[ 11.20 フォーラム「みんなでつくろう!緑の党」・資料 論点の提起 テーマ① 経済成長神話にサヨナラ―脱成長こそ環境と雇用・生活を守る 脱成長は、経済成長を最優先する発想や経済の あり方から脱け出すことを意味する。経済が成長 さえすればあらゆる問題が解決し、雇用も福祉も 安定するという神話と訣別する。経済成長を目標 や前提にした輸出依存型の経済や産業構造、雇用 や生活保障の仕組み、ライフスタイルや文化を根 本的につくり替える。たとえば環境や自然エネル ギー、医療・介護・教育などの分野に経済の重点 を移し雇用を増やす、地域の自立と地域内循環を 重視する、労働時間を抜本的に短くし自由な時間 を増やす、競争よりも分かち合いと連帯を発展さ せる。こうした転換によって、私たちは、お金や GDPで測れる富が増えない、あるいは減るとし ても、それに代わる別の豊かさ(自然との共生、 自由な時間、スローライフ、公正など)を十分に 手に入れることができる。 論点Ⅰ 脱成長で雇用と生活は守れるのか 1 脱成長の社会では、1 人当たりの労働時間(お カネを稼ぐための労働時間) が大幅に短縮される。 これによってワークシェアリングが可能にな り、失業をなくすことができる。そして、自由 な時間を手に入れることができる。 4 もう1つは、ベーシック・インカムの導入で ある。それは、残業やダブルジョブによって辛 うじて生活できる所得を得ているという状態 から労働者を解放し、ワークシェアリングを促 進する(ワークシェアリングを妨げているのは、 労働時間短縮に伴う賃金収入の減尐への恐れで あるため) 。 2 ワークシェアリングと均等待遇(女と男、非 正規労働者と正規労働者、外国人労働者と日本人 労働者の間での同一価値労働同一賃金)の実現に よって、格差を縮小しワーキングプアを減らす ことができる。しかし、労働時間の大幅な短縮 によって、労働者 1 人当たりの現金収入は減る ことになるが、安心して生活できるのだろうか。 3 現金収入が減っても、医療・介護・子育て・ 教育・住まいなどの社会サービスに対する支出 が自己負担ではなくなり、無料か低料金の公共 サービスとして十分に提供されるならば、必要 な生活費はずいぶん尐なくても済み、将来への 不安が解消される。 5 いま、これまでの生活保障の仕組み(働くこ とによって生活できる所得を得る)から除外され ている人びとが急増している。働いていても生 活できない非正規労働者(ワーキングプア) 、基 礎年金だけでは生活できない高齢者、最低生活 費を下回りながら生活保護を給付されない人 びと、そして 3.11 大震災と原発事故によって 仕事や雇用の場を失い生活費を得られなくな った数十万人の人びと、さらに避難したくても 生活保障がないために避難できない多くの人 びと。こうした人びとに対する生存権保障の仕 組みとしてベーシック・インカムあるいは給付 付き税額控除の導入が必要になる。 論点Ⅱ 経済成長がなくても必要な財源は確保できるのか 1 社会サービスを思いきって拡充するとすれ ば、巨額の財政支出が必要になるが、財源は借 金なしに確保できるのか。1 人当たり月 10 万円 のベーシック・インカムを導入すれば、年間で 144 兆円の財源が必要になるが、それは調達で きるのか。医療・年金介護などの社会保障給付 費はすでに 100 兆円を越え(2010 年度) 、2025 年には自然増で 151 兆円になる見込みだが、税 負担のいっそうの引き上げは可能なのか(社会 保険料の負担の引き上げは限界である) 。 ① [ 2 ベーシック・インカムの財源については、小 沢修司さんが 1 人月8万円の場合の総額 115 兆 円の財源は、現在の所得控除(給与所得控除、 配偶者控除、扶養控除)をすべて廃止し、個人 の所得総額(2008 年度で 258 兆円)に 44%の比 例課税をすれば、可処分所得を減らすことなし に調達可能である、と試算している。しかし、 ベーシック・インカムを 1 人当たり月 10 万円 にし、さらに社会サービスを拡充するとすれば、 税負担の引き上げは避けられない。 3 “経済成長がなければ税収も増えず、福祉も 後退する”という神話(脅迫観念)に多くの人 びとが囚われている。1990 年代以降の日本の税 収(とくに法人税と所得税)は低下傾向をたど ってきたが、これは経済がゼロ成長に陥ったか らだろうか。税収減尐の主たる原因は、新自由 主義にもとづく所得税と法人税の減税政策に あった。すなわち、公正な「分かち合い」が行 われなかったからである。 4 日本の国民負担率は 39.0%、とくに租税負担 率は 21.5%と、国際的に見て際立って低い。税 負担を引き上げる余地は大きく、公正な税負担 の増大が必要かつ可能である(所得税の累進性 強化、法人税の維持と租税特別措置の撤廃、金融 課税・相続税の強化、逆進性緩和を伴う消費税引 き上げなど) 。脱成長の下では、フロー(所得や 利潤)への課税からストック(資産)への課税 のシフトが必要になるのではないか。 論点Ⅲ 脱成長と“福祉で成長する”、“自然エネルギーで成長する”は対立するか 1 “福祉で成長する”や“自然エネルギーで成 長する”というビジョンは、脱成長のビジョン の良きライバルである。共通点も多いが、違い や対立点もある。 2 日本は、“自動車や電機製品の輸出と引き換 えに大量の資源や食料を安く輸入する”という 経済のあり方によって成長してきた。こうした 海外市場=外需主導型の経済のあり方は、2008 年のリーマン・ショックによって大きく躓いた。 そして、今また世界経済危機(EUの債務危機 を震源とする)のなかでの超円高の到来によっ て行き詰っている。国内市場=内需主導型の経 済への転換が、避けられない課題となっている。 3 その柱の1つは、医療・介護の分野で高齢化 に伴って膨らむ潜在的なニーズを掘り起こし、 このニーズを満たす人的サービスを増やす、つ まり新たな需要と雇用を創出することである。 すでに、医療・福祉分野の就業者は 650 万人に なっている(卸売・小売業は 1060 万人、製造業 は 1058 万人、建設業 489 万人、2010 年) 。その劣 悪な労働条件を改善すれば、就業者は飛躍的に 増大する。 4 医療・介護の分野がこれからの経済活動の中 心となり、雇用創出の最大の場となる【共通点】 。 そこで、 “福祉(医療・介護などの社会サービス) への財政支出の拡大 → 需要と雇用の創出 による経済成長 → 税収の増大”というビジ ② ョン(神野直彦)が提唱されている。医療・介 護分野での需要と雇用の増大は経済を活性化 するが、しかし、経済全体を成長させるかどう かは分からない。それは、二の次の問題である。 経済成長とそれによる税収増を至上目的にす ると、税の投入を減らし規制緩和(医療報酬や 介護報酬を自由化し、高い料金を払えば良質のサ ービスを受けられる)によって医療や介護を成 長産業(高い利益を得られる産業)にするとい う新自由主義の路線の方が有効ということに なる。だが、それは、医療や介護を誰でも(低 所得者でも)利用できる公共サービスとして提 供するという社会保障の本来のあり方を歪め、 崩壊させかねない。 5 “福祉で成長する”論の1つに、“就労を促 進する社会保障によって成長する”構想(宮本 太郎)がある。社会保障(生活保障)は、ベー シック・インカムではなく、就労可能性を高め る職業訓練と雇用機会の創出に力を注ぎ、経済 成長につなげるべきだという考え方である。就 労による経済的自立に特別の意義がある、また 経済成長なしには福祉の財源の持続性はない、 という考え方である。 6 もう 1 つの柱は、環境保全や自然エネルギー の分野で新たな投資と雇用創出を進めること である。自然エネルギーや省エネ技術の開発・ 普及は、新しい投資を誘発し、雇用を創出する。 この分野もこれからの経済活動の中心になる [ 【共通点】。しかし、「第三次産業革命」(諸富 徹)を呼び起こして、経済全体を成長させるか どうかは分からない。 発・脱石油を実現する道である(たとえば太陽 光や風力で発電した電気のスマートグリッドで の長距離送電、高断熱住宅・ビルへの大量建設な ど)。経済成長を自己目的としない立場であれ ば、数多くの小規模な投資、伝統的な技術の活 用、エネルギーの地域自給など(GDPの増大 にそれほど寄与しない)が重視されるだろう。 これは、ライフスタイルの抜本的な転換、大都 市の縮小と地方への人口の分散といった社会 構造の変革と不可分一体である。 7 自然エネルギーや省エネの分野では、さまざ まな事業や取り組みがありうる。経済成長をめ ざすのであれば、大規模なインフラ投資や省エ ネ製品の大量販売(GDPの増大にいっそう寄与 する)に重点が置かれるだろう。これはまた、 これまでの便利で快適な生活を維持し、大都市 への人口集中を続けたまま、技術に頼って脱原 【補足資料】 [1]経済成長は非正規雇用を急増させ、格差と貧困をもたらした 1 日本は、この 20 年間ゼロ成長であった(名 目GDPは 1991 年度 474 兆円、2010 年度 476 兆円。実質成長率は 1991 年~2008 年度の年平 均 1.0%)。 「生きづらさ」の増大(格差の拡大、 貧困の急増、年 3 万人を越える自殺など)は、 経済が成長しなかったからではない。 2 2002 年~07 年は、ゼロ成長時代に例外的に 年率 1.9%の経済成長が実現された時期であっ た(小泉「構造改革」が行われ、「戦後最長の景 気回復」期と呼ばれた) 。 *経済成長は、個人消費の伸び悩みにもかかわら ず輸出の増大によって実現された。 *企業(とくに輸出部門のグローバル企業)の経常 利益は急増したが、勤労者の可処分所得は低下 し続けた(民間の平均給与は、02 年の 448 万円 から 08 年の 430 万円へ) 。 *雇用は拡大したが、その実態は低賃金で不安定 就労の非正規労働者の増大(2001 年の 1360 万 人から 08 年の 1737 万人へ増大。全体に占める割 合は 26%から 34%へ) 。 *所得格差の拡大、ワーキングプアの増大(年収 200 万円以下の民間労働者が増え続け、2006 年に はじめて 1000 万人を突破) 。 3 現代では経済成長は、グローバル企業の利益 の増大をもたらすが、非正規雇用の拡大を伴う だけで、人びとの所得の向上も雇用の安定も生 まない。 4 1 人当たりGDPと生活満足度の開きが拡大 した(1 人当たりGDPは 1964 年から 2008 年 にかけて 3.9 倍に上昇したが、生活満足度は 1995 年の 70%をピークに低下) 。 5 経済成長は、省エネ技術の導入にもかかわら ず、資源・エネルギーの消費量を増やし続け、 CO2排出量の増大など環境負荷を高めてきた。 [2]経済成長の条件はすでに失われている 1 日本の労働力人口は急速に減尐する(2009 年 け合い活動の活発化(脱成長)だけではなく、 対人サービスの商品化・市場化による経済成長 に向かう可能性もある。 から 2030 年にかけて人口は 12740 万人から 11522 万人へ、労働力人口は 6617 万人から 5584 万人へ 1000 万人以上の減尐) 。この減尐は、女 3 環境や資源による制約が大きくなっている。 脱原発やCO2排出量削減は、エネルギー使用 量や消費支出の節減による経済成長の減速を もたらす。しかし、新しい環境保全や省エネの ための投資の増大によって経済成長を生み出 す可能性もある。 性や高齢者の就業率の向上と生産性の上昇に よってはカバーしきれず、GDPは必然的に減 尐する。つまり経済は成長しない。 2 人びとの欲求が飽和し変化しつつある(たと えば若者のクルマ離れ) 。ただし、人と人のつな がりの回復を求める欲求の高まりは、無償の助 ③ [ [3]脱成長社会は「幸福で豊かになる社会」である 1 脱成長の社会は、所得や雇用が縮小し生活水 準が下がる「貧しくなる社会」だという暗いイ メージがある。 とづいて運営され、競争と効率性の追求は限ら れた分野で行われる。これによって、排除や差 別をなくしていくことができる。公正な社会関 係の実現、多様な生き方の選択が可能になる。 2 脱成長の社会は、自由な時間が手に入り、自 然と共生し、公正が実現され(排除や差別がな くなる)、人と人のつながりが回復する「幸福 で豊かな社会」である。「より尐なく働き、よ り尐なく消費することによって、よりよく生き ることができる」(アンドレ・ゴルツ)。おカネ で測れる豊かさ(GDP、貨幣所得)は増えな かったり減ったりする代わりに、おカネで測れ ない豊かさや幸福を多く手に入れることがで きる。 4 1 人当たりの労働時間の抜本的短縮によって、 「自由な時間」を手に入れることができる。こ れによって、スローライフ、自然との交流、ボ ランティア活動、政治や公共的な活動への参加 が可能になる。 5 GDPに代わって幸福を図る新しい指標(モ ノサシ)を創りだす。おカネ(貨幣、GDP) という唯一のモノサシで豊かさや幸福を測る 一元化された価値体系から脱却する。ブータン のGNH(国民総幸福度) 。 「幸福度」を測る主 観的な指標と客観的な指標の組み合わせ(ステ ィグリッツ委員会)など。 3 経済成長が優先目標ではなくなるから、私た ちは、社会生活全体を覆っていた競争と効率性 の原理の呪縛から解放される。社会生活は、分 かち合いと助け合い(協力と連帯)の原理にも [4]脱成長とグローバル経済の変革 1 グローバル経済への過剰な依存は、大きなリ スクを抱える。基軸通貨ドルの没落、ユーロの 危機、過剰なマネーの氾濫に示されるように、 世界経済の不確実性と不安定性がいちじるし く高まっている。また、資源・エネルギー・食 料の制約は、グローバル経済の成長にブレーキ をかける。さらに、頼みの綱の新興国の経済成 長がいつまで続くかも、インフレやバブルの進 行によって不安視されている。 2 政府債務(国債)への不信が世界的な経済危 機を招くなかで、日本は超円高に見舞われ、産 業と雇用の空洞化が叫ばれている。自動車や電 機製品など輸出向け産業が経済の中心である かぎり、円高の下で高品質の部品産業も海外に 生産拠点を移転し、雇用は縮小する。国内市場 =内需主導型の経済への転換が否応なく求め られている。 て、農業は保護する。その点から、TPPには 参加するべきではない。貿易においては、「自 由化」ではなく、 「公正」な取り引き(生産者や 労働者の生活と生存権を保障する適正な価格で の取引)の実現をめざす。 4 脱成長への転換は、日本だけがグローバル経 済から離脱し「鎖国」経済に戻るということで はない。過剰なマネーが暴走するグローバル経 済のあり方を積極的に脱成長に向けて変えて いく努力をするということである。そのために は、金融経済(マネー)への厳しい規制、国際 的な共通通貨の創設、資金の地域経済への埋め 戻し、賃金や労働条件に関するグローバルスタ ンダードの制定と監視、法人税率の引き上げな どグローバルな税政策の実行、資源開発の規制 といった政策が必要である。 (みどりの未来・論説チーム) 3 自由化による効率化(安ければよい)が世界 全体の経済成長を促進する、という神話がまか り通ってきた。「自由化万能」の発想から転換 する必要がある。生存の基盤となり生命・健康 と直結する食べ物は、自給を原則とし、 “地産・ 地消”をめざす。「食料主権」の考え方に立っ ④
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