易であることと、有線のセンサを用いるよりも自由な実験環境の下で研究が可能で
ある理由による。図では、心電図テレメータの電極を被験者の胸に設置し、左腕と腰には加速度計をバンドで固定し
て設置している。被験者の安静時、歩行時、階段昇降時の心拍数、心拍の R 波インターバルの周波数解析、腕及び腰
の動作時の加速度を生理指標とし、それぞれ静止時との変化を比較検討した。また、心電図テレメータ及び加速度計
の電波の到達限界等、今後実験を行う上で制限される点についても合わせて確認した。本研究で得られた知見を基に
23 年度以降は E-ディフェンスにおける実験データを活用した展開を目指す。
[成果と効果]
以下の成果と知見を得た。
・無線での心電図テレメータと加速度計の同時計測が可能である
・加速度計の電波(Bluetooth)が届く限界はおよそ受信機(PC)から半径30メートルの範囲内である
※心電図テレメータはより広範囲での計測が可能
・加速度計の電波は受信機(PC)との間に人体が入ると届く距離が短くなる
・室内で計測する場合、テレメータ及び加速度計共に階を跨いでの計測は困難である
・歩行実験では、個体差があるものの、安静時と比較して心拍数が2-3割増加した
・階段昇降動作においても心拍数に関しては歩行実験と同様の傾向が見られた
[今後の予定]
・起震車や振動台上での実験を想定して振動下での計測
・諸条件を満たす被験者の確保
・生理的指標の個体差を考慮した分析方法の検討
図1
センサの設置状況
図2
実験風景
4.共同研究
(86)長周期地震動に対する免震建築物の安全性検証方法に関する検討
-長周期地震動に対する免震部材の性能と免震建築物の安全性に関する調査-
研究代表者
兵庫耐震:梶原浩一
研究参加者
兵庫耐震:佐藤栄児,大成建設:長島一郎
[目
実施期間
平成 22 年度
的]
国土交通省では、平成 20 年度より、建築基準整備促進事業を活用し、長周期地震動を考慮した設計用地震動の作
成手法の検討を開始した。また、平成 20~21 年度の事業成果に基づき、「超高層建築物等における長周期地震動へ
の対策試案」を作成し技術検討を推進している。本研究では、22 年度の上記事業主体者である大成建設と防災科研
が、設置E-ディフェンスを部材の試験装置として使用するための技術検討を行った。この成果に基づき、平成 23
年度に、長周期地震動に対する免震建築物の安全性照査のクライテリア設定へ向けて、多数繰り返し加力実験に基づ
く実大免震部材の特性評価を行う。
[実施内容]
これまで、実大免震部材の動的・多数繰返し加振実験は、試験装置能力の制約により従来殆ど実施されておらず、
本実験により実大免震部材のエネルギー吸収性能を把握することは、長周期地震動に対する免震建築物の安全性向上
に大きく寄与することが期待される。
事業主体が設置した実大実験計画 WG により、試験対象とする積層ゴム支承はφ1000mm、弾性すべり支承はφ
500~φ800mm 程度の大きさとした。弾性すべり支承は、積層ゴム支承よりも基準面圧が大きく、せん断力(摩擦
力)が軸力に依存して変動するため、一定以上のせん断力を確保するため直径を小さめに設定することとなった。以
下に、実験条件と試験内容を示す。
表1
実験条件と試験内容
実験条件
目標値
留意点
試験体寸法
・積層ゴム:φ1000mm
・弾性すべり支承は、積層ゴムよりも基準
・弾性すべり支承:φ500~φ800mm
面圧が大きいため、直径を小さく設定。
長時間・大振幅動
・±40cm
・φ1000 積層ゴムでせん断歪 200%相当。
的繰返し加力
・4 秒周期で 30 回~60 回(累積変形で
50m~100m)
鉛直載荷
・最大 10000kN
・面圧変動の許容値は±20%程度を目標と
するが、震動台の制御精度により決まる。
水平 2 方向加力
・合成振幅で±40cm
破断実験
・±90cm まで漸増加振(判断時の荷重は
・破断に至らない場合、それ以上振幅を増
6000kN、衝撃力 9000kN 程度)
加させない。
上記に基づき、E―ディフェンスを免震部材の試験装置として使用するため、加力治具の検討が行われた。検討
過程では、4種類のアイディアが提示されたが、実験条件(長時間・大振幅動的繰返し加力、鉛直載荷、水平 2 方向
加力、破断実験)を実現出来ることを選定基準として、図 1 の、震動台コーナー部周囲の反力床上に反力梁を斜めに
架設して、直交方向の剛性を高めるため受け梁を架設する案が採択された。
図1
主梁(反力梁)と受け梁の架設
図2
震動台上への支承設置
図 2 に震動台上の支障位置を示す。反力梁直下の震動台上に積層ゴム支承或いは弾性すべり支承を設置する。支承
は荷重を計測するロードセル架台を介して、支承に作用する鉛直軸力を分散させて震動台テーブルへ伝えるための下
部試験体ブロック上に設置する。
震動台を鉛直方向に徐々に上昇させて、積層ゴム支承或いは弾性すべり支承を反力梁へ押付けて所定の鉛直軸力を
導入する。反力梁に押付けた状態を図 3 に示す。積層ゴム支承或いは弾性すべり支承に所定の鉛直軸力を導入した状
態で,水平方向に加振する。
(a)主梁方向
(b)受け梁方向
図3
支承への軸力導入
冶具検討での具体的な実験条件は以下である。
1)時間・大振幅動的繰返し加力については、震動台が一度に連続して加振出来るのは累積変形で15m程度である
(参考資料-2参照)。従って、50mから100m程度の累積変形を実現するには、3回~6回程度に加振分割して、
合間に油を補給して加振する必要がある。ただし、油の補給は、5分程度で完了する。WGとしては長時間加振の
条件として容認出来ると判断した。
2)鉛直載荷については、水平方向加振時の震動台鉛直方向の変動変位が、10mm程度生じることが見込まれる
(参考資料―1の負荷が軽い場合の実測データから推定)。しかし、変動変位の逆位相波を用いた補償加振によ
り3~4mm程度に変動変位が抑制出来る見込みがある。WGとして、面圧変動の目標許容範囲を±20%程度と想定
している。鉛直載荷時の反力梁の弾性変形を40mm程度に設定すれば、軸力変動は10%程度に抑制できる事が期
待される。
3)水平2方向加力については、問題なく加振が可能である。
3ヵ年の概略工程を以下に示す。
2010年度:実大実験計画の作成
2011年度:天然ゴム系積層ゴム及び弾性すべり支承を用いた多数繰返し加振の予備実験.
2012年度:天然ゴム系積層ゴム以外の積層ゴム支承と弾性すべり支承の多数繰返し加振実験.ダンパーの多数繰
返し加振実験.積層ゴム支承の破断実験.
[成果と効果]
本年度は、実験治具を検討し、実験手順を確立すると共に、計測計画と防護計画を作成した。
23年度の実験では、本年度提案した実験手法の検証として、天然ゴム系積層ゴムと弾性すべり支承(高摩擦)を対象
とする。国の施策に基づくこれら成果の展開は、国民の地震による被害低減に大きく貢献する。
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