社労士便り (2013 年 9 月) (Vol.090) 『 平 均 賃 金 』 今月のテーマは、 「平均賃金」です。平均賃金は、下記のとおり、解雇予告手当や年次有 給休暇等において計算の基礎となります。今回は基本的な部分に加え、間違いやすい点を、 行政解釈と併せて確認したいと思います。 ● 平均賃金とは 労働基準法第 12 条 2 項では、①解雇予告手当(同法第 20 条)、②使用者の責に帰 すべき事由による休業の場合に支払われる休業手当(同法第 26 条) 、③年次有給休暇 の日に支払われる年次有給休暇手当(同法第 39 条 6 項)、④労働者の業務上の負傷・ 疾病・死亡の場合の災害補償(同法 76 条~82 条)、⑤懲戒処分としての減給の制裁の 制限額(同法第 91 条)について、計算単位として平均賃金を使用し、その一定日数 分又は一定割合として定めています。これらはいずれも労働者の生活を保障するため の手当その他の金員の支給であることから、その尺度である「平均賃金」は、労働者 の通常の生活資金をありのままに算出することを基本原則としています。 ● 平均賃金の算定方法 労働基準法第 12 条 2 項において、 「平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生し た日以前 3 か月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で 除した金額をいう。」と定められています。 上記について、「事由の発生した日以前」とありますが、実際には、事由の発生し た日の前日からさかのぼって 3 か月間であり、事由の発生した日は含みません。 また、「3 か月間」とは、90 日という意味ではなく、暦日によるもので、例えば、8 月 10 日に算定事由が発生した場合は、 8 月 9 日から 5 月 10 日までの 92 日となります。 さらに、「支払われた賃金の総額」とは、現実に支給された賃金のみならず、算定 事由発生日において債権として確定している賃金をも含みます。 加えて、「総日数」とは、暦日数の総数であり、労働日数ではありません。 なお、賃金締め日が設けられている場合は、算定事由発生日の直前の賃金締め日か ら起算します。例えば、10 月 11 日に算定事由が発生した場合において、賃金締め日 が 20 日であるならば、9 月 20 日から起算して 6 月 21 日までの 3 か月間ということに なります。 それでは次のケースはどのように解釈すべきでしょうか。 ある会社では、基本給以外の諸手当は、毎月月末を締め日とし、翌月 13 日を支払 日としている。この場合、例えば、6 月分の諸手当は 7 月 13 日支払であるが、6 月末 日をもって解雇した場合、平均賃金に算入する手当は、6 月 13 日支払に係る 5 月分よ り遡って 3 か月分とすべきか、あるいは、7 月 13 日支払に係る 6 月分より遡って 3 か月分とすべきか。 行政解釈(昭 25.5.13 基収 843 号)では、前者が正しいと解しています。 ● 平均賃金を算定すべき事由の発生した日とは 平均賃金を算定すべき事由の発生した日とは、次のとおりです。 ① 解雇予告手当は、労働者に解雇を通告した日となります。 また、解雇日を変更した場合も、当初の解雇を予告した日と解されています(昭 39.6.12.36 基収 2316 号)。 さらに、解雇前出勤禁止令を受けて就労できず、しかもその期間が 3 か月を超 えている場合は、平均賃金は、出勤禁止命令の直前の賃金締切日から以前 3 か月 間を基礎として算出すべきとされた判例(福岡地 42.4.10)があります。 なお、余談ですが、解雇予告手当は、賃金とは異なる特別手当であり、賃金で はないことから、労働基準法第 24 条に定められている一定期日払の必要はありま せんが、支払いは、通貨で直接労働者にすることと解されています(昭 23.8.18 基収 2520 号)。 ② 休業手当は、その休業日。また、休業が 2 日以上にわたるときは、その最初の 日となります。 ③ 年次有給休暇は、その年次有給休暇を与えた日。また、休暇が 2 日以上の期間 にわたるときは、その最初の日となります。 ④ 休業補償、障害補償、遺族補償、葬祭料、打切補償、分割補償は、死傷の原因 となった事故の発生した日、又は診断によってその疾病の発生が確定した日とな ります。 それでは次のケースはどのように解釈すべきでしょうか。 ある労働者がA事業所に勤務中、業務上の疾病にかかり、療養後、一応治癒し、 同事業場を退職した。数か月後、同労働者がB事業場に勤務中、前回の疾病が再 発し、労働に従事することが不可能になった。この場合、休業補償を行うため、 平均賃金算定の必要を生ずるが、A事業場・B事業場、いずれの事業所において 支払われた賃金により計算するのでしょうか。 行政解釈では、当該疾病がA事業場における業務上の疾病の再発と認定される 限り、平均賃金の算定はA事業場において支払われた賃金によって、A事業場が 補償すべきである。ただし、再発の場合は、前の疾病との因果関係を特に慎重に 調査して、真に再発と認めるべきかどうかを決しなければならないと解していま す(昭 25.5.13 基収 843 号) 。 ⑤ 減給の制裁は、減給の制裁の意思表示が相手方に到達した日と解されています (昭 30.7.19 29 基収 5875 号) 。この場合、制裁事由の発生した日(行為時)、 や現実に減給する日(支払時)と混同しやすいので注意したいところです。 ● 除外賃金 平均賃金の算定にあたって労働者に支払われた賃金の総額には、労働基準法第 11 条に規定するすべての賃金(労働の対償として使用者が労働者に支払うすべて)が含 まれます。 ただし、労働基準法第 12 条 4 項では、賃金の総額から除外すべき次の賃金が定め られています。 ① 臨時に支払われた賃金(私傷病手当、退職金、結婚手当等) ② 3 か月を超える期間ごとに支払われる賃金(年 2 回支給される賃金等。ただし、 4 半期ごとに支払われるものは、賃金の総額に含まれる。) ③ 法令又は労働協約に定めの無い現物給与 (参考文献等) 労働法全書:財団法人労務行政研究所編(労務行政) 新基本法コンメンタール労働基準法・労働契約法:西谷敏・野田進・和田肇編 (日本評論社) ● 労働法:菅野和夫著(弘文堂) 問題解決労働法 条文から学ぶ労働法:土田道夫・山川隆一・島田陽一・小池史子(有斐閣) 賃金:小川英郎著(旬報社) プロフィール 特定社会保険労務士 佐藤 敦 平成 16 年:神奈川県社会保険労務士会登録 ● 著書 『給料と人事で絶対泣かない 89 の知恵』(大和書房) 『働く高齢者の給料が減っても手取りを減らさない方法』(ダイヤモンド社)他。
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