09 日知理第 15 号 2009 年 6 月 3 日 総務省総合通信基盤局電気通信事業部データ通信課 御中 日本知的財産協会 理事長 萩原 恒昭 21世紀におけるインターネット政策の在り方 ∼新たなトップレベルドメイン名の導入に向けて∼(案)に対する意見の提出 拝啓、時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。 日本知的財産協会は、日本企業 900 社超の正会員を擁する非営利・非政府の知的財産関 連任意団体で、会員企業の経営に資するべく、知的財産全般にわたって会員相互の研鑽を 計ると共に、同分野の調査研究を行い、国内外の政府機関等に対して種々の提言を行って おります。 現在貴省においてパブリックコメントを募集されております「21世紀におけるインタ ーネット政策の在り方∼新たなトップレベルドメイン名の導入に向けて∼(案) 」に関しま して、導入反対の意見を添付のとおり提出いたしますので、よろしくお取り計らい賜 わりますようお願い申し上げます。 敬具 添付書類 1.意見書 連絡先: 東京都千代田区大手町 2-6-1 朝日生命大手町ビル 18 階 日本知的財産協会 事務局長 土井 英男 TEL:03-5205-3432 メールアドレス:[email protected] 意 ページ 14ページ 項目 4 ドメインの多様化の効果 見 書 意見 【総務省案】 本欄は、効果が記載されている 【意見】 以下に記載する弊害・問題が存在することから、導入には 反対する。 なお、効果がそれぞれ記載されているが、弊害が記載され ていない。 14ページ ① ドメイン名の多様化、利用者 【総務省案】 の選択肢が拡大 現在、インターネット上で日本を意味するドメインは、 「○ ○.jp」だけであるが、 「○○.日本」の導入により、ドメイ ン名の多様化が促進され、ユーザーの選択肢が拡大する。 【意見】 1)既存ドメインの登録者の見地からすれば、 「.日本」は 「.jp」と差が無く、これ以上の新規ドメイン名増加は、監 視対象、登録対象の増加に伴う労力・費用の負担増をもた らすに過ぎない。 2)特に、周知・著名な商標を持つ企業にとっては、TLD の増加は、(優先登録期間を与えられたとしても)その商標 と同一・類似のドメイン名(しかも使用予定のないもの)を 登録せざるを得ないのが実態であり、管理コストの増加に つながるため、歓迎できない。 3)結果として周知商標と同一・類似の「.日本」ドメイン は、 「.jp」の名義人と同一になるだけとも見込まれ、社会 全体として選択肢が拡大することにはならない。 4)ドメイン名が足りないという事実も無いと見受ける。 5)ドメイン名の新設は、既存「.jp」ドメイン等との間に 混乱を招く。 6)ドメイン名は、ウェブサイトの住所に相当するもので あり、住所の表記に「多様性」があるとユーザー(インタ ーネット閲覧者)に混乱を与えることが懸念される。 7)企業においては、マーケティングの視点からも、ドメ イン・TLD を全世界で1つに統一しているのが実態であ るから、選択肢の拡大をメリットとは捉えていないのが実 情である。むしろ他人による登録という弊害が懸念され る。 8)web 検索、web 閲覧においてドメイン名に対する意識 は低下してドメイン名紛争は減ってきたが、売却目的の第 三者から未だ企業への売り込みがあるのが実情である。新 規ドメイン名の設立は、斯かる第三者への援助に等しい。 14ページ ② 企業や団体等の広報戦略、営 【総務省案】 業戦略における活用 サービス等の提供者の視点からは、新たなマーケティング 力の向上が期待できる。 近年では、地名、駅名、大学名、商品名ごとにドメイン名 を活用して、インターネットを通じた広告宣伝を行うこと が増えており、企業や団体等の広報戦略、営業戦略上、顧 客への新たなアピール効果も期待できる。 【意見】 1)この活用の例は、 「.日本」の例ではなく「商標.jp」 、 「商 品名.jp」といったセカンドレベルドメインの例であり、直 ちに「.日本」の効果(採用理由)に結びつくものではない。 2)日本のインターネット利用者に対して、殊更に「.日 本」を強調することが有効とは考え難い。また、日本語の 入力環境が無ければアドレス欄に入力することができな いため、外国人に対しての訴求効果はほとんど見込めな い。 14ページ ③ 新規サービス(新規事業者)【総務省案】 の導入によるサービス向上 インターネットユーザーにとっては、 「名前.日本」のよう に、すべて日本語表記のドメインによる情報発信の手段が 拡大することとなり、利便性が高まる 【意見】 利便性が高まるよりも、インターネット閲覧者側に混乱が 生じる。 具体的には、 「名前.日本」と「名前.jp」が異なる所有者の 場合、混同による混乱が生じることは想像に難くなく、情 報発信者側は「『名前.日本』は、『名前.jp』とは関係あり ません」といったコメント記載を迫られることとなり、却 って負担が生ずることとなる。 なお、利便性が高いか否かはインターネット閲覧者側が決 めることであって、情報発信者の都合をもって利便性を論 ずるのは的外れである。 14ページ ③ 新規サービス(新規事業者)【総務省案】 の導入によるサービス向上 ドメイン間の競争を通じて、料金をはじめサービス向上が 期待できる。 【意見】 1)「名前.jp」の既存登録があるにもかかわらず「名前. 日本」を登録するような新規事業者は、競争・サービス向 上目的というよりも「名前.jp」の信用にただ乗りする意図 が疑われる。新規事業者には、独自性を持たせる方向の政 策を進めて欲しい。 2)サービス向上への期待についても、ドメイン間の競争 が無くとも料金面などでのサービス向上はできるのだか ら、ドメイン間の競争によってサービス向上が期待できる か否かは不明であり、その効果は見えない。 3)むしろ「名前.日本」と「名前.jp」で登録者が異なれ ば上の欄に述べたとおり混乱を招くだけであり、サービス 利用者にとって総合的な意味でのサービス低下をもたら すことが懸念される。 14ページ ④ 日本語だけで構成される分 【総務省案】 かりやすいドメイン名の実現 使い慣れた漢字や平仮名、カタカナがドメイン名に利用可 能となる 【意見】 1)この効果は、インターネット利用者がアルファベット を使い慣れていない前提で記載されているが、インターネ ットを使える国民は英語教育をはじめアルファベットに 親しむ機会を十分に得ているのが実情であるから、この効 果には肯んじかねる。 2)むしろ一部外国における漢字人気に基づくニーズが生 ずる可能性はあるが、前述のように日本語入力環境の普及 度を考慮すれば実質的な効果は無いと見込まれる。 14ページ ④ 日本語だけで構成される分 【総務省案】 かりやすいドメイン名の実現 使い慣れた漢字や平仮名、カタカナがドメイン名に利用可 能となることで、誰に対してもすぐ伝わり、覚えやすいア ドレスが実現され 【意見】 漢字・ひらがな・カタカナを使うと、同じ音を表記する場 合に様々な方法があり、更にカタカナは「ユーザー」と「ユ ーザ」のような長音の有無、 「ユーザー」と「ユーザー」のよ うな全角と半角の相違もあるため、利用者は文字種・表記 の相違を間違いなく覚えていなければ目的のウェブサイ トにたどり着けないこととなる。 このようにドメイン名を覚える際のハードルが現在より 高くなることを考えれば、必ずしも「覚えやすいアドレス」 とは言い難い。 14ページ ④ 日本語だけで構成される分 【総務省案】 かりやすいドメイン名の実現 ユーザーにとっても、そのドメインが何を表しているかを 直感的に認知できる。 【意見】 1)ドメインが何を表しているかより、ウェブサイトの記 載内容で認識・判断するのが専らであるから、この効果は 薄い。 2)また、ドメイン名どおりの記載内容が提供される保証 も無いため、直感的に認知できることに何の意味も無い。 18ページ 3 業務運営の基本ルール 【総務省案】 一方、 「完全に分離」とした場合には、こうした問題は生 じないものの、 「テスト.jp」と「テスト.日本」の登録者が 異なることについて、利用者の混乱を招くおそれがあると 考えられる。この点、 「完全に分離」としつつ、例えば、 「.jp」 ドメイン登録者に対し、一定期間は「.日本」への優先登録 を認める場合には、こうした両者の問題点について、比較 的適切に対処することができると考えられる。このため、 一定の優先登録期間を設けた上で、 「分離」方式とするこ とが望ましい。 また、商号や商標を有する者に対する優先登録等について も、適切に講じられることが望ましい。 【意見】 1) 「一定の優先登録期間」後の「分離方式」が採用され ると、既登録者は結局、 「.日本」と「.jp」の登録者が不一 致となることによる混乱を防止するため、新規登録・維持 を迫られることとなる。 2)利用者の混乱を招くことを認めているのであれば、斯 かる優先登録などによらず「テスト.jp」と「テスト.日本」 を不可分の1セットのドメインとして取り扱えば足りる。 3)総じて、日本の産業発達に資するべきドメイン名政策 において、既ドメイン保有者の事業活動を煩わせるのは適 切ではない。 − − 【総合的な意見1】 1.導入の是非について 次の理由から、「.日本」ドメイン名の導入については、 反対である。 ①企業、商標権者として、防衛登録すべきドメイン名が増 加し、取得のための業務や取得費用などの負担を強いられ る。 現行の「日本語.jp」でもそうであるが、日本語には、漢字、 ひらがな、カタカナがあり、同じ音でもその表記方法は多 岐に渡る。そうなると、様々なバリエーションを必要以上 に登録する必要が生じかねない。 ②「日本語.jp」を含む現行のJPドメイン名とは別に、 「. 日本」が存在することになると、第二レベルが同じ文字列 でも、登録者がそれぞれ異なる事態が生じ得る。 「.com」と「.jp」ほど観念的に違えば問題はないが、 「.jp」 と「.日本」は観念的に全く同一であるから、混乱を生ず ることの無いよう、異なる登録者が第二レベルを同じ文字 列でそれぞれ登録するような事態は厳に避けなければな らない。 ③「.日本」導入理由に具体性かつ説得力がない。 現時点で「.日本」を取得して使用したい、という潜在需 要が多いといった事実があるようには見受けられない。導 入を検討するのであれば、まずどの程度の潜在需要がある のかを調査し、具体的なデータを示すべきである。 ④前述各項に述べたとおり、「ドメインの多様化の効果」 が疑問である。 − − 【総合的な意見2】 新規 TLD を設定するのであれば、現行法制下では不正競 争や商標権侵害には該当しない行為であって、商標の価値 の毀損を招く行為に対して、一定の歯止めとなる明示的な 対策を創設・実施する必要がある。 理由は以下のとおり。 1)既存ドメイン登録者においては、仮に充分な資金を有 していたとしても、全ての類似ドメインを事前に登録する ことは現実的に不可能であり、不正競争に該当する場合や 商標権侵害に該当する場合に対しては各法において紛争 解決手段が準備されているとしても、周知・著名商標を有 している企業の負担は大きくなることが見込まれる。 2)また、不正競争や商標権侵害には該当しない行為(た とえば普通名称化を招くような表示)に対しては、これら の法においても直接的に救済することは困難である。 − 総務省ウェブサイト掲載の、広 【前田氏結論】 島市立大学大学院 前田香織氏 ■自治体自らが新gTLD(地理的名称)の効果を享受で による「新 gTLD に関する期待 きる場面が見出しにくい と要望」(2009 年 2 月 27 日) ■従来どおり何もしない http://www.soumu.go.jp/main_ ■かけるコストは最小限に content/000011892.pdf 【意見】 この結論に賛成する。 以上
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