ワークショップ 外国人向けの初級日本語講座

第九回フランス日本語教育シンポジウム 2007 年フランス・グルノーブル
9ème Symposium sur l’enseignement du japonais en France, Grenoble France, 2007
ワークショップ
外国人向けの初級日本語講座 『エリンが挑戦!日本語できます。
』の用法
北條淳子(KITAJÔ Junko)
国際交流基金/パリ日本文化会館
1.
「エリンが挑戦!日本語できます。
」について
国際交流基金日本語国際センターがNHK教育テレビと共同で「エリンが挑戦!日本語
できます。」を開発した。その内容を紹介、分析し、それがどのように教育の場で使用で
きるかについて、検討する。「エリン」(「エリンが挑戦!日本語できます。」を本稿では
「エリン」という)は国際交流基金が以前に開発した「ヤンさん」以来の視聴覚教材であ
り、その内容を比べると、時代の流れを感じる。
「エリン」は、高校生という日本の10代後半の若者の生活を扱っていることに特徴が
ある。全体の進行役にアニメキャラクター「ホニゴン先生」と「エリン」を使い、ごく簡
単な日常の日本語表現がよく拾われている。
イギリスから日本の高校に半年間の予定で留学してきた女子高校生「エリン」を中心
に、学校内の友人、ホームステイの家族との交流が、生に近い話しことばで描かれている。
その留学生「エリン」が、いろいろな場面で、日本語の表現を試みながら、少しずつ日本
語や日本文化を学習していくという形である。内容構成は、構文中心ではなく、留学生が
出会う場面の中でどのような表現を使ったらいいかを考えながらそれを使い、そこで必要
な表現を覚えていくという形であり、課毎に簡単な10文ぐらいの談話、
「スキット(基
本/応用)
」がある。
この新教材のもうのひとつの特徴は、外国人の目から見た現代の日本文化を視聴覚的
に扱っていることである。例えば、そばの食べ方、コンビニでのおにぎりの開け方などで
ある。また、各課の終わりにある「世界に広がる日本語」は、世界各地で日本語を学習し
ている高校生、日本語を使って仕事をしている外国人に、短いメッセージを日本語で話し
てもらっている。これは、現在世界各地で学習している人たちに、同じ日本語学習者の成
果を伝え、学習を励ますことにもなるだろう。
2.
「エリン」全25課の基本フレーズの構成
「エリン」は、25課からなり「can-do(何ができるか)」を各課に掲げ、日本の高校
生の様々な場面の中で「基本スキット」を示し、そこに基本フレーズを入れている。基本
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フレーズは、can-do のための例示表現である。その全体を次に示す。
順序
can-do
基本フレーズ
場面
(何ができるか)
1課 はじめまして。エリンです。 はじめてのあいさつ
教室
イギリスから来ました。
2課 もう少しゆっくり話してください。 おねがいする
学校
3課 これは何ですか。それは天ぷらです。 ものを指す
家
4課 ノートはどこですか。えんぴつの下です。場所を聞く コンビニ
5課 塾は6時から8時までです。
時間を言う 塾
6課 文化センターまでいくらですか。
値段を聞く バス
210円です。
7課 サッカーが好きです。
趣味を話す
友達の部屋
8課 ドーナッツをひとつください。
注文する
ファーストフード店
9課 あれは何をしていますか。
説明を聞く
習いごと
受身の練習をしています。
10課 着てもいいですか。
許可をもらう
ファッション
11課 温泉に入ってから食事をします。
順番をいう
温泉
12課 見てもいい?
友達と話す
部活
13課 町田へはどう行ったらいいですか。 やり方を聞く
駅
14課 電車が遅れているかもしれません。 予想を言う
携帯電話
15課 あれがやりたいんです。
希望を言う
お祭り
16課 ここがいたいんです。
説明する
けが、病気
17課 数学は難しいけどおもしろいです。 反対のことを言う 授業
18課 そのほうがこれよりいいです。
比べて言う
100円ショップ
19課 買いたいものがあるから
理由を話す
アルバイト
20課 この写真を見たことがあります。
経験を話す
修学旅行
21課 朝早く返すことができますか。
規則を聞く
レンタル・ショップ
アルバイトをします。
22課 コピー機が止まってしまいました。 トラブルを説明する 落し物・交番
23課 あれに乗ろう。
友達を誘う
遊園地
24課 いそがしくなります。
変化を言う
学園祭
別れ
カラオケ
きれいになりました。
25課 わすれないでください。
3.
「エリン」の課毎の構成
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全体で25課からなるこの教材は、以下のように、それぞれの課が12の部分から成
っている。
1)
「基本スキット」のマンガ
2) 「基本スキット」
(日本人と外国人との短い会話)
3) can-do 表現(can-do のための大切な表現 練習1.2)
4) 「いろいろな使いかた」
(違う場面での一般日本人による基本的表現)
5) 「応用スキット」
(日本人同士の短い会話)
6) 「ことばをふやそう」
(教室の中、教室の机、世界地図など)
7) 「これは何?」
(現代日本文化を紹介)
8) 「やってみよう」
(現代日本文化の実体験を紹介)
9) 「見てみよう」
(実際の日本社会を紹介)
10)
「世界に広がる日本語」
(世界各地の日本語学習者の紹介)
11)基本スキット、応用スキットの英語、ポルトガル語、韓国語、中国語の翻訳
12)can-do のための大切な表現と、練習の答え
1) マンガ
まず、
「基本スキット」のマンガを提示することで、若い日本語学習者の興味を
引きつける。このマンガの中には「基本スキット」に現れるすべての言葉が収められ
ている。このように、紙教材のテキストにはマンガがあるが、これは使い方によって
は、噴出しの部分を白紙にして学習者に適当な言葉を入れさせるなどの形で使うこと
ができるであろう。DVDに現れる、全体の案内役としての「ホニゴン先生」
「ロボッ
ト54号」「エリン」の3体のアニメキャラクターの話す非常に会話的な日本語は、紙
教材のテキストにはほとんど載っていない。
2) 基本スキット
これは、ある場面での日本人と留学生との10文ぐらいの会話である。その中
に1文か2文の「基本フレーズ」があり、それを中心に全体が組み立てられてい
る形である。基本フレーズは簡単な表現だが、全体の会話は普通の日本人同士の
会話のスピードに近いので、画面により全体を理解できても細部にわたって早急
に理解することは難しいかもしれない。しかし、この教材の作成意図は、表現者
の大体の意図が理解でき、それに答えられればよいということで、細部にわたっ
ての理解ではない。
3)can-do 表現
can-do 表現は「基本スキット」の中からごく短い表現を、
「can-do のための大切な表
現」として取り上げ、それについて説明し、練習する形である。初級の学習者に対し
ては復習項目に入るものが多いと思われる。
4)いろいろな使い方
「いろいろな使い方」は「基本フレーズ」を一般の日本人がどのように表現している
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かの例を、いくつかの場面で示したものである。いろいろな店や場面で様々な年齢や
職業の日本人が登場し、
「基本フレーズ」を使うので、興味深い。
5)応用スキット
「応用スキット」は、日本人同士の会話である。全体の構成上高校生の話す場面
が多いが、かなり自然なので、中、上級で学習するような表現も入ることがある。
これも基本スキット同様、細部まで理解することを求めず、大体が理解できてそ
れに対処できる態勢がとれればよいというのが、作成者の意図であろう。
6)
「言葉をふやそう」
「ことばをふやそう」は基本スキットや応用スキットの場面となっている場所や
ものについての関連語彙を、図とともに与えているもので、場面との関連で提示
される語彙は記憶にとどめることが容易なので、語彙導入には適当であろうと思
われる。
7)
「これは何?」
8)
「やってみよう」
9)
「見てみよう」
「これは何?」
「やってみよう」
「見てみよう」は、現代日本社会の中で、外国
人には理解しにくい事柄や、ものについて、説明したり、実際に体験してみよ
うというコーナーである。若者中心の部分もあるが、珍しいもの、面白いものが
あって、楽しい。
10)
「世界にひろがる日本語」
これは、現在日本語を学習している高校生、学んだ日本語を仕事に実際に生か
して働いている外国人にインタビューしているもので、世界各地の日本語学習風景と
ともに、日本語学習者の日本語が聞ける。学習者の日本語ではあるが、初、中級段階
の学習者にとって、よい聴解資料になると思われる。
11)
「基本スキット」と「応用スキット」の英語、中国語、韓国語、ポルトガル語
の翻訳
12)can-do のための大切な表現と練習の答え
この新しい視聴覚教材がどのように使えるか、具体的な方策を考えなければならない。
4.
「エリン」の用法の1例
先に述べたように、「基本スキット」や「応用スキット」の一言一句を詳しく理解しよ
うとするよりも、会話表現の全体から、何が行われているか、誰と誰が何を伝え合ってい
るかを汲み取り、それを学習者が自分のことばで表現できるようになること、それが期待
されることである。ある状況についての表現の仕方は、初級の学習者は初級なりに断片的
であるかもしれないし、中級の学習者は中級なりに談話としてまとまりのあるものかもし
れない。それがまさに can-do 表現の考えである。
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この教材には、一留学生が日本に留学してきてホームスティを経験し、半年間を過ごし
て帰国するという全体のストーリーがあるが、25課それぞれは独立した場面になってい
るので、1課から順を追わずに、学習者の興味や必要に応じて部分的に内容を選択すれば
よい。
この「エリン」は、教師や学習者によって限りなく多様な用法が考えられるので、用法
を例示しても全く役に立たないかもしれない。
4-1「エリン」第1課の使い方
1) 初級前半の学習者(
「みんなの日本語Ⅰ」終了程度、日本語能力試験4級合格程度)
の場合
・DVDの「基本スキット」の場面背景について、できれば日本語で教師と学習者とで話
し合う。
・
「基本スキット」から「誰と誰がいつどこで何をしたか」を日本語で質疑応答。
・
「can-do 表現」
「基本フレーズ」は、このレベルの学習者には練習が必要。
・
「やってみよう」実際に名刺を作る(カタカナ書きの練習)
。立つ姿勢、お辞儀の仕方、
名刺の渡し方など、名刺交換の実習。
・
「これはなに?」
「自転車置き場」の説明、母国との違い、母国と違う理由などについて、
母語を交えて話し合う。
・
「世界に広がる日本語」は「誰が誰といつどこで何をしているか」を把握する形ででき
れば日本語で話し合う。
・ (
「応用スキット」はこのレベルでは難しい。
)
2) 初級後半から中級前半の学習者(
「みんなの日本語Ⅰ、Ⅱ」終了程度、日本語能力試
験3級合格程度)の場合
・ DVDの「基本スキット」
「応用スキット」の背景について日本語で話し合う。母国
の高校生と日本の高校生との違いについて話し合う。
・ 「基本スキット」について「誰と誰がいつどこで何をしたか」について話し合う。
・ 「can-do 表現」は、このレベルでは易しすぎるか。
・ 「やってみよう」としては「名刺交換」の延長として次のことが考えられる。
(学習
者から出る未習語については教師が日本語を与える)
-引越ししたときに、管理人や近所の人に挨拶し、近くの病院、学校、郵便局、銀行、
スーパーなどについて尋ねる
―管理人に、アパートの規則(ごみ出し、動物を飼う、騒音など)について尋ねる。
・ 以上のことを、もう少し発展できるとすれば、以下のようなことも考えられる。
―自分が持っているものを売りたいと仮定、ものアピールをする。
―選挙に立候補し、選挙演説、自己アピールをする。
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・ 「応用スキット」では、登場人物「健太」の言うこと、振る舞い、気持ちについて話
し合う。
・ 「世界に広がる日本語」は、内容について日本語で質疑応答。
・ 「基本スキット」の中から「ことになる、~ので、終助詞(ね、よ)などの用法を確
認し、ロール・プレイの中で取り入れてみる。
4-2 最近の試み「ジャンケン」について
パリ日本文化会館での「日本語であそぼう」
(日本語学習歴ゼロの人に日本語とはどう
いうものかを示すデモンストレーション)で、
「エリン」7課にある「ジャンケン」を試
みた。「ジャンケン」に似たゲームはフランスにもあるので、親しみやすいかもしれない
ことを見越しての選択であった。実際の指導は、日本語教育指導助手である夷石寿賀子氏
が行った。「エリン」7課では「ジャンケン」から「あっち向いてホイ」に発展するのだ
が、学習歴ゼロの人たちには「ジャンケン」にとどめた。
「ジャンケン」に入る前にしなければならないことがあった。まず、1から5までの
数字の提示である。数字の提示は手の指で数を示す。何回か数字の練習を教師が手の指を
使って行ってから、2本の指で示す「2」を「チョキ」に、掌を広げて示す「5」を「パ
ー」に、拳骨の形で示すゼロを「グー」に置き換えて、
「鋏と紙と石」の勝ち負けのルー
ルを説明、
「ジャンケン」に入る。まず、
「ジャンケンポン」の言い方と手を振るリズム、
最後の「グー、チョキ、パー」を差し出すタイミングが、初めはなかなか合わない人もい
た。隣の人や教師と「ジャンケン」を練習した後、最後には「ジャンケン」大会を行うこ
とになった。
いくつかの日本語の表現がここで必要になる。「立ってください」「隣の人とジャンケ
ンをしてください」「勝ちましたか」
「だれが3つ勝ちましたか」
「勝った人は手を挙げて
ください」「負けた人はすわってください」
「もう一度ジャンケンしてください」
「ざんね
んでした」「おめでとうございます」などであるが、それらの理解はほとんど問題になら
ずに、元気な「ジャンケンポン」の声とともに、参加者の興奮の中で終わった。
いろいろな動詞「勝つ、負ける、手を挙げる、立つ、坐る」など、文型の「動詞のテ
形+ください」
、連体修飾節の「
(勝った)+人」など、慣用表現「もう一度」
「残念でし
た」「おめでとうございます」などは、教師の言葉を聞き、学習者が自分の動作と一体化
させたりすることにより、かなりの学習が可能である。そして、授業の最後に簡単な母語
つきのプリントしたものを渡して復習し、次回の初めにもう一度思い出すことができれば、
いくつかの語彙や表現の定着はできるだろう。
「ジャンケン」は動作を伴う行為であるから、一層そのような感じがするが、全体の
成り行きが予想される事柄については、このように、その流れの中で使われる表現
を順序よく提示すると、学習者の理解が得られ、学習が進むようである。
また「ジャンケン」にしても、
「ジャンケン」をするだけで終わるよりも、その自然の
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流れで「勝ち負け」を決めたり、勝ち抜き戦をやって優勝者を決めたりするような「コト
ガラ」の始めから終わりまでをひとまとまりとして提示する形にするほうが学習者の理解
度は高いように思う。しかし、「コトガラ」の内容や学習者のレベルによって、すべての
「コトガラ」が始めから終わりまでをうまく提示できるとは限らないので、その扱いは教
師の裁量によるところが大きい。
「can-do」で言うならば、「簡単なゲームのやり方が理解できる(それをほかの人と一
緒に行うことができる)
」というところであろうか。
5.日本語学習の動向とフランスの学習者
「エリン」の中の「基本フレーズ」は初級レベルとしては易しいが、その他で使用さ
れている日本語はあまりに自然で、聞き取りは難しそうだという印象を受ける。つまり、
今までの日本語教材とはかなり内容が違うのである。
それは、
「can-do 表現」という新しく登場した用語によく表れている。
「can-do 表現」
とは、「日本語を学習した学習者が日本語で実際に何ができるか」を問うもので、言語学
習とは、その語について認知でき、その後の用法が分かるだけでなく、それを使って何か
が表現できるようになることという考えに沿っている。確かにことばは意志伝達の道具だ
から、意志伝達するために使わなければ意味がない。
また、一方で、言葉の集まりである談話は、一言一句すべて了解できなくてもその話
者の意図が伝えられるということがある。ある場面の中に出現する語彙や表現はそれぞれ
の連鎖によって結びつき、話者の表現意図と結びついている。連鎖の仕方はそれぞれの言
語によって異なり、その国の文化のあり方とも関連しているように思う。その連鎖の仕方
が分かるようになると、その言語の表現の方向性が分かってくる気がする。一言一句の法
則性よりも連鎖の法則を模索するほうが言語理解への道は近いのではないか。
その一方で、学習者が成年である場合、母語によってすでに頭の中にひとつの言語体
系が出来上がっているから、闇雲に新しいことばを記憶することには抵抗がある場合が多
い。もちろん言語環境によってそのような抵抗の少ない地域は存在するし、記憶能力に優
れた人の場合には、そのような抵抗は少ないのかもしれない。言語学習者は、自分がどの
ような言語環境にあり、どのような学習目的を持ち、どのような言語習得能力を持ってい
るかを知っている必要がある。そして、ある言語を学習し、その特徴をつかもうとする場
合、何らかの形で論理性をもたないことについての記憶は脳に長くとどまらない。コミュ
ニケーションは大切であるが、言語学習のための記憶を助ける整理機能として、言語につ
いての規則の学習はある程度必要ではないかと考える。特に、ラテン語などを小学校の時
から文法規則とともに学習してきたフランス人は言語はすべて文法から成り立っていると
考える傾向がある。そして、その方向から完全な言語の学習を目指して猛勉強するから、
知識として言語をほとんど完全に学習できてもそれを使って何かを表現することには自信
がないという状況が起こる。
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かつては難解な言語として、知的レベルの高い少数のフランス人に学習されていた日本
語は、その人たちが日本語教師になって自らが学んだのと同じ方法で日本語を教えている
という現状がある。でも、学習者は少しずつ変わりつつある。文型中心で学んできた最近
の日本語学習者が日本語で話したいという意欲を現わし始め、漫画世代のより若い日本語
学習者はそのまま漫画の世界から口頭表現に向かいはじめている。また、バカロレアで日
本語を選択した生徒は、口頭試験のために簡単な聴解や口頭表現は必要である。でも、残
念ながらフランスの若い世代に合うよい日本語教材は、まだほとんど存在していない。
そのようなときに「エリン」が登場した。この中に現れる日本語の自然さは、海外で日
本語を学習する人たちにとって、また、教師にとっても貴重である。また、現代社会の日
本文化の取り上げ方も非常によいと思う。これはなんとかして、教材に利用したいもので
ある。
日本語教育で「文法」という場合、それは、非日本語話者が日本語を習得するための方
策、手係りとして存在する規則のようなものである。それは、今まで書き言葉を中心とし
て考えられてきており、話言葉についてはごく最近研究が始まったばかりで、
明らかにされていない部分が多い。また、言語規則は、書き言葉、話し言葉共通のものも
あるが、全く違う観点から捉えなければならないものも多い。
「エリン」のような話言葉の教材が出現した以上、話言葉の規則がより明確にされる必
要が高くなってきた。
「自然な」日本語を教える立場から、特にそのことが望まれる。
そして、日本語とフランス語とのすり合わせが、日本文化とフランス文化との認知を
一層高くし、日本語学習をより容易にすることであろう。その意味では、フランス語母語
話者に対する日本語学習用の辞書や教材がひとつでも多く世に出ることを期待したいと思
う。
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<Workshop>
How to use the new material for teaching Japanese language “Erin?”
Junko KITAJÔ
Fondation du Japon, Maison de la Culture du Japon à Paris
The Japan foundation published the new material for the teaching Japanese
language with the cooporation of NHK. This material is chiefly for the beginning
level of the Japanese teaching.
I will present and explain the content of this material and consider how to use it.
This material “Erin” is consisted by the 25 lessons. “Erin”who is the student of
the high school of England came to Japan to study Japanese Language and
culture. Through her experience with the members of the host family and her
classmate, she learns the various Japanese expressions and the phenomenon of
Japanese culture.
The characteristic of this material is “can-do” expression. The idea of “cando”based on “cefr” and “standards”. The arrangement of the sentence patterns is
quite different from the sentence patterns of the grammar
teachers who are going to use this
syllabus. So, the
material can be experiment in the various
way.
In this way, in order to treat the audio-visual material which is axis on the oral
expression, it is necessary to analyze of the Japanese oral expressions and to
build up the grammar of the Japanese discourse.
On the other hand, if there are the expressions that the learners can not
understand, they should try to guess and recognize the meaning by the scenes or
the scenario of the stories by using ability of analogy. And this kind of ability of
analogy concerning to the background of the language has the relation to the
culture of the country.
The appearance of the material as“Erin”for young people will connects more
directly between the mother tongue and the Japanese language. I hope the
dictionaries and the various materials for the French people who are learning
the Japanese language will be published more as soon as possible.
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