土木技術資料 50-9(2008) 報文 表層崩壊に起因する簡易な土石流発生危険度調査・評価手法 内田太郎 * 盛 1.背景 伸行 ** 田村圭司 * ** 本研究では、数値モデルの入力条件が基本的に 1 砂防事業の更なる重点化、効率化を図るために、 土砂災害が発生する危険度の高い箇所からハード 対策を推進していくことが有効であると考えられ る。そのためには、膨大かつ広域に広がる土砂災 害の危険箇所の危険度を評価できる手法の構築が 必要となる。 1980年 代 か ら 表 層 崩 壊 の 予 測 手 法 と し て 、 浸 透流解析等の雨水流出に関する数値モデルと斜面 安定解析を組み合わせた手法が提案され、複雑な 自然現象に近づけようとモデルの改良が加えられ て き て いる 例 え ば 1) 。 こ の よ う な 数値 モ デル を 活用 することにより、機械的に土砂災害の危険度が評 価できる可能性がある。しかし、複雑な自然現象 の全てをモデル化することは困難な上、各現象を 支配する場の条件を測定し、数値モデルに入力す ることは非常に多大な労力を要する。実際、数値 モデルを用いて表層崩壊の危険箇所を抽出する試 みを行う場合、場の条件に関する情報は流域内の 数点の測定値の平均値などの代表値が用いられる 場 合が多い 2) 。その ためか 必ずしも 表層崩 壊発生 場所を精度良く予測できるとは言い難いのが現状 である。一方、近年、レーザープロファイラや簡 易貫入試験の改良など、場の条件(数値モデルの 実測できるもののみで構成されている簡易な物理 モデルを用いるとともに、入力条件を極力実測す ることとした。 複雑な雨水流出過程を取り入れたモデルを用い る場合、数多くのパラメータの設定が必要となる。 一方、地下水位を定常状態(ある地点を流下する 地下水流量はその上流域の集水域内に降った降雨 量と等しい)と仮定した上でモデル化しても、斜 面崩壊の危険箇所をある程度抽出できることが報 告されている 3) ~ 5) 。さらに、斜面崩壊が発生する ような場合、土層が十分に湿っており土層内の含 水率の時間変化は比較的小さいと考えられること から、表層崩壊の発生場所の予測に絞った場合、 地中内の詳細な土層構造等の状況の把握が困難で ある現状を考えれば、定常状態を仮定したモデル 化はある程度妥当であると考えられる。そこで、 本研究においても、水文過程は定常状態を仮定す ることにより、モデル中のパラメータを減らし、 基本的に実測できる入力条件のみで構成されてい る手法を用いた。 2.2 手法 本 研 究 に お い て 、 斜 面 の 安 全 率 ( Fs) は 、 無 限長斜面安定解析の式より以下の式で求めた。 Fs(t ) = 入力条件)の測定技術に進歩が見られる。 そこで、これらの測定技術を用いて場の条件を c + (γh cos 2 I − u (t )) tan φ γh cos I・sin I r 従来以上に精度良く計測することで、数値モデル は既存のコンセプトを用いても、表層崩壊発生場 所を比較的精度良く予測できる可能性がある。本 研究では、場の条件を精度良く計測することによ A り、実用的な表層崩壊の危険度評価手法の提案を 行った。さらに、場の条件の値の分布特性を用い て、広域に適用可能な表層崩壊に起因する土石流 発生危険度評価手法の提案を行った。 v h hs 2.斜面単位の危険度評価 2.1 検討方針 ──────────────────────── Producing field survey and evaluation method for susceptibility of debris flow triggered by shallow landslide - 20 - Is Q 図-1 モデルの概念図 (1) 土木技術資料 50-9(2008) こ こ で 、 cは 粘 着 力 、 γ は 土 層 の 単 位 体 積 重 量 、 hは 土 層 厚 、 Iは 斜 面 勾 配 、 γ w は 水 の 単 位 体 積 重量 、uは間隙水圧 、φは土 の内部摩 擦角とした。 ここで、ダルシー則より、土層内の水深が地表 面に達しない範囲では以下のように表すことがで きる。 Q(t ) = K s u (t ) γw tan I (2) こ こ で 、 Q(t)は 単 位 幅 あ た り の 時 刻 tの あ る 地 点 の 流下 量、 K s は 飽和 透水係 数γ w は水 の単位 体積 重量である。 ま た 、 水 に 関 す る 質 量 保 存 則 か ら 、 Q(t)は 式 3 で表すことができる。 Q(t ) = r (t ) A + dv dt 図-2 荒谷流域の位置 (3) ここで 、 r(t)は時刻 tの 降雨強度 、Aはある地点 の 集 水 面積 、 vは あ る地 点の 貯 留水 量 であ る。 こ こ ② ③ で,水文過程は定常状態(dv/dt=0)を仮定し、 ① 式 1~ 3を 用 い て 、 安 定 解 析 式 で の 安 全 率 が 1 と なる降雨強度(r c )について、式4が得られる。 rc = ④ 荒谷川 砂防えん堤 K s sin I {c + γ t h cos I (cos I tan φ − sin I )} (4) A{γ w cos I tan φ + (γ s − γ t )(sin I − cos I tan φ )} 荒谷検討流域 γ s 、γ t はそ れぞれ 、飽和 状態、不 飽和状 態の 土 層 の 単 位 体 積 重 量 で 、 γ = {γ s h s +(h − hs )γ u } h 、 h s は 地 下 水 深 と し た 。 式 4か ら 、 r c は 、 任 意 の 地 点 で 、 写真-1 荒谷流域 概ね10~15m間隔で、計 173点行った。崩壊地内 測定可能な土層の単位体積重量、土層厚、斜面勾 及 び そ の 周 辺 の 貫 入 試 験 結 果 か ら 、 Nd=20程 度 配、土の粘着力、土の内部摩擦角、飽和透水係数、 が崩壊面と考えられたため、検討に用いる土層厚 集 水 面積 から 求ま る。 そこ で 本研 究で は、 式 4に は 各 試 験 地 点 の Nd=20の 深 度 と し た 。 な お 、 崩 より求まるr c が小さい地点ほど小規模な降雨で表 壊地内の土層厚は簡易測量を行い、崩壊前の土層 層崩壊が発生することを意味し、r c が小さい地点 厚を推定した。 飽和状態、不飽和状態の土層の単位体積重量は、 ほど危険度が高いと考えた。 2.3 検討対象流域とモデルの適用 流 域 内で 5試 料を 採取 し、 室 内土 質試 験を 行い 、 2.3.1 検討対象流域 パラメータの設定を行った。 本 検 討 は 、 広 島 市 街 地 か ら 西 方 約 11kmに 位 置 豪雨時の斜面の等価飽和透水係数は、パイプ流 す る 荒谷 川流 域の 支渓 で行 っ た( 図 -2)。 流域 面 など選択的な流れの影響を受け、小さい土壌サン 積 は 1.4ha 、 流 域 の 斜 面 勾 配 は 12 ~ 54 ° で 平 均 プ ル ( 例 えば 、 100cc) で 求 め た 透水 係 数 より 大 36°である(写真-1)。 き い可能性 が高い 6) 。そこ で、本研 究では 、豪雨 1999年 6月 に は 、 総 雨 量 417mm 、 最 大 時 間 雨 時の現象の再現のため、検討対象流域内で継続し 量63mmの豪雨により、荒谷川で土石流が発生し、 て行っている水文観測から得られた間隙水圧と流 多くの被害が発生している。本検討の対象流域内 量をもとにダルシー則にしたがうと仮定した手法 に おいても 、斜面 崩壊が4つ 発生し た(図 -3①~ 6) に 従い、 斜面の等 価飽和 透水係数 を算出 し、用 ④)。 いた。 2.3.2 パラメータの設定 土層厚の設定は検討対象流域で簡易貫入試験を - 21 - 土木技術資料 50-9(2008) ~10 mm/h 10mm/hr未満 10~20mm/hr以下 10~20 mm/h 20~30mm/hr以下 20~30 mm/h 30~40mm/hr以下 30~40 mm/h 40~50mm/hr以下 40~50 mm/h 3 2 50mm/hr以上 50 mm/h~ 4 1 0 25 50 m 崩壊危険降雨強度の算出結果 また、斜面の見かけの粘着力・内部摩擦角は根 0.6 崩壊発生確率 系の影響や礫等の影響を受け、小さい土壌サンプ ルで用いた値と乖離している可能性がある。また、 実際の斜面崩壊発生時において、土壌が完全な排 水状態になるかどうか不明である。さらに、土の せん断強度は含水率の影響を受け、斜面崩壊は土 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 100~ 80~90 70~80 60~70 50~60 90~100 着力を逆推定した。ここでは、少なくとも、不飽 40~50 ~20 る。そこで、本研究では、地形及び土層厚から粘 30~40 0 層内の最も弱い部位において発生すると考えられ 20~30 図-3 崩壊危険降雨強度(rc)(mm/h) 和 時 には 、安 全率 が 1以下 に なる こと はな いと 考 え 、 流 域 内 で 例 外 的 に 斜 面 勾 配 が 急 ( 54°) で 図-4 崩壊危険降雨強度と崩壊確率の関係 か つ 土 層 厚が 大 きい ( 390cm) 1点 を 除 い た 地 点 図 -4には r c ごと の崩 壊確 率 (あ る r c の 全地 点数 で 、 土 層 が 不 飽 和 状 態 で安全率が1を切らない範 に対する崩壊地内の地点数の割合)を示した。崩 囲 の 最 小 の 粘 着 力 ( 7.5kN/m 2 ) を 算 出 し 、 計 算 壊 確 率 は r c が 20mm/h以 下 の 地 点 で は 6割 弱 、 20 に用いた。 ~ 30mm/h の 地 点 で は 3割 強 で あ る の に 対 し 、 r c 集水面積ならびに斜面勾配については、貫入試 が30~100mm/hでは、崩壊地内に属する地点は1 験実施箇所ごとに、地形測量結果ならびに簡易貫 つ の み で 崩 壊 確 率 は 約 3% 、 100mm/h以 上 で 1% 入 試 験 結 果 を も と に 算 出 し た 基 岩 面 の 5m メ ッ 以下であった。すなわち、r c が小さいほど、斜面 シュの地形データを用いて算出した。集水面積、 崩壊する可能性が高く、r c が斜面崩壊発生の相対 斜面勾配の算出は、D-Infinity Flow Direction法 的な危険度を良く表しているといえる。 7) を用いた。なお、D-Infinity Flow Direction法 また、1999年の豪雨時の最大1、3、6時間平均 は全方向を0.01°刻みで算出し、最急勾配の方向 の降雨強度は、それぞれ、63、 44、28mm/hであ を 求 める こと で、 上流 側の メ ッシ ュか ら下 流側 2 り 、 崩 壊 地内 の r c が 10~ 40mm/hで あ っ た 結 果 と メッシュに対して流下する流量の重み付けを行い、 概ね整合している。以上より、表層土層厚の空間 流下させる手法である。 分布情報、レーザープロファイラに基づき計測し 2.4 検討結果 た地形データ、水文観測結果により設定したパラ 前節で示した方法で設定したパラメータを用い メータを簡易な物理モデルに入力することにより、 て r c を 算出 した 結果 を図-3に 示 した 。 r c の 値が 小 表層崩壊箇所を比較的精度良く予測できることが さい箇所と実際に崩壊した箇所は、崩壊地②を除 分かった。 き、概ね一致する結果となった(図-3)。 - 22 - 土木技術資料 50-9(2008) タ Cの 平 均 値、 C d は パ ラメ ー タ Cの 標準 偏 差、 rd 3.渓流単位の危険度評価手法 はモンテカルロシミュレーションで発生する正規 乱 数 で あ る 。 正 規 乱 数 の 発 生 に は 、 Box-Muller 3.1 検討方針 前項までに検討した物理モデルは、降雨条件、 の 方 法 8) を 用 い た 。 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 回 数 は 地形情報、土層厚、土質強度(内部摩擦角、粘着 10000回とした。 力 )、 土 の 水理 特 性 (水分 特 性 曲 線、 透 水 係数 ) 3.3 手法の適用 を入力条件として、斜面の安全率を出力するもの 3.3.1 検討対象地域 検討対象は、愛媛県新居浜市多喜浜地区の面積 である。入力条件のうち、降雨条件、地形情報は 比較的容易に手に入るものの、土層厚、土質強度、 3.22km 2 の 地 域 で あ る ( 図 -5)。 同 地 区 は 新 居 浜 土の水理特性は広域で面的に情報を得ることは現 市 の 背 後 に 広 が る 標 高 300m未 満 の 丘 陵 性 の 山 地 時点では多大な労力を必要とし、困難である場合 であり、和泉層群の砂岩、泥岩からなる。同地域 が多い。一方、実測結果に基づき、当該地域・渓 は 2004年 の 台 風 15号 と 21号 に よ り 、 表 層 崩 壊 や 流の土層厚、土質強度、土の水理特性を確率的に 土石流 が多発した。 検討対象地 域内では 108個 の でも評価できれば、ある程度地下の情報を取り入 表層崩壊が発生した。 れた崩壊発生確率を推定することができる。仮に、 3.3.2 パラメータの設定 斜面ごとの崩壊発生確率が算出された場合、崩壊 土 層 厚 は 図 -5中 の 流 域 13の 崩 壊 地 周 辺 で 25点 発生確率の高い斜面が多い渓流を土石流発生危険 土研式簡易貫入試験を実施し、平均値、標準偏差 度の高い渓流と評価すれば、渓流単位の土石流発 を求めた。また、粘着力、土の内部摩擦角につい 生危険度が求まることになる。 ては、貫入抵抗値と粒度分布より、粘着力および そこで、本項では、土層厚、土質強度、土の水 土の内部摩擦角が推定できる若月ら( 2007) 9) が 理特性から、斜面崩壊確率を算出し、斜面崩壊確 提案した式により、貫入試験結果と粒度分布の測 率に基づき、流域単位の土石流発生危険度を評価 定結果より平均値及び標準偏差を算出した。さら する手法についてその有効性を検討する。 に、飽和透水係数については、ここでは、六甲山 3.2 検討方法 地において大型サンプルを用い、測定した 安全率の算出にあたっては、前節同様、土層内 Hedorayanto ( 1999) 10) の デ ー タ を 参 考 に 平 均 の間隙水圧は定常状態に達した状態を仮定し、式 値及び標準偏差を設定した。なお、算出の結果、 1、2を変形し、式5で算出した。 いずれのパラメータとも正規分布よりも、対数正 Ar ) tan φ K s tan I γh cos I・sin I 規分布に近い分布形を示したため、正規乱数の発 c + (γh cos 2 I − γ w Fs = 生にあたっては、対数値を用いた。 (5) 地形量の算出にはレーザープロファイラによる これにより、地下の情報に関するパラメータは、 地形データを用いて、10mメッシュで勾配、集水 ①土層厚、②粘着力、③土の内部摩擦角、④飽和 面 積 を 算 出 し た 。 算 出 に は 、 D-Infinity Flow 透 水 係数 の 4つと なる 。ま た 、定 常状 態を 仮定 し Direction法を用いた。 たことにより、飽和―不飽和の浸透流解析が不要 3.4 検討結果 となるため、多ケースのシミュレーションが比較 3.4.1 渓流ごとの危険度算出 対象地域を図-5に示すように0.04~ 0.46km 2 の 的短時間で可能となる。 さらに、本研究では、メッシュごとに、ある降 19の 渓 流 に 分 割 し た 。 そ の 上 で 、 渓 流 ご と の 危 雨条件下において、土層厚、土質強度、土の水理 険度を表す指標として、「崩壊危険面積(α)」お 特性を確率的に与え、当該降雨条件下において、 よび 「崩壊危 険面積率(α /A)」を 式 7、 8でそ れ 安 全 率 が 1以 下 と な る 確 率 を 、「 崩 壊 確 率 」 と し ぞれ算出した。 て算出した。地下の情報を確率的に与えるにあ たっては、以下の式を用いた。 C = C m +C d ×rd n a = ∑ api i =1 (6) ここで、Cはあるパラメータとし、C m はパラメー - 23 - (7) 土木技術資料 50-9(2008) a / A = ∑ api / A 30 (8) 崩壊地数(実績)[個] n i =1 ここで、aは各メッシュ の面積(=100m 2 )、pは メッ シュ iの崩 壊確率( 10000回 の 計算 で安全率 1 以下になる確率)、nは渓流内のメッシュ数、 Aは 各渓流の面積である。 25 20 15 10 5 0 降雨強度を50mm/hに した場合の渓流ごとの崩 0 0.05 壊 危 険 面 積 の 算 出 結 果 と 実 際 に 2004年 の 台 風 で 0.1 0.15 0.2 2 崩壊危険面積(計算) [km ] 発 生 し た 崩 壊 地 数 の 関 係 を 図 -6に 示 し た 。 図 に 示したように、渓流単位で見た場合、算出された 図-6 崩壊地密度(実績)[個/km ] 崩壊危険面積と実際の崩壊地数とは正の相関が極 2 めて高く(r 2 =0.77)、崩壊危険面積は渓流単位の 表層崩壊発生危険度をよく表しているといえる。 ま た 、 図 -7に は 、 崩 壊 危 険 面 積 率 と 1km 2 あ た り の 2004年 に 発 生 し た 崩 壊 地 数 ( 以 下 、 崩 壊 地 密度)の関係を示した。崩壊危険面積率が大きい にもかかわらず、崩壊地密度が小さい渓流はある ものの、崩壊地密度が高かった渓流は、崩壊危険 渓流単位の崩壊危険面積と崩壊地数の関係 100 80 60 40 20 0 0 面積率も大きく、斜面崩壊が多発する渓流は概ね 0.1 0.2 0.3 0.4 崩壊危険面積率(計算) [km2/km2] 抽出できていた。 図-7 渓流単位の崩壊危険面積率と崩壊地密度 以上のように、簡易な物理モデルと実測に基づ き推定した土層厚・土質強度の確率分布を用い、 渓流単位で表層崩壊の発生危険度の評価を試みた ところ、概ね良い再現性が見られた。また、今回 対象とし た 3.22km 2 を パソコン( Intel CoreTM2 CPU 2.40GHz) を 用 いて 計 算す るに 要し た時 間 は 、 勾配 ・集 水面 積の 算出 に 約 2時 間 、そ の後 の 崩壊確率の算出は15分程度であった。 図-5 検討対象地域(愛媛県県新居浜地区) 4.表層崩壊に起因する土石流危険度評価手 法 以上の検討結果から、表層崩壊に起因する土石 流の危険度評価に関する調査・検討のフローを図 -8に 示 し た 。 表 層 崩 壊 に 起 因 す る 土 石 流 に 関 す る危険度評価は、まず、概略の危険度評価を行い、 その上で、危険度が高いと判定された渓流につい て、詳細な危険度評価を行う。詳細評価において は、概略評価において危険度が高いとされた渓流 の中で特に危険度の高い渓流の抽出、渓流内で発 生源として危険度の高い斜面、支渓の抽出を行う。 概 略の 危険 度評 価を 行う に あた って は、 3章 で 写真-2 新居浜地区で発生した表層崩壊の様子 示した「渓流単位の危険度評価手法」を用いる。 - 24 - 土木技術資料 50-9(2008) 参考文献 地形情報・土壌の物理性に関する情報の収集 1) 土石流危険渓流単位の土石流発生の概略危険度評価 集水面積・斜面勾配 の算出 土層厚・土壌の物理性の 確率分布の設定 簡易物理モデル 危険度の低い 土石流危険渓流 降雨条件の設定 モンテカルロシミュレーション 危険度の高い土石流危険渓流概略抽出 土層厚分布測定、詳細な地形測量、土壌の物理性計測の実施 終了 斜面単位の土石流発生危険度評価(危険度の精査) 集水面積・斜面勾配の算出 土層厚・土壌の物理性の設定 簡易物理モデル 危険度の高い土石流危険渓流抽出 渓流内の危険度の高い斜面・支渓の抽出 図-8 土石流危険渓流の危険度調査・評価フロー 具体的には、数値地形情報を用い、土質定数、土 層厚、透水係数は実測値を基に確率的に与え、単 純化した浸透流理論と斜面安定解析に基づく手法 により、渓流単位の危険度を評価する。 一 方、 詳細 な危 険度 評価 に あた って は、 2章 で 示した「斜面単位の危険度評価手法」を用いる。 具体的な調査は、土層厚の空間分布の測定、詳細 な地形測量、水文観測を行う。その上で、簡易な 物理モデルにより、危険度を精査する。 5.まとめ 本研究では、既存の物理モデルのコンセプトを 活用し、詳細な現地調査を行うことにより、表層 崩壊発生場所および発生する可能性が高い渓流を 精度良く抽出できることを示した。その結果を基 に、本研究では、表層崩壊に起因する土石流の危 険度評価に関する調査・検討のフローを提案した。 現在、地質・地形条件の異なる地域を対象にここ 内 田 太 郎 : 近 年 に お け る山地 の 土 砂 移 動 現 象 に か か わ る 斜 面 水 文プ ロ セ ス研究 の 進 歩 、 砂 防学 会 誌 、 Vol.57、No.2、pp. 58-64、2004 2) 例 え ば , 平 松 晋 也 ・ 水 山高久 ・ 石 川 芳 治 : 雨 水 の 浸 透 流 下 過 程 を 考 慮 し た表層 崩 壊 発 生 予 測 手 法 に 関 す る 研 究 、 砂 防 学 会 誌 、 Vol.43 、 No.1 、 pp.515、1990 3) 沖 村 孝 ・ 市 川 龍 平 ・ 藤井郁 也 : 表 土 層 内 浸 透 水 の集水 モデルを用いた花崗岩表層崩壊発生位置 の 予 知 の た め の 手 法 、 砂 防 学 会 誌 、 Vol.37、 No.5、 pp. 4-13、1985 4) Montgomery, D. R., and W. E. Dietrich : A physically-based model for the topographic control on shallow landsliding, Water Resources Research, Vol. 30, 1153-1171, 1994. 5) Pack, R. T., D. G. Tarboton and C. N. Goodwin : The SINMAP Approach to Terrain Stability Mapping," Paper Submitted to 8th Congress of the International Association of Engineering Geology, Vancouver, British Columbia, Canada 1998 6) Uchida, T., Y. Asano, N. Ohte and T. Mizuyama: Analysis of flowpath dynamics at a steep unchanneled hollow in the Tanakami Mountains of Japan, Hydrological Processes, Vol. 17, 417-430, 2003 7) Tarboton, D. G. : A new method for the determination of flow directions and upslope areas in grid digital elevation models, Water Resources Research, Vol. 33, 309-319,1997. 8) 三 根 久 : モ ン テ カ ル ロ 法 ・ シ ミ ュ レ ー シ ョ ン (現代応用数学講座4)、40-48、コロナ、1994 9) 若 月 強 ・ 佐 々 木 良 宜 ・田中 幸 哉 ・ 松 倉 公 憲 : 簡 易 貫 入 試 験 値 と 粒 度 組 成を用 い た マ サ 土 の 単 位 体 積 重 量 と せ ん 断 強 度 定 数及び 透 水 係 数 の 推 定 、 砂 防学会誌Vol.59、No.6、38-46、2007 10) Hendrayanto, Analysis on Spatial Variability in Hydraulic Properties of Forest Soils, Ph.D. Thesis, Kyoto Univ., 1999 で示した手法の汎用性の確認を行っているところ である。 内田太郎 * 独立行政法人土木研究所つく ば中央研究所土砂管理研究グ ループ火山・土石流チーム主 任研究員 Taro UCHIDA 伸行 * * 田村圭司 * * * 東京建設コンサルタント㈱ ( 前 独 立 行 政 法 人 土 木研 究 所つ くば中央研究所土砂管理研究 グ ル ー プ 火 山 ・土 石 流チ ー ム交 流研究員) Nobuyuki MORI 独立行政法人土木研究所つく ば中央研究所土砂管理研究グ ループ火山・土石流チーム上 席研究員 Keiji TAMURA 盛 - 25 -
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