30. マイペンライ マイペンライは、タイ人と付き合っていると頻繁に聞く事が出来るタイ語の 1 つです。 「気にしないで」とか「どういたしまして」と訳されている事が多いようです。 相手方が何かミスをする。「ごめんなさい」とあやまって来る。こちらが「マイペンライ」と軽く受ける。と云う風な用法が例 文には載っています。だから、「気にしないで」とか「どういたしまして」と訳されているのだろうと思います。しかし、実際の 会話で見てみると、本来相手方が「ごめんなさい」と言わなければならない場面で「マイペンライ」を言って来る事が多いよ うです。 日本人の多くが、「お前が言うな!」と憤慨していると聞いています。 小さい子供が走って来て思いっきり転ぶ、泣きそうになる所を大人が「大丈夫、大丈夫、痛くない」と言い切って誤魔化 してしまう時ような「大丈夫、大丈夫、痛くない」に相当するイメージがあります。 「マイペンライ」を「気にしないで」とか「どういたしまして」と訳してしまったところに問題があるような気がします。 日本語の「どうも」をどう訳すのかと云うのに似ていると思います。「どうも」の用法の代表は「どうも有難う」でしょう。Thank You Very Much を「どうも有難う」と訳すと「有難う」の部分は「Thank You」でしょうから、「どうも」の部分は「Very Much」にな ってしまいます。日常会話でよく使われる「先日はどうも」と言った場合は「どうも」が「Thank You」だったりしてしまうのです。 まして「先日はどうも」が有難うとは限りません。「失礼しました」であったりする事もあります。「おはよう」や「こんにちは」の 替わりに「どうも」を使ったり、疑わしい時には「どうもあいつが怪しい」と言ったり、梅雨時の挨拶では「どうもよく降ります ネ」等と使ったりします。「どうも、どうも」になったりすれば、なんと訳すのかはその時次第になってしまいます。 ガチャーンと大きな音がして、「ペンアライ」(どうした?)と声をかけると大概の答えは、「マイペンライ」です。「どうもし ない」とか、「何とも無い」のような使い方でしょうか。 マイペンライと同様に、日本人の感情を逆撫でするのは、「ニタッ」です。タイは微笑みの国と云われていますが、親しみ を込めた「ニコッ」ではなく何とも表現しにくい笑い顔です。 チョット大きなミスをやってこっちが真剣に怒っている時に「ニタッ」と笑うのです。日本では、相手をあざ笑うような、見下 すような時にみせる下心がありそうな「ニタッ」です。 実際には、「申し訳ないと思っています、そんなに熱くなんないで下さい」と云う表現だと聞いた事があります。 殊勝な面持ちで、聞いているのならいいのですが、この「ニタッ」をやられると、怒りが倍増します。 日本を紹介したアメリカの本に、日本人があいまいな笑い顔をする事が指摘されていますが、それと似たような「ニタッ」 とした笑い顔です。 話す方が真剣であればあるほど、「どうしようもないでしょ」と言う投げやりな態度に見えてしまいます。 「知りません」「分かりません」「ありません」と言う時に、申し訳なさそうな顔ではなく「ニコッ」される時があります。言う人 がかわいい女性の場合はそれなりに認めてしまいますが、貫禄のあるオバサンにされると「もっとちゃんとしろよ」と思って しまうのは、私が中年のオジサンだからでしょうか。 マイペンライにしろ中途半端な笑顔にしろ、タイ人にとっては大切なコミュニケーションの 1 つなのでしょう。 私などは、怒りまくっていると、ただでさえまともではないタイ語がさらにいい加減になってきます。 「そんなに熱くならないでよ」と云うニタッに「言っている事がわかんないヨ」と云う意味のニタッが混ざりもっと複雑な「ニタ ッ」になってしまう事があります。私だって頭では理解しているのですが、口の端を少し歪めて「ニタッ」されると血圧がググ ッと上がってしまいます。 微笑の国に来て、相手の意味不明な「笑顔」と訳しようのない「マイペンライ」に惑わされています。 そんな事を気にする事自体、「マイペンライ」で片付けてしまうのが最も良い事だとは分かっているのですが。 マイペンライじゃない!と顔を真っ赤にして怒る日本人の姿が今日もあちこちで見られる事でしょう。
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