表面テクスチャを用いた流動制御による省エネルギー化技術の開発(PDF

研究成果報告書
研
究
題
目
表面テクスチャを用いた流動制御による省エネル
ギー化技術の開発
所属
広島工業大学・工学部・機械システム工学科
氏名
福 島
実 施 年 度
H22-H23 年度
代表研究者
千 晴
印
1.研究の目的・背景
流れを自在に操縦すること(流れの制御)は,人類の永遠の夢であり,工学上では,は
く離の防止,揚力の増加,流動抵抗低減等の課題を克服する省エネルギー化技術の開発が
望まれている.これは近年,地球環境問題と直接絡む喫緊の課題でもある.
流れの制御法には種々の能動的・受動的手法が試みられてきた.一方,材料表面の微細
構造(サブミクロン・ナノスケールの表面テクスチャ)が持つ新機能は,機械,電気電子,
化学工学,生命科学の諸分野において重要性が高まっている.
この微細表面構造がつくる新機能,特に(a)表面テクスチャの撥水・親水性機能に注目
して,微細表面を(b)低環境負荷が期待できる高速水噴流を用いて加工・作製し,(c)流動
抵抗低減による省エネルギー化技術の開発を目指す点に,本研究の特色がある.
本研究では,ウォータージェット(以下WJ)加工技術により,サブミクロン・ナノス
ケールの微小突起を持ち,撥水性・親水性が異なる表面テクスチャを作製し,この表面機
能を流動抵抗低減に利用することで省エネルギー化技術を開発することを目的とする.
この目的を達成するために,以下の3点に着目し研究を進める.
(1)WJの特性と加工表面の特性関係の明確化(平成22・23年度)
:WJ特性(ノズル,
噴射条件)および流動構造と微細加工表面との特性関係を比較調査し,両条件の最適
な特性を抽出する.これによりWJ利用の基礎的微細加工技術を確立する.
(2)電気化学的手法によるせん断応力の計測と評価(平成22・23年)
:微細加工された
表面上の流動構造の変化を,せん断応力による摩擦抵抗の変化として捉え,電気化学
的手法により測定し,表面テクスチャの機能性の比較評価を行う.
(3)最適ノズル形状の設計(平成23年度以降):ノズル試験装置を改良し,低周波振動を
付与した脈動噴流により,加工精度の向上とサブミクロンスケールのパターン加工技
術の開発を試みる.
2.研究成果及び考察(申請時の計画に対する達成度合を織込む)
(1)WJの特性と加工表面の特性関係の明確化
水のみを使用するファンジェットノズルおよび円形ノズルを用いて,①スタンドオフ
距離(ノズル出口と加工面までの距離),②噴射圧力,③ノズルの送り速度を系統的に変
化させながら,ウォータージェット(WJ)による各種板材の表面加工を行った.加工し
た表面形状についてはレーザー顕微鏡を用いて評価を行った.その結果,各種板材に依
らず,数 10~数 100m 程度の微小突起(表面テクスチャ)が作成できること,またWJ
噴射のオーバーラップ幅を変えることで,種々のパターン形状が作成できることが明ら
かとなった.しかしながら,WJの噴流特性と送り速度に起因して生じる加工痕(自然
発生的に生じるパターン)の十分な解明には至っておらず,また,その表面状態は従来
の粗さの定義では不十分であることが明らかとなった.今後は,粗さ解析に従来とは異
なる考え方(例えばフラクタル次元など)を導入して検討を進めていきたい.
(2)電気化学的手法によるせん断応力の計測と評価
上記(1)で作成した表面テクスチャを供試
0.3
形ダクト流路
(全長 3.5m, 内径 30×30mm, 試
0.28
験部 0.5m)を作成し,基本特性を確認した.
また,購入したマルチポテンショスタットモジュールを,既
存のポテンショスタット/ガルバノスタット本体と組み合わ
せることで,複数点の同時計測が可能となる
評価システムが確立できた.
Wall shear stress [Pa]
表面(ダクト壁の一面)とする,評価用正方
0.24
0.22
0.2
電気化学的手法によるせん断応力の多点
0.18
計測においては,限界電流を精度良く計測す
0.16
ることが重要であるため,限界電流の計測に
影響する各種要因(電極材料,寸法,表面形
differential pressure
flowrate
electrochemical
0.26
from theory
1400
1600
1800
2000
Re
図 1 各手法から得られた壁面せん断応力
状,サンプリング周期・時間,溶液の温度管理と濃度測定)の検討を行った.その結果,
従来の手法(時間平均せん断応力のみ測定可能)と比較して±2%の精度で一致すること
が明らかとなった(図 1 参照)
.一方,変動せん断応力については,サンプリング周波数
が 数~10kHz 程度で取得できることが確認できたが,その応答特性については現在も引
き続き検討中である.そのため,供試表面の十分な評価には至っていない.
(3)最適ノズル形状の設計
各種のノズル形状により表面テクスチャを作成することを試み,噴流特性の変化と加
工された表面の特性関係を調べたが,表面粗さの定義について解決すべき課題が生じた
こと,および供試表面の十分な評価が出来ていないことにより,最適ノズルの設計には
至っていない.
3.経費の使用状況(申請時の計画に対する実績を記述)
(1) 設備備品費:マルチポテンショスタッドモジュール:63 万円(使用額 661,500 円)
(2) 消耗品費:微細加工用板材:12 万円(使用額 0 円)
アクリル板:8 万円(使用額:47,051 円)
化学薬品:8 万円(使用額:125,056 円)
電気化学用器具・消耗品:計画なし:(使用額:62,232 円)
その他消耗品:計画なし:(使用額 35,866 円)
(3) 印刷費:論文別刷り:6 万円(使用額 0 円)
(4) 旅費:10 万円(使用額:73,760 円)
(5) その他:ノズル作製料:30 万円(使用額 227,535 円)
(6) 間接経費:計画なし:
(使用額 137,000 円)
設備備品費(1)は,消費税分を考慮していなかったため,上記のような変更が生じた.
消耗品費(2)については,電気化学測定用の化学薬品ならびに測定器具・消耗品等に想定
外の経費が必要となった.しかしながら,電気化学的手法に基づく流れ場の評価は,本
研究の特色の一つであるため,消耗品費の総額の範囲内で経費の調整を行い使用した.
(5) その他ノズル作製料については,最適ノズルの設計に至らなかったため,ノズル,
試験用板材購入に充てた.なお,交付金のうち1割が間接経費となった.
4.将来展望(今後の発展性、実用化の見込み等について記述)
表面テクスチャの作成については,WJ 加工の可能性が確認できた意義は大きいと考え
ている.今後は,粗さ解析の検討を進めることで,表面形状の評価とその機能性との関
係を詳細に調べ,最適形状の提案を行う予定である.
変動壁面せん断応力の多点同時測定システムについては,乱流変動を充分に把握でき
る時間間隔でデータを取得し評価できる見通しがついた.今後は,WJ 加工による表面テ
クスチャのみならず,各種の機能性(撥水性・濡れ性)表面がせん断応力の時間的・空
間的変化に及ぼす影響を渦構造の変化と関連付けて明らかにしていく予定である.これ
は,せん断応力生成・変化の素過程を理解する上で極めて有効であるばかりでなく,実
用化に向けて大きな前進が期待できる.
以上のように,本研究期間内での達成度は十分であると言えないが,その可能性と発
展性には大きな期待が持てる.今後継続して実用化に向けた研究を進めていきたい。
5.成果の発表(学会での発表、学術誌への投稿等を記載。予定を含む)
(1)福島千晴・近藤瑞生・中西助次, 電気化学的手法を用いた壁面せん断応力の測定
(一様中の円柱周りの流れ), 日本機械学会中国四国支部 第 50 期総会・講演会, 2012.3
広島大学.
(2)ウォータージェット加工を行った金属材料表面の流動抵抗の評価, 日本機械学会中国
四国学生会 第 42 回学生員卒業研究発表講演会, 2012.3 広島大学.
(3)C.Fukushima, N.Ito, Y.Shinhara and M.Kido, Practical Study for Removal of Thermally
Sprayed Coatings and Surface Modification by Plain Water Jet, Journal of Fluid Science and
Technology, 2012.7 投稿予定.