第87号 2014年11月1日発行 「交通事故でのクリニックのリスクと体制

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メディカル人事レポート
第 87 号
2014 年 11 月 1 日発行
発行:社会保険労務士法人名南経営
■ 【メディカル人事労務基礎講座】 第87回 交通事故でのクリニックのリスクと体制整備のポイント
最近は、飲酒運転の厳罰化や道路交通法の改正等があり、自動車事故そのものは減少傾向にありますが、
依然として自動車事故のニュースが後を絶ちません。職員はクリニックの車を業務で使用したり、マイカー
通勤など、常に加害者や被害者になるリスクを抱えています。今回は実際に職員が事故を起こしてしまった
ときにクリニックが負うリスクや責任と、事前に取り組むべき対策を確認します。
1.自動車事故の現状と損害賠償事例
(1) 損害賠償事例
事例1 1999 年 普通乗用車に飲酒運転の
11 トントラックが追突。女児 2 人が焼死。
→懲役 4 年、損害賠償 2 億 5000 万円
平成 25 年
事例2 2010 年 75 歳の女性が信号無視の
自転車にはねられ死亡。
→損害賠償 4700 万円
629,021 件
警察庁 HP より
事例3 2013 年 歩行者が 11 歳の少年が運
転する自転車と衝突。坂道を高速で運転した
危険な運転行為。
→母親に損害賠償 9500 万円
(2) 車両管理の盲点 自転車事故
自転車は、道路交通法において軽車両と定義されており「車両」と考えられます。最
近では普通自動車と同程度の損害賠償が命ぜられるケースも少なくありません。こうし
たリスク回避のために、自転車の任意保険のひとつである「TSマーク付帯保険(TS
マーク取扱いの自転車屋経由で加入)
」に加入をしたり、損害保険会社が扱う保険に加入
するなど何らかの対策を検討したいところです。
2.知らなかったでは済まされない「使用者責任」
(1) 事故による責任
実際に交通事故の加害者になると様々な責任を負うことになりますが、相手が負傷していないか、負傷し
ていれば救急車を呼ぶなどの一次対応のような道義的な責任のみならず、法律上の責任も併せて負うことに
なります。法律上の責任は主に以下の3つです。
①行政上の責任
②刑事上の責任
③民事上の責任
一般的に管轄の警察より行われる行政処分を指し、道路交通法に基づき行われます。運転者個
人の運転免許証の取消しのほか、運送業等では事業停止命令を受けることがあります。
通常は刑罰といわれ、検察庁の起訴・裁判所の判決によって確定します。一般的には運転者個
人に刑罰が科されますが、道路交通法においては企業側も責任を問われることがあります。
通常は被害者に対する損害賠償のことをいいますが、民法や自賠責法(自動車損害賠償保障法)
を根拠に企業が連帯して責任を追わされることも少なくありません。
(2) 使用者責任
職員が起こしてしまった交通事故により、クリニックも連帯して責任を負わなければらないことがありま
す。これは、民法第715条に定める「使用者責任」や自賠責法第3条に定める「運行供用者責任」がその
根拠として挙げられます。
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●民法第715条(使用者の責任)
第1項 ある事業のために他人を使用する者は、
被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を
賠償する責任を負う。
ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、
又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
第2項 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
第3項 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。
法令によると、職員が業務のために車両を使用しているときに自動車事故を起こし、第三者に損害を与え
たときには使用者であるクリニックも責任を負わなければならないということになっています。
クリニックがこの使用者責任を免れるためには、「車両運転を許可する職員の選任や監督に相当な注意を
払っていたか」
「相当な注意を払っていても損害が生じたか」
、また自賠責法に定める「運行供用者責任」の
観点では、
「クリニックや運転者に自動車の運行に関して過失がなかったか」
「被害者または運転者以外の第
三者に過失があったか」
「自動車の構造上の欠陥または機能の障害がなかったか」の点で立証を要します。
使用者責任を免責されるためのポイント
① 運転者が車の運行に関し、注意を怠らなかったこと
② 被害者または運転者以外の第三者に故意または過失があったこと
③ 車の構造上の欠陥または機能上の障害がなかったこと
これらを立証しなければなりません。
3.クリニックでの5つの対策ポイント
① 運転者の運転免許証を確認する
有効期限切れの運転免許証では無免許運転となり、万が一事故が発生した時にはクリニックのコンプライアン
ス上の問題も問われます。業務や通勤で車両を運転する職員全員(パートタイマー等含む)に対して、少なくと
も毎年1回以上は期日を決めて運転免許証の原本提示と写しの提出を求める必要があります。
② クリニックの車両の鍵の管理を徹底する
職員が、勝手に車の鍵を持ち出して私事に利用し、交通事故を発生させた場合においても「使用者責任」や「運
行供用者責任」が問われることがあります。そのため、クリニック所有の車の鍵の十分な管理が必要です。
■参考
職員が事務所の机の引き出しに保管してあった車両のカギを無断で持ち出し、私用で運転中に起こした事故につ
いて、会社はその自動車の「運行支配」を有していたため会社の「運行供用者責任」を認めた(名古屋地裁・昭和 56 年 7 月)
③ 使用対象者を明確にする
職員のみならず派遣社員にもクリニック所有の車両を使用させる場合がありますが、事故の際は派遣先のクリ
ニックが「使用者責任」や「運行供用者責任」を問われます。車両使用の許可範囲を検討したいところです。や
むを得ない場合は、派遣元企業等と覚書を締結し、責任の所在や賠償方法等を明確にしておくことが望まれます。
■参考
会社員のマイカー通勤途中での事故につき、会社も社員によるマイカー通勤を容認し、通勤手当も支給しているこ
とから、勤務する会社の使用者責任を認めた(福岡地裁平成10年8月)
④ 自動車保険(任意保険)の加入状況を確認する
マイカーでの通勤中に事故が起きたとき、仮に職員が自動車保険(任意保険)に未加入であればクリニックに
賠償額が請求されることが大いに考えられます。また自動車保険(任意保険)に加入をしていたとしても、補償
額が少なくその差額分を負担すべき職員に賠償能力がなければクリニックに責任が及ぶことがあります。こうし
たトラブルを最小限にするため、職員の使用する車両に対して自動車保険(任意保険)の加入条件をクリニック
が設け、基準を満たさない場合はマイカーの使用を禁止することを検討します。
⑤ 運用方法の明確化、法令遵守を含めた教育の徹底
車両管理規程等のルールを設けていても、職員に十分浸透していなければクリニックの責任を免れることはで
きません。マニュアルの作成、入社時と定期的な研修等により、職員に注意を継続的に促すことが重要です。ま
た、駐車違反等で行政罰を受けるようなことはしない、受けた際には速やかに報告をするなどといった当たり前
に思われがちな点も誓約書を用いて証拠を残しておくことが望まれます。
ご不明点は弊社会計担当者まで
■発行責任者
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