論文 - Index of

―Load to the Two-Party System―
東海大学川野辺ゼミナール23期
経済政策論パート
関本 大輔
高嶋 純一
大野澤 奨
周
文明
大沢健太郎
第9回公共選択学会学生の集い
東海大学川野辺ゼミナール23期
経済政策論パート
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼目次∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
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1. はじめに(論題解釈)・・・・・・・・・・・・・・・・・P3
2. 問題の所在・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P5
2−1.日本的意思決定システムと財政赤字
2−2.民主主義は機能しているか
2−3.小泉政権の改革
3. 政党制・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P8
3−1.分類
3−1−1.デュヴェルジェ
3−1−2.サルトーリ
3−1−3.レイプハルト
3−1−4.ブロンデル
3−2.有効政党数
4. 日本の政党制の変遷・・・・・・・・・・・・・・・・・P15
4−1.有効政党数でみた分類
4−2.議席割合でみた分類
4−3.現在
5. 二大政党制を妨げる要因・・・・・・・・・・・・・・・P19
5−1.選挙制度
5−1−1.デュヴェルジェの法則
5−1−2.中選挙区制
5−1−3.小選挙区比例代表並立制
5−2.小政党という障害
小括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P26
6. 政策決定はどう変わるか・・・・・・・・・・・・・・・P27
6−1.中選挙区制での政策決定
6−2.並立制での政策決定
7. 実証分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P29
7−1.二大政党制と経済成果の関係性
7−2.データ設定と回帰分析
7−3.ファクトファインディング
8. おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P33
参考文献・参考サイト
2
第9回公共選択学会学生の集い
東海大学川野辺ゼミナール23期
経済政策論パート
1.はじめに
今回 の第 9回公 共選 択学会 学生 の集い の3 年生の テー マを受 けて 、経済 政策 論
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パート では 次の2 点に 注目し 論文 作成作 業を 行った。
「 日 本で二 大政 党制が 本格 化
するの か」、
「本格化 し たなら ば、経済政 策に どのよ うな 影響を 与え るか」で あ る。
まず 本稿 の問題 意識 形成と して 、2章 では ①中選 挙区 制下で の派 閥政治 によ る
利益誘 導が レント シー キング 活動 を横行 させ 、非効 率な 資源配 分を もたら し、 そ
れによ って 政府が 肥大 化し、 財政 赤字を 拡大 させた こと 。②9 4年 の選挙 制度 改
10
革(小 選挙 区比例 代表 並立制 への 移行) によ って議 席数 が二大 政党 制に近 づい た
こと。 ③小 泉政権 で官 邸主導 の下 、郵政 民営 化にみ られ るよう な既 得権に 切り 込
んだ改 革を 行った こと 。これ らの 問題意 識か ら、我 々は 二大政 党制 が本格 化す る
ことで 、政 権交代 が起 こり、 大胆 に既得 権に 切り込 むこ とで財 政再 建を行 える の
ではな いだ ろうか と考 えた。 この 検証が 本稿 の主要 なテ ーマで ある 。
15
3∼ 5章 では、
「 日 本で二 大政 党制が 本格 化する のか 」とい うこ とに対 して 、ま
ず政党 分類 を行っ た。 しかし 、政 党制の 概念 という のは 曖昧で ある ため、 我が パ
ートで は日 本は政 党制 におい てど のよう な位 置づけ であ るかと いう 問題を 究明 す
るため に、 政党制 の定 義を決 めた 。そこ でブ ロンデ ルに よる有 効政 党数と 議席 割
合を照 らし 合わせ たも のを定 義と した。 する と日本 は選 挙制度 改革 以降か ら現 在
20
にかけ て障 害はあ るも のの優 位政 党のあ る多 党制か ら二 大政党 制へ 近づい てい る
ことが わか った。 そし て、今 後も 日本に おい て二大 政党 制が本 格化 してい くの か
を検討 した 。
「二 大政 党制が 本格 化した なら ば、経 済政 策にど のよ うな影 響を 与える か」 と
いうこ とに 対して 、6 章では 、政 策決定 がど う変わ るの かを検 証し 、7章 では 、
25
マクロ 経済 データ を用 いて政 党制 と経済 パフ ォーマ ンス の関係 性を 実証分 析に よ
って明 らか にする 。そ して、 結論 へと続 く流 れであ る。
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3
第9回公共選択学会学生の集い
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経済政策論パート
論題解釈
二大政党制は本格化するか
政党制の分類
ブロンデル
有効政党数と議席割合
日本は二大政党制へ
選挙制度
デュヴェルジ ェ
中選挙区制
小選挙区比例代表並立制
政策決定はどう変わるか
民主主義モデル
選挙制度
実証分析
経済パフォーマンス
回帰分析
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経済政策論パート
2.問題の所在
2−1 .日 本的意 思決 定シス テム と財政 赤字
現在 、政 府の最 重要 課題と なっ ている のは 財政再 建で ある。 平成 18年 度の 予
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算ベー スで みると 、財 政赤字 は3 0兆円 程度 、基礎 的財 政収支 (プ ライマ リー バ
ランス )は 11. 2兆 円の赤 字、 国及び 地方 の長期 国債 残高に いた っては 約7 7
5兆円 (対 GDP 比1 60% )と なって おり 、主要 先進 諸国の 中で も最低 の水 準
である( 図 1,2)。で は、なぜ こ れまで にも 政府が 肥大 化し、財 政 赤字が 拡大 し
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てしま った のだろ うか 。その 理由 は中選 挙区 制の下 での 日本的 意思 決定シ ステ ム
に求め るこ とがで きる 。
日本 では 194 7年 の衆院 選か ら中選 挙区 制を導 入し た。中 選挙 区制は 、小
選挙区 制が 1選挙 区か ら1名 を選 出する のに 対して 、1 選挙区 から 2∼5 名を 選
出する選挙制度である。本来、中選挙区制の下では、デュヴェルジェ 1 の示すと
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ころに よれ ば多政 党が 誕生し 、連 立政権 にな るはず だっ た。し かし 、19 55 年
以降5 5年 体制下 で長 らく自 民党 の一党 優位 体制が 続い たので ある 。中選 挙区 制
で過半 数を 獲得し 、与 党とな るた めには 、1 つの選 挙区 内で複 数の 当選者 を出 さ
なけれ ばな らない 。つ まり候 補者 は他の 政党 の候補 者と だけで はな く同じ 政党 の
候補者 とも 争うこ とに なる。 政党 として の戦 いでは なく 個人と して の戦い を意 味
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し、所 属す る派閥 同士 の戦い とな り、そ れは 従来の 自民 党政治 が派 閥を党 内党 と
する連 立政 権であ ると みてと れる 。また 、個 人とし て選 挙を戦 うた めには 莫大 な
政治資 金が 必要と なる ため、 企業 や利益 集団 から支 持を 得る必 要が ある。 そう や
って当 選・ 再選を 目指 し得票 を最 大化す る政 治家、 自ら の省庁 の予 算最大 化を 目
指し、 権限 や裁量 権を 死守し たい 官僚、 それ らを操 るこ とで独 占的 利益を 得た い
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利益集 団に よる日 本的 意思決 定シ ステム と中 選挙区 制の 下での 派閥 政治に よる 地
元への利益誘導は、非効率な資源配分をもたらし、レントシーキング活動 2 を助
長した 。そ して政 府は 肥大化 し、 財政赤 字は 拡大し てい ったの であ る 3 。
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35
1
2
3
P.19 参 照
市 場 を 経 由 し な い で 人 為 的 に 利 益 を 得 る 行 動 。詳 し く は 川 野 辺( 2005)、黒 川( 2005)。
川 野 辺 ( 2005)
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経済政策論パート
図1 財政収支の国際比較(対GDP比)
(%)
6
4
日本
アメリカ
イギリス
ドイツ
フラン ス
イタリア
カナダ
2
0
19
97
19
98
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01
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06
-2
-4
-6
-8
-10
(年度)
図2 債務残高の国際比較(対GDP比)
(%)
180
160
140
120
100
80
60
40
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0
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19
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19
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06
日本
アメリカ
イギリス
ドイツ
フランス
イタリア
カナダ
(年度)
資 料)http://www.oecd.org/よ り作 成
5
2−2 .民 主主義 は機 能して いる か
民主 主義 とは、 有権 者の選 好を 国政に 反映 するこ とで ある。 それ は直接 的に 選
挙で政 治家 を選ぶ こと によっ て行 われる 。つ まり有 権者 である 国民 の選好 を反 映
するこ とで 民主主 義が 機能す るこ とにな る。 では日 本で 民主主 義が 機能し てい る
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のだろ うか 。答え はノ ーであ る。 たとえ ば、 小林(2004)では 、各 政党の 公約 ・
主義・ 主張 と、実 際に 行われ てい る政策 との 間に関 連性 がある かを 、財政 投融 資
の使途 別歳 出項目 と対 応させ て実 証分析 を行 い、そ れら の間に 関連 性がな いこ と
を示し た。 さらに 続け て、そ の要 因は中 選挙 区下に おけ る利益 誘導 政治で ある と
結論づ けて いる。 また 、中選 挙区 制から 並立 制への 選挙 制度改 革に よって 利益 誘
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導政治 がな くなっ たの かも検 証し ており 、結 論は選 挙制 度を変 更さ せても 利益 誘
導政治 に変 化がな かっ た 4 。つま り 、前節 で述 べたよ うに 、政治 家は 合理的 に行
岩 本( 2006)で は 、派 閥 の 力 を 弱 め て 首 相 権 限 が 強 ま っ た と し て い る 。し か し 小 選
挙 区 制 で 支 出 削 減 の 合 意 が 得 ら れ や す く な っ て も 、合 意 内 容 に 利 益 誘 導 が 見 ら れ な く
な る わ け で は な く 、政 権 維 持 を 左 右 す る 特 定 層 の た め の 支 出 に 偏 る こ と が 予 想 さ れ る 。
4
6
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動しているといえる 5 。言い換えれば、民主主義下ではそれぞれのアクターが自
己利益 を追 求する 結果 として 、資 源の浪 費と いった レン トシー キン グ活動 が横 行
し、財 政赤 字を拡 大さ せてし まう のであ る。
5
2−3 .小 泉政権 の改 革
以上 の議 論から 、現 在の深 刻な 財政赤 字に 対して 一刻 も早く 財政 再建を 行う こ
とと、 有権 者であ る国 民の選 考を 政治や 政策 に反映 させ ること が重 要とな って く
る。つ まり レント シー キング を抑 制する 必要 がある 。
20 01 年に就 任し た小泉 政権 は、
「改 革な くして 成長 なし」とい ったス ロー ガ
10
ンの下 、小 さくて 効率 的な政 府を 目指し 、郵 政民営 化や 道路公 団の 民営化 、規 制
緩和、三 位 一体改 革な どとい った 構造改 革を 行うこ とで 既得権 へメ スを入 れた 6 。
その評 価は 今の段 階で は時期 尚早 である が、 プライ マリ ーバラ ンス は11 .2 兆
円に減 少し ている こと からも わか る通り 改善 がみら れる 。しか し、 債務残 高は 増
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加傾向 をた どる一 方で ある。 財政 再建を 進展 させる ため には、 第一 の目標 であ る
プライ マリ ーバラ ンス の均衡 を一 刻も早 く達 成し、 財政 赤字を なく すため に、 さ
らなる 既得 権への 切り 込みと その スピー ドが 問われ てい る。
加えて 、最 近では 自民 党優位 に変 りない が、 自民と 民主 で議席 数の 85% を獲
得して いる ことも あり 、実質 的に 二大政 党制 に近づ いた のでは ない かとい われ て
20
いる。 二大 政党制 では 政権交 代が 行われ やす くなり 、さ らに既 得権 に切り 込め る
可能性 が高 くなる 。そ うすれ ば、 財政再 建に もつな がる ことに なる であろ う。
図3 衆議院総選挙における議席数の推移
(議席数)
350
300
自民
社会民主
新党さきがけ
公明
保守
日本社会党
民主
250
200
150
100
50
0
1993
1996
2000
2003
2005
(年度)
資料) http://www.election.co.jp/ よ り作成
25
5
6
ダ ウ ン ズ 著 (1957)(古 田 精 司 訳 (1980))
骨 太 の 方 針 2001− 2006
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第9回公共選択学会学生の集い
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3.政党制
政党制 の分 類は、 どの ような 政党 制であ るの かとい う答 えを出 すの に不可 欠な
5
もので ある 。政党 制は 広範な 概念 であり 、分 類方法 次第 では2 党制 や多党 制な ど
に別れ てし まう。 そこ で日本 がど のよう な政 党制な のか 妥当な 判断 を下す ため に
主要な 政党 制の分 類を 明らか にし ている 例を 分析す る。
10
3−1.分類
3−1 −1 .デュ ヴェ ルジェ
主要 な政 党シス テム の分類 ・類 型とし て挙 げられ るの がモー リス ・デュ ヴェ ル
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ジェの 分類 である 。デ ュヴェ ルジ ェによ ると 政党制 はそ の国の 複雑 で様々 な要 因
の産物である 7 と例えられている。この分類は1970年代まで政党制の類型と
分類に おい て最も 影響 力があ った とされ る。 そして 昔の 分類は 単純 でデュ ヴェ ル
ジェは 19 51年 に政 党数を 分類 の主要 基準 に、1 党シ ステム ・2 党シス テム ・
多党シ ステ ムの3 つに 分類し た。
20
(1) 1党 制シス テム
1党 制シ ステム とは 通常2 0世 紀の偉 大な 政治上 の新 機軸と して 考えら れる 。
またこ のシ ステム はそ の名の 通り 、1つ の政 党が突 出し て競争 政党 が存在 せず に
25
政権交 代が 行われ ない 政党シ ステ ムであ る。 これは 中国 ・ソ連 など と言っ た社 会
主義国 に特 有のシ ステ ムで独 裁を もたら す。
(2) 2党 制シス テム
2党 制シ ステム は、 イギリ ス・ アメリ カな どに見 られ 有力な 2つ の政党 が競 争
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を行い 政権 交代を 2政 党間で 繰り 返すシ ステ ムであ る。 デュヴ ェル ジェは この 2
党シス テム が政党 制の 中でも 一番 優れて いる と提言 した 。
(3) 多党 制シス テム
主要 政党 が3つ 以上 存在す る政 党シス テム を意味 する 。これ は大 陸ヨー ロッ パ
35
諸国に 広く 見られ るシ ステム で、 一般的 に政 党数が 多い ため単 独で 過半数 を握 る
ことは 難し い。そ のた め連立 政権 の形成 が求 められ る。
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デ ュ ヴ ェ ル ジ ェ ,M( 岡 野 加 穂 留 訳 )( 1970)
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経済政策論パート
3−1 −2 .サル トー リ
次にジョヴァンニ・サルトーリの政党制分類 8 を分析する。サルトーリの分類
が提示 され る前の 19 70年 代ま ではデ ュヴ ェルジ ェの 分類方 法が 政治学 者の 中
5
でも主 流で あった 。し かし1 97 6年に サル トーリ の政 党制分 類が 提示さ れ、 そ
れは現 在に 至るま で強 い影響 力を 持つと され る。サ ルト ーリは 政党 数と政 党間 の
イデオ ロギ ー距離 とい う2つ の基 準を用 いて 、以下 の通 り政党 シス テムの 類型 を
打ち出 した 。この 類型 の優れ てい る点と して は概念 が大 きく論 じら れてい た多 党
制を穏 健な 多党制 と分 極的多 党制 と原子 化政 党制に 分け 、政党 数と イデオ ロギ ー
10
距離の 相違 により 選挙 におけ る政 党競争 と政 権担当 にお ける政 党協 力のパ ター ン
が大き く異 なるこ とを 明らか にし たこと であ る。
15
20
(1.)
1党制
(2.)
ヘ ゲ モニー 政党 制
(3.)
1 党 優位政 党制
(4.)
二 大 政党制
(5.)
穏 健 な多党 制
(6.)
分 極 的多党 制
(7.)
原 子 化政党 制
(1) 1党 制
1つの 政党 以外が 存在 を許さ れな いシス テム である 。そ れは後 述す る、1 つ以
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上の政 党が あるヘ ゲモ ニー政 党制 や、制 度的 に競合 が保 障され てい る一党 優位 政
党制と 区別 される 。実 際の分 類で は、ヘ ゲモ ニー政 党制 との境 界は 微妙な 場合 が
あるが 憲法 や法律 で1 党制が 定め られて いれ ば、1 党制 に間違 いな い。有 力野 党
が非合 法化 され、弾 圧 があっ ても 、他の野 党 がわず かな 議席を 持っ ている なら ば、
それは ヘゲ モニー 政党 制であ る。 しかし 弾圧 によっ て力 のある 野党 が除去 され 、
30
結果と して 議席の すべ てを一 党が 占めて いる 場合に 、小 政党が 認め られて いる の
かどう かの 判定は 、概 念的に も難 しい。
サルト ーリ は、一 党制 をさら に分 類して 強制 (抑圧 )の 強い順 から 、全体 主義
1党制 、権 威主義 1党 制、プ ラグ マティ ック 1党制 にな るとし た。 しかし この 用
語は普 及し ていな い。
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サ ル ト ー リ . G( 岡 沢 ・ 川 野 訳 )( 2000)
9
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経済政策論パート
(2) ヘゲ モニー 政党 制
ヘゲモ ニー とはド イツ 語で「 主導 権、指 導的 立場」 とい う意味 であ り、1 つの
政党が 他の 全ての 政党 よりも 重要 な意味 を持 ち、他 の政 党は衛 星政 党、2 次的 政
5
党とし ての み存在 する ことを 許さ れ、権力 を 巡る競 争が 許され ない 政党制 であ る。
すなわ ち、 権力の 座に ある政 党の ヘゲモ ニー に対し ては 一切の 挑戦 が許さ れて い
ないと いう 状態の こと である 。
これら 1党 制とヘ ゲモ ニー政 党制 は非競 合シ ステム であ り、後 述す る競合 して
いる政 党制 とはま た分 類が違 うと もいえ る。
10
(3) 1党 優位政 党制
複数政 党間 での競 合的 な選挙 のな かで, その 主要政 党が 継続し て投 票者の 多数
派(絶対 多 数議席)に 支持さ れて いて事 実上 政権交 代が 行われ ない 政党制 であ る。
従来1 党制 という 名で 一括さ れて いたも のの 中から 、公 正な自 由選 挙が実 施さ れ
15
ていて 絶対 多数議 席を 持つ政 党が 抜き出 たも のであ る。 一党優 位政 党が一 党優 位
政党制 と築 き上げ るま での基 準と しては 、
1)有 権者 が安定 して いるよ うに 見える
2)明 らか に境界 点( 絶対多 数議 席)を 超え ている
3)第 1党 と第2 党の 差が大 きけ れば、 3回 連続し て絶 対多数 議席 を確保 する
20
という 3点 を挙げ てい る。こ の条 件の一 つで も欠け れば 時間が 経っ てから 判断 す
る必要 があ る。ま たこ の一党 優位 政党制 の問 題点と して サルト ーリ は第一 党と 第
二党の 党勢 上の開 きを パーセ ンテ ージで 表現 した測 定値 を定義 と出 来ない こと を
挙げて いる 。
25
(4) 二大 政党制
イギリ スお よびイ ギリ スから 独立 したア ング ロ・サ クソ ン系に よく みられ る形
態であ り、 2つの 政党 が絶対 多数 を目指 して 競合し てい る。ま た二 党制の ルー ル
に従い 機能 するた めの 条件は 、
1) 2つ の政党 が絶 対多数 議席 の獲得 を目 指して 競合 してい る
30
2) 2党 のどち らか 一方が 実際 に議会 内過 半数勢 力を 獲得に 成功 する
3) 過半 数を得 た政 党は進 んで 単独政 権を 形成し よう とする
4) 政権 交代が 行わ れる可 能性 がある
の4つ であ る。
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(5) 穏健 な多党 制
穏健な多党制は二党制や分極的多党制とも違った特性をもつためそれらとは
別に区 分さ れる。 基本 的にイ デオ ロギー 距離 が小さ い3 ∼5の 政党 が選挙 で競 争
5
し、政 党間 に体制 論争 が存在 せず に政策 距離 が小さ く、 また中 央に よる求 心性 が
あると いっ た政党 シス テムで ある 。ここ では 事実上 、全 ての政 党が 政権を 担当 す
る機会 をも つ。
例: 旧西 ドイツ 、ス ウェー デン 、アイ スラ ンド
10
(6) 分極 的多党 制
分極的 多党 制はイ デオ ロギー 距離 が大き い6 以上の 政党 が選挙 で競 争する 。ま
たこの 政党 制の特 徴と してそ の国 の政治 体制 を否定 する ような イデ オロギ ー志 向
の強い 反体 制政党 の存 在が挙 げら れる。 反対 政党は 政権 に参加 する ことが 出来 ず
排除さ れる 。
15
(7) 原子 化政党 制
以上六 つの 政党制 以外 に、突 出し た政党 がい なくま た政 党数が 10 ,20 のよ
うな多 数政 党制状 態を 指す。
20
3−1 −3 .
レ イプ ハルト
上記に もあ るデュ ヴェ ルジェ やサ ルトー リの 政党分 類は 画期的 であ った。 次に
25
紹介す るの はアレ ンド ・レイ プハ ルトが 行っ た分類 であ る。そ れは 基本的 に人 民
による 統治 という 最も 基本的 な民 主主義 の定 義から 派生 してい て、 多数決 型民 主
主義( ウェ ストミ ンス ター型 モデ ル)と 合意 形成型 民主 主義( コン センサ ス型 モ
デル) の2 つに分 けら れる。
多数決 型民 主主義 とは 多数派 によ る統治 を少 数派に よる 統治よ り優 先する 。ま
30
たぎり ぎり の過半 数に 政治権 力を 与える こと に焦点 を置 き、多 数派 の意志 が効 率
的に実 現さ れるこ とを 力点と する 自由民 主主 義体制 であ る。特 性と して含 まれ る
のは単 独過 半数政 権や 議院内 閣制 、二大 政党 制など が挙 げられ る。
それ に対 して合 意形 成型民 主主 義は、 多数 決とい う基 本のル ール は変わ らな い
が多数 派の 規模を 最大 化しよ うと する。 統治 への幅 広い 参加や 政府 の政策 に対 す
35
る広い 意見 の一致 を目 指し政 治権 力を様 々な 方法で 共有 しよう とす る自由 民主 主
義体制 であ る。そ して 特性と して 大連立 を含 む連立 政権 、大統 領制 や多党 制な ど
が対象 とな る。
この 2つ の分類 をま とめる と次 ページ のよ うに表 され る。
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図4
政党制
レイ プハル トに よる分 類
多数決 型民 主主義
合意形 成型 民主主 義
◎二大 政党 制
◎多党 制
サルト ーリ の分類 に当 てはめ る
5
多数決 型民 主主義
合意形 成型 民主主 義
◎一党 優位 政党制
政党制
◎二大政党制
◎穏健な多党制
◎分極的多党制
10
3−1 −4 .
ブ ロン デル
レイ プハ ルトが 分類 したの は上 述した が、 これで は政 党制の 定義 が綿密 に表 さ
れない。そこでレイプハルトが推奨するブロンデル 9 の政党制の分類について挙
15
げる。 ブロ ンデル は政 党の数 とそ の相対 的な 規模と の両 方を考 慮す る政党 制の 分
類 を 提 案 し た 。 そ の 方 法 と し て は ま ず 有 効 政 党 数 10 と 議 席 割 合 の 表 を 用 い て 二 大
政党制 ・2 .5政 党制 ・優位 政党 のある 多党 制・優 位政 党のな い多 党制の 4つ に
以下の よう に分類 した 。そし て経 済政策 論パ ートで はこ のブロ ンデ ルの定 義を 政
党制の 定義 として 当て はめる 。
20
(1) 二大 政党制
他に いく つかの 小規 模な政 党が 議会に おい て存在 して も、結 局は 二つの 大政 党
によっ て支 配され る政 党競合 のシ ステム 。
例: イギリ ス、 ニュー ジー ランド など
25
(2) 2.5 政党制
ブロ ンデ ルは二 大政 党制の 大き な2つ の政 党に加 えて 連立可 能性 のある 、ま た
は 政 治 的 に 重 要 な 役 割 を 果 た す 政 党 が 存 在 す る 場 合 を 2 .5 政 党 制 と 呼 び 、 2 .5
30
以上の 政党 をもつ 政党 制は多 党制 である と考 える。
例: ドイツ 、ル クセン ブル グの自 由党 、アイ ルラ ンドの 労働 党など
9
10
レ イ プ ハ ル ト 著 (1999),(粕 谷 訳 (2005))
P14 参 照
12
第9回公共選択学会学生の集い
東海大学川野辺ゼミナール23期
経済政策論パート
(3) 優位 政党の ある 多党制
この 定義 は前述 した サルト ーリ の多党 制の カテゴ リー の1つ で一 党優位 政党 制
と似て いる 。しか しサ ルトー リの 定義と 異な る点と して 、サル トー リは優 位政 党
5
を議席 の過 半数( 多数 派)を 占め 事実上 政権 交代が 起き ないと して いたが ブロ ン
デルの 主張 する優 位政 党は、 仮定 である が議 席の割 合が 優位政 党は 45% 近く と
してい る。
例: 圧倒的 勢力 をもつ 19 90年 代の イタリ アの キリス ト教 民主党 など
10
(4) 優位 政党の ない 多党制
この 政党 制もサ ルト ーリの 分類 によく 似て いる。 多党 制で優 位政 党がな いと 議
席割合 が最 大議席 獲得 政党で も2 5%と 他の 政党と 横並 びで突 出し た政党 がな い。
例: オラン ダ、 スイス 、フ ィンラ ンド など
図5
15
ブロ ンデル が行 った分 類
政党制
仮定の 議席 割合
有効政 党数
二大政 党制
55-45
2.0
2.5 政党制
45-40-15
2.6
優位政 党の ある多 党制
45-20-15-10-10
3.5
優位政 党の ない多 党制
25-25-25-15-10
4.5
ブロン デル が分類 を行 ったの は以 下のよ うな 理由が ある 。それ は政 党数の 数え
方につ いて である 。政 党を数 える 際には 色々 な考え 方が あり中 でも サルト ーリ の
政党の 数え 方は先 程も 述べた が今 でも有 名な 方法の 一つ である 。ブ ロンデ ルは そ
20
んなサ ルト ーリの 数え 方に疑 問を 持った のだ 。
サルト ーリ による 政党 の数え 方の 基準は 、議 会で議 席を もたな い政 党を無 視し
議席数 に比 例して 政党 の強さ を測 定すべ きで あると 主張 する。 また 、一部 の政 党
を計算 に含 めたり 含め なった りと いう境 界は 設ける べき でない と主 張した 。そ し
て連立 可能 性のあ る政 党(単 独政 権を形 成す る政党 は当 然であ るが 、すで に連 立
25
内閣に 参加 してい る政 党、さ らに 有力政 党が 将来の 連立 パート ナー にとみ なす 政
党)ま たは 脅迫可 能性 のある 政党 を意味 のあ る政党 とし て構成 要素 として 数え る
べきだ とし ている 。ま たイデ オロ ギー的 に他 の政党 に容 認され てい ない党 、連 立
可能性 をも たない 党で も規模 が大 きけれ ば数 えるべ きで あると する 。例と して 挙
げたの が1 970 年代 まで勢 力が 強かっ たイ タリア とフ ランス の共 産党で ある 。
30
このサ ルト ーリの 基準 は政党 間競 合にお いて 重要な 政党 とそう でな い政党 との 区
別とい う点 では非 常に 有益で ある が、い くつ 政党が ある かとい う点 では適 当で は
ない。 その 理由と して サルト ーリ の基準 は規 模の問 題と イデオ ロギ ー的に 受け 容
れられ るか どうか とい う二つ の変 数に基 づく にも関 わら ず、規 模の 要因が 決定 的
13
第9回公共選択学会学生の集い
東海大学川野辺ゼミナール23期
経済政策論パート
になる 点で ある。 規模 の大き な政 党こそ が脅 迫可能 性の ある政 党と される が、 同
時に連 立可 能性を もつ 政党に なる にはあ る程 度規模 が必 要であ る。 議席数 が少 な
い小政 党は 穏健で イデ オロギ ー的 にも受 け容 れられ るか もしれ ない が、内 閣形 成
5
に貢献 する ための 力を 持たな いと いう理 由で 連立可 能性 を有す るこ とはな い。 そ
のため 数え るべき 政党 とは主 に規 模を基 準と してい るこ とにな る。 二つを 変数 に
してい ると いって も事 実上は 規模 の問題 1つ になっ てし まうの であ る。こ うし た
考えを 覆そ うとし たの がブロ ンデ ルによ る分 類なの であ る。そ して 我が経 済政 策
論パー トで はこの ブロ ンデル によ る政党 制の 分類に 日本 を当て はめ て分析 する 。
10
3−2 .有 効政党 数
15
日本で の政 党制の 分類 を行う 前に 、では なぜ このブ ロン デルの 分類 で用い られ
る指標 が有 効政党 数な のかと いう 点につ いて 触れて おく 。そも そも 有効政 党数 と
は各政 党の 議席率 を自 乗して 合計 した値 の逆 数であ る。 またこ れは 相対的 規模 を
考慮に 入れ て政党 数を 正確に 測定 できる 指標 として 取り 上げら れて いる。 優位 政
党など の概 念は大 規模 政党や 弱小 政党の 存在 を強調 する には有 用な 役割で ある が、
20
精密さ に欠 けてい る。 その不 一致 な概念 を解 消させ るた めに有 効政 党数と いう の
が用い られ ている とい うのが 理由 の一つ であ る。
色んな 視点 からみ ても 政党の 規模 はまち まち であり 、そ れを同 じウ エイト でカ
ウント する のでは 問題 がある 。特 に極め て小 さい政 党が 数多く 存在 すると きに そ
れをそ のま まカウ ント してい けば 小政党 の多 い多党 制に なって しま う。や はり 実
25
際に政 党制 を考え る上 で重要 なの は、主 要な 政党の 規模 と配置 であ って極 小政 党
を考慮 して しまう と複 雑化し てし まう。 有効 政党数 は自 乗して 極小 政党が 過小 評
価され る仕 組みに なっ ている のが この指 標の 評価さ れる 点であ る。
この有 効政 党数は M.ラグソ ー と R.タゲ ペラが 開発 し力の 持つ 政党を 調べ るに
はふさ わし い。今 日の 比較政 治学 では広 く使 用され てい て時系 列で 政党の 傾向 を
30
調査す る場 合や、 選挙 制度変 更の 効果を 調べ る場合 など に有効 であ るとい う。 ま
たここ での 計算は 議会 で各政 党の もつ議 席数 を基に して いるが 、日 本のよ うな 2
院制議 会の 場合は 通常 より強 い権 力のあ る衆 議院(下 院 議会)を 対 象とし てい る。
図6
35
N =
1
∑ si
2
有効 政党数 の数 式
N: 有効 政党数
14
si: 各政党 の議席 割合
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経済政策論パート
4.
日本の政党制の変遷
日本での政党制の分類をするために最終的に決定権をもつ衆議院議員選挙の
5
結果を ブロ ンデル が行 った政 党制 分類に 基づ いて分 析す る。
まずブロンデルの分析は政党制を議席割合と有効政党数に分けて分類したこ
とは先 程述 べた。 まず この分 析を 行うに あた り日本 で自 民党優 位で あった 55 年
体制の 始ま りの1 95 5年か ら選 挙制度 改革 が起き た1 994 年を 含めた 20 0
5年ま での 衆議院 議員 選挙に つい て有効 政党 数と議 席割 合を別 に当 てはめ た。
10
4−1 .有 効政党 数で みた分 類
表7
有効 政党数 での 分類
優位政 党の ある
優位政 党の ない
多党制
多党制
2.6
3.5
4.5
②
③
④
政党制
二大政 党制
2.5 政党 制
有効政 党数
2
該当番 号
①
表8
有効 政党数 での 日本の 政党 制
年度
有効政 党数
小選挙区
比例代表
該当結果
1955
3.684
③
1958
1.984
①
1960
2.002
①
1963
2.151
①
1967
2.413
②
1969
2.501
②
1972
2.678
②
1976
3.200
③
1979
3.306
③
1980
2.742
②
1983
3.239
③
1986
2.576
②
1990
2.713
②
1993
4.202
④
1996
2.939
2.358
3.838
②
2000
3.169
2.362
4.716
③
2003
2.595
2.280
3.035
②
2005
2.270
1.763
3.145
①
注:1 99 4年に 選挙 制度が 変わ り現在 まで 小選挙 区比 例代表 制へ
15
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4−2 .議 席割合 でみ た分類
表9
議席 割合で の分 類
政党制
二大政 党制
2.5 政党 制
議席割 合
55-45
45-40-15
年度
5
優位政 党の ある
優位政 党の ない
多党制
多党制
45-20-15-10-10
25-25-25-15-10
該当
議席割 合( %)
結果
1955
24〈C〉40〈B〉14〈M〉19〈O〉1〈Q〉2〈S〉
③
1958
61〈A〉35〈O〉3〈S〉
①
1960
63〈A〉4〈N〉31〈O〉1 〈 R〉 1〈S〉
①
1963
61〈A〉5〈N〉31〈O〉1 〈 R〉 3〈S〉
①
1967
57〈A〉5〈 L〉 6〈N〉29〈O〉1 〈 R〉 2〈S〉
②
1969
59〈A〉10〈 L〉 6〈N〉19〈O〉3 〈 R〉 3〈S〉
③
1972
55〈A〉6〈 L〉 4〈N〉24〈O〉8 〈 R〉 3〈S〉
②
1976
49〈A〉3〈H 〉 11〈 L〉 6〈N〉24〈O〉3 〈 R〉 4〈S〉
③
1979
49〈A〉1〈H 〉 11〈 L〉 7〈N〉21〈O〉8 〈 R〉 4〈S〉
③
1980
56〈A〉2〈H 〉 6〈 L〉 6〈N〉21〈O〉1〈Q〉6 〈 R〉 2〈S〉
③
1983
49〈A〉2〈H 〉 11〈 L〉 7〈N〉22〈O〉1〈Q〉5 〈 R〉 3〈S〉
③
1986
59〈A〉1〈H 〉 11〈 L〉 5〈N〉17〈O〉1〈Q〉5 〈 R〉 2〈S〉
③
1990
54〈A〉9〈 L〉 3〈N〉27〈O〉1〈Q〉3 〈 R〉 4〈S〉
②
1993
44〈A〉11〈E〉7〈I〉3〈 J〉 10〈 L〉 3〈N〉14〈O〉1〈Q〉3〈 R〉 6〈S〉
③
1996
48〈A〉31〈E〉10〈 L〉 3〈O〉5 〈 R〉 2〈S〉
②
2000
49〈A〉5〈F〉26〈G〉2〈J〉6〈 L〉 4 〈 R〉 4〈S〉
②
2003
49〈A〉37〈G〉1〈J〉7〈 L〉 1 〈 O〉 2 〈 R〉 2〈S〉
②
2005
62〈A〉24〈G〉6〈 L〉 1 〈 O〉 2 〈 R〉 4〈S〉
①
注: 比較 する際 、四 捨五入 と中 間接近 値を 用いる 。
表10
政 党の分 類
自民党 = A
民主 (-55)= B
自由党 (-55)=C
新生党 = D
新進党 =E
自由党 (94-)=F
民主党 = G
新自由 クラ ブ= H
日本新 党= I
新党さ きが け= J
保守党 = K
公明党 =L
社会党 右派 =M
民社党 = N
社会党 = O
社民党 = P
社民連 (労 農党) = Q
日本共 産党 =R
諸派/ 無所 属= S
16
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日本の政党制について判断するために1955年から有効政党数と議席割合
につい て当 てはめ た。 有効政 党数 でみる と自 民党優 位体 制の始 まり は優位 政党 の
ある多 党制 であっ た。そして 二大 政党制、2,5政党 制、優位政 党の ある多 党制 と
5
移り変 わっ てきた。2,5政党 制、優位政 党の ある多 党制 を繰り 返し て時を 刻ん で
過ぎて いく が優位 政党 のない 多党 制は1 99 3年の 選挙 だけで ある 。19 55 年
に保守 合同 で誕生 した 自民党 と左 右統一 によ って生 まれ た社会 党を 基軸に とし て
長期間 続い たこの 2つ の政党 の競 合であ るが ここか らは 自民党 1党 が力を 奮う 結
果とな って しまっ た。 これを 55 年体制 と呼 び19 93 年の選 挙は 55年 体制 の
10
崩壊と 呼ば れ自民 党か ら政権 交代 が起き た。それ以 降は 2,5 政党制 になっ たり 優
位政党 のあ る多党 制に なるな ど2 005 年の 選挙で は二 大政党 制へ 近づい た。 で
は次に 議席 割合で みる 政党制 分類 をみる と有 効政党 数で 行った 分析 と似た よう な
結果に なっ た。1 8回 の選挙 の内 13回 は同 じ政党 制に 分類さ れた のであ る。
表11
有 効政党 数と 議席割 合に よる日 本の 政党制
政党制
二大政 党制
2.5 政党 制
該当番 号
①
②
優位政 党の ある
優位政 党の ない
多党制
多党制
③
④
15
20
25
30
年度
有効政党数
議席割合
1955
③
③
1958
①
①
1960
①
①
1963
①
①
1967
②
②
1969
②
③
1972
②
②
1976
③
③
1979
③
③
1980
②
③
1983
③
③
1986
②
③
1990
②
②
1993
④
③
1996
②
②
2000
③
②
2003
②
②
2005
①
①
35
17
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4−3 .現 在
日本の 政党 制を詳 しく 分類し たわ けであ るが 、ブロ ンデ ルの分 類方 法に基 づき
行うと 有効 政党数 と議 席割合 にお ける政 党制 の分類 はほ ぼ等し いこ とがわ かっ た。
5
また有 効政 党数は 増減 幅の推 移が 激しい が、ここ最 近に なり二 大政 党制で ある 2.
0へ近 づい ている こと がわか る。 議席割 合に おいて も二 大政党 制で ある割 合に 近
づいて いる 。日本 の政 党制の 傾向 として 55 年体制 が始 まった ころ は優位 政党 が
ある多 党制 であっ た。 そして わず かなが ら有 効政党 数は 伸びて いき 有効な 政党 数
が増え てい った。 つま りこの 2つ の項目 から の推測 とし ては、 現在 は二大 政党 制
10
に近づ いて いると いう ことが いえ る。ま た二 大政党 制に 近づく とい うこと は、 今
後二大 政党 制が本 格化 してい くこ とを意 味す る。
しかし 、日 本の二 大政 党制を スム ーズに 進行 させな い障 害があ る。
15
図12 日本の有効政党数(1995∼2005)
4.5
4.0
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
1955 1958 1960 1963 1967 1969 1972 1976 1979 1980 1983 1986 1990 1993 1996 2000 2003 2005
年度
20
18
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5
二大政党制を妨げる要因
5−1 .選 挙制度
5
5−1 −1
デュ ヴェ ルジェ の法 則
(1) デュ ヴェル ジェ の法則
選挙制 度を 考える うえ で、デ ュヴ ェルジ ェの 法則が ある 。デェ ヴェ ルジェ の法
則は政 治学 の分野 にお いて最 も信 頼でき る法 則の一 つと されて いる ので、 その 中
10
身をこ こで 説明し てお く。
デェ ヴェ ルジェ の法 則とは 、各 選挙区 の議 席定数 が1 のいわ ゆる 小選挙 区制 が
二大政 党制 を生み 、比 例代表 制は 多党制 を生 み出す とい う法則 であ る。
小選挙 区制 がなぜ 二大 政党制 を生 み出す ので あろう か。 各選挙 区で は有力 候補
者が2 人に なって いく 。そこ には 、以下 のよ うな合 理的 な行動 仮説 がある 。得 票
15
者は自 分の 一票が 死票 となる こと を避け たい と考え るた め泡沫 候補 を無視 しよ う
とする 。こ れによ り、 泡沫候 補に なると 思わ れる候 補者 は自主 的に 選挙か ら退 出
せざる をえ なくな る、 最終的 に生 き残る のは 有力候 補者 1人と なり 、当選 者と 最
も強力 な挑 戦者の 2人 になる 。こ うして デュ ヴェル ジェ は法則 を導 いた。
小選 挙区 制がな ぜ二 大政党 制や 一騎打 ちを 生むの だろ うか。 小選 挙区制 が一 騎
20
打ちを 生み 出すメ カニ ズムに は、 機械的 機能 と心理 的機 能の2 つが ある。
リード (2006)の 研究 によれ ば機 械的機 能と は、第 3政 党以下 の議 席数は 得票
率より も低 くなる とい うもの であ る。第 1・ 2党の 議席 率は得 票率 よりも 高く な
るので メリ ットが 大き い。し かし 、第3 政党 以下の 政党 にとっ ては 、選挙 する 見
返りが 少な い。1 98 0年代 のイ ギリス を例 にとっ てみ れば第 1保 守等の 得票 率
25
は40 %台 にすぎ なか ったに も関 わらず 、議 席率は 60 %近く に達 した。 第3 党
の自由 党は 逆に、 10 %の得 票率 で5% 弱の 議席率 しか 得られ なか った。 だか ら
得票率 で多 党制に なっ ても、 議席 数では 二大 政党制 にな る傾向 が強 い。
心理 的機 能とは 、戦 略的投 票行 動とい うも のであ る。 有権者 が、 当選の 可能 性
が低い 候補 者に投 じる のは大 事な 一票を 無駄 にする こと になる と考 え、当 選の 確
30
率が高 い第 1位や 第2 位の候 補者 に投じ るこ とであ る。 例えば ある 選挙区 にお い
て、候 補者 3人で 、A 候補が 45 %、B 候補 が40 %、 C候補 が1 5%と いう 得
票率の 結果 であれ ば、 次の選 挙の 時、C 候補 支持者 はC 候補に 投票 しても 勝て る
見込み はな いので 意味 がない と考 えて、 残り の候補 者2 人のう ちか ら自分 の考 え
に近い 候補 者に投 じる かもし れな い。機 械的 機能と 心理 的機能 の両 方の効 果が 再
35
度の研 究に よって 確認 されて いる 。
比例代 表制 では、 第3 政党や その 他の政 党の 議席獲 得を 妨げる 要因 はそれ ほど
働かな い。 各党は おお むねそ れぞ れの獲 得し た得票 率に 比例す る議 席を配 分さ れ
19
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る。そ の意 味で比 例代 表制は より 公平な シス テムで ある 。した がっ て、比 例代 表
制にお いて は小選 挙区 制の場 合よ り政党 の数 が多く なる 傾向が あり 、多党 制の 登
場を促 進す ること にな る。そ れは 有効政 党数 での数 値を 小選挙 区制 と比例 代表 制
5
を別に 表し た図1 3で も証明 され ている 。だ からデ ュヴ ェルジ ェの 法則は 日本 で
は有効 な法 則であ ると 判断で きる 。
図 13 小 選 挙 区 制 と比 例 代 表 制 の有 効 政 党 数 (1996∼)
5
4.5
4
3.5
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
小選挙区
1996
2000
2003
比例代表
2005
年度
10
(2) M+ 1の法 則
ここ では 中選挙 区に 関して リー ドが発 見し たM+ 1の 法則と いう 法則が ある 。
M+1 の法 則とは 有力 候補者 数が 議席定 数+ 1とな り、 中選挙 区の 均衡状 態は 落
15
選者一 名の みに収 斂す るとい うこ とであ る。 小選挙 区制 では、 M+ 2にな るの で
あって 同一 に考え るこ とがで きる 。分か りや すく事 例で 説明す ると 、例え ば定 数
3の選 挙区 で当選 に必 要な得 票率 を考え てみ る。
「3 3% ではな いか 」と考 えた と
する。し か し、もし も それが 正し いとす るな らば、2 人 区で必 要な 得票率 は5 0%、
1人区 は1 00% とい うこと にな る。当 然な がら1 人区 での当 選に 100 %の 得
20
票率は 不要 である 。1 人区で は5 0%よ り一 票多け れば 当選確 実と なる。 言い 換
えると 、一 人区で は5 0%以 下に ならな い限 り当選 が決 まる。 3人 区に当 ては め
ると、 4位 以下に なら ない限 り、 上位3 人に 入るの で、 当選が 確実 になる 。M +
1の法 則は 、日本 、台 湾、ア イル ランド など の分析 によ って立 証さ れ、合 理的 選
択論に でき る数理 的な 証明も なさ れた。 M+ 1の法 則は 、デェ ヴェ ルジェ の法 則
25
と並ぶ 信頼 できる 法則 である とい える(リ ー ド(2006))。
20
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5−1 −2 .中選 挙区 制
(1) 中選 挙区の 仕組 みと特 徴
中選 挙区 制度と は、 1選挙 区か ら複数 の当 選者を 出す 制度で ある 。特に 人数 が
5
多い場 合は 大選挙 区と 称する 場合 もある 。か つての 衆議 院総選 挙で は 1 選 挙区 あ
たり3 名∼ 5名選 出さ れる典 型的 な中選 挙区 制度で あっ た。現 在の 参議院 議員 選
挙でも 、選 挙区選 挙で 2∼4 名選 出され ると ころは 中選 挙区制 度で ある。 中選 挙
区のメ リッ トは、 複数 の議員 が当 選する こと によっ て少 数意見 も救 うこと が可 能
で、い わゆ る死票 が少 ないこ とで ある。 した がって 民意 をかな り忠 実に反 映す る
10
ことが 出来 る。一 方デ メリッ トは 、議会 にお いて多 数を 占め、 政権 を獲ろ うと す
る政党 は、 1選挙 区で 複数の 候補 者を出 さざ るをえ ない ことで ある 。その 際、 同
じ政党 同士 が競い 合う ため政 策の 違いで はな く地元 サー ビスの 強弱 や選挙 資金 の
多寡に よっ て競争 する 側面が ある 。また 政党 内の派 閥活 動を助 長す ること など に
もつな がっ ていく 。
15
(2) 中選 挙区制 と自 民党
中選 挙区 制のも とで 自民党 は長 期間に わた って政 権を 維持し てき た。そ こで 、
中選挙 区制 が優位 政党 のある 多党 制をも たら したの かど うかが 問題 となる 。こ の
点に関 して 、中選 挙区 制は戦 前に も用い られ ており 、ま た、戦 後初 期には 多党 制
20
が成立 して いたこ とか ら、中 選挙 区制が 優位 政党の ある 多党制 の必 要条件 でも 十
分条件 でも ないこ とは 明らか であ る(川 人( 2001))。戦 後の優 位政 党のあ る多 党
制は、 中選 挙区制 の下 で19 55 年体制 の成 立によ りい わば偶 発的 に生じ た。
しか し中 選挙区 制は 政党の あり 方に大 きな 影響を およ ぼした 。中 選挙区 制の も
とで過 半数 の議席 を制 すため には 、同一 選挙 区内で の複 数の候 補者 の擁立 を余 儀
25
なくさ れる 。その ため 候補者 は自 民党の 他候 補者を 潜在 的な競 争相 手とし て政 治
的競争 を戦 う必要 があ り、選 挙は 必然的 に候 補者本 位の 個人投 票と なる。 それ は
政党が 最適 な候補 者擁 立戦略 をと ること が困 難であ るこ とを同 時に あらわ す。
では 自民 党は長 期間 の1党 支配 におい て同 士討ち を軽 減する とと もに、 党の 政
策だけ で差 別化で きな い現状 をど のよう に対 応して いっ たのだ ろう か。自 民党 候
30
補者は 個人 後援会 をつ くり、 支持 者に対 する サービ スと 地元利 益誘 導活動 を展 開
した。 その 活動を 助け るため に、 自民党 は自 党の候 補者 が政府 の予 算編成 に介 入
して、地 元 への予 算ぶ んどり 活動 を通じ て票 獲得競 争を 行うこ とを 許容し てき た。
その際 、個 々の自 民党 議員は 、農 業利益 ・工 業利益 ・商 業利益 など 特定の 地元 サ
ービス に特 化する こと により 、選 挙区で の支 持争い の競 合をさ け、 互いに 差別 化
35
をはか った 。また 候補 者は選 挙区 内の異 なる 利益集 団の 支持を 取り 付けた 。こ う
して、 後援 会と利 益誘 導活動 は、 自民党 候補 が票を 均等 に分配 する 役割を 果た し
た。一 方、 きめの 細か い後援 会活 動には 多額 の資金 がか かり、 企業 や団体 から 巨
額の政 治資 金を調 達す る必要 があ った。 それ は支持 団体 への資 金依 存と支 持団 体
21
第9回公共選択学会学生の集い
東海大学川野辺ゼミナール23期
経済政策論パート
向けバ ラマ キ政策 を生 み出す 結果 になっ てし まった 。こ れによ り自 民党は 政治 資
金を提 供し てもら う見 返りと して 大企業 など の生産 者利 益を優 遇す る政策 を推 進
したた め、 有権者 の大 多数が 望む 政策、 主に 消費者 の利 益にな るよ うな政 策は 犠
5
牲にさ れ、 社会的 純損 失が生 じた 。また 支持 業界の 利益 の代弁 者と して行 動す る
族議員 にと っても 、裁 量性の 高い 政策運 営は 、官僚 に影 響力を 行使 して支 持団 体
に有利 な政 策を誘 導す る上で も有 利だっ た。 こうい った ことか らも 自民党 は利 益
誘導型 の政 治にな って いった 。ま た自民 党は 選挙区 で支 持団体 にた いして ニッ チ
市場を 開拓 するこ とに より政 治の チャネ ルを つけて いっ た。こ うし て自民 党は 各
10
政治家 の再 選確率 最大 化によ る自 民党の 包括 政党化 を成 功させ たと 言える だろ う。
5−1 −3 .小選 挙区 比例代 表並 立制
(1) 小選 挙区
小選 挙区 制度と は、 定員と 同数 の選挙 区を 区分け し、 1 選挙 区毎 に 1 人 の当 選
15
者を選 ぶ選 挙制度 の総 称であ る。 小選挙 区制 度のメ リッ トは、 1 人 区であ るた め
に候補 者を 選ぶ行 為が 政権を 選ぶ 行為と ほぼ 等しく なり 、一票 の価 値が中 選挙 区
制度よ り格 段に高 まる 。また 候補 者個人 中心 の選挙 でな く、政 党中 心の選 挙が 展
開しや すい 。さら には 選挙そ のも のによ って 、かつ ての 自民党 など におけ る派 閥
を助長 する 可能性 が低 い。小 選挙 区制度 のデ メリッ トは 、落選 した 候補者 の票 数
20
が政治 に生 かされ ない ため、 死票 が多く 少数 意見が 反映 されな い。 また政 党本 位
のため 無所 属の候 補者 にとっ て極 めて不 利な 制度と なっ ている 。さ らに与 野党 が
拮抗す る状 況では 、与 党と野 党の 入れ替 わり が激し くな り、政 権の 安定性 が損 な
われる 可能 性があ る。
25
(2) 比例 代表と 並立 制
比例代 表制 度とは 、各 々の有 権者 に1人 の当 選者を 対応 させる とき 、当選 者1
人あた りの 有権者 数が 出来る だけ 等しく 、な おかつ 、各 々の有 権者 に対応 する 当
選者が その 有権者 の最 も支持 する 立候補 者に 近付く よう に、当 選者 の集団 を構 成
する演 算手 順の総 称で ある。
30
そし て現 在、日 本の 衆議院 議員 選挙と なっ ている のが 、小選 挙区 比例代 表並 立
制であ る。 すなわ ち、 文字通 り1 選挙区 から 1人し か選 出され ない 小選挙 区制 度
からは 30 0名が 、残 り18 0名 が全国 を9 ブロッ クに 分けた 比例 代表制 度に よ
って選 出さ れる。 さら に小選 挙区 から立 候補 した候 補者 が、同 時に 比例代 表制 度
にも立 候補 できる とい う重複 立候 補制度 を導 入した ため 、2つ の制 度が絡 み合 う
35
並立制 と呼 ばれる 。
22
第9回公共選択学会学生の集い
東海大学川野辺ゼミナール23期
経済政策論パート
(3) 中選 挙区制 から 小選挙 区比 例代表 並立 制へ
ここで中選挙区制から小選挙区比例代表並立制へとなっていった道筋を見て
いく。 改革 前の衆 議院 議員の 選挙 制度は 中選 挙区制 であ った。 しか し、中 選挙 区
5
制のも とで は同一 政党 内の同 士討 ちによ る政 策論争 がお き派閥 政治 が行わ れる よ
うにな り地 元利益 誘導 と政治 腐敗 をもた らす と前述 した が、多 くの 研究者 も述 べ
同様の こと を述べ てい る。そ して 日本は 19 94年 小選 挙区比 例代 表並立 制を 導
入する 。デ ュヴェ ルジ ェの法 則に より小 選挙 区制は 二大 政党制 に近 づいて いく 。
二大政 党制 である と、 与党に 対し て不満 であ れば有 権者 は最大 野党 に投票 して 政
10
権交代 を起 こしや すく なる。 つま り有権 者は 政権を 直接 的に選 ぶこ ととな り、 そ
の結果 、与 党は真 剣に ならざ るを 得ない 、妥 協が生 まれ る余地 がな いので 政策 の
結果を はっ きりと 評価 でき責 任の 所在が 明確 になる 利点 がある 。現 在の日 本を 有
効政党 数で みれば 二大 政党制 が本 格化し てい ること は4 章で述 べた 。ここ では 日
本の二 大政 党制が 本格 化する につ れて、 進行 を妨げ る要 因があ るの でそれ を考 え
15
ていく 。
以下 、和 田(2004)で は第 1 に、 衆議院 選挙 の制度 自体 が、二 大政 党制へ の充 分
なイン セン ティブ を与 えてい ない 。1次 元の 単純な 政治 構造に おけ る小選 挙区 制
でも、 小政 党の存 在ゆ えに中 位投 票者の 意見 が適切 に反 映され ない 可能性 があ る
として いる 。
20
日本は小選挙区のデメリットを補うかたちで、比例代表制を並立させている。
これに より 地元へ の利 益誘導 や政 治腐敗 を防 ぐとい った メリッ トは あるか もし れ
ない。 しか し、こ の比 例代表 制で は少数 政党 所属候 補者 が当選 する 余地が あり 、
二大政 党制 が本格 化す ること を妨 げてい る。
次に 衆院 を取り 巻く ほかの 選挙 も障害 と考 えられ る。 参議院 選挙 は各都 道府 県
25
別に1 人か ら4人 の当 選者が 割り 当てら れる 選挙区 選挙 と、全 国を 1つの 選挙 区
とする 比例 代表選 挙の 併用に よっ て行わ れる 。これ によ り自民 党は 参議院 で議 席
をとれ ずに 、参議 院に おいて 公明 党がキ ャス ティン グボ ートを 握っ ている 。そ れ
により 連立 政権な ので ある。 自民 党は公 明党 との連 立政 権で自 民党 は自ら の政 策
を行う 時に 、参議 院に おける 公明 党の拒 否権 により 政策 を円滑 に実 施でき ない の
30
ではな いか 。これ は政 策のブ レを 生じさ せ国 民が支 持し ない政 策が 行われ る可 能
性が高 い。 政策へ の影 響は7 章で 実証分 析に より検 証す る。
(4) 小政 党とい う障 壁
日本の二大政党制への流れを妨害するものに選挙制度を挙げたがもう1つ小
35
政党の 存在 がある 。た だし、 本稿 では新 党日 本、日 本新 党、新 党大 地等は あま り
影響力 も無 く一時 的な ものと 思わ れるの で除 外する 。
ここでは日本において第3の政党の立場を確立し特異な体質を持つ公明党に
ついて 述べ る。特異 な 体質と は公 明党の 支持 母体を 指し 、それは 創 価学会 であ る。
23
第9回公共選択学会学生の集い
東海大学川野辺ゼミナール23期
経済政策論パート
創価学 会と は、日蓮 正 宗系の 新興 宗教で あり 821 万世 帯10 00 万人(出 口 調査
の推定 では 400 万人 強)の会 員 が所属 して いる。公 明 党は現 在2 005 年度 衆議
院議員 選挙 200 3年 参議院 選挙 で、衆 議院 31議 席、 参議院 24 議席を 獲得 、
5
政党規 模と しては 3番 目に大 きい 政党で 自民 党と連 立政 権を運 営し ている 。公 明
党の強 みは 創価学 会と いう安 定し た票の 供給 者を持 つ事 である 。創 価学会 の会 員
は政策 を見 て投票 する わけで はな く、常 に公 明党に 投票 するこ とに なる。 よっ て
公明党 は提 案した 政策 や実績 によ って得 票に 影響が 出な い。毎 回あ る程度 得ら れ
る票の 数を 予測で きる のであ る。 過去の 事例 や次ペ ージ 図14 、1 5を見 ても わ
10
か る と お り 創 価 学 会 が 問 題 を 起 こ さ な け れ ば 獲 得 議 席 は 安 定 し て い る (参 議 院 1
995 年は 2つに 分裂 したた め、 衆議院 19 72年 は電 話盗聴 事件 、言論 ・出 版
妨害事 件、 衆議院 19 80年 は電 話盗聴 事件 の影響 を受 けたと 思わ れる)。
公明党 はそ の強み を生 かして その ときの 最有 力政党 と組 むこと で常 に与党 とし て
政権を 握っ ていら れる のであ る。 連立を 組む 方の政 党と しても 安定 した得 票数 を
15
持ち、 なお かつあ まり 政策に つい て強い 発言 権を持 って いない 公明 党は連 立を 組
むには 最適 な相手 とい える。 事実 、自民 党は 小選挙 区で の戦い のと きに公 明党 と
調整を つけ 自民党 と公 明党の 候補 者が被 らな いよう に候 補者を 立て 公明党 の票 が
自民党 に、 自民党 の票 は公明 党に 流れる よう にして いる 。
問題は 公明 党の掲 げる 政策と 自民 党の掲 げる 政策は 異な るもの が多 い事、 衆議
20
院で自 民党 が単独 過半 数を取 って いる今 も公 明党が 連立 を組み 続け ている こと で
ある。 更に 宗教団 体を 支持母 体に 持つこ とで 政教分 離の 原則に 違反 してい ると も
考えら れる 。そも そも 政策の 似て いない 両党 が連立 する のはお かし い話で ある 。
ではな ぜ両 党は連 立を 組んで いる のか。
まず、 自民 党の思 惑と して考 えら れる理 由は 第1に 衆議 院では 単独 過半数 を超
25
えてい る自 民党も 、参 議院で は単 独で過 半数 を取れ てい ないこ とが 挙げら れる 。
参議院 で過 半数が 取れ ていな くて も衆議 院で 過半数 を占 めてい るの で
優越
衆 議院 の
で法 案を可 決す ること は出 来る。 しか し連立 を組 んでい ない と法案 通過 が
スムー ズで 無くな り、 このこ とが 政策に ブレ を生じ させ てしま い国 民にと って 最
良では ない 政策が 行わ れる可 能性 が高く なっ てしま う。 また法 案が 1度否 決さ れ
30
衆議院 で議 論後に 可決 となる と1 つの法 案を 可決す るス ピード が遅 くなる ため に
法整備 が遅 れてし まう という 欠点 もある 。第 2に保 険の 意味で の連 立を組 んで い
る可能 性が ある。 これ から先 の衆 議院選 挙、 参議院 選挙 を見据 えた とき、 自民 党
がもし 単独 過半数 を失 った場 合に 公明党 に協 力して もら えるよ うに 今のう ちか ら
連立を 組ん でおく ほう が自民 党に とって は有 利に働 くた めだ。 第3 に公明 党の 安
35
定した 得票 率を分 けて もらう こと で自民 党自 体の得 票率 を上げ るこ とがで きる こ
とも魅 力と なって いる 。特に 首都 圏で弱 さを 見せる 自民 党とし ては 首都圏 に会 員
の多い 公明 党の票 が自 民党に 集ま ること で弱 点を補 完す ること が出 来る。 つま り
公明党 の存 在は大 きい といえ る。
24
第9回公共選択学会学生の集い
東海大学川野辺ゼミナール23期
経済政策論パート
公明党が連立する理由としては議席数が多いとはいえず政策実行力の無い公
明党に とっ て与党 にな ること で少 しでも 政策 を実行 した いとい う思 惑があ る。 近
では2 00 3年4 月に 名誉毀 損の 賠償金 を上 げる法 案が その一 つと して挙 げら れ
5
る。こ れは 反創価 学会 メディ アへ の牽制 のた めに創 価学 会が要 請し たとい われ
ている 。そ して、 自民 党と民 主党 の二大 政党 のすき 間に 入りキ ャス ティン グボ ー
トを握 るこ とで存 在感 を示そ うと も考え てい る。
二大政 党制 への流 れを 妨害す るも のとて 公明 党の問 題点 を調べ てき たが、 調べ
ると公 明党 は創価 学会 への利 益誘 導とキ ャス ティン グボ ードを 握る という 2点 の
10
みのた めに 存在し てい るよう な気 がする 。し かし、 現実 的に考 えて 連立を 止め さ
せるこ とは 出来な いの で我々 はイ デオロ ギー に差異 はあ るが自 民党 と公明 党は 2
つで1 つと 考える こと にする 。そ れは、 公明 党の存 在が 自民党 の政 策に大 きな 影
響を与 えて いるわ けで はない 、連 立の期 間が 長く、 自民 党の衆 議院 議席数 が過 半
数を超 えた にもか かわ らず連 立を 続けて いる からで ある 。
15
図14 公明党 議席数 (参議院)
20
25
16
14
12
10
8
6
4
2
0
14
14
12
10
13
10
11
10
9
公明党
0
1968 1971 1974 1977 1980 1983 1986 1989 1992 1995 1998 2001 2004
選挙の行われた年
図15 公明党 議席数 (衆議院)
80
55
60
47
40
20
14
12
30
35
14
25
58
57
33
56
46
51
31
34
29
公明党
0
1967 1969 1972 1976 1979 1980 1983 1986 1990 1993 2000 2003
選挙の行われた年
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第9回公共選択学会学生の集い
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経済政策論パート
小括
我々 が今 まで述 べて きたこ とし ては、 政党 制の分 類と いうの は日 本の政 党制 を
5
どのよ うに 判断す るか という 点に おいて 非常 に有益 であ る。各 々の 分析に よっ て
言葉の ニュ アンス は似 ていて も意 味が全 く異 なるこ とも ある。 そこ で挙げ たの が
デュヴ ェル ジェ、 サル トーリ 、レ イプハ ルト 、ブロ ンデ ルの例 であ る。デ ュヴ ェ
ルジェ は政 党制の 分類 の先駆 けと して政 党制 を3つ に分 類した 。サ ルトー リは 1
970 年代 以降の 分類 方法と して 多党制 を詳 しく分 け、 現在ま でも 浸透し てい る
10
分類で ある 。しか しそ んなサ ルト ーリの 分類 に疑問 をも ち従来 とは 異なる 政党 制
の分類 を行 ったの がブ ロンデ ルに よるも ので ある。 この 手法は レイ プハル トか ら
も推奨 され 非常に 優れ ている とい える。 その 根拠は 政党 の数え 方に ある。
政党数 の把 握は何 を基 準にす るか で変わ って くる。 しか しブロ ンデ ルは有 効政 党
数と議 席割 合によ り該 当する 政党 制を判 断す る形を 用い て、議 席数 の少な い極 小
15
政党を 過小 評価さ れる 工夫が され ている ので ある。 そこ で我々 経済 政策論 パー ト
では日 本の 過去か ら辿 り政党 制を 当ては めた 。する と優 位政党 のあ る多党 制か ら
最近に かけ ては二 大政 党制に 近づ いてい るこ とがわ かっ た。し かし 、その 裏側 に
は二大 政党 制の進 行を 妨げる 障害 があっ た。
デュ ヴェ ルジェ の法 則によ ると 、小選 挙区 制は二 大政 党制を もた らし比 例代 表
20
制は多 党制 をもた らす とある 。こ れは有 効政 党数で みて 成り立 つと いえる 。し か
し、中 選挙 区制か ら小 選挙区 比例 代表並 立制 へ移行 する にあた り比 例代表 制で は
少数政 党所 属候補 者が 当選す る余 地があ り、 これは 二大 政党制 の本 格化を 妨げ て
いる。 さら に参議 院議 員選挙 での 問題で ある 。自民 党は 参議院 での 選挙は 絶対 多
数議席 を獲 得でき ず公 明党と 連立 政権を 担っ ていて 、つ まり互 いの 利益を 出す た
25
めに連 立を 組んで いる 。今現 在、 獲得議 席が 多い自 民党 と民主 党の 間にキ ャス テ
ィング ボー トを握 る形 で存在 して いる。 公明 党は与 党入 りを念 頭に 、自民 党は 政
権を握 るこ とを第 一に 連立を 組ん でいる ので ある。 つま り互い の関 係を大 切に す
るので 公明 党がい るこ とで自 民党 の政策 への 影響は 少な いとい える 。
二大 政党 制への 流れ が主流 にな ろうと した 上での 障害 である が、 それほ ど影 響
30
は出ず 、二 大政党 制は これか ら根 付いて いく ことだ ろう 。
35
26
第9回公共選択学会学生の集い
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経済政策論パート
6 政策決定はどう変わるか
公共選択的における政策決定の理論はダウンズを出発にしている。ダウンズ
5
(1957)で は、政 治家 と市民 とい う二つ の主 体から なる 単純化 され た民主 主義 モ
デルを 用い て政策 決定 を理論 的に 説明し た。 そこで 重要 なのは 、政 治過程 に登 場
する政 治家 や市民 を合 理的で かつ 私的利 益を 追求す る主 体であ ると 想定し たこ と
である 。た とえば 、政 治家は 自ら が選挙 で当 選する こと を目指 すた めに得 票率 の
最大化 を目 指すの であ る。そ の想 定の下 で、 実際に 政治 過程に 登場 するの は、 上
10
に挙げ た政 治家と 官僚 そして 利益 集団の 3主 体であ る。 政治家 は得 票の最 大化 、
官僚は 獲得 予算の 最大 化や自 由裁 量権の 最大 化、利 益集 団は政 府の 供給す る政 策
を通し て自 己の利 益を 最大化 させ るよう に行 動する と仮 定され る。
また 公共 選択論 では 政策決 定に おいて 政治 市場を 想定 してい る。 そこで はそ の
3主体 が交 換を行 う。 その間 で交 換され るの は、政 策決 定主体 であ る政治 家や 官
15
僚から 利益 集団へ は彼 らの効 用が 高まる 、つ まり独 占的 利益を 得ら れるよ うな 政
策や権 限、利益集 団か らは政 策決 定主体 へは 票、情 報、資金と いっ た政治 的支 持・
資 源 で あ る 11 。 し た が っ て 、 こ れ ら の 主 体 の 利 益 が あ い ま っ て レ ン ト シ ー キ ン グ
活動へ と駆 り立て られ るので ある 。レン トシ ーキン グ活 動は政 策決 定に関 する 情
報を隠 蔽し 、政策 は細 分化・ 特殊 化・大 義名 分化さ れる 12 。
20
6−1 .中 選挙区 制で の政策 決定
日本 的な 政策決 定シ ステム は官 僚が主 導し てきた とこ ろに特 徴が ある。 特徴 的
な構造 とし て、川 野辺 (2005)で は、所 管官 庁が産 業を 育成し 、競 争フレ ーム を
作りな がら 、監視 ・裁 定も行 うと いった 裁量 性をあ わせ もち、 経済 政策の 決定 と
25
運営は 相互 間の交 渉と 協調の なか で実施 され 、それ に沿 って族 議員 の影響 のも と
に官僚 が主 導し、 業界 が協調 して 対応す ると いう政 官業 のトラ イア ングル が形 成
された とし ている 。
わが 国の 予算編 成方 式は族 議員 の個別 利益 要求を 財務 省が総 合調 整する スタ イ
ルを長 らく とり、 本来 の内閣 の役 割が空 洞化 してい た。 そうい った 与党主 導体 制
30
は政策 決定 の透明 性に 欠け、 族議 員の発 言力 が強ま り、 国会の 議論 の空洞 化を 招
いた 13 。
35
11
12
13
河 野 ( 1990) p.221
川 野 辺 ( 2005) p.333
岩 本 ( 2006)
27
第9回公共選択学会学生の集い
東海大学川野辺ゼミナール23期
経済政策論パート
6−2 .並 立制で の政 策決定
並立 制へ の移行 後の 大半を 占め るのは 小泉 政権で ある 。その 観点 から小 泉政 権
の政策 決定 を検証 する 。
5
小泉政権での政策決定は首相の権限が強いイギリスの議員内閣制を参考にし
たもの であ る。そ れは つまり 首相 中心の 内閣 主導体 制構 築、官 僚主 導の排 除、 族
議員政 治と の決別 を掲 げた。 そし て国の 政策 決定に 対し て、大 きな 変化を 与え た
のが経 済諮 問会議 の存 在であ る。 経済諮 問会 議の存 在に より以 前の 縦割り 省庁 、
族議員 を柱 とした 政策 決定の 流れ を壊し 、新 たな政 策決 定のプ ロセ スを生 み出 し
10
た。
従来 の政 策決定 プロ セスは 縦割 りの官 僚構 造と族 議員 を中心 とす る積み 上げ 方
式で展 開さ れてい た。 これに より 新たな 意向 が国の 政策 や制度 設計 に反映 され に
くい状 況を 生みだ して いた。
経済財 政諮 問会議 は、 こうし た縦 割りの 積み 上げ方 式に よる従 来型 の政策 決定
15
に対し て、 政策の 枠組 みを直 接提 示し、 その 下で最 終的 な政策 決定 に結び つけ る
ことが でき る仕組 みを 提供し た。 また議 長が 内閣総 理大 臣であ り、 経済諮 問会 議
の決定 やそ こでの 総理 の発言 は政 策決定 に大 きな影 響を 与えた 。ま た内閣 を中 心
とする こと で、派 閥や 官僚の 力を 弱める こと ができ る。 さらに 時に は議院 内閣 制
の趣旨 から 外れ、 政府 と自民 党が 対立す るこ ともあ った が、そ の意 義は大 きく 、
20
岩本(2006)では、内 閣主導 のプ ロセス が財 政健全 化に 資する こと を示し てい る。
こうし て官 僚主導 のシ ステム から 内閣主 導政 策決定 シス テムに 移行 させた 。
政策決 定シ ステム を内 閣主導 に変 えたこ とで 、経済 諮問 会議を 中心 とし、 郵政
や道路 公団 民営化 、三 位一体 改革 など歴 代政 権がタ ブー として きた 問題に 、小 泉
政権が 手を つけ既 得権 に切り 込む ことが でき たとい える 。
25
次章では二大政党制が本格化した際に政策決定の変更によって経済パフォー
マンス に影 響があ るか を実証 分析 によっ て検 証する 。
30
35
28
第9回公共選択学会学生の集い
東海大学川野辺ゼミナール23期
経済政策論パート
7
実証分析
7−1 .二 大政党 制と 経済成 果の 関係性
以上 の議 論を踏 まえ 、今後 日本 におい て二 大政党 制が 本格化 して いくも のと 仮
5
定して 、実 証分析 を行 う。
4章 でも 述べた よう に、有 効政 党数が 2に 近づく とい うこと は、 二大政 党制 に
近づく とい うこと であ り、政 権交 代が起 こり やくな るこ とを示 して いる。 政権 交
代が起 こり やすく なる という こと は、与 野党 が伯仲 して いる状 態に あると いう こ
10
とであ る。 もし、 その 伯仲し た状 態で経 済パ フォー マン スを低 下さ せたな らば 、
政権を 獲ら れる可 能性 が高く なる 。だか ら、 政権を 担当 する与 党は 必死に なっ て
経済パ フォ ーマン スを 良くし よう とする 。つ まり二 大政 党制に なる ことで 与野 党
が競争 状態 になり 、政 権交代 にプ レッシ ャー を与え られ るなら ば、 パフォ ーマ ン
スを上 げる ために 経済 政策に 良い 影響を もた らすこ とが 考えら れる 。この 仮説 に
15
従うな らば 、結果 とし て、経 済パ フォー マン スを有 効政 党数で 説明 できる はず で
ある。
7−2 .デ ータ設 定と 回帰分 析
本稿 で分 析対象 とす るのは 主要 先進諸 国( G7:日・米・英・独・加・仏・伊)
20
の19 85 ∼20 04 年まで の2 0年間 のデ ータで あり 、サン プル 数は1 40 と
なる。 非説 明(従 属) 変数に は、 R.BarroやA.Okunが 考 案したMisery Index(悲惨
指数) 14 、失 業率、イ ン フレ率、成 長率、財 政 収支率( 対 GDP 比)、説明( 独 立)
変数に は、 各国特 有の 条件を 考慮 したダ ミー 変数と 有効 政党数 (E NP) を用 い
る。説 明変 数に関 して は、O EC D(Statistics v.3,0)の提 供す るデー タを 利
25
用する 。た だし、 財政 収支率 に関 しては 、1 990 年以 降のデ ータ しか入 手で き
ないた め、 サンプ ル数 を10 5と して分 析を 行う。 有効 政党数 は、 隔年( もし く
は数年 に1 度の頻 度) で選挙 が行 われる ため に次の 選挙 が行わ れる まで政 党数 は
変わら ない ものと 仮定 する。 また 、有効 政党 数が2 に近 づけば 二大 政党制 に近 づ
いてい ると いうこ とに なるか ら、有効政 党数 から2 を引 き、その 絶 対値を とる 15 。
30
これら のデ ータを 用い て最小 二乗 法(OLS)に よって 回帰 分析を 行う 。分析 モデ ル
は以下 の(1)∼(5)であ る。
(1) M .I . = α+β1US +β2UK +β3 GE +β4 CA +β5 FR +β6 IT +β7 abs ( ENP − 2) + u
(2) U .R = α+β1US +β2UK +β3 GE +β4 CA +β5 FR +β6 IT +β7 abs ( ENP − 2) + u
14
Misery Index=失 業 率 +イ ン フ レ 率 、 ア メ リ カ 大 統 領 選 な ど で は 経 済 政 策 を 評 価 す る 指 標 と
して用いられている。
15
ENP< 2: 一 党 優 位 も し く は 独 裁 、 ENP> 2: 多 党 制
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経済政策論パート
(3) I .R. = α+β1US +β2UK +β3 GE +β4 CA +β5 FR +β6 IT +β7 abs ( ENP − 2) + u
(4) G.R. = α+β1US +β2UK +β3 GE +β4 CA +β5 FR +β6 IT +β7 abs ( ENP − 2) + u
(5) G.F . = α+β1US +β2UK +β3 GE +β4 CA +β5 FR +β6 IT +β7 abs ( ENP − 2) + u
5
M.I.:Misery Index
G.F.:財 政収 支率
G.R.: 成長 率
US∼IT: 各国 ダミー 変数
U.R.: 失業 率
abs(ENS− 2):有効 政党 数−2 の絶 対値
I.R.: イン フレ率
u:誤差 項
10
表16
回 帰 結 果 (1)
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
3.638
3.424
0.214
2.333
-4.186
(8.73)
(10.89)
(0.61)
(6.50)
(-5.47)
4.510
2.31
2.2
0.806
1.511
(7.67)
(5.21)
(4.47)
(1.59)
(1.40)
7.702
4.233
3.469
0.369
1.705
(13.12)
(9.55)
(7.05)
(0.73)
(1.57)
4.835
3.877
0.985
-0.341
3.045
(7.58)
(8.05)
(1.79)
(-0.62)
(2.52)
7.331
5.403
1.928
0.500
2.166
(12.31)
(12.02)
(3.86)
(0.98)
(1.95)
7.581
6.475
1.105
-0.314
2.222
(11.35)
(12.85)
(1.98)
(-0.55)
(1.85)
9.584
6.13
3.454
-0.774
0.268
(13.12)
(11.12)
(5.64)
(-1.23)
(0.20)
0.647
0.046
0.601
0.164
-1.231
(2.42)
(0.23)
(2.68)
(0.71)
(-2.55)
自由度調整済決定係数
0.75
0.70
0.42
0.02
0.13
観測数
140
140
140
140
105
α :定数項
β 1: US(米 国 ダ ミ ー )
β 2: UK(英 国 ダ ミ ー )
β 3: GE(ド イ ツ ダ ミ ー )
β 4: CA(カ ナ ダ ダ ミ ー )
β 5: FR(フ ラ ン ス ダ ミ ー )
β 6: IT(イ タ リ ア ダ ミ ー )
β 7: abs(ENP-2)
注:括弧内の数値はt値
15
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経済政策論パート
回帰 結果 は表1 6の 通りで ある 。この 結果 から、( 4 )成長 率、(5) 財政 収支
率に関 して は決定 係数 が極端 に低 いこと から 有意で はな いこと がわ かる。つ ま り、
二大政 党制 が財政 再建 に貢献 する とは必 ずし もいえ ない 。
(2)失業 率は、決定 係
5
数は十 分だ が、有 効政 党数の t値 が低い。
( 3)イ ンフ レ率は t値 に関し ては すべ
てクリ アし ている が、 決定係 数が 低い。 それ に対し て、(1)Misery Index は決
定係数 も0 .75と 十 分な大 きさ であり、各 説明変 数の t 値はい ず れも2 以上 であ
り、説 明度 は高く 有意 である 。
この 結果 が意味 する のは、有 効 政党数 が上 昇(2か ら 乖離)す れ ば、Misery Index
10
も上昇 する という こと である。言 い換え れば 、有効政 党 数が2 に近 づけば、Misery
Index が下 落する ので ある。 つま り二大 政党 制に近 づけ ば、Misery Index が示 す
ところ によ って経 済パ フォー マン スがよ くな るとい える 。
では 、次 になぜ 二大 政党制 が財 政再建 に貢 献しな いか という こと に関し てフ ァ
クトフ ァイ ンディ ング を行う 。
15
7−3 .フ ァクト ファ インデ ィン グ
日本 の財 政赤字 が深 刻化し た原 因は、 問題 の所在 でも 述べた よう に、中 選挙 区
制の下 での 地元へ の利 益誘導 、す なわち レン トシー キン グの激 化に あった 。そ の
20
問題意 識の 下に二 大政 党制に なっ たなら ば、 政権交 代を 行い、 利権 を切り 合う こ
とで財 政再 建に役 立つ のでは ない か、と いう 仮定で 議論 を進め てき た。し かし 、
実証分 析に おいて 、政 党制が 必ず しも財 政再 建に役 立つ とは限 らな いこと が検 証
された 。そ こで考 えら れるの は、 多党制 であ ろうが 、二 大政党 制で あろう が、 族
議員・ 官僚 ・利益 団体 といっ た関 係を切 るこ とは難 しい という こと である 。つ ま
25
りそう 簡単 にレン トシ ーキン グは なくな らな いので はな いだろ うか 。
以下 では 、世界 銀行 (「Aggregate Governance Indicators」)の 提 供する 、政 治
安定度 (Political Stability)、 政治腐 敗の 抑制(Control of Corruption)、 説
明責任 (Voice and Accountability)と いっ た指標 を従 属変数 に、 独立変 数は 上
の実証 分析 と同様 に、 最小二 乗法 によっ て回 帰分析 を行 う。た だし 、サン プル 数
30
はデー タ制 約の関 係か ら 70 と な る。分 析モ デルは 以下 の(6)∼(8)であ る 。
(6) P.S . = α+β1US +β2UK +β3 GE +β4 CA +β5 FR +β6 IT +β7 abs ( ENP − 2) + u
(7) C.C. = α+β1US +β2UK +β3 GE +β4 CA +β5 FR +β6 IT +β7 abs ( ENP − 2) + u
(8) V . A. = α+β1US +β2UK +β3 GE +β4 CA +β5 FR +β6 IT +β7 abs ( ENP − 2) + u
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P.S.: 政治 安定度
C.C.: 政治 腐敗の 抑制 指数
V.A.: 説明 責任指 数
5
表17
回 帰 結 果 (2)
( 6)
( 7)
( 8)
0.96(13.79)
1.236(30.36)
0.977(25.3)
β 1: US(米 国 ダ ミ ー )
-0.275(-2.80)
0.579(10.06)
0.333(6.02)
β 2: UK(英 国 ダ ミ ー )
-0.234(-2.36)
0.876(15.17)
0.335(6.05)
β 3: GE(ド イ ツ ダ ミ ー )
-0.034(-0.29)
0.712(10.63)
0.387(6.02)
β 4: CA(カ ナ ダ ダ ミ ー )
-0.043(-0.40)
1.037(16.84)
0.329(5.56)
β 5: FR(フ ラ ン ス ダ ミ ー )
-0.34(-2.96)
0.3(4.46)
0.25(3.88)
β 6: IT(イ タ リ ア ダ ミ ー )
-0.474(-4.26)
-0.501(-7.72)
0.1(1.61)
0.074(1.33)
0.029(-0.89)
-0.012(0.37)
自由度調整済決定係数
0.32
0.94
0.51
観測数
70
70
70
α :定数項
β 7: abs(ENP-2)
注:括弧内の数値はt値
10
回帰 結果 は、表 17 の通り であ る。
(6 )政 治安定 度は 決定係 数、t値と もに 低
く有意 では ない。
( 7)政治腐 敗の 抑制に つい ては、決定 係数が 非常 に高く 当て は
まりが 良い が、有 効政 党数の t値 が低い ので 、政党 数が 政治腐 敗の 抑制に 貢献 す
るとは 言い 難い。ま た 、
(8)説 明 責任に 関し ても、有 効 政党数 のt 値が低 く、政
15
党数の 増減 が説明 責任 すなわ ち情 報公開 につ ながる とは いえな い。
この結 果か ら、二 大政 党制に 近づ いた、 もし くは二 大政 党制が 到来 したと して
も、そ のこ と自体 でレ ントシ ーキ ングを 減少 させ、 財政 再建に 貢献 すると は必 ず
しもい えな いとい うこ とが検 証さ れた。
20
25
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おわりに
本稿で はま ず日本 は二 大政党 制に なるか どう かを検 証し た。現 在の 日本は 小選
5
挙区比 例代 表並立 制と いう特 殊な 選挙制 度を 用い、 小選 挙区制 と比 例代表 制の 双
方のデ メリ ットを 補完 できる よう な制度 にな ってい る。 有効政 党数 で見る と日 本
は確実 に二 大政党 制に 向かっ てい る。ま た議 席割合 で見 た時も 同様 の結果 が表 れ
ている 。こ れは、優位 政党( 自民 党)の ある 多党制 が崩 れ始め てい る事を 意味 し、
また比 例代 表制も 採用 してい るも のの小 選挙 区制の 特色 が強く 反映 され始 めて い
10
ること を表 してい る。 特に我 々の パート は公 明党と 自民 党は2 つで 1つと いう 考
えを5 章.二大政 党制 を妨げ る要 因で示 して いるの で 現在の 日本 は二大 政党 制で
あると いえ る
と いう のが我 々の 認識で ある 。
経済政 策に 与える 影響 として は、 はじめ に選 挙制度 の変 更と二 大政 党制へ の移
行によ って 政策決 定が 官僚主 導か ら内閣 主導 に変わ った ことが 明ら かにな った 。
15
実証分 析で は、二 大政 党制に 近づ き、政 権交 代が行 われ やすく なる と、与 野党 が
伯仲し た状 態とな り、 政党間 競争 をする こと で経済 パフ ォーマ ンス が向上 する と
いう仮 説が Misery Index によっ て 検証さ れた 。つま り経 済政策 に良 い影響 をも た
らすと いえ る。し かし 、本稿 の主 要テー マで ある二 大政 党制が 財政 再建に 貢献 す
るだろ うと いう仮 説に 関して は、 有意な 結果 が得ら れな かった 。そ こから ファ ク
20
トファ イン ディン グを 行い、 その 結果、 財政 赤字の 要因 である レン トシー キン グ
は、多 党制 であろ うが 、二大 政党 制であ ろう が、そ のこ と自体 で増 減した りす る
ことは ない という こと が示さ れた 。つま り二 大政党 制が 本格化 して も、必 ずし も
それが 財政 再建に 貢献 すると は限 らない とい える。
最後 に本 稿に残 され ている 課題 につい て言 及して おく 。本稿 の目 的は、 二大 政
25
党制の 本格 化によ って レント シー キング を抑 制させ るこ とで財 政再 建に貢 献す る
のでは ない か、と いう ことを 検証 するこ とに あった 。し かし、 結論 は上述 の通 り
である 。今 度の課 題は 、どう すれ ばレン トシ ーキン グを 抑制さ せ、 財政再 建を 行
えるか を検 討する こと である。実 証分析 に関 しては、さ らに長 期デ ータを 入手 し、
またデ ータ 蓄積を 待っ てさら に頑 健な結 果を 得たい 。
30
本稿 を執 筆する にあ たり、 協力 してい ただ いたす べて の人々 と切 磋琢磨 して き
たゼミ のメ ンバー に感 謝した い。 特に、 熱心 に指導 して いただ いた 川野辺 裕幸 教
授には 感謝 の意を 表す る。
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経済政策論パート
参考文献・参考サイト
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