「日本経済論の罪と罰」(小峰隆夫/日本経済新聞出版社) 筆者は、本書

「日本経済論の罪と罰」
(小峰隆夫/日本経済新聞出版社)
筆者は、本書で世の中にしばしば見られる誤った日本経済論に異議を申し立てたいと
している。それらの対象として取り上げられているのが「脱成長論」「人口減少・市場
縮小論」
「公共投資主導型成長論」
「反TPP論」などである。本書では、経済の基本的
な考え方に照らしながらこれらについて見解を述べている。
まず、「脱経済論」については、その主張を吟味し反論することで経済の重要性につ
いて強調している。筆者の考えは以下のとおりである。
人々の生活をできるだけ豊かなものにすることが、経済の最終目標であり、それを達
成しようとするために経済政策がある。
しかし、最近各方面で「これ以上の経済成長は必要ない」という「脱成長論」が見ら
れるようになった。そのひとつには「震災を機に成長至上主義、効率優先主義から脱却
すべきだ」というものがある。分からないのは、なぜ「今回の震災を契機に」という考
えに転換しなければならないのかということだ。
効率優先主義であったため震災や原発事故がおこったわけではなく、効率性や経済性
重視が震災からの復興を妨げているわけではない。むしろ、復興の過程においてこそ、
成長が求められ、効率化が必要となるはずである。
さらに筆者は、経済成長と人口との関係についても次のとおり述べてる。
人口減少は、成長率全体にとっても、1人当たりGDPにとってもマイナス要因とし
て作用するが、生産性の上昇がそれを上回るので経済規模は縮まない。所得水準が上が
り消費が増えれば国内需要も縮まないはずなのだが、「人口減少によって国内市場が縮
む」と考える人が多い。
その理由は、議論を始めるときに、冒頭で一般的な問題意識を述べるような場合に使
用する表現、すなわち「枕詞」にあると考えている。枕詞になってしまった考え方ほど
危険なものはない。誰もが「みんな言っているからそれは当然」という気になり、事実
関係を確認しなくなる。
人口要因そのものだけを取り上げれば、それが経済成長にとってマイナスに作用する
ことは違いない。だからこそ、成長へのマイナスを嘆くのではなく、成長の可能性を追
求する姿勢が求められるのではないか。
筆者は、経済問題を二分法で考えるのは危険であるとみている。なぜなら、経済には
「誰もが正しいと考える唯一の答え」は存在しないからである。
だからこそ、経済の議論においては「有名な人が言っている」
「みんながいっている」
「新聞にそう書いてある」からといって、簡単にそれを受け入れるようなことはせず、
納得するまで自分の頭で考えてみることが必要であると述べている。
自治体職員は日本経済の流れを見極めながら、地域の課題解決における政策を進める
ことが望まれる。他の自治体の成功例をそのまま導入するのではなく、何が最も有効な
解決策なのかを自ら考えることが必要だと認識させられた一冊である。(ほ)