2015 March Special-2 東京海上日動 WINクラブ http://www.tmn-win.com/ セクハラと企業の責任 社内でセクシャル・ハラスメント(以下、セクハラ)を受けた結果心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症した元 従業員の女性が、会社に対し損害賠償請求を行い、会社が女性に 1300 万円を支払うことで両者が和解したとの報道 がありました。そのうち半額はセクハラ行為者である男性従業員に負担を求めるとのことです。セクハラにより精神的・ 経済的な損失を被ったとして、 被害者が行為者のみならず会社に損害賠償を請求することは珍しいことではありません。 Ⅰ.企業の法的責任 そもそも、セクハラの加害者個人が、被害者から損害賠償を請求されるのは当然として、会社にも損害賠償責任が発 生するのでしょうか。 法的に整理すると、会社はセクハラ行為によって被害を被った従業員に対して①使用者責任(民法 715 条)または ②債務不履行責任(民法 415 条)に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。 ① 使用者責任・・・使用者責任とは、ある事業のために他人を使用する者(=会社)は、被用者(=加害者)がその 事業の執行について第三者(=被害者)に加えた損害を賠償する責任を負うものです。従ってセクハラ行為が、業 務中や業務の一環として発生した場合には、使用者である会社が責任を問われる可能性があります。 (ただし、会社 は賠償債務を履行した後、加害者に対する求償を行うことができます。 ) ② 債務不履行責任・・・使用者(=会社)には、労働者に快適な職場環境を提供するように配慮する義務(職場環境 整備義務)があるとされています。これにより会社は、セクハラの発生をできるだけ防止しなくてはならず、また セクハラが発生した場合には適切に対処し、再発を防止しなくてはなりません。これらを怠った場合には、職場環 境整備義務に違反したとして、会社は債務不履行責任を問われる可能性があります。 Ⅱ.セクハラ訴訟を巡る賠償事例 セクハラ訴訟を巡る賠償事例としては、米国では驚くほど高額な評決金額や和解金額が報じられていますが、日本の 過去の賠償事例を見ると、50万円から300万円くらいの賠償金額が多いようです。しかしながら、被害者に精神疾 患が生じたケースでは、慰謝料のみならず治療費や逸失利益まで認定される結果、1000 万円を超えるような高額な賠 償金額となることも十分にありえます。実際に、平成 11 年頃からは高額の賠償を認める判例も出されるようになって きています。 <米国におけるセクハラ訴訟の事例> 事件概要 1996年~ 和解金額 セクハラが横行しているとして、女子職員が会社に改善を求めたにも関わらず、会 1998 年 約49億円 社が対策を講じなかったとして提訴、最終的には和解。 2006 年 提訴額 女性が社長からセクハラを受けたとして、会社と加害者である社長個人に 1 億 約152億円 9000 万ドルの損害賠償請求訴訟を提起。和解内容は不明。 評決額 女性従業員が上司からセクハラを受け、会社の対策・対応が不十分だとして会社を 約76億円 提訴、9500 万ドルの賠償を命じる評決が出された。 2011 年 各種報道をもとに弊社作成。円/ドル換算は当時のレートによる。 1 Copyright (c) Tokio Marine & Nichido Risk Consulting Co., Ltd. <日本におけるセクハラ訴訟の事例(いずれも地裁判決)> 賠償金 平成 11 年 750 万円 大学助教授の大学院生に対するセクハラ行為について、慰謝料として 750 万円の (1999 年) 平成 11 年 支払いが命じられた。 1000 万円 選挙運動中に知事候補者から受けたわいせつ行為やその後の名誉棄損行為により女 (1999 年) 平成 14 年 事件概要 性運動員が被った精神的慰謝料として 1000 万円の支払いが命じられた。 約 2700 万円 会社役員のセクハラ行為に関連して、セクハラ行為の被害者本人を含む従業員2名 (2002年) に対する損害賠償金約 2700 万円(慰謝料の他、降格処分や退職に伴う未払給料相 当損害金・逸失利益を含む)が命じられた。 各種報道や公表資料をもとに弊社作成。上記賠償金にはいずれも弁護士費用を含んでいない。 Ⅲ.企業としての対策 セクハラ対策は、男女雇用機会均等法の平成19年改正により対策を講じることが義務化されました(法 11 条) 。 また厚生労働省は 「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」 (以下、指針)を発出し、事業主が雇用管理上講ずべき措置を以下の通り定めています。事業主は、これらの措置を必 ず講じなければなりません。 1 職場における方針の明確化、およびセクハラ行為者については厳正に対処する旨のルール化と、これらの労働者 への周知・啓発。 2 相談窓口の設置と、相談に適切な対応がとれるような体制の整備 3 職場におけるセクシュアルハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応 ・事実関係の迅速かつ正確な確認。 ・被害者に対する迅速な配慮の措置の実施。 ・行為者に対する措置の実施。 ・再発防止に向けた措置の実施。 4 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置の実施と、相談者等に対して不利益な取扱いを行 ってはならない旨の規定化と労働者への周知・啓発。 Ⅳ.行為者処分に関するトラブル なお、先日、警告なしの出勤停止などの懲戒処分が重すぎるとして、セクハラ行為者が会社を訴えていた訴訟で、最 高裁判所が「処分は妥当」と判断したことが報じられました。本事件は会社勝訴に終わりましたが、セクハラに関連し た近年の訴訟事例を見ると、セクハラ被害者からの訴えよりもむしろセクハラ行為者からの処分不当の訴えが目立って います。 セクハラ事件は行為者の公平公正な処分が必要であることはいうまでもありませんが、事実関係の正確な確認を含め、 行為者・被害者双方の納得感を得る対応・処分は容易ではなく、昨今のセクハラ行為者からの訴えの多さは、セクハラ 事件への対処の難しさを物語っているといえるでしょう。事件の未然防止もさることながら、事件発生後の会社の対応 (事後措置)を誤らないための体制の構築が、企業に求められています。 東京海上グループのソリューション 東京海上日動火災保険株式会社では、ハラスメント等についての従業員からの賠償請求に対応する各種保険 をご用意しています。詳細は社員または代理店にお問い合わせください。 東京海上日動リスクコンサルティング(株)では、ハラスメントやメンタルヘルスに関するセミナー・研修等、各 種労務対策の支援策をご用意しています(有料) 。 (参考) 2 Copyright (c) Tokio Marine & Nichido Risk Consulting Co., Ltd.
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