概 要

概 要
WHO 健康開発総合研究センター(WHO 神戸センター・WKC)
テクニカルレポート
高齢者のための医療・福祉機器のニーズに関する調査
WHO 西太平洋地域の 6 カ国対象:
中国、日本、マレーシア、フィリピン、韓国、ベトナム(WHO 2014 年)
概 要
背 景
世界人口の高齢化は急速に進んでおり、この現象はとりわけアジア地域において顕著である。
こういった現状を受けて、高齢者ができるだけ長く健康を維持し、活動的かつ生産的で自立
した状態が保てるように支援することは、世界保健機関(WHO)の優先課題のひとつとな
っている。
医療技術におけるイノベーションと、関連する保健・福祉・社会制度は、ますます多くの高
齢者が直面しつつある身体機能および認知機能の低下を抑えてコントロール可能とするため
に、また介護施設への長期療養を減らすために、非常に重要である。このためには、「安全
で有効かつ品質の高い医薬品および保健医療技術を、一層また適切に利用できるようにする」
(2014~2015 年の WHO プログラム「カテゴリー4: 保健医療制度」のアウトカム)という
目標に沿って、良質な(安全かつ有効な)福祉機器(AD)と医療機器(MD)を、これま
で以上に、誰もが利用可能でアクセスしやすく、受け入れが容易で応用しやすく、また、安
価で入手できるように改善すべきである。重要となる最初のステップは、実地研究により、
高齢者のニーズや現状を評価することである。その実地研究では、基準となる状態を国のレ
ベルで定めるとともに、さまざまな技術や手法における格差を確実に把握することを目指し
ている。
本調査研究は、先に WHO の委託事業として実施された高齢者のための MD および AD に関
するシステマティックレビュー、ならびに、同研究テーマについて 2013 年に WHO 健康開
発総合研究センター(WHO 神戸センター・WKC) が運営開催した、「アジア地域におけ
る高齢者向け技術的イノベーション促進のための専門者会議」および「グローバルフォーラ
ム: 高齢者のためのイノベーション」を礎として構築された。
目 的
WHO は、日本の厚生労働省からの支援を得て、委託により、WHO 西太平洋地域の 6 カ国
(中国、マレーシア、日本、フィリピン、韓国、ベトナム)における AD および MD に対す
る高齢者のニーズを評価するための調査ツールを開発した。調査の 3 つの目的は以下のとお
り。
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
調査対象 6 カ国における高齢者(60 歳以上)が利用できるようにすべき優先度の高い
AD および MD を抽出する

AD および MD の利用可否に影響しうる要因を把握する

特に低・中所得国において、良質な AD および MD を手頃な価格で入手できるようにす
るための、実現可能な方策を抽出する
本調査は、2012~2013 年に WHO の委託により実施された先行する 2 つのシステマティック
レビュー(調査を含む)を基盤としたものである。2 つのシステマティックレビューとは、
(1)高齢者のための医療機器のニーズ 1 に関するシステマティックレビューと、(2)
WHO 西太平洋地域の 8 カ国(オーストラリア、中国、フィジー、日本、マレーシア、フィ
リピン、韓国、ベトナム)における、高齢者のための福祉機器のニーズと利用可能性とコス
ト2 に関するレビュー、である。なお、本調査は上記のうちの 6 カ国(オーストラリアとフ
ィジーを除く)にて実施された。
方 法
調査の方法として、オンライン調査ツールを開発した。この調査ツールは、全般的な人口統
計に関する設問、AD に関する設問、MD に関する設問、という 3 つのパートから構成され
る。回答者は、全般的な人口統計に関する設問に回答した後、AD に関する設問のみに回答
するか、MD に関する設問のみか、または AD と MD の両方の設問に回答するかを選択でき
る。AD に関する設問は、身体機能および認知機能のニーズに関する 12 のカテゴリーから
なる統合グループに対応するよう分類されている(国際生活機能分類(ICF)におけるさら
に長いリストと ISO9999 を元に作成した)。MD に関する設問は、さまざまな主要疾患(例
えば、循環器疾患、悪性腫瘍、感覚器疾患、呼吸器疾患など)および、診断、治療、疾病管
理のための基本的な医療機器に対応付けて分類されている。
調査ツールの AD と MD の設問は、回答者の状況(国、居住地、労働環境)に応じた回答を
得られるようにしており、大まかには以下のような構成になっている。

高齢者のための優先度の特に高い機器(作成されたリストに基づく)に対して、利用可
否と必要性の優先順位を回答

機器の利用可能に影響しうる要因と、利用不可に影響しうる要因の、それぞれに対する
ランク付け

回答者の生活環境にある優先度の高い機器へのアクセスを改善しうる方策に対するラン
ク付け
調査全体にわたって自由記入欄を設定しているが、調査の最後には、必要であるにも関わら
ず回答者の環境では購入できなかったり利用しづらかったりするような福祉・医療機器につ
いて自由に書ける記入欄を設けた。
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高齢者のための医療機器のニーズに関するシステマティックレビュー(WHO、未発表)。
WHO 西太平洋地域の 8 カ国(オーストラリア、中国、フィジー、日本、マレーシア、フィリピン、
韓国、ベトナム)における、高齢者のための補助機器のニーズと利用可能性とコスト(WHO、未発
表)。
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結 果
調査では、優先度の高い AD と MD について、そして幅広い AD および MD の利用可能性に
ついて、6 カ国に住む調査回答者のサンプル数は小規模(N=100)ながら、全体的な基本情
報を得ることに成功した。調査回答者の国別の内訳は、中所得国 4 カ国:中国(19)、マレ
ーシア(7)、フィリピン(26)、ベトナム(3)と、高所得国 2 カ国:日本(21)、韓国
(24)であった。AD や MD の利用可否に影響しうる要因についての認識や、現状を改善し
うる方策に関して、有益な情報が得られた。
福祉機器に関して:最も優先度が高いのは、4 つの主要な身体機能活動を支援するための機
器であった。4 つの身体機能活動とは、(1)できるだけ自力での飲食が可能になること、
(2)ベッドや椅子へ、またはベッドや椅子から移動できること、(3)身体を清潔かつ衛生
的に保てること、(4)聞くことができコミュニケーションがとれること、であった。回答
者は、それぞれの身体機能活動のための福祉機器の例をリストアップした(例えば、特殊な
カップ、特殊加工の食器、食事の供給器、専用のナイフ、コンロの安全装置、「できるだけ
自力での飲食できる」ための電子レンジ)。この調査により、調査対象 6 カ国のいずれでも、
AD への期待という面では非常によく一致していることが明らかとなった。ただし、この結
果は、回答者が AD や高齢者と関連した仕事に従事する専門家だったことが影響している可
能性がある。この調査により、さまざまな活動を支援する AD について、かなり一貫性のあ
る優先順位リストが作成された。
医療機器に関して: 回答者は、「診療所や、公立病院、民間病院について『利用可能であ
るべき』『現時点で利用できる』」といった判定基準を用いて、それぞれの主要疾病ごとに、
特定の優先度の高い機器に対する現状の利用可否について回答した。例えば、循環器疾患に
対する医療機器としては、心電図、ホルター心電計、体外式除細動器、植込型除細動器、植
込型ペースメーカー、冠動脈ステント、バルーンポンプ、などがある。
確実に必要なサービスを受けられるようになり AD の提供に向けた支援がなされるかどう
かは、たとえ高所得国であっても、(利用可能になるとしても)居住地によって大きく左右
されることが分かった。義肢のような、身体機能のための AD についてはかなり入手しやす
かった。しかし、中国やベトナムに住む回答者によると、AD の支援がほとんどあるいは全
く受けられない状況があり、特に家庭で使用される機器や認知機能のための機器についてそ
の傾向が顕著であった。AD の利用可否に影響しうる主な要因については、どの国でも一致
していた。「適切な高齢化」の成功のためには、安価な AD を高齢者の(あるいは高齢者の
家族の)周辺で利用可能にすることが不可欠であると、回答者は認識していた。さらに、
AD の提供(サービスの提供や支援に必要なものを含めて)を他の保健サービスやコミュニ
ティサービスに組み込むことの重要性について、回答者たちは同意した。WHO 西太平洋地
域の 6 カ国全体における AD の調達と低コストでの供給を促進する上で、各国政府が重要な
役割を担うもとのみなされていることが分かった。
中所得国の民間病院で「現時点で利用できる」との回答の割合は、高所得国と比較して、全
般的に高かった。例えば、悪性腫瘍の管理に使用される MD は、公立病院では必要性が低
い、または、利用できないと考察される。感覚器疾患で使用される MD がコミュニティや
保健センターでも必要かと想定されたが、ほとんどの技術について、中所得国からより多く
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の回答が得られた。調査回答者によると、あらゆる環境において基本的な MD を利用する
ことが可能であることが分かったが、ほとんどの機器について高所得国からより多くの回答
が得られた。MD のいくつかのカテゴリー(例えば、基本的な診断装置や高度な診断装置、
画像診断装置、手術や集中治療のための機器など)については、利用可能の割合が高かった
ものの、さらに必要であるとの回答もあり、公立病院でその傾向が顕著だった。MD につい
て「現時点で利用できる」の比率に影響していた最も重要な要因とは、現在のサービスが妥
当であるか、保健医療従事者にとって受け入れやすいものであるか、低コストか、国の医療
機器マーケットで入手可能であるか、であった。
アクセスの改善:良質な AD と MD へのアクセスを改善するために最も高く評価された方法
とは、(1)入手可能な AD および MD のコストを下げること、(2)政治と政策の改善、で
ある。この調査に参加した全てのセクターが最優先課題として明確に示したのは、高齢者が
AD を入手するための政府支援であり、僅差でそれに続いてあげられたのが、コミュニティ
の啓発活動や訓練を増加させることであった。
総括すると、この調査および結果は、WHO による初めての集中的な取り組みにより、WHO
西太平洋地域の 6 カ国における限られた数の関係機関の AD と MD に関する回答を統合的に
まとめたものである。調査ツールは効果的であり、結果を導くために必要となる精密さと柔
軟性のバランスがとれていた。高齢者のための優先度の高い福祉機器と医療機器を抽出し、
利用可能性に影響しうる要因を把握し、良質な福祉機器と医療機器を手頃な価格で入手でき
るようにするための実現可能な方策を抽出することができた。後述のとおり、今後さらに、
高齢者の意見をより多く集め、調査範囲を拡大するなどの取り組みが必要である。よって、
関係各国や全世界において確実に「安全で有効かつ品質の高い医薬品および保健医療技術
を、一層また適切に利用できるようにする」ためには、さらに進んだ調査と取り組みが有効
かつ必要とされている。
今後の取り組み
本事業におけるオンライン調査ツールの開発は、高齢者のための福祉機器(AD)および医
療機器(MD)へのニーズに関するエビデンスを収集するための予備段階と考えられる。今
後、他の調査手法と組み合わせて、調査ツールをさらに精緻なものにすることが、エビデン
スの収集を進めるために必要である。さらに、収集されたエビデンスは、高齢者が利用しや
すい低コストで適切な福祉・医療機器に、誰もがアクセスしやすくするための活動(具体的
には、WHO とパートナー機関による現在および将来的なイニシアチブなど)にとっての情
報源となる。こういった追加情報を得るために最も望ましいアプローチは、さまざまな方法
を用いての調査と考えられる。例えば、特定の回答者や技術にターゲットを絞った調査、関
係各国の AD および MD の専門家や利用者との直接の議論、調査ツールや関連するツールを
各地域の言語に翻訳する、この調査(または類似の方法での調査)をより広範囲に及ぶ国々
で実施する、などが挙げられる。また、回答者がランク付けした身体機能の重要性のリスト
について、その妥当性を検証する必要があるが、そのためには、できれば各地域の言語に翻
訳した同じ内容の設問を用意して、高齢者自身に回答してもらう必要がある。さらには、調
査回答者を増加させる取り組みが不可欠である。
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謝 辞
この概要は WHO 神戸センター(WKC)により作成された。この概要は、本調査の計画と
実施を(日本の厚生労働省が提供した資金を通して WHO からの財政支援を受けて)行った、
Motivation Australia および Royal Australasian College of Surgeons が提出した WHO 委託研究の
最終報告書に基づいている。
さらに詳しい情報:
以下の WHO のウェブサイトをご覧ください。
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WHO 健康開発総合研究センター(WHO 神戸センター): http://www.who.int/kobe_centre/
WHO 本部 医療機器(英語): http://www.who.int/medical_devices/en/
WHO 本部 補助機器(英語): http://www.who.int/disabilities/technology/en/
WHO 本部 高齢化とライフコース(英語): http://www.who.int/ageing/en/
WHO 西太平洋地域(英語): http://www.wpro.who.int/en/
WHO 健康開発総合研究センター ( WHO 神戸センター ・WKC )
〒651-0073
神戸市中央区脇浜海岸通 1-5-1
I.H.D. センタービル 9 階
電話: (078) 230-3100
FAX: (078) 230-3178
電子メール: [email protected]
URL: http://www.who.int/kobe_centre/
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