整理解雇と安全を考える ③

2012.01.23
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整理解雇と安全を考える ③
経営者の安全意識は現場に影響を与える
稲盛和夫会長は、2011 年 5 月の日経ビジネス誌のインタビューで「御巣鷹山の事故以降、
安全のため全ての経営資源を集中させるという考え方、乗客の安全こそ我々の使命で、利益を
出すことは邪道という雰囲気があった。しかしこれは本末転倒です。そもそも潰れかかってい
てお金も使えなければ、安全は守れんでしょう。利益を出して余裕がなければ安全を担保でき
るわけがない」と語っています。また裁判の陳述書でも、「私は航空事業については全くの素
人」と繰り返し述べる一方で、「安全を守るためにも、会社が安定した収益を上げることが重
要だ。利益を出して経営に余裕がなければ安全を担保できるわけがない」と主張しています。
このような稲盛会長の安全に対する考え方は、公共交通機機関の経営という立場に立っている
とは言えません。航空法103条「(輸送の安全性の向上)航空運送事業者は、輸送の安全の
確保が最も重要であることを自覚し、絶えず輸送の安全性の向上に努めなければならない」の
規定に反する考え方です。
経営トップの考え方に基づいて更生計画が進められる中、165名の整理解雇が実行されて
きました。整理解雇の実施にあたって安全の検証がなされた形跡など全くありませんでした。
企業の経営トップの経営理念は現場に浸透し影響を与えます。特に運航の現場にコスト意識が
優先されると機長判断にも影響を与える結果となります。短期的に大幅な利益を上げ経営再建
が成功しても、今日の安全は明日の安全を保証するものではありません。
稲盛会長は安全より利益が最優先?安全AGの提言にも無関心。
稲盛会長は証人尋問の中で、安全アドバイザリーグループの新提言書「安全への投資や各種
取り組みは財務状況に左右されてはならない」という提言や「財務状態が悪化した時こそ、安
全への取り組みを強化するくらいの意識を持って、安全の層を厚くすることに精力を注がなけ
ればならないのである。」との提言について質問され、「よく知りません」と答えています。ま
た「航空法103条(本邦航空運送事業者は輸送の安全の確保が最も重要であることを自覚し、
絶えず輸送の安全性の向上に努めなければならない)はご存知ですか?」と航空法に対する認
識を問われると「今聞かれてもわかりません」と答えています。航空法は航空運送事業者にと
って最も基本部分をなす法律であり強制力を持つ法律です。稲盛会長は、日本航空の過去の連
続事故や安全トラブルの反省として築き上げられてきた安全対策に、全く関心を示していませ
ん。「私は航空の素人」だから知らなくてもよいといった問題ではありません。航空経営者と
しての認識が欠けていると言わざるを得ません。
この道はいつか来た道。乗員の分裂は職場に暗い影を落とした!
整理解雇が運航の安全に影響を及ぼすか否かは、乗員組合との労使関係の中で決着済みです。
会社は1964年(昭和39年)11月の乗員組合の争議行為に対して、これを違法と主張し
て、1965年(昭和40年)5月7日付で、当時の乗員組合委員長ら役員4名を懲戒解雇し
ました。
会社はこの事件の裁判で一審、二審とも敗訴しました。また会社は、労働委員会でも都労委、
中労委とも敗れ、救済命令の取り消しを求めて裁判所に提訴しましたが認められず、4名の原
職復帰の緊急命令が出されました。しかし会社はそれに従わず、緊急命令不履行に対して科料
(罰金)200万円が科されました。更に会社は、過料取り消しを求めて特別抗告しましたが、
最高裁に於いて棄却、科料が確定しました。その後も命令に従わず、合計3回にわたって過料
が科されました。
一方解雇事件の翌年、会社は第二組合(御用組合)育成政策を推し進めた結果、日本航空内
全ての労働組合が組織分裂させられました。乗員の職場には「運乗組合」が結成され、乗員組
合員に対し管理職からの熾烈な脱退強要が始まりました。最終的に乗員組合に残ったのはたっ
た 8 人。以後乗員の職場の一体感は大きく損なわれました。このような職場状況下で発生した
のが、1972年6月のニューデリー事故や11月のモスクワ事故という連続事故でした。こ
の連続事故で、当時の日本航空の経営体質、とりわけ労務政策が世論の厳しい批判を浴びまし
た。こうした世論と労働者・労働組合の闘い(8 人の乗員組合が運乗組合を吸収して再統一)
に押され、会社は係争中の裁判を全て取り下げ、1973年に解雇事件の解決を図りました。
会社は「解雇撤回協定」を守り過去の反省を生かせ!
会社は乗員組合役員 4 人の解雇事件の全面解決にあたって、乗員組合との解雇撤回協定(和
解協定)で、連続事故の反省を踏まえ、次のように職場と利用者国民に対して解雇の全面解決
と労使関係の正常化を約束しました。
「会社は、本件解雇が、労使相互の信頼関係の維持発展を阻害してきたことを反省するとと
もに、明るい職場が運航の安全を確保するために必要であることを十分認識し、本件の全面
解決を通じて労使関係の正常化と明るい職場づくりに努力する。」
(1973年7月18日
解雇撤回和解協定書より)
日本航空は過去、航空機事故で乗客・乗員735名の犠牲者を出しています。「明るい職場
が運航の安全を確保するために必要である」ことを「十分認識する」ことが、今日ほど重要な
時期はないのではないでしょうか。今回の整理解雇は乗員の職場では2度目の解雇事件です。
会社にとって解雇事由は異なっていても、解雇の事実と職場への影響に変わりはありません。
会社は過去の経営との決別を殊更強調していますが、歴史の教訓や反省との決別は危険への接
近であることに他なりません。
解雇問題も、訓練中止問題も、誤った経営施策は職場の力で撤回させましょう!