実験動物の給水システムの品質保証 Eric K. Edstrom and Robert Curran Lab Animal Volume 32, No. 5 May 2003 Association for Assessment and Accreditation of 実験動物に供給される水に汚染物が含まれることは実 験動物の健康と福祉にとって深刻な脅威となるばかりで Laboratory Animal Care(国際実験動物管理公認協会) なく実験データの信頼性をも大きく脅かすことになる。著 (AAALAC)の研究所査察の中で、査察官は通常、その研究 者らは水の浄化に用いられる種々の装置を評価し、水質を 施設が、行われている研究の性質および飼育している動物 実験動物施設とユーザーのニーズに合致させるための戦 の健康と微生物学的状態の両方に適合する水質保証をど 略を示唆する。 の程度まで行っているかを評価しようとしている(J. Miller、私信)。あまねく受け入れられている水質基準が 水質は医学研究における重要な変数である。細菌数が多 ないので、各研究施設はそのプロトコールの条件に従って くなると動物に病気や死をもたらし、水の中の他の汚染物 必要な水質を決めなければならない。究極的には、研究施 は不確定度を持ち込んでくる。最近行われたアルツハイマ 設のスタッフはそれらが所内の基準にあっていることを ーのアミロイドβがコレステロールによって蓄積するウ 示すために試験をして文書化を行わなければならないだ サギ・モデルの研究では、蒸留水を飲ませたウサギでは脳 ろう。 の中に形成されるアミロイド・プラークが水道水を飲ませ 飲用に適した水とは何か? たウサギよりも有意に少なかったが、これは実験変数とし 合衆国の多くの地域で基準コードとなりつつある The ての水の重要性を示している。 International Plumbing Code(国際水道管コード) (E. 良い水質を構成するものは何か? Vittitow、私信)は“飲用に適した水とは病気あるいは有 The Guide for Care and Use of Laboratory Animals 害な生理学的効果を起こすだけの量の不純物を含まない 「動物実験指針」(Guide)は“通常、動物はその特別な 水であり、Public Health Service Drinking Water 要求に従って、飲料に適した汚染されていない飲水を飲む Standards(公衆衛生局飲料水基準)の細菌学的および化 ことができなければならない”と述べている。Guide は水 学的品質基準または管轄する公衆衛生当局の諸基準に適 処理がどんな試験が行われるかによっては必要になるか 合した水のことである”と述べている。 合衆国では、Environmental Protection Agency(環境 もしれないとも言っている。この忠告によって多くの異な る解釈がなされてきた。ヒトの飲用に適した水道水を供給 保護局) (EPA)は水道水の水質許容範囲を決める基準を するものから逆浸透(RO)および他の濾過や処理プロセ 監督している。 EPA は National Primary Drinking Water スによる高純度の水を供給するなどの幅があった。Guide Regulations(全国一次飲料水基準)に責任を持っている。 は“水質および飲用に適している水の定義は地方によって この基準は飲料水に含まれる規制物質について最大汚染 異なる(Homberger and others 1993)。pH、硬度、微生物 物濃度(MCLs)を定める健康関連の基準である。MCL 汚染および化学的汚染の定期的なモニタリングは、水質が は消費者の蛇口に配水される水に含まれる汚染物の最大 容認できることを確認するために必要かもしれない。とく 許容濃度である。MCL は Safe Drinking Water Act(安 に、特定の場所の水の通常成分が、得られる結果に影響す 全飲料水法)の下にある公共水道に強制される。EPA は る可能性をもつ試験に用いる場合には必要である。プロト 最大汚染物濃度目標(MCLGs)も定めている。この濃 コールが非常に純粋な水を求めているときには汚染を少 度では人の健康に対する既知または予測される害作用が なくするあるいは皆無にするために水を処理あるいは精 起きない、適当な安全域を認めるものである。MCL は公 製することができる。”とも述べている。 共水道が使えるコスト、処理技術を考慮に入れて、妥当な 1 ものとして MCLG に近く定められている。 水の浄化と処理の方法 実験動物施設にとってとくに興味深いのは飲料水中の 大腸菌群の EPA の上限数である。なぜならば、大腸菌群 どの場所にあるかによって、水は井戸、貯水池、あるい が存在することはその水が動物の排泄物で汚染されてい は市営水道などいろいろな水源から得られる。水源は季節 ることを強く示しているからである。5%だけのサンプル によって年の時期が異なると変化する。市営水道からくる が1ヶ月に総大腸菌数陽性であってもよい。テストで大腸 水は、品質レポートが公表されており、市営水道局のホー 菌群陽性となったサンプルは Escherichia coli について再 ムページで閲覧することができる。しかし、そこに掲げら 検査しなければならない。もし E. coli が存在すれば、そ れている情報は特定の瞬間をとらえたいわばスナップシ の水はもはや飲用適とは見なされない。 ョットにすぎず、蛇口にある現在の水質を保証するもので はない。 これらの定義は理解することが重要である。なぜならそ れらが地方自治体が動物施設に配水している水質を規制 実験動物施設でまず取るべきアクションは入ってくる しているからである。そのような濃度は実験動物の健康を 水を施設自身の基準に照らしてテストすることである。年 維持するのに適切かもしれないし適切でないかもしれな 内の汚染物の変動を評価することは、どのような水浄化シ い、また研究の妥当性を保護するかもしれないししないか ステムを使うかを決定するのに役立つ。入ってくる水の水 もしれない。施設管理者および獣医師はどの汚染物を測定 質にはある程度のバラツキがあるので、施設管理者は動物 すべきか、それらをどのような頻度で測定すべきか、そし 実験施設に供給される水が汚染されていると仮定するの てそれぞれについて許容限界はどれだけかを決定しなけ が賢明である。それゆえに、水質管理プログラムで取るべ ればならない。 き第一歩は水の浄化プロセスを用いることである。 Edstrom Industries (Waterford, WI)、実験動物用給水 水の浄化プロセス 装置の販売会社、は実験動物飲料水質管理プログラムを作 粒子フィルター:これらのフィルターは一般的に 5 µm 成するときには以下のことを推奨する。 EPA 基準に合致すること。 “飲用に適して、汚染されて から 0.2 µm までの幅があり、水によって運ばれる汚染物 いない”水を EPA のヒトの飲用のための Primary (健 に対して健康を守る防御壁として装備される。しかし、フ 康関連の)Drinking Water Standards に合致しているも ィルターのカートリッジを定期的にチェックして交換し のと解釈することが意味をなす。 ないと、汚染物は溶解しているときよりも多くの問題を起 貴施設の研究試験にとって関心のある汚染物に上限を こすことがある。なぜならばフィルターは細菌のための栄 セットしてテストすること。たとえば、毒性試験では、飲 養物を捕捉し、細菌はフィルターを“通って発育し”配水 料水中のすべての干渉化学汚染物をテストすることが意 システムの中に入り込むからである。フィルターは飲水バ 味をなす;免疫無防備状態の動物では、細菌汚染に厳しい ルブの機能を損なうような大きな粒子を除去するという 上限を考えることが思慮深いことである。 価値を持っており、実験動物の飲水装置のための最小限の 基準として他の施設と組織を用いること。あなたの水質 防護であると考えるべきである。 基準を近所の動物施設の基準と比較すること。というのは、 活性炭素フィルター:活性炭素フィルターは有機物を水 近所の動物施設も類似の水源を扱っていると思われるか から吸着し、実験動物の給水装置においては RO 浄化プロ らである。 セスの前処理として塩素と有機物を除去することができ 純水が規定されている場合には水浄化プロセスをモニ る。これらの化学物質は有害なトリハロメタン(THMs) ターすること。水浄化は、通常逆浸透によるが、水から汚 様クロロフォルムを形成する。THM 汚染に関心があるた 染物を除去し、標準化した水質にして、地方の水道水にお めに、実験動物施設は残留消毒として RO 水に塩素を添加 ける季節変動に対して保護する。伝導度あるいは しようとするときには活性炭素を使用することがある。活 percentage rejection をテストすることによって水浄化プ 性炭素が吸着する有機物は細菌にとって優れた栄養の供 ロセスをモニターすること。 給源となるので、活性炭素フィルターは慎重に維持しなけ 2 ればならない。さらに、活性炭素の有効性はそのメディア 作っている。実際に、Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌) が吸着限界に近づいていくので時間とともに減少する。 のような細菌は、飢餓モードに入り、栄養の少ない水の中 紫外線(UV)灯:紫外線灯、とくに波長 254 nm に長 で全く容易に生存することができる。 く暴露すると、汚染細菌が活性を失う。しかし、UV 灯は 菌数計算 不活性化した細菌を除去しないので下流に送られるパイ ロジェン負荷を増大させる。UV は溶解イオンや有機物も バイオフィルムが配管システムの内部表面積の大部分 除去しない。さらに、UV 灯はユニットに入る微生物の をカバーできるので、バイオフィルム内の細菌数を計算す 90%しか殺さない。これらの欠点のため、実験動物施設は る決定的な方法がない。しかし、バイオフィルムとして表 UV 灯を唯一の浄化法として採用することはないが、より 面に付着している細菌の数と水の中に自由に浮遊してい 大きな浄化プロトコールの一部として有用であると認め る細菌の数との間には相関のあることを理解することが ている。UV 灯は定期的な電球の交換など定期的なメンテ 重要である。実験動物施設は実験動物がその水を飲むとき ナンスを必要とする。また、電球は水のところまで邪魔さ に動物が水中浮遊細菌に暴露されるから、水中浮遊細菌に れない光線をとどかすために定期的なクリーニングを必 関心がある。しかし、バイオフィルムは、水中に存在する 要とする。 大多数の水中浮遊細菌はバイオフィルムから剥離してき 逆浸透(RO) :逆浸透は水に圧力をかけて半透膜を通過 たから重要なのである。バイオフィルムの剥離は不規則な させ、原子の半径ほどに小さい汚染物も濾過する浄化プロ 間隔で起きる結果、細菌数にバラツキが生じる:このよう セスである(Table 1 参照)。多くの水浄化フィルターと にサンプル中の細菌数は少ないのに動物が高い細菌数に 同じように、RO 膜も高密度の栄養物を細菌のために集め、 暴露される危険性がある。さらに、従属栄養細菌数の測定 そして、適切なメンテナンスを行わなければ、細菌が RO に用いられる平板寒天培地は、低栄養モードにある細菌を 膜の中で発育し下流の水を汚染する。現代の RO 装置は多 培養できないことがある。 標準従属栄養平板寒天培地の代わりは R2A である。こ くの自動モニタリングおよび自動クリーニングプロセス を取り入れているが、RO 膜はなおも2-5年ごとに交換 れは高純度の水サンプルを培養するために開発された低 する必要がある。 栄養培地である。典型的な高純度水の給水システムにみら Table 1. 逆浸透によって除去される汚染物 れる栄養濃度を正確に表現したものである。したがって、 汚染物 溶解イオン RO による除去率 そのようなサンプル中の細菌は発育し、より正確な細菌数 >93% が得られる。RO を取り入れているような高純度の水の給 99% >200 MWa 水システムに投資するほど水質に関心の高い施設は R2A 粒子 >99% 培地を使用することによって得られるような水質試験の 細菌 >99% 正確さを必要とするであろう。施設が水道水を使っていて パイロジェン >99% 非常に正確な菌数に関心がないならば、総菌数で十分であ 有機物 る。 aMW、分子量。分子量の遮断率は膜のポア・サイズに基 づく(Edstrom Industries, Inc.)。 細菌数の制御 細菌はいつでも配管表面のバイオフィルムから剥離で きるので、水中には塩素のような残留消毒薬を維持してお 細菌の処理 くことが重要である。有効遊離塩素が水中にあるとき、そ 水の中のすべての汚染物の中で、細菌が最もコントロー ルしにくいものである。RO 水の入った配水システムは細 の塩素は剥離した細菌を動物が飲む前に殺すことができ 菌にとって低栄養で敵対的な環境であると思われが、実際 る。 には細菌は配管表面に付着しバイオフィルムを形成する ことによって住みつき配管内に非常にうまくコロニーを 3 処理プロセス デッドレッグをなくす 水の浄化につづいて、水は配管システムの中の細菌数を 制御するための処理プロセスを通過する。多くの動物施設 どの給水システムにも応用できる1つの必須原則はデ は塩素あるいは酸のような残留消毒薬を用いているが、そ ッドレッグをなくすことである。AAALAC International の他の施設では“化学物資を含まない”水質ポリシーの一 の査察官が問題を発見する動物の飲水システムに関する 部として UV 灯を用いている。残留消毒薬を維持すること 最も一般的なエリアはデッドレッグと給水ビン・ノズルの と、化学物資を含まない方法を実行することの間のトレー 消毒である(J. Miller.私信)。 ドオフは化学物質を含まない水の中の細菌数のバラツキ 現代のシステム・デザイナーはデッドレッグをなくすこ が拡大することである。なぜならば、バイオフィルムの発 とに注意を払っている、しかし、デッドレッグはラックの 育を抑制するあるいはバイオフィルから剥離した細菌を マニホールド・レベルでも起きる;定期的なフラッシング 殺す残留は得られないからである。 をされていないラックは必ずデッドレッグになる。配管ラ インをマニホールドに接続するリコイル・ホース(しばし 消毒 対 残留消毒薬 ば“ブタのしっぽ”と呼ばれる)もデッドレッグになる。 過去 25 年間、実験動物施設は実験動物の給水システム ラックをシステムからはずすとき、リコイルホースをはず の中の細菌と戦うためにいろいろな戦略を用いてきた。こ して消毒するか、または自動オンライン・ラック・フラッ の間に、実験動物施設は定期的な高濃度塩素消毒に頼って シングを用いるフラッシュライン・リコイルホースに接続 きた。これは 30 ppm までの塩素濃度で 20-30 分集中的に することが必須である。 “浸漬”し、それから塩素を含まない水でフラッシングす 給水システムの建築 ることであった。 細菌に関するわれわれの新しい理解では、消毒は短期的 3つの基本的な配管システムがあり、それぞれにいくつ には有効であるけれども、消毒後わずか3日で給水システ かのバリエーションがある。多くの現代のシステムは 316 ム内で再びコロニーを作ることができることがわかった。 ステンレススチール部品を使っているが、塩化ポリビニー 実験動物の給水システムの中における細菌を制御する ル(PVC)を使っているものもある。 新しいモデルはインストール時あるいは不使用期間の後 静圧 にシステムを消毒し、その後は細菌が再発育を始めるある いは生き残ったバイオフィルムから剥離してくるときに 静圧システムは動物が飲む量以上の水の移動がない。ラ 細菌を殺すために残留消毒薬を維持することである。 イン端末のバルブは通常、ラインの定期的な手動フラッシ ングができるようにインストールされる。静圧システムが 残留消毒薬 高質の水を確実に供給できるとは期待できない。なぜなら 塩素は多くの実験動物給水システムに添加される残留 細菌が急速に発育するからである。唯一の例外はデーリー 消毒薬である。2-3 ppm の濃度が細菌数を低く維持するた ベースで手動フラッシングをコンスタントに行っている めに有効である。pH を 2.6 と 3.0 の間に維持するために 施設であるが、これは小さなシステムでのみ実行可能であ HClを用いる動物用飲料水の酸性化が、低いpH の水は る。 給水ボトルの細菌の繁殖を抑えるので長く行われてきた。 再循環 pH が 2.5 以下に落とさないことが重要である。なぜなら ば、これは給水システム内のステンレス・スチールおよび 再循環システムは水を小さなタンクに貯めて、持続的に シリコン・ゴム部品を劣化させるからである。また、溶解 水に圧力をかけてタンクに戻ってくる配管ループを通し 塩素ガスがpH 5.0 以下に酸性化した塩素添加水に発生 ている。概念的には、このデザインは常に水を動かしてい し、Edstrom Industries, Inc.の経験によれば、実験動物 るので静圧システムよりはベターである。再循環システム の飲水バルブの中のシリコン・ゴムの膨潤を起こす。 は細菌を制御するために UV 灯消毒を採用することが多 4 い。あいにく、UV 灯は約 90%の細菌しか殺さないので、 残留消毒薬(塩素または酸)が細菌と戦うことができると 細菌を下流に付着させてバイオフィルムを形成させる。時 期待してよい。しかし、残留消毒薬の入らない水を供給し 間とともに、バイオフィルムの剥離が起こり、水中浮遊細 ている施設はボトルに入る細菌のレベルはバイオフィル 菌をシステムの中に送って動物が摂取することになる。剥 ムの剥離が起きたときに変動することを知っておかなけ 離した細菌の塊は不透明で、再循環ループ内の UV に対す ればならない。 ボトル充填機を1日以上使わないならば、オペレーター る暴露にも生き残ることができる。 はボトルの充填を始める前に浄化サイクルを用いなけれ 新しい再循環システムは非常に複雑で、各ラックのマニ ホールドの中の水を再循環させることもできる。これらの ばならない。これによってマニホールドからすべての水が システムの流れをバランスさせるデザインに注意を払わ フラッシュアウトされ、ボトルが水中浮遊細菌によって汚 なければならない。なぜなら、ラックをはずすことと長い 染される機会が減る。残留消毒薬を使っていなければ、オ 再循環ループは流速を落とすからである。 ペレーターはボトルの中の細菌数のバラツキが大きくな り総菌数が増えると考えなければならない。 フラッシング・システム 結論 フラッシング・システムはマニホールドの終点に電子ソ レノイドバルブを持ち、コンピュータ・システムがすべて システムの設計とメンテナンスの両方が給水システム の配管ラインとラック・マニホールドを定期的にフラッシ の質に影響する。しかし、浄化および処理の装置よりも水 ングするようにする。塩素のような残留消毒薬と組み合わ 質の結果に焦点を当てなければならない。したがって、細 せるとき、フラッシングは確実に水を完全に交換し、塩素 菌とバイオフィルムについて、それらが低栄養環境にどの をすべての配管とマニホールドに送り、消毒薬が確実にバ ように生き残るか、そしてそれらをどのようにしたら制御 イオフィルムから剥離した細菌を殺す。 できるかを十分に理解することが大切である。その知識を 持って、各施設はその個々のニーズと特殊な問題に適した ボトル充填機の中の水質 装置を採用することができる。 現代のボトル充填機は正しく操作すれば高質の水を供 給できる。ボトル充填マニホールドはボトル充填サイクル が動くたびにフラッシングされるので、水の回転が良く、 5
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