比較文化特講 単位数:2 選択 担当教員名:大東俊一 開講時期:1・2 年次 前期 ●テーマ 日本の伝統的な精神文化を検討することを通して、日本人の死生観の特質を考察する。 ①一般目標 日本人の死生観の基盤を成している民俗宗教の諸相を理解し、心身 ともに健康な生活を送るための立脚点を見出す。 ②行動目標 達成目標 ① キリスト教などの創唱宗教とは異なる日本の民俗宗教の姿を理 解できる。 ② 年中行事や宗教的儀礼の意義を理解できる。 ③ 日本人の死生観の成り立ちを理解できる。 本講は、人間を総合的に理解・研究する一環として、文化面からのアプローチの方 法論について学ぶことが目的である。人間の心や体が十全に機能するのは、ある特定 の文化的土壌においてである。しかし、私たちは自国の文化の中にいわば埋没して日 常生活を送っているので、自らの存在を規定している自国の文化的特質を、必ずしも 明確に意識しているわけではない。それゆえ、異文化に目を向け、自国の文化と比較 することは、自らの文化的基盤を知り、そこにおいて現出する心と体の総合体として の人間を、多角的かつ総合的に理解する手助けとなるはずである。 本年度は、日本人の精神的特質を考究するために、その死生観に関する諸問題を検 討する。死生観、とりわけ、死後の世界に関する観念(=他界観)は、私たちの日常生 活の送り方に関する指針や道徳的規範を提供するとともに、死に際しては、死の受容 に関するさまざまな知見を提供する。要するに一個の人間が、心身ともに健康な生活 を送り、その生を全うするに至るまでのあいだ、その人の有する死生観、さらには、 その人が属する一文化の死生観が、行動のありように大きな影響を与えているのであ 概要 る。 日本はユーラシア大陸の東方海上に位置し、これまで大陸からさまざまな文化が流 入しては蓄積し、重層的な文化が形成されてきたが、その重層性は日本人の死生観に ついても当てはまる。日本人の死生観が曖昧であると言われる所以である。さらに、 現代においては科学の分野はもとより、政治・経済など、社会のあらゆる分野で西欧 的なシステム・価値観が流布し、日本古来の価値観・習俗といったものが揺らいでい るが、死生観についても同様である。とりわけ、医療の現場においては、臓器移植の 問題はもとより、終末期医療におけるスピリチュアル・ケアの問題をはじめとして、 死生観と密接に関係する諸課題が発生している。 日本は明治維新以降、社会生活のあらゆる側面で急速に西洋化が進み、その物質文 明の恩恵を享受している。しかし、西洋化した日常生活の基層には、日本人が古来か ら有している独特の精神的態度が残存しているように見える。しかし、日本古来の精 神的態度や死生観といったものは、さまざまな習俗や儀礼として日常生活の中に浸透 しているので、我々はそれを普段はあまり意識することがない。それはいわば「見えな い宗教」とでもいえるものであり、この「見えない宗教」によって我々の日常生活は秩 序立てられているといっても過言ではない。本講では、誕生・成長・死などの人生儀 礼、そして、祭や年中行事などの民俗宗教などを素材とし、この「見えない宗教」の本 質を考察し、日本人特有の死生観に迫ってみたい。 日本人の宗教というと仏教がまず思い浮かぶが、仏教は 6 世紀の中頃に渡来した外 来の宗教である。仏教には教祖や教典もあって、その宗教としての輪郭は明確である が、それ以前から日本人が持っている「見えない宗教」には、教祖も教典もない。仏教 はその「見えない宗教」とうまく融合を果たし、いわゆる葬式仏教として現在に至って いる。 本講では 16、17 世紀の近代科学の誕生期において、その価値的な基盤のひとつとも なったキリスト教の人間観・自然観なども視野に入れながら、仏教とも異なる日本人 のこの「見えない宗教」の構造を考察していく。 上述のように現代日本人の有する死生観は、一見すると重層的で曖昧であるが、そ こにはいくつかの特徴的な要素が見受けられる。日本人の死生観は仏教的なものに尽 きるわけではなく、仏教伝来以前から存するものから、神道的なもの、儒教的なも の、さらには、民俗的なものに至るまで、いくつかの類型が指摘できるであろう。本 講では、そのような諸種の死生観の特徴を浮き彫りにするために、比較の対象として キリスト教の死生観をはじめとする西欧的な死生観なども取り上げて、日本人の死生 観を考察していく。 また、さらに本講では、そうした歴史的考察を踏まえて、生命倫理との連携の視点・ 可能性を探っていく。生命倫理の任務は、医学、生物学、倫理学、哲学、宗教学、法学、 社会学など多面的な角度から諸課題を検討するものであり、本来はそれぞれの文化の有 する死生観との関連において遂行されるべきものであるが、現状では臓器移植や遺伝子 操作の問題をはじめとして、死生観への配慮が十分とは言い難い場面も生じている。本 講では、日本古来の死生観を考察することを通して、生命倫理との連携を模索する。 キーワード 使用する テキスト 日本人、死生観、他界観、人間観、自然観、人生儀礼、民俗宗教、仏教、キリスト教、 祭、年中行事 ①教科書 ・宮家準:日本の民俗宗教.講談社学術文庫,1994. ②参考図書 ・山折哲雄:仏教民俗学.講談社学術文庫,1993. ・大東俊一:日本人の他界観の構造.彩流社,2009. ・大東俊一:日本人の聖地のかたち.彩流社,2014. 授業方法 インターネットによる在宅学修 成績評価 5 回のレポート、他学生のレポートに対する意見書き込み、科目修了試験結果等の総合 評価 備考 当該分野に関する資料や情報をインターネットで適宜検索したり、指定する文献を読 んでもらうことがある。
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