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平成二十四年度
中央大会台本
「平交線」
侃紀 作
東京農業大学第一高等学校演劇部
菅谷
平交線
CAST
…女子高生。病死。
児玉…女子高生。演劇部。
関
金村…死神。
岸本…冥界にいる女。事故死。
島津…児玉の親友。演劇部。
米内…児玉の後輩。演劇部。
山坂…児玉の後輩。演劇部。
副島…演劇部部長。テンションの高い変人。
望月…病弱な少女。関の親友。
ママ…児玉のママ親。
母 …関の母親。
父 …関の父親。
冥王…冥界の主。
パーくん…冥界のマスコット。可愛い。
作・菅谷侃紀
-1-
一場・部室
児玉「社長……どうか、どうか、こんにゃくだけは勘弁してください! はんぺんなら……はんぺんだったらすぐに出せま
す!!お願いです!はんぺんで、手を打ってください!」
米内「そうは行かん。あの子を救うには、こんにゃくを使わんと……」
児玉「社長……いまさらですけど、あなたがこんにゃくだと思って食べていたあれは、胡麻プリンです」
米内「な、なんだと!?」
児玉「そうです……社長のこんにゃくへの執念が、世界を変えてしまったんです」
米内「わ、私はなんということを……」
児玉「社長、まだやりなおせます……私達で、日本のこんにゃく界に旋風を巻き起こしましょう!」
島津、手をたたく。
島津「よし、良いよ。台詞は完璧だね」
米内「児玉先輩すごいっすね!こんなにたくさん覚えられて!」
児玉「そ、そう?」
島津「うん、すごいよ。頑張れ、主役!」
児玉「う、うん……」
山坂「いまだに台本の内容は意味わかりませんけどねー」
島津「まあ、部長が書いたやつだからね。あいつの台本、読んだだけじゃ絶対わからないのに、動きがついて、実際の舞台
でやるとすごい大作になってるんだよね」
児玉「すごいよねー」
山坂「私は部長の台本やるのは初めてだからわかりません」
島津「去年の地区大会の劇も、部長が作ったんだけど凄かったよ。六十分間ずっとYシャツの襟について語っている脚本な
のに、最後はお客さんみんな泣いてたから」
山坂「じゃ、じゃあ今回も……」
-2-
児玉「たぶん、感動の超大作だね」
米内「こんにゃくとかはんぺんとか、正直意味わからないっすけどね」
副島登場。
副島「ふっふっふ……それらの言葉に隠された真の意味を理解できないようじゃ、甲子園はまだまだ先だよ」
米内「ぶ、部長!!いたんっすか!?」
島津「部活サボったのに態度デカい。それに甲子園は目指していないし」
副島「サボるとは人聞きの悪い。僕は脚本書いた後は一度、休まないといけないんだ」
山坂「なんでですか?」
副島「脚本家の脳から、役者の脳へと切り替えないといけないからね」
島津「どんだけ休む気?もう脚本出来てから一ケ月はたってるけど」
副島「そうだな~後、一ケ月ぐらい?」
島津「本番、終わってるんだけど。ほら、あんたいないと練習進まないんだから……」
副島 「私にはあなたが必要なのよ!ってことか……もう、島津ちゃんは僕がいないと何もできないんだからぁ!」
島津「……」
副島「すいませんでしたぁぁぁぁ!!」
山坂「目力だけで相手をねじふせるなんて!」
米内「流石は島津先輩っす!!」
二人「そこにシビれる!あこがれるゥ!」
児玉「鬼島津とよばれただけはあるね」
島津「ほら、部長。練習参加して」
副島「しかし、僕の演技を前にして、慣れない新入生が正気を保てるかどうか……」
島津「確かに、あんたは後輩に毒かもね」
副島「ぼ、僕は毒扱いかい!?くぅ~僕の演技を見て失神、す・る・な・よ?」
-3-
山坂「気持ち悪い……」
四人、副島から逃げる。
副島「練習真面目にやってよ~」
四人「お前が言うな!!!」
島津「あんたが一番できてないんでしょうが!!」
副島「何を言うか。僕はセリフを完璧に覚えてるんだぜ?」
米内「完璧?」
副島「そう思うなら、問題出してみろ!!」
島津「良いだろう……二ページ、五行目!」
副島「おはよう!みんな、準備はいいか?」
島津「三ページ、二十一行目!」
副島「このサラダ、ちょっと臭くないですか?あ、よくみたらドレッシングじゃなくて石油じゃないですか!」
島津「十二ページ、二行目!」
副島「こんばんは、いい天気ですね。―ひろし、赤いふんどしを翻しながら、満面の笑みでつぶやく」
児玉「す、すごい……」
米内「ページ数と行数で、台詞が全部わかるなんて……」
山坂「しかも、ト書きまで……」
副島「そりゃ、自分で書いてるからね。余裕だよ。―部長、眼鏡をずりあげながら、得意げな顔でつぶやく」
島津「わざわざト書き入れないで良いよ!」
副島「―島津ちゃん、目をぎらつかせながら華麗なステップを踏んでつぶやく」
島津「人のト書きまで入れるな!!しかもかなり無茶な要求!!」
山坂「目をぎらつかせながら……」
米内「……華麗なステップ?」
-4-
山坂、米内、目をぎらつかせながら華麗なステップを踏む。
島津「あんたらはやらないでいいんだよ!!」
副島「―島津ちゃん、怒鳴る姿も、可愛いな」
島津「ト書きじゃなくてただの感想だよ!!しかも何気に五・七・五だし!!」
チャイム、鳴る。
副島「お、時間だ!!そろそろ帰るかな!!」
島津「結局練習できてねー!!」
米内「先輩、いつもお疲れ様っす……」
島津「大会まで、あと二週間しかないんだよ?」
副島「二週間……それだけあれば、カップラーメンが六千七百二十個は作れるな」
島津「換算がわかりにくいよ!!二週間前なのに、通し一回もしてないんだよ!!」
副島「ぶっつけ本番でなんとかなる!それじゃ、アディオス!」
副島、去 る。
島津「なんないよ……あぁ、もう!!」
山坂「私、塾なんでお先に失礼します」
米内「じゃ、自分はランニングしてくるっす!」
山坂「暑いね~」
米内「さ、あなたも一緒に!」
二人、走り去る。
島津「あの子はいったい何部なんだ……まあ、私たちも帰るか」
児玉「あのさ……島津。ちょっといい?」
島津「どうしたの?」
児玉「ちょっと話したいことがあって……」
-5-
島津「別に良いけど。何、改まって」
児玉「ごめん、島津……私……地区大会に出られなくなっちゃった」
島津「え!?」
児玉「昨日の夜、母親が……」
回想。ママ、出てくる。
ママ「優、ちょっと良い?」
児玉「何、ママ?」
ママ「あなた、まだ部活続けてるでしょ?」
児玉「えっ……」
ママ「夏休み前にやめるって約束したじゃない」
児玉「なんで……」
ママ「ママに隠れて部活出来るとでも思ったの?学校で勉強してるなんて言って、先生に聞いてみたら、やっぱり部活して
るって」
児玉「ごめんなさい……」
ママ「このままじゃ、成績は下がる一方よ。一学期の成績が悪かったから、部活やめさせたのに、このままじゃ二学期はさ
らに悪くなるわね」
児玉「悪いっていったって、四位から七位になっただけでしょ?」
ママ「でも、三人に抜かれてるじゃない。だいたい、それぐらいの順位じゃ東大は受からないわよ」
児玉「別に目指してないし……」
ママ「目指さないとダメなの。ママもパパも東大なのよ?あなただけレベルの低い学校だったら、親戚から笑いものになる
わ」
児玉「ならないってば、良い大学入ったって、私にやりたいことなんてない!」
ママ「やりたいことは後から出てくるのよ。その時に、レベルの低い大学に入ってると、やりたいことが出来ないかもしれ
-6-
ないの」
児玉「私は、そんな将来やりたくなることなんかより、今やりたいことをやってたい!!みんなと一緒に、演劇をやってた
いよ!!」
ママ「演劇なんてやって、何の役に立つのよ。将来、役者になるってわけでもないでしょ?」
児玉「それは……」
ママ「ほら、そんなことするより、将来のために少しでも勉強して、パパやママみたいになりなさい」
児玉「ママは今、楽しいの?」
ママ「え?」
児玉「頑張って勉強して東大入って、大企業に入社して、バリバリ働いて……それって、楽しいの?」
ママ「楽しいわよ。辛いこともあるけど、仕事にはやり甲斐があるし」
児玉「パパなんて、仕事ばっかりで、ろくに家にも帰ってこない……帰ってきたらすぐ寝ちゃって、あんな人生、頑張って
手に入れるほどの価値があるの?」
ママ「パパもママも満足してるわ。それに、人生の価値なんてそれぞれが決めるものでしょ?」
児玉「そういうなら、私にママたちの価値観を押し付けないでよ!私は、パパやママみたいになんかなりたくないの!……
そんな人生に、価値は見いだせないよ!!」
ママ「じゃあ、あなたはどういう人生を歩みたいの?言ってみなさい!」
児玉「それは……」
ママ 「結局は、今、勉強しないで、楽しいことをしていたいだけでしょ?そんな考えじゃ、絶対に失敗するわ。だからマ
マが、あなたが将来ちゃんと生きられるように色々考えてあげてるんじゃない」
児玉「ママは私のこと、本当にわかってるの?……自分の娘を良い大学いかせて、自慢したいだけじゃないの?」
ママ「そ、そんなわけないじゃない!ママはあなたのことを一番に考えて……」
児玉「だったらお願い。最後の地区大会ぐらい出させてよ!もう、練習も始まってるし!」
ママ「だから、約束したでしょ?夏休み前でやめるって……」
-7-
児玉「私、主役なんだよ!いまさら、変えようがないんだってば! 一生のお願い、後、後二週間で良いから……」
ママ「ダメと言ったらダメよ。それに家に帰って来ても勉強なんかしないんだから、今度からは塾に行ってもらうわ!」
児玉「部活止めたら、何も楽しくないんだよ!お願いだよ!!」
ママ「今は楽しくなくても耐えるときなの。大学に行けば、あの時に耐えて良かったなって思うわ」
児玉「絶対に思わない!……ねえ、ママ、今、私の生き甲斐は部活だけなんだよ!大会までで良いから……お願いします!」
ママ「あなたはいつも口だけね。顧問の先生には、私から連絡しておくから、明日の部活でみんなに言いなさい。大会を見
に行くぐらいは許してあげるから」
ママ、去る。回想終わり。
児玉「……それで、みんなに言おうと思ったんだけど、やっぱり言えなくて……」
島津「そっか……まあ、仕方ないよね。お母さんに止められちゃったんじゃ……」
児玉「え……」
島津「言うのが辛いなら、私から部長に言っておくよ。勉強、頑張ってね」
児玉「止めないの?」
島津「だって、私が止めたところでどうにかなる問題じゃないでしょ?」
児玉「でも、主役が抜けちゃったら……」
島津「それは、私と部長でなんとかするよ。二週間だけだけど、まあ、なんとかなるはず」
児玉「……」
島津「まあ、児玉の分もしっかりやるからさ。心配しないで。応援してるよ」
児玉「う、うん」
島津「じゃ、帰ろうか?」
児玉「ごめん……部室にいられるのも最後だし、もう少し残っていくよ」
島津「私も一緒に残ろうか?」
児玉「いいよ、一人で」
-8-
島津「そ、そう……じゃあね」
島津、去る。
児玉「島津……」
児玉、部室の隅々を見ながら歩く。窓に近づき、開ける。
児玉「いっそ、死んだ方が楽なのかな……」
金村、出てくる。
金村「二階から落ちても、死ねるかどうかは微妙だな」
児玉「だ、誰ですか!?」
金村「そう怖がるな。ただの優しいお兄さんだよ」
児玉「お兄さん……?」
金村「優しいおじさんだよ!!学校の中を歩いていたら、人生に絶望している女子高生を見かけてな。少し、話を聞かせて
くれないか?」
児玉「すいません、急いでいるんで!」
児玉、去ろうとする。金村、腕をつかむ。
児玉「や、やめてください!!」
金村「まあまあ、落ち着けよ」
金村、腕に力を入れる。児玉、へたりこむ。
児玉「え?」
金村「おや、腰が抜けちまったか?」
児玉「い、いや……助けて……」
金村「死にたいとか言っておきながら、怖いものは怖いんだな」
児玉「こ、殺さないでください……」
金村「でも、死にたいとは思っているんだろう?」
-9-
児玉「えっ……あ、あなたなんかに殺されるのは嫌です!」
金村「なんでだ?」
児玉「最期ぐらい……自分で決断したいんです」
金村「まあ、ずっと両親の言いなりだったもんな。なにもかも」
児玉「な、なんで知ってるんですか……?」
金村「まあ、わかるさ。おまえの顔に書いてある」
児玉「おじさん、何なんですか?」
金村「俺の名前は金村小洒落。あ、小洒落って変な名前だろう?洒落た名前にしてくださいって言ったら、こんな名前着け
られちゃってさ……」
児玉「いや、名前なんかどうでもいいんですよ……どういう人なんですか?」
金村「人、か……人じゃねえ。そうだな。まずはわかりやすく俺の職業から。俺は死神だ」
児玉「いきなりわかりづらいんですけど……」
金村「まあ、少しマイナーな職業だもんな」
児玉「いや、有名ではあるけど、会ったことはないというか……」
金村「普通、死者か死期が近づいている人間しか会えないからな」
児玉「え、冗談じゃないんですか?」
金村「なんで、わざわざ夕暮れの学校で、辛そうな女子高生を捕まえて小粋なジョークかまさないといけないんだよ」
児玉「確かに……でも、死神というからには何か証拠を見せてくださいよ。デスノート持ってたり、卍解したりとかしない
んですか?」
金村「漫画の読み過ぎだ。だが、証拠か……そうだな。よし、おまえに死者を見せてやろう」
児玉「死者?ど、どうやって……」
金村「俺が一人、連れてきている。ちょっと待ってろ。今、捕まえるからな……」
児玉「つ、捕まえる?」
- 10 -
金村「こっちの世界では死者はおまえらには見えないんだよ」
金村、イヤホンを取り出す。
児玉「それ……イヤホンですよね?」
金村「イヤホンじゃねえよ。これは、死者を捕まえる道具。名前は、死者捕まえ機~だ」
児玉「なんでドラえもん風なんですか……ネーミングセンス無いし」
金村「俺がつけたわけじゃないから仕方がない。行くぞ~」
金村、イヤホンを振り回す。当たる。普通に投げる。
児玉「普通に投げちゃうんだ……」
イヤホンをつけた関が登場。
金村「お、きたきた」
児玉「本当に来た……」
関 「金村さん、こんなところに連れてきて何するの?」
金村「ほら、こいつが死者さ」
児玉「そ、その人が死んでるっていう証拠は……?」
金村「ちょっと触ってみろよ」
児玉「でも、腰が抜けちゃって……」
金村「ああ、すまねえ。今、戻してやるからな」
児玉「戻す?」
金村「いや、あのままじゃ逃げ出しそうだったからな。少し、足腰の機能を止めさせてもらった」
児玉「そ、そんなことできるんですか!?」
関 「抜けてたのは腰じゃなくて、魂だったってわけだ」
金村「上手くねえよ……あ、これだけで死神の証拠、十分だったかな?ま、触ってみろよ」
児玉、関に触ろうとする。触れない。
- 11 -
児玉「ほ、本当だ……」
関 「それで、この子と私をあわせてどうするの?金村さん」
金村「ちょっと話が長くなる。まずは、お互い自己紹介をしておけよ」
関 「私は関清美。高校二年生、六月に持病が悪化して死んじゃったけどね」
児玉「ほ、本当に死者なんだ……」
金村「ほら、おまえも」
児玉「え、えっと……」
金村「早くしろよ」
児玉「あ、はい……えっと……」
金村「……俺が紹介しよう。こいつは児玉優、お前と同じ高校二年生で、演劇部だ」
関 「へー演劇部か」
児玉「な、なんで知ってるんですか!?」
金村「ま、おまえのことはだいたい調べてあるさ」
関 「プライバシーの欠片もないね」
金村「で、最初に確認しておく。関……おまえは死んじまったが、どうしても生き返りたい。そうだな?」
関 「うん」
金村「そして児玉……おまえは今の人生が辛くてしかたないから、死んでもいいと思っている。そうだな?」
児玉「は、はい」
金村「何が辛いんだ?」
児玉「……親には何もわかってもらえなくて、人付き合い苦手だから友達も出来なくて、唯一の楽しみの部活はやめないと
いけない。将来やりたいこともなくて、今を楽しめない……」
金村「ないないづくしだな」
児玉「こんな人生、生きる価値なんて無いんです。やめた方がマシなんですよ」
- 12 -
関 「生きる価値なんて、自分で作るもんだと思うけどな~」
児玉「無理ですよ。そんなの……私には」
金村「まあ、おまえらが話しあってもおそらく無駄だ。とにかく、ここに死にたい奴と生きたい奴がいる。やることは一つ
だろう?」
関 「何?」
金村「命を交換するんだよ」
関 「命を交換?」
金村 「まあ、魂の交換と言ってもいいな」
児玉「死神のあなたがそんなことして、何の得になるんですか?」
金村「そうだな、理解してもらうためには……まず、死後の世界のシステムについて話そう」
児玉「システム?」
関 「それ、死んだときにも聞いたんだけど……」
金村「じゃあ、アシスタントとして説明を手伝ってくれよ」
関 「はいよ!」
金村「人は死ぬとな、俺たち死神に連れられて死後の世界……まあ、こっちでは冥界だのなんだの言われるところに連れて
行かれるのさ」
児玉「本当にあるんだ……」
金村「で、その後、現世への執着が消えたとき、新たな命として生まれ変わる」
児玉「執着?」
関 「要するに未練のことだよ。私みたいにどうしても生きたいって思ってると、なかなか生まれ変われないんだ」
金村「で、そのシステムの都合上、執着が強い死者が増えると困るんだよ」
児玉「何でですか?」
金村「冥界の人口が増えすぎて、窮屈になっちゃったんだよね」
- 13 -
児玉「え、そっちの世界も人口とかあるんですか!?」
関 「私も初耳……」
金村「あるさ、もちろん。で、それを減らすにはどうすれば良いと思う?」
児玉「早いこと、執着をなくさせれば良いんじゃないんですか?」
金村「ああ、それが良いさ。でも、人間の執着っていうのはそう簡単になくなるもんじゃない」
児 玉 「はあ」
金村 「だから、執着の強い人間をこちらの世界に入れなければ良いのさ。
」
関 「そ、そんなことどうやってやるの!?」
金村「ここで、最初の話に戻るわけさ」
関 「命の交換……?」
金村「そう、交換だ。どうだ?」
児玉「え……」
金村「こうすれば生きたい人間は生きられ、死にたい人間は楽に死ねる。冥界は人口問題が解決。全てがうまくいくだろう?」
関 「なるほどね」
児玉「確かにそうですけど、そんなことして良いんですか?人の命をそんな簡単に……」
金村「死にたいって言ってるやつに、命について説教されたくねえよ」
児玉「ご、ごめんなさい」
金村「どうだ、関?」
関 「私?私は児玉さんさえよければ、是非!」
児玉「もし、私が代わった場合……見た目は私で、中身は関さんになるってことですか?」
金村「そうだ。おまえが途中でやめた人生の残り部分を、この子が過ごすってことだな」
児玉「関さん、死にたいと思うぐらい辛い人生を生きるなんて、出来るんですか?」
関 「児玉さんが死にたくなったのって、生き甲斐がなかったからでしょ?私はちゃんと、生き返ってやりたい目標がある。
- 14 -
生き返れるなら、なんでもかまわないよ」
金村「だとよ。児玉……どうする?」
児玉「……良いですよ。関さんの方が、ちゃんとした人生を歩んでくれそうですし」
金村「交渉成立か、なら……イヤホンのもう片方を耳に挿しな。それで、俺がこのイヤホンの接続部を持てば、入れ替わる」
児玉「イヤホンって言っちゃうんですね」
金村「うるせえな。おまえらにわかりやすいように言っているんだよ」
児玉「……」
金村「ん?どうした?この世に未練、あるのか?」
児玉「……あ、ありません」
児玉、イヤホンを耳につける。
「かまわないよ!」
金村「いいな?もう一度聞く。やめるなら、今だぜ」
関
児玉「もう、後悔はありません!」
金村「よし、じゃあ行くからな。目を瞑っていろよ」
金村、接続部を持つ。照明、光る。
金村「よし、終わりだ」
児玉「……入れ替わってる!!」
児玉、イヤホンをとる。
児玉「実体がある!!」
金村「良かったじゃねえか」
児玉「身長も高くなってる!」
金村「良かったじゃねえか」
児玉「でも、なんか体が重い……」
- 15 -
金村「悪かったじゃねえか」
関 「重くて悪かったですね……」
金村「どうだい、死んだ感想は」
関 「あっさり行き過ぎて、なんか死んだって感じしないですね」
金村「ま、そんなもんだろ。じゃあ、関」
児玉「はい!」
金村「あ、お前じゃない方の関だ。ええっと……ネオ関!」
関 「はい ? 」
金村「おまえは、これから死後の世界へ行く。ついてこい」
関 「は、はい」
児玉「私は?」
金村「とにかく、家に帰れ。家の場所は、ここに書いてある」
児玉「わかったよ!」
金村「児玉……ネオ児玉、児玉についてのことは、明日の朝から知らせていくから。心配するな」
児玉「はいよ!」
金村「行くぞ、ネオ関」
関 「はい 」
金村、関、去る。
児玉「よぉぉぉし!!生き返ったぞぉぉぉぉぉ!!!!」
台詞とともに音響入る。照明が点滅する中、大道具が立ち上がり、踊りだす。
舞台転換終わり、音響FO。
二場・冥界
- 16 -
金村「ここが冥界だ。生まれ変わるまで、ここでゆっくり過ごしな」
関 「はい 」
冥王、出てくる。金村、しまう。
金村「生まれ変わるまで、ここでゆっくり過ごしな」
冥王、大道具から出てくる。
金村「冥王さん、何してんすか……」
冥王「オシャレくん、出るのを手伝ってくれないかい?」
金村「小洒落ですって……」
金村、冥王を出す。
冥王「……小洒落くん、その子は新入りかい?」
金村「は、はい……そうです」
冥王「どうした?」
「よ、よろしく、お願いします」
金村「いや、なんでもないですよ。この方はここの管理者だ。面倒見てもらってくれ」
関
冥王「じゃあ、まずは冥界について説明をしようかな。ここは……まあ小洒落君から聞いていると思うが、死んだ命が集ま
り、生まれ変わるまでの期間を過ごす場所だ」
関 「質問いいですか? 他の人達はどこにいるんですか?」
冥王「冥界では、他の死者を見ることはできない。
」
関 「へえーそういうシステムなんですかー」
パーくん、出 てくる。
関 「って、いるじゃないですか!人間!」
冥王「あ、あれはパーくんだよ」
関 「パーくん?」
- 17 -
冥王「冥界の非公式マスコットキャラクターだ。可愛いだろう?」
パーくん、可愛さアピール。
関 「別にそれほどでも……」
パーくん、沈む。
冥王「おい、パーくんは沈むと面倒なんだ!元気づけてやってくれ!!」
関 「か、可愛いよ?」
パーくん、泣きながら走り去る。
金村「パーくぅぅぅん!!!」
関 「なんでぇぇぇ!?」
冥王「パーくんは純粋なんだ。嘘をついたらすぐわかる!」
関 「ど、どうしよう……」
冥王「私に任せなさい……パーくん、嗚呼、君は美しい!君はまるで、太陽の下で力強く伸びる、元気いっぱいの向日葵の
ようだ!!さあ、僕の胸に飛び込んできてくれないか!?」
パーくん、照れながら出てくる。二人、抱擁。
金村「流石だぜ!!」
関 「チョロいじゃないですか」
冥王「何を言っているんだ。私の心からの賛辞が届いたんだよ。さあ、君も!」
関 「パ、パーくん、よろしくね」
関、手をさしのべる。はじかれる。
関 「なんでぇぇぇ!!」
冥王「それじゃ、何かあったらこの冥王コールを押してくれ」
関 「そんなナースコールみたいな……」
冥王「駆けつけるから!」
- 18 -
冥王、去る。
金村「……どうした?」
関 「私……死んだのか……」
金村「なんだ。やっと実感したのか?」
関 「はい……でも、死後の世界ってこんなところだったんですね。生きてるときは、あまり考えたりしなかったから」
金村「まあ、普通に生きてるやつは、死後の世界がどうとか真剣には考えないだろうな。考えたって無駄、所詮創造の世界
なんだから。そんなことより、明日の天気の方が気になるわな」
関 「明日の天気なんかどうでも良くなった私は、死んじゃったんですけどね」
金村「こっちでは、何も考えなくて良いんだ。ただ、心を無にして、穏やかにしていれば生まれ変われる」
関 「そうですよね。ここには、私を縛る家族も、気を使わないといけない周りの人もいないんだから……」
金村「それに、今までなかった目標もある。生まれ変わる、それがおまえの目標だ」
関 「が、頑 張ります!」
金村「おう、頑張れよ。そうだ、パーくん、前頼まれていたぬいぐるみだ」
パーくん、大はしゃぎ 。
金村「はは、相変わらず可愛いな~もう!」
金村、去る。
関 「よし、心を無にして……」
パーくん、大はしゃぎ 。
関 「もう 、 うるさいよ!」
パー「!!」
関 「せっかく、心を無にして生まれ変わろうとしているのに……」
パー「すいませんでした」
関 「わかればよろしい」
- 19 -
パーくん、大はしゃぎ 。
関 「わかってない!!」
岸本、入ってくる。
岸本「嘘……なんで人が……」
関 「だ、誰ですか!?」
岸本「こ、こっちが聞きたい。誰?」
関 「え、えっと……児玉……いや、関清美です」
岸本「ああそう。で、なに?パーくんの友達?ピーくん的な?」
関 「いや、死んでここに来たんですけど……」
岸本「え、普通に死者?」
関 「はい 」
岸本「おまえはもう……?」
関 「死んでいる……あべしっ!」
岸本「マジか!!死んでるのか~うわ、死んだ人と話したの初めてだわ~」
関 「あ、どうも」
岸本「冥界では、他の死者は見えないとか聞いたんだけどな。まあ、いいや。仲良くしようよ。あたしは岸本慧っていうん
だ」
関 「よろしくおねがいします」
岸本「まさか、死んでから死神以外と会話ができるとは思わなかったな。清美ちゃん、何歳?いつ死んだの?」
関 「あ、高校二年生で、死んだのはついこのまえです」
岸本「そういわれても、あたしにはわからないよ。こっちじゃどれぐらい過ぎたかがわからないんだ。年号で頼む」
関 「えぇっと……二〇一二年の九月二十五日です」
岸本「へえ、もうあれから六年もたつのか……」
- 20 -
関 「岸本さんは、二〇〇六年に?」
「結婚なさってたんですか?」
岸本「生きてたら、子供もいたかもしれないね…」
関
岸本「正確には違うかな。こう見えても、保育士だったんだ。それで、職場の先輩と付き合って、結婚を申し込まれて有頂
天な時にだよ。トラックに轢かれて、死んじゃったんだ」
岸本、回想。
岸本「本当にさ、運命って残酷だと思ったよ。お爺ちゃんは百歳超えて生きてるのに、私は二十年とちょっとで死んじゃう
なんてね。これからが幸せって時だったのに……」
関 「……」
岸本「ごめん、なんか重くなっちゃったね……清美ちゃんは、どうして死んじゃったの?」
関 「え……」
岸本「って、そんなこと聞くのも悪いか。まだ死んだばっかりの人に。まあ、気が向いたら話してよ」
関 「は、はい」
岸本「じゃ、こんなところだけど、これからよろしく。歳は離れてるけど、あんまり気は使わないでね?」
関 「はい 」
岸本「あ、それ冥王コールじゃん。懐かしいな~私、失くしちゃったんだよね。ちょっと触っていい?」
関 「え、はい。どうぞ」
岸本「ポチっとな」
関 「押しちゃうんですか!?」
岸本「こういうの見ると、押したくならない?」
関 「なりますけど……」
冥王「呼ばれて飛び出てジャジャジャーン……って、なんで二人いるんだ!?」
岸本「知らないよ。そっちのミスじゃないの?」
- 21 -
岸本、冥王コールを連打。
冥王「やめんか!!……しかし、これは大変だ……ちょっと待ってろ!」
パーくん、ぬいぐるみをアピール。
冥王「はいはい、可愛いよ」
冥王、去る。パーくん、沈む。
関 「なんだったんでしょう?」
岸本「さあね。それより、パーくん、元気づけてあげないと!沈むと面倒だから!」
関 「あ、はい!」
岸本「パーくん~お姉さんと一緒に、ジャンケンしようか?」
パーくん、テンションあがる。
関 「流石、元保育士……」
三人がじゃんけんをする中、大道具が動きだし、舞台転換。
三場・部室
島津「先生……それじゃあ、俺のこんにゃくは……」
米内「残念ながら、使い物にならん……」
島津「そんな、そんな!!じゃあ、俺のこんにゃく人生はどうなるんですか……?」
山坂「あきらめんな!!」
米内「お、おまえは!」
島津「先輩!!」
山坂「人間はな、誰だって心にこんにゃく、持ってんだよ」
島津「先輩!!」
山坂「さ、綺麗なこんにゃくの花……咲かせてやろうじゃねえか」
- 22 -
島津、手をたたく
島津「はいOK!台詞も動きも完璧だね」
山坂「良かった……」
島津「台詞覚えるの速くて助かったよ。一年で主役は大変かもしれないけど、頑張ってね」
山坂「は、はい……でも、本当に良いんですか?児玉先輩は……」
島津「仕方ないよ、親に止められちゃったんだから……」
山坂「島津先輩だって最後の大会、児玉先輩と一緒に出たかったんじゃないんですか?」
島津「それは出たいよ……でも、引き止めたら余計に児玉を悩ませるだけでしょ?」
山坂「そうですけど……」
島津「とにかく今は、児玉の分も大会目指してひたすら練習だよ。後、一週間なんだから」
米内「でも、部長がまた来てないっすよ……」
島津「あいつ……こんな大変な時に……」
副島「呼んだ?」
山坂「変態!!」
副島「どこかで僕を呼ぶ可愛い声がしてね。小鳥達のさえずりかと思ったら、君だったよ」
山坂「気持ち悪い……」
副島「それよりも山坂ちゃん。君、さっき僕のことを変態と言わなかったか!?」
山坂「すいません、いきなりだったんで」
副島「条件反射で変態とか言わないでくれよぉ。僕は変態じゃないからな、「変態!!」と罵られたい願望はあるが、変態
ではないからな!」
米内「変態じゃないっすか」
副島「あ、良いね。今の!米内ちゃん、もっと罵ってくれない?」
米内「変態!!」
- 23 -
副島「ごちそうさまです!」
島津「馬鹿なことやってないで練習してよ」
副島「し、島津ちゃん。ちょっと変態って罵ってくれないか?」
島津「嫌だけど?」
副島「その冷たい返しだけで僕はご飯三杯、いや三升、三俵はいけるよ!」
児玉、入ってくる。
児玉「こんにちはー」
島津「児玉!」
山坂「やっぱり、戻ってきてくれるんですか!?」
児玉「いや、今日はみんなにちゃんとお別れ言っておこうかなって思ってさ」
島津「え?」
児玉「ほら、部活やめること、島津に言ってもらったけど、やっぱり自分から言った方が良いでしょ?」
副島「え、まあ、そうだけど……」
児玉「というわけで、私、児玉優は勝手ながら受験勉強に専念するため、演劇部をやめます。今まで、色々とお世話になり
ました。大会は絶対に見に行きます!それでは!!」
島津「ちょ、ちょっと待ってよ!児玉、なんかいつもと違わない?」
児玉「この前、母親ともう一回話してさ……やっぱり、ちゃんと勉強しないとなーって思ったんだ。演劇なんかしてても、
将来の得にはならないし」
副島「え、演劇なんかって……」
米内「なんか、児玉先輩らしくないっすよ?」
児玉「うん、そうだろうね。私は変わったから。じゃあ、また大会でね」
児玉、去る。
副島「え、え……なんか、児玉ちゃん、おかしくない?」
- 24 -
米内「絶対におかしいっす。いつも大人しい児玉先輩が、あんなに元気で……」
島津「だいたい、あの子があんなにハッキリと何かを言うなんて……親に説得されて部活辞めたんだとしたら、もっといつ
もみたいにウジウジするはずなのに……」
副島「児玉ちゃん、演劇部が好きだったはずなのに……」
米内「児玉先輩、私たちのことなんて……」
島津「児玉には、児玉の考えがあるんでしょ……」
三人「……」
島津「ほら、みんな声小さい!!場面練習は一旦やめて、改めて発声練習するよ!!」
副島「ああ……」
四人「あ・え・い・う・え・お・あ・お」
四人「か・け・き・く・け・こ・か・こ」
四人「さ・せ・し・す・せ・そ・さ・そ」
照明変わる。大道具、立つ。
大道具「そ・の・こ・ろ・こ・だ・ま・は」
上手から児玉登場。下手から金村登場。
金村「おいおい、キャラ変わりすぎだろ。みんな、疑ってるぜ?」
児玉「ま、本当は違う人なんて誰にもわからないんだし、かまわないでしょ?」
金村「まあ、そうだけどよ。で、どうだ。一週間たってみて」
児玉「うん、なかなか快適。前の時はずっと病院で、学校に行くことさえできなかったからさ。普通に暮らせるだけで十分
かな」
金村「成績の方は大丈夫か?児玉、かなり頭良かったみたいだが……」
児玉「私、学校には行ってなかったけど、その分、ありあまった時間を使って自習してたから、結構頭良いんだよ?児玉さ
んと同じ理系だし」
- 25 -
金村「じゃ、あの教育ママとの間にも問題は無いわけだ」
児玉「うん、児玉さんは将来の目標がなかったみたいだけど、私には医者になるっていう目標があるからね。お母さんも応
援してくれてるよ」
金村「医者になりたいのか……やっぱり、小さい頃から世話になっているからか?」
児玉「まあね、それに、約束もあるし……」
金村「約束?」
児玉「うん、私が中学生の時に、同じ病院に入院してきた子がいたんだけど……」
回想。関と望月。
望月「ここ……屋上?」
関 「そ、ここは私の一番のお気に入りスポットなんだ。このベンチに座って、風に当たってると気持ち良いんだ」
「ほら、怜ちゃんも、座ってみなよ」
望月「へぇ」
関
「そうだ、今日の夕飯は味噌田楽だってさ。楽しみだなぁ」
望月「うん」
関
望月「……ねえ、清美ちゃんは、ずっとこの病院にいるの?」
関 「ずっとってわけじゃないかな……たまに良くなって、家に帰れる時もあるし。まあ、それでも普通の人と同じように
は過ごせないんだけどさ」
望月「私は、今まで普通に過ごしてきて、病気なんかになるとは思ってなかったからさ、怖いんだよ……」
関 「怜ちゃん……」
望月「今まではそんなこと考えなかったのに、こういう状況になると、死ぬってことを強く実感しちゃって……怖いんだ」
関 「死ぬことなんて考えたら駄目だよ!」
「私たちの病気は難病だけど……病気じゃない人だって、いつ死ぬかはわからないんだから。そんなこと考えないで、
望月「え?」
関
- 26 -
生きることを考えよう!将来のことを!」
望月「将来……」
関 「そうだ!将来、どっちかの病気が治ったらさ、勉強して勉強して、たくさん勉強して、医者になって、もう片方の病
気を治すっていうのはどう?」
望月「え?」
関 「こういう約束をしておけば、生きる希望も湧いてこない?」
望月「そうだね……私、絶対に先に病気治して、清美ちゃんを治してあげるから!」
関 「いや、先に治るのは私だよ!怜ちゃんの病気、すぐに治しちゃうからね!」
回想終わり。
金村「良い話じゃねえか……だが、おまえはもう関じゃないんだ。その子の病気を治しても、その子には関だってわからな
いんだぜ?」
児玉「良いんだよ、約束を果たせれば。その約束を果たせないで死んじゃったことだけが、心残りだったんだから……私は
絶対、医者になる」
金村「そりゃ良いな。ま、ちゃんと生きられてるみたいで安心したよ。良いな、あくまでおまえは児玉優だということを忘
れるなよ?」
児玉「はいよ!」
金村「それじゃ……何か問題おこさない限り、もう俺がお前の前に出てくることは無いと思うぜ。じゃあな」
児玉「ふぅ……さて、家に帰って勉強でもしますか!」
児玉、歩き出す。父とすれ違う。
児玉「!!」
父親、去る。
児玉「今のって……」
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四場・関家
児玉「やっぱり……お父さんだ……」
父 「ただ い ま」
母 「お帰り」
父 「今日、外に出ていたからいつもと違う帰り道で来たんだが、学校の前を通りかかった時、女子高生に変な目で見られ
たんだよ。俺、不審者に思われたのかな?」
母 「……」
父 「こ、困っちゃうよな。やっぱり、この眼鏡のせいかな?若い子にモテるって後輩からすすめられてつけたんだが……」
母 「……」
父 「お、この臭い……今夜はサンマか」
母 「うん。ちょっと……ひとり分多く、作りすぎちゃったけど」
父 「またか……」
母 「ごめんね」
父 「……清美のことが忘れられないのはわかる。だが……」
母 「何がわかるの……」
父 「おまえはひきずりすぎだよ。もう、三ケ月もたつんだぞ?」
母 「三ケ月しかたってないんじゃない……それぐらいで、心の整理はつかないわよ」
父 「だけどな、いつまでもあいつのことばかり考えていても……」
母 「忘れようと思っていても忘れることはできないのよ…」
父 「分かるけど、でも……」
母 「じゃあ、あなたはあの子が死んで悲しくないの!?」
父 「もちろん、悲しいさ、だけど……」
母 「嘘つかないでよ!!悲しいなら、なんで、清美がいなくなる前と変わらずに暮らせるのよ!」
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父 「それは、仕事はしないわけにはいかないし……おまえのためでもあるんだよ」
母 「私のため!?私のことを思ってるなら……一緒に悲しんでよ!!」
父 「悲しいよ、俺だって大切な娘が死んで……」
母 「悲しんでない!!全然、悲しんでない!!」
父 「おまえみたいに、毎日泣いていたところで、あいつは帰ってくる訳じゃないし……それに、あいつは死んだけど、ま
だ俺たちの心の中に生きているんだ」
母 「もう嫌だ!!あの子が可哀そうよ!!あなたは、あの子のことなんてどうでもよかったんでしょ!?」
父 「それは言い過ぎだろう……流石に怒るぞ!」
母 「私の気持ちなんかあなたには分かりっこない! ……もう何も聞きたくない!!」
母、走り出す。
児玉「ま、待って!お母さん!」
父 「誰だ!?」
児玉「お母さん……」
母 「清美……?」
児玉「お父さん、お母さん。死んじゃってごめん。私、この子の命を貰って、生き返ってきたんだよ……」
両親「……」
児玉「だからさ、ケンカなんてしないでよ。ね?」
父 「……ふざけるな」
児玉「え?」
父 「ふざけるな!どこの誰だか知らないが、娘を馬鹿にするな!!悪戯にしては悪質すぎるぞ!出ていけ!今すぐ出てい
け!!」
児玉「し、信じてもらえないだろうけど、本当にそうなんだよ?ほら、私しか知らないことを話そうか?お父さんの誕生日
に……」
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父 「黙れ!すぐに出ていけと言っているんだ!!」
児玉「お母さ……」
母 「どちら様か知りませんけど、冗談でも言って良いことと悪いことがあります。これ以上言うようなら、警察を呼びま
すよ」
児玉「お母さ……」
母 「その呼び方はやめてください。私をそう呼んでいいのは、世界で一人だけなんです」
児玉「すみません……」
父 「二度と来るな!!!」
母、泣き出す。
父 「クソ、なんだ……俺たちを馬鹿にしやがって……」
児玉、歩きだす。
児玉「見るんじゃなかった……」
児玉、去る。
五場・冥界
岸本「冥界ジョークみたいの考えたくない?」
関 「なんか絶対にブラックになりそうなんですけど……」
岸本「じゃあ、冥界漫才とかは?あ、パーくんとか出来そうじゃない?パーくん、パーくん、ちょっと来て!」
パーくん、来る。
岸本「どうもどうも~」
パー「パーくんです」
岸本「なんでやねん!!」
パー「痛ぇぇ!!」
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パーくん、倒れる。
関 「パーくん!!!……なんか、テンションおかしくないですか?」
岸本「いや、ここって睡眠もなければ食事もないじゃん。なんか、そういう区切りがないと、人って変なテンションになる
気がするんだよ。というか、現になってる」
関 「はは 」
「冥界ジョーク!?」
岸本「今までろくに人と話せなかったから、退屈で死ぬかと思ってたんだよ。あ、私もう死んでるんだけどさ」
関
岸本「いや本当、地獄に仏ってまさにこのことだね!」
関 「なんか違う気が……」
金村、出てくる。
金村「地獄とはなんだ……」
関 「うわ!」
金村「別におまえらに悪いようにはしてないだろう?」
岸本「死神……もう来ないでって言ったはずだけど?」
金村「俺だって来たくて来たわけじゃねえよ。今回は異常事態だからな」
関 「異常事態?」
金村「だから、おまえら二人が一緒にいるっていうのが異常なんだよ。冥界で二人の人間があっちまうってのは普通はない
ことなんだ」
関 「なんでこんなことに?」
金村「前に説明しただろう?人口が増えすぎているんだよ……」
関 「あ……」
金村「さあ、早く執着をなくしてくれよ。他の奴がいると生まれ変われねえだろう?」
岸本「そんなの、そっちの都合じゃないか!清美だって、死にたくて死んだわけじゃないんだから、未練なくせなんて言わ
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なくたって……」
金村「六年たっても未練が消えないお前と違ってな、こいつは未練なんて最初からほとんどないはずなんだよ」
岸本「は?」
関 「あ……」
金村「こいつは、自ら望んで死を選んだんだから」
岸本「え……」
関 「そ、その……」
「……」
岸本「あんた、自殺したの?」
関
岸本「あたしはどんなに生きたくても死んだのに、あんたは生きられるのに何で……」
関 「だって、唯一の友達には自分をわかってもらえなくて、ママには居場所を奪われて、あたしの人生に生きる意味なん
て無かったから…」
岸本「周りの人には自分の気持ちを伝えたの?生きる意味なんて自分で作るものでしょ?」
関 「そんなの無理ですよ……良いじゃないですか、人間に死ぬ権利だってあると思いますよ」
岸本「そんなの開き直りだよ!何があろうと、命を自分から捨てるなんて……生きたくても生きられない人だってたくさん
いるっていうのに……」
関 「だから、私が死んだことと岸本さんの事故は関係ないじゃないですか。岸本さん、自分勝手ですよ」
岸本「自分勝手はあんたでしょ!甘ったれんじゃないわよ!」
金村「あぁ~やめろやめろ」
岸本「死神!!あんたはあの子が身勝手だって思わない!?」
金村「いや、別に。死にたい奴は好きに死んで、生きたい奴は好きに生きれば良いさ」
岸本「好きに死んで生きる?」
金村「だが、生きたいと思っても生きられない奴がいる。そこが難しいところだな」
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岸本「私だって……私だって、生きたかったのに!」
金村「おまえの生きたいって気持ちはよくわかるさ。だから、早いところ生まれ変わっちまえば……」
岸本「生まれ変わったら、もう私じゃない!あたしは、岸本慧としてもっと生きたかったんだよ!」
金村「じゃあ、生きてる奴と入れ替わって、そいつとして生きるってのはどうだ?」
岸本「はぁ?そんなの、周りには自分だってわかってもらえないじゃん。
」
金村「おまえは、関とは違うな……」
岸本「え?」
金村「さ、空きが出来たみたいだからそっちに行け」
岸本、パーくんに連れられて去る。
関 「……」
金村「おまえ、まさかあいつを見て、罪悪感わいてきたんじゃねえだろうな……」
関 「……」
金村「あちゃーまったく、執着がなかなかなくならなくて、今度は他の奴に影響されて……本当に、はっきりしねえな。お
まえは」
関 「だって、岸本さんに言われて、本当に死んじゃって良かったのかなって思って」
金村「自分で言ってたじゃねえか。生きていても辛くてしかたないから、死を選んだんだろう?ちゃんと自分で決めたんだ。
良いじゃねえか」
関 「そうですけど……」
金村「関は、ちゃんとおまえの人生を楽しんでいる。母親とも仲良くしてるし、積極的に友達もつくっている」
関 「そうなんですか……」
金村「ほら、早く執着消しちまえば、おまえの人生は本当に終わるんだ。楽になれるんだよ。無駄なことを考えるな」
関 「分かってますよ、でも、考えるなって言われても考えちゃうんですよ。なんで死んだのかとか、後悔とか……」
金村「本当に覚悟がすぐ揺らぐ奴だな。おまえが色々考えてどうするんだよ。おまえはもう死んだ」
- 33 -
関 「……関さんには申し訳ないんですけど、元に戻してもらえませんか!?」
金村「はぁ?何言ってんだ?」
関 「岸本さんに言われてわかりました。私は自分で生きようとしなかった。だから失敗したんです。次こそ、ちゃんと生
きますから!!」
金村「おまえには無理だよ。何度やりなおしたって……馬鹿は死んでも治らねえ」
関 「そんな……」
金村「関の方が人生楽しんでいるんだ。人を救ったと思って諦めろ」
関「そんな……!待って、諦めるなんて出来ない!!」
六場・部室
副島「大会、お疲れ様!!」
三人「いえー!!」
副島「賞をとることはできなかったけど、僕らはしっかりやりきったと思う!次の劇では、さらに良い演技を出来るように、
頑張ろう!!」
三人「おー!」
副島「まあ、今日は大会翌日だし、練習も休みにして、はしゃぎまくろうじゃないか!」
三人「おー!」
児玉、入ってくる。
島津「児玉……」
児玉「みんな、お疲れ様。劇、すごい面白かったよ……」
米内「あざっす!!」
山坂「できれば、先輩と一緒にやりたかったですけどね」
児玉「ごめんね。途中でやめちゃって」
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副島「まあ、良いさ。せっかくだし、児玉ちゃんも一緒にはしゃぎまくるかい?」
児玉「……やっぱり、児玉なんだよね……私」
四人「えっ……?」
児玉、去ろうとする。
島津「待ってよ!!児玉!」
児玉「なに?」
島津「やっぱり、あのとき部活辞めるのを止めなかったこと、怒ってるの?」
児玉「あの時?」
島津「そうだったら謝る。でも、児玉には部活を辞めても友達でいて欲しい。児玉は児玉でいて欲しい!」
児玉「そんなこと、どうでもいいんだよ」
島津「じゃあ、どうしてそんなに変わっちゃったの?」
児玉「私が、児玉じゃないからだよ……」
島津「え? 」
山坂「先輩?」
児玉「……私は児玉じゃないんだよ!!」
島津「何、訳の分からないこと言ってんの?」
児玉「お父さんも、お母さんも、誰もわかってくれない……私は生き返ったのに……」
副島「お、おい。どうしたんだ、児玉ちゃん?」
児玉「部長、私が前までと違うって思っているでしょう!?……それは、もう児玉じゃないからなんだよ!?」
副島「な、何を言っているんだい?前までと変わったところで、児玉ちゃんは児玉ちゃんだよ」
児玉「違う!私は関清美!!児玉さんの命を貰って、生き返ってきたの……」
米内「命を貰うって……何言ってるんっすか?大丈夫っすか?先輩……」
副島「えぇっと……つまり、君は児玉ちゃんじゃなくて死んだ誰かで、児玉ちゃんの命を貰って生き返ったということか
- 35 -
な?」
山坂「そんな無茶苦茶な……」
児玉「そう、そうなんだよ!!」
副島「うーん……人が生き返るなんて、無理でしょ」
児玉「無理じゃないよ!!現に私が……」
副島「そんなこと言われても信じられないよ。それに、他人の命を貰って生き返るってどうかな。命を貰うって、つまりは
その人を殺したってことでしょう?」
児玉「私が、児玉さんを殺した……?」
副島「そういうのは、冗談でも言ったらダメだと思うな」
島津「児玉、落ち着いて?きっと、勉強のし過ぎで疲れてるんだよ……」
児玉「児玉じゃないってば!!私は、私は……関清美なんだってば!!」
島津、児玉を叩く。
島津「あんたは児玉優……私の幼馴染で、一番の親友。そうでしょ?冗談だとしても、児玉じゃないとか言わないでよ」
児玉、去る。
副島「児玉ちゃん!!」
七場・屋上
児玉「やっぱりここにいた……」
望月「誰……?」
児玉「怜ちゃん……私だよ?」
望月「清美ちゃん?」
児玉「そう、関清美だよ。久しぶりだね……怜ちゃんならわかってくれると思ってたよ」
望月「死んだはずの清美ちゃんが……やっぱり、私ももう死ぬんだね?」
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児玉「ち、違うよ?私は生き返って……」
望月「私はもう死ぬんだって。さっき、死神さんが来たんだ」
児玉「え……?」
望月「死んじゃうけど、もう未練は無いよ?私は最後まで、生きることを頑張って、全力で楽しんだ。悔いなんてないよ」
児玉「未練がないなんてあるわけ……」
望月「病気になった時は絶望しかなかったけど、清美ちゃんのおかげで、精一杯、楽しく生きようと思えたんだ」
児玉「駄目だよ……死んだら、全部終わっちゃうんだよ?」
望月「全部は終わらないよ。私が生きてたっていう事実は無くならないんだから。私の人生の意味は消えないんだから」
児玉「そ、そんなの……」
望月「私は、清美ちゃんが死んじゃった後の三ヶ月……清美ちゃんが待ってるって思ったら怖くなかった。たくさんの人に
ありがとうも言えた」
児玉「怜ちゃん……」
望月「人の命って、絶対にその人のもので、絶対に一つしかないものでしょ?だからこそ、誰かに愛されていて、尊いもの
なんだと思うな」
児玉「一つしかない……」
望月「死ぬ前に、清美ちゃんと話せて良かったよ。また、向うで会おうね」
望月、去る。
児玉「向うでは……会えないんだよ……」
金村「児玉……怜ちゃんって、望月怜のことだったのか」
児玉「なんで……なんで、怜ちゃんを死なせるの!?私がせっかく生き返って、病気を治してあげようと思ってたのに!!」
金村「そんなこと言ったって、これがこいつの宿命だよ。俺が死なせるわけじゃない、これは仕事なんだ」
児玉「金村さん……私、なんのために生き返ったんだろうね?……周りの人は、私を児玉としてしか見てくれなくて、関は、
私は死んだことになっていて……」
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金村「そんなの、交換する前からわかっていたはずだろう?児玉として生きるしかないってことぐらい」
児玉「でも、私には無理だったんだよ……他の人としていきるなんて。どうしたって、自分の人生を諦めることなんてでき
ないよ」
金村「それをやってもらわないと困るんだよ。望月は死んじまうが、医者になって、今度は自分たちみたいな子供を救えば
良いじゃないか」
児玉「無理ですよ……怜ちゃんの言った通り、命は一つだけ。この命は児玉さんのもの、私が使って良いものじゃなかった」
金村「じゃあ、どうするんだよ?」
児玉「もう、生きたくない……」
金村「はぁ!?」
児玉「金村さん、私は……児玉さんとして生きるなんてできない。誰にも、関清美だってわかってもらえなくて……こんな
の幸せじゃない」
金村「幸せ?何言ってんだ。命なんて、誰だって同じだろ?人間の人生、そんな大差あるもんじゃねえよ。もう少し生きて
れば、幸せになるって……」
児玉「あなたに、人の心は分かりませんよ……」
金村「わからない……?」
児玉「さよなら……死神さん」
暗転
終
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